(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、平均繊維径が10〜3000nmのセルロース繊維(A)、平均粒子径50〜150μmの黒鉛(B)、ポリオレフィン樹脂(C)を含む。
【0014】
<セルロース繊維(A)>
セルロース (cellulose) とは、分子式(C
6H
10O
5)
nで表される炭水化物であるが、本明細書でいうセルロース繊維(A)とは、分子状のものとは異なり、溶剤に難溶の平均繊維径10〜3000nmの繊維状のセルロースを指す。
【0015】
セルロース繊維(A)は、平均繊維径10〜3000nmであり、10〜1000nmが好ましく、100〜500nmがより好ましく、100〜300nmがさらに好ましい。平均粒子径が10nm以上になることで、セルロース繊維同士のネットワーク構造が形成しやすくなり、成形体の曲げ弾性率が向上すること、成形体表面をより平滑にすることができる。また、平均粒子径が3000nm以下になることで重量あたりの繊維の本数が増えて機械的特性に優れる。成形体表面が平滑であると、美観に優れるため、パソコン、携帯電話およびエアコン室内機等のように人の目に触れる用途に好適に使用できる。
【0016】
セルロース繊維(A)のアスペクト比は、30〜10000であることが好ましく、50〜5000であることがより好ましく、50〜1000であることがさらに好ましい。アスペクト比は、平均繊維長を平均繊維径で除した数値である。
上記の範囲にすることで、セルロース繊維の分散が容易となり、良好な外観や機械物性向上といった性能が発現しやすい。尚、上記の平均繊維長および平均繊維径は、電子顕微鏡で観察した任意のセルロース繊維10本の平均値である。
【0017】
セルロース繊維(A)を製造するには、一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー、二軸押し出し機等により磨砕及び/ 又は叩解することによって解繊又は微細化して製造される。また、微生物(例えば、酢酸菌( アセトバクター))を利用して製造することもできる。さらに、市販品を利用することも可能である。セルロース繊維(A)の原料としては、植物( 例えば広葉樹や針葉樹からなる木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、パルプ、再生パルプ、とうもろこし、古紙)が挙げられる。特に、古紙や木材から作製されるパルプを高圧ホモジナイザーもしくは二軸押出し機で解繊する方法が、安価であり、繊維凝集物が少なく、解繊できるため好ましい。特にナノレベルまで解繊する場合は、上記の装置を複数回使用することによって段階的に解繊することが好ましく、繊維径を大きくする場合は、装置の使用回数を減らすことで調整できる。
【0018】
本発明中のセルロース繊維(A)は、リグニンを含んでも良い。リグニンとは、植物中に含まれる高分子フェノール性化合物である。リグニンを含んだセルロース繊維をリグノセルロースと呼ぶこともある。
【0019】
本発明中のセルロース繊維(A)は、樹脂組成物100質量%中に、1〜30質量%含むことが好ましく、5〜20質量%含むことがより好ましい。上記の範囲内であると、セルロース繊維の分散が容易となり、良好な外観や機械物性向上といった性能が発現しやすい。
【0020】
セルロース繊維(A)は、セルロース繊維表面の水酸基が一部変性されたカルボキシル基が導入されたものであっても良い。セルロース繊維にカルボキシル基を導入する方法としては、セルロース繊維と、カルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物、カルボキシル基を有する化合物の酸イミド、またはカルボキシル基を有する化合物の誘導体とを反応させる方法、セルロースの水酸基を酸化する方法等が挙げられる。
【0021】
上記カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物、酸イミド、酸ハロゲン化物やエステル等のカルボキシル基を有する化合物の誘導体が挙げられる。
【0022】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等が挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸イミドとしては、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸のイミドが挙げられる。
カルボキシル基を有する化合物の酸ハロゲン化物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等の酢酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0023】
