特許第6870420号(P6870420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6870420酵素電池正極用電極ペースト組成物、酵素電池正極用電極および酵素電極電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870420
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】酵素電池正極用電極ペースト組成物、酵素電池正極用電極および酵素電極電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20210426BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20210426BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20210426BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20210426BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01M12/06 F
   H01M4/86 B
   H01M4/96 B
   H01M4/90 X
   H01M8/16
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-63662(P2017-63662)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166086(P2018-166086A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−028932(JP,A)
【文献】 特開2016−038988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 4/96
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非白金系炭素触媒(A)と、分散剤(B)とを含有してなり、
分散剤(B)が、塩基性官能基を有する樹脂a、酸性官能基を有する樹脂b、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂c並びにノニオン性樹脂からなる群から選ばれる一種以上の水溶性樹脂型分散剤であり、
塩基性官能基を有する樹脂aが、環状を含むアミノ基を含有するポリエーテル系樹脂であり、酸性官能基を有する樹脂bが、カルボキシル基を有するポリビニル系樹脂であり、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂cが、環状を含むアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格と、カルボキシル基とを有するポリビニル系樹脂であり、ノニオン性樹脂が、ポリビニル系樹脂である酵素電池正極用電極ペースト組成物。(ただし、aおよびbはcを除く。)
【請求項2】
非白金系炭素触媒(A)が、炭素元素を基本骨格とした焼成物であって、構成元素として窒素元素及び卑金属元素を含み、少なくとも窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の一部を置換するようにドープされ、触媒を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとした際、RCに対するRNの割合が1.0〜40%、RCに対するRMの割合が0.01〜20%であり、且
つ酸素還元活性を有する炭素触媒である請求項記載の酵素電池正極用電極ペースト組成物。
【請求項3】
X線光電子分光法(XPS)によって測定した、触媒表面の全元素に対する窒素原子のモル比をNとし、触媒表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N1
2)としたときの、非白金系炭素触媒の表面末端窒素量{N×(N1+N2)}が1.0
〜13.0であることを特徴とする請求項記載の酵素電池正極用電極ペースト組成物。
【請求項4】
非白金系炭素触媒(A)の窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50〜1200m2/gであることを特徴とする請求項1〜いずれか記載の酵素電池正極用電
極ペースト組成物。
【請求項5】
非白金系炭素触媒(A)が、卑金属元素として、Fe及び/又はCoを含む請求項2〜4いずれか記載の酵素電池正極用電極ペースト組成物。
【請求項6】
更に、バインダーを含んでなる請求項1〜いずれか記載の酵素電池正極用電極ペースト組成物。
【請求項7】
請求項1〜いずれか記載の組成物より形成された塗膜を有する酵素電池正極用電極。
【請求項8】
請求項記載の電極を使用して形成される酵素電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素電池正極用電極ペースト組成物、酵素電池正極用電極および酵素電極電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、開発が進められている酵素電池は、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応により生成した電子の有する電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。
酵素電池は取り出した電気エネルギーを電源として使う以外に、酵素の基質選択性を利用し、糖やアルコール等の有機物をセンシングする発電型センサーとしての利用も提案されている。発電型センサーは電源とセンサーを兼ねているため、小型軽量化、低コスト化が可能となることに加え、酵素による微小量検知や高い基質選択性に由来する高いセンシング精度が特長となる。そのため、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイスのセンサー用電源としての利用が期待されている。
他方、酵素電池においては、アノード及びカソードに酸化還元酵素を含み、燃料として多種多様な有機物と空気中の酸素を利用し、発電するエネルギーシステムであり、常温作動、豊富な有機エネルギー源、環境・生体への安全性、貴金属触媒が不要等の利点はある一方、発電性能、寿命、コストに関する課題もある。
【0003】
上記課題の解決に向け、これまでに様々な対策が取られてきた。例えば、多孔性カーボンを用いたポーラス型酵素燃料電池(特許文献1)や、親水性バインダーを用いて電極を作製し、酵素液の染みこみを改善させる方法が報告されている(特許文献2)。
しかし現状において、酵素電池は他の方式の燃料電池に比べ、高い出力を得ることが難しく、小型デバイス用の微力電源としての利用が多く報告されている。そのため、酵素電池の実用化を想定すると他の方式の燃料電池で様々検討がなされてきた電極中の電子やプロトン、酸素の供給改善による高出力化よりも、低出力で安定的に発電機能するための出力安定性が問題となることが考えられる。加えて、一般的に酵素は電位に対する耐性が低いため、使用寿命が短いという問題があり、耐久性を向上させるため、正極側の酵素を白金等の貴金属触媒で代替する方法が知られている。しかし、燃料に生体試料やバイオマス燃料など対象物質以外の不純物成分が多い燃料を使用する酵素電池では、これら不純物が正極触媒を被毒させ活性低下や出力不安定化を誘引する場合がある。
