特許第6870183号(P6870183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870183
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】アルミニウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/06 20060101AFI20210426BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01M6/06 A
   H01M4/06 Q
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-175973(P2016-175973)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-41670(P2018-41670A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】土屋 温知
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 恵一
(72)【発明者】
【氏名】立花 和宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智博
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−176308(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119663(WO,A1)
【文献】 特開2016−076373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/00− 6/22
H01M 4/00− 4/62
H01M10/00−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との間に電解質を有し、前記電解質は粘土鉱物が分散されてなり前記負極のアルミニウム電極に接触していて、前記粘土鉱物がベントナイトおよびスメクタイトから選ばれ、前記ベントナイトおよび前記スメクタイトの層間イオンがナトリウムイオンである、アルミニウム電池。
【請求項2】
正極と負極との間に電解質を有し、前記負極のアルミニウム電極に粘土鉱物の層が接触していて、前記粘土鉱物がベントナイトおよびスメクタイトから選ばれ、前記ベントナイトおよび前記スメクタイトの層間イオンがナトリウムイオンまたは4級アンモニウムイオンである、アルミニウム電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土鉱物を使用したアルミニウム電池に関し、さらに詳しくは粘土鉱物と負極として用いたアルミニウム電極とが接触した構造を有するアルミニウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話やノート型パソコン、電子玩具など電子機器では、電源として電池が幅広く使用されている。その電池にはマンガン電池やアルカリ電池などが広く利用されている。これらの電池は負極に亜鉛が用いられ、作動電圧が1.5Vまたは1.2Vと低い。また電子機器の高性能化に伴って、高容量化や高電圧化が求められる一方で、電池の製造コストを下げることも要請されている。さらには、より長時間の使用が可能でかつ軽い電池が要望されている。
一方、負極にアルミニウムを使用する電池は、亜鉛を用いた電池に比べ高電圧、高容量、軽量化が期待できる。特許文献1には電解液中に塩素イオンを添加することで高容量化できることが記載されている。
特許文献2には、ヨウ素イオンを含む電解液を用いることで放電中のガスの発生を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−319662号公報
【特許文献2】特開2005−353315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なマンガン電池やアルカリ電池では亜鉛が負極として用いられている。しかし、亜鉛を用いた電池は電圧が1.5Vまたは1.2Vと低く、高電圧、高容量という要望に応えられていない。そこで、アルミニウムを負極材料として使用することで亜鉛を用いた場合より高電圧の電池を得ることが可能となるが、高寿命かつ低コストの電池を得るには改善の余地があった。
また負極にアルミニウムを用いた電池(以下、アルミニウム電池という。)は、電解液と負極との反応性に問題があるため、高電圧が得られず、自己放電が大きく、水素発生量が多く、さらに容量が小さくなっていた。
