特許第6870377号(P6870377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6870377液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870377
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20210426BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210426BHJP
   C07D 307/89 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
   C07D307/89 ZCSP
【請求項の数】8
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-32485(P2017-32485)
(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-198975(P2017-198975A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-87366(P2016-87366)
(32)【優先日】2016年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】植阪 裕介
(72)【発明者】
【氏名】新保 樹
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−135464(JP,A)
【文献】 特開2013−120289(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024892(WO,A1)
【文献】 特開2016−041683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C07D 307/89
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有する重合体[A]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Qは、下記式(3)で表される4価の有機基であり、Qは2価の有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基である。)
【化2】
(式(3)中、A及びAは、それぞれ独立に芳香環基又はシクロヘキサン環から3個の水素原子を取り除いた基であり、Rは、炭素数1〜18個の2価の有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基であり、RとRとが結合して、Rが結合する窒素原子、Rが結合する窒素原子及びRとともに環が形成されていてもよい。「*」は、カルボニル基に結合する結合手を示す。)
【請求項2】
前記Rは、前記Rに隣接する2個の窒素原子の少なくとも一方に対して、カルボニル基、メチレン基、脂環式基、芳香環基又は複素環基で結合している、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
重合体成分において、前記重合体[A]と同一分子中又は異なる分子中に、窒素含有複素環、2級アミノ基及び3級アミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有するジアミン化合物に由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体[A]は、上記式(3)で表される部分構造を有さない脂環式テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体[A]は光配向性を示す重合体である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体[A]は、偏光紫外線の照射後に150℃以上に加熱することによって光配向性を示す重合体である、請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜及びその製造方法、並びに液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、大画面で高精細の液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶パネルに対する高精細化の要求はさらに高まりつつある。こうした背景を基に、液晶パネルの表示品位の向上を図るべく種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、熱により脱離する基で保護されたアミノ基を分子内に有するジアミンを原料としたポリアミック酸及びその誘導体を液晶配向剤の重合体成分に用いることにより、残像の低減を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−193167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶パネルの多用途化に伴い、液晶パネルは従来よりも過酷な環境下で使用されることが想定される。一つとしては光ストレスが挙げられ、例えば、使用期間の長期化や長時間の連続駆動によって、液晶パネルが従来よりも長時間に亘ってバックライトに曝されたり、あるいは、屋外の紫外線照射下で使用されたりすることがある。こうした使用形態では液晶素子の劣化が進みやすく、長期間に亘って表示性能を担保できないことが懸念される。また、過酷な環境下で液晶素子を使用することによって液晶配向膜が基板から剥がれやすくなり、膜が基板から剥がれた場合には、液晶素子の表示品位が低下してしまうことが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、液晶素子の光に対する信頼性及び基板に対する膜の密着性を改善することができる液晶配向剤を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような従来技術の課題を達成するべく鋭意検討した結果、特定構造を有する重合体を液晶配向剤の重合体成分として用いることにより、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には以下の手段が提供される。
【0007】
<1> 下記式(1)で表される部分構造及び下記式(2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有する重合体[A]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Qは、下記式(3)で表される4価の有機基であり、Qは2価の有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基である。)
【化2】
