(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るインサート成形体の製造方法は、電離放射線の照射により、フッ素樹脂を主成分とする第1部材とフッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材とが接合されたインサート部材を得る工程、及びインサート成形により、上記インサート部材における上記第2部材が露出した部分を含む表面領域上に樹脂部材を成形する工程を備えるインサート成形体の製造方法である。なお、「主成分」とは、質量基準で最も含有量が多い成分をいい、含有量が50質量%超の成分であることが好ましい。
【0012】
当該製造方法においては、インサート成形により、インサート部材におけるフッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材が露出した部分を含む表面領域上に樹脂部材を成形する。従って、当該製造方法によれば、フッ素樹脂を含むインサート部材と樹脂部材との密着性に優れるインサート成形体を得ることができる。また、当該製造方法においては、インサート成形の前に、フッ素樹脂を主成分とする第1部材を架橋させるための電離放射線の照射を行っている。従って、インサート成形で成形された樹脂部材(インサート成形樹脂)が高温下に置かれることがないため、この樹脂部材が再度溶融又は軟化すること無く、形状の精度に優れたインサート成形体を得ることができる。また、樹脂部材と近い膨張率を有する第2部材を用いることで、フッ素樹脂と樹脂部材との膨張率の差に起因するシワ、浮き、剥離等を抑制することができる。このような膨張率の近い樹脂部材と第2部材との組み合わせとしては、例えば液晶ポリマー(LCP)と銅合金やアルミニウム等との組み合わせを挙げることができる。さらに、当該製造方法においては、インサート成形される直前の加工、またはインサート成形中における射出圧縮などにより、架橋フッ素樹脂を含む第1部材が露出している表面にエンボス等の凹凸を施すことで、形状精度や生産性を向上させることもできる。なお、第1部材表面にこのような凹凸加工が施されたインサート成形体においては、摩擦が低減されるといった利点がある。
【0013】
上記インサート部材における上記表面領域が、凹凸形状を有することが好ましい。これによって、得られるインサート成形体におけるインサート部材と樹脂部材との密着性をより高めることができる。なお、この表面領域における「凹凸形状」は、第2部材のみによって形成されたものであってもよいし、第1部材と第2部材とによって形成されたものであってもよい。
【0014】
上記第2部材がシートであり、上記第2部材としてのシートの一方の面上に上記第1部材を積層した状態で、上記電離放射線の照射を行うことが好ましい。このようにすることで、架橋されたフッ素樹脂の層を表面に有するインサート成形体を効果的に得ることなどができる。
【0015】
上記シートにおける上記樹脂部材と接触する面が、粗面化処理されていることが好ましい。これによって、得られるインサート成形体におけるインサート部材と樹脂部材との密着性をより高めることができる。
【0016】
上記第2部材が織布又は不織布であり、上記第1部材が上記第2部材としての織布又は不織布の一部に含浸した状態で、上記電離放射線の照射を行うことが好ましい。このようにすることで、第2部材としての織布又は不織布が、インサート部材の表面領域において凹凸形状を形成するため、樹脂部材の密着性により優れたインサート成形体を得ることができる。
【0017】
上記第1部材の表面の一部に1又は複数の第2部材を配置した状態で、上記電離放射線の照射を行うことも好ましい。このようにした場合も、第2部材の構造や、第1部材と第2部材との組み合わせの構造などによって、インサート成形される樹脂部材の密着性をより高めることができる。
【0018】
上記第2部材の主成分が、金属又はフッ素樹脂以外の樹脂であることが好ましい。金属やフッ素樹脂以外の樹脂を用いることで、インサート成形される樹脂部材の密着性をさらに高めることなどができる。また、金属の熱伝導率はフッ素樹脂の熱伝導率より高い。従って金属を用いた場合、得られたインサート成形体をレーザー等の高温処理や摺動させた場合の局所的な温度上昇が、放熱することで緩和されるため、耐久性を向上させる効果がある。また、金属を用いることで、得られるインサート成形体の表面硬度を向上させることができる。
【0019】
上記インサート部材がリードフレームであることが好ましい。当該製造方法は、架橋されたフッ素樹脂を含む層を有するリードフレームのインサート成形に好適に用いることができる。
【0020】
本発明の一態様に係るインサート成形体は、フッ素樹脂を主成分とする第1部材とフッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材とが接合され、上記第1部材と上記第2部材とが化学結合又は相互拡散しているインサート部材、及び上記インサート部材における上記第2部材が露出した部分を含む表面領域上に形成された樹脂部材を備えるインサート成形体である。
