特許第6870248号(P6870248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870248
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20210426BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20210426BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20210426BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20210426BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20210426BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   G08G1/16 F
   B60W40/08
   B60W50/14
   B60W50/12
   B60W60/00
   A61B5/18
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-179763(P2016-179763)
(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公開番号】特開2018-45450(P2018-45450A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】金 海燕
【審査官】 平井 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−153960(JP,A)
【文献】 特開2016−038768(JP,A)
【文献】 特開2009−129052(JP,A)
【文献】 特開2013−154710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−60/00
G08G 1/00− 1/16
A61B 5/06− 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転中の車両の外部の状況を計測する外部計測部と、
自動運転中の前記車両の運転者の筋電位を取得する生体情報取得部と、
前記車両と前記外部計測部が計測した前記車両の外部の物体との近接度合いに基づいて、前記車両の制御の必要性を判定する判定部と、
前記判定部が前記車両の制御が必要と判定したときに、前記車両が外部の物体と接近したときの前記筋電位の変化に基づいて、前記運転者の覚醒状態を数値化する覚醒状態計測部と、
前記車両を自動運転から前記運転者による手動運転に移行するまでの工程を、前記覚醒状態計測部が数値化した覚醒状態に基づいて決定する移行工程決定部と、
を備え
前記覚醒状態計測部は、前記車両が外部の物体と接近したときに前記筋電位の変化が小さいほど、大きな数値を算出し、
前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の累積値が大きいほど、前記車両を自動運転から前記運転者による手動運転に移行するまでの間に前記運転者に対して通知する通知工程の種類を増加させる、
車両制御装置。
【請求項2】
前記車両の運転者の映像を撮像する運転者撮像部をさらに備え、
前記覚醒状態計測部は、前記筋電位と前記運転者の映像とに基づいて、前記運転者の覚醒状態を数値化する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の累積値が所定の外部通知閾値を上回る場合、前記車両を管理する外部装置に通知する外部通知工程を追加する、
請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の積算値が所定の移行不可閾値を上回る場合、前記車両を停車させる緊急避難工程を追加する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関し、特に、自動運転中の車両を運転者による手動運転に移行する際の車両制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種センサからの情報に基づいて車両の速度や操舵角を制御して自律走行を行う技術が提案されている。これらの技術の中には、車両が自律的に走行する自動運転モードと運転者による手動走行を行う手動運転モードとを切り替える際に、運転モードの切り替えを、警告表示や音声、シートやステアリングの振動などにより運転者に報知するものも存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−161196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、自動運転モードを手動運転モードに切り替えるべきタイミングが近づいたとき、運転者に報知することが行われる。その後、運転者が自動運転モードを手動運転モードに切り替えるための切り替えスイッチを操作したか否かに基づいて、運転者の覚醒度及び手動運転に移行できるか否かを判定する。
