特許第6870286号(P6870286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000002
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000003
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000004
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000005
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000006
  • 特許6870286-炭化珪素半導体装置の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870286
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20210426BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20210426BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20210426BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20210426BHJP
   H01L 29/74 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01L29/78 658A
   H01L21/265 602C
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653C
   H01L29/78 658Z
   H01L29/74 Q
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-222772(P2016-222772)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2018-82017(P2018-82017A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年10月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−214658(JP,A)
【文献】 特開2012−124263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面側の全面に第1導電型のドリフト層を積層する工程と、
前記ドリフト層の全面に第2導電型のベース層を積層する工程と、
前記ベース層の表面層に第1導電型のソース領域をイオン注入により選択的に形成する工程と、
前記ベース層の表面層に第2導電型の不純物領域をイオン注入により選択的に形成する工程と、
前記ソース領域の表面層および前記不純物領域の表面層にレーザーを照射することによりレーザーアニールを行う工程と、
前記ソース領域を貫通するようにトレンチを形成する工程と、
前記トレンチの内部に、ゲート酸化膜を介してゲート電極を形成する工程と、
前記ゲート電極を覆うように層間絶縁膜を形成する工程と、
前記ソース領域および前記不純物領域に接するようにソース電極を形成する工程と、
前記炭化珪素半導体基板の裏面側にドレイン電極を形成する工程と、
を含み、
前記レーザーアニールを行う工程では、前記ソース領域および前記不純物領域を500℃〜700℃の温度にして、イオン注入により注入した不純物を活性化させ、前記レーザーの侵入長を前記イオン注入により注入したイオン種の注入深さ以上とし、前記レーザーアニールを、パルスレーザで行い、前記レーザーのショット数は、前記ベース層の温度が上昇しなく、かつ、前記ソース領域および前記不純物領域内の不純物を活性化する範囲内であることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記レーザーアニールを行う工程は、前記ソース領域および前記不純物領域が形成された前記炭化珪素半導体基板を加熱して、レーザーを照射することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体材料として炭化珪素(SiC)を用いた炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素半導体を用いた縦型パワーデバイスでは、シリコン(Si)半導体のものと比較してアバランシェ降伏を起こす絶縁破壊電界強度が約10倍と高い。このため、以下の式で決まる単位面積当たりのオン抵抗(Ron,sp)がシリコン縦型パワーデバイスに対して数100分の1とすることができる。ここで、ECは絶縁破壊電界強度、μは電子の移動度、εSiCは炭化珪素の誘電率、BVは素子の耐圧である。
on,sp=4BV2/εSiCμEC3
【0003】
このため、インバータ回路をはじめとするパワーエレクトロニクス回路に炭化珪素パワーデバイスを適用すると、システムの損失をシリコンパワーデバイスに対して数10%低減することができる。このため、産業界で広く使われるようになっている。
【0004】
炭化珪素縦型パワーデバイスのうち、メタル酸化膜半導体電界効果型トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)はゲートを電圧駆動することができ、ゲートドライバーの電力消費が小さいなどのことから、広く使用されている。MOSFETのオン抵抗は、ソースメタルコンタクト抵抗、ソース抵抗、MOSチャネル抵抗、JFET抵抗、ドリフト抵抗、基板抵抗、裏面ドレインコンタクト抵抗の各成分を合計したものである。600Vや1200Vクラスなどの比較的低い耐圧クラスでは、そのうちMOSチャネル抵抗がオン抵抗中で大きな割合を占める。また、MOSチャネル抵抗を低減するためには、セルピッチを縮小することが非常に有効である。