【0021】
当該インサート成形体は、架橋されたフッ素樹脂を含み、形状の精度及び密着性に優れる。なお、「化学結合」とは、共有結合、イオン結合及び水素結合をいう。また、「相互拡散」とは、第1部材の成分の一部が第2部材へ拡散し、かつ第2部材の成分の一部が第1部材へ拡散していることをいう。なお、第1部材と第2部材との境界領域に第1部材の成分と第2部材の成分とが混在する相互拡散層が確認できる場合、第1部材と第2部材とが相互拡散しているとみなすことができる。
【0022】
[本発明の実施形態の詳細]
<第1実施形態>
(インサート成形体の製造方法)
本発明の第1実施形態におけるインサート成形体の製造方法は、インサート部材を得る工程Aと、インサート成形によりインサート部材の所定表面領域上に樹脂部材を成形する工程Bとをこの順に備える。
【0023】
(工程A)
工程Aは、電離放射線の照射により、フッ素樹脂を主成分とする第1部材とフッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材とが接合されたインサート部材を得る工程である。このインサート部材は、リードフレームを初めとした各種電子部品、その他の部品の部材となる。
【0024】
具体的には、
図1に示すように、まず、第2部材であるシート12の一方の面12a上に第1部材11を積層する。
【0025】
シート12の主成分としては、フッ素樹脂以外の成分である限り特に限定されるものではない。但し、電離放射線の照射にあたってフッ素樹脂を溶融させた際に、シート12が軟化及び変形し難いことが好ましいため、シート12の主成分は、十分な耐熱性を有することが好ましい。第2部材であるシート12の主成分としては、例えば金属、その他の無機材料、フッ素樹脂以外の樹脂等を挙げることができ、金属又はフッ素樹脂以外の樹脂であることが好ましい。
【0026】
上記金属としては、アルミニウム、銅、鉄、チタン、ニッケル、これらの合金等を挙げることがでる。上記その他の無機材料としては、セラミック、アルミナ、ガラス等を挙げることができる。上記フッ素樹脂以外の樹脂としては、フッ素樹脂の架橋温度で溶融しないために、300℃以上の融点を有するエンジニアリングプラスチック、熱硬化性樹脂又は放射線架橋樹脂を使用することができる。このような樹脂としては、例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリベンゾイミダゾール、LCP、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、電子線架橋ポリアミド等を挙げることができる。
【0027】
なお、インサート部材13がリードフレームである場合、アルミ、銅、又はこれらの合金等を初めとした金属をシート12の主成分として好適に用いることができる。なお、第2部材であるシート12における金属又はその他の主成分の含有量の下限としては、90質量%が好ましく、99質量%がより好ましい。シート12における金属又はその他の主成分の含有量は、100質量%であってもよい。
【0028】
シート12の一方の面12a上には、第1部材11が積層される。一方、シート12の他方の面12bは、粗面化処理がされている。すなわち、この面12bは、凹凸形状を有する。この他方の面12bが、後述するインサート部材13における第2部材であるシート12が露出した部分を含む表面領域であり、この表面領域上に樹脂部材が形成される。すなわち、この面12bが、後の工程Bにおいて樹脂部材14と接触する面である。
【0029】
上記粗面化処理は、化学的エッチング、電気化学的エッチング、レーザー処理等によって行うことができる。化学エッチングとしては、アルカリエッチング、酸エッチング等の公知の方法が挙げられる。電気化学エッチングは、例えば塩素イオンを含む水溶液中にシート12を浸漬した状態で交流若しくはパルス電流又は半波整流をシート12に印加することで行われる。レーザー処理としては、レーザーで表面に微細な凹凸を設ける方法や、連続波レーザーで複雑な形状の表面を得る方法を使用することができる(特許5701414号公報、特許5774246号公報)。粗面化処理は、その他、例えばサンドブラスト、グリッドブラスト、ショットブラスト等の物理的処理によって行うこともできる。
【0030】
シート12の他方の面12bの表面粗さの下限としては、例えば算術平均粗さRaで0.001μmが好ましく、0.1μmがより好ましく、1μmがさらに好ましく、3μmがよりさらに好ましく、5μmであってもよい。上記算術平均粗さRaを上記下限以上とすることで、インサート成形の際に樹脂部材14がより強固に密着することができる。なお、この面12bの算術平均粗さRaの上限としては、例えば1mmであり、300μmであってもよい。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に準じて測定した値である。