特許文献1に記載された発明のように、塩素イオンを含む電解液を用いると、アルミニウム負極の表面に生成したアルミニウムの酸化被膜と塩素イオンとが反応してこの酸化被膜の水溶性が上昇し、負極表面の酸化被膜が電解液中に溶解しやすくなる。そのため、酸化被膜で覆われていないむき出しの領域が放電の進行に伴って大きく成長してしまう。それによって、負極中のアルミニウム成分と電解液中の水との反応量が多くなって放電中のガス発生量が増加し、長時間の放電に耐えられないという問題があった。
さらに、特許文献2に記載された発明では、放電中のガスの発生を抑制しているが、製造管理や使用する原料が多くなり、低コスト化が難しい。
【0005】
本発明は、電池の負極にアルミニウムを用いても、高電圧、高寿命かつ低コストの電池を得ることに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電池を湿潤した粘土鉱物と負極として用いたアルミニウムが接触した構造とすることでアルミニウムを用いても高電圧、高寿命且つ低コストの電池を得ることができることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)正極と負極との間に電解質を有し、前記電解質は粘土鉱物が分散されてなり前記負極のアルミニウム電極に接触しているアルミニウム電池。
(2)正極と負極との間に電解質を有し、前記負極のアルミニウム電極に粘土鉱物の層が接触しているアルミニウム電池。
(3)前記粘土鉱物がベントナイトおよびスメクタイトから選ばれる(1)または(2)のいずれか1項に記載のアルミニウム電池。
(4)前記ベントナイトおよび前記スメクタイトの層間イオンがナトリウムイオンもしくは4級アンモニウムイオンである(3)に記載のアルミニウム電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルミニウム電池によれば、負極のアルミニウム電極に電解質中に分散された粘土鉱物または粘土鉱物の層が接触していることで、負極にアルミニウムを用いても高電圧、高寿命かつ低コストの電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るアルミニウム電池の好ましい一実施形態の概略を示した断面図である。
図2】簡易電池による起電力測定の一例を模式的に示した構成図である。
図3】簡易電池による起電力測定の一例を模式的に示した構成図である。
図4】簡易電池による起電力測定の一例を模式的に示した構成図である。
図5】単極電位測定の一例を模式的に示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を、図1を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、アルミニウム電池1は、正極2と負極3と、その間の電解質層4とを有している。電解質層4は層状をなしている電解質をいう。電解質層4は、セパレータ5により負極側電解質層6と正極側電解質層7とに分離されていてもよい。負極3にはアルミニウム電極が用いられ、負極側電解質層6には粘土鉱物が分散されている。この粘土鉱物には、後述する湿潤した粘土鉱物も、乾燥させた粘土鉱物も包含する。
または、図示していないが、電極間に電解質を有し、負極3のアルミニウム電極に粘土鉱物の層を有する。すなわち、電極間の電解質は粘土鉱物の層に接触している。粘土鉱物の層は、電解液によって湿潤しているものや、粘土鉱物の層自体が湿潤しているものも包含する。以下、電解質が電解液である場合には、電解質は電解液、正極側電解質は正極側電解液、負極側電解質は負極側電解液とも記す。
【0011】
上記の粘土鉱物は、天然もしくは合成の粘土から選ばれた少なくとも1種類の粘土が用いられる。このような粘土としては、未変性のものでも変性したものでもよいが、ベントナイトおよびヘクトライト等スメクタイト系粘土から選ばれた少なくとも1種が好ましい。このうち、ベントナイトは天然に産出する無機系の粘土であるため安全性に優れている。また土中の微生物によって分解されることがなく長期的に安定であり、高い止水効果を保持でき、さらに低価格である。このため、特に好ましい粘土鉱物である。上記の粘土鉱物は、ベントナイトおよびスメクタイトから選ばれた1種の粘土を単独で用いることも、または2種の粘土を用いることもできる。ベントナイトおよびスメクタイトの層間イオンは、ナトリウムイオンもしくは4級アンモニウムイオンである。また、上記粘土鉱物には、層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母を用いることもできる。
【0012】