【0005】
しかしながら、自動運転モードを手動運転モードに切り替える直前に運転手が特定の操作をするか否かを判定するだけでは、運転者の覚醒度を精度よく判定できるとは必ずしも言えない。また上記の技術では何らの理由で自動運転中に突然自動運転を継続できなくなるような不測の事態にも、対応が困難であると考えられる。したがって、自動運転モードを手動運転モードに切り替える際の車両の安全性確保には改善の余地があると考えられる。
【0006】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、自動運転モードを手動運転モードに切り替える際の車両の安全性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、車両制御装置である。この装置は、自動運転中の車両の外部の状況を計測する外部計測部と、自動運転中の前記車両の運転者の生体情報を取得する生体情報取得部と、前記外部計測部が計測した状況に基づいて、前記車両の制御の必要性を判定する判定部と、前記判定部が前記車両の制御が必要と判定したときに、前記生体情報取得部が取得した前記生体情報に基づいて、前記運転者の覚醒状態を数値化する覚醒状態計測部と、前記車両を自動運転から前記運転者による手動運転に移行するまでの工程を、前記覚醒状態計測部が数値化した覚醒状態に基づいて決定する移行工程決定部と、を備える。
【0008】
前記車両制御装置は、前記車両の運転者の映像を撮像する運転者撮像部をさらに備えてもよく、前記覚醒状態計測部は、前記生体情報と前記運転者の映像とに基づいて、前記運転者の覚醒状態を数値化してもよい。
【0009】
前記判定部は、前記車両と外部の物体との近接度合いに基づいて前記車両の制御の必要性を判定してもよく、前記生体情報取得部は、前記運転者の筋電位を取得してもよく、前記覚醒状態計測部は、前記車両が外部の物体と接近したときの前記筋電位の変化に基づいて、前記覚醒状態を数値化してもよい。
【0010】
前記覚醒状態計測部は、前記車両が外部の物体と接近したときに前記筋電位の変化が小さいほど、大きな数値を算出してもよく、前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の累積値が大きいほど、前記車両を自動運転から前記運転者による手動運転に移行するまでの間に前記運転者に対して通知する通知工程の種類を増加させてもよい。
【0011】
前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の累積値が所定の外部通知閾値を上回る場合、前記車両を管理する外部装置に通知する外部通知工程を追加してもよい。
【0012】
前記移行工程決定部は、前記覚醒状態計測部が算出した数値の積算値が所定の移行不可閾値を上回る場合、前記車両を停車させる緊急避難工程を追加してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、自動運転モードを手動運転モードに切り替える際の車両の安全性を向上させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る車両制御装置を搭載した車両及びその運転者を模式的に示す図である。
図2】実施の形態に係る車両制御装置の機能構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係る覚醒状態数値化テーブルのデータ構造を模式的に示す図である。
図4】累積ポイントと通知工程との関係を示す通知工程テーブルのデータ構造を模式的に示す図である。
図5】実施の形態に係る車両制御装置が実行する車両制御処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施の形態の前提となる技術>
