(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記時間取得部は、さらに、前記制振装置内における前記トルク指令を出力するまで行われる処理による遅れを示した演算遅れ時間、及び前記出力部がトルク指令を出力してから前記モータが前記トルク指令を受け取るまでの通信遅れ時間、のうちいずれか一つ以上を含む、前記遅れ時間を取得する、
請求項1又は2に記載の車両の制振装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0012】
本実施形態において、制振装置を搭載する車両1は、例えば、内燃機関と共に、電動機の双方を駆動源とするハイブリッド自動車であってもよいし、他の駆動源を備えた自動車であってもよい。また、車両1は、種々の変速装置を搭載することができるし、内燃機関や電動機を駆動するのに必要な種々の装置、例えばシステムや部品等を搭載することができる。また、車両1における車輪の駆動に関わる装置の方式や、数、レイアウト等は、種々に設定することができる。
【0013】
本実施形態では、
図1に例示されるように、車両1(例えば、四輪の自動車)は、駆動源としてエンジン2を備える。車両1では、エンジン2のトルク(回転)は、シャフト11、クラッチ16(ダンパ装置3を含む)、シャフト12、トランスミッション4、シャフト13、デファレンシャルギヤ5、ドライブシャフト14等を介して、車輪6に伝達される。なお、
図1において、車両1は、車両前方にエンジン2を搭載し、後輪を駆動する、いわゆるFR車両として図示されている。なお、本実施形態は、車両をFR車両に制限するものではなく、例えば、本実施形態で示したモータ制御部100を含む構成を、車両前方にエンジンを搭載し前輪を駆動するいわゆるFF車両や、四輪駆動車両に適用しても同様の作用効果を得ることができる。
【0014】
また、車両1は、駆動源としてモータ7を備える。モータ7は、エンジン2とデファレンシャルギヤ5との間の動力伝達系の軸に、トランスミッション4内で接続されている。
【0015】
これにより、車両1では、モータ7のトルク(回転)は、シャフト15とギア(不図示)とを介して、トランスミッション4内の動力伝達系の軸(入力軸、カウンタ軸、及び出力軸等のうちいずれか一つ)に伝達される。そしてモータ7のトルクは、エンジン2のトルクアシスト及び変速中のトルクアシストに用いることができる。また、モータ7は、モータ制御部100によって制御される。本実施形態は、モータ7がダンパ装置3より車輪6側に配置されている構成例とする。
【0016】
トランスミッション4(変速装置)は、本実施形態では、ドライバの手動操作によって変速するマニュアルトランスミッションとして構成されている。
【0017】
エンジン2(内燃機関)は、ガソリンや、軽油、アルコール、水素等の燃料を用いる内燃機関であり、例えば、ポート噴射式や、筒内噴射式(直噴式)等のエンジンである。エンジン2は、図示しないエンジン制御装置によって制御される。エンジン制御装置は、例えば、エンジン2のトルク(エンジントルク)や回転速度(回転数)等を制御することができる。
【0018】
また、エンジン2には、当該エンジンのクランク角及び回転数を検出するためのクランク角センサ21が設けられている。クランク角センサ21は、モータ制御部100及びエンジン制御部に対して、エンジン2の回転数、及びクランク角を示した信号を出力する。
【0019】
アクセルポジションセンサ22は、図示しないアクセルのアクセル開度を検出し、当該アクセル開度を示した信号を、モータ制御部100及びエンジン制御部に対して出力する。
【0020】
ストロークセンサ23は、クラッチ16のストロークを計測するセンサであって、クラッチ16のストロークを示した信号を、モータ制御部100及びエンジン制御部に対して出力する。クラッチ16には、ダンパ装置3として、例えば、フライホイールダンパ及びクラッチディスクダンパのうちいずれか一つ以上が設けられている。本実施形態のダンパ装置3は、クラッチ16の構成部品を兼ねているものとする。クラッチ16は、エンジン2とトランスミッション4との間に設けられ、エンジン2からのトルクをトランスミッション4に伝達させるか否かを切り替える装置とする。
【0021】
モータ温度センサ24は、モータ7近傍に設けられ、モータ制御部100に対して、モータ7の温度を示した信号を出力する。
【0022】
モータ電流センサ25は、モータ制御部100に対して、モータ7を流れる電流値を示した信号を出力する。
【0023】
