(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸方向に配置された複数の分割部をそれぞれ有する複数の分割バックアップロールを備え、前記分割部の、金属板に対する偏移量を制御することにより前記金属板の板形状を矯正するテンションレベラを制御する制御値を算出する演算装置であって、
前記テンションレベラによって前記金属板に与えられる張力、および前記偏移量を補正するための補正量を算出する算出部を備え、
前記算出部は、前記金属板の幅方向に沿って配列する2点間の伸び率差の目標値と、前記テンションレベラにて矯正された前記金属板の形状に基づいて算出された、前記目標値に対応する実測値との差に及ぼす、前記張力の補正量の影響度、および前記偏移量の補正量の影響度をそれぞれ示す影響係数を含む数式を用いて前記補正量を算出し、
前記算出部は、前記補正量を、第1式および第2式を用いて算出し、
前記金属板の幅方向に沿って配列し、板幅中央に対称な2点のうちの一方の点と板幅中央との間の第1伸び率差と、前記2点のうちの他方の点と前記板幅中央との間の第2伸び率差との平均値についての目標値を第1目標値とし、前記矯正された金属板の形状に基づいて算出された前記平均値を第1実測値とし、
前記第1式は、前記第1目標値と前記第1実測値との差に及ぼす、前記張力の補正量の影響度、および前記偏移量の補正量の影響度をそれぞれ示す影響係数を含み、
前記一方の点と前記他方の点との間の第3伸び率差の目標値を第2目標値とし、前記矯正された金属板の形状に基づいて算出された前記第3伸び率差を第2実測値とし、
前記第2式は、前記第2目標値と前記第2実測値との差に及ぼす、前記偏移量の補正量の影響度を示す影響係数を含んでおり、
前記複数の分割バックアップロールは、それぞれn個(n=2s+1、sは整数)の分割部を有しており、
前記第1式は、前記分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部の偏移量の平均値(i=1、2、3、・・・、s)の補正量、並びに前記分割バックアップロールの一端から(s+1)番目の分割部の偏移量の補正量、の影響度をそれぞれ示す影響係数を含み、
前記第2式は、前記分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部の偏移量の差(i=1、2、3、・・・、s)の補正量、の影響度をそれぞれ示す影響係数を含んでおり、
前記算出部は、前記偏移量の補正量として、前記複数の分割バックアップロールのそれぞれにおける一端からn番目の分割部の偏移量(n=1、2、3、・・・、2s+1)の補正量をそれぞれ算出することを特徴とする演算装置。
前記板幅中央に対称な2点として、前記金属板の板幅方向の一端部を前記一方の点とし、他方の端部を前記他方の点とする組み合わせを第1の組み合わせと称し、前記金属板の板幅方向の端部よりも板幅中央に寄った中間部を前記一方の点とし、他方の中間部を前記他方の点とする組み合わせを第2の組み合わせと称し、
前記第1式および第2式はそれぞれ、前記第1の組み合わせに基づく式と前記第2の組み合わせに基づく式との2つの式を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の演算装置。
軸方向に配置された複数の分割部をそれぞれ有する複数の分割バックアップロールを備え、前記分割部の、金属板に対する偏移量を制御することにより前記金属板の板形状を矯正するテンションレベラを制御する制御値を算出する演算方法であって、
該演算方法は、前記テンションレベラによって前記金属板に与えられる張力、および前記偏移量を補正するための補正量を算出する方法であり、
前記金属板の幅方向に沿って配列する2点間の伸び率差の目標値と、前記テンションレベラにて矯正された前記金属板の形状に基づいて算出された、前記目標値に対応する実測値との差を算出する差算出工程と、
前記算出した差に及ぼす、前記張力の補正量の影響度、および前記偏移量の補正量の影響度をそれぞれ示す影響係数を、前記金属板の種類に応じて決定する影響係数決定工程と、
決定された前記影響係数を含む数式を用いて、前記算出した差に基づいて、前記張力の補正量および前記偏移量の補正量を算出する補正量算出工程と、を含み、
前記補正量算出工程においては、前記補正量を、第1式および第2式を用いて算出し、
前記金属板の幅方向に沿って配列し、板幅中央に対称な2点のうちの一方の点と板幅中央との間の第1伸び率差と、前記2点のうちの他方の点と前記板幅中央との間の第2伸び率差との平均値についての目標値を第1目標値とし、前記矯正された金属板の形状に基づいて算出された前記平均値を第1実測値とし、
前記第1式は、前記第1目標値と前記第1実測値との差に及ぼす、前記張力の補正量の影響度、および前記偏移量の補正量の影響度をそれぞれ示す影響係数を含み、
前記一方の点と前記他方の点との間の第3伸び率差の目標値を第2目標値とし、前記矯正された金属板の形状に基づいて算出された前記第3伸び率差を第2実測値とし、
前記第2式は、前記第2目標値と前記第2実測値との差に及ぼす、前記偏移量の補正量の影響度を示す影響係数を含んでおり、
前記複数の分割バックアップロールは、それぞれn個(n=2s+1、sは整数)の分割部を有しており、
前記第1式は、前記分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部の偏移量の平均値(i=1、2、3、・・・、s)の補正量、並びに前記分割バックアップロールの一端から(s+1)番目の分割部の偏移量の補正量、の影響度をそれぞれ示す影響係数を含み、
前記第2式は、前記分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部の偏移量の差(i=1、2、3、・・・、s)の補正量、の影響度をそれぞれ示す影響係数を含んでおり、
前記補正量算出工程においては、前記偏移量の補正量として、前記複数の分割バックアップロールのそれぞれにおける一端からn番目の分割部の偏移量(n=1、2、3、・・・、2s+1)の補正量をそれぞれ算出することを特徴とする演算方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、
