(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870249
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20210426BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20210426BHJP
H01L 25/18 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
H01L21/60 321E
H01L25/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-180035(P2016-180035)
(22)【出願日】2016年9月14日
(65)【公開番号】特開2018-46164(P2018-46164A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】浅井 竜彦
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/157584(WO,A1)
【文献】
特開2015−201505(JP,A)
【文献】
特開2013−251500(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/039099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60−607
H01L 23/48−50
H01L 25/00−18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、電極パターンが設けられ、前記半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記電極パターンとを電気的に接続するリードフレーム配線と、前記積層基板を搭載した金属基板と、を有する積層組立体に樹脂ケースを組み合せた半導体装置において、
前記リードフレーム配線は、前記半導体素子に接する接合部と、前記電極パターンに接する接合部と、前記接合部同士を接続する配線部とからなり、
前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも広く、かつ、前記配線部の幅は、前記接合部の幅の50%より広く、
前記配線部の裏面は、前記接合部の上面と接することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記配線部は、前記接合部が他の前記接合部と対向する辺の端から離れた位置、または、前記接合部の上面の中央部で、前記接合部と接続することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも20%以上広いことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
積層基板に半導体素子を搭載し、前記積層基板を金属基板に搭載した積層組立体を組み立てる工程と、
前記半導体素子と、前記積層基板上の電極パターンとを、リードフレーム配線で電気的に接続する工程と、
前記積層組立体に、樹脂ケースを組み合わせる工程と、
を含み、
前記リードフレーム配線は、前記半導体素子に接する接合部と、前記電極パターンに接する接合部と、前記接合部同士を接続する配線部とからなり、
前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも広く、かつ、前記配線部の幅は、前記接合部の幅の50%より広く、
前記配線部の裏面は、前記接合部の上面と接することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体モジュールは、1つまたは複数のパワー半導体チップを内蔵して変換接続の一部または全体を構成し、かつ、パワー半導体チップと積層基板または金属基板との間が電気的に絶縁された構造を持つパワー半導体デバイスである。パワー半導体モジュールは、産業用途としてエレベータなどのモータ駆動制御インバータなどに使われている。さらに近年では、車載用モータ駆動制御インバータに広く用いられるようになっている。車載用インバータでは、燃費向上のため小型・軽量化や、エンジンルーム内の駆動用モータ近傍に配置されることから、高温動作での長期信頼性が求められる。
【0003】
従来のパワー半導体モジュールの構造を、一般的なIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)パワー半導体モジュール構造を例にとって説明する。
【0004】
図7は、従来構造のパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