【0031】
なお、
図1のシート12においては、他方の面12b全面に粗面化処理が施されているが、インサート成形により樹脂部材14を積層する部分にのみ粗面化処理が施されていてもよい。また、シート12において第1部材11が積層される側の面12aにも粗面化処理が施されていてもよい。面12aに粗面化処理が施されている場合、第2部材であるシート12とフッ素樹脂を主成分とする第1部材11との密着性、すなわち剥離強度を高めることができる。面12aにおける粗面化処理の方法及び好ましい表面粗さは、面12bと同様とすることができる。
【0032】
シート12の平均厚さとしては特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。シート12の平均厚さの下限としては、例えば1μmであってよく、10μmであってよい。また、この平均厚さの上限としては、例えば5mmであってよく、1mmであってもよい。シート12の平均厚さを上記範囲とすることで、例えばリードフレームの製造等に好適に用いることができる。
【0033】
シート12の平面形状は、方形等であってよいが、打抜き等によって所定形状に加工されていてもよい。この場合、所定形状に加工されたシート12に第1部材11を積層してもよいし、シート12に第1部材11を積層し、電離放射線を照射した後に所定形状に加工してもよい。
【0034】
第1部材11は、フッ素樹脂を主成分とする。第1部材11におけるフッ素樹脂の含有量の下限としては、80質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。第1部材11におけるフッ素樹脂の含有量は、100質量%であってもよい。
【0035】
上記フッ素樹脂は、高分子鎖の構造単位を構成する主鎖中の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状、分岐状又は環状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等が挙げられる。
【0036】
「フルオロアルキル基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味し、「パーフルオロアルキル基」を包含する。具体的には、「フルオロアルキル基」は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルキル基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を包含する。
【0037】
「フルオロアルコキシ基」とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基を意味し、「パーフルオロアルコキシ基」を包含する。具体的には、「フルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基、アルコキシ基の末端の1個の水素原子以外の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基等を包含する。
【0038】
「フルオロポリエーテル基」とは、繰り返し単位として複数のアルキレンオキシド鎖を有し、末端にアルキル基又は水素原子を有する1価の基であって、このアルキレンオキシド鎖及び/又は末端のアルキル基若しくは水素原子中の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された基を有する1価の基を意味する。「フルオロポリエーテル基」は、繰り返し単位として複数のパーフルオロアルキレンオキシド鎖を有する「パーフルオロポリエーテル基」を包含する。
【0039】
上記フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・ヘキサオロプロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
第1部材11は、フッ素樹脂以外の任意成分を含んでいてよい。この任意成分としては、例えばエンジニアリングプラスチック、難燃剤、難燃助剤、顔料、酸化防止剤、反射付与剤、隠蔽剤、滑剤、加工安定剤、可塑剤、発泡剤、補強材、中空粒子、セラミックスフィラー、無機フィラー、クロス等を挙げることができる。
【0041】
第1部材11の平均厚さとしては特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。例えば、第1部材11の平均厚さの下限としては、例えば1μmであってよく、10μmであってよい。また、この平均厚さの上限としては、例えば5mmであってよく、1mmであってもよい。第1部材11の平均厚さを上記範囲とすることで、得られるインサート成形体が、耐摩耗性、摺動性等といった架橋されたフッ素樹脂に基づく十分な特性を発揮することができる。