【0005】
しかし、プレーナー型MOSFETと呼ばれるMOSチャネルを主表面と平行に形成する構造では隣接するセルのベース層に挟まれたドリフト層上部でJFET抵抗が発生する。セルピッチを縮小するとJFET抵抗が増加する。このため、プレーナー型MOSFETでは、セルピッチを縮小しても、オン抵抗を十分減少できない。
【0006】
これに対して、トレンチ内にゲート電極を有するトレンチ型MOSFETが提案されている。図4は、従来のトレンチ型MOSFETの構造を示す断面図である。図4に示すように、トレンチ型MOSFETでは、主表面に形成されたトレンチ(溝)107、その側壁に形成されるゲート酸化膜108、トレンチ内に高濃度のn型または高濃度のp型にドープされたポリシリコンによるゲート電極109を備えることを特徴とする。トレンチ型MOSFETでは、JFET抵抗は発生しないため、セルピッチを縮小するほどチャネル抵抗が減少し、それにともないオン抵抗も減少する。従って、プレーナー型MOSFETの次世代型としてトレンチ型MOSFETの開発が盛んに行われている。現在、トレンチを形成する技術、トレンチ側壁上に良質なゲート酸化膜を形成する技術、トレンチ底の電界集中によるゲート酸化膜に印加される電界強度を緩和する技術が様々な方法で確立しつつある。
【0007】
このトレンチ型MOSFETの製造(作製)方法を、図4に基づいて説明する。まず、n型半導体基板102と、その上にエピタキシャル成長されたn型ドリフト層103、さらにその上にエピタキシャル成長されたp型ベース層104を順次形成する。次に、n型となるイオン種としてリン(P)、窒素(N)、ヒ素(As)を選択的にイオン注入し、さらにp型となるイオン種としてアルミニウム(Al)、ホウ素(B)を選択的にイオン注入し、その後、1600℃程度の高温でアニールすることによりそれぞれn型ソース領域105およびp型ベースコンタクト領域106を形成する。次に、リアクティブイオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)などの方法によりトレンチ107を形成する。次に、トレンチ107の側壁にゲート酸化膜108、高濃度のn型またはp型の多結晶シリコンによるゲート電極109、ゲートとソースを絶縁する層間絶縁膜110を順次形成する。最後に、裏面ドレインのオーミックコンタクト電極101と、n型ソース領域105およびp型ベースコンタクト領域106とのオーミックコンタクトを形成し、ソース電極111を形成して完成する。
【0008】
炭化珪素半導体を用いたMOSFETのソース電極に0Vを印加し、ゲート電極に0Vまたは負バイアスを印加し、ドレイン電極にプラスの定格電圧(600V定格であれば+600V、1200V定格であれば+1200V)を印加して、オフ状態にする。この場合、プレーナー型MOSFETでは、リーク電流IDSSは通常2×10-6A/cm2以下と十分小さくなるが、上記の製造方法による炭化珪素半導体を用いたトレンチ型MOSFETではIDSSが10-3A/cm2〜10-1A/cm2と大きくなり、オフ状態での電力損失が無視できないほど大きくなる問題がある。
【0009】
トレンチ型MOSFETにおいて、リーク電流を低減する方法が提案されている。例えば、第2の電極を、第1のトレンチの第1の底部において第1の第2導電型領域と接し、かつ第1のトレンチの第1の側壁部において第1導電型領域および第2の第2導電型領域と接するようにする技術がある(例えば、特許文献1参照)。また、p型ベース層の表面層に、p+型ボディコンタクト領域とn+型ソース領域とを互いに離れて設け、第2トレンチを、n+型ソース領域に接し、n-型ドリフト層に達するように設ける技術がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
また、レーザービームを照射することによりアニールを行う方法が提案されている。例えば、基板上に形成されたイオン注入層の表面にレーザー吸収膜を形成した後に、1600摂氏度以上に加熱し、レーザーアニールする技術がある(例えば、特許文献3参照)。また、半導体基板の他方の主面にイオン打ち込みをし、レーザーアニール法により活性化アニールを行う技術がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2015−76592号公報
【特許文献2】特開2014−33223号公報
【特許文献3】特開2014−146757号公報
【特許文献4】特開2007−243080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、トレンチ型MOSFETにおいて、リーク電流が大きいという問題がある。ここで、図5は、リーク電流の高い炭化珪素トレンチ型MOSFETチップのエミッション像である。図5は、ドレイン−ソース間電圧VDSS=600V、IDSS=3×10-2A/cm2時のエミッション像である。エミッション像は、SiCデバイス等の半導体デバイスの異常動作に伴い発生する微弱な発光を検出できるフォトエミッション顕微鏡により撮影された像である。また、図6は、リーク電流の高い炭化珪素トレンチ型MOSFETチップの基板表面のエッチピット写真である。図6は、エミッション像取得後に炭化珪素以外の膜を除去して炭化珪素基板表面を露出させ、その後、溶融KOH(水酸化カリウム)エッチングしたときに現れたエッチピット(表面の腐食孔)を撮影したエッチピット写真である。
【0013】
