(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のウィンドシールドまたはコンバイナに映像を投射することで、運転者に対して前記車両の前方の実像に重畳させて虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記ウィンドシールドまたはコンバイナの視認領域に前記虚像を表示する制御を行う制御部と、
前記制御部の制御に従って、前記視認領域に前記虚像を表示する表示部と、
を備え、
前記制御部は、
車外カメラの撮影画像に基づいて、所定の物体を抽出し、
空間内の前記物体の物体位置を含む物体情報と、車内カメラの撮影画像に基づいた、空間内の前記運転者の視点位置および移動量を含む視点情報と、空間内の前記虚像の画像を表示可能な範囲である虚像領域の位置を含む虚像情報と、を含む情報を取得し、
前記物体に対して重畳表示するための前記画像を生成し、
前記取得された情報を用いて、前記虚像領域内の前記画像の表示位置を、少なくとも水平方向を含めて補正し、
前記補正後のデータを用いて、前記表示部に対する前記制御を行い、
前記補正の際、前記運転者の基本設定の視点位置より移動後の視点位置から、前記視認領域を通じて前記物体位置を見た場合の直線上の前記虚像領域との交差点の位置を、補正後の前記画像の表示位置とするように、変換処理を行い、
前記虚像領域は、前記運転者の視点位置から見て前記視認領域よりも前方の所定の虚像距離にある虚像領域位置に設定され、
前記制御部は、前記物体位置が前記虚像領域位置よりも後にある第1の場合と、前記物体位置が前記虚像領域位置よりも前にある第2の場合とに応じて、前記補正を行うか否かを制御する、
ヘッドアップディスプレイ装置。
車両のウィンドシールドまたはコンバイナに映像を投射することで、運転者に対して前記車両の前方の実像に重畳させて虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置における表示制御方法であって、
前記ヘッドアップディスプレイ装置は、前記ウィンドシールドまたはコンバイナの視認領域に前記虚像を表示する制御を行う制御部と、前記制御部の制御に従って、前記視認領域に前記虚像を表示する表示部と、を備え、
前記制御部で実行されるステップとして、
車外カメラの撮影画像に基づいて、所定の物体を抽出するステップと、
空間内の前記物体の物体位置を含む物体情報と、車内カメラの撮影画像に基づいた、空間内の前記運転者の視点位置および移動量を含む視点情報と、空間内の前記虚像の画像を表示可能な範囲である虚像領域の位置を含む虚像情報と、を含む情報を取得するステップと、
前記物体に対して重畳表示するための前記画像を生成するステップと、
前記取得された情報を用いて、前記虚像領域内の前記画像の表示位置を、少なくとも水平方向を含めて補正するステップと、
前記補正後のデータを用いて、前記表示部に対する前記制御を行うステップと、
を有し、
前記補正するステップでは、前記運転者の基本設定の視点位置より移動後の視点位置から、前記視認領域を通じて前記物体位置を見た場合の直線上の前記虚像領域との交差点の位置を、補正後の前記画像の表示位置とするように、変換処理を行い、
前記虚像領域は、前記運転者の視点位置から見て前記視認領域よりも前方の所定の虚像距離にある虚像領域位置に設定され、
前記補正するステップでは、前記制御部が、前記物体位置が前記虚像領域位置よりも後にある第1の場合と、前記物体位置が前記虚像領域位置よりも前にある第2の場合とに応じて、前記補正を行うか否かを制御する、
表示制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において同一部には原則として同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
(実施の形態)
図1〜
図23を用いて、本発明の実施の形態のヘッドアップディスプレイ装置(HUD装置)等について説明する。実施の形態のHUD装置は、AR機能を持つAR表示装置であり、車載のAR−HUDとして実装される場合を示す。実施の形態の表示制御方法は、実施の形態のHUD装置で実行されるステップを有する方法である。
【0015】
実施の形態のHUD装置は、AR画像を含む虚像の表示の際に、虚像領域のAR画像の表示位置を補正する機能を有する。この補正機能は、運転者の視点位置の移動に合わせて、物体の実像とAR画像とのずれが解消または低減されるように、AR画像の表示位置を自動的に補正する機能である。この補正機能では、運転者の視点位置が、基本設定の視点位置から、水平方向の左右の位置に移動した際に、物体位置と移動後の視点位置とに合わせて、AR画像の表示位置を補正する。また、この補正機能では、視点位置に対する虚像領域位置の設定、および虚像領域位置に対する物体位置の関係に応じて、AR画像の表示位置の補正を制御する。この補正機能では、AR画像の表示位置の補正を、制御部のソフトウェアプログラム処理によってARデータの内容を補正する処理で実現する。
【0016】
この補正機能では、運転中等に運転者の頭の動き等によって、視点位置が基本設定の視点位置から水平方向に移動した場合でも、AR画像を物体に対して正確に重畳する位置に表示することができる。すなわち、物体とAR画像とのずれを解消または低減することができる。これにより、運転者は、物体とAR画像を好適に視認できる。
【0017】
[課題等]
図20〜
図23を用いて、課題等について補足説明する。実施の形態に対する比較例として、従来技術例のHUD装置を含む車載システムでは、以下のような課題がある。比較例のHUD装置は、物体の実像とAR画像とのずれを補正する機能を持たない。そのため、運転者の視点位置が水平方向に移動した際に、水平方向での物体とAR画像とのずれが生じ、運転者が物体とAR画像とを関係付けた視認がしにくい場合がある。
【0018】
運転者の視点位置が水平方向の左右に動く事例としては以下が挙げられる。運転時に運転者の視点位置はある程度動くものであり、常時に視点位置が動かないことはありえない。視点位置の変動が、所定のアイボックスの範囲内である場合には、物体とAR画像とのずれの影響はあまり無い。視点位置の変動が、ある程度の量を超える場合、ずれの影響が大きく、運転者が物体とAR画像と関係付けた視認がしにくくなる。
【0019】
例えば、車両の右左折時、車線変更時、交差点進入時等には、運転者が周囲状況確認のため、視点位置が動きやすい。また、カーブ進入時等には、運転者がカーブに合わせて事前に体を預けることや、遠心力の作用によって、頭および視点位置が動きやすい。また、片手運転時には、体の重心が傾くので、視点位置がずれやすい。また、交差点等で見通しが悪い状況では、周囲状況確認のために運転者が前かがみ姿勢になる場合があり、視点位置が動きやすい。
【0020】
なお、HUD技術では、虚像領域を見る者(例えば運転者)の目の位置によって、実像と虚像の相対位置関係がずれる等、見え方が異なってくる。HUD装置が形成する虚像の位置と、見る者の目の位置との関係によって、見る者の網膜に結像される像の状態が定まる。HUD装置による虚像の表示位置と見る者の目の位置とが所定の関係を満たさない場合には、見る者が虚像を視認できない、または視認しにくい。見る者が画像を視認できるために、目の位置が入らなければならない範囲は、アイボックスと呼ばれる。
【0021】
図20は、第1比較例として従来技術例の第1HUD装置の場合における、視点、物体、AR画像、ずれ等について示す。
図20では、水平方向(X方向)と前後方向(Z方向)とで成す上から見た平面(X−Z平面)を示す。自車の運転者の視点位置を三角点で示す。基本設定の視点位置E1と、例えばX方向の右へ移動した場合の移動後の視点位置Exとを示す。
【0022】
物体位置を黒丸点で示す。本例では、Z方向で、虚像領域7よりも後方に、相対的に異なる3種類の距離の位置に物体がある場合を示す。遠距離の位置PA、中距離の位置PB、近距離の位置PCとして示す。例えば、位置PAは、視点位置から40〜60m程度、例えば45mの距離の位置である。位置PBは、視点位置から20〜30m程度、例えば25mの距離の位置である。位置PCは、視点位置から5mの距離の位置である。Z方向で、視点位置から物体位置(例えば位置PC)までの距離を物体距離FAとして示す。また、Z方向の各位置において、視点位置E1から見て、X方向で、左、中央、右の各位置に物体がある場合を示す。
【0023】
第1HUD装置では、設計上、基本設定の視点位置E1から前方(Z方向)へ比較的近い所定の距離の位置に、虚像領域7が設定されている。Z方向の虚像領域7の位置を、虚像領域位置P1とする。視点位置(0mとする)から虚像領域7までの距離を虚像距離FBとして示す。第1HUD装置では、虚像領域位置P1の虚像距離FBが2〜3mであり、本例では2.5mである。また、Z方向で、物体位置(例えば位置PC)と虚像領域位置P1との距離を、物体虚像距離FCとして示す。虚像領域位置P1の虚像領域7において、視点位置E1から見て各物体の物体位置に合わせて設定される、物体に重畳表示するためのAR画像の表示位置を、白丸点で示す。視点位置E1から見て、Z方向に伸びる一点鎖線は、虚像領域7の中心、およびX方向で中央の物体を見る視線を示す。実線は、左右の物体を見る視線を示す。視点位置E1から各物体およびAR画像を見る場合、視線上で物体とAR画像の位置が重なっており、ずれが無い。
【0024】
移動後の視点位置Exから見て、点線は、物体を見る視線を示し、破線は、AR画像を見る視線を示す。視点位置Exから物体とAR画像を見る場合、物体とAR画像とで視線が重ならず(視線が成す角度が異なり)、X方向で位置のずれが有る。
【0025】
なお、基本設定の視点位置E1と虚像領域7の左右端とを含む三角形の領域は、虚像が表示可能な領域に対応し、その外側は、基本的に虚像が表示不可能な領域に対応する。虚像領域位置を調節できる場合には、それに応じて表示可能な領域や表示不可能な領域も変わる。
【0026】
図21は、第2比較例として、第2HUD装置の場合における、視点、物体、虚像、ずれ等を同様に示す。実施の形態のHUD装置1は、第2HUD装置を前提としている。第2HUD装置では、設計上、基本設定の視点位置E1から前方(Z方向)へ比較的離れた所定の距離の位置に、虚像領域7が設定されている。虚像領域位置P1は、虚像距離FBとして20〜30mの位置であり、本例ではP1=PB=25mの場合を示す。
【0027】
