(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のドリルでは、下記の課題を有していた。
例えば軟らかい金属材料等からなる被削材を穴あけ加工する際に、第2マージン部が被削材の加工穴の内周面を傷付けて、うねり模様等の加工痕が生じることがあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、たとえ軟らかい金属材料等の被削材を穴あけ加工する場合であっても、被削材の加工穴の内周面を傷付けてしまうことを抑制でき、加工品位を高めることができるドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、軸状をなし、軸線回りの周方向のうちドリル回転方向に回転させられるドリル本体と、前記ドリル本体の外周に、軸線方向の先端から基端側へ向かうように延び、周方向に互いに間隔をあけて形成された複数の切屑排出溝と、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記ドリル本体の先端面との交差稜線部に形成された切れ刃と、前記先端面と該先端面のドリル回転方向とは反対側に隣り合う前記切屑排出溝との間に形成されたシンニング面と、前記ドリル本体の外周において周方向に隣り合う前記切屑排出溝同士の間に形成されたランド部と、前記ランド部において前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面に隣接配置された第1マージン部と、前記ランド部において前記第1マージン部よりもドリル回転方向とは反対側に配置された第2マージン部と、を備えたドリルであって、前記ドリル本体を軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記第2マージン部は、前記シンニング面の外周縁のうち、ドリル回転方向とは反対側の後端に配置されており、前記ドリル本体の軸線に垂直なドリル横断面視において、前記第2マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ仮想直線と、前記ランド部における前記第2マージン部のドリル回転方向に隣接するマージン前壁面の延長線と、の間に形成される角度が、30°以下であり、前記第2マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ線分の長さが、前記第1マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ線分の長さの半分以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明のドリルは、ドリル本体の先端面を正面に見たドリル正面視(ドリル先端視)において、第2マージン部が、シンニング面の外周縁に配置されている。つまり、第2マージン部が、ドリル本体の先端面(先端逃げ面)の外周縁ではなく、該先端面よりもドリル回転方向とは反対側に位置するシンニング面の外周縁に配置されている。このため、ドリル本体の外周の第2マージン部とシンニング面との間には交差稜線部が形成され、第2マージン部と先端面との間には交差稜線部は形成されない。
【0008】
一般にシンニング面は、ドリル本体の先端面よりも逃げ角が大きい。従って、例えば本発明とは異なり、ドリル本体の先端面と第2マージン部との間に交差稜線部が形成されている場合に比べて、本発明のように、ドリル本体のシンニング面と第2マージン部との間に形成された交差稜線部は、ドリル周方向に沿う単位長さあたりのドリル軸線方向へ向けた変位量(つまり傾き)が大きくなる。このため、本発明における第2マージン部の交差稜線部は、被削材の加工穴の内周面に対して傾斜が立った状態とされて(ねじれ角が小さくされて)、加工穴の内周面の加工品位に影響を及ぼしにくくされている。
【0009】
具体的に本発明では、ドリル正面視において第2マージン部が、シンニング面の外周縁のうち、ドリル回転方向の後端に配置されている。
つまり本発明の発明者は、ドリル及びその第2マージン部について鋭意研究を重ねた結果、第2マージン部が、ドリル本体のシンニング面の外周縁のうちドリル回転方向とは反対側の後端に配置されていると、後述する本発明の特別な構成による作用効果と相俟って、第2マージン部が切れ刃として作用しにくくなり、被削材の加工穴の内周面精度を顕著に向上できる、という知見を得るに至った。
【0010】
上記試験結果について詳細なメカニズムはわかっていないが、加工穴の内周面の形状評価を行った結果、硬度が低い被削材の穴あけ加工時において、本発明とは異なり、例えば第2マージン部をランド部の周方向の中央部に設けた場合には、第2マージン部が切れ刃として作用し、加工穴の内周面を傷付けてうねり模様等の加工痕が生じていた。
これに対して本発明のように、第2マージン部をランド部のうちドリル回転方向とは反対側の後端部(つまりシンニング面の外周縁の後端部分)に設けた場合には、第2マージン部が切れ刃として作用せず、つまり第2マージン部によって加工穴の内周面が傷付けられることはなく、うねり模様等の加工痕は発生しなかった。
【0011】
なお、第2マージン部が、ドリル本体のシンニング面の外周縁のうちドリル回転方向とは反対側の後端に配置されていると、第1マージン部と第2マージン部とがドリル周方向に略均等に配置されやすくなって、穴あけ加工時におけるドリルの周方向バランスを安定化しやすくなるので、この作用によっても加工面精度の向上を図ることができる。
【0012】
そして本発明は、下記の特別な構成を備えている。
すなわち、ドリル本体の軸線に垂直なドリル横断面視において、第2マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ仮想直線と、ランド部における第2マージン部のドリル回転方向に隣接するマージン前壁面の延長線と、の間に形成される角度が、30°以下である(
図6の角度θを参照)。言い換えると、マージン前壁面と第2マージン部とが、互いの間に大きな鈍角(略150°以上)を形成するように交差しているため、これらのマージン前壁面と第2マージン部との接続部分において、切れ刃として作用するようなエッジが形成されない。
【0013】
具体的には、前記仮想直線とマージン前壁面の延長線との間に形成される角度が30°以下であるので、第2マージン部に対して、マージン前壁面を緩やかに傾斜させつつ、なだらかに接続することができる。これにより、第2マージン部とマージン前壁面との接続部分に、鋭いエッジが形成されることを確実に防止できる。
