特許第6870338号(P6870338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6870338燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870338
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/28 20060101AFI20210426BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20210426BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20210426BHJP
   C23C 8/12 20060101ALI20210426BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20210426BHJP
   C23C 22/78 20060101ALI20210426BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20210426BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20210426BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20210426BHJP
   C22C 38/06 20060101ALN20210426BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   C23C2/28
   C23C2/12
   C23C28/00 B
   C23C8/12
   C23C28/00 C
   C23C2/26
   C23C22/78
   C22C21/00 M
   C22C21/10
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/06
   !C21D9/46 J
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-7926(P2017-7926)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-115379(P2018-115379A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】中村 登代充
(72)【発明者】
【氏名】仙石 晃大
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−088176(JP,A)
【文献】 特開2004−244704(JP,A)
【文献】 特開2011−117037(JP,A)
【文献】 特開2011−074409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板母材、前記鋼板母材の表面に形成されためっき層、および前記めっき層の表面に形成された酸化物層を含み、
前記めっき層は、質量%で、30%以上のAl、0.1〜3%のSi、および40%以下のFeを含み、残部がZnからなり、
前記酸化物層は、1.2g/m2以上のZnO、1.0g/m2以下のAl23、0.1g/m2以上のSiO2を含み、ただしZnO量[g/m2がSiO2[g/m2よりも多いことを特徴とする、燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板(ただし、前記酸化物層の上層にMn酸化物、P酸化物、Mo酸化物、Co酸化物、Ni酸化物、Ca酸化物、W酸化物、V酸化物あるいはホウ酸の1種または2種以上を1〜500mg/m2(酸化物中の金属量として)被覆してなるものを除く)
【請求項2】
前記めっき層のめっき付着量は片面あたり30〜100g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板。
【請求項3】
前記鋼板母材は、質量%で、90%以上のFeを含み、残部がC、Si、Mn、P、S、Al、Ti、Nb、Cr、Mo、V、B、および不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1または2に記載の燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
冷間圧延された鋼板を連続的に還元焼鈍すること、
還元焼鈍された鋼板を、質量%で、50%以上のAlおよび0.1〜3%のSiを含み、残部がZnからなる溶融めっき浴に浸漬してめっき処理すること、
めっき処理されためっき鋼板のめっき付着量をガスワイピングによって調整すること、
前記めっき鋼板を大気雰囲気中680〜800℃の到達温度で180秒以下の間保持するか、または800超〜870℃の到達温度で60秒以下の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から680〜950℃の最高到達温度または850℃まで5〜7.5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