【0042】
第1部材11のシート12への積層方法としては特に限定されない。例えば、フッ素樹脂を主成分とする第1部材を溶剤に分散又は溶解させた塗料をシート12の一方の面12aに塗工し、加熱乾燥することによって、膜状の第1部材11を積層させることができる。塗工は、粉体塗装であってもよい。また、シート12とシート状の第1部材11とを貼り合わせてもよい。
【0043】
図1に示すように、シート12の一方の面12a上に第1部材11が積層された積層体を加熱し、第1部材11のフッ素樹脂を溶融させる。このような状態、すなわち、第1部材11が第2部材であるシート12の面12aに接触し、かつ第1部材11の主成分であるフッ素樹脂が溶融した状態で、第1部材11に電離線放射線を照射する。具体的には、無酸素雰囲気、例えば酸素濃度が1000ppm以下の雰囲気に第1部材11を積層したシート12を置き、フッ素樹脂が溶融した状態に保ちながら第1部材11の表面に電離放射線を照射する。これによって、フッ素樹脂を架橋させ、かつフッ素樹脂とシート12中の成分、例えば金属やフッ素樹脂以外の樹脂等と化学結合又は相互拡散させる。
【0044】
上記無酸素雰囲気としては、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましく、10ppm以下とすることがより好ましい。酸素濃度が高いと電離放射線の照射によってフッ素樹脂の主鎖が切断されるおそれがある。また、フッ素樹脂を溶融させる温度としては、フッ素樹脂の融点より0℃以上30℃未満高い温度が好ましい。フッ素樹脂を融点より30℃以上高い温度に加熱すると、フッ素樹脂の熱分解が促進されて材料特性が低下するおそれがある。加熱温度としては、例えば300℃以上400℃以下とすることができる。
【0045】
上記電離放射線としては、例えばγ線、電子線、X線、中性子線、高エネルギーイオン線等を用いることができる。また、電離放射線の照射線量としては、1kGy以上1000kGy以下が好ましく、50kGy以上500kGy以下がより好ましい。照射線量が上記下限未満の場合、フッ素樹脂の架橋反応が十分進行しないおそれがある。逆に、上記上限を超える場合、フッ素樹脂の分解が生じやすくなるおそれがある。
【0046】
このような電離放射線の照射を行うことで、第1部材11中のフッ素樹脂が架橋し、かつ化学結合により第1部材11と第2部材であるシート12とが密着したインサート部材13を得ることができる。このインサート部材13は、第2部材であるシート12の一部として、粗面化処理された面12bが露出した状態となっている。
【0047】
(工程B)
工程Bは、インサート成形により、インサート部材13における第2部材であるシート12が露出した部分を含む表面領域上に樹脂部材14を成形する工程である。
【0048】
具体的には、
図2に示すように、まず、金型15にインサート部材13を配置する。このとき、インサート部材13のシート12の粗面化処理がされた面12b上に樹脂部材14が積層されるように配置する。なお、
図2においては、平板状のインサート部材13を配置しているが、インサート部材13を所定形状に成形加工し、金型15に配置してもよい。
【0049】
次いで、金型15内に溶融樹脂を射出することにより、インサート部材13における第2部材が露出した部分を含む表面領域上、すなわちシート12の面12b上に樹脂部材14が形成される。この樹脂部材14が形成される面12bは、上述のように粗面化処理されており、凹凸形状を有する。
【0050】
樹脂部材14は、樹脂を主成分とする。この樹脂部材14の樹脂としては、インサート成形に用いられる公知の樹脂を用いることができる。この樹脂の具体例としては、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、LCP等が挙げられる。なお、インサート部材13がリードフレームである場合などは、樹脂部材14としてはLCPが好適に用いられる。樹脂部材14は、樹脂以外の任意成分を含有していてもよい。この任意成分としては、第1部材11の任意成分として上述したものなどを挙げることができる。
【0051】
この工程Bを経ることによって、樹脂部材14とインサート部材13とが複合化したインサート成形体を得ることができる。
【0052】
(インサート成形体)