このエッチピットは、らせん転位や刃状転位などの貫通転位に対応する。これら貫通転位は4H型や6H型など炭化珪素基板の中でも六方晶の結晶構造の場合に、六方晶の<0001>方向であるc軸に沿って発生することが知られている。例えば、図4の符号aで示すらせん転位は、p型ベース層104の表面からn型半導体基板102の裏面まで達している。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0014】
図5のエミッション像の発光点(丸印で図示)を図6に重ね合わせると(丸印)、そこにはKOHエッチピットが存在しており、リーク電流IDSSは貫通転位の近傍で発生していることが分かる。
【0015】
これらのことから、イオン注入されたイオン種あるいはn型ソース領域105の形成時に生成された点欠陥が上記の高温アニール時にらせん転位に沿って拡散することにより、らせん転位の周囲がn型になってしまう。らせん転位は、p型ベース層104の表面からn型半導体基板102の裏面まで達しているため、ソースとドレインが導通状態になってしまい、IDSSが増加するものと考えられる。
【0016】
ここで、p型ベース層104の不純物濃度を1×1018/cm3と高くした場合、IDSSが、抑制されることが分かっている。しかしながら、上記の構造のトレンチ型MOSFETにおけるp型ベース層104の不純物濃度は1×1017/cm3前半である。この不純物濃度が高過ぎるとドレイン−ソース間の電流が流れ始めるゲート電圧であるしきい電圧が高くなりすぎる問題がある。
【0017】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、ゲート電圧のしきい値を適切に保持し、リーク電流を抑えることを可能とする炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。炭化珪素半導体装置の製造方法は、まず、第1導電型の炭化珪素半導体基板のおもて面側の全面に第1導電型のドリフト層を積層する工程を行う。次に、前記ドリフト層の全面に第2導電型のベース層を積層する工程を行う。次に、前記ベース層の表面層に第1導電型のソース領域をイオン注入により選択的に形成する工程を行う。次に、前記ベース層の表面層に第2導電型の不純物領域をイオン注入により選択的に形成する工程を行う。次に、前記ソース領域の表面層および前記不純物領域の表面層にレーザーを照射することによりレーザーアニールを行う工程を行う。次に、前記ソース領域を貫通するようにトレンチを形成する工程を行う。次に、前記トレンチの内部に、ゲート酸化膜を介してゲート電極を形成する工程を行う。次に、前記ゲート電極を覆うように層間絶縁膜を形成する工程を行う。次に、前記ソース領域および前記不純物領域に接するようにソース電極を形成する工程を行う。次に、前記炭化珪素半導体基板の裏面側にドレイン電極を形成する工程を行う。前記レーザーアニールを行う工程では、前記ソース領域および前記不純物領域を500℃〜700℃の温度にして、イオン注入により注入した不純物を活性化させる。前記レーザーの侵入長を前記イオン注入により注入したイオン種の注入深さ以上とし、前記レーザーアニールを、パルスレーザで行い、前記レーザーのショット数は、前記ベース層の温度が上昇しなく、かつ、前記ソース領域および前記不純物領域内の不純物を活性化する範囲内である。
【0020】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記レーザーアニールを行う工程は、前記ソース領域および前記不純物領域が形成された前記炭化珪素半導体基板を加熱して、レーザーを照射することを特徴とする。
【0021】
上述した発明によれば、熱処理をレーザーアニールで行うことで、n型ソース領域(第1導電型のソース領域)、p型ベースコンタクト領域(第2導電型の不純物領域)のみを加熱し、p型エピベース層(第2導電型のベース層)を高温にしないことができる。これにより、p型エピベース層内で、イオン種あるいは点欠陥がらせん転位に沿って拡散することが妨げられ、p型エピベース層内らせん転位の周囲がn型になることが妨げられる。このため、ソースとドレインが導通状態になることがない。また、本発明では、p型エピベース層の膜厚および不純物濃度を、従来のトレンチ型MOSFETと同様な値とし、ゲート電圧のしきい値を、従来のトレンチ型MOSFETと同様な値にできる。この結果、実施の形態の半導体装置では、ゲート電圧のしきい値を適切に保持し、リーク電流の増加を抑えることができる。
【0022】
また、レーザーアニールにおいて、レーザーの侵入長をイオン注入の深さ以上とすることで、イオン注入で注入した不純物を活性化することができる。また、n型炭化珪素基板を加熱してレーザーアニールを行うことで、アニールに必要なレーザーのショット数を削減でき、アニールに必要な時間を短くできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、ゲート電圧のしきい値を適切に保持し、リーク電流を抑えることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その1)。
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である(その2)。
図4】従来のトレンチ型MOSFETの構造を示す断面図である。
図5】リーク電流の高い炭化珪素トレンチ型MOSFETチップのエミッション像である。
図6】リーク電流の高い炭化珪素トレンチ型MOSFETチップの基板表面のエッチピット写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および−を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n型炭化珪素基板(第1導電型の炭化珪素半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)に、n型ドリフト層(第1導電型のドリフト層)2が堆積されている。