前記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または850℃超の温度で1秒以上45秒以内の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から700〜850℃の最高到達温度または750℃まで3.5〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
前記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または750℃超の温度で1秒以上2分以内の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から660℃まで2〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
最高到達温度が660〜750℃であって660℃超の温度で20秒以上4分以下の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板をプレス成形およびスポット溶接すること、
前記Zn−Alめっき鋼板の表面に燐酸塩化成結晶皮膜を形成させること
を含むことを特徴とする、自動車用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Zn−Alめっき鋼板、例えばガルバリウムめっき鋼板(略称GL、Zn−55%Al―1.6%Si、%はすべて質量%)は建材用途に広く用いられているが、自動車には用いられていない。自動車用めっき鋼板には溶融亜鉛めっき(GI)、合金化溶融亜鉛めっき(GA)が用いられている。
【0003】
自動車用部品の製造では、防錆性の確保のため、めっき鋼板をプレス成形および溶接した後、燐酸塩化成処理し、燐酸塩化成処理しためっき鋼板が電着塗装を経て自動車用部品として用いられる。燐酸塩化成処理とは、めっき表面に微細で緻密な燐酸鉄ないし燐酸亜鉛の結晶皮膜を形成させることで塗装とめっき鋼板の密着性を向上し塗装後耐食性を改善する工程である。Zn−Alめっき鋼板、例えばGLめっき鋼板は一般的な自動車用化成処理で化成処理皮膜を形成させることが不可能であるため、自動車への適用事例がない。
【0004】
その一方で自動車用GA/GIめっき鋼板のうち母材が特に高強度であるものは、スポット溶接時に割れが発生する問題(LME:Liquid Metal Embrittlement.液体金属脆性)が知られている。これは溶接部周辺において低融点である亜鉛めっき層が溶融し母材粒界に侵入することが原因である。アルミはLMEを起こさないため、めっきをGA,GIからZn−Alめっきに変えることができればこの問題を改善することが可能である。
【0005】
また鋼板を自動車用部品に加工する上記のプロセスにおいて、成形は多くの場合冷間のプレス加工で行われる。しかしその一方でホットスタンプ(熱間プレス)と呼ばれるプロセスも存在する。鋼板をA1点以上に加熱しておいてから金型でプレスすることで、成形と同時に、金型冷却による焼入硬化を得るものである。めっき鋼板が工業化されており、Zn−Alめっきを用いる事例も報告されている。しかしながら、本発明者らの調べたところでは、ホットスタンプはGLめっきの化成性を向上させる効果はない。
【0006】
特許文献1と特許文献2には、GLめっきの後500〜580℃に加熱し、保持または徐冷することで加工性を向上させる技術が述べられている。また塗装下地として燐酸塩化成処理しても良いと述べられている。しかしながら、これらの特許文献では、燐酸塩化成処理しためっき鋼板について具体的には開示されておらず、また、めっき鋼板の燐酸塩化成処理性の向上についても何ら記載も示唆もされていない。
【0007】
特許文献3には、GLめっきを通電加熱し熱間プレスする技術が開示されている。特許文献3では、ヒートパターンについて、昇温速度3〜200℃/sで900℃まで加熱し、60秒間保持することが具体的に開示されているものの、必ずしも十分な検討はなされていない。
【0008】
特許文献4には、GLめっきを熱間プレスする技術が開示されている。特許文献4では、ヒートパターンについて、900℃に加熱し、5分間この温度に保定することが具体的に開示されているものの、必ずしも十分な検討はなされていない。
【0009】
特許文献5には、GLめっきを含めたZn系めっき全般について、Ti、Al、Si、Zr、Fe、Zn、Mn、Mo、Ni、Cr、Mg、Cu酸化物を塗布してから熱間プレスに供することで、加熱中の酸化を抑制し、金型内スケール脱落防止や塗装密着性向上に効果があると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−343556号公報
【特許文献2】特開平11−343557号公報
【特許文献3】特開2010−248602号公報
【特許文献4】特開2006−37130号公報
