(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Ag膜は、Cu,Sn,Sb,Ti,Mg,Zn,Ge,In,Al,Ga,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を合計で0.2原子%以上10.0原子%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層透明導電膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、ディスプレイあるいはタッチパネル等においては、配線及び透明電極の微細化がさらに進められており、さらに、大画面化によって配線及び透明電極の長さが長くなってきており、透明電極として、従来にも増して電気抵抗が低く、かつ、可視光域の透過率に優れた透明導電膜が求められている。
ここで、特許文献3,4に記載された積層透明導電膜において、さらなる電気抵抗の低下及び透過率の向上を図るためには、Ag膜の膜厚を薄くする必要がある。しかしながら、単にAg膜を薄くした場合には、Agが凝集しやすくなり、このAgの凝集によって表面プラズモン吸収が発生し、透過率が大幅に低下してしまうといった問題があった。また、Agの凝集によってAg膜が不連続膜となるため、電気抵抗も増加して導電性が低下してしまうといった問題があった。
【0008】
また、透明導電酸化物膜の水分に対するバリア性が低いと、湿度の高い環境下で水分がAg膜にまで到達し、Ag膜においてAgの凝集が促進され、透過率及び導電性が低下してしまうおそれがあった。
さらに、上述の積層透明導電膜を配線膜として使用するためには、積層透明導電膜に対して配線パターンを形成する必要がある。この場合、レジスト膜を形成して配線パターンを形成した後、このレジスト膜を除去することになる。レジスト膜を除去する際には、アルカリ性のレジスト除去液を用いるが、従来の積層透明導電膜においては、耐アルカリ性が不十分であって、レジスト膜を除去する際に、積層透明導電膜の特性が劣化してしまうといった問題があった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、透過率が十分に高く、かつ、電気抵抗が十分に低く、耐環境性及び耐アルカリ性に優れた積層透明導電膜、この積層透明導電膜からなる積層配線膜及び積層配線膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の積層透明導電膜は、AgまたはAg合金よりなるAg膜と、前記Ag膜の両面に配置された透明導電酸化物膜と、を有し、前記透明導電酸化物膜は、Zn,Ga,Y及びSnを含む酸化物からな
り、前記透明導電酸化物膜中に含まれる全金属元素の原子割合が、Ga;0.9原子%以上26.1原子%以下、Y;0.2原子%以上9.5原子%以下、Sn;0.1原子%以上4.7原子%以下、残Znとされていることを特徴とする。
【0011】
本発明の積層透明導電膜によれば、Ag膜の両面にZn,Ga,Y及びSnを含む酸化物からなる透明導電酸化物膜が形成されているので、下面の透明導電酸化物膜によって、Ag膜の濡れ性が向上することになり、Ag膜を薄く形成した場合であってもAg膜におけるAgの凝集を抑制することができる。また、上述の透明導電酸化物膜は、耐環境性(高温高湿下環境における耐久性)に優れていることから、湿度の高い環境下で使用した場合であっても、Ag膜の上面に形成された透明導電酸化物膜によって、Ag膜への水分の侵入を抑制でき、Agの凝集を抑制することができる。よって、透過率が十分に高く、かつ、電気抵抗が十分に低い透明導電酸化物膜を提供することができる。
さらに、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液をエッチャントとして使用した場合には、Ag膜と透明導電酸化物膜とのエッチング速度の差が小さく、この積層透明導電膜を一括エッチングしても精度良く配線パターンを形成することができる。
また、この透明導電酸化物膜は耐アルカリ性が高いので、配線パターンを形成する際、アルカリ性のレジスト除去液を用いてレジスト膜を除去しても、積層透明導電膜の特性の劣化を抑制することができる。
【0012】
また、透明導電酸化物膜中に含まれる全金属元素におけるGaの含有量が0.9原子%以上26.1原子%以下の範囲内とされているので、電気抵抗の増加を抑制することができる。また、Yの含有量が0.2原子%以上9.5原子%以下の範囲内とされているので、電気抵抗の増加を抑制しつつ耐アルカリ性を向上させることができる。さらに、Snの含有量が0.1原子%以上4.7原子%以下の範囲内とされているので、電気抵抗の増加を抑制しつつ耐環境性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の積層透明導電膜においては、前記Ag膜は、Cu,Sn,Sb,Ti,Mg,Zn,Ge,In,Al,Ga,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を合計で0.2原子%以上10.0原子%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金で構成されていることが好ましい。