モータ角度センサ26は、モータ制御部100に対して、モータ7の回転数、及び回転角を示した信号を出力する。
【0024】
クラッチ16は、例えば、エンジン2の出力側となるシャフト11と、トランスミッションの入力側となるシャフト12との間に設けられ、ダンパ装置3は、これらシャフト11とシャフト12との間のねじれによって生じるトルク変動やねじれ振動等を緩和する。ダンパ装置3は、トルク変動吸収装置とも称されうる。しかしながら、ダンパ装置3で全てのトルク変動やねじれ振動を緩和できるものではない。そこで、本実施形態では、モータ7を用いて制振制御を行うこととした。
【0025】
図2は、本実施形態における、トランスミッション4に伝達されるダンパ装置3で緩和しきれないねじれ振動の抑制例を、
図1を簡略化して示した図である。
図2に示されるようにトランスミッション4にダンパ装置3で緩和しきれないねじれ振動201が伝達される。これに対して、トランスミッション4に接続されるモータ7が、ねじれ振動201のトルクを打ち消す逆トルク202を出力する。これにより、デファレンシャルギヤ5と車輪(タイヤ)6とを接続するドライブシャフト14に伝達されるねじり振動トルク203が抑制される。
【0026】
図3は、モータの逆トルクの出力に遅れが生じない場合のねじれトルクと逆トルクとの一般的な関係を例示した図である。
図3では、ダンパ装置から伝達されるねじれトルク302と、モータから出力される逆トルク301とが、鏡像対象となる。
【0027】
図4は、モータが
図3で示される逆トルクを出力した場合における、ドライブシャフトに伝達されるねじれ振動を例示した図である。
図4に示される例では、ねじれ振動401は、
図3で示される逆トルク301で打ち消されるため、ほぼ‘0’となる。
【0028】
しかしながら、実際には、モータに対してトルク指令を行ってから、実トルクを出力するまでに遅れが生じる。
【0029】
図5は、従来のモータの逆トルクの出力に遅れが生じた場合のねじれトルクと逆トルクとの関係を例示した図である。
図5では、モータから逆トルク301が出力されず、遅れのために逆トルク501が出力された例とする。このような場合に、ダンパ装置から伝達されるねじれトルク302と、逆トルク501と、は鏡像対象とならないため、ねじれ振動を抑止しきれない。
【0030】
図6は、モータが
図5で示される逆トルクを出力した場合における、ドライブシャフトに伝達されるねじれ振動を例示した図である。
図6に示される例では、ねじれ振動601は、
図6で示される逆トルク501で打ち消しきれないため、抑止すべきねじり振動の大きさ±T1を超えるトルクが伝達される。
【0031】
そこで、本実施形態においては、モータ制御部100が、モータ7がトルクを出力するまでの遅れを考慮して、トルク指令を出力する。上述したように、エンジン2からダンパ装置3を介して出力されるねじれトルクは、エンジン2の爆発周期で変化する正弦波のような周期性がある。そこで、モータ制御部100は、ねじれトルクを打ち消すよう、爆発周期で正弦波のように変化する逆トルクを出力する際に、トルクの出力の遅れに相当する位相の調整を行うこととした。
【0032】
図7は、本実施形態のモータ制御部100の構成例を示した図である。モータ制御部100は、例えばECU(Electronic Control Unit)として構成される。ECUは、例えば、MCU(Micro Control Unit)を有する。MCUは、CPU(Central Processing Unit)や、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置、インタフェース(入出力装置)、通信装置、バス等(いずれも図示されず)を有する。主記憶装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)や、RAM(Random Access Memory)等である。補助記憶装置は、例えば、フラッシュメモリ等である。また、MCUにおいて、CPUは、主記憶装置等にインストールされたプログラムにしたがって演算処理を実行し、モータ7等の各部を制御する。なお、MCUは、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含んでもよい。
【0033】
モータ制御部100は、モータ7の制御を行う構成であって、所定の条件を満たした場合に、ねじれ振動を打ち消すためのトルク指令をモータ7に出力する。本実施形態のモータ制御部100は、プログラムを実行することで、センサ情報取得部701と、判定部702と、トルク算出部703と、フィルタ処理部704と、周期算出部705と、遅れ時間取得部706と、補償時間算出部707と、出力部708と、を実現する。