図1〜
図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において、「A〜B」とは、A以上B以下であることを示している。
【0016】
以下の説明においては、本発明の一態様における演算装置についての理解を容易にするために、先ず、上記演算装置が算出する値(制御値および補正量)を用いて制御が行われるテンションレベラを備える形状矯正設備の概要を、
図1および
図2に基づいて説明する。次に、本発明の知見について概略的に説明し、その後、上記演算装置が用いる数式モデル、および該数式モデルを用いた形状制御について詳細に説明する。
【0017】
(形状矯正設備の概略的構成)
図1は、本実施の形態における演算装置が算出する値を用いて制御が行われるテンションレベラ3を備える形状矯正設備1の構成を示す概略図である。形状矯正設備1は、金属板8の形状不良を矯正する設備であり、リコイラ、アンコイラ、または圧延設備の後の工程等に設置される。
【0018】
金属板8は、例えば、薄い鋼帯のコイルから巻き出された鋼帯である。また、金属板8は、圧延設備(図示せず)から送られてきた金属帯であってもよく、金属の種類は特に限定されない。
【0019】
図1に示すように、テンションレベラ3は、ローラレベラ30と、ローラレベラ30の入側および出側に設けられた張力付加装置2とを備えている。
【0020】
ローラレベラ30は、金属板8の厚さ方向の両側(金属板8の上下側)に配置されたワークロール31と、ワークロール31を支持する中間ロール32と、中間ロール32を介してワークロール31を支持する上側バックアップロール(分割バックアップロール)33および下側バックアップロール(分割バックアップロール)34とを備えている。
図1において、これらのロールは、紙面に対して垂直方向が長手方向となっており、金属板8は紙面上を左方向から右方向へと流れて形状矯正されるようになっている。
【0021】
本実施の形態のローラレベラ30は、金属板8の上側が、11本のワークロール31、12本の中間ロール32、および11本の上側バックアップロール33により構成され、下側が、12本のワークロール31、13本の中間ロール32、および12本の下側バックアップロール34により構成されている。
【0022】
図2は、ローラレベラ30を、金属板8が通過する方向から見た場合の各ロールの構成を模式的に示す図である。
【0023】
図2に示すように、11本の上側バックアップロール33および12本の下側バックアップロール34はそれぞれ9個に均等に分割され、9個の分割部を備えている。下側バックアップロール34を構成する分割部を、ワークサイドからドライブサイドへと順に分割部341〜349とする。
【0024】
ここで、ドライブサイドとは、ローラレベラ30において、ワークロール31を回転させるためのモータ(図示せず)が設けられている側であり、ワークサイドとは、ローラレベラ30を挟んでドライブサイドの反対側である。
【0025】
なお、分割バックアップロールは、金属板8の上下少なくとも一方側に設けられていればよく、上側バックアップロール33および下側バックアップロール34のうちいずれかが、分割バックアップロールとなっていればよい。つまり、テンションレベラ3は、軸方向に配置された複数の分割部をそれぞれ有し、金属板8の上下少なくとも一方側に設けられた複数の分割バックアップロールを備えている構成である。
【0026】
また、分割バックアップロールの分割数は特に限定されるものではなく、分割バックアップロールがn個(n=2s+1、sは整数)の分割部を備える構成であればよい。
【0027】
テンションレベラ3が備える張力付加装置2は、一般にブライドルロールと呼ばれる装置である。張力付加装置2は、ワークロール31の入側および出側に設けられており、金属板8に張力を付加することができる。張力付加装置2は、金属板8に与える張力を調整することができればよく、具体的な態様は特に限定されない。
【0028】
また、形状矯正設備1は、分割バックアップロール圧下調整装置(制御機構)4、形状検出器7、およびプロセスコンピュータ(演算装置)6を備えている。
【0029】
本実施の形態の分割バックアップロール圧下調整装置4は、それぞれ9個に均等に分割された12本の下側バックアップロール34の、各分割部を圧下および開放し、各分割部のクラウニング量を調整する。この場合、各分割部には、分割バックアップロール圧下調整装置4によって制御されて、該分割部を偏移させる駆動機構が備えられている。
【0030】
なお、分割バックアップロールの各分割部に対する複数の分割バックアップロール圧下調整装置4を設けてもよい。この場合、プロセスコンピュータ6から送信された制御値、または制御値の補正量に基づいて、複数の分割バックアップロール圧下調整装置4のそれぞれが対応する分割部を偏移させて、該分割部のクラウニング量を調整する。
【0031】
ここで、下側バックアップロール34の分割部を圧下するとは、分割部を鉛直上方向に偏移させることを意味し、開放するとは鉛直下方向に偏移させることを意味する。そして、分割部のクラウニング量とは、分割部の偏移量(例えば、単位はmm)を意味する。本実施の形態では、各分割部の基準位置のクラウニング量を0とし、分割部を圧下した場合のクラウニング量を正の値とする。
【0032】
換言すれば、クラウニング量は、金属板に対する偏移量と表現できる。金属板8の矯正を行う場合に、各分割部を圧下および開放するとは、金属板8に対して分割部を偏移させることを意味しており、分割部の偏移によりワークロール31の撓みを矯正することができる。
【0033】
また、分割バックアップロール圧下調整装置4は、12本の下側バックアップロール34のそれぞれの分割部(12×9個の分割部)のクラウニング量について、以下のように制御を行う。すなわち、12本の下側バックアップロール34はそれぞれ、分割部341〜349を備えており、例えば分割部341のクラウニング量をx(mm)とする場合、分割バックアップロール圧下調整装置4は、12本の下側バックアップロール34の12個の分割部341のクラウニング量が全てx(mm)となるように制御する。他の分割部342〜349についてもそれぞれ同様に、12本の下側バックアップロール34の12個の分割部が、同じクラウニング量にて等しく制御される。つまり、分割バックアップロール圧下調整装置4は、12本の下側バックアップロール34のそれぞれにおける一端からn番目の分割部に同じ偏移量を与えるように制御する。