一方、負極と正極を固体電解質でセパレートし、且つ正極触媒に、貴金属よりも不純物の被毒を受けにくい炭素触媒を使用する方法が報告されている(特許文献3)。しかしながら、電極を構成する材料種の分散が十分ではなく、特に触媒に使われる炭素材料は比表面積が大きく凝集を引き起こしやすいため、成膜性の良い電極を安定して作製することが難しいと考えられる。
前述の様に低出力向け用途が多く想定される酵素電池においては、電極の成膜性や均一性、基材との密着度合の違いが出力安定性に与える影響は大きい。そのため、高寿命と出力安定性を両立できる酵素電池正極用の電極の開発が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−181889号公報
【特許文献2】国際公開WO2013/065581号公報
【特許文献3】特開2011−165464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、酵素電池正極用電極を構成する非白金系炭素触媒(A)を、分散剤(B)を用いて分散し、酵素電池正極用電極ペースト組成物を作製することで分散性が良好で優れた塗工安定性を備えた電極ペースト組成物を提供することである。また、本発明の電極ペースト組成物を用いることにより、塗工した際の電極の塗工ムラやピンホールの発生がきわめて少ない酵素電池正極用電極と、それを具有する高寿命で、出力安定性の優れた酵素電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、非白金系炭素触媒(A)と、分散剤(B)とを含有してなる酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0007】
又、分散剤(B)が、塩基性官能基を有する樹脂a、酸性官能基を有する樹脂b、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂c並びにノニオン性樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂を含む分散剤である請求項1記載の酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。(ただし、aおよびbはcを除く。)
【0008】
又、分散剤が、水溶性樹脂型分散剤である上記酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0009】
又、非白金系炭素触媒(A)が、炭素元素を基本骨格とした焼成物であって、構成元素として窒素元素及び卑金属元素を含み、少なくとも窒素元素が炭素骨格内の炭素元素の一部を置換するようにドープされ、触媒を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、RC、RNおよびRMとした際、RCに対するRNの割合が1.0〜40%、RCに対するRMの割合が0.01〜20%であり、且つ酸素還元活性を有する炭素触媒である酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0010】
又、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、触媒表面の全元素に対する窒素原子のモル比をNとし、触媒表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N1+N2)としたときの、非白金系炭素触媒(A)の表面末端窒素量{N×(N1+N2)}が1.0〜13.0であることを特徴とする上記酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0011】
又、非白金系炭素触媒(A)の窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50〜1200m2/gであることを特徴とする上記酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0012】
又、非白金系炭素触媒(A)が、卑金属元素として、Fe及び/又はCoを含む上記酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0013】
更に、バインダーを含んでなる上記酵素電池正極用電極ペースト組成物に関する。
【0014】
又、上記組成物より形成された塗膜を有する酵素電池正極用電極に関する。
【0015】
又、上記電極を使用して形成される酵素電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、酵素電池正極用電極を構成する非白金系炭素触媒(A)を、分散剤(B)を用いて分散し、酵素電池正極用電極ペースト組成物を作製することで分散性が良好で優れた塗工安定性を備えた電極ペースト組成物を提供することである。また、本発明の電極ペースト組成物を用いることにより、塗工した際の電極の塗工ムラやピンホールの発生がきわめて少ない酵素電池正極用電極と、それを具有する酵素電池を得ることが可能となる。従って、高寿命で、出力安定性の優れた酵素電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、「酵素電池正極用電極ペースト組成物」を、「電極ペースト組成物」あるいは「ペースト組成物」ということがある。又、「樹脂」を「重合体」ということがある。又、「非白金系炭素触媒」を、「炭素触媒」ということがある。
【0018】
<酵素電池正極用電極ペースト組成物>
本発明の電極ペースト組成物は、少なくとも非白金系炭素触媒(A)と、分散剤(B)と、溶剤とを含み、更に必要によってバインダーを含む。
非白金系炭素触媒(A)及び分散剤(B)と、溶剤、バインダーの割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0019】
分散剤(B)の含有量は、電極ペースト組成物中の非白金系炭素触媒(A)に対し、0.1〜40質量%、好ましくは1〜5質量%である。この範囲の含有量とすることにより、非白金系炭素触媒(A)の分散安定性を十分に達成できると同時に、非白金系炭素触媒(A)の凝集を効果的に防止でき、かつ電極ペースト組成物を塗工、乾燥後も、膜表面への分散剤(B)の析出を防止できる。
【0020】
また、溶剤は、電極ペースト組成物を100質量%としたとき、60〜99質量部%、好ましくは65〜95質量%である。
【0021】
このような電極ペースト組成物は、種々の方法で得ることができる。
非白金系炭素触媒(A)及び分散剤(B)と、バインダーと溶剤とを含有する、電極ペースト組成物の場合を例にとって説明する。
例えば、
(X−1) 非白金系炭素触媒(A)及び分散剤(B)とバインダーと溶剤と含有する非白金系炭素触媒(A)の水性分散体を得、電極ペースト組成物を得ることができる。
(X−2) 非白金系炭素触媒(A)と分散剤(B)と溶剤とを含有する非白金系炭素触媒(A)の分散体を得、該分散体にバインダーとを加え、電極ペースト組成物を得ることができる。
【0022】
<非白金系炭素触媒(A)>
非白金系炭素触媒(以下、炭素系触媒材料ともいう)とは、炭素原子の集合体を主体とした多成分系からなり、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえばN、B、Pなどのヘテロ原子や卑金属元素が含まれる触媒材料で、1種または2種以上の、炭素材料または窒素元素および卑金属元素を有する化合物を混合、熱処理して、得ることができ、従来公知のものを使用することができる。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
