(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要素には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0016】
以下、本発明の様々な実施形態に係るトルクリミッタが、一例として、通常の局面においては前輪駆動方式(FF方式)で作動し、任意の局面において四輪駆動方式(4WD方式)で作動するようなパートタイム四輪駆動方式を採用した車両に組み込まれた場合について説明する。しかし、様々な実施形態に係るトルクリミッタは、前輪駆動方式(FF方式)を採用した車両、後輪駆動方式(FR、MR、RR方式)を採用した車両、及び、フルタイム/パートタイム四輪駆動方式を採用した車両等を含む任意の駆動方式を採用した車両にも適用可能なものである。
【0017】
1.トルクリミッタを搭載したパワートレインの構成
図1は、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタが組み込まれるパワートレインの基本的な構成を示すブロック図である。
【0018】
図1に示すように、車両1は、前輪用パワートレインとして、駆動力を発生させるエンジン(ENG)2と、エンジン2の駆動力を伝達するトランスミッション(T/M)3と、トランスミッション3から伝達された駆動力を左前輪5a及び右前輪5bに伝達することが可能な前輪用ディファレンシャルギヤ(Frデフ)4と、を主に含む。前輪用ディファレンシャルギヤ4は、直進時には左前輪5a及び右前輪5bの回転数を同一とし、右旋回時又は左旋回時には左前輪5a及び右前輪5bの回転数をそれぞれ適切な回転数とするように動作するものである。
【0019】
さらに、車両1は、後輪用パワートレインとして、電力を供給するバッテリ6と、バッテリ6から供給された電力を用いてモータユニット8を制御する制御装置7と、制御装置7の制御を受けて左後輪9a及び右後輪9bを回転させるモータユニット8と、を主に含む。モータユニット8は、後述するように、駆動力を発生させるモータと、モータの駆動力を伝達する減速機と、減速機から伝達された駆動力を左後輪9a及び右後輪9bに伝達することが可能な後輪用ディファレンシャルギヤ(Rrデフ)と、を含む。後輪用ディファレンシャルギヤは、直進時には左後輪9a及び右後輪9bの回転数を同一とし、右旋回時又は左旋回時には左後輪9a及び右後輪9bの回転数をそれぞれ適切な回転数とするように動作するものである。
【0020】
上記のようなパワートレインを有する車両1は、通常の局面においては、前輪用パワートレインのみを用いて左前輪5a及び右前輪5bに駆動力を伝達することによって、前輪駆動方式で作動する。また、車両1は、任意の局面(例えば雪道を走行するような局面等)においては、前輪用パワートレインが左前輪5a及び右前輪5bに駆動力を伝達するだけでなく、運転者の操作に従って又は制御装置7の制御に従って、後輪用パワートレインが左後輪9a及び右後輪9bに駆動力を伝達することによって、四輪駆動方式で作動する。
【0021】
モータユニット8には、以下に説明するとおり、一実施形態に係るトルクリミッタが組み込まれている。
【0022】
2.トルクリミッタを搭載したモータユニットの基本的な構成
図2は、
図1に示したモータユニット8(一実施形態に係るトルクリミッタを搭載したモータユニット8)の構成を示す模式図である。
【0023】
モータユニット8は、主な軸として、ステータ14に対向して設けられたロータ16が外周に取り付けられ、ベアリング12により回転可能に支持された中空状のモータ駆動軸10と、モータ駆動軸10に対して平行に配置され、ベアリング22により回転可能に支持されたカウンタ軸20と、モータ駆動軸10に挿通されモータ駆動軸10と同軸で配置され、ベアリング32により回転可能に支持され左後輪9aが固定された左後輪駆動軸30aと、左後輪駆動軸30aと同軸で配置され、ベアリング34により回転可能に支持され右後輪9bが固定された右後輪駆動軸30bと、を含む。
なお、主に、ステータ14、ロータ16及びモータ駆動軸10等が、モータを構成すると考えることも可能である。
【0024】
さらに、モータユニット8は、主なギヤとして、モータ駆動軸10に配置されモータ駆動軸10と一体的に回転するカウンタドライブギヤ40と、カウンタ軸20に配置され、カウンタドライブギヤ40に係合してカウンタ軸20と相対的に回転可能なカウンタドリブンギヤ50と、カウンタ軸20に配置され、カウンタ軸20と一体的に回転するファイナルドライブギヤ60と、左後輪駆動軸30aに配置されファイナルドライブギヤ60に係合するファイナルドリブンギヤ70と、左後輪駆動軸30aと右後輪駆動軸30bとの間に配置された後輪用ディファレンシャルギヤ(Rrデフ)80と、を含む。
なお、主に、カウンタドリブンギヤ50、カウンタ軸20、ファイナルドライブギヤ60及びファイナルドリブンギヤ70等が、減速機を構成すると考えることもできる。
【0025】
さらに、モータユニット8は、カウンタドリブンギヤ50及びカウンタ軸20の両方に係合するように設けられ、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルク伝達を制御するトルクリミッタ90を含む。
【0026】
トルクリミッタ90は、後に詳述するように、カウンタドリブンギヤ50に設けられた第1フェイスカム(図示せず)と、第1フェイスカムに噛合可能な第2フェイスカム(図示せず)を有し、カウンタドリブンギヤ50と同軸で設けられた環状のプレート(図示せず)と、カウンタ軸20と一体的に回転可能であって、プレートに係合する係合部(図示せず)を有し、第2フェイスカムを第1フェイスカムに向かって付勢するように係合部を介してプレートを押圧し、設定値以上の負荷が作用したときに係合部をプレートとは反対の方向に変位させるように撓むように設けられた皿ばねユニット100と、を含むことができる。これにより、トルクリミッタ90は、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルク伝達を制御(許容又は遮断)するという機能(以下便宜上「トルク断接機能」という。)を果たすことができる。