【0034】
形状検出器7は、テンションレベラ3の出側に設置された、矯正された後の金属板8の形状を検出する装置であり、検出結果を示す信号をプロセスコンピュータ6に出力する。
【0035】
プロセスコンピュータ6は、詳しくは後述するが、入力された金属板8の情報および形状検出器7の出力信号に基づいて、テンションレベラ3を制御する。
【0036】
さらに、形状矯正設備1は、プロセスコンピュータ6を制御する上位コンピュータ5を備えている。上位コンピュータ5は、制御パラメータ等を表示する表示部5a(例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置)、および制御パラメータを変更するための入力を受け付ける入力部5b(例えば、マウス、キーボード)を備えている。
【0037】
詳しくは後述するが、本発明の一態様における演算装置は、上記プロセスコンピュータ6に含まれる装置として実現することができる。
【0038】
(発明の知見の概略的な説明)
以下、形状矯正設備1を例にして、本発明の一態様における演算装置の技術的思想について説明する。なお、ここでは上述の形状矯正設備1を例にするが、ワークロール31等のローラ数が異なるテンションレベラに対しても同様に本発明が適用される。また、中間ロール32を備えていない構成であっても、本発明を適用することができる。
【0039】
なお、本発明の一態様における演算装置は、板厚が1.0mm以下の薄板を対象としており、0.03mm〜0.30mmの薄板の形状矯正に好適に用いることができる。また、本発明の一態様における演算装置が用いられる形状矯正設備1は、ワークロール31のロール径が30mm以下であってよく、例えばロール径が16mmのワークロール31を備える。
【0040】
一般的に、圧延等により形成された薄板には、耳伸び,中伸び等の単純な形状不良だけでなく、クオータ伸び、および各種伸びが複雑に組合わさった複合伸びが発生する。クオータ伸びとは、薄板の板幅中央よりもクオータ部の伸び率が大きいことを意味する。これらの形状不良を防止するためには、板形状を複数の指標で評価し制御することが要求される。そこで、板形状を、板幅方向(幅方向ともいう)の板端部からの距離が異なる複数の箇所における伸び率を用いて評価することとする。
【0041】
本発明者らは、薄板の上記複数の箇所における伸び率を用いて、板形状を、板幅中央に対称な成分(対称成分)と、板幅中央に非対称な成分(非対称成分)とにより評価することとしたとき、以下のような新たな知見を得た。
【0042】
すなわち、本発明者らは、矯正後の薄板の上記対称成分が、テンションレベラ3の張力およびクラウニング量と線形関係にあること、並びに、矯正後の薄板の上記非対称成分が、テンションレベラ3のクラウニング量と線形関係にあることを見出した。そして、この線形関係を取り込んだ数式モデル(矯正後形状予測式)を作成し、該数式モデルを用いてテンションレベラの制御値を補正することにより、種々の形状不良を有する薄板を、良好な板形状に矯正することを実現した。
【0043】
より詳しくは、例えばテンションレベラ3の出側に設けられた形状検出器7を用いて、矯正後の薄板の形状を検出し、この検出した情報に基づいて、矯正後の形状における上記対称成分および上記非対称成分の実測値を算出することができる。板形状の上記実測値と目標値とに基づいて、上記数式モデルを用いて、上記張力およびクラウニング量の補正量を算出することができる。この補正量に基づいて、テンションレベラの制御値を補正することにより、種々の形状不良を有する薄板を、良好な板形状に矯正することができる。
【0044】
なお、良好な板形状とは、板端部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差、およびクオータ部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差が小さく、板形状が平坦であることを意味する。この新たな知見について、
図1に示す形状矯正設備1を参照して順に説明する。
【0045】
始めに、薄板としての金属板8の、矯正後の状態の上記対称成分および上記非対称成分、並びに、上記対称成分の実測値および上記非対称成分の実測値について、定義を説明する。なお、説明の便宜上、以下では、金属板8の板幅方向における一端側をワークサイド、他端側をドライブサイドと称する。
【0046】
(矯正後の対称成分)
矯正後の状態の上記対称成分を示す値として、板幅方向に沿って配列し、かつ板幅中央に対称な2点のうちの一方の点と板幅中央との間の伸び率差(第1伸び率差)と、上記2点のうちの他方の点と板幅中央との間の伸び率差(第2伸び率差)との平均値を用いる。前記板幅中央に対称な2点の組には、(i)ワークサイドにおける板端部とドライブサイドにおける板端部との組(第1の組み合わせ)、および(ii)ワークサイドにおけるクオータ部とドライブサイドにおけるクオータ部との組(第2の組み合わせ)が含まれる。このことは、後述する矯正後の非対称成分、上記対称成分の実測値、および上記非対称成分の実測値についても同様である。
【0047】
具体的には、矯正後の金属板8における、ワークサイドにおける板端部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差と、ドライブサイドにおける板端部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差との平均値をεeとする。このεeを矯正後の板端部に関する対称成分と称する。
【0048】
また、矯正後の金属板8における、ワークサイドにおけるクオータ部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差と、ドライブサイドにおけるクオータ部の伸び率と板幅中央の伸び率との間の伸び率差との平均値をεqとする。このεqを矯正後のクオータ部に関する対称成分と称する。