Z方向での物体位置および物体距離FAとして、虚像領域位置P1に対し、前後の位置に物体がある場合を示す。(A)で示す位置P3(特に遠距離の位置PAとした)は、虚像領域7(虚像領域位置P1)よりも後にある場合であり、(B)で示す位置P2(特に近距離の位置PCとした)は、虚像領域7の虚像領域位置P1よりも前にある場合を示す。また、Z方向の各位置において、視点位置E1から見て、X方向で、左、中央、右の各位置に物体がある場合を示す。位置P3の物体は、物体虚像距離FCが+20mであり、位置P2の物体は、物体虚像距離FCが−20mである。
【0028】
視点位置E1から見て、虚像領域位置P1の虚像領域7において、各物体にAR画像を重畳表示する場合のAR画像の表示位置を白丸点で示す。視点位置E1から物体とAR画像を見る場合、視線(一点鎖線、実線)上で物体とAR画像が重なっており、ずれが無い。移動後の視点位置Exから物体とAR画像を見る場合、物体を見る視線(点線)とAR画像を見る視線(破線)とが重ならず、角度が異なり、X方向での位置のずれが有る。
【0029】
図20や
図21の例のように、物体位置や物体距離、および移動後の視点位置に応じて、視認上で物体とAR画像との位置のずれが生じる。特に、第2HUD装置の場合では、(B)の位置P2のように物体が虚像領域7の前にある場合の方が、(A)の位置P3のように後にある場合よりも、ずれの影響が相対的に大きい。運転者から見ると、前にある場合の方が、物体とAR画像との焦点が合わせにくく、物体とAR画像とを関係付けた認識がしにくい。
【0030】
図22は、第1HUD装置の場合で、視点位置のX方向の移動時に応じたずれの例を簡易的に示す。なお、
図22等では、説明のため、Z方向の距離を小さくX方向の距離を大きく強調して図示している。
図22の(A)は、視点位置が左移動の場合で、中距離の中央の位置PBに物体4がある場合を示す。視点位置E1から左に移動後の視点位置E2を示す。視点位置の移動量H1を示す。AR画像6aは、補正無しの場合のAR画像を示す。基本設定の視点位置E1から物体4とAR画像6aを見る場合、視線が成す角度は0度であり、X方向でのずれは無い。移動後の視点位置E2から物体4とAR画像6aを見る場合、両者の間にX方向でのずれh1(位置PBで考えた場合のずれとして示す)が有る。角度α1は、視点位置E2から物体4を見る際の視線がZ方向と成す角度を示す。角度β1は、視点位置E2からAR画像6aを見る際の視線がZ方向と成す角度を示す。角度α1と角度β1が異なる(α1<β1)。
【0031】
図22の(B)は、同様に、視点位置が右移動の場合で、中距離の中央の位置PBに物体4がある場合を示す。視点位置E1から右に移動後の視点位置E3を示す。視点位置の移動量H2を示す。移動後の視点位置E3から物体4とAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh2が有る。角度α2は、視点位置E3から物体4を見る際の角度を示す。角度β2は、視点位置E3からAR画像6aを見る際の角度を示す。角度α2と角度β2が異なる(α2<β2)。
【0032】
このように、視点位置の移動方向および移動量(移動距離)に応じたずれが有る。視点位置E1での角度に対し、移動後の視点位置での角度の方が大きく、角度が大きいほどずれが大きい。
【0033】
図22の(C)は、同様に、視点位置が左移動の場合で、物体位置が遠距離の位置PAや近距離の位置PCにある場合を示す。移動後の視点位置E2から、位置PAの物体4aと補正無しのAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh3が有る。角度α3は、視点位置E2から物体4aを見る際の角度を示す。角度β3は、視点位置E2からAR画像6aを見る際の角度を示す。また、視点位置E2から、位置PCの物体4cと補正無しのAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh4が有る。なお、ずれh3とずれh4は、比較のため、位置PAで考えた場合のずれとして図示している。角度α4は、視点位置E2から物体4cを見る際の角度を示す。角度α3と角度α4が異なる(α3<α4)。位置PAの場合の角度α3の方が、位置PCの場合の角度α4よりも、角度β3との角度差が大きく、ずれが大きい。このように、各物体距離の物体位置に応じたずれが有る。
【0034】
図22の(D)は、同様に、視点位置が左移動の場合で、中距離の位置PBにおいてX方向の左右の各位置に物体がある場合を示す。位置PBにおいて、中央よりも左側の位置に物体4b1、右側の位置に物体4b2がある。移動後の視点位置E2から、左側の物体4b1と補正無しのAR画像6a1を見る場合、両者の間にずれh5が有る。また、視点位置E2から、右側の物体4b2と補正無しのAR画像6a2を見る場合、両者の間にずれh6が有る。基本設定の視点位置E1から物体とAR画像を見る場合と、移動後の視点位置E2から物体とAR画像を見る場合とでは、角度が異なり、後者の方がずれが大きい。例えば、視点位置E1から物体4b2とAR画像6a2を見る場合の角度γ1、視点位置E2から物体4b2を見る場合の角度γ2、視点位置E2からAR画像6a2を見る場合の角度γ3を示す。γ1<γ2<γ3である。このように、X方向の物体位置および視点移動方向に応じたずれが有る。
【0035】
上記のように、運転者の視点位置からウィンドシールド9の視認領域5越しに、物体4と虚像領域7のAR画像6を見る場合に、基本設定の視点位置E1から見る場合と、移動後の視点位置から見る場合とでは、視線が成す角度等が異なる。移動後の視点位置から見る場合には、物体位置とAR画像6の表示位置との間にX方向でのずれが生じ得る。そのずれが大きいほど、運転者は、物体4とAR画像6とを関係付けた認識がしにくく、好適な視認ができない。
【0036】
図22の(A)で、位置201は、視点位置E2の場合に虚像領域7でAR画像6を重畳したい理想的な位置を示す。虚像領域7のX方向の線と、視点位置E2から物体4を見る視線との交差点に位置201がある。この位置201にAR画像6を重畳表示した場合、視点位置E2から見て、物体4とAR画像6とが重なり、ずれが解消される。同様に、(B)の位置202、(C)の位置203や位置204、(D)の位置205や位置206は、AR画像6の理想的な表示位置を示す。
【0037】
図23は、第2HUD装置の場合で、視点位置のX方向の移動に応じたずれの例を示す。
図23の(A)は、視点位置E1からの左移動の場合を示す。移動後の視点位置E2、移動量H1を示す。物体位置として、虚像領域位置P1である位置PBに対し、後にある位置P3(=PA)に物体4aがある場合や、前にある位置P2(=PC)に物体4cがある場合を示す。視点位置E2から、位置P3の物体4aと補正前のAR画像6aを見る場合、両者の間にX方向でのずれh11が有る。視点位置E2から、位置P2の物体4cと補正前のAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh12が有る。なお、比較のため、虚像領域位置P1でのずれh11、ずれh12として示している。角度α11は、位置P3の物体4aを見る場合の角度を示す。角度α12は、位置P2の物体4cを見る場合の角度を示す。角度β11は、虚像領域位置P1のAR画像6aを見る場合の角度を示す。α11<α12、α11<β11、α12>β11である。位置P2の場合の方が、位置P3の場合よりも、ずれが大きい(h11<h12)。
【0038】
図23の(B)は、同様に、視点位置の右移動の場合を示す。移動後の視点位置E3、移動量H2を示す。視点位置E3から、位置P2の物体4aと補正前のAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh13が有る。視点位置E3から、位置P2の物体4cと補正前のAR画像6aを見る場合、両者の間にずれh14が有る。位置P2の場合の方が、位置P3の場合よりも、ずれが大きい(h13<h14)。
【0039】
上記のように、各視点位置および各物体位置に応じて、ずれが生じる。特に、位置P2のように物体4が虚像領域7よりも前にある場合の方が、位置P3のように後にある場合よりも、ずれの影響が大きい。
【0040】
図23の(A)で、位置211や位置212は、虚像領域7におけるAR画像6を重畳したい理想的な位置を示す。例えば、虚像領域7のX方向の線と、視点位置E2から物体4aを見る視線(視点位置E2と物体4aの位置とを結ぶ直線)との交差点に位置211がある。この位置211にAR画像6を重畳表示した場合、視点位置E2から見て、物体4aとAR画像6とが重なり、ずれが解消される。実施の形態のHUD装置1では、これらの位置を、補正後のAR画像6の表示位置として得る。同様に、(B)の位置213や位置214は、各物体位置でのAR画像の理想的な表示位置、実施の形態での補正後の表示位置を示す。
【0041】
上記のように、第1HUD装置や第2HUD装置では、視点位置E1から前方(Z方向)へ所定の距離(虚像距離FB)の位置(虚像領域位置P1)に、虚像領域7が設定される。虚像領域7は、HUD装置によって虚像が表示可能なHUD表示範囲である。虚像距離FBおよび虚像領域位置P1の虚像領域7内に、AR画像を含む虚像が表示される。第1HUD装置では、虚像領域位置P1は、虚像距離FBが2〜3mの位置であり、運転者およびウィンドシールド9から比較的近い位置である。一方、第2HUD装置および実施の形態のHUD装置1では、虚像領域位置P1は、虚像距離FBが20〜30mの位置であり、運転者およびウィンドシールド9から比較的離れた位置であり、言い換えると、より物体に近い位置である。また、実施の形態の変形例のHUD装置1では、Z方向での虚像領域位置P1を、所定の設定範囲(例えば20〜30m)内において可変に設定および制御できる。
【0042】
そのため、第2HUD装置および実施の形態のHUD装置1では、第1HUD装置よりも、物体になるべく近い距離および位置にAR画像を重畳表示することができる。言い換えると、物体虚像距離FCを比較的小さくできる。運転者が視点位置から物体とそれに関係付けたAR画像を見る場合に、Z方向で物体とAR画像との距離が近いほど、Z方向での遠近感、焦点が合いやすい。よって、運転者は、その物体とAR画像を、認識しやすく、より自然で好適に視認できる。
【0043】
上記のように、第1HUD装置および第2HUD装置では、視点位置から見た物体とAR画像のずれに関して、それぞれの特性がある。特に、第2HUD装置では、Z方向での虚像領域位置P1に対する物体位置および物体距離の関係に応じて、ずれの影響が異なる。
図21や