この場合、Cu,Sn,Sb,Ti,Mg,Zn,Ge,In,Al,Ga,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を含有しているので、Ag膜の凝集がさらに抑制されることになり、Ag膜を10nm以下に極めて薄く形成しても、連続膜とすることができる。
【0014】
さらに、本発明の積層透明導電膜においては、前記Ag膜の厚さが10nm以下とされていることが好ましい。
この場合、Ag膜の厚さが10nm以下とされているので、透過率を向上させることができる。また、Ag膜の両面に上述の透明導電酸化物膜が形成されているので、Ag膜の厚さが10nm以下としても、Agの凝集がなく連続膜となるため、電気抵抗を低くすることができる。
【0015】
また、本発明の積層透明導電膜においては、波長400〜800nmの可視光域の平均透過率が85%以上、シート抵抗値が10Ω/□以下であることが好ましい。
この場合、可視光域の平均透過率が85%以上、かつ、シート抵抗値が10Ω/□以下とされているので、十分に高い透過率及び十分に低い電気抵抗を有しており、微細化された透明電極膜又は透明配線膜として使用することができる。
【0016】
本発明の積層配線膜は、上述の積層透明導電膜からなり、配線パターンを有することを特徴とする。
本発明の積層配線膜によれば、上述の積層透明導電膜からなることから、低い電気抵抗と高い透過率を有する。
【0017】
本発明の積層配線膜の製造方法は、上述の積層配線膜の製造方法であって、基材の成膜面に、前記Ag膜及び前記透明導電酸化物膜を含む前記積層透明導電膜を成膜する積層透明導電膜成膜工程と、前記積層透明導電膜の上に配線パターン状のレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、前記レジスト膜が形成された前記積層透明導電膜に対して、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液をエッチャントに用いて、エッチングを一括して行うエッチング工程と、エッチング後にアルカリ性のレジスト除去液で前記レジスト膜を除去するレジスト膜除去工程と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成の積層配線膜の製造方法によれば、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液をエッチャントとして使用した場合に、Ag膜と透明導電酸化物膜とのエッチング速度の差が小さいことから、この積層透明導電膜を一括エッチングしても、Ag膜のオーバーエッチングや透明導電酸化物膜の残渣等が発生することが抑制でき、精度良く配線パターンを形成することができる。また、Yの添加によって透明導電酸化物膜の耐アルカリ性が向上しているので、レジスト膜除去工程において、アルカリ性のレジスト除去液を用いてレジスト膜を除去しても、積層配線膜の特性の劣化を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の積層配線膜の製造方法は、上述の積層配線膜の製造方法であって、基材の成膜面に配線パターンの反転パターン状のレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、前記レジスト膜が形成された前記基材の成膜面に、前記Ag膜及び前記透明導電酸化物膜を含む前記積層透明導電膜を成膜する積層透明導電膜成膜工程と、前記レジスト膜を除去するレジスト膜除去工程と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
この構成の積層配線膜の製造方法によれば、基材の成膜面にレジスト膜を配線パターンの反転パターン状に形成し、前記レジスト膜が形成された前記基材の成膜面に前記積層透明導電膜を成膜している。これにより、前記積層透明導電膜を成膜した後に、レジスト膜を基材から除去すると、レジスト膜が形成されていなかった領域にのみ前記積層透明導電膜が残存し、配線パターンを有する積層配線膜を形成することが可能となる。このため、エッチング工程を行う必要がなく、配線パターンを精度良く形成することができる。また、Yの添加によって透明導電酸化物膜の耐アルカリ性が向上しているので、レジスト膜除去工程において、アルカリ性のレジスト除去液を用いてレジスト膜を除去しても、積層配線膜の特性の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の積層透明導電膜によれば、透過率が十分に高く、かつ、電気抵抗が十分に低く、耐環境性及び耐アルカリ性に優れた積層透明導電膜、この積層透明導電膜からなる積層配線膜及び積層配線膜の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態である積層透明導電膜について、添付した図を参照して説明する。