(式(3)中、A及びAは、それぞれ独立に芳香環基又はシクロヘキサン環から3個の水素原子を取り除いた基であり、Rは、炭素数1〜18個の2価の有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基であり、RとRとが結合して、Rが結合する窒素原子、Rが結合する窒素原子及びRとともに環が形成されていてもよい。「*」は、カルボニル基に結合する結合手を示す。)
【0008】
<2> 上記<1>の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
<3> 上記<2>の液晶配向膜を具備する液晶素子。
<5> 上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有する重合体。ただし、Rは、Rに隣接する2個の窒素原子の少なくとも一方に対して、カルボニル基、メチレン基、脂環式基、芳香環基又は複素環基で結合している。
<6> 下記式(4)で表される化合物。
【化3】
(式(4)中、A及びAは、それぞれ独立に芳香環基又は脂環式基であり、Rは、炭素数1〜18個の2価の有機基である。ただし、Rは、Rに隣接する2個の窒素原子の少なくとも一方に対して、カルボニル基、メチレン基、脂環式基、芳香環基又は複素環基で結合している。R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は1価の有機基であり、RとRとが結合して、Rが結合する窒素原子、Rが結合する窒素原子及びRとともに環が形成されていてもよい。)
【発明の効果】
【0009】
上記重合体[A]を含む液晶配向剤によれば、基板に対する密着性が良好な液晶配向膜を形成することができる。また、光に対する信頼性が良好な液晶素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】FFS型液晶表示素子の概略構成図。
図2】ラビング法による液晶表示素子の製造に用いたトップ電極の平面模式図。(a)はトップ電極の上面図であり、(b)はトップ電極の部分拡大図である。
図3】4系統の駆動電極を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0012】
≪重合体[A]≫
本開示の液晶配向剤は、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有する重合体[A]を含有する。この重合体[A]は、上記式(1)及び式(2)中のQに、上記式(3)で表される骨格を有する。
【0013】
ここで、本明細書において「有機基」は、有機化合物の中に含まれる反応性又は非反応性の原子の集団、及び有機化合物に反応性を与える単原子を含む概念である。したがって、当該有機基は炭化水素の原子団であってもよく、構造中にヘテロ原子を含む原子団であってもよく、又はヘテロ原子であってもよい。
「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状又は分岐状の炭化水素基を意味する。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含む炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有していてもよい。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
「テトラカルボン酸誘導体」は、テトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸ジエステル及びテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物を含む意味である。
【0014】
上記式(3)において、A及びAは、それぞれ独立して芳香環基又は脂環式基である。A、Aの芳香環基としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香環の環部分から3個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。好ましくは、A及びAの芳香環基は、ベンゼン環から3個の水素原子を取り除いた基である。また、脂環式基としては、例えばシクロペンタン環、シクロヘキサン環等の脂肪族環の環部分から3個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。好ましくは、A及びAの脂肪族環基は、シクロヘキサン環から3個の水素原子を取り除いた基である。液晶素子の信頼性の観点からすると、A及びAは芳香環基が好ましく、ベンゼン環から3個の水素原子を取り除いた基であることがより好ましい。
【0015】
の2価の有機基としては、炭素数1〜18の2価の炭化水素基、炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が−O−、−CO−、−COO−、−NH−、−NH−CO−、−S−等の官能基で置換された炭素数1〜18の2価の基、炭化水素基の少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、シアノ基等の置換基で置換された炭素数1〜18の2価の基、複素環を有する基等が挙げられる。
は、上記の中でも、Rに隣接する2個の窒素原子の少なくとも一方に対して、カルボニル基、メチレン基、脂環式基、芳香環基又は複素環基で結合していることが好ましく、当該2個の窒素原子の両方に対して、カルボニル基、メチレン基、脂環式基、芳香環基又は複素環基でそれぞれ結合していることがより好ましい。この場合、隣接する2個の窒素原子に結合しているそれぞれの基は、同じでも異なっていてもよい。特に好ましくは、Rは、2個の窒素原子にカルボニル基でそれぞれ結合している構造である。すなわち、Qは、下記式(3−1)で表される基であることが好ましい。
【化4】
(式(3−1)中、Rは、炭素数1〜16個の2価の有機基である。A、A、R及びRは、それぞれ上記式(3)と同義である。「*」は、カルボニル基に結合する結合手を示す。)
【0016】
上記式(3−1)において、Rの2価の有機基は、炭素数1〜16の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜16の2価の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜16の2価の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0017】
上記式(3)、式(3−1)において、R、Rの1価の有機基としては、例えば炭素数1〜10の2価の炭化水素基、保護基等が挙げられる。R、Rが保護基である場合、好ましくはカルバメート系保護基であり、その具体例としては、例えばtert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。中でも、tert−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。R、Rは、好ましくは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は保護基であり、重合体[A]の溶剤に対する溶解性の観点から、より好ましくは保護基である。