図7に示すように、パワー半導体モジュールは、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2と、接合材3b、3cと、電極パターン4と、金属基板5と、端子ケース7と、封止樹脂8と、金属端子9と、金属ワイヤ10と、蓋11と、を備える。
【0005】
パワー半導体チップ1は、IGBTあるいはダイオードチップ等の半導体素子である。絶縁基板2の両面には、電極パターン4が設けられている。一方の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3bにてパワー半導体チップ1が接合される。他方の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3cにて放熱フィン(不図示)が設けられた金属基板5が接合される。なお、絶縁基板2の少なくとも片面に電極パターンが設けられた基板を積層基板という。また、パワー半導体チップ1の上面には、電気接続用の配線として金属ワイヤ10が電極パターン4との間を接続している。電極パターン4の上面には、外部接続用の金属端子9が設けられている。また、パワー半導体チップ1の絶縁保護のため、端子ケース7内には低弾性率のシリコンゲル等の封止樹脂8が充填され、蓋11にてパッケージされている。
【0006】
ここで、車載用パワー半導体モジュールは、産業用パワー半導体モジュールに比べ、設置空間の制約から小型、軽量化が求められる。また、モータを駆動するための出力パワー密度が高くなるため、運転時における半導体チップ温度が高くなるとともに、高温動作時の長期信頼性の要求も高まってきている。このため、高温動作・長期信頼性を有したパワー半導体モジュール構造が要求されてきている。
【0007】
ところが、従来の金属ワイヤによる金属ワイヤ配線方式ではワイヤ太さが通電時の電流密度に影響し、動作に必要な電流を流すにはワイヤ本数を増やす必要がある。このため、金属ワイヤ配線方式では、複数の金属ワイヤで半導体チップ上面と電極パターン間を接続する必要があり、パワー半導体モジュールのワイヤ接合面積が増えることでパワー半導体モジュール自体が大きくなる。
【0008】
そこで、これらを解決するために、従来の金属ワイヤ配線方式から、リードフレーム配線方式の検討が進められている。リードフレーム配線方式とは、金属板の型加工により成形されたリードフレーム配線を用いて、半導体チップを支持固定し、半導体チップと電極パターンとを接続する方式である。
【0009】
さらに、従来の産業用パワー半導体モジュールに比べ車載用パワー半導体モジュールは動作温度が高いため、従来のシリコンゲル封止構造では耐熱性が問題となることから、エポキシなどの熱硬化性樹脂を用いた封止樹脂構造の検討が進められている。
【0010】
リードフレーム配線方式に関して、例えば、第1リードフレームと、第1リードフレームに対して離間して設けられた第2リードフレームと、第1リードフレーム上に設けられた半導体チップと、半導体チップを封止する樹脂と、コネクタと、を備えている半導体装置がある(例えば、特許文献1参照)。また、第1の主電極に接続された第1の配線であるリードフレームと、第2の主電極に接続された第2の配線である金属フレームと、制御電極に接続された第3の配線であるリードフレームと、を備える半導体装置がある(例えば、特許文献2参照)。また、半導体素子と、半導体素子に一端Ei部が接合され、他端Exが外部機器と電気接続される端子部材であるリードフレームと、端子部材の一端Ei部とともに半導体素子を封止する封止体1、を備える半導体装置がある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2015−142072号公報
【特許文献2】特開2011−199039号公報
【特許文献3】特開2012−156450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
半導体チップと電極パターン間にリードフレーム配線を用い、さらに樹脂封止されたパワー半導体モジュール構造では、動作時の半導体チップの発熱がリードフレーム配線を介し封止樹脂に伝達される。この結果、半導体チップと接合材、積層基板、リードフレーム配線、封止樹脂の熱膨張差により、半導体チップ近傍に熱変形が生じる。半導体チップは通電オン−オフを繰り返し制御していることから、繰り返しの熱変形が生じることとなる。この結果、信頼性試験においてリードフレーム配線の接合部の半導体チップ上面に熱変形による応力(ひずみ)が集中し、半導体チップ破壊の要因となる。
【0013】
半導体チップ破壊について、より詳細に説明する。
図8は、従来構造のリードフレーム配線の接合部の構成を示す断面図である。
図8では、リードフレーム配線6が接合材3aにてパワー半導体チップ1と接合されている。
図8に示すように、リードフレーム配線6の下接合部は、L字型の形状を有している。L字型の形状の中で、角の部分P71は剛性が高い。そのため、この部分では、熱変形による応力が緩和できないため、角の部分P71の直下にあたる部分P72に応力が伝達し、パワー半導体チップ1が破壊されてしまう。
【0014】