【特許文献5】特開2011−74409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のとおり、Zn−Alめっき鋼板、例えばGLめっき鋼板は一般的な自動車用化成処理で化成処理皮膜を形成させることが不可能であるという課題がある。そして、特許文献1〜5においても、GLめっき鋼板等について開示されているものの、このような課題の解決については十分な検討がなされていない。
【0012】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、従来はZn−Alめっき鋼板の表面に自動車用燐酸塩化成皮膜を形成することが不可能であったが、それが可能であるZn−Alめっき鋼板、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、Zn−Alめっき鋼板表面の化成処理性確保方法について鋭意検討を重ねた。その結果、鋼板表面の酸化物皮膜、およびその製造方法について、次の点を明らかにした。
【0014】
通常のGLめっきに自動車用燐酸塩化成処理皮膜を施すことができない理由は、製造時にめっき表面にSiの酸化物からなる酸化膜が形成され、化成処理液との反応を阻害するためである。
【0015】
ホットスタンプ用の熱処理を施すと、加熱中に酸化膜がSi酸化物主体からAl酸化物主体に変わるが、Al酸化物も燐酸塩化成処理を阻害する点は同じであるため、化成処理性を改善することはできなかった。なお熱力学的には酸化物の安定性は、Al>Si>Znの順である。これは、加熱中に酸化膜がSi酸化物主体からAl酸化物主体に変化する知見と整合的である。しかし、めっき凝固後の時点で表面酸化物がSiであることはこの順序とは整合しない。おそらく凝固の際、まず固相の初晶Alがめっき/母材界面に晶出し、Siを多く含む溶融Zn−Alがめっき表面に残り、凝固後にはSiがめっき表面に濃縮するためであると考えられる。
【0016】
いずれにせよ既知の熱処理によって化成処理性を改善することはできなかった。しかしながら、めっき表面の酸化膜は大気雰囲気下の熱処理で、最初はSi酸化物であり、最後はAl酸化物にいたるが、その遷移の途中段階において酸化皮膜がZn酸化物主体となる条件が存在することが明らかになった。熱力学的平衡の観点からは不可解であるが、おそらく温度と雰囲気から酸素供給量や、温度域によってAl酸化が進みにくくZnの酸化が進みやすいなどの条件がそろったことが原因と推定される。
【0017】
ZnOは燐酸塩化成処理液中の反応性に優れるため、酸化皮膜がZnO主体であれば燐酸塩化成皮膜を形成することが可能になる。
【0018】
本発明者らはこれらの知見に基づき、本発明を開発するに至った。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)鋼板母材、前記鋼板母材の表面に形成されためっき層、および前記めっき層の表面に形成された酸化物層を含み、
前記めっき層は、質量%で、30%以上のAl、0.1〜3%のSi、および40%以下のFeを含み、残部がZnからなり、
前記酸化物層は、1.2g/m2以上のZnO、1.0g/m2以下のAl23、0.1g/m2以上のSiO2を含み、ただしZnO量がSiO2量よりも多いことを特徴とする、燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板。
(2)前記めっき層のめっき付着量は片面あたり30〜100g/m2であることを特徴とする、上記(1)に記載の燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板。
(3)前記鋼板母材は、質量%で、90%以上のFeを含み、残部がC、Si、Mn、P、S、Al、Ti、Nb、Cr、Mo、V、B、および不可避的不純物からなることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の燐酸塩化成処理性に優れたZn−Alめっき鋼板。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
冷間圧延された鋼板を連続的に還元焼鈍すること、
還元焼鈍された鋼板を、質量%で、50%以上のAlおよび0.1〜3%のSiを含み、残部がZnからなる溶融めっき浴に浸漬してめっき処理すること、
めっき処理されためっき鋼板のめっき付着量をガスワイピングによって調整すること、
前記めっき鋼板を大気雰囲気中680〜800℃の温度で180秒以下の間保持するか、または800超〜870℃の温度で60秒以下の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
(5)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から680〜950℃の最高到達温度または850℃まで5〜7.5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