【0027】
このトルク断接機能とは、具体的には、トルクリミッタ90に解放トルク未満のトルクが入力されているときには、そのようなトルクの伝達を許容し、トルクリミッタ90に解放トルク以上のトルクが入力されたときには、そのようなトルクの伝達を遮断する機能である。
【0028】
上記構成を有するモータユニット8は、以下のように動作する。
車両1が四輪駆動方式で作動する局面において、モータ(モータ駆動軸10)の駆動力は、カウンタドライブギヤ40及びカウンタドリブンギヤ50を介してカウンタ軸20に伝達される。さらに、カウンタ軸20に伝えられた駆動力は、ファイナルドライブギヤ60を介してファイナルドリブンギヤ70に伝えられる。ファイナルドリブンギヤ70に伝えられた駆動力は、後輪用ディファレンシャルギヤ80を介して左後輪駆動軸30a及び右後輪駆動軸30bに伝えられる。後輪用ディファレンシャルギヤ80は、直進時には左後輪駆動軸30a及び右後輪駆動軸30bが同一の回転数で回転するように左後輪駆動軸30a及び右後輪駆動軸30bに駆動力を伝達し、右旋回時又は左旋回時には、左後輪駆動軸30a及び右後輪駆動軸30bがそれぞれ適切な回転数で回転するように左後輪駆動軸30a及び右後輪駆動軸30bに駆動力を伝達する。
【0029】
トルクリミッタ90に解放トルク未満のトルクが入力されている場合には、トルクリミッタ90は、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルクの伝達を許容するように作動する。具体的には、皿ばねユニット100が、第2フェイスカム(図示せず)をカウンタドリブンギヤ50に設けられた第1フェイスカム(図示せず)に向かって付勢するように、係合部を介してプレートを押圧することによって、第2フェイスカムと第1フェイスカムとを噛合させる。これにより、トルクリミッタ90は、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルクの伝達を許容する。
【0030】
一方、トルクリミッタ90に解放トルク以上のトルクが入力された場合には、トルクリミッタ90は、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルクの伝達を遮断するように作動する。具体的には、皿ばねユニット100が、係合部をプレートとは反対の方向に変位させるように撓み、第1フェイスカムと第2フェイスカムとの噛合を解消させることによって、トルクリミッタ90は、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間のトルクの伝達を遮断する。
【0031】
3.トルクリミッタ90の構成例
次に、上述したトルクリミッタ90及びこれに関連する構成要素の具体的な構成例について
図3を参照して説明する。
図3は、
図2に示したトルクリミッタ及びこれに関連する構成要素の構成を部分的に拡大して模式的に示す断面図である。
【0032】
トルクリミッタ90は、モータの駆動力を伝達するカウンタドリブンギヤ50に設けられた第1フェイスカム52と、第1フェイスカム52に噛合可能な第2フェイスカム210を有し、カウンタドリブンギヤ50と同軸で設けられた環状のプレート200と、カウンタ軸20と一体的に回転可能であって、プレート200に係合する凸部130及び凹部135(図示せず)を有し、第2フェイスカム210を第1フェイスカム52に向かって付勢するように凸部130及び凹部135を介してプレート200を押圧し、設定値以上の負荷が作用したときに凸部130及び凹部135をプレート200とは反対の方向に変位させるように撓むように設けられた皿ばねユニット100と、を含むことができる。なお、凸部130及び凹部135については後述する。
【0033】
さらに、トルクリミッタ90は、カウンタ軸20の外周面に相互に間隔をおいて設けられ、皿ばねユニット100に係合することによって、カウンタドリブンギヤ50とカウンタ軸20との間において駆動力の伝達を許容する、複数の突起部28を含むことができる。
【0034】
3−1.カウンタドリブンギヤ50
カウンタドリブンギヤ50の具体的な構成例について
図3を参照して説明する。
図3に示すように、カウンタドリブンギヤ50は、中心軸に沿って貫通孔51が設けられた全体として環状を呈する部材として、例えば、鉄、鉄鋼、アルミニウム合金、チタン合金等の金属により形成される。カウンタドリブンギヤ50は、その外周面において、カウンタドライブギヤ40に形成された歯(図示せず)に係合する歯54を有する。
【0035】
カウンタドリブンギヤ50の内部には、全体として環状に延びる収容空間53が形成されている。この収容空間53は、例えば、環状に延びる第1空間53aと、第1空間53aに連通して環状に延びる第2空間53bと、を含むことができる。第1空間53aは、第1半径を有して環状に延びる第1外側周壁53dと第2半径(<第1半径)を有して環状に延びる第1内側周壁53a
1とに囲まれている。第2空間53bは、第1外側周壁53dと第3半径(<第2半径<第1半径)を有して環状に延びる第2内側周壁53b
1とに囲まれている。
【0036】
カウンタドリブンギヤ50の皿ばねユニット100に対向する面53eには、すなわち、カウンタドリブンギヤ50において第1空間53aを囲み中心軸に交差(ここでは直交)する面53eには、第1フェイスカム52が形成されている。第1フェイスカム52は、相互に間隔をおいて設けられた放射状に延びる複数の歯(第1凸部)520を含む。各々の歯520の形状については後述する。
【0037】
カウンタドリブンギヤ50の貫通孔51にカウンタ軸20を挿通させ、皿ばねユニット100をカウンタ軸20の突起部28に係合させることにより、カウンタドリブンギヤ50は、カウンタ軸20と一体的に回転可能に設けられる。なお、皿ばねユニット100をどのようにカウンタ軸20の突起部28に係合させるかについては後述する。
【0038】
オプションとして、カウンタ軸20には、カウンタドリブンギヤ50の貫通孔51に対向する領域に周方向に延びる空隙29が形成され、この空隙29において、相互に間隔をおいて配置された複数のベアリング(ニードルベアリング)24が設けられるようにしてもよい。これらの複数のベアリングの各々は、カウンタ軸20の中心軸と平行に延びる中心軸の周りに回動可能に設けられる。