【0027】
n型炭化珪素基板1は、炭化珪素単結晶基板である。n型ドリフト層2は、n型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば低濃度n型ドリフト層である。n型ドリフト層2の、n型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面側には、p型エピベース層(第2導電型のベース層)3が設けられている。以下、n型炭化珪素基板1とn型ドリフト層2とp型エピベース層3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0028】
n型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、ドレイン電極11が設けられている。
【0029】
p型エピベース層3のn型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面には、n型ソース領域(第1導電型のソース領域)4およびp型ベースコンタクト領域(第2導電型の不純物領域)5が選択的に設けられている。
【0030】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型エピベース層3側)には、トレンチ構造が設けられている。具体的には、トレンチ6が設けられ、トレンチ6は、n型ソース領域4のn型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型エピベース層3を貫通してn型ドリフト層2に達する。トレンチ6の内壁に沿って、トレンチ6の底部および側壁に、高濃度のポリシリコンによるゲート酸化膜7が設けられており、トレンチ6内のゲート酸化膜7の内側にゲート電極8が設けられている。層間絶縁膜9は、ゲート電極8を覆うように設けられている。ゲート酸化膜7によりゲート電極8が、n型ドリフト層2およびp型エピベース層3と絶縁されている。ゲート電極8の一部は、トレンチ6の上方(層間絶縁膜9が設けられている側)からソース電極10側に突出していてもよい。また、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5は、ソース電極10と接している。
【0031】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0032】
上述したように、イオン注入されたイオン種あるいはn型ソース領域4の形成時に生成された点欠陥が高温アニール時にらせん転位に沿って拡散することにより、らせん転位の周囲がn型になってしまう。らせん転位aは、p型エピベース層3の表面からn型半導体基板1の裏面まで達しているため、ソースとドレインが導通状態になってしまい、リーク電流が増加するものと考えられる。
【0033】
ここで、イオン種あるいは点欠陥は、アニールが高温、例えば、1600℃程度で行われるために拡散したと考えられる。これに対して、炭化珪素半導体において、エキシマレーザを用いて、イオン注入で注入した不純物を基板の温度を500℃〜700℃にして、効果的に活性化できることを示す報告がある(例えば、下記参考文献1。)。
【0034】
(参考文献1) ヤスノリ タナカ(Yasunori Tanaka)他、「Electrical activation of the ion−implanted phosphorus in 4H−SiC by excimer laser annealing」、Journal of applied physics Volume93, number 10(2003) pp.5934−5936
【0035】
このため、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置では、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5に対するアニールを、レーザーを照射することにより熱処理を実現するレーザーアニールで行っている。このレーザーアニールは、基板の温度を500℃〜700℃でアニール可能なだけでなく、基板表面から所定の深さまで局所的に加熱することができる特徴も有している。
【0036】
このため、実施の形態のレーザーアニールでは、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5のみを加熱して、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5より下側(炭化珪素半導体基体側)にあるp型エピベース層3を加熱しないようにする。これにより、p型エピベース層3内で、イオン種あるいは点欠陥がらせん転位に沿って拡散することが妨げられ、p型エピベース層3内のらせん転位の周囲がn型になることが妨げられる。このため、実施の形態の炭化珪素半導体装置では、ソースとドレインが導通状態になっていない。
【0037】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図2図3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0038】
まず、n型の炭化珪素でできたn型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできたn型ドリフト層2を、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。n型ドリフト層2を形成するためのエピタキシャル成長の条件を、例えばn型ドリフト層2の不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定してもよい。