前記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または850℃超の温度で1秒以上45秒以内の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から700〜850℃の最高到達温度または750℃まで3.5〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
前記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または750℃超の温度で1秒以上2分以内の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
(7)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板の製造方法であって、
質量%で、40〜70%のAlおよび2%以下のSiを含み、残部がZnおよび鋼板母材から拡散したFeからなるめっき層を備えた鋼板を、大気雰囲気中で室温から660℃まで2〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、
最高到達温度が660〜750℃であって660℃超の温度で20秒以上4分以下の間保持すること
を含むことを特徴とする、Zn−Alめっき鋼板の製造方法。
(8)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のZn−Alめっき鋼板をプレス成形およびスポット溶接すること、
前記Zn−Alめっき鋼板の表面に燐酸塩化成結晶皮膜を形成させること
含むことを特徴とする、自動車用部品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Zn−Alめっき鋼板上に自動車用燐酸塩化成処理皮膜を形成することが可能になる。この効果は母材の鋼成分にかかわらず得ることができる。その用途として想定されるのは、自動車用のGAないしGIめっきのハイテン鋼板でスポット溶接時にLME問題が起きているものについて、これらのめっきをZn−Alめっき、特にはGLめっきに置き換えることでLMEを防止することである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例9、14および18ならびに比較例1における化成結晶のSEM撮影写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、元素の含有量に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
【0022】
本発明におけるめっき鋼板は、鋼材スラブ冷間圧延と溶融めっきおよび熱処理を経て所定の酸化物層を生成させたものである。Zn−Alめっき上の燐酸塩化成処理性は、酸化物層が本発明通りであれば、鋼母材の成分にかかわらず得ることができる。なぜなら化成処理は液中に鋼材を浸漬させ表面の化学反応によって進行する本質上、反応に関与する最表面の特性が同じであれば、内部の鋼母材の成分や組織にかかわらず同じ効果を得ることができるためである。
【0023】
しかしながら好ましい鋼母材範囲として、以下に普通鋼からハイテン鋼に及ぶ範囲の鋼組成について述べる。その理由は本発明の用途として想定されるのはGAないしGIめっきではスポット溶接時に割れる(LME)鋼材について、これらのめっきをZn−Alめっき、特にはGLめっきに置き換えることであるからであり、鋼母材としては特にLMEが問題になるハイテン鋼が想定される。
【0024】
炭素(C)は、鋼板の強度を確保するとともに、残留オーステナイトの安定性を向上させることにより伸びに寄与する元素である。一方でスポット溶接性の継手強度を確保するため、0.5%以下とすることが好ましい。
【0025】
珪素(Si)は、鋼の強度向上に有効な元素である。また、Siは、残留オーステナイトの安定性を向上させることにより伸びに寄与する元素である。一方、Si含有量が4.0%を超えると、鋼の強度が上昇し過ぎて伸びが低下するだけでなく、溶融めっきの付着性が劣位となり、不めっきと呼ばれるめっきが部分的に付かない欠陥が発生するため4.0%以下が好ましい
【0026】
マンガン(Mn)は、焼き入れ性を向上させ、鋼の強度向上に有効な元素である。Mn含有量が4.0%を超えると、スラブや熱延板の強度が過度に上昇するため、またスラブ割れや熱延で割れる原因になるため、Mn含有量は1.0%以上4.0%以下が好ましい。
【0027】
燐(P)は、不純物元素であって、鋼板の板厚中央部に偏析して靭性を低下させ、また、溶接部を脆化させる元素である。P含有量が0.015%を超えると、靭性の低下および溶接部の脆化が顕著に発現する。このため、P含有量は0.015%以下とすることが好ましいが、できる限り少なくすることがさらに好ましい。なお、実用鋼板ではP含有量を0.0001%未満とすることは、経済的に不利であるので、P含有量の実質的な下限値は0.0001%である。
【0028】