図23のように、物体が虚像領域よりも前にある場合の方が、物体が虚像領域よりも後にある場合よりも、ずれの影響が大きい。仮に、前にある場合と後にある場合とで、物体虚像距離FCが同じ場合でも、前にある場合の方が、視認上、ずれを感じやすい。
【0044】
実施の形態のHUD装置1では、上記のような第1HUD装置および第2HUD装置の課題等を考慮して、AR画像の表示位置を補正する機能を工夫した。この補正機能では、物体位置と視点位置との関係、かつ、虚像領域位置と物体位置との関係に応じて、少なくともX方向を含むAR画像の表示位置を適切に補正する。
【0045】
[概要]
図1は、実施の形態のHUD装置1の概要を示す。なお、
図1等で、説明上の方向として、X方向、Y方向、Z方向を示す。X方向は、第1水平方向であり、車両および運転者を基準とした左右方向であり、虚像領域7の横方向に対応する。Y方向は、鉛直方向であり、車両および運転者を基準とした上下方向であり、虚像領域7の縦方向に対応する。Z方向は、第2水平方向であり、車両および運転者を基準とした前後方向であり、虚像領域7等を見る方向に対応する。
【0046】
実施の形態のHUD装置1は、車載システム(
図2)の一部であり、制御部10、表示部20を有し、車外カメラ2および車内カメラ3等が接続されている。表示部20は、プロジェクタ(投射型映像表示装置)等で構成され、光学系を含む。HUD装置1は、車外カメラ2で撮影した画像に基づいて、車両の前方(Z方向)にある物体4の位置等を検出する。また、HUD装置1は、車内カメラ3で運転者を撮影した画像に基づいて、運転者の視点位置等を検出する。HUD装置1は、検出した物体4に基づいて、制御部10で、AR画像を含む虚像の表示のためのARデータを生成し、表示部20へ与える。ARデータは、運転者から見てウィンドシールド9の視認領域5越しの前方に所定の虚像領域7を形成して虚像を表示するための表示データである。表示部20は、ARデータに基づいて、ウィンドシールド9の視認領域5へ投射するための映像光を生成して出射する。出射された映像光は、光学系を通じてウィンドシールド9の視認領域5内の領域へ投射され、その領域で反射されて、運転者の目に入射する。これにより、運転者には、視認領域5越しに見える虚像領域7において、物体4に重畳表示されるAR画像6を含む虚像として視認される。
【0047】
HUD装置1の制御部10は、AR画像表示位置補正機能である補正機能を実現する。この補正機能では、物体位置、視点位置、および虚像領域位置の位置関係に応じて、虚像領域7のAR画像6の表示位置を補正する。この補正機能では、虚像領域位置P1等の設定情報を参照する。この補正機能では、基本設定の視点位置E1のAR画像6aの表示位置に基づいて、視点位置の移動量に応じて、移動後の視点位置Exから見る場合の補正後のAR画像6bの表示位置を計算する。この補正機能では、移動後の視点位置Exから物体位置を見る直線上で虚像領域7との交差点に補正後のAR画像6bの表示位置をとるように、補正する。この補正機能では、制御部10での所定の変換処理によって、補正後のAR画像6bの表示位置を得る。この補正機能では、制御部10の処理によって、補正後のAR画像6bの表示位置の情報を含むARデータを生成し、表示部20へ与える。表示部20は、そのARデータに従って、虚像領域7のAR画像6bを投射表示する。
【0048】
図1で、運転者の基本設定の視点位置E1から見てウィンドシールド9の視認領域5越しの前方の所定の距離にある虚像領域位置P1に、虚像領域7が設定されている。Z方向で虚像領域7よりも前の位置P2に、AR画像6を重畳表示する対象の物体4がある例を示す。補正前のAR画像6aと補正後のAR画像6bを示す。位置Qaは、X方向での補正前のAR画像6aの表示位置を示す。位置Qbは、X方向での補正後のAR画像6bの表示位置を示す。
【0049】
AR機能では、基本設定の視点位置E1から見て、虚像領域7内において、物体4の実像上に、AR画像6を重畳表示する。運転者は、視点位置E1等からウィンドシールド9の視認領域5越しに前方にある物体4の実像や、虚像領域7のAR画像6を見る。その前提で、運転者の視点位置が、視点位置E1から水平方向(X方向)の左右の位置、例えば右へ移動後の視点位置Exに移動した場合、補正前の状態では、物体4とAR画像6aにずれが生じる。言い換えると、視点位置Exから見て、物体位置とAR画像表示位置との差、距離が生じる。このずれが大きいほど、運転者が物体とAR画像とを関係付けた認識がしにくい。
【0050】
一方、実施の形態のHUD装置1では、補正機能によって、物体位置および視点位置に合わせて、AR画像6aの表示位置(位置Qa)を、AR画像6bの表示位置(位置Qb)へと補正する。補正後の状態では、視点位置Exから物体4とAR画像6bを見る場合、位置のずれが解消されている。
【0051】
HUD装置1は、車外カメラ2の画像に基づいて、自車の位置および視点位置に対する、物体4の位置および距離を検出する。また、HUD装置1は、車内カメラ3の画像に基づいて、自車の運転者の視点位置および移動量を検出する。そして、HUD装置1は、Z方向での虚像領域位置P1と物体位置との関係に基づいて、補正の制御を行う。HUD装置1は、物体位置、視点位置、および虚像領域位置P1に応じて、AR画像の表示位置を補正する。制御部10は、虚像表示および補正の際、まず、基本設定の視点位置E1からのAR画像6aの表示位置を基本として決定する。次に、制御部10は、視点位置の移動量に応じて、移動後の視点位置Exから見る場合の補正後のAR画像6bの表示位置を、補正によって決定する。
【0052】
なお、
図1等では、説明上、ウィンドシールド9の視認領域5に対して、基本設定の視点位置E1や虚像領域7が、X方向で中心に配置されているように図示しているが、実装はこれに限るものではない。
【0053】
[HUD装置および車載システム]
図2は、実施の形態のHUD装置1を含む、車載システム100の構成を示す。車載システム100は、自動車に搭載されているシステムである。利用者である運転者は、車載システム100およびHUD装置1を操作し利用する。このHUD装置1は、特にAR機能を持つAR−HUD装置である。
【0054】
車載システム100は、ECU(Engine Control Unit:エンジン制御部)101、HUD装置1、車外カメラ2を含む車外撮影部102、映像データ記憶部103、通信部104、GPS(Global Positioning System)受信器105、カーナビ部106、センサ部108、DB部109等を有し、それらが車載バスおよびCAN(Car Area Network)110に接続されている。車載システム100は、その他図示しない音声出力部、操作部、電源部等を有する。
【0055】
HUD装置1は、制御部10、表示部20を有する。HUD装置1は、AR機能を有する。HUD装置1は、AR機能を用いて、ウィンドシールド9の視認領域5越しの虚像領域7にAR画像を含む虚像を表示することで、運転者に各種の情報を伝えることができる。HUD装置1のAR機能は、補正機能を含む。補正機能は、虚像領域7内のAR画像の表示位置を自動的に補正する機能である。
【0056】
HUD装置1は、音声出力部を併用して、運転者に音声出力、例えばカーナビ機能やAR機能による案内やアラーム等を行うこともできる。HUD装置1は、操作パネルや操作ボタン等の操作部も備え、運転者による手動操作入力、例えばAR機能のオン/オフやユーザ設定、光学系24のミラーの角度の調節、等も可能である。
【0057】
制御部10は、HUD装置1の全体を制御する。制御部10は、CPU、ROM、RAM等のハードウェアおよび対応するソフトウェアを備える。制御部10や他の各部は、マイコンやFPGA等のハードウェアによって実装されてもよい。制御部10は、例えばCPUによりROMからプログラムを読み出してプログラムに従った処理を実行することで、画像入力部11等の各部を実現する。制御部10は、必要に応じて各種のデータや情報を内部のメモリまたは外部のメモリに格納し、読み書き等を行う。制御部10は、メモリのうちの不揮発性メモリに、AR機能のための設定情報等を保持する。設定情報は、補正部14の変換処理のための設定情報や、ユーザ設定情報を含む。ユーザ設定情報は、基本設定の視点位置や虚像領域位置、光学系24のミラーの角度の設定情報等を含む。
【0058】
制御部10は、車外カメラ2で撮影された画像を入力し、取得した各情報を用いながら、視認領域5の虚像領域7に虚像を表示するためのARデータを生成し、表示部20に与える。制御部10は、ARデータの生成の際に、虚像領域7内のAR画像の表示位置を補正する。また、制御部10は、表示部20を制御して、光学系24のミラーの角度等の状態を調節できる。これにより、虚像領域7の位置を調節できる。
【0059】
表示部20は、投射型映像表示装置(プロジェクタ)等によって構成される。表示部20は、表示駆動回路21、表示素子22、光源23、光学系24、駆動部25を有し、それらが接続されている。表示部20は、制御部10からの制御および映像データ(ARデータ)に基づいて、虚像を表示するための映像光を生成して、視認領域5内の領域に投射する。表示駆動回路21は、AR表示部15からの映像データに従って、AR表示のための表示駆動信号を生成し、表示素子22および光源23に与えて駆動制御する。
【0060】
光源23は、表示駆動信号に基づいて、表示素子22への照明光を発生する。光源23は、例えば高圧水銀ランプ、キセノンランプ、LED素子、またはレーザー素子等で構成される。光源23からの光は、図示しない照明光学系を通じて表示素子22に入射される。照明光学系は、照明光を集光し、均一化して、表示素子22に照射する。
【0061】
表示素子22は、表示駆動信号および光源23からの照明光に基づいて、映像光を生成し、光学系24へ出射する。表示素子22は、例えばSLM(Spatial Light Modulator:空間光変調器)、DMD(Digital Micromirror Device、登録商標)、MEMSデバイス、またはLCD(透過型液晶パネルや反射型液晶パネル)等で構成される。
【0062】
光学系24は、表示素子22からの映像光をウィンドシールド9の視認領域5へ導くためのレンズやミラー等の素子を含む。光学系24には駆動部25が接続されている。表示素子22からの映像光は、光学系24のレンズによって拡大等され、ミラーによって反射等されて、視認領域5内の一部の領域に投射される(
図3)。その領域で反射された映像光は、運転者の目に入射し、網膜に結像する。これにより、運転者の視点から見ると、視認領域5内の領域に対応して、視認領域5越しに見える虚像領域7が形成され、虚像領域7内に虚像が視認される。