【0039】
次に、n型ドリフト層2の表面上に、p型の不純物、例えばアルミニウム原子をドーピングしながらp型エピベース層3を、例えば1μm〜2μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。ここまでの工程により、n型炭化珪素基板1上にn型ドリフト層2およびp型エピベース層3を積層してなる炭化珪素半導体基体が形成される。p型エピベース層3を形成するためのエピタキシャル成長の条件を、例えばp型エピベース層3の不純物濃度が1×1017/cm3〜4×1017/cm3程度となるように設定してもよい。ここまでの状態が図2に示されている。
【0040】
次に、p型エピベース層3の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成し、この酸化膜をマスクとしてp型エピベース層3の表面上にn型の不純物、例えば窒素をイオン注入する。それによって、p型エピベース層3の表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度のn型ソース領域4が形成される。n型ソース領域4を設けるためのイオン注入時のドーズ量を、例えば不純物濃度が1×1017/cm3程度となるように設定してもよい。続いて、n型ソース領域4を形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。
【0041】
次に、p型エピベース層3の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成し、この酸化膜をマスクとしてp型エピベース層3の表面上にp型の不純物、例えばアルミニウムをイオン注入する。それによって、p型エピベース層3の表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度のp型ベースコンタクト領域5が形成される。p型ベースコンタクト領域5を形成するためのイオン注入時のドーズ量を、例えばp型エピベース層3よりも不純物濃度が高くなるように設定してもよい。続いて、p型ベースコンタクト領域5を形成するためのイオン注入時に用いたマスクを除去する。
【0042】
次に、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5の表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所望の開口部を有する図示しないマスクを例えば酸化膜で形成する。そして、この酸化膜をマスクとしてドライエッチング等によってp型エピベース層3を貫通して、n型ドリフト層2に達するトレンチ6を形成する。続いて、トレンチ6を形成するために用いたマスクを除去する。ここまでの状態が図3に示されている。また、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5を形成する順番は、逆であってもかまわない。p型ベースコンタクト領域5を形成後、n型ソース領域4を形成してもよい。
【0043】
次に、熱処理(アニール)を行って、n型ソース領域4、p型ベースコンタクト領域5を活性化させる。熱処理は、n型ソース領域4の表面層およびp型ベースコンタクト領域5の表面層にレーザーを照射するレーザーアニールで行う。レーザーアニールにおいて、イオン注入されたイオンをすべて活性化するために、レーザーの侵入長はイオン注入により注入したイオンの注入深さ以上とする。例えば、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5を深さ0.5μmで形成した場合、レーザーの侵入長は0.5μmとする。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0044】
この発明の実施の形態に係るレーザーアニールを行う工程について、詳細に説明する。実施の形態では、レーザーとして、例えば、波長308nmのXeCl(キセノン−塩素)レーザーで、レーザーの侵入長が2.6μmのものを使用する。また、レーザーアニールでは、レーザーの照射エネルギーを、1.0J/cm2にして、パルス幅20nsで、600〜3000ショットを実施することが好ましい。
【0045】
また、2000ショット以下では、p型エピベース層3の温度が上昇しないため、IDSSは増加しないが、2000ショットを超えるとp型エピベース層3の温度が上昇するため、IDSSは増加する。一方、活性化のため、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5を高温にするためには、最低1500ショットが必要である。このため、レーザーアニールでは、1500〜2000ショットを実施することが最も好ましい。
【0046】
また、レーザーアニールを行う際、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5が形成された炭化珪素半導体基板1を加熱して基板温度を変化させても良い。例えば、炭化珪素半導体基板1を500℃にすると、p型エピベース層3、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5が高温になりやすいため、2000ショット以上で、IDSSが増加し、また、活性化のため、最低500ショットが必要である。このため、炭化珪素半導体基板1を500℃に加熱する場合、レーザーアニールで、500〜1000ショットを実施することが好ましい。
【0047】