【0039】
なお、
図3には、一例として、収容領域53が第1空間53a及び第2空間53bを含む態様が示されている。しかし、収容領域53が環状に延びる1つの空間のみを含む態様を採用することも可能である。
【0040】
また、
図5には、カウンタドリブンギヤ50の皿ばねユニット100に対向する面53eに対して直接的に第1フェイスカム52が形成される態様が示されている。しかし、カウンタドリブンギヤ50の収容領域53(例えば第1空間53a)に収容及び固定された環状のプレート(の皿ばねユニット100に対向する面)に、第1フェイスカム52が形成される態様を採用することも可能である。
【0041】
3−2.プレート200
次に、プレート200の具体的な構成例について、
図3に加えて
図4及び
図5を参照して説明する。
図4は、
図3に示したプレート200の構成を模式的に示す斜視図である。
図5は、
図3に示したプレート200の構成を模式的に示す正面図である。
図4及び
図5に示すように、プレート200は、中心部において貫通孔205が形成された環状を呈し、例えば、鉄、鉄鋼、アルミニウム合金、チタン合金等の金属により形成される。プレート200は、外周に沿って相互に間隔をおいて形成された凹部(被係合部)220、及び、外周に沿って相互に間隔をおいて形成された凸部(被係合部)225を有する。すなわち、2つの隣接する凹部220の間には1つの凸部225が形成され、2つの隣接する凸部225の間には1つの凹部220が形成されている。
さらに、プレート200は、一方の面(カウンタドリブンギヤ50の面53eに対向する面)230に形成された第2フェイスカム210を有する。第2フェイスカム210は、相互に間隔をおいて設けられた放射状に延びる複数の歯(第2凸部)240を含む。
【0042】
各歯240は、面230の外周縁に向かって一端242から他端244まで面(第1基準面)230に対して略平行に径方向に延びる主面246と、主面246と面230とを繋いで径方向に延びる第1傾斜面248と、第1傾斜面248との間に主面246を挟み主面246と面230とを繋いで径方向に延びる第2傾斜面250と、主面246の他端244からプレート200の外周縁に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第3傾斜面252と、主面246の一端242からプレート200の中心軸に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第4傾斜面254と、を含む。なお、本実施形態では、主面246が一端242から他端244に進むにつれて増加する幅を有するが、別の実施形態では、主面246は、一端242から他端244に進むにつれて減少する幅、又は、一端242から他端244まで略同一の幅を有するものであってもよい。
【0043】
図6は、
図4及び
図5に示したプレート200の外周縁から中心軸に向かう方向からみた歯240の形状を模式的に示す図である。第1傾斜面248が面230に対してなす角度α
1は、0度<α
1≦45度の範囲から選択することが可能なものである。第2傾斜面250が面230に対してなす角度α
2もまた、0度<α
2≦45度の範囲から選択することが可能なものである。なお、
図6には示されていないが、第3傾斜面252が面230に対してなす角度α
3もまた0度<α
3≦45度の範囲から選択することが可能なものであり、同様に、第4傾斜面254が面230に対してなす角度α4もまた0度<α
3≦45度の範囲から選択することが可能なものである。なお、一実施形態では、α
1〜α
4のいずれもが45度に設定されるが、別の実施形態では、α
1〜α
4は、同一である必要はなく、それぞれ任意の角度であってもよい。
【0044】
第1フェイスカム52と第2フェイスカム210とが係合した状態(
図3に示した状態)では、第2フェイスカム210における隣り合う2つの歯240の間に設けられた領域には、第1フェイスカム52における1つの歯520が配置される(別言すれば、第1フェイスカム52における隣り合う2つの歯520の間に設けられた領域には、第2フェイスカム210における1つの歯240が配置される)。よって、第1フェイスカム52における各歯520は、第2フェイスカム210における隣り合う2つの歯240の間に設けられた領域に適切に配置され、かつ、隣り合う2つの歯240に適切に係合するような形状を有することが好ましい。一実施形態では、各歯520は、上述した第2フェイスカム210の各歯240と実質的に同一の形状を有するものとすることができる。すなわち、各歯520は、具体的には図示されていないが、面53e(
図3参照)の外周縁に向かって一端から他端まで面(第2基準面)53eに対して略平行に径方向に延びる主面と、主面と面53eとを繋いで径方向に延びる第1傾斜面と、第1傾斜面との間に主面を挟み主面と面53eとを繋いで径方向に延びる第2傾斜面と、主面の他端からカウンタドリブンギヤ50の外周縁に向かって径方向に延び面53eに近づく方向に傾斜する第3傾斜面と、主面の一端からカウンタドリブンギヤ50の中心軸に向かって径方向に延び面53eに近づく方向に傾斜する第4傾斜面と、を含むものとすることができる。第1フェイスカム52と第2フェイスカム210とが係合した状態においては、歯520の第1傾斜面が歯240の第1傾斜面248に対向又は当接し、歯520の第2傾斜面が歯240の第2傾斜面250に対向又は当接することから、歯520の第1傾斜面が面53eに対してなす角度及び第2傾斜面が面53eに対してなす角度は、それぞれ、歯240の第1傾斜面248の傾斜角度α
1及び第2傾斜面250の傾斜角度α
2と同一とされることが好ましい。
【0045】
3−3.皿ばねユニット100
次に、皿ばねユニット100の具体的な構成例について、
図3に加えて
図7〜
図9を参照して説明する。
図7は、
図3に示した皿ばねユニット100の構成を一方側からみて模式的に示す斜視図である。
図8は、
図3に示した皿ばねユニット100の構成を
図7とは反対側からみて模式的に示す斜視図である。
図9は、