ヘテロ原子と卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有するうえで重要な意味をなす。一般的に非白金系炭素触媒の場合、その触媒活性点として、例えば、炭素触媒表面に卑金属元素を中心に4個の窒素が平面上に並んだ構造(卑金属−N4構造と呼ぶ)部分における卑金属元素や、炭素触媒表面のエッジ部に導入されたヘテロ原子近傍の炭素原子などが挙げられる。
【0023】
本発明における非白金系炭素触媒は、比表面積が大きく、電子伝導性が高いほど好ましい。酸素還元反応は触媒の表面で起こるため、比表面積が大きいほど、酸素とプロトンの反応場が多くなり、触媒活性の向上に繋がるため好ましい。また、電子伝導性が高いほど、電極中における酸素還元反応に必要な電子を前記反応場に供給できるため、電流の増加に繋がりやすく、好ましい。また、触媒表面の窒素量が多いほど表面の活性点の数が多くなりやすいため好ましく、更に窒素がピリジン型窒素を主とした末端窒素であるとより好ましい。
【0024】
本発明における非白金系炭素触媒は、触媒を構成する全元素に対する炭素原子のモル比に対する窒素原子のモル比の割合が1.0〜40%、炭素原子のモル比に対する卑金属原子のモル比の割合が0.01〜20%の範囲にあると好ましい。
【0025】
炭素原子に対する窒素原子や卑金属原子の元素比が上記範囲にあると、活性点形成段階において、卑金属金属元素が炭素の結晶化促進、細孔の発達、エッジの生成等の炭素化触媒として効果的に作用することで活性点の数や質を向上させることが期待できる。更に、酸素還元触媒反応段階においても、金属種が、主に窒素由来の活性点で生成する過酸化水素の還元触媒として作用することで、効果的に水までの還元(四電子還元)を促進させることが期待できるため好ましい。
【0026】
また、X線光電子分光法(XPS)によって測定した、材料表面の全元素に対する窒素原子のモル比を(N)とし、材料表面の全窒素量に対する、XPSのN1sスペクトルのピーク分離により求めたN1型窒素原子量の割合とN2型窒素原子量の割合の合計(%)を(N1+N2)としたときの、表面末端窒素量{N×(N1+N2)}が1.0〜13.0であることが好ましい。
【0027】
非白金系炭素触媒中の窒素原子は様々な状態で炭素骨格の中に存在する。本発明において、N1型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが398.5±0.5eVであり、ピリジン類似の構造をしているものである。N2型窒素原子とは、N1s電子の結合エネルギーが400±0.5eVであり、ピロール類似の構造をしているものである。これらはそれぞれピリジン窒素、ピロール窒素と呼ばれ、本発明ではこれらを合わせ末端窒素と呼称する。これらのピークが重なっている場合には、各成分をガウス関数としてピーク強度、ピーク位置、ピーク半値全幅をパラメーターとして最適化することにより、フィッティングを行ってピークを分離する。ここで、ピリドン類似の構造をしているものはピークの分離が困難なため、便宜上、末端窒素に含まれていてよいものとする。
上記以外の窒素原子は、N3型窒素原子(主に炭素環の内部に存在する、3つの炭素原子と結合している4級のもの)、N4型窒素原子(酸化された状態で、酸素のような異種元素が結合しているもの)に分類される。
【0028】
上記末端窒素は、非共有電子対を有しており、金属に窒素原子が配位する金属−N4構造形成に有利に働くことに加え、末端窒素は周囲の炭素の電子状態に影響を及ぼし、隣接する炭素原子が活性サイトとして働くことが報告されている。そのため、活性の高い触媒表面には末端窒素が多く存在していると考えられ、表面末端窒素量は、表面に存在する末端窒素の量を表す指標となる。
【0029】
更に、上述の触媒作用に対する機能が強いため、含有する金属としては、コバルト(Co)及び/又は鉄(Fe)が好ましい。
【0030】
本発明における非白金系炭素触媒は、窒素を吸着種としたBET比表面積(BETN2)が、50〜1200m2/gであることが好ましい。BET比表面積が上記の範囲にあると、反応が起こる反応場を多くできるため好ましい。
【0031】
本発明における比表面積とは試料単位あたりの表面積のことであり、ガス(N2又はH2O)吸着法によって求めることができる。解析法はBET法を用い、相対圧(P/P0=0.05〜0.3)とガス吸着量のプロットより得られる直線の切片と勾配から、単分子吸着量を求めることで、BET比表面積を算出できる。
【0032】
<非白金系炭素触媒の製造方法>
本発明における炭素触媒の製造方法としては、特に限定されず、炭素材料と、窒素元素を含む化合物及び卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、窒素元素を含む炭素材料、と卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物などの窒素元素及び卑金属元素を含む化合物を炭化させる方法、炭素材料と、窒素元素及び卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、炭素材料と、卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させた材料に気相法で窒素元素をドープする方法など、従来公知のものを使用することが出来る。
好ましい製造方法としては、少なくとも窒素元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法や、少なくとも炭素材料と、窒素元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法が挙げられる。また、前記熱処理により得られた炭素触媒を、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄により得られた炭素触媒を、熱処理する工程を含む方法が挙げられる。
【0033】
<炭素材料>
本発明における非白金系炭素触媒の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料が好ましい。例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
【0034】
市販の無機炭素材料としては、例えば、
ケッチェンブラックEC−300J、及びEC−600JD等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP−Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35等のデンカ社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF−H、VGCF−X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP−C−750、xGnP−M−5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy−N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
