(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高炉操業では、鉄鉱石、焼結鉱、ペレット等からなる鉄源と、コークスを交互に高炉に装入している。高炉操業におけるコスト低減の方法として、コークスの装入量を減らすことが挙げられる。そして、コークスの装入量を減らす代わりに微粉炭を粉状の還元材として羽口から吹き込むことが行われている。さらに、微粉炭の代わりに石油コークスや無煙炭などの粉体を吹き込むことも行われている。石油コークスなどは微粉炭に比べて難燃性であるため、様々な工夫をして使用されている。
【0003】
例えば、石油コークスを用いる技術として、石油コークスをショットコークスとそれ以外の残部に分離し、ショットコークスを5mm以下に粉砕し、石炭と石油コークスの残部とショットコークスの粉砕物とを混合粉砕して微粉炭材を作製し、羽口から高炉内に吹き込む高炉操業が提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
また、石油コークスを吹き込む際に酸素富化送風を行い、羽口先温度を所定温度に制御して微粉炭中に石油コークスを混合して高炉内に吹き込む高炉操業も提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
また、可燃性揮発分の含有率が10重量%以下である粉体燃料に、可燃性揮発性成分を20重量%以上含有する粉体燃料を50重量%以上配合して高炉に吹き込む高炉操業も提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、微粉炭を吹き込む場合においても、多量の微粉炭吹き込みを行う場合には吹き込んだ微粉炭の全量が燃焼せず一部燃え残りである未燃チャーが発生する場合がある。これに対して、微粉炭中の炭素と水素をCO
2とH
2Oにするために必要な酸素量に対する羽口から吹き込まれる空気、酸素および微粉炭中の酸素の合計量の比である、過剰空気係数に応じて、ランスの種類やランスの本数や、ランスの先端位置(吹き込み位置)を調節し、微粉炭の燃焼性や燃焼焦点の位置を調節することが提案されている(特許文献4参照。)。
【0007】
このように、微粉炭や微粉炭以外の燃焼性の劣る粉状還元材を吹き込む操業において様々な操業方法が提案されているが、より安定した操業方法が必要であった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る高炉1と熱風炉等の構成を示す図である。
図2は高炉1の羽口2付近の構成を示す拡大図である。高炉1では、主原料として焼結鉱やペレットや塊鉱石などの鉄鉱石が用いられ、還元材としてコークスおよび微粉炭が用いられて操業される。本実施形態では、微粉炭の代わりに石油コークスなどの種々の粉状還元材も用いられる。鉄鉱石とコークスは別々に高炉内に層状に投入されて、それぞれ鉱石層とコークス層が交互に積層して形成される。本実施形態では鉱石層とコークス層の形成方法は特に限定されない。そして高炉内は、塊状帯や、鉄鉱石が溶解して固体から液体に変わる融着帯や、液体になった溶鉄や溶融スラグがコークス層を滴下する滴下帯などで構成される。
【0016】
微粉炭などの粉状還元材は、塊コークスよりも安価であり、羽口から吹き込むことで塊コークスの使用量を削減することができる。近年、銑鉄1tを製造するのに使用される微粉炭の吹き込み量が150kg/ptを超えるような操業が実施されるようになっている。しかし微粉炭の吹き込み量が増加すると、炉頂から排出されるダスト量が増加する場合がある。特に、燃焼性のより劣る炭材を粉状還元材として用いる場合には、羽口前で粉状還元材が燃焼しきらず、未燃焼の粉状還元材が高炉内を上昇するガス流に乗って炉頂から排出される場合がある。本実施形態の高炉の操業方法は、このような粉状還元材の燃焼状態が改善される操業方法である。
【0017】
本実施形態の操業方法が実施される高炉1は設備として、羽口2と、環状管3と、送風管4と、ランス5(
図1においては省略。)と、出銑口6等を備える。
【0018】