一方、セルロースの水酸基を酸化する方法としては、N−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法(TEMPO酸化)、紫外線を照射する方法、コロナ放電処理等が挙げられる。この中でも、セルロース繊維を劣化させずに水酸基を酸化させられるTEMPO酸化が好ましい。
【0024】
セルロース繊維(A)は、ポリオレフィン樹脂との親和性を向上させるために、表面処理剤(例えばシラン化合物)を使用して表面に被覆層を形成しても良い。
シラン化合物としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有シランカップリング剤;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤等を挙げることができる。アルコキシシランとしてはメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。尚、シラン化合物を反応させる場合、セルロース繊維を酸化又はアセチル化することで、シラン化合物により有機置換基が導入しやすくなるため、あらかじめ酸化又はカルボキシル基を導入することが好ましい。表面処理剤は、単独あるいは2種以上を併用できる。
【0025】
前記被覆層の形成は、直接処理法(例えば乾式法、スラリー法、スプレー法等)、インテグラルブレンド法(例えば直接法、マスターバッチ法等)、ドライコンセントレート法等の公知の方法を使用できる。また、セルロース繊維(A)の製造過程である水中での解繊過程で表面処理剤を加える方法をとることが出来る。
【0026】
セルロース繊維(A)は、一般的に水を使用しながら解繊されるため、解繊直後は水中に分散した状態である。しかし、樹脂との溶融混練時には100℃以上となる事が多いため、水を除去した状態の粉末状セルロース繊維を使用することが好ましい。粉末状セルロース繊維としては、例えば、セルロース繊維の水分散液をそのまま乾燥させた乾燥物や該乾燥物を機械処理で粉末化したもの、セルロース繊維の水分散液をアセトン、アルコール等の非水系溶媒と混合させてセルロース繊維を凝集させ、その凝集物を乾燥させたもの、セルロース繊維の水分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの、セルロース繊維の水分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。上記スプレードライ法は、上記セルロースナノファイバーの水分散液を気中で噴霧し乾燥させる方法である。特に、セルロース繊維が酸化又はカルボキシル基が導入されている場合、アセトン、アルコール等の非水系溶媒と混合させてセルロース繊維を凝集させ、その凝集物を乾燥させる方法が好ましい。市販の粉末状セルロース繊維としては、日本製紙ケミカル社製のKCフロック、旭化成ケミカルズ社製のセオラス、FMC社製のアビセル等が挙げられる。
【0027】
<黒鉛(B)>
黒鉛(B)は、平均粒子径50〜150μmであり、80〜120μmが好ましい。平均粒子径が50μm以上になることで良好な熱伝導性が得られる。また、平均粒子径が150μm以下になることで良好な機械物性が得られる上、成形体の表面を平滑にできる。なお平均粒子径は、電子顕微鏡で観察した黒鉛粒子の最長長さ10個の平均値である。
【0028】
黒鉛(B)は、樹脂組成物中に5〜30質量%含むことは好ましく、5〜20質量%含むことがさらに好ましい。
【0029】
黒鉛(B)は、鱗状黒鉛、薄片黒鉛、熱分解黒鉛、熱膨張処理を施した黒鉛(以下、膨張化黒鉛ともいう)が使用でき、単独または2種以上を併用することもできる。膨張化黒鉛または熱分解黒鉛を使用する事が好ましい。
【0030】
膨張化黒鉛とは、鉱物として天然に産出される鱗状黒鉛、土壌黒鉛、および塊状黒鉛等の天然黒鉛、ならびに石油コークス、石油ピッチ、無定形炭素等を2000℃以上で熱処理し、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行った人造黒鉛を、化学薬品浸漬または電気酸化処理を行うことで得た黒鉛である。化学薬品浸漬は黒鉛原料を多量の濃硫酸等に浸漬し、さらに濃硝酸、重クロム酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素等の酸化剤を添加して処理することにより黒鉛層間化合物を生成し、次いで水洗いした後に800〜1000℃で急速過熱し、膨張させる方法である。前記電気酸化処理法は黒鉛原料を硫酸等の電解液中で処理し、次いで水洗いした後に800〜1000℃で急速過熱し、膨張させる方法である。