図3に示した皿ばねユニット100の構成を示す断面図である。
図7〜
図9には、外力が加えられていない状態における皿ばねユニット100が示されている。
【0046】
皿ばねユニット100は、例えば、鉄、鉄鋼、アルミニウム合金、チタン合金等の金属により形成されており、大まかにいえば、環状を呈する皿ばね部120と、皿ばね部120と同軸で一体的に形成され筒状を呈する支持部140と、を含む。
【0047】
皿ばね部120は、一端122から他端124まで延び、一端122において略半円形の断面形状を呈する屈曲部123を有する。皿ばね部120は、屈曲部123と他端124との間においては、中心軸に進むにつれて減少していく半径を有するように延びている。皿ばね部120は、他端124において貫通孔125を有する。皿ばね部120は、一端122において、相互に間隔をおいて配置された複数の凸部(係合部)130、及び、相互に間隔をおいて配置された複数の凹部(係合部)135を有する。すなわち、隣接する2つの凸部130の間には1つの凹部135が形成され、隣接する2つの凹部135の間には1つの凸部130が形成されている。
【0048】
一実施形態では、皿ばね部120は、凸部130、凹部135、及び、一端122から屈曲部123までの間(屈曲部123を含む)の部分においては、高い剛性を有するように形成され、屈曲部123と他端124との間の部分(屈曲部123を除く)においては、高い可撓性を有する(撓み易い)ように形成され得る。別の実施形態では、凸部130、凹部135、及び、一端123と他端124との間のすべてにおいて、高い可撓性を有する(撓み易い)ように形成されるようにしてもよい。
【0049】
支持部140は、一端142から中間部144に向かうにつれて増加していく半径を有するように延び、さらに、中間部144から他端146まで略同一の半径を有するように延びている。支持部140は、一端142において貫通孔143を有する。支持部140は、その一端142において、皿ばね部120の他端124と一体的に結合されている。これにより、支持部140の貫通孔143は、皿ばね部120の貫通孔125と連通している。
【0050】
また、支持部140は、内周面において、軸方向に沿って延び相互に間隔をおいて配置された複数の溝部148を有する。
【0051】
図7〜
図9に示した皿ばねユニット100は、カウンタドリブンギヤ50との間に
図4及び
図5に示したプレート200を挟んだ状態で、
図3に示すように取り付けられる。具体的には、まず、
図4及び
図5に示したプレート200の面230に対向する面260と、
図7〜
図9に示した皿ばねユニット100の面126とが対向するように、プレート200と皿ばねユニット100とを配置する。この状態において、皿ばねユニット100の各凸部(係合部)130が、プレート200の複数の凹部(被係合部)220のうちの対応する凹部220に係合するように、かつ、皿ばねユニット100の各凹部(係合部)135がプレート200の複数の凸部(被係合部)225に係合するように、皿ばねユニット100をプレート200に取り付ける。なお、皿ばねユニット100の凸部130とプレート200の凹部220との間、及び、皿ばねユニット100の凹部135とプレート200の凸部225との間において、摺動(摩擦力)が生じる可能性を低減するために、一実施形態では、凸部130が凹部220に圧入され、凸部225が凹部135に圧入されるようにしてもよいし、凸部130と凹部220とが溶接され、凸部225と凹部135とが溶接されるようにしてもよい。
【0052】
次に、
図3に示すように、プレート200の貫通孔205に、カウンタドリブンギヤ50の第1内側周壁53a
1を挿通させ、皿ばね部120の貫通孔125及び支持部140の貫通孔143に、カウンタドリブンギヤ50の第2内側周壁53b
1を挿通させる。同時に、皿ばねユニット100の支持部140に形成された各溝部148の内部に、カウンタ軸20に形成された複数の突起部28のうちの対応する突起部28を係合させる。この後、皿ばね部120をその面126(カウンタドリブンギヤ50に対向する面)がプレート200の面260に対して僅かな角度(例えば5度)をなして傾斜するまでプレート200に向かって押圧して第2空間53bの内部に配置した状態において、支持部140(の例えば中間部144)を第2内側周壁53b
1に固定することによって、
図3に示したように、カウンタドリブンギヤ50に取り付けられる。
【0053】
カウンタドリブンギヤ50に対する皿ばねユニット100の固定は、
図3に示すように、支持部140の中間部144において周方向に環状に延びる切欠きと、この切欠きに対向してカウンタドリブンギヤ50において周方向に環状に延びる溝との間に、スナップリングSを配置することによって、行われるようにしてもよい。これにより、支持部140は、軸方向に沿って第1フェイスカム52から離れる方向(
図3において紙面上右方向)への移動を規制される。
【0054】
このように、カウンタドリブンギヤ50に対してプレート200とともに皿ばねユニット100が固定され、さらに、カウンタ軸20に対して皿ばねユニット100が固定される。ここで、
図3に示すように、プレート200に形成された第2フェイスカム210がカウンタドリブンギヤ50に形成された第1フェイスカム52に対向して噛合する。さらに、皿ばねユニット100の支持部140に形成された各溝部148には、カウンタ軸20に形成された複数の突起部28のうちの対応する突起部28が係合している(挿入されている)。このような状態において、カウンタドリブンギヤ50が回転すると、皿ばねユニット100の支持部140に形成された溝部148が、この溝部148に係合したカウンタ軸20の突起部28に当接して周方向に押圧することができる。これにより、皿ばねユニット100(及び、プレート200、カウンタドリブンギヤ50)は、カウンタ軸20と一体的に回転することができる。
【0055】
4.トルクリミッタ90のトルク断接機能
次に、上記構成を有するトルクリミッタ90がトルク断接機能を果たす際における動作について、さらに
図10を参照して説明する。
図10は、
図3に示したトルクリミッタの動作を説明するための模式図である。
【0056】