【0034】
まず、本実施形態のモータ制御部100が行うトルク指令の補正について説明する。
図8は、トルク指令と、当該トルク指令に従って出力される実トルクと、の関係を例示した図である。
図8に示されるように、トルク指令801に対して、遅れ時間Td経過した後に、実トルク802が出力される。なお、トルクの出力周期は、エンジン2の爆発周期Tsと合わせることとする。
【0035】
換言すれば、エンジンの爆発周期Tsに合うようにトルク指令801を出力した場合に、遅れ時間Tdだけ遅れたタイミングで実トルク802が出力される。そこで、実トルクの出力周期とエンジンの爆発周期Tsとの位相が合うようにトルク指令を出力するためには、(爆発周期Ts−遅れ時間Td)で求められる時間Tc(以下、補償時間Tcと称す)だけ、トルク指令を出力するタイミングを調整すれば良い。
【0036】
図9は、遅れ補償をした後のトルク指令と、当該トルク指令に従って出力される実トルクと、の関係を例示した図である。
図9で示される例では、
図8に示したトルク指令801から補償時間Tcだけ遅らせたタイミングで、トルク指令901を出力した例とする。この場合に、実トルク902は、トルク指令901から遅れ時間Tdだけ遅れたタイミングで出力される。この場合に、実トルク902の周期は、遅れ補償前の
図8に示したトルク指令801の周期と、位相が一致する。換言すれば、実トルク902の周期と、エンジンの爆発周期との位相を合わせることができる。そこで、モータ制御部100は、トルク指令の出力タイミングを、補償時間Tcだけ遅らせる制御を行うこととした。次に、当該制御を行うためのモータ制御部100の構成について説明する。
【0037】
図7に戻り、センサ情報取得部701は、接続された各種センサから様々な情報を取得する。例えば、センサ情報取得部701は、モータ角度センサ26が検出した、モータ7の回転数、及び回転角を取得し、クランク角センサ21が検出した、エンジン2の回転数、及びクランク角を取得する。
【0038】
また、センサ情報取得部701は、モータ7に設けられたモータ温度センサ24からモータ7の温度を取得する。さらに、センサ情報取得部701は、モータ電流センサ25からモータ7に流れる電流値を取得する。さらに、センサ情報取得部701は、アクセルポジションセンサ22からアクセル開度を取得し、ストロークセンサ23からクラッチ16のストロークを取得する。
【0039】
判定部702は、センサ情報取得部701が取得した情報に基づいて、制振制御を行うか否かを判定する。制振制御を行うか否かの基準には、どのような情報を用いても良いが、例えば、エンジン2のクランク角センサ21、クラッチ16のストロークセンサ23、アクセルポジションセンサ22、フューエルカットセンサ信号、Gセンサ、ナビ情報等に基づくことが考えられる。
【0040】
例えば、判定部702は、クラッチ16のストロークセンサ23から、クラッチ16が係合していないことが判断できた場合や、アクセルポジションセンサ22からアクセルが踏まれていないことが判断できた場合には、エンジン2のトルク変動が伝達されることがないため制振制御を不要と判断する。
【0041】
他の例としては、判定部702は、トランスミッション4が高速段であるか否かに基づいて、制振制御を行うか否かを判定しても良い。例えば、低速段ではモータ7にトルクアシストをさせて、高速段ではモータ7に制振制御を行うよう制御することが考えられる。高速段で走行する際には、エンジン2の振動が不快に感じることが多い。そこで、高速段であると判定した場合に制振制御を行うことが考えられる。高速段であるか否かの判断基準としては、ギア比1未満であるか否か(例えば5速〜6速)を基準とすることが考えられる。
【0042】
本実施形態は、判定部702が、トランスミッション4がどの変速段に入っているのか判定する手法としては、例えば、以下の3つの手法が考えられる。
【0043】
(1)(図示しない)シフトレバーポジションセンサから受信した信号から判定
(2)(図示しない)シフトポジションセンサ(トランスミッション4内部の可動部品のストロークをセンシング)の信号から判定
(3)エンジン回転数と車輪(軸)回転数から判定
【0044】
(1)及び(2)で示した判定手法においては、モータ制御部100(例えばECU)の補助記憶装置に、各センサ値と、変速段と、の対応関係を記憶させておく。そして、判定部702は、センサ情報取得部701がシフトレバーポジションセンサ又はシフトポジションセンサから受信したセンサ値に基づいて、変速段を特定する。