上記粘土鉱物は、負極3のアルミニウム電極の表面に接触する負極側電解液に添加される。または負極3のアルミニウム電極の表面に粘土鉱物の層としてコーティングされている。
電解液に添加する場合は予め粘土鉱物を湿潤させて添加しても良い。また、粘土鉱物が添加された負極側電解質層6は負極3と接していればよく、上記のようにセパレータ5で正極側電解質層7と分離し、負極側電解質層6には正極側電解質層7と異なる電解質を用いても良い。
【0013】
粘土鉱物を負極3にコーティングする際には水などの溶媒に粘土鉱物を分散してから塗工する方法が適している。粉末状態で負極3に粘土鉱物の層を形成することも可能であるが、飛散対策や塗工厚の制御、欠損部が発生しないように留意する必要がある。
水を分散媒として使用する場合は、ポリビニルアルコールやポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシルメチルセルロースなどの公知の水溶性高分子を併用することが好ましい。水溶性高分子は粘土鉱物を負極3にコーティングした際の塗膜強度の調整や塗工性改善がなされる。また、上記成分を2種以上併用しても良い。また、分散媒としてその他溶媒を使用することもできる。その際にはその溶媒に溶解、分散可能な高分子を適宜使用することができる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ、種々の添加成分を任意成分として配合することができる。
【0014】
上記粘土鉱物には湿潤した粘土鉱物を用いる。湿潤した粘土鉱物中に含まれる水分の割合は、20質量%以上100質量%未満であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上100質量%未満、さらに好ましくは80質量%以上100質量%未満である。水分が無い場合は十分な起電力を得ることができない。また、水分が少なくなると粘度が高くなり、粘土鉱物と電解液を均一に混合することが難しくなる。さらには気泡が混入し易くなり好ましくない。
【0015】
本発明のアルミニウム電池1は電解質中に粘土鉱物の割合が0.1〜50質量%、好ましくは0.3〜20質量%、より好ましくは0.5〜5.0質量%分散されており、分散された粘土鉱物と負極3とが接触した構成を有している。このような形態の電池は一般的な構成の電池に用いることができる。
【0016】
正極2は銅箔、ニッケル箔やステンレス箔などの集電体に正極活物質を設けた構成をなす。正極活物質は、電極反応物質であるリチウムなどを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいても良い。
リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、またはこれらを含む固液体、マンガンスピネルなどのリチウム複合酸化物、リン酸鉄リチウムなどのオリビン構造を有するリン酸化合物が好ましい。また、リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、酸化チタン、酸化バナジウム、二酸化マンガンなどの酸化物、二硫化鉄、二硫化チタン、硫化モリブデンなどの硫化物、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。また、正極2には、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0017】
負極3には、アルミニウムを使用することができる。または、アルミニウムと、アルミニウムを含む金属化合物や合金、金属酸化物なども負極として併せて使用することができる。さらに負極3には、マンガン、クロム、亜鉛、スズ、インジウム、マグネシウム、リチウム、ニッケル、チタン、などの標準電極電位が0V以下である金属が含まれていてもよい。
【0018】
セパレータ5は、正極2と負極3とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオン等を通過させるものである。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどよりなる合成樹脂性の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構成でもよい。
【0019】
セパレータ5には液状の電解質である電解液が含浸されていることが好ましい。この電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質塩とを含んでおり、必要に応じで各種添加剤を含んでいても良い。溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートが挙げられる。また、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3ジオキソランが挙げられる。さらに、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステルが挙げられる。溶媒はいずれかを1種を単独で用いても良く、2種以上を混合してもよい。