【0049】
(矯正後の非対称成分)
矯正後の状態の上記非対称成分を示す値として、前記板幅中央に対称な2点のうちの一方の点と他方の点との間の伸び率差(第3伸び率差)を用いる。
【0050】
具体的には、矯正後の金属板8における、ワークサイドにおける板端部の伸び率とドライブサイドにおける板端部の伸び率との間の伸び率差をεe’とする。このεe’を矯正後の板端部に関する非対称成分と称する。また、矯正後の金属板8における、ワークサイドにおけるクオータ部の伸び率とドライブサイドにおけるクオータ部の伸び率との間の伸び率差をεq’とする。このεq’を矯正後のクオータ部に関する非対称成分と称する。
【0051】
(上記対称成分の実測値)
矯正後の金属板8の形状を、形状検出器7を用いて検出し、該検出した情報に基づいて算出された実測値であって、上記矯正後の板端部に関する対称成分εeに対応する実測値をεe
1(第1の組み合わせに基づく第1実測値)とする。具体的には、形状検出器7を用いて、矯正後の金属板8におけるワークサイドの板端部とドライブサイドの板端部と板幅中央との形状を検出した情報に基づいて、上記εeに対応する実測値εe
1を求める。このεe
1を矯正後の板端部に関する対称成分の実測値と称する。
【0052】
また、上記矯正後のクオータ部に関する対称成分εqに対応する上記実測値をεq
1(第2の組み合わせに基づく第1実測値)とする。このεq
1を矯正後のクオータ部に関する対称成分の実測値と称する。
【0053】
(上記非対称成分の実測値)
矯正後の金属板8の形状を、形状検出器7を用いて検出し、該検出した情報に基づいて算出された実測値であって、上記矯正後の板端部に関する非対称成分εe’に対応する実測値をεe’
1(第1の組み合わせに基づく第2実測値)とする。このεe’
1を矯正後の板端部に関する非対称成分の実測値と称する。
【0054】
また、上記矯正後のクオータ部に関する非対称成分εq’に対応する上記実測値をεq’
1(第2の組み合わせに基づく第2実測値)とする。このεq’
1を矯正後のクオータ部に関する非対称成分の実測値と称する。
【0055】
なお、評価位置としての板端部およびクオータ部は、板形状を適切に表すことができ、且つ後述する数式モデルの精度が高いものとなるように、経験的に定めてよい。例えば、板端部とは、金属板8の板幅方向における、金属板8の板面の端から25mmの位置であってよい。また、クオータ部(中間部)とは、金属板8の板幅方向において、板幅中央部と板端部との間に位置する部分であり、クオータ部の位置は、板幅中央部と板端部との間において特に限定されないが、例えば、板幅中央部から板端部までの距離の40%の位置とすることができる。設定した板端部およびクオータ部を共通して用いて、上記εe、εq、εe’、およびεq’が求められる。
【0056】
また、本実施の形態の形状検出器7は、金属板8における上記設定した板端部およびクオータ部の形状を検出して、該検出した情報をプロセスコンピュータ6に送信する。該検出した情報に基づいて、上記εe
1、εq
1、εe’
1、およびεq’
1が求められる。
【0057】
矯正後の金属板8の板形状に影響を及ぼす要因には、金属板8の寸法、材質(変形抵抗等)、および矯正前の板形状、並びに、テンションレベラ3のインターメッシュ、張力、および分割バックアップロール圧下調整装置4による各分割部のクラウニング量、等がある。このうち、金属板8の寸法および材質については、板厚、板幅、金属種毎に区分することにより、区分内での寸法の変化および材質の変化が、矯正後の金属板8の板形状に及ぼす影響を小さくすることができる。また、金属板8の反りを安定化させるという観点から、テンションレベラ3のインターメッシュを固定してレベラ矯正することとする。
【0058】
また、矯正前の金属板8の板形状の影響は、形状検出器7にて検出された金属板8の板形状の実測値に反映されている。そのため、形状検出器7にて検出した情報に基づいて算出した板形状の実測値を考慮すれば、矯正前の金属板8の板形状の影響は考慮しなくてよい。
【0059】
この場合、形状変化に及ぼす主要因(矯正後形状予測式において考慮すべき主要因)は、テンションレベラ3の張力、および分割バックアップロール圧下調整装置4による各分割部のクラウニング量ということができる。そこで、テンションレベラ3の張力、および分割バックアップロール圧下調整装置4による各分割部のクラウニング量が、矯正後の金属板8の板形状に及ぼす定量的な影響を検討した。
【0060】
本発明者らの検討により得られた結果について、
図3〜6を用いて以下に説明する。なお、以下の説明において、それぞれの図に示す変動パラメータ以外の矯正条件は固定されている。
【0061】
図3は、矯正後の板端部に関する対称成分εeおよびクオータ部に関する対称成分εqに及ぼす、張力Tの影響を示すグラフである。張力Tは、張力付加装置2によって金属板8に与えられている張力を意味している。張力Tの単位は、例えばN/mm
2である。なお、伸び率差は10
−5を単位とし、この単位をIunitで表示した(以下の記載においても同様に、Iunitとは10
−5を表す単位である)。
【0062】
図3に示すように、矯正後の板端部に関する対称成分εeおよびクオータ部に関する対称成分εqはいずれも、張力Tの増加とともに減少し、張力Tとほぼ線形関係にある。なお、張力Tの範囲は特に限定されるものではないが、少なくとも250〜600N/mm
2の範囲において、対称成分εeおよび張力T、並びに対称成分εqおよび張力Tは、いずれもほぼ線形関係にある。
【0063】
図4の(a)〜(d)および
図5は、矯正後の板端部に関する対称成分εeおよびクオータ部に関する対称成分εqに及ぼす、各分割部のクラウニング量の影響を示すグラフである。なお、本実施の形態において、クラウニング量としては、圧下側を正、開放側を負とした。
【0064】
図4の(a)は、対称成分εeおよび対称成分εqに及ぼす、ワークサイドから1番目の分割部341のクラウニング量および9番目の分割部349のクラウニング量の平均値Cr