本実施形態における積層透明導電膜10は、各種ディスプレイ及びタッチパネルの透明電極膜として使用されるものであり、特に、タブレットサイズ以上の静電容量タイプのタッチパネルにおいて使用されるものとされている。
【0024】
本実施形態である積層透明導電膜10を
図1に示す。この積層透明導電膜10は、例えば基板20の一面に下地層として成膜された第1透明導電酸化物膜11と、この第1透明導電酸化物膜11上に成膜されたAg膜12と、このAg膜12上に成膜された第2透明導電酸化物膜13と、を備えている。なお、基板20としては、例えばガラス基板、樹脂フィルム等を用いることができる。
【0025】
そして、本実施形態においては、積層透明導電膜10は、波長400〜800nmの可視光域の平均透過率が85%以上、シート抵抗値が10Ω/□以下とされている。
なお、積層透明導電膜10の波長400〜800nmの可視光域の平均透過率は85%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。また、積層透明導電膜10のシート抵抗値は10Ω/□以下であることが好ましく、5Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0026】
Ag膜12は、Ag又はAg合金で構成されている。Ag膜12を構成するAg又はAg合金としては、純度が99.9質量%以上の純Ag、あるいは、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Er等の添加元素を含むAg合金であってもよい。なお、添加元素の含有量は、Ag膜12の吸収率の増加(透過率の低下)及び電気抵抗の増加を抑制する観点から、10.0原子%以下に制限することが望ましく、2.0原子%以下であることがさらに好ましい。
なお、本実施形態では、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を合計で0.2原子%以上10.0原子%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金で構成されたものとされている。
【0027】
本実施形態において、Ag膜12を構成するAg合金が含有するCu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erは、Ag膜12の第1透明導電酸化物膜11に対する濡れ性を向上させる作用効果を有する元素であり、Ag膜12を薄く形成した場合であってもAgの凝集を抑制することが可能となる。
ここで、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上の合計含有量が0.2原子%未満の場合には、上述の作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上の合計含有量が10.0原子%を超えるとAg膜12の透過率が低下し、かつ、抵抗値が上昇するおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Ag膜12を構成するAg合金におけるCu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上の合計含有量を0.2原子%以上10.0原子%以下の範囲内に規定している。
【0028】
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Ag膜12を構成するAg合金におけるCu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上の合計含有量の下限を0.5原子%以上とすることが好ましい。
一方、透過率の低下や抵抗率の上昇をさらに抑制するためには、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上の合計含有量の上限を2.0原子%以下とすることが好ましい。
【0029】
さらに、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Ag膜12を構成するAg合金が、上述の添加元素のうちCu,Sn,Sbの少なくとも1種または2種以上を含有することが好ましい。このとき、Cu,Sn,Sbの少なくとも1種または2種以上の含有量は、0.2原子%以上2.0原子%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