このため、第2マージン部とマージン前壁面との接続部分が、被削材の加工穴の内周面に意図せず切り込んで傷付けてしまうようなことを確実に防止でき、加工品位を高めることができる。特に本発明によれば、たとえ硬度が低い被削材に穴あけ加工する場合であっても、加工穴の内周面にうねり模様等の加工痕が形成されることを顕著に抑制できて、加工面精度を良好に維持できる。
【0014】
なお、前記仮想直線とマージン前壁面の延長線との間に形成される角度を5°以上とした場合には、マージン前壁面が第2マージン部に対して緩やかな傾斜となり過ぎて意図せずマージンの一部として機能してしまうようなことを防止でき、好ましい。つまりこの場合、マージン前壁面が確実に二番取り面の一部として機能するとともに、該マージン前壁面が第2マージン部とともに被削材の加工穴の内周面に摺接してしまうようなことを防止できる。
【0015】
従って、例えばマージン前壁面が加工穴の内周面に摺接して第2マージン部の所期するマージン機能に影響を与えたり、切削抵抗を増大させてしまったりするような不具合を防止できる。そして穴あけ加工の精度を良好に維持しつつ、ドリルを長寿命化することが可能となる。
【0016】
また本発明のドリルは、ドリル横断面視において、第2マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ線分の長さが、第1マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ線分の長さの半分以下である。これにより、第2マージン部のドリル周方向の長さ(第2マージン部の幅)が低減されて、下記の優れた作用効果を奏する。
すなわち、第2マージン部の表面積が低減されるため、該第2マージン部に切粉が噛み込んで加工穴の内周面を傷付けてしまうような不具合が防止される。詳しくは、例えば本発明とは異なり、第2マージン部の幅が第1マージン部の幅の半分よりも大きく設定された場合には、該第2マージン部の表面積が大きくなるとともに、マージン表面と被削材との間に細かい切粉が噛み込まれやすくなって、加工穴の内周面精度に影響する(面粗さが悪くなる)。一方、本発明のように、第2マージン部の幅が第1マージン部の幅の半分以下に設定されていると、該第2マージン部の表面積が小さく抑えられるとともに、マージン表面と被削材との間に細かい切粉が噛み込みにくくなって、加工穴の内周面精度が良好に維持される(面粗さが良くなる)。
【0017】
また、例えば本発明とは異なり、第2マージン部の幅が第1マージン部の幅の半分よりも大きく設定された場合には、該第2マージン部の表面積が大きくなるとともに、第2マージン部全体にクーラント(油性又は水溶性の切削液剤)が行き渡りにくくなって、やはり加工穴の内周面精度に影響する。特に第2マージン部は、切屑排出溝のドリル回転方向とは反対側に隣接配置される第1マージン部に比べて、この切屑排出溝からドリル回転方向とは反対側へ大きく離れて配置されるマージン部であることから、該切屑排出溝内を流れるクーラントを第2マージン部全体に行き渡らせることが困難である。そこで本発明のように、第2マージン部の幅が第1マージン部の幅の半分以下に設定されていると、該第2マージン部の表面積が小さく抑えられるとともに、第2マージン部全体にクーラントが行き渡りやすくなって、切削抵抗を安定して抑制したり切削熱の上昇を抑えることができて、加工穴の内周面精度を安定的に高めることができる。
【0018】
そして本発明においては、上述のように第2マージン部の幅が第1マージン部の幅の半分以下とされていても、該第2マージン部のドリル回転方向に傾斜の緩やかなマージン前壁面が隣接配置されていることによって、第2マージン部の肉厚が十分に確保されるとともに剛性が高く維持されて、第2マージン部に損傷等が生じるようなことが防止されている。つまり、従来のドリルにおいては、第2マージン部とマージン前壁面との接続部分にエッジが形成されているとともに、マージン前壁面の傾斜が立っているため、第2マージン部の肉厚が不足して剛性が十分ではなく、また切削時に前記エッジに対する衝撃も大きく作用しやすいことから、第2マージン部の幅を第1マージン部の幅の半分以下とした場合には、第2マージン部に損傷等が生じるおそれがある。このような不具合を、本発明では傾斜の緩やかなマージン前壁面と幅の狭い第2マージン部とを組み合わせたことにより防止して、上述した格別顕著な効果を得ることができるのである。
【0019】
また、穴あけ加工時には、被削材に対してドリル本体が軸線方向の先端側へ向けて送られていき、被削材の加工穴に対して、マージン前壁面とシンニング面との交差稜線部が挿入された後、第2マージン部が挿入される。この交差稜線部は、マージン前壁面とシンニング面との交差稜線をなしており、軸線方向の基端側へ向かうに従い徐々にドリル径方向の外側へ向かって緩やかに傾斜して延びている。そして穴あけ加工時には、まず前記交差稜線部が加工穴に対してスムーズに挿入され、これにガイドされるように第2マージン部が加工穴に挿入されることになる。つまり、第2マージン部が加工穴に芯合わせされた状態で、該加工穴内に挿入されていく。
このため本発明のドリルによれば、第2マージン部が加工穴の内周面を傷付けてしまうような不具合を格別顕著に抑制することができる。
【0020】
以上より本発明のドリルによれば、たとえ軟らかい金属材料等の被削材を穴あけ加工する場合であっても、被削材の加工穴の内周面を傷付けてしまうことを抑制でき、加工品位を高めることができる。
【0021】
また、上記ドリルにおいて、前記第2マージン部の周方向の長さに対して、前記マージン前壁面の周方向の長さが長いことが好ましい。
【0022】
この場合、第2マージン部に対してマージン前壁面を緩やかな傾斜で接続しやすくなり、第2マージン部とマージン前壁面との接続部分にエッジが形成されにくくなることによる加工精度向上の効果や、マージン前壁面によって第2マージン部の剛性が高められるという効果等が、より格別顕著なものとなる。
【0023】
また、マージン前壁面の周方向長さが長い分、該マージン前壁面のドリル回転方向に隣接する二番取り面の部分(二番取り面のうちマージン前壁面以外の部分)における深さ(径方向内側へ向けた窪み量)を十分に確保することができ、二番取り面による各種機能を安定化できる。具体的に、上記二番取り面による各種機能とは、例えば、被削材の加工穴の内周面から二番取り面を確実に離間させて切削抵抗を低減させる機能や、加工穴の内周面と二番取り面との間で切粉の噛み込みを防止する機能や、二番取り面を通してクーラントを流通させる機能等である。
【0024】