東海カーボン社製クノーベル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明における炭素触媒の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料だけでなく、熱処理後炭素粒子となる有機材料も使用することができる。熱処理後に炭素粒子となる有機材料としては、炭素以外に他の元素を含有していても良い。熱処理後の炭素粒子に活性点となる窒素やホウ素等のヘテロ元素を含有させるため、予め同へテロ元素を含有する有機材料の使用が好ましい場合がある。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。その中でも窒素やホウ素などのヘテロ元素を含有する有機材料である、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂等が、窒素元素を含む炭素材料として好ましい。
【0036】
<窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物>
本発明における炭素触媒として、窒素元素、卑金属元素を導入する際に使用される原料としては、窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、色素、ポリマー等の有機化合物、金属単体、金属酸化物、金属塩等の無機化合物が挙げられる。また、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
好ましくは錯体もしくは塩であり、その中でも、卑金属元素を分子中に含有することが可能な、窒素を含有した芳香族化合物は、炭素触媒中に効率的に窒素元素と卑金属元素を導入しやすいため好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な卑金属元素を含んだ化合物が入手可能であり、コスト的にも安価であるため、原料としては特に好ましい。中でも、コバルトフタロシアニン系化合物、ニッケルフタロシアニン系化合物、鉄フタロシアニン系化合物は、高い酸素還元活性も有することで知られていることから、これらを原料に使用した場合、安価で高い酸素還元活性を有する炭素触媒を得ることができるためより好ましい。
【0037】
前駆体の作製方法としては炭素材料と、窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物とを混合する際は、原料同士が均一に混合・複合されていれば良く、混合法としては、乾式混合及び湿式混合が挙げられる。混合装置としては、以下のような乾式混合装置や湿式混合装置を使用できる。
【0038】
乾式処理機としては、例えば、
2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
【0039】
又、乾式処理機を使用する際、母体となる原料粉体に、他の原料を粉体のまま直接添加しても良いが、より均一な混合物を作成するために、前もって他の原料を少量の溶媒に溶解、又、分散させておき、母体となる原料粉体の凝集粒子を解しながら添加する方法が好ましい。更に、処理効率を上げるために、加温することが好ましい場合もある。
【0040】
窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の中には、常温では固体であるが、融点、軟化点、又はガラス転移温度が100℃未満と低い材料がある。それらの材料を用いる場合、常温で混合するより、加温下で溶融させて混合する方がより均一に混合できる場合もある。
【0041】
湿式処理機としては、例えば、
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式処理機としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0042】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、又は、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。又、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0043】
又、各原料が均一に溶解した系でない場合、各原料の溶媒への濡れ性、分散性を向上させるために、一般的な分散剤を一緒に添加し、分散、混合することができる。
【0044】
分散剤としては、水系及び溶剤系のどちらでも使用可能である。具体的には、以下のものが挙げられる。
<水系用分散剤>
市販の水系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0045】
ビックケミー社製の分散剤としては、DISPERBYK−180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等が挙げられる。
【0046】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE12000、20000、27000、41000、41090、43000、44000、又は45000等が挙げられる。
【0047】
BASFジャパン社製の分散剤としては、JONCRYL67、678、586、611、680、682、683、690、60、61、62、63、HPD−96等が挙げられる。
【0048】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトA−110、300、303、又は501等が挙げられる。
【0049】
ニットーボーメディカル社製の分散剤としては、PAAシリーズ、PASシリーズ、両性シリーズPAS−410C、410SA、84、2451、又は2351等が挙げられる。
【0050】
アイエスピー・ジャパン社製の分散剤としては、ポリビニルピロリドンPVP K−15、K−30、K−60、K−90、又はK−120等が挙げられる。
【0051】
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvitec K17、K30、K60、K80、K85、K90、VA64等が挙げられる。
【0052】
丸善石油化学社製の分散剤としては、ポリビニルイミダゾールPVI等が挙げられる。
【0053】
市販の溶剤系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0054】
ビックケミー社製の分散剤としては、Anti−Terra−U、U100、204、DISPERBYK−101、102、103、106、107、108、109、110、111、140、161、163、168、170、171、等が挙げられる。
【0055】
日本ルーブリゾール社製の分散剤としては、SOLSPERSE3000、5000、9000、13240、13650、13940、17000、18000、19000、21000、22000、24000SC、24000GR、26000、28000、31845、32000、32500、32600、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、又は53095が挙げられる。
【0056】
味の素ファインテクノ社製の分散剤としては、アジスパーPB821、PB822、PN411、又はPA111が挙げられる。
【0057】
川研ファインケミカル社製の分散剤としては、ヒノアクトKF−1000、1300M、1500、T−6000、8000、8000E、又は9100等が挙げられる。
【0058】
BASFジャパン社製の分散剤としては、Luvicap等が挙げられる。