本発明の一実施形態におけるインサート成形体は、インサート部材13と樹脂部材14とを備える。インサート部材13は、フッ素樹脂を主成分とする第1部材11と、フッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材であるシート12とが接合された複合体である。シート12は、粗面化処理されて凹凸形状を有する面12bを有する。第1部材11と第2部材であるシート12とは、界面で化学結合又は相互拡散している。具体的には、通常、第1部材11の主成分であるフッ素樹脂の主鎖の炭素原子と、シート12の主成分である例えば金属原子とが共有結合又はイオン結合している。なお、第1部材11と第2部材であるシート12との境界領域に相互拡散層が形成されていてもよい。また、第1部材11中のフッ素樹脂は架橋している。具体的には、フッ素樹脂の主鎖の炭素原子同士が共有結合している。樹脂部材14は、インサート部材13における第2部材であるシート12が露出した部分を含む表面領域である面12b上に形成されている。当該インサート成形体は、インサート成形体の製造方法として上述した方法によって得ることができる。
【0053】
(利点)
当該第1実施形態における製造方法においては、インサート成形により、インサート部材13におけるフッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材であるシート12の面12b上に樹脂部材14を成形する。すなわち、フッ素樹脂を含むインサート部材13におけるフッ素樹脂以外の成分を主成分とするシート12が露出した部分を含む表面領域上に樹脂部材14を成形する。従って、当該製造方法によれば、フッ素樹脂を含むインサート部材13と樹脂部材14との密着性に優れるインサート成形体を得ることができる。特に、第1実施形態においては、樹脂部材14が形成されるインサート部材13における表面領域である面12bは、粗面化処理によって凹凸形状を有する。これによって、得られるインサート成形体におけるインサート部材13と樹脂部材14との密着性をより高めることができる。
【0054】
また、当該製造方法においては、インサート成形の前に、フッ素樹脂を主成分とする第1部材11を架橋及び密着させるための電離放射線の照射を行っている。従って、インサート成形で成形された樹脂部材14が高温下に置かれることがないため、この樹脂部材14が再度溶融又は軟化すること無く、形状の精度に優れたインサート成形体を得ることができる。
【0055】
また、当該インサート成形体は、架橋されたフッ素樹脂を含み、形状の精度及び密着性が優れる。従って、当該インサート成形体は、摺動性、耐熱性、耐摩耗性等に優れ、OA機器、家電、自動車、その他の輸送機器、精密機器、デジタルカメラ、産業機械等の各種電子部品、その他の部品等として好適に用いることができる。例えばOA機器の部品としては、トナーの定着器におけるローラのヒータ、具体的にはセラミックヒータ等に用いることができる。ヒータを架橋されたフッ素樹脂で被覆した構造とすることで、耐熱性を具備しつつ、優れた摺動性、耐摩耗性等を発揮することができる。また、第1部材(架橋フッ素樹脂層)表面に凹凸構造を施されている場合、当該インサート成形体は、摩擦低減とグリースやオイルの供給や保持に好適である。また、当該インサート成形体は、電子部品の一例として、樹脂部材が射出成形されているリードフレームに好適に用いることができる。このように、高い形状の精度が要求されるリードフレームの製造においても、当該製造方法によれば、十分に精度よく、架橋されたフッ素樹脂を含むインサート成形体を製造することができる。
【0056】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態におけるインサート成形体の製造方法は、フッ素樹脂以外の成分を主成分とする第2部材として、織布又は不織布を用いる。具体的には、
図3に示すように、まず、フッ素樹脂を主成分とする第1部材21の一部又は全部を、織布又は不織布である第2部材22の一部に含浸させる。第1部材21の含浸は、例えばシート状の第1部材21と第2部材22とを重ね合わせて載置し、加熱することにより第1部材21を溶融させることによって行うことができる。また、織布又は不織布である第2部材22に、フッ素樹脂を主成分とする第1部材を溶剤に分散又は溶解させた塗料を塗布し、乾燥させることによっても、第1部材21を含浸させることができる。
【0057】
第2部材22は、織布又は不織布である。すなわち、第2部材22は、繊維から構成されている。第2部材22の主成分は、上述した第1実施形態におけるシート12と同様とすることができる。すなわち、金属、その他の無機材料、フッ素樹脂以外の樹脂等を挙げることができ、金属及びフッ素樹脂以外の樹脂が好ましい。
【0058】
第2部材22は、不織布であることが好ましい。不織布の製造方法としては特に限定されず、公知の不織布の製造方法を用いることができる。具体的には、例えば乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等で製造されたフリースを、スパンレース法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、ケミカルボンド法、ステッチボンド法、ニードルパンチ法、エアスルー法、ポイントボンド法等で結合させる方法、又はメルトブローで接着性を有する繊維体を高速噴出することでウエブを形成する方法を挙げることができる。