羽口2は高炉内に熱風を吹き込むための吹き込み口である。羽口2から吹き込まれる熱風は例えば熱風炉で生成され、熱風炉から環状管3に送られて、送風管4から羽口2に供給される。熱風炉は例えば内部に珪石レンガを格子状に組んだ蓄熱室を持つ円筒状の炉である。熱風の温度を測定し、その測定データに基づき熱風炉における蓄熱量や供給する空気の量を制御して熱風の温度が調整され、環状管3に送られる。
【0019】
環状管3は、高炉1の周囲に形成される環状管であり、熱風炉から熱風が供給される。送風管4は環状管3から熱風を羽口2に供給するための管であり、環状管の複数の位置に形成される。ランス5は微粉炭やその他の粉状還元材を羽口2から高炉1内に供給するための管である。ランス5は例えば送風管4を貫通して羽口2内に開口する。出銑口6は、炉底にたまった溶銑を排出する孔である。以上の高炉1の設備の構成は一例であり、これらの構成に限定されない。
【0020】
次に、本実施形態における高炉1の操業方法を説明する。本実施形態の高炉1の操業方法は、羽口2からの熱風の送風温度(熱風の温度)を1280℃以上とし、燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材を羽口2から吹き込む粉状還元材として用いる方法である。
【0021】
以下、具体的に操業方法を説明する。
まず、羽口2から吹き込む熱風の送風温度は1280℃以上である。送風温度が1280℃以上であることによって、羽口2から吹き込んだ粉状還元材をより確実に燃焼させることができ、粉状還元材の燃焼状態を改善することができる。送風温度が1280℃未満の場合、粉状還元材が燃焼しきらず、レースウェイを飛び出してトラップされて、ダストとして排出されやすくなる。特に、燃焼性のより劣る炭材を粉状還元材として用いる場合には、燃え残りやすくなり好ましくない。送風温度が1280℃以上であることにより、燃焼性が劣り従来使用することができなかった炭材を粉状還元材として用いることができる。そして、粉状還元材として用いる炭材の種類によっては、微粉炭に比べてさらに安価な材料での操業が可能になる。
【0022】
なお、送風温度の上限は特に限定されないが、過度の送風温度の上昇は空気の加熱に要するコストが増大し、各種設備にも熱による影響が出るため、コストや設備保全の観点から適切な操業を行うことができる範囲で上限値が設定されればよい。たとえば、現時点では1350℃を超える操業実績は例が少ないため、送風温度の上限は1350℃以下としてよい。
【0023】
なお、熱風の「送風温度」は、熱風炉から環状管3に至るまでの任意の位置で測定してよいが、環状管3で計測するのが羽口に近いことから好ましい。
図1では、熱電対等の温度センサである送風温度計測部7として示した。熱風の温度制御方法は特に限定されないが、上述のように熱風の温度を測定し、その測定データに基づき熱風炉における蓄熱量や供給する空気の量を制御して熱風の温度が調整されればよい。
【0024】
次に、本実施形態において送風温度を1280℃以上とする場合に、粉状還元材として空気中での燃焼開始温度が700℃以上の炭材を使用する。空気中での燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材を用いることにより、送風温度を上記範囲とした場合における炉体温度の上昇を抑制することができる。
【0025】
具体的には、送風温度を1280℃以上とした場合、羽口から吹き込んだ粉状還元材は燃焼して燃え残りにくくなるが、羽口先温度も上昇し、炉内の温度も上昇するため、炉体の熱負荷が大きくなる。これに対して、本実施形態において燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材を用いることで、炉体の温度上昇を抑えることができ、送風温度を上昇させても炉体の熱負荷を効果的に抑制することができる。
【0026】
これは、羽口から吹き込む還元剤として燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材を用いることで、粉状還元材が燃焼する位置が、炉の水平方向の横断面における径方向のより中心側(炉壁から離れる側)になるためであると考えられる。燃焼位置(燃焼焦点)が中心側に移動することによって、燃焼によって発生する熱の炉壁への影響が低減される。