硫黄(S)は、不純物元素であって、鋼板の溶接性を低下させ、また、鋳造時と熱延時の製造性を低下させる元素である。また、Sは粗大なMnSを形成して、穴拡げ性を低下させる元素である。S含有量が0.050%を超えると、鋼板の溶接性が低下するとともに、鋼板の製造性が低下し、しかも穴拡げ性の低下が顕著になる。このため、S含有量は0.050%以下とする。S含有量は0.0050%以下とすることが好ましいが、できる限り少なくすることがさらに好ましい。なお、実用鋼板ではS含有量を0.0001%未満とすることは経済的に不利であるので、S含有量の実質的な下限値は0.0001%である。
【0029】
アルミニウム(Al)は、脱酸材として有効な元素であり、また、Siと同様に、オーステナイト中での鉄系炭化物の析出を抑制する元素である。しかしながら、Al含有量が2.0%を超えると、穴拡げ性の劣化をもたらすだけでなく、溶融めっきの付着性が劣位となるため、Al含有量は2.0%以下が好ましい。なお、実用鋼板ではAl含有量を0.001%未満とすることは困難であるので、Al含有量の実質的な下限値は0.001%である。
【0030】
チタン(Ti)は、鋼板の強度上昇に寄与する元素である。一方、Ti含有量が0.20%を超えると、Tiの炭窒化物の析出量が増大して鋼板の成形性が低下する。以上により、Ti含有量は0.20%以下とすることが好ましい。
【0031】
ニオブ(Nb)は、鋼板の強度上昇に寄与する元素である。一方、Nb含有量が0.20%を超えると、Nbの炭窒化物の析出量が増大して鋼板の成形性が低下する。以上により、Nb含有量は0.20%以下とすることが好ましい。
【0032】
クロム(Cr)は、鋼の焼入性を向上させて強度上昇に寄与する元素である。一方、Cr含有量が2.0%を超えると、鋼板製造時および熱延時の製造性を低下させる。以上により、Cr含有量は2.0%以下とすることが好ましい。
【0033】
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入性を向上させて強度上昇に寄与する元素である。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、鋼板製造時および熱延時の製造性を低下させる。以上により、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
【0034】
バナジウム(V)は、析出物強化および細粒強化に起因した転位強化により、鋼板の強度上昇に寄与する元素である。一方、V含有量が0.50%を超えると、Vの炭窒化物の析出量が増大して鋼板の成形性が劣化する。以上により、V含有量は0.50%以下が好ましい。
【0035】
硼素(B)は、粒界の強化元素である。一方、B含有量が0.0030%を超えると、添加効果が飽和するばかりでなく、熱延時の製造性が低下する。以上により、B含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。
【0036】
残部は、鉄(Fe)および不可避的不純物である。Fe含有量は、例えば90%以上である。不可避的不純物とは、原材料に含まれる成分、或いは製造の過程で混入される成分であって、母材に意図的に含有させた成分ではない成分をいう。
【0037】
次に、本成分のスラブを熱間圧延し、酸洗し、冷間圧延し、連続焼鈍するまでの工程について述べる。
【0038】
(スラブ)
熱間圧延に供するスラブは特に限定されるものではない。常法すなわち連続鋳造スラブや薄スラブキャスター等で製造したものであれば良い。
【0039】
(熱間圧延)
熱間圧延は特に限定されるものではない。常法の範囲内であれば発明の効果には影響を及ぼさない。常法とは、仕上げ温度を850〜1000℃の範囲とし、巻取温度は550〜750℃の範囲とすることを意味する。
【0040】
(酸洗)
酸洗も特に限定されるものではなく、常法の範囲内であれば発明の効果には影響を及ぼさない。
【0041】
(冷間圧延)
冷間圧延も特に限定されるものではなく、常法の範囲内であれば発明の効果には影響を及ぼさない。常法とは圧延率50から85%の範囲であることを意味する。圧延率が低い場合、目的厚さの製品を得るためには熱延および連続鋳造において薄くせざるを得ず、能率の低下を招く。一方、85%を超す圧延率で冷間圧延を行うことは多大の冷延負荷が必要となるため、85%以下とすることが好ましい。
【0042】
(GL連続溶融めっき)
連続溶融めっきライン(CGL)の方式は、本発明の特徴であるZn−Al上の化成処理性の観点からは、特に限定されるものではない。そのためここでは一般的な軟鋼およびハイテン鋼を母材とするZn−Alめっきの製法について述べる。
【0043】
CGLにおいて鋼板はまず脱脂工程を経て鋼板表面の油脂や汚れを除去される。
【0044】
次に還元焼鈍とよばれる窒素−水素雰囲気中で昇温および保持される工程を経る。その目的は機械特性の改善とめっき反応性の向上の二つである。冷間圧延されたままの状態では延性やその他の機械特性が不足するため、再結晶焼鈍することで目的の機械特性を得ることができる。次に水素−窒素雰囲気中で昇温することで、鋼板表面の鉄酸化物が金属鉄に還元され、後段の溶融めっき浴との反応性を確保することができる。
【0045】