【0063】
駆動部25は、光学系24を駆動するための光学系駆動部であり、レンズやミラー等を駆動するためのモータ等の部品を含む。駆動部25は、運転者の手動操作入力、あるいは制御部10からの制御に従って、光学系24を駆動し、例えばミラーの角度を変更する。駆動部25は、例えばミラーの角度を調節するための操作ボタンを備えている。運転者は、その操作ボタンの上下の手動操作によって、ミラーの角度を、標準に設定された角度を基準として正負に変更可能である。例えば、操作ボタンの第1部分が押されている間、ミラーの角度が正方向(角度を大きくする方向)に変化し、第2部分が押されている間、ミラーの角度が負方向(角度を小さくする方向)に変化する。
【0064】
ECU101は、エンジン制御を含む車両制御、車載システム100の全体の制御を行う。ECU101は、言い換えると車両制御部である。ECU101は、運転支援や運転自動制御のための高度な機能を有してもよい。その場合、ECU101は、その機能に係わる情報をHUD装置1に出力してHUD装置1を制御し、HUD装置1にその機能に係わる虚像の表示を行わせてもよい。ECU101は、センサ部108からの検出情報に基づいて、車速等の車両情報を把握し、制御に用いる。また、HUD装置1は、ECU101から車両情報を取得して制御に利用できる。
【0065】
車外撮影部102は、1台以上の車外カメラ2を含み、自車の停止中や走行中等に、車外カメラ2を用いて、自車の前方を含む状況を撮影し、映像データ(時系列の画像フレームを含む)および車両周囲情報を取得する。車外撮影部102は、その映像データ等を、映像データ記憶部103に格納し、あるいはECU101やHUD装置1へ出力する。
【0066】
車外カメラ2は、車両の所定の位置に所定の向きや画角で設置されている(
図3)。車外カメラ2の位置は、例えば車両前部バンパー付近、ウィンドシールド9の辺付近、あるいは車両横部のバックミラー付近等である。車外カメラ2は、車両および運転者の前方を含むように、所定の撮影方向で所定の画角の範囲で撮影し、映像データを出力する。
【0067】
車外撮影部102は、車外カメラ2の画像を処理する信号処理部を備えてもよいし、備えなくてもよい。その信号処理部は、ECU101やHUD装置1に備えてもよい。その信号処理部は、1台以上の車外カメラ2の画像を処理して、車両周囲情報等を計算して得てもよい。車外撮影部102は、車外カメラ2の画像の解析に基づいて、自車の周囲の他車や人や建物や路面や地形や天候等の状況を判断してもよい。
【0068】
車外撮影部102は、車外カメラ2の画像に基づいて、自車と物体との距離(物体距離)や、自車を基準とした空間内の物体の位置(物体位置)を計測する機能を備えてもよい。車外カメラ2として2つ以上のカメラやステレオカメラを備える場合、左右の2つのカメラが撮影した2つの画像を用いて、公知の両眼視差に基づいた距離計測方式等によって、物体距離が計算できる。また、1つの車外カメラ2しか備えない場合でも、その車外カメラ2の画像内の物体位置や、他のセンサの検出情報等に基づいて、所定の計算で概略的に、空間内の物体位置や物体距離等を計算できる。
【0069】
映像データ記憶部103は、車外カメラ2からの映像データ等を記憶する。映像データ記憶部103は、車外撮影部102内でもよいし、HUD装置1内でもよい。また、映像データ記憶部103は、運転者撮影部107の車内カメラ3の映像データ等も記憶するようにしてもよい。
【0070】
通信部104は、車外の移動体網やインターネット等に対する通信を行う通信インタフェース装置を含む部分である。通信部104は、ECU101やHUD装置1等からの制御に基づいて、例えばインターネット上のサーバ等と通信ができる。例えば、HUD装置1は、通信部104を介してサーバからAR表示に用いるための元データや関連情報等を参照、取得してもよい。通信部104は、車車間通信用無線受信機、路車間通信用無線受信機、VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム、登録商標)受信機等を含んでもよい。車車間通信は、自車と周辺の他車との間の通信である。路車間通信は、自車と周辺の道路や信号機等の機器との間の通信である。
【0071】
GPS受信器105は、GPS衛星からの信号に基づいて、自車の現在の位置情報(例えば緯度、経度、高度等)を取得する。ECU101やHUD装置1やカーナビ部106は、GPS受信器105から自車の現在の位置情報を取得して、制御に用いることができる。
【0072】
カーナビ部106は、車両に搭載されている既存のカーナビゲーションシステムの部分であり、地図情報や、GPS受信器105から取得した位置情報等を保持し、それらの情報を用いて公知のナビゲーション処理を行う。ECU101やHUD装置1は、カーナビ部106から情報を取得して制御を行うことができる。HUD装置1は、カーナビ部106から情報を参照してAR表示の元データとして用いてもよい。例えば、HUD装置1は、その元データに基づいて、AR画像の例として、目的地への進行方向のナビゲーションのための矢印画像を生成してもよい。
【0073】
センサ部108は、車両に搭載されている公知のセンサ群を有し、検出情報を出力する。ECU101やHUD装置1は、その検出情報を取得して制御を行う。センサ部108に含むセンサデバイスの例として、車速計、加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサ(電子コンパス)、エンジン始動センサ、シフトポジションセンサ、ハンドル操舵角センサ、ヘッドライトセンサ、外光センサ(色度センサや照度センサ)、赤外線センサ(近接物体センサ)、温度センサ等がある。加速度センサおよびジャイロセンサは、自車の状態として、加速度、角速度および角度等を検出する。
【0074】
センサ部108は、自車と物体との距離を計測する距離センサを備えてもよい。距離センサは、例えば光学的センサで実現でき、発した光が物体に当たって戻ってくるまでの時間から距離を計算できる。距離センサがある場合、その距離センサから物体距離情報を取得可能である。
【0075】
DB部109は、ストレージ等で構成され、DBに、AR表示に利用可能な元データや情報が格納されている。元データは、例えばAR画像を生成するための基本画像データ等がある。情報は、例えば対象の物体に関する基本情報や関連情報、基準画像等がある。DB部109は、HUD装置1内でもよいし、カーナビ部106との併合でもよいし、車載システム100の外部の通信網上のデータセンタ等に設けられてもよい。DBには、通信部104を介して外部から取得された情報が格納されてもよい。
【0076】
ウィンドシールド9は、自動車の一部であり、透過性および剛性を持つガラス、所定の光学特性のフィルム等で構成されている(
図3)。ウィンドシールド9の視認領域5内の一部の領域には、AR機能の利用時に虚像領域7が形成される。なお、ウィンドシールド9の手前にAR専用表示板(コンバイナ等)が設けられてもよい。視認領域5の範囲内で虚像領域7が設定可能である。
【0077】
画像入力部11は、車外カメラ2で撮影された画像を入力し、画像からARのための所定の物体を抽出する。情報取得部12は、AR表示および補正等のために必要な情報として、物体情報、視点情報、車両情報、虚像情報等を取得する。物体情報は、物体位置や物体距離を含む情報である。物体位置は、画像内の2次元座標、または空間内の3次元座標等である。物体距離は、自車と物体との距離である。車両情報は、車速や走行方向等を含む情報である。視点情報は、運転者の視点位置等の情報である。虚像情報は、虚像領域7の設定位置等の情報である。
【0078】
AR画像生成部13は、物体に対して重畳表示するための基本的なAR画像のデータを生成する。基本的なAR画像は、虚像領域7における基本表示位置を持つ。補正部14は、言い換えると表示位置変換部であり、補正機能に対応して、AR画像の表示位置の補正処理を行う。補正部14は、AR画像生成部13で生成された基本的なAR画像、および情報取得部12で取得された各情報を用いて、虚像領域7内のAR画像の表示位置を補正する。補正部14は、その補正を、所定の変換処理として行う。変換処理は、例えば予め変換テーブルで定義されている。補正部14は、補正後のAR画像表示位置を含むデータを出力する。AR表示部15は、補正後のデータを用いて、虚像領域7にAR画像を含む虚像を重畳表示するためのARデータを生成し、ARデータに基づいて表示部20に対する表示制御を行う。
【0079】
[運転座席]
図3は、自動車の運転座席付近を横(X方向)から見た平面で、視点位置や虚像領域位置等の概要を示す。
図3の状態は、基本設定状態を示し、運転者が基本設定の視点位置E1からウィンドシールド9の視認領域5越しの前方に見える虚像領域7のAR画像6、および物体4を見る状態を示す。運転座席の前方にウィンドシールド9があり、その一部として視認領域5があり、視認領域5内の一部の領域307に対応して虚像領域7が形成される。運転座席の前方のダッシュボードの一箇所、例えばコンソールパネルの位置に、HUD装置1やカーナビ部106等が収容されて設置されている。
【0080】
運転者の目の位置に基づいた基本設定の視点位置E1を示す。また、視点位置E1を含むアイボックス300を示す。なお、視点位置は、目の位置と異なってもよい。例えば、視点位置は、左右の両目の中間点として計算されてもよいし、頭や顔の中心点等として計算されてもよい。また、視点位置E1から、視認領域5内の領域307越しに虚像領域7のAR画像6および物体4を見る場合の視線301を一点鎖線で示す。
【0081】
車両における車外カメラ2の設置の位置p2および撮影方向302の例を示す。撮影方向302がZ方向である場合を示す。車両における車内カメラ3の設置の位置p3および撮影方向303の例を示す。車外カメラ2や車内カメラ3の設置位置は、これらに限らず可能である。
【0082】
図3では、HUD装置1内の光学系24のうち、ミラー501を示している。ミラー501は、2軸の可変の角度として角度θおよび角度φを有する(
図5)。映像光304が、ミラー501での反射によって、ウィンドシールド9の内側の視認領域5内の領域307へ投射され、運転者の目の方へ反射される。映像光304の投射位置である、領域307の中心の位置pCを示す。なお、光学系24の構成は、これに限らず可能であり、視認領域5に映像光を投射する位置および方向が可変である構成であればよい。
【0083】