図10において、上段左方には、皿ばねユニット100がカウンタドリブンギヤ50に組み付けられる前(自由状態)における第1フェイスカム52と第2フェイスカム210との位置関係が示されている。中段左方には、皿ばねユニット100がカウンタドリブンギヤ50に組み付けられた状態(通常状態)における第1フェイスカム52と第2フェイスカム210との位置関係が示されている。下段左方には、第2フェイスカム210(第1フェイスカム52)に解放トルクが入力された状態における第1フェイスカム52と第2フェイスカム210との位置関係が示されている。さらに、これらの位置関係の各々に対応付けて、それぞれ、上段右方、中段右方及び下段右方において、皿ばね部120に作用する荷重と皿ばね部120のストローク(変位量)との関係を示すグラフ(a)〜(c)が示されている。
【0057】
まず、
図10の上段に着目すると、皿ばねユニット100の皿ばね部120に外力が作用していない自由状態においては、皿ばね部120の面126は、プレート200の面260に対して(
図10の中段に比べて)より大きな角度をなして傾斜している。この状態では、皿ばね部120には荷重が何ら作用していないため、グラフ(a)に示すように、皿ばね部120のストロークは0である。
【0058】
次に、
図10の中段に着目すると、皿ばねユニット100がカウンタドリブンギヤ50に組み付けられた状態では、皿ばね部120に第1フェイスカム52とは反対方向に荷重を掛けられていることによって、皿ばね部120の面126は、プレート200の面260に対して(
図10の上段に比べて)より小さな角度をなして傾斜している。この状態では、グラフ(b)に示すように、皿ばね部120に軸方向に沿って第1フェイスカム52とは反対の方向に向かう荷重l
1が作用することによって、皿ばね部120のストロークはd
1となっている。
【0059】
さらに、
図10の下段に着目すると、第2フェイスカム210(又は第1フェイスカム52)に解放トルクが入力されている。第2フェイスカム210又は第1フェイスカム52に対して周方向に向かうトルクが入力されると、第2フェイスカム210における各歯240と第1フェイスカム52における歯520とは傾斜面(歯240の第1傾斜面248及び第2傾斜面250、並びに、歯520の第1傾斜面及び第2傾斜面)を介して当接していることから、歯240は、軸方向に沿って第1フェイスカム52とは反対の方向に向かう力(荷重)を受ける。これにより、歯240が形成されたプレート200は、第1フェイスカム52とは反対の方向に変位する。このようにプレート200が変位すると、プレート200の凸部(被係合部)225に係合している皿ばね部120の凹部(係合部)135は、プレート200の凸部225からプレート200とは反対の方向に押圧される。一実施形態では、上述したように、皿ばね部120の凸部130、凹部135、及び、一端122から屈曲部123までの部分は、高い剛性を有する(撓みにくい)ように形成されているため、主に皿ばね部120の屈曲部123と他端124との間の部分(屈曲部123を除く部分)が撓む。よって、皿ばね部120がプレート200の凸部225からプレート200とは反対の方向に押圧されると、皿ばね部120は、その面126がプレート200の面260に対してなす角度を小さくするように撓むことになる。
【0060】
ここで、第2フェイスカム210又は第1フェイスカム52に対して入力されるトルクが解放トルクに到達した場合には、グラフ(c)に示すように、プレート200を介して皿ばね部120(の凹部135)に軸方向に沿って第1フェイスカム52とは反対の方向に向かう荷重l
2が作用することによって、皿ばね部120のストロークはd
2となる。すなわち、皿ばね部120は、その面126がプレート200の面260に対して略平行となるように撓む。皿ばね部120は、その面126がプレート200の面260に対して略平行となった状態において初めて、第1フェイスカム52と第2フェイスカム210との係合が解消されることを許容するように、形成されている。このように、第1フェイスカム52又は第2フェイスカム210に解放トルクが入力されたときに、皿ばね部120が荷重l
2を受けてストロークd
2だけ変位して、第1フェイスカム52と第2フェイスカム210との間におけるトルクの伝達が遮断されるようになっている。
【0061】
グラフ(a)〜グラフ(c)を参照すると、皿ばね部120に作用する荷重が0〜l
1の範囲においては、荷重が一定量だけ増加した場合に増加するストロークの量が比較的小さい。これに対して、皿ばね部120に作用する荷重がl
1〜l
2の範囲においては、荷重が一定量だけ増加した場合に増加するストロークの量が大きくなっている。このような特性を有する皿ばね部120を用いることによって、解放トルク未満のトルクが入力されるまでは、第2フェイスカム210は第1フェイスカム52と係合し続け、解放トルク以上のトルクが入力された時点で、即座に、第2フェイスカム210が第1フェイスカム52との係合を解消することができる。
【0062】
また、以上のようなトルク断接機能を実行する皿ばねユニット100は、解放トルクが入力された場合には、凹部135及び凸部130を第1フェイスカム52とは反対の方向に変位させるように撓むことによって、第2フェイスカム210と第1フェイスカム52との係合を解消させるように動作する。皿ばねユニット100の皿ばね部120は支持部140と一体的に形成され、さらに支持部140は軸方向に沿って第1フェイスカム52とは反対の方向に向かって摺動することを規制されている。さらに、プレート200と皿ばね部120とは、プレート200の被係合部としての凹部220及び凸部225と、皿ばね部120の係合部としての凸部130及び凹部135とを介して、実質的には摺動が生じないように係合(結合)している。よって、皿ばねユニット100全体及びプレート200全体において、他の構成要素(特にカウンタドリブンギヤ50)に対して摺動する部分がほとんどない。これにより、解放トルクが、摺動する部分に起因する摩擦力の大小によってばらつくという事態の発生を抑えることができ、したがって、最大解放トルクを低減することができる。
【0063】