1の影響を示すグラフである。
図4の(b)は、対称成分εeおよび対称成分εqに及ぼす、ワークサイドから2番目の分割部342のクラウニング量および8番目の分割部348のクラウニング量の平均値Cr
2の影響を示すグラフである。
図4の(c)は、対称成分εeおよび対称成分εqに及ぼす、ワークサイドから3番目の分割部343のクラウニング量および7番目の分割部347のクラウニング量の平均値Cr
3の影響を示すグラフである。
図4の(d)は、対称成分εeおよび対称成分εqに及ぼす、ワークサイドから4番目の分割部344のクラウニング量および6番目の分割部346のクラウニング量の平均値Cr
4の影響を示すグラフである。
図5は、対称成分εeおよび対称成分εqに及ぼす、ワークサイドから5番目の分割部345のクラウニング量Cr
5の影響を示すグラフである。
【0065】
図4の(a)に示すように、平均値Cr
1の増加とともに対称成分εeが増加し、対称成分εqはほとんど変化しない。このことは、
図4の(b)および(c)においても同様であり、平均値Cr
2または平均値Cr
3の増加とともに対称成分εeが増加し、対称成分εqはほとんど変化しない。
【0066】
一方、
図4の(d)に示すように、平均値Cr
4の増加とともに対称成分εeが減少し、対称成分εqはほとんど変化しない。また、
図5に示すように、分割部345のクラウニング量Cr
5の増加とともに対称成分εeおよび対称成分εqのいずれもが減少した。
【0067】
このように、分割バックアップロールにおける分割部の位置により、分割部のクラウニング量の影響度は異なるが、対称成分εeおよび対称成分εqはそれぞれ、平均値Cr
1、平均値Cr
2、平均値Cr
3、平均値Cr
4、およびクラウニング量Cr
5と線形関係にある。
【0068】
つまり、n個(n=2s+1、sは整数)の分割部を備える分割バックアップロールにおいて、分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量の平均値Cr
i(i=1、2、3、・・・、s)、並びに分割バックアップロールの一端からs+1番目の分割部のクラウニング量Cr
s+1はそれぞれ、対称成分εeおよび対称成分εqと線形関係にある。
【0069】
図6の(a)〜(d)は、矯正後の板端部に関する非対称成分εe’およびクオータ部に関する非対称成分εq’に及ぼす、各分割部のクラウニング量の影響を示すグラフである。
【0070】
図6の(a)は、非対称成分εe’および非対称成分εq’に及ぼす、ワークサイドから1番目の分割部341のクラウニング量と9番目の分割部349のクラウニング量との間の差Cr
1’の影響を示すグラフである。
図6の(b)は、非対称成分εe’および非対称成分εq’に及ぼす、ワークサイドから2番目の分割部342のクラウニング量と8番目の分割部348のクラウニング量との間の差Cr
2’の影響を示すグラフである。
図6の(c)は、非対称成分εe’および非対称成分εq’に及ぼす、ワークサイドから3番目の分割部343のクラウニング量と7番目の分割部347のクラウニング量との間の差Cr
3’の影響を示すグラフである。
図6の(d)は、非対称成分εe’および非対称成分εq’に及ぼす、ワークサイドから4番目の分割部344のクラウニング量と6番目の分割部346のクラウニング量との間の差Cr
4’の影響を示すグラフである。
【0071】
図6の(a)に示すように、クラウニング量の差Cr
1’の増加とともに、非対称成分εe’および非対称成分εq’がいずれも増加した。
図6の(b)および(c)に示すように、クラウニング量の差Cr
2’または差Cr
3’の増加とともに、非対称成分εe’が減少し、非対称成分εq’はほとんど変化しない。また、
図6の(d)に示すように、クラウニング量の差Cr
4’の増加とともに非対称成分εq’が増加し、非対称成分εe’はほとんど変化しない。
【0072】
このように、分割バックアップロールにおける分割部の位置により、分割部のクラウニング量の影響度は異なるが、非対称成分εe’および非対称成分εq’はそれぞれ、クラウニング量の差Cr
1’、Cr
2’、Cr
3’、およびCr
4’と線形関係にある。
【0073】
つまり、n個(n=2s+1、sは整数)の分割部を備える分割バックアップロールにおいて、分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量の差Cr
i’(i=1、2、3、・・・、s)はそれぞれ、非対称成分εe’および非対称成分εq’と線形関係にある。
【0074】
以上の各要因相互の関係から、本発明者らは、以下のことを見出した。すなわち、先ず、以上の各要因相互の関係における、それぞれの線形関係(増加の傾き)を表す影響係数を、ae、be
i、be
s+1、aq、bq
i、bq
s+1、ce
i、cq
iとする。これらの影響係数は、テンションレベラ3のインターメッシュを固定した場合、金属板8の板厚、板幅、および金属種等に基づいて定めることができる。
【0075】
ここで、前述のように定義される矯正後の対称成分εe、εq、および矯正後の非対称成分εe’、εq’を算出するにあたって、伸び率差は差の絶対値ではないため、以下の計算により求めることとする。また、矯正後の金属板8について形状検出器7が検出した情報に基づいて、同様の計算により、εe
1、εq
1、εe’
1、およびεq’
1を求めることとする。そして、Cr
iおよびCr
i’についても、以下の計算により求めることとする。
【0076】
矯正後の金属板8における、ワークサイドにおける板端部の伸び率をEe
W、ドライブサイドにおける板端部の伸び率をEe
D、板幅中央の伸び率をEc、ワークサイドにおけるクオータ部の伸び率をEq
W、ドライブサイドにおけるクオータ部の伸び率をEq
Dで表すこととする。また、ワークサイドからi番目の分割部のクラウニング量をCA
i、ワークサイドから(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量をCA
n+1−iとして表すこととする。
【0077】
εe=((Ee