また、リードフレーム配線は、例えば半導体チップとはんだなどの接合材を用いて接続される。接合材に、はんだを用いた場合、はんだ溶融時の表面張力とリードフレーム配線の重量により、リードフレーム配線が傾いて接続されることがある。その場合、はんだ厚さが不均一になることから、通電時の温度ばらつきによる応力集中が生じ、製品寿命が低下する。
【0015】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、半導体素子上面にかかる応力を軽減するとともに、リードフレーム配線を安定して接続できる半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体素子と、電極パターンが設けられ、前記半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記電極パターンとを電気的に接続するリードフレーム配線と、前記積層基板を搭載した金属基板と、を有する積層組立体に樹脂ケースを組み合せたものである。前記リードフレーム配線は、前記半導体素子に接する接合部と、前記電極パターンに接する接合部と、前記接合部同士を接続する配線部とからなり、前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも広く、かつ、前記配線部の幅は、前記接合部の幅の50%より広い。
前記配線部の裏面は、前記接合部の上面と接する。
【0017】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記配線部は、
前記接合部が他の前記接合部と対向する辺の端から離れた位置
、または、前記接合部の上面の中央部で、前記接合部と接続することを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも20%以上広いことを特徴とする。
【0020】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、積層基板に半導体素子を搭載し、前記積層基板を金属基板に搭載した積層組立体を組み立てる工程を行う。次に、前記半導体素子と、前記積層基板上の電極パターンとを、リードフレーム配線で電気的に接続する工程を行う。最後に、前記積層組立体に、樹脂ケースを組み合わせる工程を行う。また、前記リードフレーム配線は、前記半導体素子に接する接合部と、前記電極パターンに接する接合部と、前記接合部同士を接続する配線部とからなり、前記接合部の幅は、前記配線部の幅よりも広く、かつ、前記配線部の幅は、前記接合部の幅の50%より広い。
前記配線部の裏面は、前記接合部の上面と接する。
【0021】
上述した発明によれば、接合部の幅を配線部の幅よりも広くし、接合部の端から離れた位置で配線部と接合部とを接続することで、リードフレーム配線の接合部の端の部分にかかる熱変形による応力集中を緩和することができる。応力集中が緩和されることにより、パワー半導体チップが通電オン−オフを繰り返しても、パワー半導体チップが破壊されにくくなり、パワー半導体モジュールの寿命を延長することができる。
【0022】
また、配線部の幅を狭くするほど、半導体チップが故障するまでの寿命を長くできるため、実施の形態の半導体装置では、配線部の幅を、半導体装置の目標とする寿命を満たす幅より狭くしている。例えば、接合部の幅を、配線部の幅よりも20%以上広くしている。これにより、パワー半導体チップが故障するまでの寿命を目標とする寿命より長くでき、半導体装置の信頼性を確保できる。
【0023】
また、接合部の幅を配線部の幅より20%以上広くすることで、接合材が溶融した際に生じるリードフレーム配線の傾きを抑制できる。このため、接合部の厚さを安定的に形成することができ、半導体装置の信頼性を確保できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、半導体素子上面にかかる応力を軽減するとともに、リードフレーム配線を安定して接続できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図2A】実施の形態にかかるリードフレーム配線の形状を示す斜視図である。
【
図2B】実施の形態にかかるリードフレーム配線の形状を示す上面図である。
【
図3A】実施の形態にかかるリードフレーム配線の他の形状を示す斜視図である。
【
図3B】実施の形態にかかるリードフレーム配線の他の形状を示す上面図である。
【
図4A】実施の形態にかかるリードフレーム配線の変形前を示す側面図である。
【
図4B】実施の形態にかかるリードフレーム配線の変形後を示す側面図である。
【
図5】パワー半導体モジュールにおけるひずみと寿命との関係を示すグラフである。
【
図6】実施の形態において、配線部の幅の比率(L2/L1)と、ひずみの低減、疲労寿命との関係を示す表である。
【