雰囲気は一般的には水素1〜20%、残部窒素であり、不可避的不純物である水蒸気およびその他のガスを含む。温度は最高温度700〜850℃で保持時間は1秒〜10分程である。
【0046】
しかしながらSiを多く含むハイテン鋼においては、上記の焼鈍雰囲気ではめっきが付着しない問題が起こりうるが、特許第4464720号公報に記載のように焼鈍雰囲気に水蒸気を添加することで不めっき問題を解決することが可能である。
【0047】
次に冷却工程によってめっき浴付近の温度まで冷却される。目的は二つあり一つはめっき浴侵入時の板温をめっき浴と同じにすることで操業中のめっき浴温変動を押さえることである。二つめは特にハイテン成分において浴温〜650℃程度で保持することによって鋼の組織をコントロールし所定の機械的特性を得ることである。
【0048】
次に溶融めっき浴中に板を侵入させる。Zn−Al溶融めっきは、質量%で50%以上のAlおよび0.1〜3%のSiを含み、残部がZnからなる溶融めっき浴に浸漬して行う。Zn−Alめっきの一例であるGL溶融めっき浴の組成は通常、製品のめっき層の組成と同じZn−55wt%Al−1.6wt%Siである。めっき浴温は通常550〜650℃の範囲である。
【0049】
鋼板がめっき浴から脱した後は、ガスワイピングによってめっき付着量を所定の範囲に調整される。
【0050】
ここまでは一般的なGLめっき鋼板の製法と同様である。ここからは本発明の特徴である酸化物層を生成させるための熱処理を行う。熱処理の方法は、大別して二つあり、溶融めっきライン中においてめっき付着量調整後に熱処理するものと、ライン中は通常のGLと同様にめっき付着量調整後は凝固させラインから巻き取った後、オフラインで熱処理する方法がある。
【0051】
オンラインで熱処理する場合は、ガスワイピングによってめっき付着量を調整した後、めっき鋼板を大気雰囲気中680〜800℃の温度で180秒以下の間保持するか、または800超〜870℃の温度で60秒以下の間保持することで、目的とする酸化亜鉛主体の酸化膜を得ることができる。
【0052】
多くの連続溶融めっきラインはめっき浴とガスワイピングの後に加熱炉を備えるものが多い。これらは通常合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造に用いられている。この既存設備を活用することで追加的設備コストの負担なく本発明のZn−Alめっき鋼板を製造することができる。
【0053】
オフライン熱処理の場合は、ガスワイピングによってめっき付着量を調整した後、めっきを凝固させ、連続めっきライン出側でコイルに巻き取る。コイルのままあるいはコイルから切板を採取し、次に述べる熱処理のいずれかを行う。連続ライン出側で防錆油を塗布した場合、油がついたままオフライン熱処理に供することができる。
【0054】
雰囲気はいずれも大気雰囲気である。
(ヒートパターン1)室温から680〜950℃の最高到達温度または850℃の低いほうまで、5〜7.5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、上記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または850℃超の温度で1秒以上45秒以内の間保持することを含むことを特徴とする。
(ヒートパターン2)室温から700〜850℃の最高到達温度または750℃の低いほうまで、3.5〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、上記最高到達温度に到達後直ちに冷却するか、または750℃超の温度で1秒以上2分以内の間保持することを含むことを特徴とする。
(ヒートパターン3)室温から660℃まで2〜5℃/sの平均昇温速度で加熱すること、最高到達温度が660〜750℃であって660℃超の温度で20秒以上4分以下の間保持することを含むことを特徴とする。
【0055】
このように作製した本発明のZn−Alめっき鋼板を、プレス成形、スポット溶接、および燐酸塩化成処理を経て、自動車用部品の製造に供することができる。
【0056】
(めっき層組成)
熱処理前時点のめっき層組成は前述のめっき浴の組成どおりであるが、熱処理中に母材のFeがめっき中に拡散するため、めっき組成は次のようになる。
【0057】
鉄(Fe)は、熱処理中によって母材からめっき層中に拡散する。Fe増加とともにスポット溶接の連続打点性が改善するが、腐食した場合のさびが赤みを帯び外観上好ましくない。熱処理後のFeは40%以下である。
【0058】
アルミ(Al)は、耐食性およびスポット溶接で溶融亜鉛脆性の抑制のために必要な元素である。熱処理後のめっき層中のAlは30%以上、好ましくは35%以上である。
【0059】
珪素(Si)は、溶融めっき浴中でFe−Al合金層の成長を抑制することでめっき密着性を向上させる元素である。過少の場合は効果がなく、過多の場合は効果が飽和し浴中ドロスを過度に発生させる。熱処理後のめっき層中のSiは、0.1〜3%、好ましくは0.1〜2%、より好ましくは0.1〜1.5%の範囲である。
【0060】