HUD装置1の計算上で、視点位置E1から見て、空間内の物体4の位置pAに対応させるように、視認領域5越しの前方の位置に、虚像領域7内のAR画像6が形成される。空間内の虚像領域7の中心点、およびその中心点に表示する場合のAR画像6の表示位置を、位置pBとして示す。視線301は、位置pC、位置pB、位置pAを通り、物体4の実像とそれに重畳されるAR画像6とを見る視線である。虚像領域7は、視線方向301を法線とした面である場合を示す。
【0084】
ミラー501は、自由曲面ミラー等であり、例えば凹面ミラーである。ミラー501は、向きを表す角度θおよび角度φを有する。ミラー501は、例えば、X方向に延在する回転軸(X軸)の角度θと、Y方向に延在する回転軸(Y軸)の角度φとを有する。ミラー501は、駆動部25からの駆動によって、角度θおよび角度φが所定の範囲内で可変である。角度θおよび角度φの状態に応じて、映像光304の投射方向および投射位置(位置pC)が可変である。また、ミラー501等の曲面の設計によって、曲面の領域307へ対応させるための歪み補正の機能を持たせることもできる。
【0085】
視点位置等の各位置は、空間内の3次元座標を有する。例えば、視点位置E1(X1,Y1,Z1)、位置pA(XA,YA,ZA)、位置pB(XB,YB,ZB)、位置pC(XC,YC,ZC)等を有する。制御部10は、計算によって各位置の3次元座標を把握する。
【0086】
車外カメラ2の位置p2と、車内カメラ3の位置p3と、視点位置との関係については以下である。車載システム100およびHUD装置1で、予め、空間内の車外カメラ2の位置p2や車内カメラ3の位置p3が設定されている。また、運転者の視点位置は、運転座席の付近に対応する所定の範囲内に概ね収まり、運転者撮影部107によって把握される。各位置の3次元座標は異なるが、位置p2と位置p3と視点位置(例えば視点位置E1)とが所定の関係を有する。それらの各位置は、所定の関係に基づいて、計算によって相互変換可能であり、補正等の計算の際に揃えることができる。また、自車の位置は、それらの位置との関係を有し、同様に相互変換可能である。例えば、視点位置からみた物体の位置および物体距離は、車外カメラ2の位置p2から見た物体位置および物体距離と、位置p2と視点位置E1との距離とから、計算できる。また、変形例としては、各位置の間の相互変換の計算を省略して、各位置を概略的に同じとみなして制御を行ってもよく、相応の効果が得られる。
【0087】
[ウィンドシールド]
図4は、車両前部座席から見たウィンドシールド9の視認領域5や虚像領域7を簡易的に示す。
図4では、実像と虚像(AR画像)とにずれが無い状態を示す。右側にはハンドル401等があり、ダッシュボードの中央付近にはコンソールパネル402等があり、HUD装置1やカーナビ部106等が収容されている。コンソールパネル402では、HUD装置1やカーナビ部106の操作入力や画面表示がされる。ウィンドシールド9は曲面の視認領域5を有する。ウィンドシールド9の上側には室内後写鏡403等が設置されている。また、本例では、ウィンドシールド9の右上の位置には車内カメラ3が設置されている。図示しないが、車両のいずれかの所定の位置には車外カメラ2が設置されている。
【0088】
図4の実像の例では、自車の前方の道路上、交差点付近で、対象の物体4として他車(対向車)がある。HUD装置1の開口部404を通じて映像光がウィンドシールド9の視認領域5内の領域に投射されることで、運転者から見て虚像領域7(破線枠で示す。実際には表示されない。)が形成される。虚像領域7内で、物体4上にAR画像6が重畳表示される。本例では、AR画像6は、対向車の注意喚起のためのアラートアイコン画像であり、アーチ形状(切り欠きを持つリング形状)の場合を示す。
【0089】
[基本設定]
図5は、運転者個人に応じた視点位置E1および虚像領域7の基本設定等について示す。基本設定の視点位置E1を示す。視点位置E1は、HUD装置1の初期設定値に基づいたユーザ設定値として設定される。運転者は、運転座席等を自分の体格や姿勢に合わせて調節し、基本姿勢をとる。その後、運転者は、HUD装置1の虚像領域7および視点位置E1の基本設定を行う。運転者は、必要に応じて光学系24のミラー501の角度θ,φ等を調節して、自分の視点位置から見て虚像領域7が好適な状態になるように調節する。虚像領域7の位置を、所定の設定範囲内で、X方向、Y方向で変更可能である。変形例では、さらに、虚像領域7の位置を、所定の設定範囲内で、Z方向でも変更可能である。
【0090】
基本設定時、HUD装置1は、基本設定のためのガイドAR画像503(例えば、虚像領域7を示す枠や、中央位置を示すマーク等)を虚像領域7に表示する。運転者は、ガイドAR画像503を見ながら、自分の視点位置からの視線に合わせて、好適な状態になるように、ミラー501の角度等を例えば手動で調節する。
【0091】
HUD装置1は、光学系24の一部としてミラー501を有する。HUD装置1は、そのミラー501の角度θ,φを可変に駆動する駆動部25を有する。駆動部25は、制御部10からの制御、または操作部(例えばコンソールパネル402の操作ボタン)からの操作入力に基づいて、モータ等の駆動によって、ミラー501の角度θ,φを変更する。ミラー501の角度θ,φに応じて投射方向および投射位置(位置pC)が決まる。角度θの調節によって、運転者から見て虚像領域7のY方向の位置を調節可能である。また、角度φの調節によって、運転者から見て虚像領域7のX方向の位置を調節可能である。
図5の例では、角度φの調節によって、ウィンドシールド9における右側寄りの位置に虚像領域7を調節した場合を示す。
【0092】
基本設定時、HUD装置1は、車内カメラ3によって運転者を撮影し、例えば両目の中間点等に基づいて視点位置を検出し、基本設定の視点位置E1として設定する。また、HUD装置1は、駆動部502を通じて、視点位置E1に対応する状態の時のミラー501の角度θ,φの状態を検出し、設定する。なお、運転者による調節の操作を省略して、HUD装置1が自動的にミラー501の角度を調節して基本設定を行ってもよい。
【0093】
また、実施の形態の変形例のHUD装置1では、虚像領域7の前後方向(Z方向)の位置等も可変に設定および制御が可能である。虚像領域位置に応じて、AR画像の表示位置の補正の有無や、補正方式も設定可能である。制御部10の設定情報の1つとして、虚像領域位置および虚像距離を有する。HUD装置1は、用途や状況に応じて、また、ユーザ設定に応じて、虚像距離を変えて、その虚像距離の位置に虚像領域7を設定できる。例えば、一般道路の走行の場合と高速道路の走行の場合とでは、それぞれに適した虚像距離がある。HUD装置1の制御部10では、それらの状況の判断(例えば車速に基づいた判断)に応じて、虚像距離を切り替えて設定可能である。また、運転者の任意の入力操作に応じて、虚像距離を変更できる。
【0094】
[虚像領域内の設定例]
図6は、虚像領域7(HUD表示範囲)内の設定例を示す。虚像領域7内において、設定に応じて、各種の虚像を表示可能である。虚像領域7内で、情報種類毎に、表示位置や表示領域が設定可能である。本例では、虚像領域7内で、下辺領域である非AR領域601と、その非AR領域601以外の領域であるAR領域602とが設定されている。非AR領域601では、虚像(非AR画像)として、車両情報等が表示される。車両情報として、例えば、車速情報603、右左折や目的地距離等のナビゲーション情報604、その他の情報(任意の文字等)が挙げられる。非AR領域601の虚像については、補正機能の適用対象外として設定される。
【0095】
AR領域602では、対象の物体4上に、AR画像6(例えばアラートアイコン画像)が重畳表示され、基本的に補正機能の適用対象として設定される。AR領域602に表示するAR画像6としては、各種の種類がある。物体4の種類毎に、AR画像6の種類や、補正機能の適用有無等が設定可能である。
図6の下側の表では、AR機能および補正機能によって虚像領域7のAR領域602にAR画像を表示する際のAR設定例を示す。この表では、情報項目として、物体種類、AR画像種類、補正機能の補正有無等を有する。物体種類毎に、AR画像種類や補正有無等が設定可能となっている。設定例として、対象物体が物体種類K1である車の場合には、AR画像種類G1を適用し、補正機能によってAR画像表示位置の補正を適用する設定等を示す。
【0096】
[位置および距離の関係]
図7は、視点、物体、虚像(虚像領域7)の位置および距離の関係を示す。基本設定の視点位置E1と、X方向の右へ移動後の視点位置Exを示す。視点位置E1から視点位置Exへの移動量H(視点移動距離)を示す。物体位置として、Z方向で、虚像領域7の虚像領域位置P1に対し、前にある物体4bの場合の位置P2(特にX方向で左側)と、後にある物体4aの場合の位置P3(特にX方向で右側)とを示す。物体4を実線の円で示す。AR画像6を点線の円で示す。視点位置から物体位置(例えば位置P2や位置P3)までの距離を、物体距離LAとして示す。視点位置と虚像領域位置P1との距離を、虚像距離LBとして示す。虚像領域位置P1と物体位置との距離を、虚像物体距離LC(相対距離)として示す。
【0097】
視点位置E1からウィンドシールド9越しの前方(Z方向)へ所定の虚像距離LBの虚像領域位置P1に、虚像領域7が設定されている。虚像距離LBは、HUD装置1によって設定されており、変形例の場合には可変である。虚像距離LBは、前述の第2HUD装置のように、20〜30m(例えば25m)である。なお、物体4が虚像領域位置P1にある場合、AR画像6の表示位置は物体4と同じ位置になる。
【0098】
虚像領域7内のX方向で、各物体4のAR画像6の表示位置を白丸点で示す。例えば、物体位置P3の物体4aの場合に、視点位置E1から見た補正前のAR画像6に基づいて、移動後の視点位置Exから見た補正後のAR画像6Aを示す。物体位置P2の物体4bの場合に、視点位置E1から見た補正前のAR画像6に基づいて、移動後の視点位置Exから見た補正後のAR画像6Bを示す。例えば、物体4bに関して、補正前のAR画像の位置Qa、補正後のAR画像6Bの位置Qbを示す。
【0099】
HUD装置1は、補正機能において、上記のような視点、物体、および虚像領域7の位置および距離の関係に応じて、AR画像6の表示位置を補正する。特に、虚像領域7に対し物体4が前にある場合と後にある場合とでは、位置のずれの影響が異なる。そのため、HUD装置1は、例えば、物体4が虚像領域7よりも前にある場合にはAR画像6の表示位置の補正を行う。
【0100】
[処理フロー]