図7】従来構造のパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図8】従来構造のリードフレーム配線の接合部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかるパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【0027】
(実施の形態)
図1に示すように、パワー半導体モジュールは、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2と、接合材3a、3b、3cと、電極パターン4と、金属基板5と、リードフレーム配線6と、端子ケース7と、封止樹脂8と、金属端子9と、金属ワイヤ10と、を備える。
【0028】
パワー半導体チップ1は、IGBTあるいはダイオードチップ等の半導体素子である。絶縁性を確保するセラミック基板等の絶縁基板2のおもて面(パワー半導体チップ1側)および裏面(金属基板5側)には、銅(Cu)板などからなる電極パターン4が設けられている。なお、絶縁基板2の少なくとも片面に電極パターン4が設けられた基板を積層基板12とする。おもて面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3bにてパワー半導体チップ1が接合される。裏面の電極パターン4上には、はんだなどの接合材3cにて放熱フィン(不図示)が設けられた金属基板5が接合される。また、パワー半導体チップ1の上面(接合材3bと接する面と反対側の面)には、電気接続用の配線としてリードフレーム配線6の一端がはんだなどの接合材3aにて接合される。リードフレーム配線6の他端は、接合材3bにて電極パターン4と接合される。
【0029】
ここで、3a,3bのはんだはスズ(Sn)−銅型やSn−ビスマス(Bi)型等の柔らかいものが好ましい。それは、これらのはんだにより、リードフレーム配線6の接合部にかかる応力を緩和できるためである。リードフレーム配線6の接合部とは、以下で説明する接合部6aがパワー半導体チップ1と接する部分である。
【0030】
樹脂ケース7は、パワー半導体チップ1と積層基板12と金属基板5とが積層された積層組立体に組み合わされる。例えば、樹脂ケース7は、積層組立体とシリコンなどの接着剤を介して接着されている。また、樹脂ケース7内部には、積層基板12上のパワー半導体チップ1を絶縁保護するため、エポキシなどの硬質樹脂等の封止樹脂8が充填されている。実施の形態では、封止樹脂8としてエポキシなどの硬質樹脂を用いており、蓋を使用していない。また、金属ワイヤ10がパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続している。金属端子9は樹脂ケース7を貫通して、外部に突き出ている。
【0031】
図2Aは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の形状を示す斜視図であり、
図2Bは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の形状を示す上面図である。
図2Aに示すように、リードフレーム配線6は、接合材3aにてパワー半導体チップ1と接合される接合部6aと、接合材3bにておもて面の電極パターン4と接合される接合部6bと、接合部6aと接合部6bとを接続する配線部6cとからなる。配線部6cの中で、接合部6a、6bと垂直な部分を立ち上がり部6dと呼ぶことがある。
【0032】
ここで、
図2Bに示すように、接合部6a、6bの幅L2は、配線部6cの幅L1より広くなっている。例えば、接合部6a、6bの幅L2は、配線部6cの幅L1より20%以上広くなっている。つまり、L2≧1.2×L1が成り立っている。配線部6cは、接合部6aの接合部6bと対向する辺p1の端(例えば、
図2Aのa1)から所定の距離離れた位置で、接合部6aと接続する。また、配線部6cは、接合部6bの接合部6aと対向する辺p2の端(例えば、
図2Aのa2)から所定の距離離れた位置で、接合部6bと接続する。つまり、配線部6cは、両端部が同じ長さ分だけ削られて、接合部6aの辺p1と接合部6bの辺p2の中央同士を接続する形状になっている。具体的には、配線部6cの幅の中央と接合部6a、6bの幅の中央同士が接続される形状である。リードフレーム配線が、長方形の板材から作られる場合は、配線部6cの幅の両端部から同じ長さを削られる。なお、配線部6cが、接合部6a、6bと接続する箇所は、一辺の中央同士を接続する形状に限らない。つまり、接合部6a、6bは、面取りを行って角を丸めたり、角を削ったりしても良い。
【0033】
図3Aは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の他の形状を示す斜視図であり、
図3Bは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の他の形状を示す上面図である。