また、上記ドリルにおいて、前記ドリル横断面視において、前記第2マージン部のドリル回転方向の前端とドリル回転方向とは反対側の後端とを結ぶ仮想直線と、前記マージン前壁面の延長線と、の間に形成される角度が、25°以下であることが好ましい。
【0025】
この場合、マージン前壁面と第2マージン部とが、互いの間により大きな鈍角(略155°以上)を形成するように交差することから、これらのマージン前壁面と第2マージン部との接続部分において、切れ刃として作用するようなエッジをより形成しにくくして、加工穴の内周面精度を格別顕著に向上することができる。また、第2マージン部の剛性をより高めることができる。
【0026】
また、上記ドリルにおいて、当該ドリルはツイストドリルであり、前記ドリル本体には前記先端面及び前記シンニング面が各一対形成され、前記ドリル本体を軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記先端面と前記シンニング面との交差稜線は直線状をなしており、一対の前記交差稜線のうち、第1の交差稜線を第2の交差稜線に向けて延ばした延長線は、該第2の交差稜線上に一致し、又は該第2の交差稜線よりもドリル回転方向とは反対側に配置されることが好ましい。
【0027】
この場合、先端面(先端逃げ面)に対してシンニング面の割合が大きくなる傾向にあり、シンニング面が大きく形成されるので切屑排出性が優れ切削抵抗が低下する。
【0028】
また、上記ドリルにおいて、一対の前記交差稜線のうち、第1の交差稜線を第2の交差稜線に向けて延ばした延長線は、該第2の交差稜線よりもドリル回転方向とは反対側に配置され、前記延長線と前記第2の交差稜線との間の周方向に沿う距離が、0.08mm以下であることが好ましい。
【0029】
この場合、先端面(先端逃げ面)に対してシンニング面の割合が過度に大きくなり過ぎるのを防止でき、ドリルの剛性を高く維持することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のドリルによれば、たとえ軟らかい金属材料等の被削材を穴あけ加工する場合であっても、被削材の加工穴の内周面を傷付けてしまうことを抑制でき、加工品位を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態に係るドリル10について、図面を参照して説明する。なお、本発明の実施形態の説明に用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、要部となる部分を拡大したり抜粋したりして示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際のものと同じであるとは限らない。
【0033】
図1〜
図3に示されるように、本実施形態のドリル10は、軸状をなすドリル本体1を有している。ドリル本体1は、その軸線O方向に沿う第1の端部が刃部とされ、軸線O方向に沿う第2の端部を含む前記第1の端部以外の部位(つまり刃部以外の部位)が、図示しないシャンク部とされている。
【0034】
ドリル本体1のシャンク部は、例えば工作機械の主軸やボール盤等に着脱可能に装着される。ドリル本体1は、被削材に対して軸線O回りの周方向のうちドリル回転方向Tに回転させられ、軸線O方向へ送り出されて、刃部により被削材に切り込んで穴あけ加工を行う。
なお、本実施形態のドリル10は、特に、軟らかい金属材料等からなる被削材の穴あけ加工に適している。
【0035】
本実施形態で用いる向き(方向)の定義は、下記の通りである。
ドリル本体1の軸線Oに沿う方向(軸線Oが延在する方向)を、軸線O方向という。また、軸線O方向のうち、ドリル本体1のシャンク部から刃部へ向かう方向(
図2における上方)を先端側といい、刃部からシャンク部へ向かう方向(
図2における下方)を基端側という。
また、軸線Oに直交する方向を径方向という。径方向のうち、軸線Oに接近する方向を径方向の内側といい、軸線Oから離間する方向を径方向の外側という。
また、軸線O回りに周回する方向を周方向という。周方向のうち、穴あけ加工時にドリル本体1が回転させられる向きをドリル回転方向Tといい、これとは反対の回転方向を、ドリル回転方向Tとは反対側(反ドリル回転方向)という。
【0036】
ドリル本体1の外周には、軸線O方向の先端から基端側へ向かうように延びる切屑排出溝2が、周方向に互いに間隔をあけて複数形成されている。切屑排出溝2は、ドリル本体1の先端に開口し、該先端から軸線O方向の基端側へ向かうに従い徐々にドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。
【0037】
複数の切屑排出溝2は、軸線Oに関して回転対称位置となるように、ドリル本体1の外周において周方向に等間隔をあけて(等ピッチで)配置されている。
図1に示されるように、切屑排出溝2は、溝の内周が凹曲面状をなしている。
本実施形態の例では、ドリル10がツイストドリルであり、ドリル本体1の外周には、2つの切屑排出溝2が形成されている。またこれにともなって、ドリル本体1の後述する先端面3、切れ刃4、シンニング面5及びランド部15についても、それぞれ2つずつ(各一対)形成されている。
【0038】
特に図示していないが、切屑排出溝2は、例えばドリル本体1の軸線O方向の中央部付近から基端側に位置する領域において、径方向外側へ向けてドリル本体1の外周面に切れ上がっている。そしてドリル本体1において、軸線O方向に沿う切屑排出溝2が形成された範囲が刃部とされ、この範囲よりも基端側の部位がシャンク部とされている。
【0039】
図1〜
図3において、ドリル本体1の先端部には、ドリル10の先端側(ドリル送り方向)を向く先端面(先端逃げ面)3と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aと先端面3との交差稜線部に形成された切れ刃4と、先端面3と該先端面3のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2との間に形成されたシンニング面5と、が備えられる。
【0040】
先端面(先端逃げ面)3は、切れ刃4のドリル回転方向Tとは反対側に隣接配置された第1先端逃げ面6と、第1先端逃げ面6のドリル回転方向Tとは反対側に隣接配置された第2先端逃げ面7と、を備えている。
第1先端逃げ面6は、切れ刃4からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い徐々に軸線O方向の基端側へ向けて傾斜している。第2先端逃げ面7は、第1先端逃げ面6からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い徐々に軸線O方向の基端側へ向けて傾斜しており、第1先端逃げ面6よりも大きな逃げ角を有している。つまり、第2先端逃げ面7におけるドリル周方向に沿う単位長さあたりの軸線O方向への変位量(逃げ角に相当する傾き)は、第1先端逃げ面6における前記変位量よりも大きい。