【0059】
湿式混合の場合、湿式処理機を用いて作製した分散体を乾燥させる工程が必要となる。この場合、用いる乾燥装置としては、棚式乾燥機、回転乾燥機、気流乾燥機、噴霧乾燥機 撹拌乾燥機、凍結乾燥機などが挙げられる。
【0060】
炭素触媒の製造方法では、炭素材料と、窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物に対して、最適な混合装置、分散装置、又は乾燥装置を選択することにより、触媒活性の優れた炭素触媒を得ることができる。
【0061】
次に、炭素材料と、窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物の混合物を熱処理する方法においては、原料となる炭素材料、窒素元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物によって異なるが、加熱温度は500〜1100℃が好ましく、700〜1000℃がより好ましい。
この場合、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る触媒表面となることが多い。このときの温度は600℃以上であることが好ましい。
【0062】
加熱時間は特に限定されないが、通常は1時間から5時間であることが好ましい。
【0063】
更に、熱処理工程における雰囲気に関しては、原料をできるだけ不完全燃焼により炭化させ、窒素元素や金属元素などを炭素材料表面に残存させる必要性があるため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気や、窒素やアルゴンに水素が混合された還元性ガス雰囲気などが好ましい。また、熱処理時の炭素触媒中の窒素元素量低減を抑制するために、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下で熱処理を行なったり、炭素触媒の表面構造を制御するために、水蒸気、二酸化炭素、低酸素雰囲気下で熱処理したりしても良い。この場合では、雰囲気によっては酸化が進むと金属が酸化物となり粒子成分が凝集しやすくなるため、温度や時間などを適切に選択する必要がある。
【0064】
また、熱処理工程に関しては、一定の雰囲気及び温度下で、1段階で処理を行う方法だけでなく、一度、不活性ガス雰囲気下、500℃程度の比較的低温で熱処理し、その後、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気下、または賦活ガス雰囲気下で、1段階目を超える温度で熱処理することも可能である。そうすることで、触媒活性サイトとして考えられている窒素元素や金属元素からなる活性サイト部位を、より効率的且つ、多量に残存させられることがある。
【0065】
炭素触媒の製造方法としては、さらに、前記熱処理により得られた炭素触媒を酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。ここで用いる酸は、前記熱処理により得られた炭素触媒表面に存在する活性点として作用しない卑金属成分を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。炭素触媒との反応性が低く、卑金属成分の溶解力が強い濃塩酸や希硫酸等が好ましい。具体的な洗浄方法としては、ガラス容器内に酸を加え、炭素触媒を添加し、分散させながら数時間撹拌させた後、静置し、上澄みを除去する。そして、上澄みの着色が確認されなくなるまで上記方法を繰り返し行い、最後に、ろ過、水洗により酸を除去し、乾燥する方法が挙げられる。
触媒活性点としてエッジ部の窒素元素近傍の炭素元素を有する炭素触媒は、酸で洗浄することにより、表面の卑金属成分が除去され触媒活性が向上するため好ましい。
【0066】
炭素触媒の製造方法としては、さらに、前記酸洗浄により得られた炭素触媒を再度熱処理する工程を含む方法が挙げられる。ここでの熱処理は、先に行った熱処理の条件と大きく変わるものではない。加熱温度は500〜1100℃が好ましく、700〜1000℃がより好ましい。また、雰囲気は、表面の窒素元素が分解し減少しにくい観点から、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、不活性ガスに水素が混合された還元性ガス雰囲気、窒素元素を多量に含むアンモニアガス雰囲気下等が好ましい。
【0067】
<分散剤(B)>
本発明において使用する分散剤(B)は、非白金系炭素触媒(A)に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤(B)は、非白金系炭素触媒(A)に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0068】
分散剤(B)としては、塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基および酸性官能基を有する樹脂並びにノニオン性樹脂からなる群から選ばれる一種以上の樹脂を用いることが出来る。
【0069】
塩基性官能基を有する樹脂としては、環状を含むアミノ基およびアミノ基の一部あるいは全て中和した骨格や4級アンモニウム塩を含有し、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等の重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらの酸中和物が挙げられる。(メタ)アクリレートとは、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0070】
酸性官能基を有する樹脂としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有し、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等のカルボキシル基を有する重合性単量体や、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホ基を有する重合性単量体、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジフェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、フェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、アシッド・ホスホオキシエチルメタクリレート、メタクロイル・オキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピルメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコールメタクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、アリルアルコールアシッドホスフェート等のリン酸基を有する重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらのアルカリ中和物が挙げられる。
【0071】
塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂としては、前記塩基性骨格と前記酸性骨格を共に含有するものを意味し、スチレン−マレイン酸−N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物などが挙げられる。