さらに、上記のように、皿ばねユニット100及びプレート200は、他の構成要素に対して摺動する部分(摺動部材)を実質的に有していないため、大きな慣性質量を有する摺動部材も実質的に含むものではない。したがって、高周波の衝撃荷重が入力された場合であっても、皿ばねユニット100は、より確実に第2フェイスカム210と第1フェイスカム52との係合を解消させることができる。これにより、解放トルクが、摺動する部分に起因する摩擦力の大小によってばらつくという事態の発生を抑えることができ、したがって、最大解放トルクを低減することができる。
【0064】
また、皿ばね部120とこれを支持する支持部140とを一体成形することにより、部品点数を低減することができる。これにより、トルクリミッタを実現するのに必要なコストを削減することができる。
【0065】
5.変形例
5−1.第2フェイスカムの第1変形例
特許文献1に記載された発明では、相互に噛み合う第1回転部材(特許文献1における参照符号35)及び/又は第2回転部材(参照符号35)に過大なトルクが入力された場合には、第1回転部材は歯面方向に移動する。第1回転部材が歯面方向にわずかでも移動した際には、第2回転部材に対しては、歯面全体で接触する状態から歯面の外径側のみで接触する状態に移行するため、応力が歯面の外径側に集中する。この結果、第1回転部材及び第2回転部材を構成する材料の強度次第では、歯面が損傷する可能性がある。これを防止するためには、歯面の肉厚を増加させること等により歯面の強度を確保する必要があり、必然的に、第1回転部材及び第2回転部材を構成する部材が肥大化することになる。
【0066】
上記のように、第1回転部材及び/又は第2回転部材に過大なトルクが入力された際に、応力が歯面の外径側に集中する理由は、以下のとおりである。
特許文献1に記載された発明では、第1回転部材の底面及び第2回転部材の底面に形成された放射状に延びる複数の歯の各々は、底面に対して45度をなす傾斜面を有する。第1回転部材の歯のこのような傾斜面と第2回転部材の歯のこのような傾斜面とが当接又は対向して、第1回転部材と第2回転部材とは噛み合っている。
【0067】
第1回転部材が、過大なトルクに起因して、歯面方向に移動する際における軸方向への移動量は次の式で計算される。
軸方向移動量=半径×Tan(歯面角度(45度固定))×回転角度
すなわち、歯の内径側ほど軸方向への移動量は小さく、歯の外径側ほど軸方向への移動量は大きくなる。但し、実際には、第1回転部材は、歯面方向に移動する際には、歯の外径側の移動量に合わせて、部材全体が軸方向に持ち上がる。このとき、歯の外径側よりも内径側においては、対向する第2回転部材の歯との間に間隙が生じる。したがって、第1回転部材と第2回転部材とは、歯の外径側のみで接触することになる。
【0068】
そこで、本発明の一実施形態では、第2フェイスカム210が第1フェイスカム52に対して摺動する際に、第2フェイスカム210の歯240が第1フェイスカム52の歯520と接触する部分が、径方向において偏ることなく、歯240がいずれの径においても歯520と接触するように、第2フェイスカム210の歯240が形成される。
【0069】
歯240が同一の回転角度だけ回転した場合に、径方向に延びる歯240において径ごとに軸方向への移動量が異なることは好ましくない。歯240においていずれの径でも軸方向への移動量が同一となるように、歯240を構成すれば、歯240は、いずれの径においても常に歯520と接触することができる。
【0070】
具体的には、次の式の1つの要素である歯面角度を、歯の径方向全体にわたって常に一定(例えば45度)とするのではなく、径ごとに連続的に変化させることによって、いずれの径においても軸方向への移動量を一定にすることができる。
軸方向移動量=半径×Tan(歯面角度)×回転角度
【0071】
図11は、本発明の別の実施形態に係るトルクリミッタに含まれたプレートに形成された第2フェイスカム210の構成を模式的に示す図である。
図11に示すように、第2フェイスカム210は、プレート200の面230において相互に間隔をおいて配置された放射状に延びる複数の歯270を含む。
【0072】
各歯270は、面230の外周縁に向かって一端272から他端274まで面230に対して略平行に径方向に延びる主面276と、主面276と面230とを繋いで径方向に延びる第1傾斜面278と、第1傾斜面278との間に主面276を挟み主面276と面230とを繋いで径方向に延びる第2傾斜面280と、主面276の他端274からプレート200の外周縁に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第3傾斜面282と、主面276の一端272からプレート200の中心軸に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第4傾斜面284と、を含む。
【0073】
図11には、例示的に、歯270の内径側において第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度α
A、歯270の中央付近において第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度α
B、並びに、歯270の外径側において第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度α
Cが、α
A>α
B>α
Cという関係を満たすことが示されている。
【0074】
同様の事項が
図12においても示されている。
図12は、
図11に示した第2フェイスカム210に含まれた各歯270の一部を拡大して示す模式図である。
図12は、中段においては、歯270の一部をプレート200の面230に対向する側からみた構成を模式的に示し、上段においては、中段に示した歯270の一部の形状を、プレート200の外周縁から中心軸に向かう方向からみて示し、下段においては、中段に示した歯270の一部の形状を、プレート200の中心軸から外周縁に向かう方向からみて示している。
【0075】
図12においても、歯270の内径側において第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度α
