【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一つの様態として、配列番号1のアミノ酸配列を
有するホスファターゼの活性が不活性化されるように変異された、L−トリプトファン生
産能を有するエシェリキア属(Escherichia)微生物を提供する。例えば、前記L−トリ
プトファン生産能を有するエシェリキア属微生物は内在的ホスファターゼの活性が不活性
化されるように変異されないL−トリプトファン生産能を有するエシェリキア属微生物に
比べて、トリプトファン生産能が増加された微生物であってもよい。
【0011】
本発明における用語、「L−トリプトファン(L-tryptophan)」は、α−アミノ酸の一
つで、体内で合成されない必須アミノ酸であり、化学式がC
11H
12N
2O
2
である芳香族L−アミノ酸をいう。微生物において、生産能を増加させるために、既存に
はトリプトファン生産菌株からエリスロース-4-リン酸(erythorse-4-phosphate、E4P)
のような前駆体の継続的な供給とエネルギーの効率的な利用のため、tktA遺伝子の発
現を強化させるか、生合成経路での側枝経路を遮断して生合性を増加させる方法またはA
TPを少なく使用する方法などが使用されてきた。
【0012】
本発明における用語、「ホスファターゼ(phosphatase)」は、基質からリン酸基を除
去する反応を触媒するタンパク質であってもよい。本発明における「配列番号1のアミノ
酸配列を有するホスファターゼ」は、遺伝子yidAによりコードされるタンパク質であ
って、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)DBには糖リン酸ホスファターゼと命
名されており、(NCBI gene ID: 12933583)、EcoCycDB(http://www.ecocyc.or
g)上には糖ホスファターゼと命名されている。前記タンパク質は糖リン酸を基質として
、糖とリン酸に分解する反応を触媒する。しかし、前記酵素とトリプトファン生産強化に
対する関連性は明らかにされていない。
【0013】
前記酵素は配列番号1で記載したアミノ酸配列だけでなく、前記配列と70%以上、具
体的には80%以上、より具体的には90%以上、さらに具体的には95%以上、もっと
さらに具体的には98%以上、最も具体的には99%以上の相同性を示すアミノ酸配列と
して実質的に前記酵素と同一または相応する効能を示す酵素であれば、制限なく含まれる
。また、このような相同性を有し、各酵素に相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、
一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有する酵素変異体も本発
明の範囲内に含まれることは自明である。
【0014】
前記アミノ酸配列1で記載したホスファターゼをコードする遺伝子は、前記酵素をコー
ドすることができる配列であれば、制限なく含まれてもよく、yidA遺伝子と表すこと
ができる。具体的に、前記酵素をコードする遺伝子は配列番号2で記載した塩基配列だけ
でなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さ
らに具体的には98%以上、最も具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列であって
、実質的に前記酵素を同一または相応する効能を示す酵素をコードする遺伝子配列であれ
ば、制限なく含まれる。また、このような相同性を有する塩基配列であれば、一部の配列
が欠失、変形、置換または付加された塩基配列も本発明の範囲内に含まれることは自明で
ある。
【0015】
本発明における用語、「相同性」は、二つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド部分
(moiety)との間の同一性のパーセントをいう。一つの部分から、もう一つの部分までの
配列間相同性は、公知となった当該技術により決定することができる。例えば、相同性は
、配列情報を整列し、容易に入手可能なコンピュータプログラムを用いて2つのポリヌク
レオチド分子または2つのポリペプチド分子間の配列情報、例えば、スコア(score)、
同一性(identity)及び類似度(similarity)などのパラメータ(parameter)を直接整
列して決定することができる(例えば、BLAST2.0)。また、ポリヌクレオチド間
の相同性は、相同領域間の安定した二本鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドを混成化
した後、一本鎖特異的ヌクレアーゼで分解し、分解された断片の大きさを決定することに
より、決定することができる。
【0016】
本発明における用語、「内在的活性」は、微生物が天然の状態または該当酵素の変形前
に有している酵素の活性状態を意味する。
【0017】
前記「活性が不活性化されるように変異された」は、酵素をコードする遺伝子の発現が
天然型菌株または変形前の菌株に比べて全く発現されない場合及び/または発現してもそ
の活性がないか、減少されたことを意味する。
【0018】
このように活性が内在的活性に比べ不活性化されるのは、本来の微生物が天然の状態ま
たは変形前の状態で有している酵素の活性と比較したとき、その活性がないか、減少され
たことを意味する。前記減少は、前記酵素をコードする遺伝子の変異などにより酵素自体
の活性が本来の微生物が有している酵素の活性に比べて低い場合と、これをコードする遺
伝子の発現阻害または翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的な酵素活性の
程度が、天然型菌株または変形前の菌株に比べて低い場合、これらの組み合わせも含む概
念である。
【0019】
このような酵素活性の不活性化されるように変異させる方法は、当該分野においてよく
知られている様々な方法の適用により達成することができる。前記方法の例として、前記
酵素の活性が削除された場合を含めて、前記酵素の活性が減少されるように突然変異され
た遺伝子で、染色体上の前記酵素をコードする遺伝子を代替する方法;前記酵素をコード
する遺伝子の一部または全体を欠失させる方法;前記酵素をコードする遺伝子の発現調節
配列を活性が弱いか、またはない配列で交替する方法;前記酵素をコードする染色体上の
遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法;前記酵素をコードする染色体上の遺伝子の
全体または一部を欠失させる方法;前記染色体上の遺伝子の転写体に相補的に結合して前
記mRNAから酵素への翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アン
チセンスRNA)を導入する方法;前記酵素をコードする遺伝子のSD配列の前段にSD
配列と相補的な配列を人為的に付加して2次構造を形成させ、リボソーム(ribosome)の
付着を不可能にする方法及び該当配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転
写されるようにプロモータを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方
法などがあり、これらの組み合わせでも達成することができるが、前記例により、特に制
限されるものではない。
【0020】
具体的には、酵素をコードする遺伝子の一部または全体を欠失する方法は、細胞内染色
体挿入用ベクターを通じて染色体内の内在的目的タンパク質を暗号化するポリヌクレオチ
ドを、一部の核酸配列が欠失されたポリヌクレオチドまたはマーカー遺伝子で交換するこ
とにより行うことができる。このような遺伝子の一部または全体を欠失する方法の一例と
して、相同組換えにより遺伝子を欠失させる方法を使用することができる。
【0021】
前記において、「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類に応じて異なるが、具体的には
1〜300個、具体的には1〜100個、より具体的には1〜50個であり得るが、特に
これらに制限されるものではない。
【0022】
前記において、「相同組換え(homologous reconbination)」とは、互いに相同性を有
する遺伝子鎖の座位で連結交換を通じて起こる遺伝子組み換えを意味する。
【0023】
具体的には、発現調節配列を変形する方法は、前記発現調節配列の核酸配列に欠失、挿
入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を
誘導して行うか、またはさらに弱いプロモーターで交替するなどの方法により行うことが
できる。前記発現調節配列にはプロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位を
コードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含む。
【0024】
併せて、染色体上の遺伝子配列を変形する方法は、前記酵素の活性がさらに減少するよ
うに遺伝子配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせによ
り配列上の変異を誘導して行うか、またはさらに弱い活性を有するように改良された遺伝
子配列または活性がないように改良された遺伝子配列で交換することにより行うことがで
きる。
【0025】
本発明の具体的な実施例によると、配列番号1のアミノ酸配列を有するホスファターゼ
の内在的活性を不活性化させるため、当該ホスファターゼをコードする遺伝子であるyi
dAを欠失させた、トリプトファン生産能を有する多様な大腸菌がyidAを欠失させな
い親菌株に比べてL−トリプトファンの生産能が増加することを確認して、内在的ホスフ
ァターゼの活性を不活性化させた、変異されたL−トリプトファン生産能を有するエシェ
リキア属微生物がL−トリプトファンを効率的に生産することができることを確認した。
【0026】
本発明で、前記L−トリプトファン生産能を有する微生物は、前記培地中の炭素源から
L−トリプトファンを生産することができる微生物をいう。また、前記L−トリプトファ
ンを生産する微生物は組換え微生物であってもよい。具体的に、L−トリプトファンを生
産することができれば、その種類が特に制限されないが、エンテロバクタ(Enterbacter
)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serrat
ia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属
及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよく、具体的に
はエシェリキア(Escherichia)属に属する微生物であってもよい。
【0027】
さらに具体的には、エシェリキア属(Escherichia)微生物は、具体的には大腸菌(Esc
herichia coli)であってもよいが、ホスファターゼ活性が不活性化されL−トリプトフ
ァン生産能が増加されることができるエシェリキア属に属する微生物は制限なく含まれる
。
【0028】
具体的に、本発明で前記ホスファターゼの活性の不活性化によりL−トリプトファン生
産能を有するエシェリキア属微生物の親菌株は、トリプトファン生産能を有する微生物で
あれば特に制限されない。トリプトファン生産能を有する微生物は、その例として、トリ
プトファン生合成経路を強化するために、競争経路の遺伝子、トリプトファンオペロンの
方向性経路の調節者、トリプトファン流入遺伝子、トリプトファン流入及び分解遺伝子の
活性の弱化または不活性化させるか、及び/またはトリプトファンオペロンの活性を過発
現させた微生物であってもよい。前記活性の弱化または不活性化方法は、前記で説明した
通りであり、公知の方法は制限なく含まれことができる。また、トリプトファンオペロン
活性の過発現は、公知の方法は制限なく含まれるが、その例としてオペロン遺伝子の塩基
配列の一部または全部、そのもの、あるいは外部から導入された発現調節部位を含むポリ
ヌクレオチドをさらに染色体に挿入する方法、ベクターシステムに導入する方法によりコ
ピー数を増加させる方法、遺伝子の発現を調節する発現調節部位を他の調節配列に置換、
発現調節部位の塩基配列の全体または一部の突然変異が誘発された変形、遺伝子自体の変
異導入によるオペロン活性強化などによる方法などを含むことができるが、これに限定さ
れるものではない。具体的には、pheA、trpR、mtr及びtnaAB遺伝子の全
体または一部が欠失、及び/またはトリプトファンオペロンが過発現された大腸菌であっ
てもよい。
【0029】