そして、本実施形態においては、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13は、Zn,Ga,Y及びSnを含む酸化物、すなわち、Zn酸化物にGa,Y及びSnが添加されたものとされている。
本実施形態では、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13は、それぞれの透明導電酸化物膜中に含まれる全金属元素におけるGa,Y及びSnの原子割合が、Ga;0.9原子%以上26.1原子%以下、Y;0.2原子%以上9.5原子%以下、Sn;0.1原子%以上4.7原子%以下とされている。
なお、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13は同一の組成である必要はなく、上述の組成の範囲内とされていればよい。
【0031】
ここで、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13中に含まれる全金属元素におけるGaの含有量を0.9原子%以上とすることにより、Ag膜12におけるAgの凝集を抑制することができ、積層透明導電膜10における電気抵抗の増加を抑制することができる。一方、Gaの含有量を26.1原子%以下とすることにより、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を抑制することができる。
なお、Ag膜12におけるAgの凝集を抑制するためには、Gaの含有量の下限を0.9原子%以上とすることが好ましく、2.0原子%以上とすることがさらに好ましい。また、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を確実に抑制するためには、Gaの含有量の上限を26.1原子%以下とすることが好ましく、20.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
また、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13中に含まれる全金属元素におけるYの含有量を0.2原子%以上とすることにより、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の耐アルカリ性を向上させることができる。一方、Yの含有量を9.5原子%以下とすることにより、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を抑制することができる。
なお、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の耐アルカリ性を確実に向上させるためには、Yの含有量の下限を0.2原子%以上とすることが好ましく、1.0原子%以上とすることがさらに好ましい。また、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を確実に抑制するためには、Yの含有量の上限を9.5原子%以下とすることが好ましく、8.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0033】
さらに、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13中に含まれる全金属元素におけるSnの含有量を0.1原子%以上とすることにより、透明導電酸化物膜の耐環境性を向上させることができる。一方、Snの含有量を4.7原子%以下とすることにより、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を抑制することができる。
なお、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の耐環境性を確実に向上させるためには、Snの含有量の下限を0.1原子%以上とすることが好ましく、0.5原子%以上とすることがさらに好ましい。また、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を確実に抑制するためには、Snの含有量の上限を4.7原子%以下とすることが好ましく、4.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
また、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13における電気抵抗の増加を確実に抑制するためには、Ga,Y及びSnの合計含有量を37.5原子%以下とすることが好ましく、30.0原子%以下とすることが好ましい。
【0035】
ここで、本実施形態では、透過率を向上させるために、Ag膜12の膜厚t2を10nm以下に設定している。なお、さらなる透過率の向上を図る場合には、Ag膜12の膜厚t2を10nm以下とすることが好ましく、8nm以下とすることがさらに好ましい。また、Ag膜12の膜厚t2の下限は3nm以上とすることが好ましく、4nm以上とすることがさらに好ましい。