、Rは、RとRとが結合して、Rが結合する窒素原子、Rが結合する窒素原子及びRとともに環を形成していてもよい。この場合の環としては、ピペラジン、ホモピペラジン、ピラジン等の窒素含有複素環が挙げられる。
【0018】
上記式(1)、式(2)において、Qの2価の有機基は、ジアミン化合物の2個の1級アミノ基を取り除いた残基である。R及びRの1価の有機基としては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数4〜20のシクロアルキルアルキル基、炭素数4〜20のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、アルコキシシリル基、桂皮酸構造を有する1価の基等が挙げられる。
【0019】
重合体[A]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル又はポリイミドを主骨格とする重合体であり、主骨格に応じた合成方法により得ることができる。重合体[A]がポリアミック酸の場合、例えば、上記式(4)で表される化合物(以下、「特定酸二無水物」ともいう。)を含むテトラカルボン酸二無水物と、ジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0020】
特定酸二無水物について、上記式(4)中のA、A、R〜Rの説明は、上記式(3)、式(3−1)中のA、A、R〜Rの説明がそれぞれ適用される。
特定酸二無水物の具体例としては、例えば下記式(4−1)〜式(4−17)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、特定酸二無水物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化5】
【化6】
【0021】
特定酸二無水物は、上記式(3)中のRに応じて有機化学の定法を適宜組み合わせることによって合成することができる。一例を挙げると、上記式(1)、(2)中のQが上記式(3−1)で表される基である場合には、例えば、下記式(6)で表される酸ハロゲン化物と、下記式(7)で表されるアミン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、必要に応じて触媒の存在下で反応させ、次いで、得られた反応生成物(4−a−1)の脱保護及び脱水閉環反応を行うことにより特定酸二無水物を得ることができる。また、原料としてジアルデヒド化合物と下記式(7)で表されるアミン化合物を用いることにより特定酸二無水物を得ることもできる。ただし、特定酸二無水物の合成方法は上記に限定されない。
【化7】
(式(6)中、X及びXはハロゲン原子であり、Rは、上記式(3−1)と同義である。式(7)中、Aは、芳香環基又は脂環式基である。式(4−a−1)、式(4−a−2)及び式(4−a)中、A、A、R〜Rは、上記式(3−1)と同義である。)
【0022】
重合体[A]としてのポリアミック酸の合成に際し、テトラカルボン酸二無水物としては特定酸二無水物のみを用いてもよいが、特定酸二無水物以外のその他のテトラカルボン酸二無水物を使用してもよい。その他のテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;
【0023】
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−8−メチル−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。その他のテトラカルボン酸二無水物は、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
重合体[A]としてのポリアミック酸の合成に際しては、重合体[A]の溶剤に対する溶解性を良好にできる点で、その他のテトラカルボン酸二無水物として脂環式テトラカルボン酸無水物を用いることが好ましい。これにより、重合体[A]として、特定酸二無水物に由来する構造単位と共に、上記式(3)で表される部分構造を有さない脂環式テトラカルボン酸誘導体に由来する構造単位を有する重合体が得られる。
その他のテトラカルボン酸二無水物として脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その使用割合は、ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましく、15〜95モル%とすることがさらに好ましく、20〜85モル%とすることが特に好ましい。
【0025】
特定酸二無水物の使用割合は、合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対して、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましく、20モル%以上とすることがさらに好ましい。特定酸二無水物の使用割合の上限値は、特に制限されないが、その他のテトラカルボン酸二無水物を併用する場合、95モル%以下とすることが好ましく、90モル%以下とすることがより好ましく、85モル%以下とすることがさらに好ましく、80モル%以下とすることが特に好ましい。
【0026】
ポリアミック酸の合成に際して使用するジアミン化合物は特に限定されない。具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;脂環式ジアミンとして、例えばp−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
【0027】
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、2,5−ジアミノ−N,N−ジアリルアニリン、下記式(E−1)
【化8】
(式(E−1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−COO−又は−OCO−であり、Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、dは0又は1である。ただし、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物等の側鎖型ジアミン:
p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−エチレンジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、1,2−ビス(4−アミノフェノキシ)エタン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、ビス[2−(4−アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、ビス(4−アミノフェニル)アミン、N,N−ビス(4−アミノフェニル)メチルアミン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)−ピペラジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4−(4−アミノフェノキシカルボニル)−1−(4−アミノフェニル)ピペリジン、4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン等の非側鎖型ジアミンを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミン化合物を用いることができる。