図3Aに示すように、配線部6cは接合部6aの上面(接合材3aと接する面と反対側の面)の中央部で接合部6aと接続してもよい。また、配線部6cは接合部6aの端と接しなければ他の部分でもかまわない。なお、端とは、接合部6aの上面の中央部から離れた周辺の部分である。また、図示はしないが、配線部6cは接合部6bの上面(接合材3bと接する面と反対側の面)の中央部で接合部6bと接続してもよい。また、配線部6cは接合部6bの端と接しなければ他の部分でもかまわない。また、リードフレーム配線6は、例えば、銅からなり、厚さ0.5mm程度が好ましい。リードフレーム配線6を薄くすると電流密度が減るためである。
【0034】
ここで、実施の形態にかかるリードフレーム配線6が、パワー半導体チップ1の上面にかかる応力を、低減できることを説明する。
図4Aは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の変形前を示す側面図であり、
図4Bは、実施の形態にかかるリードフレーム配線6の変形後を示す側面図である。
図4Aおよび
図4Bは、リードフレーム配線6を立ち上がり部6dが正面となる方向(
図3Aの矢印が示す方向)からみた図である。
【0035】
動作時のパワー半導体チップ1の発熱により、パワー半導体チップ1近傍に熱変形が生じる。この熱変形によって、
図4Aに示すように、パワー半導体チップ1には、リードフレーム配線6を下側に引っ張る力(
図4Aの矢印)が生じる。つまり、パワー半導体チップ1は、
図4Aにおいて、上に凸に変形しようとする。ここで、実施の形態にかかるリードフレーム配線6では、配線部6cは接合部6a、6bの中央同士を接続している。このため、
図4Bに示すように、接合部6a、6bの端の部分は、下側に変形することができ、接合部6a、6bの端の部分にかかる熱変形による応力集中を緩和することができる。
【0036】
次に、実施の形態にかかるリードフレーム配線6が、パワー半導体モジュールの信頼性を満たすために必要な応力を、低減できることを説明する。
図5は、パワー半導体モジュールにおけるひずみと寿命との関係を示すグラフである。なお、ひずみは、パワーサイクル試験において、半導体チップ上面の電極に生じる最大ひずみをシミュレーションにより求めたものである。
図5において、横軸はパワー半導体モジュールのパワーサイクル試験における疲労寿命を示す。具体的には、この疲労寿命は、パワー半導体モジュールに対して、通電オン−オフ時の温度差が135℃程度の試験を繰り返して、パワー半導体チップ1が故障するまでの回数である。具体的には、40℃から5分で175℃まで昇温し、10分保持することを1サイクルとする。
【0037】
ここで、
図5に記載の目標耐量はパワー半導体モジュールの信頼性を満たすために必要とする目標とする寿命である。例えば、目標耐量は、10万回である。また、
図5において、縦軸はパワー半導体チップ1の上部に生じるひずみを示す。具体的には、ひずみは、パワー半導体チップ1の上部の低温時と高温時の縦横の変化の度合い(膨張差)を示す。
【0038】
図5において、点P1は、配線部6cの幅が接合部6a、6bの幅と同じ、つまりL2=L1であるリードフレーム配線6を用いた場合である。また、点P2は、接合部6a、6bの幅が配線部6cの幅より10%広い、つまりL2=1.1×L1であるリードフレーム配線6を用いた場合である。また、点P3は、接合部6a、6bの幅が配線部6cの幅より20%広い、つまりL2=1.2×L1であるリードフレーム配線6を用いた場合である。このように、接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より広くするほど、言い換えれば、配線部6cの幅を接合部6a、6bの幅より狭くするほど、ひずみが小さくなり、パワー半導体チップ1の寿命が長くなることが分かる。例えば、接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より20%以上広くすることにより、配線部6cの幅が接合部6a、6bの幅と同じ場合より、ひずみを30%以上低減できる。
【0039】
このため、実施の形態のパワー半導体モジュールでは、配線部6cの幅を、パワー半導体チップ1が故障するまでの寿命が目標耐量より長くなるように、接合部6a、6bの幅より狭くしている。具体的には、点P1では、寿命は、目標耐量より短く、パワー半導体モジュールの信頼性を満たしていない。点P2では、略目標耐量をみたしているが、点P3では、寿命は、目標耐量より長く、パワー半導体モジュールの信頼性を満たしている。また、
図6は、実施の形態において、配線部の幅の比率(L2/L1)と、ひずみの低減、疲労寿命との関係を示す表である。なお、
図6中のL2/L1とは、配線部6cの幅L1に対する、接合部6a、6bの幅L2の比である。また、ひずみの低減(%)は、L2/L1=1の時のひずみから低減したひずみの割合である。また、疲労寿命とは、
図5と同様にパワー半導体モジュールのパワーサイクル試験における疲労寿命である。
図6は、L2/L1を1〜1.5まで変化させた場合の結果を示す。