【0036】
そして、第1透明導電酸化物膜11の膜厚t1と第2透明導電酸化物膜13の膜厚t3は、各単相膜での光学定数(屈折率及び消衰係数)を用いて、第1透明導電酸化物膜/Ag膜(Ag合金膜)/第2透明導電酸化物膜の3層構造で光学シミュレーションを行い、可視光域の透過率が光学的干渉効果によって向上する膜厚としている。
【0037】
第1透明導電酸化物膜11の膜厚t1及び第2透明導電酸化物膜13の膜厚t3は、およそ以下のような範囲の膜厚とすることが好ましい。
t1=550/(4×n1)×k1,t3=550/(4×n3)×k3
ここで、n1,n3は、第1透明導電酸化物膜11の屈折率(n1)及び第2透明導電酸化物膜13の屈折率(n3)である。また、k1,k3は、第1透明導電酸化物膜11の係数(k1)及び第2透明導電酸化物膜13の係数(k3)である。
【0038】
なお、係数k1、k3は、透明導電酸化物によってそれぞれ最適値が異なるが、係数k1,k3は、0.2〜0.8の範囲であることが好ましく、0.4〜0.7の範囲であることがさらに好ましい。特に、係数k1,k3が0.6程度であると、透明導電酸化物の種類によらず可視光域の透過率が向上することになる。
本実施形態では、上述の光学シミュレーションの結果、第1透明導電酸化物膜11の膜厚t1及び第2透明導電酸化物膜13の膜厚t3を40nmに設定している。これらの膜厚は、係数k1,k3を0.6とした場合の膜厚である。
【0039】
次に、本発明の実施形態である積層配線膜30及び積層配線膜30の製造方法について、
図2から
図4を参照して説明する。
本実施形態である積層配線膜30は、
図2に示すように、
図1に示す積層透明導電膜10に配線パターンが形成されたものである。ここで、本実施形態である積層配線膜30においては、配線パターンは、ライン幅及びライン間のスペースの幅が1μm以上900μm以下の範囲内である。
【0040】
ここで、上述の積層配線膜30は、以下のようにして製造される。
まず、基板20の成膜面に、本実施形態である積層透明導電膜10を成膜する(積層透明導電膜成膜工程S11)。
この積層透明導電膜成膜工程S11においては、基板20の上に下地層として第1透明導電酸化物膜11を成膜する。第1透明導電酸化物膜11は、膜組成が制御しやすい焼結ターゲットを用いて、DCスパッタによって成膜することが好ましい。次に、成膜された第1透明導電酸化物膜11の上に、Agターゲットを用いてDCスパッタによってAg膜12を成膜する。このAgターゲットは、成膜されるAg膜12の組成に応じた組成とされている。そして、成膜されたAg膜12の上に、透明導電酸化物ターゲットを用いてDCスパッタによって第2透明導電酸化物膜13を成膜する。なお、透明導電酸化物ターゲットは、膜組成が制御しやすい焼結ターゲットとすることが好ましい。このようにして、本実施形態である積層透明導電膜10を成膜する。
【0041】
次に、基板20の表面に成膜された積層透明導電膜10の上にレジスト膜41を形成し、このレジスト膜41に露光・現像することで、配線パターンを形成する(レジスト膜形成工程S12)。
次に、レジスト膜41が形成された積層透明導電膜10に対して、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液をエッチャントに用いて、エッチングを一括して行う(エッチング工程S13)。ここで、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液においては、リン酸の含有量が55体積%以下、酢酸の含有量が30体積%以下であることが好ましい。
【0042】
次に、アルカリ性のレジスト除去液を用いて、レジスト膜41を除去する(レジスト膜除去工程S14)。
これにより、配線パターン形状のレジスト膜41の下側に位置する積層透明導電膜10が残り、配線パターンを有する積層配線膜30が形成される。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である積層透明導電膜10においては、基板20の表面に下地層として第1透明導電酸化物膜11が形成され、この第1透明導電酸化物膜11の上にAg膜12が成膜されているので、Ag膜12の濡れ性が向上し、Ag膜12を薄く成膜した場合であっても、Agの凝集が抑制される。
さらに、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13が、耐環境性に優れていることから、湿度の高い環境下で使用した場合であっても、Ag膜12への水分の侵入を抑制でき、Agの凝集を抑制することができる。
よって、Ag膜12においてAgの凝集による表面プラズモン吸収の発生を防止でき、高い透過率を得ることができる。また、Ag膜12が連続膜となるため、電気抵抗も低くすることができる。