【0028】
上記式(E−1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E−1−1)及び式(E−1−2)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化9】
ジアミン化合物は、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤(例えば、酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物等)とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましい。
【0030】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、反応時間は0.1〜24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。特に好ましい有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m−クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル等)との混合物である。有機溶媒の使用量は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計量が、反応溶液の全量に対して、0.1〜50質量%になる量とすることが好ましい。ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0031】
重合体[A]としてのポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記で得られたポリアミック酸とエステル化剤(例えばメタノールやエタノール、N,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等)とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、適当な脱水触媒(例えば4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムハライド、カルボニルイミダゾール、リン系縮合剤等)の存在下で反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、適当な塩基(例えばピリジン、トリエチルアミン等の3級アミンや、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類)の存在下で反応させる方法、等によって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、上記反応によりポリアミック酸エステルを溶液として得た場合、該溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0032】
重合体[A]としてのポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20〜99%であることが好ましく、30〜90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0033】
ポリアミック酸の脱水閉環は、ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われることが好ましい。脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。使用する有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃であり、反応時間は、好ましくは1.0〜120時間である。こうして得られたポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0034】
重合体[A]の溶液粘度は、濃度10質量%の溶液としたときに10〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、15〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、溶液粘度(mPa・s)は、重合体[A]の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
重合体[A]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000〜500,000であり、より好ましくは2,000〜300,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。なお、液晶配向剤に含有させる重合体[A]は1種のみでもよく、又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0035】
重合体[A]を、光配向性を示す重合体としてもよい。この場合、液晶配向剤を用いて形成した塗膜に対して、光配向処理によって液晶配向能を付与できるため、静電気や埃の発生を抑えつつ感光性の有機膜に均一な液晶配向性を付与することが可能である。また、液晶配向方向の精密な制御も可能である点で好適である。
【0036】
光配向性を示す重合体は、例えば光配向性基を有するモノマーを用いた重合により得ることができる。光配向性基は、光照射による光異性化反応や光二量化反応、光分解反応、光フリース転位反応によって膜に異方性を付与する官能基である。光配向性基の具体例としては、例えばアゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有構造、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造、ビシクロ[3.3.0]オクタン又はその誘導体を基本骨格として含むビシクロ[3.3.0]オクタン含有構造等が挙げられる。重合体[A]が光配向性を示す重合体である場合、上記の中でも、偏光紫外線の照射後に150℃以上に加熱することによって光配向性を示す重合体であることが好ましい。こうした重合体としては、光配向性基としてシンナメート基、フェニルベンゾエート基等を有する重合体が挙げられる。
【0037】
≪その他の成分≫
本開示の液晶配向剤は、上記の如き重合体[A]を含有するが、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記式(1)で表される部分構造及び上記式(2)で表される部分構造のいずれも有さない重合体(以下「その他の重合体」という。)、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物、官能性シラン化合物、光重合性化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。上記その他の重合体について、その主骨格は特に限定されず、例えばポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン−フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレート等を主骨格とする重合体が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0038】