【0059】
なお、
図3において、第1部材21及び第2部材22の外形は、板状として図示しているが、これらの形状は板状に限定されるものではない。
【0060】
図3に示すように、工程Aとして、第1部材21が第2部材22の一部に含浸した状態かつ第1部材21のフッ素樹脂が溶融した状態で、第1部材21に対して電離放射線の照射を行う。電離放射線の照射方法は、上述した第1実施形態と同様とすることができる。また、第1部材21の含浸を第1部材21の加熱溶融によって行う場合は、加熱状態を保ったまま、第1部材21の含浸と電離放射線の照射とを連続的に行うことができる。
【0061】
この電離放射線の照射によって、第1部材21と第2部材22とが接合されたインサート部材23を得ることができる。
図3に示すように、得られたインサート部材23においては、織布又は不織布である第2部材22の一部が露出している。また、この露出部分は、織布又は不織布であるため、表面が凹凸形状を有する。すなわち、インサート部材23は、第2部材22が露出した部分を含む凹凸形状を有する表面領域23xを有する。
【0062】
次いで、工程Bとして、得られたインサート部材23の表面領域23x上に樹脂部材24を成形する。具体的には、
図4に示すように、金型25にインサート部材23を配置する。このとき、第2部材22の一部が露出した面、すなわち表面領域23x上に樹脂部材24が積層されるように配置する。具体的な樹脂部材24の成形方法、すなわち溶融樹脂の射出方法は、上述した第1実施形態と同様とすることができる。
【0063】
なお、密着性の観点から、第2部材22の主成分が樹脂であることが好ましい場合があり、この場合、第2部材22の主成分である樹脂と樹脂部材24とが同種の樹脂であることがより好ましい。例えば、第2部材22及び樹脂部材24の主成分がともにLCPであることが好ましい。このような場合、樹脂部材24の射出成形の際に、第2部材22の少なくとも一部が溶融し、第2部材22と樹脂部材24とが一体化するため、密着性がより高まる。
【0064】
この工程Bを経ることによって、射出された溶融樹脂が固化した樹脂部材24とインサート部材23とが複合化したインサート成形体を得ることができる。
【0065】
(利点)
当該第2実施形態における製造方法においては、第2部材22としての織布又は不織布が、インサート部材23の表面領域23xにおいて凹凸形状を形成するため、インサート部材23と樹脂部材24との密着性により優れたインサート成形体を得ることができる。また、上述のように、第2部材22の主成分に樹脂を用いることにより、密着性をより高めることもできる。
【0066】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態におけるインサート成形体の製造方法は、
図5に示すように、インサート部材を得る工程(工程A)として、まず、フッ素樹脂を主成分とする第1部材31の表面の一部に1又は複数の第2部材32を配置する。
【0067】
図5における複数の第2部材32は、それぞれ略U字形状の断面形状を有し、横向きに開口した状態で配置されている。このように、第2部材32は、第1部材31の表面から法線方向に向かって断面積又は径が拡大する部分を有する構造であることが好ましい。例えば
図5の第2部材32は、第1部材31の表面に対する法線方向に沿って、中間部分の断面積又は径が最も小さくなっており、第1部材31と接する部分及び第1部材31から最も遠い部分の断面積又は径が大きい構造を有している。また、第2部材32は、直柱以外の構造であることも好ましい。なお、直柱とは、底面と側面とが直交している柱状体をいう。すなわち、第2部材32は、逆テーパ状や、斜柱状といった形状であることも好ましい。第2部材32がこのような構造である場合、後述するインサート成形で成形される樹脂部材34が第2部材32に係合される構造となるため、樹脂部材34の密着性を高めることができる。
【0068】
なお、
図5において、第1部材31は、板状として図示しているが、第1部材31の形状は特に限定されるものではない。また、第2部材32の形状も
図5の形状に限定されるものではない。第1部材31及び第2部材32を構成する成分は、第1実施形態における第1部材11及び第2部材であるシート12と同様とすることができる。
【0069】
図5に示すように、第1部材31の表面の一部に第2部材32を配置した状態で、電離放射線の照射を行う。この電離放射線の照射方法は、電離放射線の照射方法は、上述した第1実施形態と同様とすることができる。なお、電離放射線の照射は、第1部材31のフッ素樹脂が溶融した状態で行うが、このとき、第2部材32の一部が第1部材31に浸漬してもよい。
【0070】
この電離放射線の照射によって、第1部材31と第2部材32とが接合されたインサート部材33を得ることができる。