【0072】
ノニオン性樹脂は、前記塩基性官能基を有する樹脂、酸性官能基を有する樹脂、塩基性官能基及び酸性官能基を有する樹脂以外の樹脂であり、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0073】
また、ノニオン性樹脂は、次に例示する複数の重合性単量体から構成される共重合体でも良い。
【0074】
芳香環を有する重合性単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを例示出来る。
【0075】
鎖式飽和炭化水素基を有する重合性単量体としては、具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル(メタ)アクリレートがあり、好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のアルキル基を有するアルキル基含有アクリレートまたは対応するメタクリレートが挙げられる。これらのアルキル基は分岐してもよく、具体例としては、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等、脂肪酸ビニル化合物が挙げられる。
更に、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等、α−オレフィン化合物が挙げられる。
【0076】
環状飽和炭化水素基を有する重合性単量体としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
ポリオキシアルキレン構造を有する重合性単量体としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等、末端に水酸基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたはモノメタアクリレート等、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等、末端にアルコキシ基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたは対応するモノメタアクリレートがある。また、アルキルビニルエーテル化合物としては、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等が挙げられる。
また、グリシジル(メタ)クリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のように環式化合物を用いても良い。
【0078】
水酸基を有する重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アリルアルコール等が挙げられる。
また、ビニルアルコールの誘導体である重合性単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステルが例示できる。これらのビニルエステルを共重合し、得られた共重合体を水酸化ナトリウムなどにより鹸化することで、水酸基を形成できる。
【0079】
窒素含有の重合性単量体としては、N−ビニル−2−ピロリドン、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド等のモノアルキロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メチロール)アクリルアミド、N−メチロール−N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド等を例示できる。
【0080】
更にその他の単量体としては、パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート類;
パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレン等のパーフルオロアルキル、アルキレン類等のパーフルオロアルキル基含有ビニルモノマー、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラノール基含有ビニル化合物及びその誘導体などを挙げることができ、これらの群から複数用いることができる。
【0081】
エチニル化合物としては、アセチレン、エチニルベンゼン、エチニルトルエン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等が挙げられる。これらは単独もしくは2種類以上を併用して使用することもできる。
【0082】
分散剤として水溶性樹脂型分散剤を使用した電極ペーストから燃料電池正極用電極を作製すると、電極内部が親水的になり活性点へのプロトン供給が有利となるため、好ましい。
【0083】
水溶性樹脂型分散剤は、ポリビニル系樹脂やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ホルマリン縮合物、シリコーン系、及びこれらの複合系ポリマー等が挙げられる。更に、これらの水溶性樹脂型分散剤は2種類以上を併用してもよい。
【0084】
市販の水溶性樹脂型分散剤としては、例えば、DISPERBYK−180、184、187、190、191、192、193、194、199、2010、2012、2015、2096等(ビックケミー社製)、SOLSPERSE20000、27000、40000、41090、44000、46000、47000、64000、65000、66000等(日本ルーブリゾール社製)、フローレンG−700AMP、G−700DMEA、WK−13E、GW−1500、GW−1640等(共栄社化学社製)、Borchi(登録商標)Gen1350、0851、1253、SN95、WNS等(松尾産業社製)、TEGODispers650、651、652、655、660C、715W、740W、750W、752W、755W、760W等(巴工業社製)、ポリビニルピロリドンPVP−K30、K85、K90等(ISPジャパン社製)、エスレックBL−1、BL−2、BL−5、BL−10、BL−1H、BL−2H、BL−S、BM−S、BM−1、BM−2、BM−5、BX−1、BX−5等(積水化学工業社製)、カルボキシメチルセルロースCMC1110、1130、1140、1170、1190、1210、1240、1250等(ダイセル化学工業社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0085】
なお、水溶性樹脂型分散剤の質量平均分子量は、炭素触媒(A)の分散性が良好な点から、1000以上、500000未満であり、好ましくは5000以上、400000未満である。
【0086】
<溶剤>
本発明に使用する溶剤としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性や導電性支持体への塗工性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも水や、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0087】
<水性液状媒体>