液晶配向剤中における重合体[A]の含有割合は、得られる液晶素子の耐光性及び基板に対する膜の密着性を十分に高くする観点から、液晶配向剤中の固形成分(溶媒以外の成分)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。
【0039】
本開示の液晶配向剤の重合体成分において、重合体[A]と同一分子中又は異なる分子中に、窒素含有複素環、2級アミノ基及び3級アミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有するジアミン化合物(以下、「窒素含有ジアミン」ともいう。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。こうした窒素含有構造が重合体成分中に導入されることで、得られる液晶素子において、交流電圧印加に伴う残像をさらに抑制できる点で好ましい。
【0040】
窒素含有ジアミンが有する窒素含有複素環としては、例えばピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、インドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、キノキサリン、フタラジン、トリアジン、カルバゾール、アクリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン等が挙げられる。中でも、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、カルバゾール及びアクリジンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
窒素含有ジアミンが有する2級アミノ基及び3級アミノ基は、例えば下記式(5)で表すことができる。
【化10】
(式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基である。「*」は炭化水素基に結合する結合手である。)
【0041】
上記式(5)において、Rの1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基等のアリール基等が挙げられる。Rは、好ましくは水素原子又はメチル基である。なお、窒素含有ジアミンは、上記式(5)で表される基を主鎖中に有していてもよく、側鎖に有していてもよい。
【0042】
窒素含有ジアミンの具体例としては、例えば2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,6−ジアミノアクリジン、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、4−(4−アミノフェノキシカルボニル)−1−(4−アミノフェニル)ピペリジン、4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン、2,4−ジアミノ−N,N−ジアリルアニリン、下記式(5−1)〜式(5−5)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化11】
【0043】
窒素含有ジアミンに由来する構造単位は、重合体[A]が有していてもよいし、その他の重合体が有していてもよいし、重合体[A]及びその他の重合体の両方が有していてもよい。重合体[A]が窒素含有ジアミンに由来する構造単位を有する場合、窒素含有ジアミンの使用割合は、液晶素子の残像特性の改善効果を十分に得る観点から、重合体[A]の合成に使用する全モノマーに対して、1モル%以上とすることが好ましく、3〜50モル%とすることがより好ましく、5〜40モル%とすることがさらに好ましい。また、その他の重合体が窒素含有ジアミンに由来する構造単位を有する場合、窒素含有ジアミンの使用割合は、当該重合体の合成に使用する全モノマーに対して、1モル%以上とすることが好ましく、3〜80モル%とすることがより好ましく、5〜60モル%とすることがさらに好ましい。なお、窒素含有ジアミンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
<溶剤>
本開示の液晶配向剤は、重合体[A]及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
使用する有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,2−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0046】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA−MVA型、VA−PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(fringe field switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型など種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1〜工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0047】
(工程1:塗膜の形成)
先ず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0048】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmである。
【0049】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦ることによって塗膜に液晶配向能を付与するラビング処理、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等が挙げられる。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。
【0050】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200〜400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0051】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400〜50,000J/mであり、より好ましくは1,000〜20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。光照射後の加熱処理は、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