図6に示すように、接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より広くすることで、ひずみを低減することができる。接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より、10%以上広くすることが好ましく、20%以上広くすることがさらに好ましい。ここで、配線部6cの板厚は、リードフレームの剛性と電流密度を満足する範囲が好ましく、0.2mmから2mmが好ましい。より好ましくは、0.5mmから1mmである。なお、
図5は、リードフレーム配線6の板厚が0.5mm程度の場合であるが、板厚が変化しても、結果は変わらない。つまり、リードフレーム配線6の板厚に関係なく、接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より20%以上広くすることにより、ひずみは低減し、パワー半導体モジュールの信頼性を満たすことができる。
【0040】
このように、接合部6a、6bの幅を配線部6cの幅より20%広くすることで、パワー半導体チップ1が故障するまでの寿命を目標耐量より長くなるようにできる。また、配線部6cの幅を狭くするほど、寿命が長くなる。しかし、配線部6cは、通電時に電流が流れる部分であるため、配線部6cの幅は、通電時の電流を流すために必要な面積を確保できる幅以上にしてある。例えば、配線部6cの幅は、接合部6a、6bの幅の50%より広くしてある。なお、接合部6a、6bの面積は、それぞれ、パワー半導体チップ1、おもて面の電極パターン4とはんだ付けするために必要な面積とする。このため、実施の形態では、リードフレーム配線6により通電時における電流密度を確保することができる。
【0041】
また、リードフレーム配線6において、接合部6a、6bと配線部6cとがなす角度θ(
図1参照)は、90°であることが好ましい。少なくとも、角度θは、90°±10°であることが好ましく、より好ましくは90°+2°である。これは、角度θが大きくなると、接合部6a、6bと配線部6cとが接する部分、つまり、リードフレーム配線6の角の部分ではんだが薄くなり、はんだで吸収できる応力が少なくなる。このため、パワー半導体モジュールの寿命が低下してしまうためである。
【0042】
このようなパワー半導体モジュールの製造方法は、従来技術によるパワー半導体モジュールと同様である。パワー半導体モジュールの製造方法では、まず、積層基板12にパワー半導体チップ1を実装し、パワー半導体チップ1と、絶縁基板2上に設けられた電極パターン4とを、リードフレーム配線6で電気的に接続する。次に、これらを金属基板5に接合して、パワー半導体チップ1、積層基板12および金属基板5からなる積層組立体を組み立てる。この積層組立体に樹脂ケース7をシリコンなどの接着剤で接着する。
【0043】
次に、金属ワイヤ10でパワー半導体チップ1と金属端子9との間を接続し、樹脂ケース7内にエポキシなどの硬質樹脂等の封止樹脂8を充填する。これにより、
図1に示す実施の形態にかかるパワー半導体モジュールが完成する。なお、封止樹脂8がエポキシ樹脂等の硬質樹脂でない場合、封止樹脂8が外に漏れないようにするため、蓋を取り付けるようにする。
【0044】
以上、説明したように、実施の形態の半導体装置によれば、接合部の幅を配線部の幅よりも広くし、接合部の端から離れた位置で配線部と接合部とを接続することで、リードフレーム配線の接合部の端の部分にかかる熱変形による応力集中を緩和することができる。応力集中が緩和されることにより、パワー半導体チップが通電オン−オフを繰り返しても、パワー半導体チップが破壊されにくくなり、パワー半導体モジュールの寿命を延長することができる。
【0045】
また、配線部の幅を狭くするほど、半導体チップが故障するまでの寿命を長くできるため、実施の形態の半導体装置では、配線部の幅を、半導体装置の目標とする寿命を満たす幅より狭くしている。例えば、接合部の幅を、配線部の幅よりも20%以上広くしている。これにより、パワー半導体チップが故障するまでの寿命を目標とする寿命より長くでき、半導体装置の信頼性を確保できる。
【0046】
また、接合部の幅を配線部の幅より20%以上広くすることで、接合材が溶融した際に生じるリードフレーム配線の傾きを抑制できる。このため、接合部の厚さを安定的に形成することができ、半導体装置の信頼性を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法は、インバータなどの電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置や自動車のイグナイタなどに使用されるパワー半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 パワー半導体チップ
2 絶縁基板
3a、3b、3c 接合材
4 電極パターン
5 金属基板
6 リードフレーム配線
6a、6b 接合部
6c 配線部
6d 立ち上がり部
7 端子ケース
8 封止樹脂
9 金属端子
10 金属ワイヤ
11 蓋
12 積層基板