近年、車両の自動運転技術が急速に発達してきており、高速道路を走行する等の一定の条件下では、運転者が操作をすることなく自動で車両を走行させることが現実のものとなってきている。しかしながら、完全な車両の自動運転を実現するまでに至っているとは言えず、車両が自動運転中であっても運転者は不測の事態に備えて周囲を観察することが要求されるのが現状である。
【0016】
すなわち、自動運転中の車両と他の物体との距離が突然短くなったり、自動運転システムが走行レーンを見失ったりすることによって自動運転が機能しなくなるような場合に、運転者は備える必要がある。前者は、例えば前方に突然他の車両が割り込んでくるような場合が挙げられる。後者は、例えば降雪等の理由で道路上の車線区画線(いわゆる「白線」)を自動運転システムが検知できなくなるような場合が挙げられる。
【0017】
自動運転中に不測の事態が発生した場合、運転手は自動運転システムによる車両制御に介入し、手動でハンドルを操作したりブレーキペダルを踏んだりすることにより、走行の安全を確保することが求められる。運転者は、自動運転制御をいわば上書き(オーバーライド)することが求められる。運転者は、実際に自動運転制御をオーバーライドするまでには至らない場合であっても、そのための事前準備ないし予備動作は常にすることが求められる。
【0018】
ところが、車両が自動運転で走行しているときには、基本的に運転者は手持ちぶさたとなる。例えば自動運転での移動が長時間にわたるようなときは、運転者は意識レベルが低下する事態が生じることも否定できない。
【0019】
<実施の形態の概要>
実施の形態に係る車両制御装置1は、上述のような自動運転による走行が可能な車両Vに搭載されることを前提としている。
図1は、実施の形態に係る車両制御装置1を搭載した車両V及びその運転者Dを模式的に示す図である。車両Vは、車両としての基本装備の他、車両制御装置1、腕部計測部2a、脚部計測部2b、運転者撮像部3、前方計測部4a、後方計測部4b、及び側方計測部4cを備える。
【0020】
車両制御装置1は、車両Vが自動運転中に、運転者Dに関する情報を取得し、取得した情報を解析することによって運転者Dの覚醒度を数値化する。ここで「運転者Dに関する情報」とは、運転者Dを直接又は間接的に計測することで得られる情報である。運転者Dを直接計測して得られる情報とは、運転者Dの生体信号である。生体信号とは、運転者Dの生命活動に基づいて発生される信号であり、例えば運転者Dの筋電位、脳波、脈拍、心拍数、心電位、呼吸数、血流量、血液の酸素濃度、座圧等が挙げられる。
【0021】
また、運転者Dを間接的に計測して得られる情報とは、例えば運転者Dを撮影した映像を解析して得られる情報である。具体的には、運転者Dの頭部の動き、視線の動き、視線方向、瞳孔の開度、目の開度等が挙げられる。
【0022】
これらを実現するために、車両制御装置1は、腕部計測部2a、脚部計測部2b、及び運転者撮像部3を備えている。腕部計測部2a及び脚部計測部2bは、自動運転中の車両Vの運転者Dの生体情報を取得する生体情報取得部2として機能する。具体的には、腕部計測部2aは運転者Dの上腕部に取り付けられ、運転者Dの上腕の筋電位を取得する。また脚部計測部2bは運転者Dの大腿部に取り付けられ、運転者Dの大腿部の筋電位を取得する。生体情報取得部2が取得した生体情報は運転者Dの覚醒状態を判定するために用いられる。
【0023】
運転者撮像部3はCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の既知の固体撮像素子であり、車両Vの運転者Dの映像を撮像する。運転者撮像部3が撮像した映像も、生体情報取得部2が取得した生体情報と同様に、運転者Dの覚醒状態を判定するために用いられる。
【0024】
車両Vは自動運転による走行が可能な車両である。このため車両Vは、自動運転中の車両Vの外部の状況を計測する外部計測部4を備える。具体的には、前方計測部4aは、車両Vの前方の状況を計測する。また後方計測部4bは、車両Vの後方の状況を計測する。側方計測部4cは、車両Vの側方の状況を計測する。前方計測部4a、後方計測部4b、及び後方計測部4bはいずれも、レーザーレーダ、可視光カメラ、及び赤外光カメラの少なくともいずれかひとつによって実現される。
【0025】
車両Vが自動運転によって走行しているときであっても、運転者Dが起きて周囲の状況を監視している場合には、運転者Dはブレーキを踏むための準備やハンドルを切るための予備動作をする。例えば、隣の車線から他の車両が車線変更して車両Vの前方に入ってきたような場合は、自動運転の制御によって車両Vに制動力が働く。
【0026】