【0052】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。
【0053】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0054】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子を位相差フィルムとして用いることもできる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
以下の例で使用した化合物は以下の通りである。なお、以下では便宜上、「式Aで表される化合物」を単に「化合物A」と示すことがある。
【0057】
(特定酸二無水物)
【化12】
【0058】
(その他のテトラカルボン酸二無水物)
【化13】
【0059】
(ジアミン化合物)
【化14】
【0060】
<化合物の合成>
[実施例1−1]
下記スキーム1に従って化合物(4−1)を合成した。
【化15】
【0061】
・化合物(4−1−1)の合成
2Lのフラスコに化合物(a)24g、N,N−ジメチルホルムアミド0.01g、脱水ジクロロメタン600mLを入れ、窒素雰囲気下で0℃まで冷却した。続いて、塩化チオニル60gをシリンジを用いてゆっくりと滴下した。滴下終了後、40℃で2時間反応させた後、エバポレーターにて溶媒を溜去して化合物(4−1−1)を25g得た(収率90%)。
・化合物(4−1−2)の合成
得られた化合物(4−1−1)25gをテトラヒドロフラン(THF)400mLに溶解させ、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。別の1Lフラスコに芳香族アミン化合物(c)42gをとり、400mLのTHFに溶解させ、この溶液をカニュラーを用いて化合物(4−1−1)のフラスコに1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下後、室温まで昇温し、さらに2時間反応させた。反応後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1Lを加えて反応液を分液漏斗に移液し、さらに酢酸エチル1Lを加えて分液抽出を行った。有機層を飽和食塩水で洗浄後、エバポレーターにて溶媒を内容量が50gになるまで溜去し、生じた固体をろ過にて回収し、化合物(4−1−2)を30g得た(収率53%)。
・化合物(4−1−3)の合成
2Lのフラスコに化合物(4−1−2)30gを取り、THF400mL及び水100mLを加え溶解させた。氷冷にて溶液の温度を0℃まで下げ、水酸化ナトリウム5gを加え0℃にて3時間反応させた。反応後、10%水酸化ナトリウム水溶液500mLを加えて分液漏斗に移し、酢酸エチル500mLを加えて分液操作を行った。水層にTHF1Lを加え、更に、氷冷しながら15%希硫酸1Lをゆっくりと加えた。THFを用いて分液抽出を行い、有機層を洗浄、濾過後エバポレーターにて溶媒を溜去し、内容量が100gになるまで溜去し、生じた固体をろ過にて回収し、化合物(4−1−3)を15g得た(収率54%)。
・化合物(4−1)の合成
還流管を付けた1Lのフラスコに化合物(4−1−3)15g、及び無水酢酸11gを加え、反応溶液をゆっくりと65℃まで昇温し、24時間反応させた。反応後、容器を室温まで冷却し、反応中に生じた固体をろ過により回収し、化合物(4−1)を12g得た(収率88%)。
【0062】
[実施例1−2]
下記スキーム2に従って化合物(4−2)を合成した。
【化16】
【0063】
1Lのフラスコに化合物(4−1)6gを取り、THF500mLに溶解させた。溶液を氷浴し0℃にした後、窒素雰囲気下で水素化ナトリウム1.4gをゆっくりと加えた。反応温度を0℃に維持したまま1時間撹拌し、続いて二炭酸ジ−tert−ブチル12gを加えた。室温まで昇温させ、さらに1時間撹拌した後、飽和炭酸水素ナトリウム300mLを加えて反応を停止させた。分液漏斗に移液し、酢酸エチル500mLを用いて分液抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、溶媒をエバポレーターで溜去した後、酢酸エチルを用いて再結晶し、化合物(4−2)を7g得た(収率87%)。
【0064】
化合物(4−3)、(4−4)についても、原料に用いる化合物を変更して化合物(4−1)に準じた方法で合成した。
[実施例1−3]
下記スキーム3に従って化合物(4−3)を合成した。
【化17】
【0065】
化合物(4−1−1)21gをTHF400mLに溶解させ、窒素雰囲気下で0℃に冷却した。別の1Lフラスコに脂肪族アミン化合物(g)34gをとり、400mLのTHFに溶解させ、この溶液をカニュラーを用いて化合物(4−1−1)のフラスコに1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下後、室温まで昇温し、さらに2時間反応させた。反応後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1Lを加えて反応液を分液漏斗に移液し、さらに酢酸エチル1Lを加えて分液抽出を行った。有機層を飽和食塩水で洗浄後、エバポレーターにて溶媒を内容量が50gになるまで留去し、生じた固体をろ過にて回収し、化合物(4−3−1)を25g得た(収率53%)。続いて、2Lのフラスコに化合物(4−3−1)20gを取り、実施例1−1において化合物(4−1−2)から化合物(4−1)を得たのと同様の方法で、化合物(4−3)を3g得た(収率18%)。
【0066】
[実施例1−4]
原料に化合物(f)17gを用い、化合物(4−1)と同様の手法にて化合物(4−4)を2g得た(収率43%)。
【化18】
【0067】
化合物(4−15)、(4−16)についても、まず、原料に用いる化合物を変更して化合物(4−1)に準じた方法で前駆体を合成し、次いで、得られた前駆体に対して、化合物(4−2)に準じた方法で保護基を導入することにより合成した。
[実施例1−5]
下記スキーム4に従って化合物(4−15)を合成した。
【化19】
【0068】
2Lのフラスコに化合物(i)90gを取り、実施例1−1において化合物(a)から化合物(4−1−1)を得たのと同様の方法で化合物(j)を55g得た(収率50%)。得られた化合物(j)50gを用い、化合物(4−1−1)から化合物(4−3)を得るのと同様の方法で、化合物(4−12)を10g得た(収率9%)。続いて、化合物(4−12)5gを取り、化合物(4−1)から化合物(4−2)を得るのと同様の方法で化合物(4−15)を4g得た(収率60%)。
【0069】
[実施例1−6]
下記スキーム5に従って化合物(4−16)を合成した。
【化20】
【0070】
・化合物(4−16−1)の合成
2Lのフラスコにパラジウム炭素10g、ギ酸アンモニウム200g、水/メタノール=1/10の混合溶媒600mLを入れ、室温にてゆっくりと撹拌した。次いで、化合物(m)45g及び化合物(c)170gを同様の混合溶媒700mLに溶解させ、パラジウム触媒を撹拌したフラスコに滴下し、室温のまま3時間撹拌した。反応後、溶液をセライトを用いて濾過し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。さらに、濃縮後の混合物にジクロロメタン800mL及び飽和食塩水300mLを加え、分液抽出を行った。有機層を分離し、エバポレーターを用いて溶媒を留去することで、化合物(4−16−1)120gを得た(収率62%)。