本発明では水及び水と相溶する液状媒体として、水性液状媒体の使用が好ましい。水性液状媒体としては水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、導電性支持体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。アルコール類としては、例えば、沸点80〜200℃程度の1価のアルコールないし多価アルコールが利用でき、好ましくは炭素数が4以下のアルコール系溶剤が挙げられる。具体的には、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。これらの1価のアルコールの中でも、2−プロパノール、1−ブタノール及びt−ブタノールが好ましい。多価アルコールとしては具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール等が好ましく、中でもプロピレングリコールが特に好ましい。
【0088】
<バインダー>
本発明におけるバインダーとは、非白金系炭素触媒料(A)などの粒子を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン−ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0089】
また、水性液状媒体を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダーも使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0090】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0091】
<分散機・混合機>
本発明の電極ペースト組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0092】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0093】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0094】
<燃料>
酵素電池で使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D−グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。
【0095】
<酵素電池正極用電極>
酵素電池正極用電極は、導電性支持体(カーボンペーパや導電性カーボン層など)やセパレータなどに前記電極ペースト組成物を直接塗布し、乾燥することにより形成される。
電極ペースト組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0096】
塗布した後、乾燥することにより、塗膜(酵素電池正極用電極)が形成される。
【0097】
<導電性支持体>
導電性支持体は、特に限定されないが、発生した電気を取り出すために用いられ導電性を有する材料であれば特に限定はない。導電性の炭素材料からなる導電層やカーボンペーパや、カーボンフェルト、カーボンクロスなどが使われる。
【0098】
<セパレータ>
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、濾紙等を用いることができる。
【0099】
<酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素であれば特に制限はなく、供給する燃料に応じて適宜選択される。
酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。本発明の酵素電池に用いるアノード電極においては電子を放出できる酵素であれば良く、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。
【0100】
<メディエータ>
酵素には電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型酵素(DET型)と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型でない酵素の場合には、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極に伝達する役割を担うメディエータを併用する必要がある。メディエータとしては、電極に電子を伝達できる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。
【0101】
<酵素電池負極用電極>
酵素電池負極用電極は、導電性支持体(カーボンペーパや導電性カーボン層など)やセパレータなどに導電性炭素材料などの電極ペースト組成物を直接塗布し、乾燥した塗膜に酵素やメディエータを担持させたり、導電性支持体に酵素やメディエータを直接担持させたりして作製する。
上記電極ペースト組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、酵素電池正極用電極の作製に際に使用するような一般的な方法を適用できる。
酵素やメディエータを担持する方法は、上記電極ペーストに含ませて行っても良いし、塗布後乾燥した塗膜や、導電性支持体に後から行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエータを溶解させた液を上記塗膜や、導電性支持体に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法などが使用できる。
【0102】
<酵素電池>
酵素電池は、糖やアルコールなどの有機物を燃料として、アノードで発生したe-(電子)およびイオンにより、カソード側の酸素還元反応を利用して発電することができる。
又、発電の有無や発電量を検知することにより対象物(燃料)をセンシングすることが可能となり、電源とセンサーを兼ねる発電型センサーとして機能することができる。 酵素電池の構成としては、燃料を酸化するアノードと、酸素還元が起こるカソードと、アノードとカソードを分離するセパレータを含む。但し、アノードとカソードを電気的に分離することができればセパレータは必ずしもなくても構わない。カソードとしては、本発明における酵素電池正極用電極ペースト組成物を好適に使用することができる。
また、アノードからカソード側にイオンを伝達するためのイオン伝導体を含んでいても良い。小型・軽量化や保存性等を考慮すると、燃料(センシング対象物)である尿や汗、血液中等に含まれるイオン伝導体を使用する形式の酵素電池の方が好ましい場合がある。
アノードとカソードが完全に分離していない、非セパレータ系や紙等をセパレータに使用する形式の酵素電池においては、燃料等の成分がカソード反応の不純物となり酸素還元触媒を被毒する場合があり、活性低下、出力不安定化が生じやすいため注意が必要となる。特に白金等の貴金属触媒は被毒されやすいため同系においての使用は好ましくない。一方、本発明の非白金系炭素触媒はこれら貴金属触媒よりも被毒に強いため、不純物が存在する系においても好適に使用できる。
【0103】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、リン酸緩衝液などの電解質が溶けた電解液や、ポリマー電解質などを使用しても良い。
【実施例】
【0104】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、特に断りの無い限り、「部」とは「質量部」、「%」とは「質量%」を意味する。
【0105】
非白金系炭素触媒の分析は、以下の測定機器を使用した。
・表面末端窒素:X線分光分析(XPS)(島津/KRATOS社製 AXIS−HS)
・BET比表面積の測定:窒素吸着量測定(日本ベル社製 BELSORP−mini)