このように熱膨張処理を施した後、粉砕した黒鉛が、熱膨張処理を施した黒鉛である。なお粉砕は、熱膨張処理を施した黒鉛をロール、プレス等を用いて加圧圧縮しシート状とした後に粉砕してもよい。加圧圧縮及び粉砕時に、任意の嵩密度に調整することができる。市販品では、伊藤黒鉛工業社製の膨張化黒鉛ECシリーズが挙げられる。一方、熱分解黒鉛は、粉末コークスを3000℃で熱処理し、黒鉛化した後、粉砕して得られる黒鉛である。
【0031】
黒鉛(B)は、かさ密度が0.1〜0.5g/cm
3であることが好ましく、0.15〜0.2g/cm
3がより好ましい。かさ密度を0.1g/cm
3以上にすることで成形加工性がより向上する。また、かさ密度を0.4g/cm
3以下にすることで熱伝導性がより向上する。なお、かさ密度とはASTM32990に準拠して測定した数値である。
【0032】
また黒鉛(B)は、比表面積が1〜100m
2/gであることが好ましく、80m
2/g以下がより好ましく、40m
2/g以下がさらに好ましい。比表面積を100m
2/g以下にすることで、黒鉛の分散性をより向上することで、成形体の平滑性がより向上する。なお、比表面積とはASTM3037−89に準拠して測定した数値である。
【0033】
黒鉛(B)は、ポリオレフィン樹脂との親和性を向上させるために、表面処理剤(例えば前記シラン化合物)を使用して表面に被覆層を形成してもよい。
【0034】
前記被覆層の形成は、直接処理法(例えば乾式法、スラリー法、スプレー法等)、インテグラルブレンド法(例えば直接法、マスターバッチ法等)、ドライコンセントレート法等の公知の方法を使用できる。このうち簡易的に処理ができる方法として、直接処理法が好ましく、乾式法がより好ましい。
【0035】
乾式法の一例を説明すると、例えば黒鉛をヘンシェルミキサーで撹拌・混合しながら表面処理剤を滴下あるいは噴霧しながら混合し、必要に応じて加熱処理する方法が挙げられる。被覆層形成後の黒鉛は、凝集する場合があるためボールミル等で粉砕することが好ましい。なお、表面処理剤の滴下や噴霧を行う際にアルコール等の有機溶剤で希釈してから被覆層を形成することも好ましい。
【0036】
セルロース繊維(A)および黒鉛(B)の合計量は、樹脂組成物100質量%中、6〜45質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、分散性がより簡便になり、ブツの発生を抑制できる。
【0037】
<ポリオレフィン樹脂(C)>
ポリオレフィン樹脂(C)は、密度930kg/m
3未満のポリオレフィン樹脂(D)および密度930kg/m
3以上のポリオレフィン樹脂(E)を含むことが好ましい。尚、密度はJIS K 7112に準拠して測定した数値を指す。ポリオレフィン樹脂(D)/ポリオレフィン樹脂(E)=1/99〜50/50(質量比)の範囲にあることが好ましく、5/95〜30/70の範囲にある場合がさらに好ましい。また、樹脂組成物100質量%中に、ポリオレフィン樹脂(D)を10〜40質量%およびポリオレフィン樹脂(E)を30〜84質量%含むことが好ましい。
【0038】
ポリオレフィン樹脂(D)は、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状超低密度ポリエチレン樹脂等、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、ならびにα−オレフィンとエチレンないしプロピレンとの共重合体等が挙げられ、単独または複数用いても良い。ポリオレフィン樹脂(D)を使用することで黒鉛(B)を分散し易くなる。これらの中でも直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレンが好ましい。なお低密度とは、920kg/m
3以下を指し、超低密度とは、900kg/m
3以下を指す。
【0039】
ポリオレフィン樹脂(E)は、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン−プロピレンのランダム、ブロックあるいはグラフト共重合体、α−オレフィンとエチレンないしプロピレンの共重合体等が挙げられ、単独または複数用いても良い。これらの中でも高密度ポリエチレン樹脂が好ましい。なお高密度とは、930g/m
3を超えるものを指す。
【0040】