・化合物(4−16−2)の合成
2Lのフラスコに化合物(4−16−1)110gを取り、実施例1−1において化合物(4−1−3)を得たのと同様の方法で化合物(4−16−2)を63g得た(収率65%)。
・化合物(4−7)の合成
2Lのフラスコに化合物(4−16−2)58gを取り、実施例1−1において化合物(4−1−3)から化合物(4−1)を得たのと同様の方法で、化合物(4−7)を32g得た(収率60%)。
・化合物(4−16)の合成
最後に、1Lのフラスコに化合物(4−7)を27g取り、実施例1−2において化合物(4−1)から化合物(4−2)を得たのと同様の方法で化合物(4−16)を4g得た(収率10%)。
【0071】
<重合体の合成>
[実施例2−1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(t−5)80モル部、及び化合物(4−3)20モル部、並びにジアミンとして化合物(d−8)100モル部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、60℃で4時間反応を行い、ポリアミック酸(「重合体(A−1)」とする。)を20質量%含有する溶液を得た。
[実施例2−2〜2−7、合成例1−1〜1−4、及び比較合成例1−1〜1−4]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類及び量を下記表1及び表2のとおり変更した以外は上記実施例2−1と同様にしてポリアミック酸をそれぞれ合成した。なお、表1及び表2中、テトラカルボン酸無水物及びジアミンの括弧内の数値は、重合体の合成に使用したテトラカルボン酸誘導体の合計100モル部に対する各化合物の使用割合[モル部]を表す。「−」は、対応する化合物を使用しなかったことを示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
[実施例3−1]
1.液晶配向剤の調製
重合体成分として、上記実施例2−1で得た重合体(A−1)を含有する溶液、及び上記合成例1−1で得た重合体(B−1)を含有する溶液を、重合体(固形分)の質量比が重合体(A−1):重合体(B−1)=30:70となるように混合し、さらにNMP、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、γ−ブチロラクトン(FGBL)及びブチルセロソルブ(BC)を加えて十分に撹拌し、溶媒組成がNMP:DMI:FGBL:BC=40:20:20:20(質量比)、固形分濃度3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.20μmのフィルターを用いてろ過することにより液晶配向剤(S−1)を調製した。
【0075】
2.ラビングFFS型液晶表示素子の製造
図1に示すFFS型液晶表示素子10を作製した。先ず、パターンを有さないボトム電極15、絶縁層14としての窒化ケイ素膜、及び櫛歯状にパターニングされたトップ電極13がこの順で形成された電極対を片面に有するガラス基板11aと、電極が設けられていない対向ガラス基板11bとを一対とし、ガラス基板11aの透明電極を有する面と対向ガラス基板11bの一面とに、それぞれ上記(1)で調製した液晶配向剤(S−1)を、スピンナーを用いて塗布した。次いで、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換したオーブン中で230℃にて15分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。ここで使用したトップ電極13の平面模式図を図2に示した。本実施例では、電極の線幅d1を4μm、電極間の距離d2を6μmとした。トップ電極13としては、電極A、電極B、電極C及び電極Dの4系統の駆動電極を用いた。図3に、用いた駆動電極の構成を示した。この場合、ボトム電極15は、4系統の駆動電極の全てに作用する共通電極として働き、4系統の駆動電極の領域のそれぞれが画素領域となる。
次いで、ガラス基板11a,11b上に形成した塗膜の各表面にコットンにてラビング処理を実施し、液晶配向膜12とした。塗膜に対するラビング方向は、図2(b)の矢印に直交する方向とした。次に、一対の基板のうちの一方の基板における液晶配向膜12を有する面の外縁にシール剤を塗布した後、これらの基板を、互いの基板11a,11bのラビング方向が逆平行となるように直径3.5μmのスペーサーを介して貼り合わせ、シール剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネガ型液晶「MLC−6608(メルク社製)」を注入し、液晶層16を形成した。さらに、基板11a,11bの外側両面に偏光板(図示略)を、2枚の偏光板の偏光方向が互いに直交するように貼り合わせ、液晶表示素子10を作製した。
【0076】
3.光に対する信頼性(BL信頼性)の評価
上記で製造したFFS型液晶表示素子につき、23℃において1Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率[%]を測定し、その値を初期VHRとした。次いで、初期VHR測定後の液晶表示素子につき、LEDランプ照射下の80℃オーブン中で200時間静置した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。光照射後の液晶表示素子につき、上記と同様の方法により、再度、電圧保持率を測定し、この値を光ストレス後VHRとした。光照射に伴う電圧保持率の減少量ΔVHRを下記数式(1)から求め、BL信頼性を評価した。
ΔVHR=初期VHR−光ストレス後VHR …(1)
なお、実施例3−1で製造した液晶表示素子は、電極とラビング方向とが直交するため、ポジ型液晶セルに比べて電極の段差部分でラビングがかかりにくく、液晶表示素子の信頼性が低下しやすい傾向にある。ΔVHRが5%以下であった場合をBL信頼性「良好A(◎)」、5%よりも大きく10%以下であった場合を「良好B(○)」、10%よりも大きく15%以下であった場合を「可(△)」、15%よりも大きかった場合を「不良(×)」と判断した。その結果、本実施例の液晶表示素子ではΔVHR=5%であり、BL信頼性は「良好A(◎)」の評価であった。なお、電圧保持率の測定装置としては、(株)東陽テクニカ製、VHR−1を使用した。
【0077】