図8は、HUD装置1の制御部10の主要処理のフローを示す。この処理は、AR画像の表示位置の補正の変換処理を含む。制御部10は、自車の走行中およびAR機能の利用中に、このような処理をリアルタイムで行う。
図8は、ステップS1〜S10を有する。以下、ステップの順に説明する。
【0101】
(S1) HUD装置1は、運転者の操作に基づいて、基本設定処理を行う。
図5のように、基本設定の視点位置E1、虚像領域位置P1等が設定される。HUD装置1は、AR機能のオン状態で、以下のような処理を行う。
【0102】
(S2) 制御部10の画像入力部11は、車外撮影部102の車外カメラ2の映像データの画像フレームを、映像データ記憶部103から読み出す等して順次に入力する。
【0103】
(S3) 画像入力部11は、入力された画像内から、ARのための所定の物体の領域等を抽出する処理を行う。所定の物体は、例えばAR画像を重畳表示する対象となる車や人や自転車等であり、また、AR制御のために用いる、路面の車線やマーク、交通標識等である。なお、この抽出処理は、特徴量抽出や画像マッチング等の画像解析を含む公知技術によって実現できる。
【0104】
(S4) 画像入力部11は、入力された画像から抽出された物体4に関する、画像内の物体位置の2次元座標(x,y)、および視点位置と物体位置との物体距離等を検出する。あるいは、画像入力部11は、空間内の物体位置の3次元座標(X,Y,Z)を検出する。
【0105】
(S5) 画像入力部11または運転者撮影部107は、車内カメラ3からの映像データの画像を入力する。なお、運転者撮影部107の機能によって視点位置等を検出できる場合には、運転者撮影部107で検出した視点位置等の情報を、情報取得部12が取得するようにしてもよい。
【0106】
(S6) 画像入力部11または運転者撮影部107は、車内カメラ3の画像から、運転者の現在の視点位置を検出する。画像入力部11または運転者撮影部107は、画像内の視点位置の2次元座標(x,y)、または空間内の視点位置の3次元座標(X,Y,Z)を検出する。また、画像入力部11または運転者撮影部107は、基本設定の視点位置E1からの移動後の視点位置Exに関する移動量および移動方向等を検出する。
【0107】
(S7) 情報取得部12は、虚像表示および補正のために必要な情報として、物体情報、視点情報、車両情報、虚像情報等を取得する。物体情報は、物体位置、物体距離、物体種類(例えば車、人、自転車等)、サイズ等の情報がある。視点情報は、視点位置、移動量等がある。車両情報は、車速、走行方向等がある。虚像情報は、虚像領域位置P1等の設定情報がある。
【0108】
情報取得部12は、例えば、車外撮影部102またはセンサ部108(例えば距離センサ)から、物体距離情報を取得してもよい。情報取得部12は、例えば、ECU101やセンサ部108から、車両情報を取得してもよい。情報取得部12は、例えば、センサ部108やGPS受信器105またはカーナビ部106から、自車の現在の位置情報等を取得してもよい。情報取得部12は、DB部109や、通信部104を介して外部から情報を取得してもよい。
【0109】
(S8) AR画像生成部13は、上記各画像や取得された情報を用いて、対象の物体4に重畳表示するためのAR画像6の基本AR画像データを生成する。ここで生成する基本AR画像データは、補正前の基本表示位置を持つ。AR画像生成部13は、物体種類等に応じたAR画像を生成する。AR画像生成部13は、抽出された物体(例えば他車)に応じてAR画像(例えばアラートアイコン画像)を生成する。また、AR画像生成部13は、ECU101、カーナビ部106、DB部109等から、データや情報を適宜参照して、AR画像(例えばナビゲーション矢印画像)を生成してもよい。これらは、AR機能としてどのような情報を提供するかに依るものであり、特に限定しない。AR画像生成部13は、生成したAR画像データ等を出力する。
【0110】
(S9) 補正部14は、AR画像生成部13で生成された基本AR画像データについて、虚像領域7のAR画像6の表示位置を補正するための変換処理を行う。補正部14は、この補正処理で、物体位置および物体距離と、視点位置の移動量と、虚像領域位置P1に対する物体の前後関係等に応じて、補正後のAR画像の表示位置を決定する。言い換えると、補正前のAR画像の表示位置からの補正量を決定する。
【0111】
補正部14は、所定の変換テーブル(または所定の変換計算式)に基づいた変換処理を行うことで、補正後のAR画像の表示位置を決定する。補正部14は、物体位置、視点位置移動量、虚像領域位置等を入力値として、変換テーブルを参照して変換処理を行い、出力値として補正後のAR画像の表示位置等を出力する。
【0112】
補正部14は、補正方式として、例えば後述の第2方式を用いて、虚像領域7よりも前にある物体4については、補正処理を行い、補正後のAR画像の表示位置を得る。また、補正部14は、補正方式として、X方向の視点位置の移動量に関して、所定の閾値と比較し、閾値越えの場合には補正処理を行う。閾値は、アイボックス等に応じて設定可能である。
【0113】
(S10) AR表示部15は、S9までの補正等を反映した虚像表示のための表示データであるARデータを生成する。また、AR表示部15は、ARデータの生成の際には、HUD装置1での計算上の平面(虚像平面)から、ウィンドシールド9の曲面の領域(
図3の領域307)に対応させるための座標変換も行う。この座標変換は、公知の射影変換等を用いて実現でき、曲面への投射の結果として平面的な虚像領域7が形成されるようにするための変換である。
【0114】
表示部20は、制御部10のAR表示部15からのARデータに基づいて、映像光を生成し出射する。その映像光が光学系24を通じてウィンドシールド9の視認領域5内の領域307に投射されて反射される。これにより、運転者には、虚像領域7内における物体に重畳されたAR画像として視認される。AR機能のオン状態では、以上のような主要処理が同様に繰り返し行われる。
【0115】
[物体位置、視点位置の取得]
図9は、物体位置や視点位置の取得について示す。
図9の(A)は、車外カメラ2の画像901を示す。画像901内に、物体4(例えば他車)を含む場合、画像901内の物体4の位置として2次元座標(xm,ym)が検出される。さらに、(A)の下側には、空間におけるX−Z平面で、自車900の位置、他車(物体4)の物体位置、および物体距離として自車900と他車との距離Dを示す。自車位置(前述のように視点位置と関係付けられる)の3次元座標(Xm1,Ym1,Zm1)、物体位置の3次元座標(Xm2,Ym2,Zm2)、距離D(DX,DY,DZ)を示す。物体位置の3次元座標は、自車位置(視点位置)を基準とした3次元座標系における位置座標である。距離Dのうちの距離DXはX方向の成分、距離DYはY方向の成分、距離DZはZ方向の成分である。制御部10は、画像901や前述の手段を用いて、このような物体位置の3次元座標等を得る。
【0116】
図9の(B)は、車内カメラ3の画像902を示す。画像902から、運転者の視点位置として、基本設定の視点位置E1、移動後の視点位置Ex、移動量H、移動方向(少なくともX方向を含む)等が検出できる。画像902内の視点位置の2次元座標として、視点位置E1(x1,y1)、視点位置Ex(x2,y2)を示す。視点位置E1および視点位置Exは、2次元座標として検出されてもよいし、3次元座標として検出されてもよい。2次元座標に基づいて、所定の計算で3次元座標を得ることができる。視点位置の3次元座標として、視点位置E1(X1,Y1,Z1)、視点位置Ex(X2,Y2,Z2)を示す。これらの視点位置の差分から、視点位置の移動量H等が検出できる。
【0117】
なお、実施の形態のHUD装置1の補正機能でのAR画像の表示位置の補正の際には、上記のような3次元情報を用いて実現するが、2次元情報を用いて簡易的に実現してもよい。なお、視点位置の3次元座標と物体位置の3次元座標とが検出できた場合、それらの2点を結ぶ直線を検出できたことになる。また、その直線を、概略的に視線とみなして、制御に利用してもよい。
【0118】
実施の形態のHUD装置1では、車内カメラ3を用いて、少なくとも視点位置の2次元座標または3次元座標を計算して検出する。これに限らず、運転者撮影部107の機能として、さらに視線方向(目が実像や虚像を見る視線)や、目のまばたき等を検出できる場合には、それらの情報を補正機能の制御に利用してもよい。例えば、視点位置および視線方向に応じて、AR画像の表示位置を制御してもよい。例えば、視線方向として虚像領域7の方(物体やAR画像)を見ていない場合には補正を行わない等の制御が挙げられる。
【0119】
また、変形例として、視点位置および視線方向等に応じて、AR画像の表示位置の補正だけでなく、AR画像の加工の制御を追加してもよい。これにより、より正確な補正や、より視認しやすくするAR提示ができる。例えば、AR画像の表示位置の補正中の時には、その補正中の状態(すなわち視点位置の変動中の状態)が運転者に伝わるように、AR画像の形状や色等を変化させる加工をしてもよい。AR画像を視認しやすくするための各種の公知技術との組み合わせが可能である。
【0120】
[AR画像生成]
図10は、AR画像生成部13による、虚像領域7内のAR画像6の生成の際の基本について示す。
図10の上側では、虚像領域7に対応するHUD装置1の計算上の平面(虚像平面8と記載する)における、物体位置に対するAR画像6の基本表示位置(補正前表示位置ともいう)等を示す。虚像平面8内の2次元座標系(x,y)において、対象の物体4の物体位置毎に、AR画像6(対応するAR画像データ)が配置される。AR画像生成部13は、物体位置および視点位置E1に基づいて、虚像平面8における、物体位置の2次元座標(xm,ym)に対し、AR画像6の基本表示位置の2次元座標(xa,ya)を決定する。虚像平面8内のAR画像の基本表示位置の2次元座標(xa,ya)は、物体位置、視点位置の3次元座標や、両者の距離に基づいて、所定の計算で得られる。
【0121】
本例では、物体4として他車(対向車)の場合に、AR画像6として、注意喚起のためのアラートアイコン画像を重畳表示する場合を示す。アラートアイコン画像の一例としてアーチ形状であり、路面に平行にみえるように表示される。本例では、物体4の物体領域の下辺の中央を、AR画像の基本表示位置としているが、これに限らず可能である。アラートアイコン画像の基本画像に基づいて、路面に合わせて傾き等が調整されたAR画像が生成される。そして、虚像平面8内の基本表示位置に、そのAR画像が配置される。また、その際、AR画像の色やサイズ等が調整されてもよい。例えば、物体種類に応じた色や、物体領域サイズに合わせたAR画像サイズ等としてもよい。