【0027】
ここで、粉状還元材の「燃焼開始温度」とは、粉状還元材を昇温させた場合に、水分や揮発成分の揮発の後に起こる最も大きな連続した重量変化が開始する温度を指す。燃焼開始温度は熱分析装置を用いて測定することができる。本実施形態においては、熱分析装置として株式会社リガク製のThermo plus EVO2/TG-DTA8120を用いて燃焼開始温度を測定した。本実施形態においては、試料の粉状還元材に対して空気を流量200ml/minで流通させながら昇温速度900℃/minで1000℃まで昇温した場合に、100℃付近で起こる水分の蒸発と、350℃付近から起こるメタンやエチレンやタール等の揮発成分(以下、「VM」ともいう。)の揮発の後に起こる、最も大きな連続した重量変化が開始する温度を燃焼開始温度として測定した。
【0028】
なお、以下の表2に示すニードルコークスのようにVMが1%(質量分率)未満の場合、VMの揮発が観察されない場合がある。この場合は、200℃以上で観察される最も大きな連続した重量変化が開始する温度を燃焼開始温度としてよい。
【0029】
本実施形態において粉状還元材として用いる燃焼性の劣る炭材とは、高炉における微粉炭吹き込み操業において一般的に用いる石炭(微粉炭)と比較して燃焼開始温度がより高いものを指す。例えば、特許第1557889号(特公昭63−28477号公報)等にも記載されている、コークスを製造する過程で発生するコールタール由来のニードルコークスなどが該当する。石油コークスから製造されるニードルコークスでもよい。
【0030】
また、本実施形態の粉状還元材の大きさは、通常の微粉炭吹き込み操業で用いる微粉炭と同程度の大きさの粉体であればよく、平均粒径が10〜100μm程度の粉状還元材を用いることができる。
【0031】
本実施形態の粉状還元材の燃焼開始温度の上限値は特に限定されない。たとえば、緻密なグラファイトなどの燃焼開始温度が800℃を超える炭材も使用可能である。ただし、そのような非常に高価な炭材を高炉に吹き込むことは銑鉄製造コストが上昇するため、現時点では現実的ではない。従って、本実施形態においては工業的に安価に大量生産できる燃焼開始温度が700℃以上800℃以下の炭材が粉状還元材として好ましく、具体的にはニードルコークスの使用が好適である。
【0032】
粉状還元材としては燃焼開始温度が700℃以上の炭材であれば、異なる種類の炭材が混合されたものを用いてもよい。また、燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材として、揮発成分が質量分率で0.4%以下の炭材を用いることが好ましい。
【0033】
以上の本実施形態によれば、送風温度を所定の温度範囲とすることで、燃焼性の劣る炭材を羽口から吹き込む粉状還元材として用いても、確実に燃焼させることができ、より安定した高炉の操業が可能になる。また、粉状還元材として燃焼開始温度が700℃以上の炭材を用いることで、高炉の炉体の温度上昇を効果的に抑制することができる。炉体の温度上昇を抑制することができることにより、送風温度を1280℃以上に上昇させた操業を行う場合であっても、高炉の熱負荷を抑えることができ、より安定した高炉の操業が可能になる。そして、燃焼性の劣る炭材を使用できることと、送風温度の上昇は、いずれもコークス使用量(コークス比)を低減させることにつながり、操業コストを削減することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本実施形態をより詳細に説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されない。本実施形態における送風温度と粉状還元材の燃焼開始温度について以下の試験を行った。
【0035】
(試験方法)
本実施形態の操業方法の効果を確認するため、
図3に示す実験装置により粉状還元材の燃え残りの量と炉体の温度上昇について試験を行った。