W−Ec)+(Ee
D−Ec))/2
εq=((Eq
W−Ec)+(Eq
D−Ec))/2
εe’=Ee
W−Ee
D
εq’=Eq
W−Eq
D
Cr
i=(CA
i+CA
n+1−i)/2 (i=1、2、3、・・・s)
Cr
i’=CA
i‐CA
n+1−i (i=1、2、3、・・・s)
本発明者らは、矯正後の金属板8の形状を検出した情報に基づいて算出した実測値に基づいて、以下の式(1)〜(4)の数式モデルを用いて、テンションレベラ3の張力およびクラウニング量を補正した場合の、矯正後の金属板8の板形状を予測することができることを見出した。
【0082】
ここで、nは、分割バックアップロールにおける分割部の個数であり、n=2s+1である。sは整数である。また、影響係数ae、be
i、be
s+1、aq、bq
i、bq
s+1、ce
i、cq
i(i=1、2、3、・・・、s)は、金属板8の板幅、板厚、材質(例えば金属種)等の区分毎にテーブル設定されていてよく、または種々の矯正条件の関数として数式化されていてもよい。
【0083】
また、ΔTは、張力の変化量(補正量)である。ΔCr
iは、分割バックアップロールの一端からi番目の分割部のクラウニング量と、(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量との平均値の補正量である。ΔCr
s+1は、分割バックアップロールの一端からs+1番目の分割部のクラウニング量の補正量である。ΔCr
i’は、分割バックアップロールの一端からi番目の分割部のクラウニング量と、(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量との差の補正量である(i=1、2、3、・・・、s)。
【0084】
本実施の形態における、金属板8の板形状の制御について検討したテンションレベラ3は、下側バックアップロール34が9個に分割されているので、s=4、n=9に相当する。
【0085】
なお、バックアップロールが異なる分割数(分割部の個数)であっても、sの値を変更することにより上記式(1)〜(4)は有効である。
【0086】
また、矯正後の対称成分εe、εq、および矯正後の非対称成分εe’、εq’、並びに、クラウニング量に関するCr
iおよびCr
i’は、上記以外の計算式で求めてもよい。上記式(1)〜(4)を用いてΔT、ΔCr
i、ΔCr
s+1およびΔCr
i’を求めることができるように、計算の規則が統一されていればよい。
【0087】
本実施の形態における、テンションレベラ3の出側に配置された形状検出器7に基づく形状制御では、金属板8の板幅方向の複数箇所の形状を、形状検出器7を用いて連続的に検出し、その検出した情報を用いる。例えば、形状検出器7は、金属板8の板端部、クオータ部、および板幅中央の計5箇所の形状を検出し、検出した情報をプロセスコンピュータ6に送信する。
【0088】
上記検出した情報を用いて、矯正後の板端部に関する対称成分の実測値εe
1、非対称成分の実測値εe’
1、測定結果におけるクオータ部に関する対称成分εq
1、非対称成分εq’
1を算出する。そして、矯正後形状における板端部に関する対称成分εeの目標値(第1目標値)をεe
0、非対称成分εe’の目標値(第2目標値)をεe’
0、矯正後形状におけるクオータ部に関する対称成分εqの目標値(第1目標値)をεq
0、非対称成分εq’の目標値(第2目標値)をεq’
0として、第1式としての上記式(1)および式(2)、並びに第2式としての上記式(3)および式(4)に代入する。
【0089】
これにより、上記各目標値εe
0、εe’
0、εq
0、εq’
0となるように、張力の変化量ΔT、分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量の平均値の変化量ΔCr
i、分割バックアップロールの一端からs+1番目(中央位置)の分割部のクラウニング量の変化量ΔCr
s+1、および分割バックアップロールの一端からi番目および(n+1−i)番目の分割部のクラウニング量の差の変化量ΔCr
i’を算出することができる。この張力の変化量ΔT、平均値の変化量ΔCr
i、クラウニング量の変化量ΔCr
s+1、差の変化量ΔCr
i’に基づいて、テンションレベラ3の制御量を補正すればよい。
【0090】
これにより、種々の形状不良を有する金属板8を、良好な板形状に矯正することができる。
【0091】
なお、以上の説明では、ワークサイドにおける板端部およびクォ−タ部(2箇所)と、ドライブサイドにおける板端部およびクォ−タ部(2箇所)と、板幅中央(1箇所)と、の計5箇所で金属板8の板形状を評価し、上記式(1)〜(4)に基づいてレベラ条件を算出している。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ワークサイドにおける3点以上の箇所と、ドライブサイドにおける3点以上の箇所と、板幅中央との計7箇所以上で金属板8の板形状を評価してもよい。この場合、変数を増加させた形状予測式を用いて、レベラ条件を算出することができる。
【0092】
(本発明の一態様における演算装置の構成)
上記式(1)〜(4)を用いて、テンションレベラ3を制御するための値を算出する、本発明の一態様における演算装置について、
図7に基づいて以下に説明する。
図7は、形状矯正設備1が含むプロセスコンピュータ6の概略的な構成を示すブロック図である。
【0093】
本発明の一態様における演算装置は、例えば形状矯正設備1が含むプロセスコンピュータ6の一機能として実現することができる。なお、本発明の一態様における演算装置は、プロセスコンピュータ6とは異なるコンピュータ(例えば、上位コンピュータ5)を用いて実現されてよく、ハードウェアは特に限定されない。
【0094】
図7に示すように、プロセスコンピュータ6は、制御部10および記憶部20を備えている。この制御部10には、プロセスコンピュータ6の外部に設けられた上位コンピュータ5、形状検出器7、およびテンションレベラ3が接続されている。
【0095】