このような場合、運転者Dは万が一制動力が働かないような状況に備え身構える行動を起こす。すなわち、運転者Dは自動運転の制御を実際にはオーバーライドしない場合であっても、運転者Dはいつでもオーバーラドできるように身構える行動を起こすと考えられる。このような場合、運転者Dの上腕及び大腿部の筋肉は予備動作のために緊張し、筋電位に変化が発生する。
【0027】
そこで実施の形態に係る車両制御装置1は、外部計測部4が計測した状況に基づいて、車両Vの制御の必要性を判定する。車両Vの制御が必要なときに、運転者Dが予備動作をしたか否かを、生体情報取得部2が取得した生体情報に基づいて判定する。車両Vの制御が必要なときに運転者Dが予備動作をした場合は運転者Dが覚醒している蓋然性が高いと考えられる。反対に運転者Dが予備動作をしなかったり、予備動作が遅れたりするような場合には、運転者Dの覚醒度が下がっている蓋然性が高いと考えられる。
【0028】
実施の形態に係る車両制御装置1は、車両Vが自動運転によって走行している間に運転者Dが予備動作をしたか否かを数値化して蓄積することにより、車両Vを自動運転から運転者Dによる手動運転に移行するタイミングにおける運転者Dの覚醒度を判定する。その判定結果に応じて、車両制御装置1は、車両Vを自動運転から手動運転に移行するまでに実行すべき工程を決定する。
【0029】
例えば、運転者Dの覚醒度が十分高いと判定できる場合には、車両制御装置1は自動運転を実行するシステムから運転者Dに対し車両Vの制御権限を迅速に委譲する。また運転者Dの覚醒度が低いと判定する場合には、運転者Dに対し車両Vの制御権限をする前に、車両制御装置1は警報を鳴らす等の工程を実行して運転者Dの覚醒度を上昇させる。さらに、運転者Dの意識がないと判定する場合には、車両制御装置1は警報を鳴らすとともに車両Vを路側帯や待避所等に誘導して停車させる。
【0030】
このように、実施の形態に係る車両制御装置1は、車両Vが自動運転によって走行している間における運転者Dの行動を計測することで、運転者Dの覚醒度を判定する。これにより、自動運転中の車両に乗車している運転者の覚醒度の推定精度を高めることができる。結果として、自動運転から運転者Dによる手動運転へと車両Vの制御権限を委譲する際の安全性を高めることができる。
以下、実施の形態に係る車両制御装置1についてより詳細に説明する。
【0031】
<車両制御装置1の機能構成>
図2は、実施の形態に係る車両制御装置1の機能構成を模式的に示す図である。車両制御装置1は、生体情報取得部2、運転者撮像部3、外部計測部4、記憶部10、及び制御部20を備える。
【0032】
記憶部10はHDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置、及びDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の不揮発性メモリであり、実施の形態に係る車両制御装置1を実現するための各種プログラム及びデータの格納部、及び制御部20の作業メモリとして機能する。
【0033】
制御部20は、車両VのECU(Electronic Control Unit)等のプロセッサである。制御部20は、記憶部10に格納されているプログラムを実行することにより、判定部21、覚醒状態計測部22、移行工程決定部23、及び移行工程実行部24として機能する。
【0034】
生体情報取得部2は、自動運転中の車両Vの運転者Dの生体情報を取得する。運転者撮像部3は、車両Vの運転者Dの映像を撮像する。外部計測部4は、自動運転中の車両Vの外部の状況を計測する。判定部21は、外部計測部4が計測した状況に基づいて、車両Vの制御の必要性を判定する。
【0035】
覚醒状態計測部22は、生体情報取得部2が取得した生体情報と運転者撮像部3が撮像した運転者Dの映像との少なくともいずれか一方に基づいて、運転者Dの覚醒状態を数値化する。
【0036】
図3は、実施の形態に係る覚醒状態数値化テーブルのデータ構造を模式的に示す図である。覚醒状態数値化テーブルは、判定部21及び覚醒状態計測部22によって参照され、制御部20に格納されている。
【0037】
覚醒状態数値化テーブルは、車両Vの制御の必要性が生じ得るイベント毎に、その状況に応じた加算ポイントを対応づけて記憶している。図3に示す覚醒状態数値化テーブルでは、車両Vの制御の必要性が生じ得るイベントとして「接近」、「割り込み」、「合流」が例示されているが、この他にも種々のイベントを定義することができる。また、「加算ポイント」は、運転者Dの覚醒度の「低さ」を数値化するために定義された数値であり、ポイントが高いほど運転者Dの覚醒度の覚醒度が低いことを示す。
【0038】