4.膜の密着性評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(S−1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した200℃のオーブンで1時間加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.08μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学製S−WB42)を直径が5mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤が接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS−0201−100SL)を用いて密着力を測定することにより、膜の基板に対する密着性を評価した。評価は、密着力が200N/cm以上であった場合を「良好A(◎)」、175N/cm以上200N/cm未満であった場合を「良好B(○)」、150N/cm以上175N/cm未満であった場合を「可(△)」、150N/cm未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力221N/cmであり、密着性「良好A(◎)」の評価であった。
【0078】
[実施例3−2及び比較例1,3]
使用する重合体の種類及び量、並びに溶剤の種類及び量を下記表3に示す通り変更した以外は、上記実施例3−1と同じ固形分濃度で液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、調製したそれぞれの液晶配向剤を用いて実施例3−1と同様にして液晶表示素子を製造し、実施例3−1と同様に各種評価を行った。評価結果については下記表3に示した。
【0079】
[実施例3−3]
1.液晶配向剤の調製
使用する重合体の種類及び量、並びに溶剤の種類及び量を下記表3に示す通り変更した以外は、上記実施例3−1と同じ固形分濃度で液晶配向剤(S−3)を調製した。
2.光水平配向型液晶表示素子の製造
櫛歯状にパターニングされたクロムからなる金属電極を片面に有するガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板の面上に、上記で調製した液晶配向剤(S−3)を膜厚が0.1μmになるようにスピンナーを用いて塗布した。次いで、80℃のホットプレートで1分間乾燥した後、この塗膜表面にHg−Xeランプを用いて254nmの輝線を含む偏光の紫外線10,000J/mを基板法線方向から照射した。その後、200℃のクリーンオーブンで1時間乾燥した。次に、光照射処理を行った一対の基板について、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネガ型液晶(メルク社製、MLC−7026)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。その後、基板の外側両面に偏光板を貼り合わせて液晶表示素子を作製した。
【0080】
3.BL信頼性及び膜の密着性の評価
上記2.で製造した光水平配向型液晶表示素子を用い、実施例3−1の3.と同様にしてBL信頼性の評価を行ったところ、この実施例ではΔVHR=14%であり、「良好B(○)」の評価であった。また、液晶配向剤(S−3)を用いて、実施例3−1の4.と同様にして膜の密着性評価を行ったところ、この実施例では190N/cmであり、密着性「良好B(○)」の評価であった。
【0081】
[比較例2]
使用する重合体の種類及び量、並びに溶剤の種類及び量を下記表3に示す通り変更した以外は、上記実施例3−1と同じ固形分濃度で液晶配向剤(R−2)を調製した。また、調製した液晶配向剤(R−2)を用いて、上記実施例3−3と同様にして光水平配向型液晶表示素子を製造するとともに、実施例3−1と同様にしてBL信頼性及び膜の密着性の評価を行った。評価結果は下記表3に示した。
【0082】
【表3】
【0083】
表3中、重合体欄の括弧内の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体の合計量100質量部に対する各化合物の使用割合(質量部)を示す。溶剤組成欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した溶剤の合計量100質量部に対する各化合物の使用割合を示す。溶剤の略称はそれぞれ以下の意味である(下記表4についても同じ)。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン
FGBL:γ−ブチロラクトン
BC:ブチルセロソルブ
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
DPM:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
【0084】
[実施例3−4]
1.液晶配向剤の調製
使用する重合体の種類及び量、並びに溶剤の種類及び量を下記表4に示す通り変更した以外は、上記実施例3−1と同じ固形分濃度で液晶配向剤(S−4)を調製した。
2.垂直配向型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極を片面に有する一対のガラス基板上に、上記で調製した液晶配向剤(S−4)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレート上で1分間のプレベークを行った後、230℃のホットプレート上で10分間ポストベークして、膜厚約0.08μmの塗膜を形成した。続いて、どちらか一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、間隙を介して2枚の基板を対向配置し、外縁部同士を圧着して接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止した。
3.BL信頼性の評価
上記2.で製造した垂直配向型液晶表示素子を用い、実施例3−1の3.と同様にしてΔVHRによりBL信頼性を評価した。なお、垂直配向型の液晶表示素子では、ΔVHRが1%未満であった場合をBL信頼性「良好A(◎)」、1%以上1.5%未満であった場合を「良好B(○)」、1.5%以上3%未満であった場合を「可(△)」、3%以上であった場合を「不良(×)」と評価した。その結果、本実施例の液晶表示素子ではΔVHR=1.3%であり、BL信頼性は「良好B(○)」の評価であった。
4.膜の密着性の評価
液晶配向剤(S−4)を用いて、実施例3−1の4.と同様にして膜の密着性評価を行ったところ、この実施例では202N/cmであり、密着性「良好A(◎)」の評価であった。
【0085】
[実施例3−5〜3−7及び比較例4]
使用する重合体の種類及び量、並びに溶剤の種類及び組成を下記表4に記載の通りとした点以外は上記実施例3−1と同じ固形分濃度で液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、調製したそれぞれの液晶配向剤を用いて、上記実施例3−4と同様にして垂直配向型液晶表示素子を製造するとともに、実施例3−1と同様にして各種評価を行った。なお、BL信頼性の評価は実施例3−4に準じて行った。評価結果は下記表4に示した。
【0086】
【表4】
【0087】
以上の結果から分かるように、重合体[A]を含む液晶配向剤を用いて製造した液晶表示素子は、BL信頼性と膜の基板に対する密着性とがバランス良く改善されていた。
【符号の説明】
【0088】
10…液晶表示素子、11a,11b…ガラス基板、12…液晶配向膜、13…トップ電極、14…絶縁層、15…ボトム電極、16…液晶層
図1
図2
図3