【0041】
図1に示されるように、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視において、第1先端逃げ面6は、径方向に延びる帯状(径方向に長い略四角形状)をなしており、第2先端逃げ面7は、扇形状をなしている。
本実施形態の例では、先端面3が、互いに異なる2つの傾斜面(第1先端逃げ面6及び第2先端逃げ面7)を有しているが、これに限定されるものではない。先端面3は、単一の傾斜面により形成されていてもよく、或いは3つ以上の傾斜面を備えていてもよい。
【0042】
先端面3には、クーラント孔8が開口している。クーラント孔8は、ドリル本体1の内部を切屑排出溝2に沿うようにねじれて延びており、ドリル本体1を軸線O方向に貫通して形成されている。クーラント孔8内には、例えば工作機械の主軸等を通して供給されるクーラント(油性又は水溶性の切削液剤、或いは圧縮エア等)が流通する。クーラントは、ドリル本体1のクーラント孔8を通して、ドリル本体1の先端部(刃部)及び被削材の加工部位に向けて流出させられる。
【0043】
本実施形態の例では、クーラント孔8が、先端面3のうち第2先端逃げ面7上に開口している。これに代えて、またはこれとともに、クーラント孔8が、第1先端逃げ面6やシンニング面5に開口していてもよい。
【0044】
切れ刃4は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aにおける先端部と、先端面3における第1先端逃げ面6と、の交差稜線部に形成されている。切れ刃4は、壁面2aをすくい面とし、先端面3(第1先端逃げ面6)を逃げ面として形成されている。切れ刃4は、先端刃、底刃、主切れ刃等と言い換えられてもよい。
【0045】
切れ刃4の刃長(全長)のうち、径方向内側の端部に位置する部分はシンニング刃9とされている。シンニング刃9は、
図2に符号14で示されるシンニング壁面(シンニングすくい面)と、先端面3(第1先端逃げ面6)との交差稜線部に形成されている。
【0046】
図1において、シンニング面5は、ドリル本体1の先端部のうち、切屑排出溝2のドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面2bから溝底部(切屑排出溝2のうち最も径方向内側に位置する最深部)にかけての領域と、該領域のドリル回転方向Tに隣り合う先端面3と、の間に位置する部分に形成されている。シンニング面5は、軸線O方向の先端側及びドリル回転方向Tとは反対側を向くように傾斜した平面状をなしている。
【0047】
シンニング面5は、先端面3(第1先端逃げ面6及び第2先端逃げ面7)よりも大きな逃げ角を有している。つまり、シンニング面5におけるドリル周方向に沿う単位長さあたりの軸線O方向への変位量(逃げ角に相当する傾き)は、先端面(先端逃げ面)3における前記変位量よりも大きい。
【0048】
図1〜
図3及び
図5において、ドリル本体1の外周のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝2同士の間には、ランド部15が形成されている。
ランド部15は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aのドリル回転方向Tとは反対側に隣接配置された第1マージン部11と、第1マージン部11よりもドリル回転方向Tとは反対側に配置された第2マージン部12と、を備えている。つまり本実施形態のドリル10は、ダブルマージンタイプのドリルである。
また、ランド部15のうち、第1マージン部11及び第2マージン部12以外の部位は、これらのマージン部11、12よりも径方向内側に後退させられた二番取り面とされている。
【0049】
切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aと、第1マージン部11との交差稜線部のうち、少なくとも軸線O方向の先端部には、リーディングエッジ(外周刃)が形成されている。本実施形態の例では、ドリル本体1の刃部の外径が、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い徐々に小さくされており、バックテーパが与えられている。これに応じて、リーディングエッジの外径も、ドリル本体1の先端から基端側へ向けて徐々に小さくされている。ただしこれに限定されるものではなく、ドリル本体1の刃部には、バックテーパが付与されていなくてもよい。つまりドリル本体1の外周刃は、軸線O方向に沿って一定の外径とされていてもよい。
【0050】
ランド部15において第1マージン部11は、切れ刃4の最外径(切れ刃4の径方向の外端が軸線O回りに回転して形成される回転軌跡の円の直径)と略等しい外径を有する軸線Oを中心とした仮想円筒面上に位置するように形成されている。第1マージン部11は、切屑排出溝2が螺旋状にねじれて延びているのにともなって、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い徐々にドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。
【0051】
図1に示されるドリル正面視、及び
図5に示されるドリル本体1の軸線Oに垂直な断面視(ドリル横断面視)において、第1マージン部11は、軸線Oを中心とする円弧状(径方向外側へ向けて凸となる円弧状)をなしている。また
図1のドリル正面視で、第1マージン部11は、先端面3(第1先端逃げ面6)の外周縁に配置されている。このため、第1マージン部11の軸線O方向の先端は、先端面3に接続している。
【0052】
図1及び
図5に示されるように、ランド部15において第2マージン部12は、第1マージン部11に対してドリル回転方向Tとは反対側に離間して配置されている。
図2及び
図3において、第2マージン部12は、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い徐々にドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。また、第2マージン部12は、第1マージン部11に対して略平行に延びている。
図1に示されるドリル正面視及び
図5に示されるドリル横断面視で、第2マージン部12は、軸線Oを中心とする円弧状(径方向外側へ向けて凸となる円弧状)をなしている。