制御部10は、影響係数決定部11、主演算部12(算出部)、装置制御部13、および実測値算出部14を備えている。主演算部12は、差算出部12aと補正量算出部12bとを備えている。記憶部20は、影響係数データ21および制御パラメータ22を格納している。
【0096】
制御部10は、プロセスコンピュータ6全体の動作を制御する、例えばCPU(Central Processing Unit)である。制御部10が備える各部は、例えばCPUによって動作するソフトウェアとして実現されてよい。
【0097】
制御部10における、影響係数決定部11、主演算部12、装置制御部13、および実測値算出部14の詳細な説明は、プロセスコンピュータ6が実行する、テンションレベラ3を制御するための値を算出する処理の流れの一例の説明と合わせて後述する。
【0098】
記憶部20は、制御部10において用いられる各種データを記憶する不揮発性の記憶装置である。
【0099】
影響係数データ21は、上記式(1)〜(4)が含む各影響係数を、金属板8の寸法および材質(板厚、板幅、金属種)に対応付けてテーブル設定したデータ、または、矯正条件に応じて影響係数を所定の関数を用いて算出するために用いられる係数を格納したデータである。影響係数データ21は、上位コンピュータ5に入力された矯正条件に対応する影響係数を、該影響係数データ21に基づいて影響係数決定部11が設定することができるようなデータであればよい。
【0100】
制御パラメータ22は、各種の矯正条件を含む。この矯正条件としては、特に限定されないが、様々な条件が考えられる。そのため、記載の簡略化のために、ここで具体例を全て挙げることはないが、例えば、ワークロール31のロール本数、インターメッシュ、回転速度、径、摩擦係数、金属板8に与える曲率等がある。制御パラメータ22は、少なくとも、金属板8の寸法および材質に関するデータを含む。制御パラメータ22に基づいて、上記式(1)〜(4)が含む各影響係数を決定でき、上記式(1)〜(4)を用いて、テンションレベラ3を制御するための値を算出することができればよい。
【0101】
また、制御パラメータ22は、テンションレベラ3による矯正後に目標とする金属板8の板形状を規定する板形状目標値(例えば、εe
0、εe’
0、εq
0、εq’
0)を含む。例えば、矯正後の板形状が平坦(板幅方向の各箇所で伸び率差が0)であることを目標とすれば、εe
0、εe’
0、εq
0、εq’
0がいずれも0であることが板形状目標値となる。
【0102】
ここで、上記目標値εe
0、εe’
0、εq
0、εq’
0は、金属板8の所望の矯正後の板形状に応じて、種々設定されてよい。例えば、金属板8の矯正後の板形状(製品形状)として、中伸び不可または耳伸び不可といった要求がある場合がある。例えば、中伸び不可の場合には、目標とする板形状が少し耳伸びとなるように、目標値εe
0、εq
0を設定してよい。このことは、以降の説明においても同様である。
【0103】
上記制御パラメータ22は、ユーザが、上位コンピュータ5の入力部5bを介して入力することができる。制御パラメータ22の入力方法は特に限定されない。また、上位コンピュータ5に予め各種の矯正条件が入力されていてもよい。
【0104】
(処理の流れ)
上記のような本発明の一態様における演算装置としてのプロセスコンピュータ6が実行する処理の流れの一例を、
図8を用いて説明する。
図8は、プロセスコンピュータ6が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0105】
図8に示すように、ユーザは、入力部5bに、矯正対象である金属板8の寸法および材質等の情報を入力する(ステップ1;以下S1のように略記する)。
【0106】
そして、ユーザは、入力部5bに、テンションレベラ3による矯正後に目標とする金属板8の板形状を規定する板形状目標値εe
0、εe’
0、εq
0、およびεq’
0を入力する(S2)。
【0107】
なお、上記S1、S2の順番は限定されない。S1、S2にて入力されたデータは、プロセスコンピュータ6に送信され、記憶部20にて制御パラメータ22として記憶される。
【0108】
次に、影響係数決定部11は、制御パラメータ22の情報に基づいて、影響係数データ21の中から、適切な影響係数を決定する(S3:影響係数決定工程)。本実施の形態では、s=4であることから、影響係数ae、be
i、be
s+1、aq、bq
i、bq
s+1、ce
i、cq
i(i=1、2、3、4;s=4)を決定する。
【0109】
その後、金属板8の矯正を開始する(S4)。
【0110】
矯正中において、形状検出器7は、矯正後の金属板8の板幅方向における、複数箇所の形状を検出する(S5)。本実施の形態では、形状検出器7は、金属板8のワークサイドの板端部およびクオータ部、ドライブサイドの板端部およびクオータ部、並びに板幅中央の計5箇所の形状を検出する。形状検出器7が検出した情報は、実測値算出部14に送信される。なお、形状検出器7が検出した情報は伸び率であってもよいし、伸び率を算出するための情報であってもよい。
【0111】
実測値算出部14は、受信した情報に基づいて、矯正後の金属板8の板幅方向における、複数箇所間の伸び率差および伸び率差の平均の実測値を算出する(S6)。本実施の形態では、上記5箇所についての情報に基づいて、矯正後の金属板8の板形状の実測値εe
1、εq
1、εe’
1、およびεq’
1を算出する。そして、算出したこれらの実測値は、主演算部12に送信される。
【0112】
次に、主演算部12の差算出部12aは、制御パラメータ22に記憶されている板形状目標値εe
0、εe’
0、εq
0、およびεq’
0と、実測値算出部14から受信した実測値εe
1、εq
1、εe’
1、およびεq’
1とに基づいて、互いに対応する目標値と実測値との差を算出する(S7:差算出工程)。
【0113】