A1、及び、歯270の外径側において第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度α
C1が、α
A1>α
C1という関係を満たすことが示されている。
【0076】
図11及び
図12に示したように、第1傾斜面278(及び第2傾斜面280)が面230に対してなす角度を、歯270の径方向に沿ってプレート200の中心軸から外周縁に向かうにつれて連続的に減少するように設定する手法を採用することによって、歯270の軸方向の移動量をいずれの径においても同一とすることができる。この手法は、
図11に示すように、歯270の上面270aの回転中心、及び、歯270の下面270bの回転中心が、プレート200の回転中心Oと一致するように、歯270を形成することと同義である。
【0077】
なお、第2フェイスカム210における2つの隣接する歯270の間に、第1フェイスカム52における1つの歯520が配置されることから、歯520は、2つの隣接する歯270の間に配置された状態において、一方の歯270の第1傾斜面278及び他方の歯270の第2傾斜面280に適切に当接又は対向するような第1傾斜面及び第2傾斜面を有することができる。例えば、歯520は、
図11及び
図12を参照して説明した歯270と略同一の形状を有するものであってもよい。
【0078】
このように、本実施形態に係る歯270によれば、第2フェイスカム210又は第1フェイスカム52に過大なトルクが入力されることにより、歯270が軸方向に移動する際において、歯270(又は歯520)の径方向の特定の部分に応力が集中する、という事態を抑えることができる。これにより、第2フェイスカム210及び/又は第1フェイスカム52に対する強度条件を緩和することができるため、第2フェイスカム210が形成されるプレート200及び/又は第1フェイスカム52が形成されるカウンタドリブンギヤ50の小型化及び軽量化を図ることが可能となる。したがって、本実施形態に係るトルクリミッタを搭載する装置(車両)の小型化及び軽量化を促すことができる。
【0079】
5−2.第2フェイスカムの第2変形例
図3〜
図9を参照して上述した様々な実施形態においては、第1フェイスカム52又は第2フェイスカム210に所定値以上のトルクが入力された場合、これらのフェイスカムのうちの一方のフェイスカムが他方のフェイスカムに対して周方向に回転し始めると、歯270(歯520)の内径側よりも外径側の周方向における移動距離が大きいため、歯270と歯520との接触点がこれらの歯の最外径側の部分となる可能性がある。
【0080】
このような事態が生ずることを抑えるために、一実施形態では、歯270(歯520)の歯丈が外径側に向かって低くなる形状を採用することができる。
図13は、本発明のさらに別の実施形態に係るトルクリミッタに含まれたプレートの構成を模式的に示す側面図である。
図14は、
図13に示したプレートに形成された各歯の構成をA−A平面からみて模式的に示す断面図である。
【0081】
図13に示すように、第2フェイスカム210は、プレート200の面230において相互に間隔をおいて配置された放射状に延びる複数の歯300を含む。各歯300は、面230の外周縁に向かって一端302から他端304まで面230に対して略平行に径方向に延びる主面306と、主面306と面230とを繋いで径方向に延びる第1傾斜面308と、第1傾斜面308との間に主面306を挟み主面306と面230とを繋いで径方向に延びる第2傾斜面310と、主面306の他端304からプレート200の外周縁に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第3傾斜面312と、主面306の一端302からプレート200の中心軸に向かって径方向に延び面230に近づく方向に傾斜する第4傾斜面314と、を含む。
【0082】
第3傾斜面312が面230に対して成す角度β
3(
図14参照)は、第1傾斜面308が面230に対してなす角度α
1、第2傾斜面310が面230に対してなす角度α
2及び第4傾斜面314が面230に対してなす角度α
4のいずれよりも小さくなるように設定されている。これにより、各歯300は、一端302から他端304までは一定の厚みを有するが、他端304からプレート200の外周縁に向かうにつれて減少する厚みを有することができる。
【0083】
これにより、第1フェイスカム52又は第2フェイスカム210に所定値以上のトルクが入力された場合、これらのフェイスカムのうちの一方のフェイスカムが他方のフェイスカムに対して周方向に回転し始めると、歯300と歯520との間の噛み合いはそれらの外径側から外れていく。その際には、歯300と歯520との接触点が、外径側から内径側へと変化するため、トルクに起因する歯面離反力Ft(=トルクT/接触半径R)を増加させることができる。歯面離反力が増加することにより、歯300及び歯520が歯面上で動き始めると、即座に両者の噛み合いが外れることになる。これにより、過剰な衝撃トルクが第1フェイスカム52又は第2フェイスカム210に入力することを防止することができる。
【0084】
なお、ここでは、第2フェイスカム210を構成する各歯300が、
図13及び
図14に示した形状を有する場合について説明したが、第1フェイスカム52及び第2フェイスカム210のうちの少なくとも一方のフェイスカムを構成する各歯が、
図13及び
図14に示した形状を有するようにしてもよい。
【0085】
5−3.付言
上述した様々な実施形態では、入力軸と出力軸との間におけるトルク断接機能を実行するトルクリミッタが、入力軸としてカウンタドリブンギヤ50を用い、出力軸としてカウンタ軸20を用いる場合について説明した。しかし、本件出願において開示した技術的思想は、原動機(エンジン及びモータを含む)の駆動力を伝達する任意の入力軸と任意の出力軸との間においてトルク断接機能(及び駆動力断接機能)を実現する場合にも適用可能なものである。
【0086】