本発明において、pheA、trpR、mtr、tnaAB遺伝子及びトリプトファン
オペロン及び、これらがコードするタンパク質配列を初めとして、本発明で使用される遺
伝子及びタンパク質の配列は、公知のデータベースから得ることができ、その例としてN
CBIのGenBankなどから得られるが、これに限定されない。また、pheA、t
rpR、mtr及びtnaAB遺伝子に関する具体的な内容は、特許文献4、特許文献1
に記載されている内容を参考にすることができ、前記特許の明細書全体は、本発明の参考
資料として含めることができる。
【0030】
本発明の具体的な実施例に照らして、さまざまな親菌株でホスファターゼの活性を不活
性化させた結果、トリプトファン生産能を有しているエシェリキア属微生物であれば、親
菌株の種類に関係なく、前記ホスファターゼの活性を不活性化させる場合には、L−トリ
プトファンの生産能が有意に向上することが確認された。
【0031】
本発明のまた他の一態様として、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するホスファ
ターゼの活性が不活性化されるように変異された、L−トリプトファン生産能を有するエ
シェリキア属微生物を培地で培養する段階;及び前記培養による培地または前記微生物か
らL−トリプトファンを回収する段階を含む、L−トリプトファンの製造方法を提供する
。
【0032】
本発明の微生物の培養に使用される培地、及びその他の培養条件は、通常のエシェリキ
ア属微生物の培養に使用される培地であれば特に制限なく、いずれも使用することができ
るが、具体的には、本発明の微生物を適切な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミ
ノ酸、及び/またはビタミンなどを含有した通常の培地内で好気性条件の下で温度、pH
などを調節しながら培養することができる。
【0033】
本発明において、前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マル
トース、マンニトール、ソルビトールなどの炭水化物;糖アルコール、グリセロール、ピ
ルビン酸、乳酸、クエン酸などのアルコール;有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシ
ンなどのアミノ酸などが含まれることができる。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラック
ストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス及びトウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄
養源を使用することができ、具体的には、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(すなわ
ち、還元糖に転換された糖蜜)などの炭水化物を使用することができ、その他の滴定量の
炭素源を制限なく多様に利用することができる。これらの炭素源は、単独で使用したり、
2種以上を組み合わせて使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0034】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム 、塩化アンモニウム、酢酸アン
モニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源
;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類
抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類また
はその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などの有機窒素源を使用するこ
とができる。これらの窒素源は、単独で使用したり、2種以上を組み合わせて使用するこ
とができるが、これに限定されるものではない。
【0035】
前記リン源には、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、またはこれに対応するナ
トリウム含有塩などが含まれることができる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩
化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなど
が使用されることができ、その他に、アミノ酸、ビタミン、及び/または適切な前駆体な
どが含まれることができる。これらの培地または前駆体は、培養物に回分式または連続式
で添加することができる。
【0036】
本発明において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア
、リン酸、硫酸などの化合物を培養物に適切な方法で添加し、培養物のpHを調整するこ
とができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を使用して
気泡の生成を抑制することができる。また、培養物の好気状態を維持するために、培養物
内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体
の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができる。
【0037】
培養物の温度は、具体的には27℃〜40℃、より具体的には30℃〜37℃であるこ
とができるが、これに限定されない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるま
で継続することができ、具体的には10時間〜100時間であることができるが、これに
限定されない 。
【0038】
前記L−トリプトファンを回収する段階は、本発明の微生物の培養方法、例えば、回分
式、連続式または流加式培養方法などにより、当該技術分野において公知となった適切な
方法を用いて培養液から目的とするL−トリプトファンを回収することができる。
前記回収段階は、精製工程を含むことができる。前記精製工程は当該技術分野で公知とな
った適合した方法を利用して、回収されたL−トリプトファンを精製することができる。