【0044】
そして、本実施形態では、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13は、Zn酸化物にGa,Y及びSnが添加されたものとされており、それぞれの透明導電酸化物膜中に含まれる全金属元素におけるGa,Y及びSnの原子割合が、Ga;0.9原子%以上26.1原子%以下、Y;0.2原子%以上9.5原子%以下、Sn;0.1原子%以上4.7原子%以下とされているので、Gaの添加によってAgの凝集を抑制することができ、電気抵抗の増加を抑制することができる。また、Yの添加によって耐アルカリ性を向上させることができる。さらに、Snの添加によって耐環境性を向上させることができる。
【0045】
さらに、本実施形態では、Ag膜12の厚さt2を10nm以下に設定しているので、透過率を向上させることができる。また、基板20の表面に下地層として第1透明導電酸化物膜11が形成されているので、Ag膜12の厚さを10nm以下としてもAgの凝集がなく連続膜となり、電気抵抗を低くすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、Ag膜12を、Cu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を合計で0.2原子%以上10.0原子%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金で構成したものとしているので、Ag膜12の凝集がさらに抑制されることになり、Ag膜12をさらに薄く形成しても連続膜となり、高い透過率と低い抵抗値とを両立することできる。
【0047】
さらに、本実施形態では、波長400〜800nmの可視光域の平均透過率が85%以上、シート抵抗値が10Ω/□以下とされており、十分に高い透過率及び低い電気抵抗を有しているので、微細化された透明電極膜又は透明配線膜として使用することができる。
【0048】
また、本実施形態である積層配線膜30においては、本実施形態である積層透明導電膜10に配線パターンが形成されたものであることから、低い電気抵抗と高い透過率を有している。
【0049】
さらに、本実施形態においては、エッチング工程S13において、リン酸、酢酸を含む酸性の混合液をエッチャントとして使用した場合に、Ag膜12と第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13とのエッチング速度の差が小さいことから、この積層透明導電膜10を一括エッチングしても、Ag膜12のオーバーエッチングや第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の残渣等が発生することが抑制でき、精度良く配線パターンを形成することができる。
また、本実施形態では、Yの添加によって第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の耐アルカリ性が向上されているので、レジスト膜除去工程S14において、アルカリ性のレジスト除去液を用いてレジスト膜を除去しても、積層配線膜30の特性の劣化を抑制することができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、Ag膜12をCu,Sn,Sb,Zn、Ge,In,Al,Ga,Ti,Mg,Pd,Au,Pt,Bi,Mn,Sc,Y,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Erのうちの1種又は2種以上を合計で0.2原子%以上10.0原子%以下含有し、残部がAg及び不可避不純物からなるAg合金で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、純Agや、Agに固溶する他の金属元素を含有するAg合金であってもよい。
【0051】
また、本実施形態では、第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の膜厚を40nm程度のものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の膜厚としてもよい。ただし、本実施形態に記載したように、光学シミュレーションを行い、光干渉効果によって透過率が向上する膜厚を選択することが好ましい。
【0052】
さらに、本実施形態では、積層配線膜30をエッチング法によって製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図5及び
図6に示すように、積層配線膜30をリフトオフ法によって製造してもよい。
図5及び
図6に示す積層配線膜30の製造方法においては、まず、基板20の成膜面にレジスト膜41を成膜し、このレジスト膜41に露光・現像することで、配線パターンを反転させた反転パターンを形成する(レジスト膜形成工程S21)。