【0053】
そして、
図1及び
図4に示されるように、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、第2マージン部12は、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tとは反対側の後端5b(ヒールに相当)に配置されている。つまりこのドリル正面視において、第2マージン部12は、その全体(円弧の全長)がシンニング面5の外周縁に位置している。このため第2マージン部12の軸線O方向の先端は、シンニング面5にのみ接続しており、先端面3には接続していない。
【0054】
また、
図1に示されるドリル正面視において、第2マージン部12は、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tの前端5aからはドリル回転方向Tとは反対側に離間して配置されている。つまりこのドリル正面視で、第2マージン部12は、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tとは反対側の端部に配置されている。
【0055】
また、
図1及び
図4に示されるドリル正面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aは、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tの前端5aと後端5bとの中間点と、後端5bとの間に位置している。またこのドリル正面視で、第2マージン部12のドリル回転方向Tとは反対側の後端12bは、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tとは反対側の後端5bに一致させられている。
【0056】
そして、
図5及び
図6に示されるドリル本体1の軸線Oに垂直なドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ仮想直線VLと、ランド部15における第2マージン部12のドリル回転方向Tに隣接するマージン前壁面(第2マージン前壁面)16の延長線Lと、の間に形成される角度θが、30°以下である。
具体的に、マージン前壁面16は、第2マージン部12の軸線O回りの回転軌跡(後述する仮想円筒面VC)よりも径方向内側に位置しており(
図1及び
図4参照)、本実施形態において角度θは、0°を超え(好ましくは5°以上であり)、30°以下である。より好ましくは、角度θは10°以上であり、25°以下である。
【0057】
マージン前壁面16は、ランド部15の二番取り面に形成され、第2マージン部12のドリル回転方向Tに隣接配置されている。マージン前壁面16は、ドリル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い徐々に径方向の外側へ向けて傾斜して形成されている。従って、マージン前壁面16の上記延長線Lも、ドリル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い徐々に径方向の外側へ向けて傾斜して延びている。そして上記角度θは、この延長線Lと、仮想直線VLとが交差して形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度を指している。
【0058】
図1、
図4及び
図5において、符号VCは、第2マージン部12が軸線O回りに回転して形成される仮想円筒面を表している。マージン前壁面16は、ドリル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い(ドリル周方向に沿って第2マージン部12に近づくに従い)徐々に仮想円筒面VCに接近するように、緩やかに傾斜して延びている。
【0059】
本実施形態の例では、
図5及び
図6に示されるドリル横断面視において、マージン前壁面16が、径方向外側へ向けて膨出する凸曲線状、又は直線状をなしている。そしてマージン前壁面16は、第2マージン部12の前端12aに対して接するように、つまり第2マージン部12との間にエッジを形成することのないように、なだらかに接続している。なお、このドリル横断面視においてマージン前壁面16は、凹曲線状をなしていてもよい。ただし、マージン前壁面16のうち少なくとも第2マージン部12との接続部分については、ドリル横断面視において径方向外側へ向けて凸となる凸曲線状又は直線状に形成されていることが好ましい。望ましくは、ドリル横断面視においてマージン前壁面16の全体が、径方向外側へ向けて凸となる凸曲線状又は直線状に形成される。
【0060】
本実施形態の例では、
図6に示されるドリル横断面視において、ランド部15のうち、マージン前壁面16のドリル回転方向Tの前端16aのドリル回転方向T前後の壁面同士が、互いに大きな鈍角(略150°〜180°)を形成するように交差している。すなわち、
図6においてマージン前壁面16と、該マージン前壁面16の前端16aよりもドリル回転方向Tに位置する壁面部分19とが、互いの間に上記鈍角を形成するようになだらかに接続している。これにより、マージン前壁面16と壁面部分19との接続部分(前端16a近傍)は、凹状又は平面状に形成される。なお、ドリル本体1の内部から見た場合には、マージン前壁面16のドリル回転方向Tの前端16aのドリル回転方向T前後の壁面同士が、略180°〜210°の角度で交差(接続)している、ともいえる。
【0061】
図4に示されるドリル正面視において、マージン前壁面16のドリル回転方向Tの前端16aは、シンニング面5の外周縁に位置している。本実施形態の例では、このドリル正面視においてマージン前壁面16の前端16aが、シンニング面5の外周縁のうち、前端5aと後端5bとの中間点近傍に配置されており、具体的にはこの中間点よりも僅かにドリル回転方向Tとは反対側に位置している。
【0062】
図1及び
図5に示されるように、本実施形態の例では、ランド部15の第1マージン部11と第2マージン部12との間に位置する二番取り面のうち、マージン前壁面16を除いた部位の二番取り深さが、ドリル周方向に沿って略一定とされている。
【0063】
そして、
図5及び
図6に示されるドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ線分(仮想線分)の長さが、第1マージン部11のドリル回転方向Tの前端11aとドリル回転方向Tとは反対側の後端11bとを結ぶ線分(仮想線分)の長さの半分以下である。言い換えると、ドリル横断面視において、第1マージン部11のドリル回転方向Tの前端11aとドリル回転方向Tとは反対側の後端11bとを結ぶ線分の長さに対する、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ線分の長さの割合Pが、50%以下である。