ここで「接近度」は、自動運転中の車両Vと、他の車両との距離を意味する。図3に示す覚醒状態数値化テーブルの例では、自動運転中の車両Vと他の車両との距離が50m以上である場合、車両Vの制御の必要性はないことが記載されている。また、自動運転中の車両Vと他の車両との距離が40m〜50m以上である場合、車両Vの制御の必要性が小さいことが記載されている。他も同様であり、例えば自動運転中の車両Vと他の車両との距離が20m以下である場合、車両Vの制御の必要性が「緊急」であることが記載されている。
【0039】
このように、判定部21は、覚醒状態数値化テーブルを参照して、車両Vと外部の物体との近接度合いに基づいて車両Vの制御の必要性を判定する。生体情報取得部2は、運転者Dの筋電位を取得する。覚醒状態計測部22は、車両Vが他の車両等の外部の物体と接近した場合における運転者Dの筋電位の変化に基づいて覚醒状態数値化テーブルを参照し、運転者Dの覚醒状態を数値化する。具体的には、例えば車両Vと他の車両との距離が30m〜40mとなったにもかかわらず、運転者Dの筋電位に変化がなければ、覚醒状態計測部22は覚醒度を示すポイントに4点を加算する。
【0040】
ここで一般に、運転者Dの覚醒度が低いときは、準備動作も小さくなると考えられる。そこで覚醒状態計測部22は、車両Vが外部の物体と接近したときに運転者Dの筋電位の変化が小さいほど、大きな加算ポイントを算出するようにしてもよい。これにより、覚醒状態計測部22は運転者Dの覚醒度をより精度よく数値化することができる。
【0041】
また、覚醒状態計測部22は、車両Vが外部の物体と接近したときに運転者Dの筋電位が変化するまでの時間が長いほど、大きな加算ポイントを算出するようにしてもよい。一般に、運転者Dの覚醒度が低いときは運転者Dの反応が鈍くなり、準備動作を実行するまでの時間が長くなると考えられるからである。この場合も、覚醒状態計測部22は運転者Dの覚醒度をより精度よく数値化することができる。
【0042】
移行工程決定部23は、車両Vを自動運転から手動運転に移行するまでの工程を、覚醒状態計測部22が数値化した覚醒状態に基づいて決定する。より具体的には、移行工程決定部23は、覚醒状態計測部22が算出した加算ポイントの累積値が大きいほど、車両Vを自動運転から運転者Dによる手動運転に移行するまでの間に運転者Dに対して通知する通知工程を増加させる。
【0043】
なお判定部21は、車両Vを自動運転から手動運転に移行するか否かも判定する。車両Vを自動運転から手動運転に移行するタイミングは、具体的には車両Vに設定された自動走行区間を走行し終わったタイミングや、雨天や降雪等の理由で外部計測部4の検出性能が発揮できなくなったタイミングである。判定部21が車両Vを自動運転から手動運転に移行すると判定した場合、移行工程実行部24は、移行工程決定部23が決定した通知工程にしたがって、車両Vを自動運転から手動運転に移行するまでの工程を実行する。
【0044】
図4は、累積ポイントと通知工程との関係を示す通知工程テーブルのデータ構造を模式的に示す図である。通知工程テーブルは記憶部10に記憶されており、移行工程決定部23によって参照される。
【0045】
上述したように、「加算ポイント」はその値が大きいほど運転者Dの覚醒度の覚醒度が低いことを示す。そこで図4に示すように、実施の形態に係る通知工程テーブルは、覚醒状態計測部22が算出した加算ポイントの累積値である累積ポイントが大きいほど、通知工程の種類が増加するように規定されている。
【0046】
例えば累積ポイントが5以下の場合、移行工程決定部23は、通知工程として「ステアリングの震動」工程のみを追加する。移行工程実行部24は、車両Vを自動運転から手動運転に移行する際に、ステアリングを震動させるためのアクチュエータ(不図示)を駆動し、ステアリングを震動させる。累積ポイントが5以下の場合、運転者Dは十分に覚醒している蓋然性が高いため、移行工程実行部24は単にステアリングを震動させて通知するだけで、車両Vの制御権限を運転者Dに移譲する。
【0047】
反対に、累積ポイントが16以上ある場合、運転者Dは覚醒していない蓋然性が高くなる。したがって図4に示すように、累積ポイントが16以上ある場合、移行工程決定部23は「管理センターに通知」工程を追加する。ここで「管理センター」とは、車両Vの動向を追跡して管理するために設けられた外部装置である。特に、車両Vがトラックやバス、タクシー等の商用車両である場合、管理センターは、その車両Vが所属する組織、又はその組織から委託を受けた第三者が運営する設備に設置されている。
【0048】