ポリオレフィン樹脂(C)には、必要に応じてポリオレフィン樹脂を変性させて極性を付与した極性ポリオレフィン樹脂を使用しても良い。セルロース繊維(A)及び黒鉛(B)は、表面に極性基(水酸基)を持つため、極性ポリオレフィンが分散剤として働くためである。極性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、高圧高温化で酸素と反応させた酸化ポリエチレン、モンタンワックス、無水マレイン酸変性エチレンオリゴマーなどのマレイン酸変性エチレンオリゴマー;エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどのマレイン酸変性ポリエチレンなどの不飽和カルボン酸変性ポリエチレン系樹脂;無水マレイン酸変性プロピレンオリゴマーなどのマレイン酸変性プロピレンオリゴマー;プロピレン−アクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどのマレイン酸変性ポリプロピレンなどの不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂が挙げられ、マレイン酸変性ポリエチレン系樹脂やマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂などのマレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましく、無水マレイン酸変性ポリエチレン系樹脂や無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂などの無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂がより好ましい。なお、マレイン酸変性ポリエチレン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂にマレイン酸がグラフト重合されてなり、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂にマレイン酸がグラフト重合されてなる。無水マレイン酸変性プロピレンとしては、三洋化成工業社製ユーメックスシリーズが挙げられ、マレイン酸変性ポリエチレンとしては、アルケマ社製オレヴァックシリーズが挙げられる。極性ポリオレフィン樹脂は、樹脂組成物全体を100%とした時に、1〜7%配合することが好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物100重量%中、セルロース繊維(A)1〜30質量%、黒鉛(B)を5〜30質量%、ポリオレフィン樹脂(C)を40〜94質量%含むことが好ましく、セルロース繊維(A)5〜15質量%、黒鉛(B)を5〜20質量%、ポリオレフィン樹脂(C)を65〜90質量%含むことがさらに好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、各種添加剤を配合できる。
【0043】
各種添加剤は、成形品を使用する用途等により適宜選択でき、熱安定剤、可塑剤、分散剤、相溶化剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、顔料、無機充填剤(タルク、マイカ、クレー、ワラストナイト、炭酸カルシウムなど)、発泡剤( 有機系、無機系、マイクロカプセル系など)、難燃剤(ハロゲン系、リン酸エステル系、金属塩系、赤リン、金属水和物など)難燃助剤、摺動剤(PTFE粒子など)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、流動改質剤、結晶核剤、無機及び有機の抗菌剤、グラフトゴムに代表される衝撃改質剤、赤外線吸収剤およびフォトクロミック剤などを、単独または2種類以上を組み合わせて配合できる。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、セルロース繊維(A)、黒鉛(B)、ポリオレフィン樹脂(C)を溶融混錬することで製造できる。前記溶融混錬は、バンバリーミキサーのような回分式混練機、ならびに二軸押出機、単軸押出機およびローター型二軸混練機等の公知の混錬装置を使用できる。また、樹脂組成物の形態は、限定されないが、ペレット状、パウダー状およびビーズ状が一般的である。
【0045】
本発明の成形品は、前記樹脂組成物を溶融・混練し、成形機を使用して得ることができる。成形方法は、公知の方法が使用できる。例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、プレス成形、カレンダー成形、Tダイ成形、インフレーション成形、圧縮成形、パイプ押出成形、ラミネート成形、および真空成形などが挙げられる。
【0046】
本発明の成形品は、建築材料用途であると、例えば、地中熱交換用熱交換パイプ、搬送材[コンテナ、フレキシブルコンテナ、台車、トレー、キャリアテープ、パレット、シートスキッド(自動車シート搬送用)、ストレッチフィルム(荷崩れ防止用)、結束バンド、発泡緩衝材、エアーキャップ(緩衝材)など]、生活資材用成形品[家具(椅子、机、ハンガー等)、住宅等の建材(玄関・室内等の各種ドア、内・外壁材、天井材、屋根材、タイル等)が挙げられる。
【0047】