【0045】
(3)で示した判定手法においては、センサ情報取得部701が、取得したエンジン回転数、及び車輪回転数に基づいて行う。車輪回転数は、車輪軸に設けられたセンサから取得する。エンジン回転数と車輪回転数との間には、下記の式(1)が成り立つ。
【0046】
エンジン回転数÷各変速比÷最終減速比(デフギア比)=車輪回転数…(1)
(但し、クラッチ16が接続されている及びクラッチ16に滑りが発生していないこと)
【0047】
そして、式(1)を変形することで、下記の式(2)を導出できる。
各変速比=エンジン回転数÷車輪回転数÷最終減速比…(2)
【0048】
モータ制御部100(例えばECU)の補助記憶装置は、最終減速比を予め記憶しておく。これにより、判定部702は、式(2)に基づいて、各変速比を求めることができる。
【0049】
さらに、補助記憶装置は、各変速比と変速段との対応関係を予め記憶しておく。これにより、判定部702は、各変速比から、変速段を特定できる。
【0050】
なお、本実施形態は、特定された変速段が、5速〜6速であるか否かを判定する手法に制限するものではなく、算出された変速比が、閾値1.0より大きいか否かを判定してもよい。本実施形態は、上述した3つの判定手法に制限するものではなく、他の手法を用いても良い。
【0051】
トルク算出部703は、クランク角θ1とモータの回転角θ2との違いに基づいて、ダンパ装置3から出力され、且つエンジン2とデファレンシャルギヤ5との間の軸に伝達されるねじれトルクTdampを算出する。本実施形態では、以下に示す式(1)から算出する。なお、ダンパ装置3のバネ定数Kとする。
Tdamp=K*(θ1−θ2)…(1)
【0052】
フィルタ処理部704は、所定の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタを用いて、ねじれトルクTdampのフィルタリング処理を行う。ねじれトルクTdampには、車両1を駆動させるために有用な成分が含まれているため、本実施形態では、搭乗者に対して不快な成分のみ取り除くこととした。
【0053】
本実施形態のフィルタ処理部704は、エンジン爆発の一次周波数成分f[Hz]を通過させる例とする。このため、フィルタ処理部704は、エンジン爆発の一次周波数成分f[Hz]の算出処理を行う。算出には、以下に示す式(2)を用いる。なお、エンジン回転数N[rpm]、気筒数n、サイクル数Cとする。エンジン回転数N[rpm]は、センサ情報取得部701が取得するクランク角から算出する。また、気筒数n及びサイクル数Cは予め記憶しているものとする。
【0054】
f=(N/60)*(n/C)…(2)
【0055】
そして、出力部708は、フィルタ処理部704により抽出された値を打ち消す(例えば符号を反転させた)値を、トルク指令として出力される値とする。
【0056】
周期算出部705は、センサ情報取得部701が取得したクランク角に基づいて、エンジンの爆発周期Tsを算出する。まず、センサ情報取得部701が取得したクランク角から、エンジン回転数N[rpm]を算出した後、下記の式(3)から、エンジンの爆発周期Tsを算出する。
Ts=1/f=(60/N)*(C/n)…(3)
【0057】
本実施形態においては、上述したように補償時間Tcだけ遅らせたタイミングで、トルク指令を出力する。その際、エンジン2の爆発周期Tsが繰り返されるものとして、制御を行っても良い。
【0058】
なお、本実施形態では、トルク指令の周期が、モータトルク出力時のエンジン爆発周期と一致するように、爆発周期Tsが経過した後のエンジン回転数を予測し、予測したエンジン回転数による次の爆発周期Ts’に基づいて、モータトルク指令の遅れ時間を調整する。そこで、周期算出部705は、次の爆発周期Ts’を算出する必要がある。このために、周期算出部705は、式(4)を用いて、爆発周期Ts経過時のエンジンの回転数N’を推測する。なお、エンジン回転数の変化量ΔNは、今回のエンジン回転数Nと、前回のエンジン回転数N0と、の差分に基づいて算出した値とする。
N’=N+ΔN*Ts…(4)
【0059】
なお、本実施形態はエンジン回転数N’の算出手法の一例を示したが、このような算出手法に制限するものではなく、例えば、車速、アクセル開度、スロットル開度、及び路面勾配のうちいずれか一つ以上を用いて算出しても良い。
【0060】