そして、主演算部12の補正量算出部12bは、この算出した差の値、および影響係数決定部11が決定した上記影響係数に基づいて、上記式(1)〜(4)を用いて、連立方程式を解くことにより、張力の補正量、および分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の補正量を算出する(S8:補正量算出工程)。なお、上記式(1)〜(4)の解を求める方法は特に限定されず、既知の方法を用いればよい。例えば、張力T、および分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の何れか1つ若しくは複数の値を固定してもよい。或いは、分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の間に関係式を与えてもよい。求めた張力Tの補正量、および分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の補正量が仕様範囲内となっていればよい。
【0114】
そして、装置制御部13は、上記算出した張力Tの補正量を用いて張力付加装置2を制御し、算出した分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の補正量を用いて、分割バックアップロール圧下調整装置4を制御する(S9)。
【0115】
以上のように、金属板8の板形状を、板幅中央に対称な成分(対称成分)と、板幅中央に非対称な成分(非対称成分)とにより評価することにより、種々の形状不良に対応することができる。そして、種々の形状不良を有する金属板8を、所望の板形状(所望の目標値)とするために適切なテンションレベラ3の制御値の補正量を、矯正後の金属板8の板形状を検出して算出した板幅方向の複数箇所の伸び率差に基づいて、上記式(1)〜(4)を用いて、矯正中に算出することができる。
【0116】
したがって、種々の形状不良を有する金属板8を、良好な板形状に矯正することができるように、分割バックアップロールを備えるテンションレベラ3を制御するための値を算出することができる。
【0117】
なお、本発明の一態様における演算装置は、テンションレベラ3を制御する制御装置の一部として実現されてもよい。
【0118】
(実施例)
本発明の一実施例および比較例について、
図9および
図10を用いて以下に説明する。
【0119】
本実施の形態の形状矯正設備1を用いて、板厚0.08mm、板幅650mm、鋼種SUS304の鋼帯(金属板8)のコイルについて、コイル全長にわたって金属板8の形状矯正を行った。なお、板端部及びクオータ部の評価位置については、板端部を板端から25mmの位置、クオータ部を板幅中央から板端までの距離の40%の位置とした。また、矯正後形状の対称成分の目標値εe
0、εq
0をそれぞれ8Iunit、3Iunitとし、矯正後形状の非対称成分の目標値εe’
0、εq’
0をいずれも0Iunitとした。
【0120】
形状検出器7を用いて、テンションレベラ3による矯正後の金属板8のワークサイドの板端部およびクオータ部、ドライブサイドの板端部およびクオータ部、並びに板幅中央の計5箇所の形状を検出した。矯正後の金属板8の板幅方向における各部の伸び率を算出するとともに、張力Tおよび分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量の補正量を算出し、該補正量に基づいて張力およびクラウニング量を調整した。
【0121】
また、比較のため、形状検出器7により検出した形状の情報に基づいて、オペレータが張力Tおよび分割部341〜349のそれぞれのクラウニング量を変更して、上記と同様のコイルについて、形状矯正を行った。
【0122】
本実施の形態の形状矯正設備1を用いて形状矯正を行った場合は、
図9に示すように、形状矯正を開始した時点では、矯正後形状の対称成分εe、εqの実測値と目標値との差の絶対値はそれぞれ16Iunit、13Iunitと大きかったが、その後、差は減少し、安定した状態となった。安定した状態において、矯正後形状の対称成分εe、εqの実測値と目標値との差の絶対値はいずれも5Iunit以内に収まっていた。
【0123】
これに対して、形状検出器7により検出した形状の情報に基づいて、オペレータが矯正条件を調整した場合は、
図10に示すように、形状矯正を開始した時点において、矯正後形状の対称成分εe、εqの実測値と目標値との差の絶対値はそれぞれ18Iunitおよび12Iunitと大きく、その後減少したが、5Iunit以内に収まらなかった。
【0124】
(変形例)
分割バックアップロール圧下調整装置4は、上側バックアップロール33を制御する構成であってもよい。その場合、上側バックアップロール33の分割部を圧下するとは、分割部を鉛直下方向に偏移させることを意味する。
【0125】
〔ソフトウェアによる実現例〕
プロセスコンピュータ6の制御ブロック(特に、影響係数決定部11、主演算部12、装置制御部13、および実測値算出部14)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0126】
後者の場合、上位コンピュータ5およびプロセスコンピュータ6は、各機能を実現するソフトウェアである情報処理プログラムの命令を実行するCPU、前記プログラムおよび各種データがコンピュータ(またはCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)または記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、前記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(またはCPU)が前記プログラムを前記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。前記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、前記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して前記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、前記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0127】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。