【0122】
図10の下側には、他のAR画像の例を示す。物体4として他車の場合に、AR画像6として、物体4(物体領域)を囲む枠画像とする例を示す。また、AR画像6として、道路上の前方の位置に、進行方向ナビゲーションのための矢印画像を表示する例を示す。また、物体4として所定の施設または看板である場合に、AR画像6として、物体位置から少し離れて関係付けた位置に、吹き出し画像を表示する例を示す。吹き出し画像内には、物体4に関する情報(例えばカーナビ部106やDB部109の参照に基づいた施設や看板の情報)が文字等で表示される。
【0123】
上記例のように、AR画像の種類として各種が可能である。なお、AR画像の種類として、上記吹き出し画像のように、表示位置が物体位置から少し離れる場合でも、補正機能を同様に適用可能である。吹き出し画像について、補正有りとして設定してもよいし、補正無しとして設定してもよい。上記吹き出し画像に補正を行った場合、補正前後で、物体と吹き出し画像との位置関係が維持される。補正を行った場合、視点位置に応じて、物体と吹き出し画像との距離等の見え方が変化する。図示しないが、その他のAR画像の例としては、車線画像(道路の左右端の線の強調表示のための画像)等でもよい。
【0124】
[補正方式(1)]
実施の形態では、補正機能として、物体位置、視点位置移動量、および虚像領域と物体との位置関係に応じて、AR画像の表示位置の補正の内容を制御する。この補正機能に関して、以下に示す各方式を用いる。
【0125】
まず、
図1のように、実施の形態のHUD装置1では、補正機能によってAR画像の表示位置を補正する際、制御部10で、ARデータ(表示部20に与える表示データ)の内容を補正する処理を行うことで実現する。その補正処理は、制御部10のソフトウェアプログラム処理に基づいた、例えば変換テーブルを用いた変換処理によって実現できる。
【0126】
なお、この補正の実現手段に関して、変形例のHUD装置としては、HUD装置のハードウェアにおける表示部20の光学系24のミラー501の角度θ,φ等を変更する制御を適用してもよい。あるいは、上記ARデータの情報処理と、光学系24の駆動制御との組み合わせによる制御を適用してもよい。
【0127】
[補正方式(2)]
図11は、実施の形態のHUD装置1の補正機能におけるAR画像表示位置の補正方式について示す。この補正方式は、特に、Z方向の前後における物体4と虚像領域7との位置関係に応じて補正を制御する方式である。補正機能では、以下に示す方式のうち少なくともいずれかの方式を用いて、AR画像の表示位置の補正を行う。HUD装置1では、予め設計事項として、少なくともいずれか1つの方式の補正機能が実装される。あるいは、HUD装置1では、ユーザ設定機能を用いて、複数のいずれかの方式からユーザが選択した方式を、使用する方式として設定可能としてもよい。また、HUD装置1では、状況に応じて複数の方式から使用する方式を切り替えて使い分けてもよい。用いる方式に応じた補正の効果が実現できる。
【0128】
(A)第1方式: まず、基本的な補正方式として、第1方式では、Z方向で虚像領域7に対して物体4がいずれの位置にある場合でも、同様に補正を適用する。HUD装置1は、物体位置と、視点位置の移動量Hとに応じて、虚像領域7内のAR画像6のX方向の補正後の表示位置を決定する。
【0129】
(B)第2方式: さらに、第2方式等では、Z方向で虚像領域7(虚像領域位置P1)に対して物体4が後にある場合と前にある場合との少なくとも2つの区分で、補正の適用の有無を制御する。
図7でも示したように、後にある場合とは、位置P3の物体4aのような場合であり、言い換えると、物体距離LAが虚像距離LB以上に大きい場合(LA≧LB)である。前にある場合とは、位置P2の物体4bのような場合であり、言い換えると、物体距離LAが虚像距離LBよりも小さい場合(LA<LB)である。第2方式では、HUD装置1は、位置関係として、物体4が虚像領域7よりも前にある場合には、AR画像6の表示位置の補正を行い、物体4が虚像領域位置P1内やそれよりも後にある場合には、補正を行わない。
図11の例では、前にある物体4bについては、移動後の視点位置Exから見て、補正を行い、補正後のAR画像6bを示している。後にある物体4aについては、視点位置E1からのAR画像6aについて、補正を行わず、補正前のAR画像6aを示している。
【0130】
(C)第3方式: 第2方式の変形例として、第3方式以下の方式を用いてもよい。第3方式では、Z方向で虚像領域位置P1よりも前の所定の距離801の位置802に、制御用の閾値の位置が設定される。第3方式で、HUD装置1は、物体位置が、位置802よりも前にある場合には補正を行い、位置802以降の後にある場合には、補正を行わない。第3方式では、考え方として、物体位置が虚像領域位置P1と位置802との間にある場合、物体4と虚像領域7が比較的近く、ずれの影響が比較的小さいことから、補正を行わない。
【0131】
(D)第4方式: 第4方式では、虚像領域位置P1を含む前後に、所定の距離の範囲803が、制御用の範囲である虚像領域近傍範囲として設定される。第4方式では、範囲803とその前後とで、3つの区分が設けられる。第4方式では、HUD装置1は、物体位置が、範囲803内にある場合には、補正を行わない。範囲803内の場合、物体4と虚像領域7が比較的近く、ずれの影響が比較的小さいことから、補正を行わない。また、第4方式では、物体位置が、範囲803外で、前にある場合には、補正を行い、範囲803外で、後にある場合には、補正を行わない。
【0132】
(E)第5方式: 第4方式の変形例として、第5方式では、物体位置が、範囲803内の場合には補正を行わず、範囲803外で、前にある場合には、補正を行い、範囲803外で、後にある場合にも、補正を行う。
【0133】
虚像領域位置P1に対する物体位置の距離(虚像物体距離FC)が大きいほど、ずれの影響が大きいので、補正の必要性や有効性が高い。また、物体が虚像領域7よりも前にある場合の方が、ずれの影響が大きいので、補正の必要性や有効性が高い。上記各補正方式では、少なくとも、物体が虚像領域7よりも前の方にある場合には、確実に補正を行い、ずれを解消または低減する。
【0134】
[補正方式(3)]
図12は、実施の形態のHUD装置1で、加えて適用される補正方式として、視点位置の移動量に応じた補正方式を示す。この補正方式では、視点位置のX方向の移動量Hの大きさに応じて、移動量Hが所定の閾値以内の場合と閾値を超える場合とで、AR画像の表示位置の補正の有無を制御する。
【0135】
図12の(A)は、基本設定の視点位置E1から例えば右へ移動後の視点位置Ex1で、移動量Hが移動量Hx1であり、移動量Hx1が所定の閾値Ht以内である場合を示す。虚像領域7よりも後の位置P3の物体4aや前の位置P2の物体4bがある場合を示す。この場合、HUD装置1は、移動量Hx1が閾値Ht以内であるため、前述の第1方式や第2方式等を用いた補正を行わない。考え方として、この場合では、物体4aまたは物体4bと補正前のAR画像6aとのずれが、視点位置Ex1からの視認上で、許容範囲内である。このことから、補正処理を省略して、効率化を図るものである。
【0136】
図12の(B)は、同様に、基本設定の視点位置E1からの移動後の視点位置Ex2で、移動量Hが移動量Hx2(Hx2>Hx1)であり、移動量Hx2が所定の閾値Htを越える場合を示す。この場合、HUD装置1は、移動量Hx2が閾値Htを越えるため、前述の第1方式や第2方式等を用いた補正を行う。考え方として、この場合では、物体4aまたは物体4bと補正前のAR画像6aとのずれが、視点位置Ex2からの視認上で、許容範囲外である。このことから、補正処理を実行して、ずれの解消を図るものである。
【0137】
虚像領域位置P1において、位置121は、補正前のAR画像6aの表示位置を示す。前の位置P2に物体4bがある場合で、補正を行う場合に、位置122は、補正後のAR画像の表示位置を示す。同様に、後の位置P3に物体4aがある場合で、補正を行う場合に、位置123は、補正後のAR画像の表示位置を示す。
【0138】
[補正]
図13は、補正部14によるAR画像の表示位置の補正および変換を示す。補正部14は、変換処理の際、入力値として、物体位置(例えば3次元座標)、基本設定の視点位置E1からの移動量、虚像領域位置P1、および補正前のAR画像の表示位置を入力し、変換の結果の出力値として、補正後のAR画像の表示位置(または補正量)を得る。
【0139】
図13の例では、物体位置が虚像領域位置P1に対して後の位置P3や前の位置P2の場合で、X方向では中央から少し左側の位置である場合を示す。また、視点位置の移動としては、基本設定の視点位置E1から右へ移動して移動後の視点位置Ex、移動量Hxである場合を示す。
【0140】
虚像領域7において、視点位置E1から位置P3の物体4aまたは位置P2の物体4bに合わせたAR画像6を表示する場合の表示位置を、補正前のAR画像6Bの位置QBとして示す。なお、図示しないが、虚像領域位置P1=PBにおける位置QBに物体がある場合、AR画像の表示位置は同じ位置QBとなる。
【0141】
第1方式等の場合で、虚像領域7よりも後にある物体4aについて表示位置を補正する場合には以下である。HUD装置1は、移動後の視点位置Exに合わせて、位置P3の物体4aのAR画像6Bの表示位置(位置QB)を補正する。変換処理によって、補正後の表示位置が、位置QAとして決定される。虚像領域7のX方向の線と、視点位置Exから物体4aを見る直線との交差点として、位置QAが得られる。HUD装置1は、補正後の位置QAに、AR画像6Aを表示する。
【0142】
第1方式や第2方式等の場合で、虚像領域7よりも前にある物体4bについて表示位置を補正する場合には以下である。HUD装置1は、移動後の視点位置Exに合わせて、位置P2の物体4bのAR画像6Bの表示位置(位置QB)を補正する。変換処理によって、補正後の表示位置が、位置QCとして決定される。虚像領域7のX方向の線と、視点位置Exから物体4bを見る直線との交差点として、位置QCが得られる。HUD装置1は、補正後の位置QCに、AR画像6Cを表示する。
【0143】
[位置関係の例]
図14は、視点、物体、虚像の位置および距離の関係の例を示す。物体虚像距離LC等が異なる例を示す。
図14では、上から道路等を見たX−Z平面で示す。虚像領域位置P1(AR画像表示位置を含む)は、例えば、自車の視点位置からの虚像距離LBとして20〜30mの範囲(設定範囲140)内で設定される。本例では、虚像領域位置P1を、虚像距離FBで25mの位置とした場合を示す。