【0020】
電解質塩としては、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、四フッ化ホウ素リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムなどのリチウム塩が挙げられる。電解質塩はいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0021】
さらに、炭素材料などの導電材を併せて使用することができる。炭素材料としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛、繊維状炭素、難黒鉛化炭素などが挙げられる。炭素材料は、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能であるので、導電剤として機能するだけではなく、負極活物質として機能するので好ましい。炭素材料は、他の負極活物質を含んでいても良く、また結着剤もしくは増粘剤などの充電に寄与しない他の材料を含んでいてもよい。
【0022】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ゴム、エチレン−プロピレン−ジェンターポリマー、ポリビニルピロリドン、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンなどの高分子化合物が挙げられる。特に薄い非晶質の部分をリチウムイオンが通過できるという観点から、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンが好ましい。これらの高分子化合物は1種類を単独でもよく、複数を混合しても良い。
増粘剤としては、澱粉、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、カルゴキシメチルセルロースのカリウム塩、等が挙げられる。さらに、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、等が挙げられる。
【0023】
また図5に示すように、本発明のアルミニウム電池1(D)は、正極2と負極3との間に電解質を有し、負極3のアルミニウム電極に粘土鉱物の層42が接触している構成であってもよい。上記電解質は電解液であり、例えば、飽和塩化カリウム水溶液11Aと飽和硝酸カリウム水溶液12Aとを塩橋14で接続し、飽和塩化カリウム水溶液12Aと飽和硝酸カリウム水溶液13Aとを塩橋15で接続したものが挙げられる。粘土鉱物の層42は、クニフィルD−36(商品名:クニミネ工業社製)のトルエン分散液、スメクトン−SA、スメクトン−STまたはスメクトン−SWF(いずれも、商品名:クニミネ工業社製)の水分散液のいずれかを塗工した後、質量変化がなくなるまで乾燥させたものである。
この構成では、粘土鉱物の層42がアルミニウム箔41を被覆していて、負極電解質の飽和硝酸カリウム水溶液13A中に浸漬されていて、粘土鉱物の層42に飽和硝酸カリウム水溶液13Aが染み込んでいる。したがって、負極3のアルミニウム箔41に負極電解質の飽和硝酸カリウム水溶液13Aと粘土鉱物の層42とが接触している。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を下記の実施例に基づいて更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0025】
<簡易電池Aによる起電力測定>
実施例1〜3
図1に示したように、正極2の50mm角、厚さ0.1mmの銅板の上に、正極電解質を2ml塗工して、正極電解質層7を形成した。正極電解質には、粘土鉱物のスメクトン−SA(商品名:クニミネ工業社製)の水分散液を用いた。この水分散液はスメクトン−SAの層間にナトリウムイオンを含むため、電解液となる。その後、その上に50mm角、厚さが70μmの半紙(セルロース)製の多孔質フィルムからなるセパレータ5を配した。さらに、セパレータ5の上に上記正極電解質層7と同様のスメクトン−SA水分散液を塗布して負極電解質層6を形成した。言い換えれば、負極電解質層6は粘土鉱物であるスメクトン−SAが添加されたものである。スメクトン−SAの水分散液の詳細は後述する。さらに負極電解質層6の上に50mm角、厚さ0.1mmのアルミニウム箔の負極3を配して、アルミニウム電池1の簡易電池Aを作製した。