【0053】
次に、反転パターンを有するレジスト膜41が形成された基板20上に、スパッタ法により、第1透明導電酸化物膜11、Ag膜12、第2透明導電酸化物膜13を順に成膜する。これにより、レジスト膜41及び基板20上に積層透明導電膜10が形成される(積層透明導電膜成膜工程S22)。
次に、アルカリ性のレジスト除去液を用いて、レジスト膜41を除去する(レジスト膜除去工程S23)。
これにより、反転パターン状のレジスト膜41上に成膜された積層透明導電膜10は除去され、配線パターンを有する積層配線膜30が形成される。
【0054】
この構成の積層配線膜30の製造方法によれば、エッチング工程を行うことなく、配線パターンを精度良く形成することができる。また、Yの添加によって第1透明導電酸化物膜11及び第2透明導電酸化物膜13の耐アルカリ性が向上されているので、レジスト膜除去工程S23において、アルカリ性のレジスト除去液を用いてレジスト膜を除去しても、積層配線膜30の特性の劣化を抑制することができる。
【実施例】
【0055】
本発明に係る積層透明導電膜の作用効果について確認した確認実験の結果について説明する。
【0056】
ガラス基板(無アルカリガラス:50mm×50mm×1mmt)の表面に、表1−3に示す構造の積層透明導電膜をスパッタリング法により成膜した。なお、比較例A,Bでは、ITO単層膜をスパッタリング法により成膜した。また、比較例Bのみ、ガラス基板を200℃に加熱して成膜した。
なお、比較例において、ITO膜(In
2O
3にSnを添加した酸化物)の組成はIn:35.6原子%、Sn:3.6原子%、O:60.8原子%である。
GZO膜(ZnOにGaを添加した酸化物)の組成はZn:47.3原子%、Ga:2.2原子%、O:50.5原子%である。
GZTO膜(ZnOにGa、Snを添加した酸化物)の組成は、Zn:40.0原子%、Ga:6.7原子%、Sn:1.1原子%、O:52.2原子%である。
GZYO膜(ZnOにGa、Yを添加した酸化物)の組成は、Zn:39.1原子%、Ga:6.5原子%、Y:2.2原子%、O:52.2原子%である。
ZTYO膜(ZnOにSn、Yを添加した酸化物)の組成は、Zn:40.9原子%、Sn:2.3原子%、Y:4.6原子%、O:52.2原子%である。
GTYO膜(SnO2にGa、Yを添加した酸化物)の組成は、Sn:30.5原子%、Ga:1.7原子%、Y:1.7原子%、O:66.1原子%である。
【0057】
ここで、透明導電酸化物膜の膜厚は、実施の形態で説明した光学シミュレーションを行い、光学的干渉効果によって可視光域の透過率が向上する膜厚を選択し、本発明例においては、すべて40nmとした。
なお、本発明の実施例および比較例におけるAg膜及び透明導電酸化物膜の膜厚は、膜厚計(アルバック社製 DEKTAK)を用いて測定した。
また、透明導電酸化物膜およびAg合金膜の組成は、ICP発光分光装置(日立ハイテクサイエンス社製ICP発光分光分析装置STS−3500DD)を用いて元素の定量分析を行うことにより求めた。
【0058】
透明導電酸化物膜の作製には、表1−3と上に記載した組成の酸化物焼結体ターゲットを用いた。
Ag膜の作製には、表1−3に記載された組成のAgターゲットを用いた。また、比較例として、Ag膜の代わりにCu膜、Al膜を用いた積層膜透明導電膜を、Cuターゲット、Alターゲットを使用して作製した。
それぞれの膜の成膜条件を以下に示す。
【0059】
<透明導電酸化物膜の成膜条件>
スパッタリング装置:DCマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製CS−200)
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、垂直成分)
到達真空度:5×10
−5Pa以下
スパッタリングガス:Ar+O
2の混合ガス(O
2の混合比2%)
スパッタリングガス圧:0.4Pa
スパッタリングパワー:DC100W
【0060】
<Ag膜、Cu膜、Al膜の成膜条件>
スパッタリング装置:DCマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製CS−200)
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、垂直成分)
到達真空度:5×10
−5Pa以下
スパッタリングガス:Ar
スパッタリングガス圧:0.5Pa
スパッタリングパワー:DC100W
【0061】
得られた積層透明導電膜及びITO単層膜について、成膜後のシート抵抗及び透過率を評価した。
また、恒温恒湿試験後のシート抵抗及び透過率、及び、耐アルカリ性試験後のシート抵抗及び透過率を評価した。
さらに、得られた積層透明導電膜について、エッチング法によるパターニング試験、及び、リフトオフ法によるパターニング試験を行った。