次に、n型ソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5の表面と、トレンチ6の底部および側壁と、に沿ってゲート酸化膜7を形成する。このゲート酸化膜7は、酸素雰囲気中において1200℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート酸化膜7は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0048】
次に、ゲート酸化膜7上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を形成する。この多結晶シリコン層はトレンチ6内を埋めるように形成する。この多結晶シリコン層をパターニングして、トレンチ6内部に残すことによって、ゲート電極8が形成される。ゲート電極8の一部は、トレンチ6の上方(層間絶縁膜9が形成される側)からソース電極10側に突出していてもよい。
【0049】
次に、ゲート酸化膜7およびゲート電極8を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜9を形成する。層間絶縁膜9およびゲート酸化膜7をパターニングして選択的に除去することによって、コンタクトホールを形成し、nソース領域4およびp型ベースコンタクト領域5を露出させる。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜9を平坦化する。
【0050】
次に、コンタクトホール内および層間絶縁膜9の上にソース電極10となる、例えば、アルミニウム−シリコン合金(Al−Si)の膜を形成する。この導電性の膜を選択的に除去して、例えばコンタクトホール内にのみソース電極10を残す。
【0051】
次に、n型炭化珪素基板1の第2主面上に、例えばニッケル(Ni)膜でできたドレイン電極11を形成する。その後、例えば1000℃程度の温度で熱処理を行って、n型炭化珪素基板1とドレイン電極11とをオーミック接合する。
【0052】
次に、例えばスパッタ法によって、ソース電極10および層間絶縁膜9を覆うように、例えばアルミニウム膜を、厚さが例えば5μm程度になるように、設ける。その後、アルミニウム膜を選択的に除去して、素子全体の活性部を覆うように残すことによって、ソース電極パッド(不図示)を形成する。
【0053】
次に、ドレイン電極11の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケルおよび金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド(不図示)を形成する。以上のようにして、図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0054】
実施の形態に基づき作成した炭化珪素半導体装置では、チップサイズ3mm四方でIDSSの良品規格を100nAとした場合、IDSSの良品率が従来約1%であったものが、約99%に改善した。また、しきい電圧は5V〜6V、1200Vクラスのアバランシェ降伏電圧(耐圧)は1500V〜1600Vと十分高く、パンチスルーは発生しなかった。
【0055】
以上、説明したように、実施の形態によれば、熱処理をレーザーアニールで行うことで、n型ソース領域、p型ベースコンタクト領域のみを加熱し、p型エピベース層を高温にしないことができる。これにより、p型エピベース層内で、イオン種あるいは点欠陥がらせん転位に沿って拡散することが妨げられ、p型エピベース層内のらせん転位の周囲がn型になることが妨げられる。このため、ソースとドレインが導通状態になることがない。また、実施の形態では、p型エピベース層の膜厚は、1μm〜2μm程度であり、p型エピベース層の不純物濃度は、1×1017/cm3〜4×1017/cm3程度であるため、ゲート電圧のしきい値は、従来のトレンチ型MOSFETと同様な値となる。この結果、実施の形態の半導体装置では、ゲート電圧のしきい値を適切に保持し、リーク電流の増加を抑えることができる。
【0056】
また、レーザーアニールにおいて、レーザーの侵入長をイオン注入の深さ以上とすることで、イオン注入で注入した不純物を活性化することができる。また、n型炭化珪素基板を加熱してレーザーアニールを行うことで、アニールに必要なレーザーのショット数を削減でき、アニールに必要な時間を短くできる。
【0057】
以上において本発明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であり、上述した実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、本発明の各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、トレンチゲート構造を有するMOSFET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、JFET(Junction gate Field Effect Transistor)、BJT(Bipolar Junction Transistor)、GTO(Gate Turn Off thyristor)、サイリスタなど少なくとも2つ以上のPN接合を有する炭化珪素半導体装置の製造方法に有用であり、特に、MOS型電力用炭化珪素半導体装置の製造方法に適している。
【符号の説明】
【0059】
1 n型炭化珪素基板
2 n型ドリフト層
3 p型エピベース層
4 n型ソース領域
5 p型ベースコンタクト領域
6 トレンチ
7 ゲート酸化膜
8 ゲート電極
9 層間絶縁膜
10 ソース電極
11 ドレイン電極
101 オーミックコンタクト電極
102 n型半導体基板
103 n型ドリフト層
104 p型ベース層
105 n型ソース領域
106 p型ベースコンタクト領域
107 トレンチ
108 ゲート酸化膜
109 ゲート電極
110 層間絶縁膜
111 ソース電極
a らせん転位
図1
図2
図3
図4
図5
図6