【0026】
図2に示したように、簡易電池Aの起電力、すなわち正極2と負極3との電位差を、ポテンショスタット21:型番HA−151(北斗電工社製)を用いて測定した。
【0027】
実施例1は、上記簡易電池Aの作製方法において、負極電解質層6を、湿潤したスメクトン−SAとして水分を10.16質量%含んだ状態のスメクトン−SAを99.44mlの水に0.56gを分散させた。そして負極電解質層6を、スメクトン−SA水分散液に対するスメクトン−SAの割合が0.5質量%となるように作製した。
実施例2は、スメクトン−SA水分散液に対するスメクトン−SAの割合が2.0質量%となるように負極電解質層6を作製した以外、実施例1と同様にして作製した。
実施例3は、スメクトン−SA水分散液に対するスメクトン−SAの割合が5.0質量%となるように負極電解質層6を作製した以外、実施例1と同様にして作製した。
また、比較例1は、スメクトン−SA水分散液の代わりに蒸留水を用いた以外、実施例1と同様にして作製した。
上記実施例1〜3では、スメクトン−SAが負極電解質層6中に分散された状態となって、負極3に接触している。
【0028】
実施例1〜3の起電力の測定結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示したように、実施例1〜3は、0.70V以上の十分な起電力が得られた。一方、比較例1は起電力が低かった。
【0031】
<簡易電池Bによる起電力測定>
実施例4〜5
図3に示したように、負極3のアルミニウム箔の上に、直径5mmの円形の穴8を開けたポリエステルフィルム製の厚さ0.07mmのシール9を張り付けた。そして湿潤したスメクトン−SAとして水分を10.16質量%含んだ状態のスメクトン−SAを94.44mlの水に5.56g分散させた。このようにして、電解質層4を、スメクトン−SA水分散液に対するスメクトン−SAの割合が5.0質量%となるように作製した。言い換えれば、電解質層4は粘土鉱物であるスメクトン−SAが添加されたものである。このスメクトン−SA水分散液を穴8の中に0.2ml塗布して電解質層4を形成した。塗布後、スメクトン−SA水分散液の水分を下記の各方法により乾燥させてから、銅箔の正極2を設置して、アルミニウム電池1の簡易電池Bを作製した。
その後、下記の乾燥工程を経てから、アルミニウム電池1の簡易電池Bの起電力(電圧)を、ポテンショスタット21:型番HA−151(北斗電工社製)を用いて測定した。
【0032】
実施例4は、上記簡易電池Bの作製方法で簡易電池Bを作製した後、スメクトン−SA水分散液の水分を5分間ドライヤーにて乾燥させて作製した。ドライヤーには、松下電器産業社製のZIGZAG(商品名)を、出力450Wに設定し、風量Lowに設定して用いた。
実施例5は、上記簡易電池Bの作製方法で作製した後、スメクトン−SA水分散液の水分を、室温25℃、相対湿度40%の雰囲気中に24時間放置して自然乾燥させて作製した。
比較例2は、上記簡易電池Bの製造方法において、スメクトン−SA水分散液の水分を実施例4および5の試料をさらに19.8℃のドライルームにて4時間30分乾燥させて作製した。
上記実施例4〜5は、スメクトン−SAが電解質層4中に含まれた状態となって、負極3に接触している。
【0033】
実施例4、5の起電力の測定結果を表2に示した。実施例4は、n=10個の簡易電池Bを作製して、その起電力を測定した結果である。また、実施例5および比較例2は、それぞれn=20個の簡易電池Bを作製して、それぞれのアルミニウム電池1の起電力を測定した結果である。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から明らかなように、実施例4および5は、0.6V以上の十分な起電力が得られた。また、電解液に粘土鉱物を添加することで、アルミニウム電池1の起電力が上昇することが確認できた。一方、水分がほぼ完全にない状態の比較例2では起電力が得られなかった。
【0036】
<簡易電池Cによる起電力測定>
実施例6
前記図1に示したように、正極2の100mm角、厚さ0.1mmの銅板の上に、正極電解質を2ml塗工して、正極電解質層7を形成した。正極電解質には、粘土鉱物のスメクトン−SA(商品名:クニミネ工業社製)の水分散液を用いた。この水分散液はスメクトン−SAの層間にナトリウムイオンを含むため、電解液となる。正極電解質層7は、スメクトン−SA水分散液に対するスメクトン−SAの割合が2.0質量%となるように作製した。その後、その上に50mm角、厚さが0.07mmの半紙(セルロース)製の多孔質フィルムからなるセパレータ5を配した。