評価方法について以下に示す。
【0062】
<シート抵抗>
表面抵抗測定器(三菱油化社製 Loresta AP MCP−T400)を用いて、四探針法によってシート抵抗を測定した。
<透過率>
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U4100)を用いて、400nmから800nmの波長範囲における透過率スペクトルを測定し、平均透過率(透過率)を求めた。
【0063】
<恒温恒湿試験>
温度85℃、湿度85%の恒温恒湿槽に250時間放置し、試験後の透過率及びシート抵抗を測定して試験前からの変化率を評価した。
【0064】
<耐アルカリ性試験>
温度40℃のアルカリ性のレジスト除去液(pH9、東京応化工業社製TOK−104)に10分浸漬し、浸漬後の透過率及びシート抵抗を測定して、浸漬前からの変化率を評価した。
【0065】
<エッチング法によるパターンニング試験>
上述の積層透明導電膜について、フォトリソ法により積層透明導電膜の上にレジスト膜を、ライン幅/スペース幅:30μm/30μmの配線パターン状に形成した。これを、リン酸、酢酸を含む混合液(関東化学社製SEA−5)をエッチャントに用いて、一括エッチングを行った。なお、エッチングは無加熱でそれぞれ適切なエッチング時間(20秒から120秒)で行った。また、混合液におけるリン酸の含有量を55体積%以下、酢酸の含有量を30体積%以下とした。
その後、アルカリ性のレジスト除去液(pH9、東京応化工業社製TOK−104)を用いてレジスト膜を除去した後、形成された配線パターンを光学顕微鏡(KEYENCE社製レーザーマイクロスコープVK−X200)で観察した。本発明例4の観察結果及び比較例12の観察結果を
図7に示す。
図7(a)が本発明例4の観察結果、
図7(b)が比較例12の観察結果である。
【0066】
<リフトオフ法によるパターンニング試験>
まず、基板にレジスト液を塗布して、ライン幅/スペース幅:30μm/30μmの配線パターンが形成されたフォトマスクを付けて露光機で紫外線を当てた後、現像液で感光された部分を除去し、フォトリソ法によって反転パターンを形成した。
次に、反転パターンが形成された基板の上に、上述のようにスパッタリング装置を用いて積層透明導電膜を成膜した。
次に、レジスト除去液に浸漬し、レジスト膜の上に成膜された積層透明導電膜を除去した後、形成された配線パターンを光学顕微鏡で観察した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【表9】
【0076】
本発明例では、成膜後の平均透過率がいずれも85%を超えており、さらに、成膜後シート抵抗がいずれも10Ω/□以下であり、透過率に優れ、かつ、抵抗が十分に低い積層透明導電膜が得られることが確認された。
一方、比較例においては、成膜後の平均透過率がいずれも85%以下であり、成膜後のシート抵抗はAg膜の組成と膜厚が同じサンプルで比較すると本発明例に比べて高くなっていた。Ag膜においてAgの凝集が発生したためと推測される。
また、比較例Aでは、ITO単層膜を600nmと厚く形成することで、シート抵抗が10Ω/□以下となったが、平均透過率が76.4%と大きく劣化した。
さらに、比較例Bでは、ガラス基板を200℃に加熱することで、膜厚が180nmでシート抵抗が10Ω/□以下となったが、平均透過率は85%以下であった。
【0077】
また、恒温恒湿試験の結果、本発明例では、恒温恒湿試験後の透過率及びシート抵抗の変化率が小さく、耐環境性に優れていることが確認された。
一方、比較例では、A、Bを除き、恒温恒湿試験後の透過率又はシート抵抗の変化率が大きく、耐環境性が不十分であった。
【0078】
さらに、耐アルカリ性試験の結果、本発明例では、耐アルカリ性試験後の透過率及びシート抵抗の変化率が小さく、試験後の平均透過率は全て85%以上あり、耐アルカリ性に優れていることが確認された。
一方、比較例では、耐アルカリ性試験後の透過率又はシート抵抗の変化率が大きいサンプルが多く見られ、耐アルカリ性が不十分なサンプルが多かった。それらの変化率が小さいサンプルでも、試験後の平均透過率は全て85%以下であった。
【0079】
また、エッチング法によるパターンニング試験の結果、本発明例では、Agのオーバーエッチングや透明導電酸化物膜の残渣が認められず、配線パターンを精度良く形成可能であることが確認された。
一方、比較例では、Agのオーバーエッチングや透明導電酸化物膜の残渣が発生し、一括エッチングによっては、配線パターンを精度良く形成することが困難であった。
【0080】
また、リフトオフ法によるパターンニング試験の結果、本発明例において、配線パターンを精度良く形成可能であることが確認された。
【0081】
以上のことから、本発明例によれば、Ag膜を薄く形成してもAgの凝集がなく、透過率が高く、抵抗値の低い積層透明導電膜を提供可能であることが確認された。