さらに、周期算出部705は、式(5)を用いて、爆発周期Ts経過した後の、次の爆発周期Ts’を算出する。
Ts’=(N’/60)*(n/C)…(5)
【0061】
遅れ時間取得部706は、モータ7のトルクを制御するトルク指令を出力してから、モータ7が当該トルク指令に従ったトルクを出力するまでの遅れ時間を取得する。本実施形態においては、モータ7の温度遅れ時間、車両1内におけるモータ制御部100のトルク指令を出力するまで行われる処理による遅れを示した制御演算遅れ時間、及び出力部708がトルク指令を出力してからモータ7がトルク指令を受け取るまでの通信遅れ時間の合計遅れ時間を取得する例とするが、遅れ時間は、これらの合計に制限するものではなく、いずれか一つ以上を含んでいれば良い。さらには、他の要素による遅れ時間と組み合わせても良い。本実施形態においては、制御演算遅れ時間、及び通信遅れ時間は、補助記憶装置に予め記憶されているものとし、遅れ時間取得部706は、補助記憶装置から、制御演算遅れ時間、及び通信遅れ時間を読み出すことで、制御演算遅れ時間、及び通信遅れ時間を取得する。モータ7の温度遅れ時間は、遅れ時間取得部706が備える温度遅れ時間算出部711が算出する。なお、モータ7の温度遅れ時間とは、モータ7の温度に依存した遅れ時間とする。
【0062】
温度遅れ時間算出部711は、センサ情報取得部701が取得したモータ7の温度Tempから、モータ7の抵抗Rを算出する。なお、温度遅れ時間算出部711は、モータ7の温度Tempと、モータ7を流れる抵抗Rと、の対応関係を予め記憶しているものとし、これにより、抵抗Rを算出できる。
【0063】
温度遅れ時間算出部711は、センサ情報取得部701が取得したモータ7の電流値Imgから、モータインダクタンスLを算出する。なお、温度遅れ時間算出部711は、モータ7の電流値Imgと、モータインダクタンスLと、の対応関係を予め記憶しているものとし、これにより、モータインダクタンスLを算出できる。
【0064】
本実施形態の温度遅れ時間算出部711は、モータ7の伝達特性G(s)に基づいて、エンジンの爆発周期Ts’から、モータ7の位相遅れθを導出する。
【0065】
図10は、本実施形態のモータの伝達特性G(s)=1/(L・s+R)に基づいたボード線図である。
図10に示されるボード線図においては、線1001を温度120度、線1002を温度20度、線1003を温度−40度とする。そして、モータ7の温度、及び周波数(つまり、1/エンジンの爆発周期Ts’)から、モータ7の位相遅れθを導出できる。
【0066】
さらには、モータの伝達特性G(s)から導出された下記の式(6)から、位相遅れθを算出しても良い。
θ=tan
-1(−Lω/R)…(6)
なお、ω=2π/Ts’とする。
【0067】
そして、温度遅れ時間算出部711は、位相遅れθ及び爆発周期Ts’を用いて、下記の式(7)から、モータの温度遅れ時間Tmを算出する。
Tm=θ/360*Ts’…(7)
【0068】
そして、遅れ時間取得部706は、温度遅れ時間Tm、制御演算遅れ時間Tctrl、及び通信遅れ時間Tcomを合計して、合計遅れ時間Tsumを取得する。本実施形態は、遅れ時間Tdの例として、温度遅れ時間Tm、制御演算遅れ時間Tctrl、及び通信遅れ時間Tcomを合計した合計遅れ時間Tsumを用いた例について説明するが、モータ7が当該トルク指令に従ったトルクを出力するまでの遅れ時間であればよい。
【0069】
補償時間算出部707は、爆発周期(における一周期の長さ)Ts’と、合計遅れ時間Tsumと、に基づいて、遅れ時間を補償するためにトルク指令の出力タイミングを調整する補償時間Tcを算出する。本実施形態では、式(8)を用いて、補償時間Tcを算出する。
Tc=Ts’−Tsum…(8)
【0070】
出力部708は、補償時間Tcをずらしたタイミングで、ねじれトルクに含まれている、エンジン爆発の一次周波数成分f[Hz]を打ち消すトルク指令をモータ7に出力する。本実施形態においては、補償時間Tcだけ遅らせたタイミングで、トルク指令を出力することとしたが、遅らせたタイミングで出力することに制限するものではなく、補償時間Tcだけ早まらせたタイミングでトルク指令を出力するよう制御を行っても良い。
【0071】
本実施形態は、上述した手法で、遅れ時間Tdやエンジン2の爆発周期Ts’を算出する手法を示したが、遅れ時間Tdやエンジン2の爆発周期Ts’の算出のために、エンジン回転数、モータ7の抵抗、コイル定数、トランスミッションの回転数、車輪速とギア比、モータ温度、モータ制御部100の制御演算時間のうち、いずれか又は全ての情報を使っても良い。