さらに、セパレータ5の上に上記正極電解質と同様のスメクトン−SA水分散液の負極電解質を塗布して負極電解質層6形成した。この負極電解質層6は、湿潤したスメクトン−SAとして水分を10.16質量%含んだ状態のスメクトン−SAを97.78mlの水に2.22gを分散させて作製した。このようにして、負極電解質層6を、スメクトン−SAの水分散液に対するスメクトン−SAの割合が2.0質量%となるように調整した。さらに負極電解質層6上に100mm角、厚さ0.1mmのアルミニウム箔の負極3を配して、アルミニウム電池1の簡易電池C(図4参照)を作製した。
そして上記構成の簡易電池Cを2個作製して、図4に示したように、2個の簡易電池Cを直列に繋いだ。
【0037】
直列接続した簡易電池Cの起電力を、ポテンショスタット21:型番HA−151(北斗電工社製)を用いて測定した。また、直列に繋いだ簡易電池Cに消費電力が70mWのLED(Light Emitting Diode)31を直列につないで、LED31の発光の可否も確認した。
【0038】
また、比較例3は、上記簡易電池Cの作製方法において、負極電解質層6および正極電解質層7の代わりに温度25℃の飽和食塩水を用いたこと以外は、実施例6と同様にして作製したものである。
【0039】
実施例6の起電力の測定結果およびLEDの点の有無を表3に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
表3から明らかなように、実施例6は、起電力が十分な起電力が得られており、粘土鉱物の分散液を電解液として使用することで、飽和食塩水を用いた比較例3より高い起電力(電圧)が得られ、LED31が発光されることが確認できた。
一方、比較例3は、起電力が低いため、すなわち正極と負極との間の起電力が低いためにLED31を発光させることができなかった。
【0042】
<修飾電極を使用したアルミニウム電池の開回路電圧の測定>
実施例11〜26(試料No.4〜7、11〜14、18〜21、25〜28)
図5に示すように、負極3には、大きさが1mm×20mm、厚さが0.1mmのアルミニウム箔41を用いた。溶媒として、溶媒に対する粘土鉱物の割合が2.0質量%となるように粘土鉱物であるスメクトン−SA、スメクトン−STもしくはスメクトン−SWFを水分散させたものを作製した。または溶媒に対する粘土鉱物の割合が4.0質量%となるように粘土鉱物であるクニフィルD−36をトルエンに分散したものを作製した。その溶媒をアルミニウム箔41の一端辺から10mmの長さまで1mmの厚さに塗工した。その後、塗工した粘土鉱物の質量変化がなくなるまで乾燥させて、表面に粘土鉱物の層42が形成されたアルミニウム電極の負極3を作製した。表4に示したように、粘土鉱物には、クニフィルD−36、スメクトン−SA、スメクトン−ST、スメクトン−SWF(いずれも、商品名:クニミネ工業社製)のいずれかを用いた。クニフィルD−36は4級アンモニウム型のスメクタイトであり、スメクトン−SA、ST、SWFはナトリウム型のスメクタイトである。
正極2は以下のように作製した。まず直径2mm、長さ35mmの銀線を紙やすりで研磨して清浄な金属面を露出させた後、その表面を3M硝酸で前処理して水洗した。この前処理をした銀線の端部から20mmを塩酸溶液中に浸漬して、電流密度0.8mA/cmになる電流を15分間通電した。その結果、図5に示したように、その銀線51表面に塩化銀層52を20μmの厚さに析出させ、銀−塩化銀電極(AgCl|Ag)の正極2を作製した。
【0043】
ビーカー11には飽和塩化カリウム水溶液11Aを入れ、ビーカー12には飽和硝酸カリウム水溶液12Aを入れた。さらにビーカー13には飽和硝酸カリウム水溶液13Aを入れた。飽和塩化カリウム水溶液11Aには銀−塩化銀電極の正極2の塩化銀層52の部分を10mm浸漬した。飽和塩化カリウム水溶液11Aと飽和硝酸カリウム水溶液12Aとを塩橋14で接続し、飽和塩化カリウム水溶液12Aと飽和硝酸カリウム水溶液13Aとを塩橋15で接続した。そして、アルミニウム電極の負極3の粘土鉱物の層42を飽和硝酸カリウム水溶液13Aに10mm浸漬した。このようにして、アルミニウム電池1(1D)を作製した。
【0044】
実施例11は、上記アルミニウム電池1Dの作製方法において、負極3のアルミニウム電極にクニフィルD−36を用いてコーティングして粘土鉱物の層42を作製した。
実施例12は、負極3のアルミニウム電極にクニフィルD−36の代わりにスメクトン−SAを用いた以外、実施例11と同様にして得た。
実施例13は、負極3のアルミニウム電極にクニフィルD−36の代わりにスメクトン−STを用いた以外、実施例11と同様にして得た。
実施例14は、負極3のアルミニウム電極にクニフィルD−36の代わりにスメクトン−SWFを用いた以外、実施例11と同様にして得た。