【0144】
ARの対象となる物体4として、人151、コーン152、車153等がある場合を示す。人151(歩行者等)が、虚像領域位置P1よりも前で、視点位置から比較的近い5mの距離の位置にいる。物体虚像距離LCとしては−20mである(虚像領域位置P1に対して前にある場合を負とした)。コーン152が、虚像領域位置P1の付近の位置、20〜30mの設定範囲140内の位置にある。車153(対向車等)が、虚像領域位置P1よりも後で、視点位置から比較的遠い40〜60m程度の距離(例えば45m)の位置にある。物体虚像距離LCとしては+20mである。
【0145】
まず、コーン152のように、設定範囲140内の虚像領域7(虚像領域位置P1)の付近の位置に物体4がある場合、AR画像6の表示位置のずれの影響が小さく、好適なAR画像表示が可能である。
【0146】
車153は、虚像領域位置P1よりも後の位置にあり、物体虚像距離LCが+20mである。車153の位置に重畳するAR画像については、ずれの影響があるものの、人151のように前にある場合よりも影響が小さい。そのため、車153のAR画像については、第1方式等で補正を行ってもよいし、第2方式等で補正を省略してもよい。
【0147】
人151は、虚像領域位置P1よりも前の位置にあり、物体虚像距離LCが−20mである。人151の位置に重畳するAR画像については、車153のように後にある場合よりもずれの影響が大きい。そのため、人151のAR画像については、ずれの解消が重要であり、確実に補正を行う。
【0148】
例えば、前述の第2方式を適用する場合、虚像領域7よりも後にある車153等の物体については補正処理を省略して効率化し、前にある人151等の物体については、補正によってずれを解消し、運転者にとって好適な視認を実現する。
【0149】
図15は、
図14の例に対応した、物体やAR画像の例を示す。
図15の上側の(A)は、基本設定の視点位置E1から見た物体4の例を簡易的に示す。道路上、自車から比較的近い位置に、物体4として人151がいる。また、自車から比較的遠い位置に、物体4として車153がある。また、それらの中間程度の位置には、物体4として、曲がり角付近に設置されたコーン152がある。物体位置154は、人151の場合の物体位置の2次元座標(x,y)を示し、物体領域155の中心点とする場合を示す。物体領域155は、物体4として人151を囲む領域(例えば人151の形状を包含する矩形)であり、破線枠で示す。物体領域は矩形に限らず可能である。
【0150】
図15の下側の(B)は、(A)の物体4に対するAR画像6の重畳表示の例を示す。人151、コーン152、車153のそれぞれに対し、AR画像6としてアラートアイコン画像を重畳表示する例を示す。例えば、表示位置156は、人151の場合のAR画像6の補正前の基本表示位置を示す。物体位置154および物体領域155に対し、AR画像6の表示位置として、物体位置154よりも下にある、物体領域155の下辺の中央とした場合を示すが、これに限らず可能であり、物体位置をそのままAR画像表示位置としてもよい。
【0151】
図16は、
図14、
図15の例に対応した、物体とAR画像との位置ずれ、および補正について示す。視点位置の移動前後の虚像領域7を簡易的に示す。虚像領域7Aは、移動前の基本設定の視点位置E1から見た虚像領域を示す。虚像領域7Bは、視点位置E1から右へ移動後の視点位置Exから見た虚像領域を示す。移動量Hが例えば100mmである。補正前の状態では、視点位置Exから見て、物体4として例えば人151とAR画像6a(補正前AR画像)とで位置のずれがある。補正後の状態では、視点位置Exから見て、人151とAR画像6b(補正後AR画像)とで位置のずれが解消されている。補正によって、補正前のAR画像6aの表示位置156から、補正後のAR画像6bの表示位置157になっている。
【0152】
特に、人151の例のように、虚像領域7よりも前に物体4があり、物体虚像距離LCが比較的大きい場合には、ずれの影響が大きいので、表示位置の補正が有効である。人151と車153とでは、いずれも物体虚像距離LCが20mであるが、人151の方が、車153よりも、ずれの影響が大きい。そのため、第2方式等を用いて、人151の方については、確実にAR画像の表示位置を補正する。
【0153】
[変形例:虚像領域の可変設定]
図17は、変形例のHUD装置1における、虚像領域7のZ方向の位置の可変設定について示す。所定の設定範囲140(20〜30m)内で、虚像領域位置P1を可変に設定できる。位置P1aは、虚像距離FBとして30mの位置を虚像領域位置として虚像領域7aを設定する場合を示す。位置P1bは、虚像距離FBとして20mの位置を虚像領域位置として虚像領域7bを設定する場合を示す。また、各物体距離の位置(PA,PB,PC)に物体4がある場合を示す。位置PAの物体4A、位置PBの物体4B、位置PCの物体4Cを示す。
【0154】
各虚像領域7の設定の場合でも、同様に、補正機能を適用できる。例えば、前述の第2方式を適用するとする。虚像領域7aの場合において、物体4C、物体4Bについては、前にあるので、補正を行い、物体4Aについては、後にあるので、補正を行わない。虚像領域7bの場合において、物体4Cについては、前にあるので、補正を行い、物体4B、物体4Aについては、後にあるので、補正を行わない。
【0155】
なお、路面、車両、および運転者の状態を基準として設定される虚像領域7の面(例えば矩形の面)は、X−Y平面としてもよいし、
図3の例のように視点位置E1からの視線301を法線とする平面としてもよい。各場合で、同様に、補正機能を適用できる。
【0156】
[変形例:虚像領域]
図18は、他の変形例における虚像領域7の設定状態を示す。このように、虚像領域7を、視点位置E1からの視線301に対して、垂直面に限らず、斜めに傾けた平面としてもよい。本例では、虚像領域7は、Z方向の視線301に対し、角度δを持つ平面として設定されている。さらに、角度δが可変設定できる形態としてもよい。この場合、虚像領域7は、Z方向の虚像領域位置P1、視線301上の位置pBを中心として、Z方向の幅181を持つ。幅181は、設定範囲140内の大きさである。この場合でも、補正機能を同様に適用可能である。本例では、虚像領域7において、AR画像6として、位置Qy1のAR画像6y1や、位置Qy2のAR画像6y2を示す。位置Qy1は、Z方向の視線301よりも上側の位置で、虚像領域位置P1よりも後の位置である。位置Qy2は、Z方向の視線301よりも下側の位置で、虚像領域位置P1よりも前の位置である。
【0157】
この変形例の場合、補正方式としては、例えば
図11の(D)の第4方式や(E)の第5方式を同様に適用可能である。例えば、幅181を、(D)の範囲803と対応させて、補正有無の制御を行えばよい。
【0158】
[虚像領域外の場合の制御]
図19は、補正機能における一部の機能として、虚像領域7外の場合の制御を示す。視点位置移動量に応じて、補正後のAR画像表示位置が虚像領域7外に出てしまう場合の制御を示す。
【0159】
(1)この制御として、第1制御では、物体4に関するAR画像6の表示位置が、視点位置から見た虚像領域7(対応する虚像平面)で考えて、虚像領域7内にある場合には、表示可能であり、AR画像の表示位置の補正を行う。また、この制御では、物体4に関するAR画像6の表示位置(補正しようとする際に計算した表示位置)が、視点位置から見た虚像領域7(対応する虚像平面)で考えて、虚像領域7外にある場合には、AR画像の表示位置の補正を行わず、AR画像も表示しない。虚像領域外190(表示不可領域)は、虚像領域7の右外の領域の例を示す。位置191は、基本設定の視点位置E1に合わせて計算したAR画像6aの表示位置である。位置192は、移動後の視点位置Exに合わせて、補正のために計算した表示位置である。位置192は、虚像領域外190にある。第1制御では、虚像領域外190の場合、単に、AR画像を表示および補正しないようにする。視点位置が戻った場合、すなわち補正後の表示位置が虚像領域7内に戻った場合には、補正を行い、AR画像が再度表示される。
【0160】
(2)第2制御では、HUD装置1は、通常時、視点位置が虚像領域7内を見る状態、あるいは補正後の表示位置が虚像領域7内の状態と判断した場合には、補正機能を自動的にオン状態とし、補正および表示を行う。HUD装置1は、視点位置が、虚像領域7を見ない状態、あるいは、補正後の表示位置が虚像領域7外の状態と判断した場合には、補正機能を自動的にオフ状態に切り替え、補正および表示を行わない。後者の場合、運転者が、虚像領域7のAR画像が見えない状態、あるいは意図的に見ない状態であると考えて、補正機能をオフ状態にするものである。状況に応じて、運転者が虚像を見たくない場合、実像のみを見たい場合に、そのために運転者が視点位置を動かす場合があり得る。上記制御を適用することで、そのような場合でも、運転者がAR画像を見ずに物体のみを見やすくなる。
【0161】
(3)第3制御では、HUD装置1は、視点位置に基づいて、補正後のAR画像の表示位置が、虚像領域7外に出る場合、補正を行わず、補正前のAR画像の表示位置のままとして表示する。すなわち、虚像領域7の左右端の付近の位置に、補正前のAR画像が残ったまま表示される。虚像領域7内に戻った場合、補正の要否が再び判断される。この制御の場合、運転者の視認上で、物体とAR画像とのずれが残り、運転者がそのずれを認識する。運転者は、視点をずらすことで物体を見たい場合には、AR画像の重畳がずれている状態であるため、物体を見やすい。
【0162】
[効果等]
上記のように、実施の形態のHUD装置1によれば、物体と虚像(AR画像)とのずれを低減して、好適なAR表示が実現できる。特に、視点位置および虚像領域位置に合わせた好適な補正が実現できる、
【0163】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。実施の形態の構成要素の追加や削除、分離や併合、置換、組合せ等が可能である。実施の形態の機能等は、一部または全部が集積回路等のハードウェアで実現されてもよいし、ソフトウェアプログラム処理で実現されてもよい。各ソフトウェアは、製品出荷時点で予め装置内に格納されていてもよいし、製品出荷後に外部装置から通信を介して取得されてもよい。
【0164】
実施の形態の補正機能による補正は、水平方向(X方向)のみではなく、鉛直方向(Y方向)等についても同様に適用可能である。本発明は、車載システムに限らず、各種の用途に適用可能である。