また、上述した様々な実施形態では、皿ばね部120とプレート200とを結合させるために、皿ばね部120が係合部として凸部130及び凹部135を備え、プレート200が被係合部として凹部220及び凸部225を備える場合について説明した。しかし、皿ばね部120とプレート200とを結合させるためには、皿ばね部120が、係合部として、単に環状に延びる外周縁(環状に延びる一端122)を用い、プレート200が、被係合部として単に面260(のうち皿ばね部120の環状に延びる一端122に対向する部分)を用いることも可能である。この場合には、皿ばね部120の環状に延びる一端122とプレート200の面260との間において確実に摺動が生じないようにするために、皿ばね部120の一端122をプレート200の面260に溶接等により固着することが好ましい。
【0087】
6.本発明の様々な態様
本発明の第1の態様に係るトルクリミッタは、原動機の駆動力を伝達する入力軸において軸方向に交差する面に設けられた第1噛合部と、該第1噛合部に軸方向に対向して噛合可能な第2噛合部を有し、前記入力軸と同軸で設けられた環状のプレートと、前記入力軸と同軸で回転可能に設けられた出力軸と一体的に回転可能であって、前記プレートに係合する係合部を有し、前記第2噛合部を前記第1噛合部に向かって付勢するように前記係合部を介して前記プレートを押圧し、設定値以上の負荷が作用したときに前記係合部を前記プレートとは反対の方向に変位させるように撓む、皿ばね部と、を具備するものである。
この態様によれば、皿ばね部は、所定のトルクが入力された場合に、プレートに係合した係合部を、入力軸(カウンタドリブンギヤ)に形成された第1噛合部(第1フェイスカム)とは反対の方向に変位させるように撓むことにより、プレートに形成された第2噛合部(第2フェイスカム)が第1噛合部(第1フェイスカム)とは反対の方向に移動できるように、ことができる。これにより、第1噛合部と第2噛合部との噛合を解消させ、入力軸と出力軸(例えばカウンタ軸)との間におけるトルクの伝達を遮断することができる。これにより、トルク断接機能を実現可能なトルクリミッタを提供することができる。
【0088】
本発明の第2の態様に係るトルクリミッタは、上記第1の態様において、前記プレートは、外周に沿って相互に間隔をおいて配置された複数の被係合部を有し、前記皿ばね部の前記係合部は、外周に沿って前記複数の被係合部に係合する複数の係合部を含む。
この態様によれば、皿ばね部は、係合部を介してプレートと結合することによって、トルク断接機能を実行する際に、プレートとの間において摺動に起因する摩擦力の発生を抑えることができる。これにより、解放トルクの変動を抑えたトルクリミッタを提供することができる。
【0089】
本発明の第3の態様に係るトルクリミッタは、上記第1の態様又は上記第2の態様において、前記皿ばね部と一体的に形成され、前記出力軸に結合される筒状の支持部をさらに具備する。
この態様によれば、皿ばね部と支持部とが一体成形されることにより、トルク断接機能の実行に際して、皿ばね部が支持部との間において摺動に起因する摩擦力を発生させることが実質的にない。これにより、解放トルクの変動を抑えたトルクリミッタを提供することができる。
【0090】
本発明の第4の態様に係るトルクリミッタは、上記第3の態様において、前記支持部は、前記入力軸に固定されることによって、軸方向に沿った移動を規制される。
この態様によれば、支持部が入力軸に対して軸方向に沿った移動を規制されることによって、支持部及びこれに一体成形された皿ばね部が他の部材(例えば入力軸)との間において摺動に起因する摩擦力を発生させることが実質的にない。これにより、解放トルクの変動を抑えたトルクリミッタを提供することができる。
【0091】
本発明の第5の態様に係るトルクリミッタは、上記第1の態様から上記第4の態様のいずれかの態様において、前記第1噛合部は、相互に間隔をおいて設けられた放射状に延びる複数の第1凸部を含み、前記第2噛合部は、相互に間隔をおいて設けられた放射状に延びる複数の第2凸部を含む。
この態様によれば、放射状に延びる複数の第1凸部を含む第1噛合部は、同様に放射状に延びる複数の第2凸部を含む第2噛合部と、確実に噛合することができる。これにより、トルク断接機能を実現するトルクリミッタを提供することができる。
【0092】
本発明の第6の態様に係るトルクリミッタは、上記第5の態様において、前記複数の第2凸部の各々は、前記プレートの基準面に設けられており、前記プレートの外周縁に向かって一端から他端まで前記基準面に対して略平行に径方向に延びる主面と、該主面と前記基準面とを繋いで径方向に延びる第1傾斜面と、該第1傾斜面との間に前記主面を挟み該主面と前記基準面とを繋いで径方向に延びる第2傾斜面と、を含む。
この態様によれば、第2噛合部を構成する第2凸部は、第1噛合部を構成する第1凸部と、第1傾斜面及び第2傾斜面を介して噛合することにより、所定のトルクが入力された場合に、第2噛合部(第1噛合部)は、第1噛合部(第2噛合部)とは反対の方向に押圧される。これにより、トルク断接機能を実現するトルクリミッタを提供することができる。
【0093】
本発明の第7の態様に係るトルクリミッタは、上記第6の態様において、前記複数の第2凸部の各々は、前記主面の前記他端から前記外周縁に向かって径方向に延び前記基準面に近づく方向に傾斜する第3傾斜面をさらに含み、該第3傾斜面が前記基準面に対してなす角度は、前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面が前記基準面に対してなす角度よりも小さい。
この態様によれば、第2噛合部を構成する各第2凸部は、皿ばね部の外周縁に向かって径方向に延びる第3傾斜面を有することにより、第2噛合部の各第2凸部の外径側の領域に対して局所的なトルクが作用するという事態の発生を抑えることができる。
【0094】
本発明の第8の態様に係るトルクリミッタは、上記第6の態様又は上記第7の態様において、前記複数の第2凸部の各々は、前記基準面に対してなす角度が径方向に沿って前記外周縁に向かうにつれて減少していく前記第1傾斜面及び前記第2傾斜面を含む。
この態様によれば、第2フェイスカムを構成する各第2凸部は、内径側から外径側に進むにつれて、連続的に減少していく傾斜角を有する第1傾斜面及び第2傾斜面を有することにより、各第2凸部の径方向の特定の部分に応力が集中するという事態の発生を抑えることができる。