筐体用途であると、例えば、容器および包装材[食料品(生鮮食料品、加工食料品、清涼飲料等)用容器および包装材、雑貨(食器、玩具、文房具、電気部品、家電品、家具、嗜好品等)用容器および包装材、薬品(工業用薬品、医薬品等)用容器および包装材、自動車用部品[インスツルメントパネル、ドアトリム、ピラー等の内装材、バンパー等の外装材、ガソリンタンク、バルブ等の内部部品等]、家電製品[テレビ、録画再生機(ビデオ、ハードディスク、DVD、BD等)、パソコン機器[パソコン本体、ディスプレー(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクターおよび有機EL等)、ノートパソコン、プリンター、記録媒体ドライブ(ハードディスク、MO、メモリーカード、CD、DVD、BD、フレキシブルディスク等)、記録媒体(USBメモリー、ICカード等)筐体、マウスなどの筐体および内部部品]の筐体、小型携帯機器[無線機、携帯電話、PHS、PDA、スマートフォン、携帯ゲーム機およびゲームソフト、テレビ、ナビゲーション機器、GPS機器、ヘッドホンステレオ、光学カメラ、デジタルカメラ電子辞書および計算機、リチウムイオン充電器などの筐体および内部部品等]の筐体、事務用機器[コピー、ファクシミリ、スキャナおよびそれらの複合機、シュレッダー、紙折機、電子黒板、タイムレコーダー、ネットワークカメラ、喫煙カウンター、ラベルライター、電子レジスタ、電子チェックライター、ラミネーターおよび製本機など]の筐体、遊技機[アーケード型ゲーム機、パチンコ、スロットマシーンなど]の筐体、医療機器[ドライイメージャー、メディカルプリンター、メディカルレコーダー、メディカルカメラ、X線テレビシステム、CTスキャナシステム、マンモグラフシステム、血管撮影システムおよび超音波診断システムなどの筐体などで使用することができる。
【0048】
これらの中でも、熱伝導性と機械物性に優れるため、地中熱交換用熱交換パイプや筐体に使用される成形品が好ましい。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下「質量%」は「%」と記載する。 以下の実施例及び比較例で用いた原料を説明する。セルロース繊維(A)の性状を表1に示す。
【0050】
<セルロース繊維(A−1〜A−4)の製造>
旭化成ケミカル社製のセオラスKG−1000を100gとエタノール1000mLを加えて、アイメックス社製3本ロールミル[BR−230V]を用いて、20回繰り返し通過させた後に真空乾燥させ、粉末状のセルロース繊維(A−1)を得た。繰り返し機械を通過させる回数を調整することにより、平均繊維径の異なるA−2、A−3、A−4を得た。
【0051】
<アセチル化セルロース繊維(A−5)の製造>
日本製紙ケミカル社製のKCフロック50gとTEMPO(Sigma Aldrich社製)150mgと臭化ナトリウム1000mgを溶解した水溶液500mlに加え、均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)50mlと亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)添加した後、pHを10に調整し、酸化反応を開始した。pH10に調整しながら、2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗し、真空乾燥することで、粉末状の酸化セルロース繊維(A−5)を得た。
【0052】
<疎水化セルロース繊維(A−6)の製造>
アセチル化セルロース繊維(A−5)50gとヘキシルトリエトキシシラン(東京化成工業社製)5gをエタノール300mL中で、60℃でマグネチックスターラーを用いて加熱撹拌を1時間おこなった。その後、真空乾燥により溶媒を除去することで、疎水化セルロース繊維(A−6)を得た。
【0053】
(A−7)セルロース繊維(旭化成ケミカル社製、セオラスKG−1000、平均繊維系4500nm)
黒鉛(B)の性状を表2に示す。
【0054】
<ポリオレフィン樹脂(D)>
D−1:直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製KJ640T、密度880kg/m
3、MFR=30g/10min、融点58℃)
D−2:直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製エボリューSP0510、密度903kg/m
3、MFR=1.2g/10min、融点98℃)
E−3:ポリプロピレン樹脂(PP、密度900kg/m
3、MFR=5g/10min、融点120℃)
【0055】
<ポリオレフィン樹脂(E)>
E−1:高密度ポリエチレン樹脂(プライムポリマー社製ハイゼックス7000F、密度952kg/m
3、MFR=0.04g/10min、融点131℃)
E−2:高密度ポリエチレン樹脂(プライムポリマー社製ハイゼックス3300、密度958kg/m