亜鉛(Zn)は、めっき層の残部を構成する。犠牲防食性の付与により耐食性を向上させる効果がある。
【0061】
(めっき付着量)
めっき付着量は、溶融めっきによって付着したZn,Al,Siのほか熱処理によって母材から拡散したFeの合計である。耐食性の観点からは30g/m2以上、好ましくは40g/m2以上であり、加工性の観点からは100g/m2以下、好ましくは90g/m2以下である。
【0062】
(めっき層表面の酸化物層)
溶融めっきでZn−Al−Siめっきが施された後大気中の熱処理を受けることで、めっき層の表面には次の酸化物層が形成される。
【0063】
酸化亜鉛(ZnO)は本発明の効果に本質的に直結する化合物である。溶融めっき後かつ熱処理前の時点では酸化物層中にZnOは検出されないが、熱処理によってZnOが生成する。ZnO燐酸塩化成液中で反応するため、化成処理性を改善することができる。本発明におけるZnOの量は1.2g/m2以上である。
【0064】
酸化珪素(シリカSiO2)は、溶融めっき後常法どおり冷却凝固させためっき層の酸化物層中においては支配的な酸化物である。おそらくめっき凝固プロセスにおいてSiがめっき表面に濃化するためである。しかしめっきの熱処理によってSi酸化物は減少し、替わりにAl酸化物が生成する。本発明におけるSiO2の量は0.1g/m2以上、3.0g/m2以下であり、かつZnO量よりも少ない。
【0065】
酸化アルミ(アルミナAl23)は溶融めっき後常法どおり冷却凝固させためっき層の酸化物層中において少量検出される。しかしアルミナはシリカと異なり、熱処理とともに増加する傾向にある。本発明におけるAl23の量は1.0g/m2以下である。
【実施例1】
【0066】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0067】
成分が0.019%C−0.01Si−0.1Mn−0.019P−0.003S−0.039Alである鋼材スラブを常法で熱延、酸洗、冷延、連続めっきラインでの還元焼鈍とGLめっきを施し、GLめっき鋼板を作製した。150mm×70mmの供試材を採取した。この時点のめっき層は付着量が片面辺り62.0g/m2、組成はZn−Al55.3%−Si1.6%−Fe2.8%だった。
【0068】
これを大気雰囲気の電気マッフル炉を用いて下表1に示す所定のヒートパターンで加熱した。
【0069】
【表1】
【0070】
ヒートパターンの実績は、炉温一水準ごとに板にK熱電対を溶接し、データロガーで記録した。
【0071】
温度と炉内時間一水準ごとに板を2枚作製し、一枚はめっき層分析、もう一枚は化成処理性評価に供した。
【0072】
めっき層分析は、めっき層組成分析、ZnO分析、Al23・SiO2分析の三つを行った。
【0073】
めっき層組成分析は、めっき熱処理板から所定面積の小片を切り出し、10%塩酸−0.1%朝日化学製イビット700BK混合液中に浸漬し、めっき層のみ溶解させ、ICP発光分析法により溶液中のZn、Al、Fe、Si含有量を測定し、さらに単位面積当たりの各元素の付着量を測定してこれらの値からめっき付着量を算出した。
【0074】
ZnO分析は、めっき熱処理板から所定面積の小片を切り出し、10質量%重クロム酸アンモニウム溶液でZnOのみ溶解させ、ICP発光分析法により溶液中のZn含有量を測定し、単位面積当たりのZn量を算出し、さらに酸化物をZnOと仮定してZnOの面積あたり質量に換算した。
【0075】
Al23およびSiO2分析は、めっき熱処理板から所定面積の小片を切り出し、臭素メタノール法でAl23およびSiO2残して溶解し、抽出残渣を酸溶解し、溶液をICP分析し、AlとSiの含有量を測定した。AlとSiはそれぞれAl23とSiO2と仮定し質量を算出した。また母材由来のAl23とSiO2は、めっき層をイビット入り塩酸で除去した母材鋼板を臭素メタノール法で溶解し、母材の質量あたりAl23とSiO2を求め、めっき材の臭素メタノール溶解前後の質量差と、上記で求めためっき付着量のデータから母材溶解量を求めることで、めっき層由来の量を算出した。
【0076】
化成処理性の評価には日本ペイント社製の薬剤を用いた。まずサーフクリーナーEC92Mで脱脂し、水洗して目視外観から油残りがないことを確認し、表面調整をサーフファインGL1で行い、化成処理をサーフダインSD6350で行った。形成した皮膜をSEMで1000〜1500倍のSE像で観察し、被覆率と結晶サイズを調べた。また付着量は酸溶解して溶液中の各元素濃度をICP分析することで求めた。化成皮膜の評価は、被覆率100%、かつ化成付着量が燐酸塩に換算し2g/m2以上、この両方を満たせば合格「○」、いずれかを満たさなければ不合格「×」とした。結果を表1に示す。
【0077】
化成結晶のSEM撮影写真を図1に示す。本発明では健全な燐酸塩化成結晶皮膜が形成され、めっき鋼板がリン酸塩結晶で透き間なく被覆されている。一方比較例においては燐酸塩結晶がまばらにしか存在せずめっきが露出している。比較例のような状態は、この後の電着塗装工程においてめっき鋼板と電着塗膜の密着性が不足し、塗装後耐食性が不足するため、自動車用部品のためのめっき鋼板として比較例は不適当である。
図1