【0072】
さらに、遅れ時間Tdやエンジン2の爆発周期Ts’を算出するために、さらに、モータ回転数、フライホイール回転数、ドライブシャフト回転数、及びタイヤ回転数のうち一つ以上を、上述した要素に加えて用いても良い。
【0073】
次に、本実施形態のモータ制御部100におけるトルク指令の出力処理について説明する。
図11は、本実施形態のモータ制御部100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0074】
まず、センサ情報取得部701は、接続された各種センサから様々な情報を取得する(S1101)。
【0075】
次に、判定部702は、センサ情報取得部701が取得した情報に基づいて、制振制御を行うか否かを判定する(S1102)。制振制御を行わないと判定した場合(S1102:No)、トルク指令の値に‘0’を設定して(S1103)、S1113に遷移する。
【0076】
一方、判定部702が制振制御を行うと判定した場合(S1102:Yes)、センサ情報取得部701は、クランク角θ1と、とモータの回転角θ2とを取得する(S1104)。
【0077】
そして、トルク算出部703は、クランク角θ1及びとモータの回転角θ2から、ねじれトルクTdampを算出する(S1105)。
【0078】
そして、フィルタ処理部704は、エンジン爆発の一次周波数成分f[Hz]を通過させるバンドパスフィルタを用いて、ねじれトルクTdampのフィルタリング処理を行う(S1106)。フィルタリング処理で抽出された値を打ち消す値を、トルク指令となる値として導出する。
【0079】
出力部708は、フィルタ処理部704により抽出された値に基づいて、トルク指令値を設定する(S1107)。
【0080】
次に、周期算出部705は、センサ情報取得部701が取得したクランク(換言すれば、エンジンの回転数)に基づいて、エンジンの爆発周期Ts’を算出する(S1108)。
【0081】
センサ情報取得部701は、さらに、モータ温度センサ24からモータ7の温度Tempを取得する(S1109)。
【0082】
温度遅れ時間算出部711は、センサ情報取得部701が取得したモータ7の温度Tempに基づいて、モータ7の温度遅れ時間Tmを算出する(S1110)。
【0083】
そして、遅れ時間取得部706は、算出された温度遅れ時間Tmと、予め定められた制御演算遅れ時間Tctrl及び通信遅れ時間Tcomと、を合計して、合計遅れ時間Tsumを取得する(S1111)。
【0084】
そして、補償時間算出部707は、爆発周期Ts’と、合計遅れ時間Tsumと、に基づいて、補償時間Tcを算出する(S1112)。
【0085】
そして、出力部708は、補償時間Tcをずらしたタイミングで、トルク指令を出力する(S1113)。
【0086】
本実施形態においては、上述した処理手順に従って、トルク指令を出力することで、モータ7が実トルクを出力するまでの遅れによる振動抑制効果の低減を防ぐことができる。
【0087】
次に、本実施形態のトルク指令を出力した場合のシミュレーション結果について説明する。
図12は、シミュレーションにおけるエンジン回転数の変化を示した図である。
【0088】
図13は、
図12に示されるようなエンジン回転数が変化する場合に、本実施形態の遅れの補償を行わなかった場合のトルク変化を例示した図である。
図13に示されるように、モータトルク1302の周期は、ねじれトルク1301の周期と比べて、位相遅れが生じているため、ねじれトルク1301の鏡像対象とならず、ドライブシャフトトルク1303が生じていることが確認できる。
【0089】
図14は、
図12に示されるようなエンジン回転数が変化する場合に、本実施形態の遅れの補償を行った場合のトルク変化を例示した図である。
図14に示されるように、モータトルク1402の周期は、ねじれトルク1401の周期と比べて、位相遅れが生じていないため、ねじれトルク1401の鏡像対象に近い値となる。このため、ドライブシャフトトルク1403の変化が、
図13で示したドライブシャフトトルク1303より小さくなっていることが確認できる。
【0090】
このように、本実施形態においては、上述した構成を備えることで、ドライブシャフト14で生じるねじれトルクの変化を抑止できる。換言すれば、車両1の制振制御の効果を向上させることができる。従って、車両で生じる不快な振動を抑制できるので、搭乗者に与える不快感を抑止できる。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。