【0106】
[合成例1]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、n−ブタノール200.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、スチレン60.0部、アクリル酸140.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)12.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、共重合体溶液を得た。さらに、水を400部添加して水性化した後、100℃まで加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去した。水で希釈し、不揮発分20%の水性樹脂型分散剤(1)の水溶液を得た。
[合成例2]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、n−ブタノール200.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、スチレン100.0部、アクリル酸60.0部、ジメチルアミノエチルメタクリレート40.0部、および重合開始剤としてV−601(和光純薬工業社製)12.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬工業社製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、共重合体溶液を得た。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール74.2部添加し中和した。これは、共重合体中のカルボキシル基を100%中和する量である。さらに、水を400部添加して水性化した後、100℃まで加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去した。
水で希釈し、不揮発分20%の水性樹脂型分散剤(2)の水溶液を得た。
【0107】
<非白金系炭素触媒(A)>
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP−C−750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン P−26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、非白金系炭素触媒(1)を得た。得られた非白金系炭素触媒(1)の表面末端窒素量は1.5、BET比表面積は228m2/gであった。
【0108】
[製造例2]
ケッチェンブラックEC−600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、非白金系炭素触媒(2)を得た。得られた非白金系炭素触媒(2)の表面末端窒素量は3.5、BET比表面積は630m2/gであった。
【0109】
<正極用電極ペースト組成物の調製>
[実施例1〜5]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶に水性液状媒体79〜83部と分散剤(B)1〜5部を仕込み、次に、非白金炭素触媒(A)10部となるように加え、バインダーとして50質量%エマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)を6部加え、ディスパーで分散し、正極用電極ペースト組成物(1)〜(5)をそれぞれ作製した。
【0110】
[比較例1〜2]
表1に示す組成に従い、分散剤(B)を加えない以外は同じ実施例1〜5と同様の方法で、正極用電極ペースト組成物(6)〜(7)を作製した。
【0111】
【表1】
【0112】
<酵素電池正極用電極の作製>
実施例1〜5の電極ペースト組成物(1)〜(5)と、比較例1〜2、の電極ペースト組成物(6)〜(7)を、ドクターブレードにより、厚さ100μmの紙基材に乾燥後の炭素触媒の目付け量が2mg/cm2となるように塗布し、大気雰囲気中25℃、24時間乾燥し、酵素電池正極用電極(1)〜(7)を作製した。
【0113】
<塗工性評価>
酵素電池正極用電極は、下記に示す塗工性評価によって評価した。酵素電池正極用電極を、ビデオマイクロスコープVHX−900(キーエンス社製)にて500倍で観察し、塗工ムラ(ムラ:カソード層の濃淡により評価)およびピンホール(カソード層が塗布されていない欠陥の有無により評価)について、下記の基準で判定した。評価結果を表2に示す。
【0114】
(ムラ)
○:電極の濃淡が確認されない(良好)。
△:電極の濃淡が1〜3箇所あるが極めて微小領域である(実用上問題なし)。
×:電極の濃淡が4箇所以上確認される、または濃淡の縞の長さが5mm以上のもの1個以上(不良)。
(ピンホ−ル)
○:ピンホールが1つも確認されない(良好)。
△:ピンホールが1〜3個あるが極めて微小である(実用上問題なし)。
×:ピンホールが4箇所以上確認される、または直径1mm以上のピンホールが1個以上(極めて不良)。
【0115】
【表2】
【0116】
<酸素還元活性評価>
以下のようにして、酵素電池正極用電極の活性評価を実施した。
1.評価用ペースト
実施例1〜5及び比較例1〜2で作製した正極用電極ペースト組成物(1)〜(7)を純水で10倍に希釈して評価用ペースト(1)〜(7)を作製した。
2.作用電極の作製
回転電極(グラッシーカーボン電極の半径0.2cm)表面を鏡面に研磨した後、電極表面に上記評価用ペースト7.0μLを滴下し、自然乾燥することにより作用電極を作製した。
3.対極の作製
グラッシーカーボン電極(電極半径0.25cm)表面を鏡面に研磨した後、電極表面にケッチェンブラックとグルコースオキシダーゼを含む対極用ペーストを滴下し、自然乾燥することにより対極を作製した。
4.リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定
上記で作製した作用電極と、対極が取り付けられた電解槽に電解液(イオン伝導体)として0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を入れ、反応基質としてD-グルコースを0.01M、メディエータとしてフェリシアン化カリウムを0.02Mとなるように添加し、0.9Vから+0.05Vの走査範囲でLSV測定を行なった。
酵素電池正極用電極による出力安定性の評価には、LSV測定から得られた還元電流曲線から得られた最大出力(mW/cm2)の三回測定値の標準偏差を出力安定性の指標とし、評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0117】
【表3】
【0118】
(出力安定性評価)
○:最大出力 標準偏差(三回測定)4μW/cm2未満(良好)
△:最大出力 標準偏差(三回測定)10μW/cm2未満4μW/cm2以上(実用上問題なし)
×:最大出力 標準偏差(三回測定)10μW/cm2以上(不良)
【0119】
実施例では、電極ペーストの分散性が著しく向上したことで、浸み込み等により塗工が難しい紙基材においても、塗工ムラやピンホールが改善され、電極の成膜性や塗工再現性の向上が実現できた。表3の結果より、出力が小さいことに加えて、不純物となりやすい成分が含まれることにより測定値がバラつきやすい酵素電池の作動環境においても、比較例に比べて実施例で作製した評価用ペーストでは電池性能の高い出力安定性を示すことが出来た。