また、割合Pは、25%以上である。より好ましくは、割合Pは30%以上であり、45%以下である。
【0064】
また、第2マージン部12の周方向の長さに対して、マージン前壁面16の周方向の長さが長くされている。本実施形態の例では、第2マージン部12の周方向の長さに対して、マージン前壁面16の周方向の長さが2倍以上であり、具体的には3倍以上である。
【0065】
図1に示されるドリル正面視で、先端面3(の第2先端逃げ面7)とシンニング面5との交差稜線Rは、直線状をなしている。このドリル正面視において、一対の交差稜線Rのうち、第1の交差稜線(一方の交差稜線)R1を第2の交差稜線(他方の交差稜線)R2に向けて延ばした延長線は、該第2の交差稜線R2上に一致し、又は該第2の交差稜線R2よりもドリル回転方向Tとは反対側に隣り合うように配置される。
【0066】
本実施形態においては、2つの交差稜線R1、R2のうち、第1の交差稜線R1を第2の交差稜線R2に向けて延ばした延長線が、該第2の交差稜線R2よりもドリル回転方向Tとは反対側に配置されており、この延長線と第2の交差稜線R2との間の周方向に沿う距離(幅Y)が、0.08mm以下である。特に、ドリル10の直径(刃径)が小さい場合には、この幅Yをより小さくすることで加工品位が高まり好ましい。具体的には、例えば直径が10mm以下のドリル10では、幅Yを0.05mm以下とすることが好ましい。
【0067】
以上説明した本実施形態のドリル10は、ドリル本体1の先端面3を正面に見たドリル正面視(ドリル先端視)において、第2マージン部12が、シンニング面5の外周縁に配置されている。つまり、第2マージン部12が、ドリル本体1の先端面(先端逃げ面)3の外周縁ではなく、該先端面3よりもドリル回転方向Tとは反対側に位置するシンニング面5の外周縁に配置されている。このため、ドリル本体1の外周の第2マージン部12とシンニング面5との間には交差稜線部が形成され、第2マージン部12と先端面3との間には交差稜線部は形成されない。
【0068】
図2及び
図3に示されるように、シンニング面5は、ドリル本体1の先端面3よりも逃げ角が大きくされている。従って、例えば本実施形態とは異なり、ドリル本体1の先端面3と第2マージン部12との間に交差稜線部が形成されている場合に比べて、本実施形態のように、ドリル本体1のシンニング面5と第2マージン部12との間に形成された交差稜線部は、ドリル周方向に沿う単位長さあたりのドリル軸線O方向へ向けた変位量(つまり傾き)が大きくなる。このため、本実施形態における第2マージン部12の前記交差稜線部は、被削材の加工穴の内周面に対して傾斜が立った状態とされて(ねじれ角が小さくされて)、加工穴の内周面の加工品位に影響を及ぼしにくくされている。
【0069】
具体的に本実施形態では、ドリル正面視において第2マージン部12が、シンニング面5の外周縁のうち、ドリル回転方向Tの後端5bに配置されている。
つまり本発明の発明者は、ドリル10及びその第2マージン部12について鋭意研究を重ねた結果、第2マージン部12が、ドリル本体1のシンニング面5の外周縁のうちドリル回転方向Tとは反対側の後端5bに配置されていると、後述する本実施形態の特別な構成による作用効果と相俟って、第2マージン部12が切れ刃として作用しにくくなり、被削材の加工穴の内周面精度を顕著に向上できる、という知見を得るに至った。
【0070】
上記試験結果について詳細なメカニズムはわかっていないが、加工穴の内周面の形状評価を行った結果、硬度が低い被削材の穴あけ加工時において、本実施形態とは異なり、例えば第2マージン部12をランド部15の周方向の中央部に設けた場合には、第2マージン部12が切れ刃として作用し、加工穴の内周面を傷付けてうねり模様等の加工痕が生じていた。
これに対して本実施形態のように、第2マージン部12をランド部15のうちドリル回転方向Tとは反対側の後端部(つまりシンニング面5の外周縁の後端5b部分)に設けた場合には、第2マージン部12が切れ刃として作用せず、つまり第2マージン部12によって加工穴の内周面が傷付けられることはなく、うねり模様等の加工痕は発生しなかった。
【0071】
なお、第2マージン部12が、ドリル本体1のシンニング面5の外周縁のうちドリル回転方向Tとは反対側の後端5bに配置されていると、第1マージン部11と第2マージン部12とがドリル周方向に略均等に配置されやすくなって、穴あけ加工時におけるドリル10の周方向バランスを安定化しやすくなるので、この作用によっても加工面精度の向上を図ることができる。
【0072】
そして本実施形態のドリル10は、下記の特別な構成を備えている。
すなわち、ドリル本体1の軸線Oに垂直なドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ仮想直線VLと、ランド部15における第2マージン部12のドリル回転方向Tに隣接するマージン前壁面16の延長線Lと、の間に形成される角度θが、30°以下である(
図6の角度θを参照)。言い換えると、マージン前壁面16と第2マージン部12とが、互いの間に大きな鈍角(略150°以上)を形成するように交差しているため、これらのマージン前壁面16と第2マージン部12との接続部分において、切れ刃として作用するようなエッジが形成されない。
【0073】
具体的には、仮想直線VLとマージン前壁面16の延長線Lとの間に形成される角度θが30°以下であるので、第2マージン部12に対して、マージン前壁面16を緩やかに傾斜させつつ、なだらかに接続することができる。これにより、第2マージン部12とマージン前壁面16との接続部分に、鋭いエッジが形成されることを確実に防止できる。
このため、第2マージン部12とマージン前壁面16との接続部分が、被削材の加工穴の内周面に意図せず切り込んで傷付けてしまうようなことを確実に防止でき、加工品位を高めることができる。特に本実施形態によれば、たとえ硬度が低い被削材に穴あけ加工する場合であっても、加工穴の内周面にうねり模様等の加工痕が形成されることを顕著に抑制できて、加工面精度を良好に維持できる。
【0074】
なお、仮想直線VLとマージン前壁面16の延長線Lとの間に形成される角度θを5°以上とした場合には、マージン前壁面16が第2マージン部12に対して緩やかな傾斜となり過ぎて意図せずマージンの一部として機能してしまうようなことを防止でき、好ましい。つまり角度θが5°以上であると、マージン前壁面16が確実に二番取り面の一部として機能するとともに、該マージン前壁面16が第2マージン部12とともに被削材の加工穴の内周面に摺接してしまうようなことを防止できる。