【0045】
実施例15〜18は、負極3側の飽和硝酸カリウム水溶液13Aの代わりに飽和硝酸亜鉛水溶液を用いた以外、それぞれ、上記実施例11〜14と同様にして得た。
実施例19〜22は、負極3側の飽和硝酸カリウム水溶液13Aの代わりに飽和硝酸リチウム水溶液を用いた以外、それぞれ、上記実施例11〜14と同様にして得た。
実施例23〜26は、負極3側の飽和硝酸カリウム水溶液13Aの代わりに飽和硝酸アンモニウム水溶液を用いた以外、それぞれ、上記実施例11〜14と同様にして得た。
なお、実施例11〜26では、粘土鉱物の層42を塗工した粘土鉱物の質量変化がなくなるまで乾燥させているが、粘土鉱物層42が各水溶液に浸漬されるため、アルミニウム電池1の状態では、粘土鉱物の層42は湿潤したものとなる。
【0046】
比較例11〜13は、クニフィルD−36に代えて、それぞれ、Cu型クニピア、Zn型クニピア、Al型クニピア(いずれも商品名:クニミネ工業社製)をコーティングしたものを用いた以外、それぞれ、上記実施例11と同様にして得た。比較例14〜16は、クニフィルD−36に代えて、それぞれ、Cu型クニピア、Zn型クニピア、Al型クニピアをコーティングしたものを用いた以外、それぞれ、上記実施例15と同様にして得た。また比較例17〜19は、クニフィルD−36に代えて、それぞれ、Cu型クニピア、Zn型クニピア、Al型クニピアをコーティングしたものを用いた以外、それぞれ、上記実施例19と同様にして得た。さらに比較例20〜22は、クニフィルD−36に代えて、それぞれ、Cu型クニピア、Zn型クニピア、Al型クニピアをコーティングしたものを用いた以外、それぞれ、上記実施例23と同様にして得た。
【0047】
また比較例23は、飽和塩化カリウム水溶液中に銀からなる正極とアルミニウムからなる負極を浸漬してアルミニウム電池を得た。さらに比較例24は、飽和塩化カリウム水溶液と飽和硝酸カリウム水溶液とを塩橋で接続し、飽和塩化カリウム水溶液に銀の正極を浸漬し、飽和硝酸カリウム水溶液にアルミニウムの負極を浸漬して、アルミニウム電池を得た。
【0048】
上記各アルミニウム電池1Dの起電力(正負極間の電位)を室温25℃の雰囲気で測定した。起電力の測定には、上記と同様に、ポテンショスタットを用いた。実施例11〜26の起電力の測定結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4から明らかなように、試料No.29、30の比較例23、24のアルミニウム電池の起電力は、アルミニウム単体の銀塩化銀電極に対する電位を示しており、その電位は−0.67Vであった。それに対し、層間イオンがナトリウムイオンである粘土鉱物スメクトン−SAでアルミニウム箔の負極表面を塗工した試料No.5、12、19、26、(実施例12、16、20、24)の電位が試料No.29の比較例の電位より低い電位となった。また粘土鉱物スメクトン−STでアルミニウム箔の負極表面を塗工した試料No.6、13、20、27(実施例13、17、21、25)の電位も試料No.29の比較例23のマイナス電位より低い電位となった。さらにスメクトン−SWNでアルミニウム箔の負極表面を塗工した試料No.7、14、21、28(実施例14、18、22、26)の電位も試料No.29の比較例23のマイナス電位より低い電位となった。すなわち、いずれの実施例も比較例23よりも大きな起電力が得られた。同様に層間イオンを4級アンモニウムイオンとした試料No.4、11、18、25(実施例11、15、19、23)であっても電位が比較例23より低くなることが確認できた。すなわち、実施例11、15、19、23も比較例23よりも大きな起電力が得られた。
したがって、ベントナイトおよびスメクタイトの層間イオンがナトリウムイオンもしくは4級アンモニウムイオンであることが、起電力を高めることに有効である。
さらに、硝酸カリウム水溶液、硝酸リチウム水溶液、硝酸亜鉛水溶液、硝酸アンモニウム水溶液でも同様の効果が発現できることが確認できた。
一方、Cu型クニピア、Zn型クニピア、Al型クニピアをアルミニウム電池にコーティングした比較例11〜22のアルミニウム電池では、十分な起電力を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0051】
1、1A、1B、1C、1D アルミニウム電池
2 正極
3 負極
4 電解質層
5 セパレータ
6 負極電解質層
7 正極電解質層
11、12、13 ビーカー
11A 飽和塩化カリウム水溶液
12A 飽和硝酸カリウム水溶液
13A 飽和硝酸カリウム水溶液
14、15 塩橋
21 ポテンショスタット
31 LED
41 アルミニウム箔
42 粘土鉱物の層
51 銀線
52 塩化銀層

図1
図2
図3
図4
図5