図5に示すように、得られたインサート部材33の上面においては、第1部材31の上面と第2部材32とで凹凸形状が形成されている。すなわち、インサート部材33は、第2部材32が露出した部分を含む凹凸形状を有する表面領域33xを有する。
【0071】
次いで、工程Bとして、得られたインサート部材33の表面領域33x上に樹脂部材34を成形する。具体的には、
図6に示すように、金型35にインサート部材33を配置する。このとき、第2部材32を配置した側の面、すなわち凹凸形状を有する表面領域33x上に樹脂部材34が積層されるように配置する。具体的な樹脂部材34の成形方法、すなわち溶融樹脂の射出方法は、上述した第1実施形態と同様とすることができる。
【0072】
この工程Bを経ることによって、射出された溶融樹脂が固化した樹脂部材34とインサート部材33とが複合化したインサート成形体を得ることができる。
【0073】
(利点)
当該第3実施形態における製造方法においては、第2部材32が樹脂部材34と係合する構造を有している。このように第2部材32の構造によって、インサート成形される樹脂との密着性をより高めることができる。
【0074】
<その他の実施形態>
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0075】
例えば、第3実施形態として、
図5、6においては、2つの第2部材を第1部材の表面に配置したが、第2部材は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。また、第2部材の形状は、
図5、6に示したU字形状に限定されず、柱状等であってもよい。
【0076】
さらに他の実施形態として、
図7に示すように、第1部材41の表面に散点的に第2部材42を配置した構造のインサート部材43を用いることができる。このとき、第2部材42としては、金属やフッ素樹脂以外の樹脂を主成分とした粒子を用いることなどができる。また、
図8に示すように、第1部材51の表面に複数の線状の第2部材52を配置した構造のインサート部材53を用いることができる。この第2部材としては、金属ワイヤーなどを用いることができる。
図7、
図8で示すインサート部材43、53の表面領域においては、第1部材41、51と第2部材42、52とで凹凸形状が形成されている。この表面領域にインサート成形により溶融樹脂を積層することで、形状精度高く、かつ密着性高く樹脂部材を積層することができる。また、第2部材がシート以外の形状である場合においても、第2部材における樹脂部材と接触する面が粗面化処理されていることが好ましい。さらに、上記各実施形態を組み合わせたものなども、本発明の範囲内である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実施例1>
銅合金板(三菱伸銅社の「TAMAC194」)を用い、両端部分に直径1.5mmのガイドピンを15mmピッチで有する第2部材としてのインサートリードを製造した。得られたインサートリードは、厚さ0.25mm、幅30mm、算術平均粗さ(Ra)0.08μmであった。このインサートリードの一方の面に、粗面化処理として、レーザーにより微細な凹凸形状を設けた。粗面化処理した面の算術平均粗さ(Ra)は3μmであった。インサートリードにおける粗面化処理を施さなかった面に、第1部材としてPFAを粉体塗装した。塗装したPFAに対して、酸素濃度1ppm以下の窒素雰囲気下、320℃で電子線照射を200kGyで行い、PFAを架橋させた。電子線照射後の第1部材(架橋PFA)と第2部材(インサートリード)との剥離強度は、36N/cmであった。このようにして得られたインサート部材であるPFA塗装リードフレームを射出成形機にセットした。このPFA塗装リードフレームにおける上記粗面化処理した面を覆うようにLCP(ポリプラスチックス社の「ラベロスE473i」:融点330℃)を射出成形し、インサート成形体を得た。なお、射出成形の際のシリンダー温度は340℃、金型温度は120℃とした。
【0079】
得られたインサート成形体における架橋PFA表面には、シワ等の外観異常は見られず、LCPと架橋PFAとがインサートリードを介して強固に一体化されていた。このインサート成形体における架橋PFAの摺動性をJIS−K−7218に準拠してリングオンディスク式摩耗試験(A&D社の「EFM−III 1010」)で評価した。測定条件は、リング状相手材材質S45C、リング外径11.6mm、内径7.4mm、ドライ、圧力10MPa、速度50m/min、稼働時間10分とした。摩耗量は0.2mg以下であった。架橋していないPFAを同様にして評価した結果、1分以内に1.6mg以上摩耗して評価を中止した。
【0080】
このように、上記実施例1においては、架橋されたフッ素樹脂を含むインサート成形体を得ることができた。このインサート成形体は、外観異常が見られず、形状の精度に優れており、部材間の良好な密着性も確認できた。また、優れた耐摩耗性を有することも確認できた。