【0075】
従って、例えばマージン前壁面16が加工穴の内周面に摺接して第2マージン部12の所期するマージン機能に影響を与えたり、切削抵抗を増大させてしまったりするような不具合を防止できる。そして穴あけ加工の精度を良好に維持しつつ、ドリル10を長寿命化することが可能となる。
【0076】
また本実施形態のドリル10は、ドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ線分の長さが、第1マージン部11のドリル回転方向Tの前端11aとドリル回転方向Tとは反対側の後端11bとを結ぶ線分の長さの半分以下である。これにより、第2マージン部12のドリル周方向の長さ(第2マージン部12の幅)が低減されて、下記の優れた作用効果を奏する。
すなわち、第2マージン部12の表面積が低減されるため、該第2マージン部12に切粉が噛み込んで加工穴の内周面を傷付けてしまうような不具合が防止される。詳しくは、例えば本実施形態とは異なり、第2マージン部12の幅が第1マージン部11の幅の半分よりも大きく設定された場合には、該第2マージン部12の表面積が大きくなるとともに、マージン表面と被削材との間に細かい切粉が噛み込まれやすくなって、加工穴の内周面精度に影響する(面粗さが悪くなる)。一方、本実施形態のように、第2マージン部12の幅が第1マージン部11の幅の半分以下に設定されていると、該第2マージン部12の表面積が小さく抑えられるとともに、マージン表面と被削材との間に細かい切粉が噛み込みにくくなって、加工穴の内周面精度が良好に維持される(面粗さが良くなる)。
【0077】
また、例えば本実施形態とは異なり、第2マージン部12の幅が第1マージン部11の幅の半分よりも大きく設定された場合には、該第2マージン部12の表面積が大きくなるとともに、第2マージン部12全体にクーラント(油性又は水溶性の切削液剤)が行き渡りにくくなって、やはり加工穴の内周面精度に影響する。特に第2マージン部12は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tとは反対側に隣接配置される第1マージン部11に比べて、この切屑排出溝2からドリル回転方向Tとは反対側へ大きく離れて配置されるマージン部であることから、該切屑排出溝2内を流れるクーラントを第2マージン部12全体に行き渡らせることが困難である。そこで本実施形態のように、第2マージン部12の幅が第1マージン部11の幅の半分以下に設定されていると、該第2マージン部12の表面積が小さく抑えられるとともに、第2マージン部12全体にクーラントが行き渡りやすくなって、切削抵抗を安定して抑制したり切削熱の上昇を抑えることができて、加工穴の内周面精度を安定的に高めることができる。
【0078】
そして本実施形態においては、上述のように第2マージン部12の幅が第1マージン部11の幅の半分以下とされていても、該第2マージン部12のドリル回転方向Tに傾斜の緩やかなマージン前壁面16が隣接配置されていることによって、第2マージン部12の肉厚が十分に確保されるとともに剛性が高く維持されて、第2マージン部12に損傷等が生じるようなことが防止されている。つまり、従来のドリルにおいては、第2マージン部とマージン前壁面との接続部分にエッジが形成されているとともに、マージン前壁面の傾斜が立っているため、第2マージン部の肉厚が不足して剛性が十分ではなく、また切削時に前記エッジに対する衝撃も大きく作用しやすいことから、第2マージン部の幅を第1マージン部の幅の半分以下とした場合には、第2マージン部に損傷等が生じるおそれがある。このような不具合を、本実施形態では傾斜の緩やかなマージン前壁面16と幅の狭い第2マージン部12とを組み合わせたことにより防止して、上述した格別顕著な効果を得ることができるのである。
【0079】
また
図2〜
図4において、穴あけ加工時には、被削材に対してドリル本体1が軸線O方向の先端側へ向けて送られていき、被削材の加工穴に対して、マージン前壁面16とシンニング面5との交差稜線部17が挿入された後、第2マージン部12が挿入される。この交差稜線部17は、マージン前壁面16とシンニング面5との交差稜線をなしており、軸線O方向の基端側へ向かうに従い徐々にドリル径方向の外側へ向かって緩やかに傾斜して延びている。そして穴あけ加工時には、まず交差稜線部17が加工穴に対してスムーズに挿入され、これにガイドされるように第2マージン部12が加工穴に挿入されることになる。つまり、第2マージン部12が加工穴に芯合わせされた状態で、該加工穴内に挿入されていく。
このため本実施形態のドリル10によれば、第2マージン部12が加工穴の内周面を傷付けてしまうような不具合を格別顕著に抑制することができる。
【0080】
以上より本実施形態のドリル10によれば、たとえ軟らかい金属材料等の被削材を穴あけ加工する場合であっても、被削材の加工穴の内周面を傷付けてしまうことを抑制でき、加工品位を高めることができる。
【0081】
また本実施形態では、第2マージン部12の周方向の長さに対して、マージン前壁面16の周方向の長さが長いので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、第2マージン部12に対してマージン前壁面16を緩やかな傾斜で接続しやすくなり、第2マージン部12とマージン前壁面16との接続部分にエッジが形成されにくくなることによる加工精度向上の効果や、マージン前壁面16によって第2マージン部12の剛性が高められるという効果等が、より格別顕著なものとなる。
【0082】
また、マージン前壁面16の周方向長さが長い分、該マージン前壁面16のドリル回転方向Tに隣接する二番取り面の部分(二番取り面のうちマージン前壁面16以外の部分。壁面部分19等)における深さ(径方向内側へ向けた窪み量)を十分に確保することができ、二番取り面による各種機能を安定化できる。具体的に、上記二番取り面による各種機能とは、例えば、被削材の加工穴の内周面から二番取り面を確実に離間させて切削抵抗を低減させる機能や、加工穴の内周面と二番取り面との間で切粉の噛み込みを防止する機能や、二番取り面を通してクーラントを流通させる機能等である。
【0083】