管理センターの管理者は、遠隔で車両Vの少なくとも一部を制御することができる。例えば移行工程実行部24からの通知があった場合、管理センターの管理者は、遠隔で車両Vの警報装置をならしたり、車両Vを操作して安全な場所に停車させたりすることができる。
【0049】
このように、移行工程決定部23は、覚醒状態計測部22が算出した数値の累積値が所定の外部通知閾値を上回る場合、車両Vを管理する外部装置である管理センターに通知する外部通知工程を追加する。ここで「所定の外部通知閾値」とは、移行工程決定部23が管理センターに通知するか否かを判定するために参照する累積ポイントの判定基準値である。外部通知閾値の値は車両Vの生産時等に生産者等によって記憶部10に格納される。図4に示す例では、外部通知閾値は16に設定される。
【0050】
覚醒状態計測部22が算出した数値の積算値が非常に大きいときは、運転者Dの意識がない状況を示唆している。このような状況では、車両制御装置1が車両Vの自動運転を解除して車両Vの制御権限を運転者Dに移行させるのは車両Vの走行の安全を確保する上で好ましいとは言えない。
【0051】
そこで移行工程決定部23は、覚醒状態計測部22が算出した数値の積算値が所定の移行不可閾値を上回る場合、車両Vを停車させる緊急避難工程を追加する。ここで「所定の移行不可閾値」とは、移行工程決定部23が車両Vを緊急停車させるか否かを判定するために参照する累積ポイントの判定基準である。図4に示す例では移行不可閾値は21に設定される。移行不可閾値も、外部通知閾値と同様に、車両Vの生産時等に生産者等によって記憶部10に格納される。
【0052】
<車両制御処理の処理フロー>
図5は、実施の形態に係る車両制御装置1が実行する車両制御処理の流れを説明するためのフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、例えば車両Vが自動運転モードに移行したときに開始する。
【0053】
判定部21は、車両Vを自動運転から手動運転に移行するか否かも判定する(S2)。車両Vを自動運転から手動運転に移行しない場合(S4のNo)、外部計測部4は、自動運転中の車両Vの外部の状況を計測する(S6)。判定部21は、外部計測部4が計測した車両Vの外部の状況に基づいて、車両Vの制御の必要性を判定する(S8)。
【0054】
車両Vの制御の必要性がない場合(S10のNo)、制御部20はステップS2に戻って上述の処理を継続する。車両Vを制御する必要がある場合(S10のYes)、生体情報取得部2は車両Vの運転者Dの生体情報を取得する(S12)。覚醒状態計測部22は、生体情報取得部2が取得した運転者Dの生体情報に基づいて覚醒状態数値化テーブルを参照することにより、運転者Dの覚醒状態を示す数値を取得する(S14)。
【0055】
覚醒状態計測部22は、取得した数値を累積した累積ポイントを算出し記憶部10に記憶させる(S16)。覚醒状態計測部22が累積ポイントを記憶部10に記憶させると、制御部20はステップS2に戻って上述の処理を継続する。
【0056】
車両Vを自動運転から手動運転に移行すると判定部21によって判定された場合(S4のYes)、移行工程決定部23は、覚醒状態計測部22が記憶部10に記憶させた累積ポイントに基づいて、自動運転から手動運転に移行する際に実行する移行工程を決定する(S18)。移行工程実行部24は、移行工程決定部23が累積ポイントに応じて決定した移行工程を実行する(S20)。移行工程決定部23が移行工程を実行すると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0057】
以上説明したように、実施の形態に係る車両制御装置1によれば、自動運転中の車両Vに乗車している運転者Dの覚醒度の推定精度を改善することができる。結果として、自動運転モードを手動運転モードに切り替える際の車両Vの安全性を向上させることができる。
特に、車両Vが自動運転から手動運転に移行する直前ではなく、車両Vが自動運転の間に継続して運転者Dの生体情報を取得して運転者Dの覚醒度を判定することにより、覚醒度の推定精度を高めることができる。
【0058】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0059】
1・・・車両制御装置
2・・・生体情報取得部
2a・・・腕部計測部
2b・・・脚部計測部
3・・・運転者撮像部
4・・・外部計測部
4a・・・前方計測部
4b・・・後方計測部
4c・・・側方計測部
10・・・記憶部
20・・・制御部
21・・・判定部
22・・・覚醒状態計測部
23・・・移行工程決定部
24・・・移行工程実行部
D・・・運転者
V・・・車両
図1
図2
図3
図4
図5