3、MFR=1g/10min、融点133℃)
【0056】
<添加剤(F)>
F−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化学工業社製 ユーメックス1001)
F−2:ガラス繊維(日東紡製カットファイバーE−301、平均繊維系10μm)
【0057】
[実施例1]
〔樹脂組成物の製造〕
セルロース繊維(A−1)10質量%、黒鉛(B−2)10質量%と、ポリオレフィン樹脂(D−1)15質量%と、ポリオレフィン樹脂(E−1)65質量%を、ヘンシェルミキサーに投入し、温度20℃、時間3分の条件でプレミックスした後、スクリュー直径30mm、L/D(スクリュー径/スクリュー長さ)=38〜42の押出機に供給し、回転数200rpm、設定温度190℃の条件で溶融混練し、押し出したものをペレタイザーでカットしてペレット状の樹脂組成物を得た。
【0058】
〔評価方法〕
得られた樹脂組成物を使用して下記の評価項目について試験を行った。その結果を表5及び表6に示す。
【0059】
〔熱伝導率〕
樹脂組成物を熱プレスシート成形機に投入し200℃に加熱して、縦40mm・横40mm・厚み1.5mmのシートを8枚作製し、ホットディスク放熱物性測定装置(TPS−500 京都電子工業社製)を使用して、直径7mmφのセンサーの上下にシートを4枚ずつ重ね、熱伝導率(単位:W/m・K)を測定した。熱伝導率が高い程、熱交換効率、放熱性が良好である。
【0060】
〔引張破壊点伸び率〕
樹脂組成物を熱プレスシート成形機に投入し200℃に加熱して、縦200mm・横200mm・厚み1.5mmのプレスシートを作成後、2号ダンベル型に打抜いて試験片とした。引張り速度100mm/分の条件で、JIS K−7127に準じて、引張破壊点伸び率を測定した。試験前の試験片を伸び率100%とした。伸び率が大きいと、成形体の柔軟性が上がり、衝撃を加えた際に割れやヒビが出来にくくなる。200%以上が好ましい。
【0061】
〔曲げ強度及び曲げ弾性率〕
射出成形機(東芝機械社製)を用いて、樹脂組成物を温度190℃にて短冊試験片に成形した。短冊試験片は、JIS K 7139 記載のタイプB2(縦80mm×横10mm×厚さ4mm)の規格に則った。作製した短冊試験片をJIS K 7171準じて、全自動曲げ試験機ベントグラフII(東洋精機社製)を用いて、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。曲げ強度及び曲げ弾性率が高いほど剛性が増し、成形物に荷重がかかった際に変形しにくくなる。曲げ強度は、20MPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率は、1000MPa以上であることが好ましい。
【0062】
〔比重測定〕
樹脂組成物を熱プレスシート成形機に投入し200℃に加熱して、縦200mm・横200mm・厚み1.5mmのプレスシートを作成後、縦80mm×横60mmの長方形に打ち抜いた試験片を、JIS K 7112に準拠してアルキメデス法にて測定した。
【0063】
〔表面平滑性〕
樹脂組成物をスパイラルダイパイプ成形機(東洋精機社製)に投入し、成形温度190℃、スクリュー回転数80rpmで溶融し押出成形することで、直径20mm、厚さ1.5mmのパイプ状の成形品を得た。
得られたパイプの表面を観察し、以下の基準で表面平滑性を評価した。なお評価基準AおよびBが実用レベルである。
A:パイプの表面が平滑である 良好
B:パイプの表面に高さ0.2mm未満の凹凸がある 実用可
C:パイプの表面に高さ0.2mm以上の凹凸もしくは穴がある 実用不可
セルロース繊維(A)及び黒鉛(B)の凝集物が存在すると表面平滑性にかける。表面平滑性が良好であれば、樹脂中にセルロース繊維及び黒鉛が均一に分散していることを意味する。
【0064】
[実施例2〜17、比較例1〜5]
実施例1の原料を表3および表4に記載した組成に変更した以外は、実施例1と同様に行うことでペレット状の樹脂組成物を作成し、実施例1と同様に評価した。結果を表5、表6に示す。尚、表3、4中の数値は質量%を表し、空欄は配合していないことを表す。
表5および表6の結果から、特定のポリオレフィン中に特定のセルロース繊維を配合することにより、黒鉛単体を配合する場合と比べて、熱伝導率と機械物性と表面平滑性が向上した。黒鉛とセルロース繊維を特定量組み合わせることにより、機械強度だけではなく熱伝導率も向上する驚くべき効果があることが示唆された。
一方、比較例1〜5の樹脂組成物を使用した成形品は、熱伝導性、表面平滑性、機械強度の全て満たすものがなかった。
ただし、実施例2、3、および13は参考例である。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】