また本実施形態では、ドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ仮想直線VLと、マージン前壁面16の延長線Lと、の間に形成される角度θが、25°以下であるので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、マージン前壁面16と第2マージン部12とが、互いの間により大きな鈍角(略155°以上)を形成するように交差することから、これらのマージン前壁面16と第2マージン部12との接続部分において、切れ刃として作用するようなエッジをより形成しにくくして、加工穴の内周面精度を格別顕著に向上することができる。また、第2マージン部12の剛性をより高めることができる。
【0084】
また、本実施形態のドリル10はツイストドリルであり、ドリル本体1には先端面3及びシンニング面5が各一対形成され、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、先端面3とシンニング面5との交差稜線Rは直線状をなしており、一対の交差稜線Rのうち、第1の交差稜線R1を第2の交差稜線R2に向けて延ばした延長線は、該第2の交差稜線R2上に一致し、又は該第2の交差稜線R2よりもドリル回転方向Tとは反対側に配置されるので、下記の作用効果を奏する。
【0085】
すなわちこの場合、先端面(先端逃げ面)3に対してシンニング面5の割合が大きくなる傾向にあり、シンニング面5が大きく形成されるので切屑排出性が優れ切削抵抗が低下する。
【0086】
また本実施形態では、一対の交差稜線Rのうち、第1の交差稜線R1を第2の交差稜線R2に向けて延ばした延長線が、該第2の交差稜線R2よりもドリル回転方向Tとは反対側に配置されており、前記延長線と第2の交差稜線R2との間の周方向に沿う距離が、0.08mm以下であるので、下記の作用効果を奏する。
【0087】
すなわちこの場合、先端面(先端逃げ面)3に対してシンニング面5の割合が大きくなり過ぎるのを防止でき、ドリル本体1の先端部の肉厚を確保してドリル10の剛性を高く維持することができる。
【0088】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0089】
前述の実施形態で説明したドリル10は、2枚刃のツイストドリルであるが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわちドリル10は、3枚刃以上のドリルであってもよい。
【0090】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例、参考例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0092】
[穴あけ加工試験1]
超硬合金製のコーティングオイルホールツイストドリルを用いて、被削材S50C(A)を穴あけ加工して評価した。穴あけ加工試験1では、前述の実施形態で説明したドリル10を基本形状とし、ドリル横断面視において、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ仮想直線VLと、ランド部15における第2マージン部12のドリル回転方向Tに隣接するマージン前壁面16の延長線Lと、の間に形成される角度θ(°)が、25°であるものを実施例1とし、35°であるものを比較例1とした評価である。そして、それぞれ500穴加工して第2マージン部の損傷形態を評価した。なお、ドリルの寸法は、実施例及び比較例ともに外径φ6mm×溝長47mm×全長100mmとした。
【0093】
加工条件は、下記の通りとした。
切削速度Vc:80m/min
回転数n:4246min
−1
送り量f:0.18mm/rev
送り速度Vf:764mm/min
加工深さ:30mm
冷却方式:ミスト冷却
【0094】
【表1】
【0095】
角度θを30°以下に小さくした実施例1は、第2マージン部12が欠損することなく安定した摩耗形態を示し、加工穴もうねり模様等の加工痕が少なく加工品位が良好であった。一方、角度θが30°より大きい比較例1については、第2マージン部が大きく欠損しており、加工穴の内周面にうねり模様等の加工痕が多数見受けられた。
【0096】
[穴あけ加工試験2]
穴あけ加工試験2では、ドリル横断面視において、第1マージン部11のドリル回転方向Tの前端11aとドリル回転方向Tとは反対側の後端11bとを結ぶ線分の長さに対する、第2マージン部12のドリル回転方向Tの前端12aとドリル回転方向Tとは反対側の後端12bとを結ぶ線分の長さの割合P(%)が、50%以下であるものを実施例2とし、50%を超えるものを比較例2とした評価である。
そして、それぞれ300穴加工した後の加工穴の穴精度(JIS B 0601:2013に規定される最大高さ粗さRz、断面曲線の最大断面高さPt)を測定し、加工品位について評価した。なお、ドリルの寸法及びその他の加工条件は、上記穴あけ加工試験1と同様とした。表2に結果を示す。
【0097】
【表2】
【0098】
穴あけ加工試験2の加工条件では、実施例2及び比較例2のいずれも加工穴の内周面にうねり模様等の加工痕が少なく、加工品位が優れているが、特に第2マージン部12の幅を第1マージン部11の幅の50%以下に小さくした実施例2は、最大高さ粗さRz及び断面曲線の最大断面高さPtがいずれもより小さく抑えられて、優れた加工品位となった。
【0099】
[穴あけ加工試験3]
穴あけ加工試験3では、上記実施例2で使用したドリル10をベースにして、さらに下記の構成とした。すなわち、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、先端面3とシンニング面5との交差稜線Rが直線状をなしており、一対の交差稜線Rのうち、第1の交差稜線R1を第2の交差稜線R2に向けて延ばした延長線が、第2の交差稜線R2よりもドリル回転方向Tとは反対側に隣り合うように配置され、前記延長線と第2の交差稜線R2との間の周方向に沿う距離(幅Y)が、0.08mm以下であるものを実施例3とし、0.08mmを超えるものを実施例4とした評価である。
そして、それぞれ100穴加工した後の加工穴の真円度及び穴精度を評価した。なお、ドリルの寸法は、外径φ6mm×溝長47mm×全長100mmとした。
【0100】
加工条件は、下記の通りとした。
切削速度Vc:120m/min
回転数n:6369min
−1
送り量f:0.20mm/rev
送り速度Vf:1274mm/min
加工深さ:30mm
冷却方式:水溶性クーラント
【0101】
【表3】
【0102】
実施例3及び実施例4のいずれも加工穴の真円度及び穴精度が良好に確保された。特に、幅Yを0.08mm以下に小さくした実施例3については、最大高さ粗さRz及び断面曲線の最大断面高さPtがより小さく抑えられて、優れた加工品位となった。