図3の実験炉10は、羽口12と、羽口12に熱風を供給するブローパイプ13と、ランス14と、温度センサ16等を備える。実験炉10は、長さ1.2m、幅1.2m、高さが2.4mであり、鉄皮の内側に耐火レンガが張られた竪型直方体の炉である。コークスが実験炉10の上方から投入されて充填層が形成され、羽口から吹き込まれたガスは実験炉10の上方から排出される。
【0036】
試験では、ランス14から表2に示す種々の粉状還元材を供給し、羽口12から供給される熱風と共に炉内に吹き込んだ。実験条件を表1に示す。送風空気量は羽口から吹き込む熱風の流量である。送風酸素量は羽口から吹き込む熱風に対して追加した酸素の流量である。各粉状還元材について送風温度を変えて熱風を吹き込んで、粉状還元材の蓄積量と炉体温度の変化について測定した。試験に用いた粉状還元材を以下の表2に示す。ニードルコークスAとニードルコークスBは、石油コークスから製造されるニードルコークスである。また、いずれの粉状還元材も、通常の微粉炭吹き込み操業に用いる微粉炭と同程度の粒径(平均粒径10〜100μm程度)の粉体を用いた。揮発成分[%]は、上述のようにメタンやエチレンやタール等、350℃付近で揮発する成分の含有量(質量分率)である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
(羽口前の粉状還元材の蓄積量)
羽口から各粉状還元材を熱風と共に吹き込み、吹き込み終了後に、コークス充填層に燃焼しないまま蓄積した粉状還元材を回収して重量を測定した。各粉状還元材について、各送風温度で粉状還元材を吹き込む試験を行い、送風温度ごとに粉状還元材の蓄積量を測定した。
【0040】
(炉体温度変化の測定)
各粉状還元材について、送風温度を変化させた場合の炉壁の温度の変化を温度センサ16により調べた。温度センサ16は羽口の中心軸から上方に600mmの位置における炉体レンガと鉄皮の間に配置された熱電対である。炉体の温度変化の測定により、送風温度と粉状還元材の燃焼が炉体の温度に与える影響を調べた。
【0041】
なお、実施例での試験において得られる炉体の温度変化の絶対値は、実高炉における高炉鉄皮の温度変化の絶対値とは一致しない。しかし発明者らが実験を重ねる中で、試験における炉体温度変化率と、実高炉における炉体レンガの損耗速度に相関が見られたので、試験の評価指数として炉体温度変化率を採用した。同様に、試験における羽口前粉蓄積増加率と、実高炉における炉頂からのダスト排出量の変化率に相関が見られたので、羽口前粉蓄積増加率を評価指数として採用した。
【0042】
(試験結果)
まず、羽口前の粉状還元材の蓄積量について説明する。
図4は、表2のニードルコークスAについての送風温度と羽口前の粉状還元材の蓄積量との関係を示したグラフである。縦軸の羽口前粉蓄積増加率[%]は、燃焼開始温度300℃の炭材(表2の無煙炭)を送風温度1200℃の熱風と共に実験炉内に吹き込んだ場合に羽口前に蓄積した粉状還元材の重量を基準量として(増加率0%)、測定対象の粉状還元材が各送風温度での吹き込み後にコークス充填層に蓄積した量の基準量に対する増加率(変化率)を示す。
【0043】
送風温度が1200℃から1260℃までは、粉状還元材が羽口前に燃焼せずに蓄積した量が多かった。たとえば、送風温度1200℃では上記基準量の約2倍蓄積した。これに対して、送風温度が1280℃以上では、粉状還元材の蓄積量が非常に低くなった。これは、1260℃以下の場合、燃焼開始温度が700℃という燃焼性の劣る粉状還元材の場合、羽口前で完全燃焼することができず、レースウェイを飛び出してその周囲のコークスにトラップされるためであると考えられる。送風温度が1280℃以上であれば、羽口前の粉状還元材の蓄積量は十分に低いレベルに抑えることができる。
【0044】
次に、炉体温度の試験結果について説明する。
図5は、無煙炭とニードルコークスAの炭材を各送風温度の熱風と共に吹き込んだ場合の炉体温度との関係を示すグラフである。
図6は、各粉状還元材を送風温度1280℃の熱風と共に吹き込んだ場合の炉体温度を比較したグラフである。
図5と
図6の縦軸の炉体温度変化率は、燃焼開始温度300℃の炭材(表2の無煙炭)を送風温度1200℃の熱風と共に実験炉内に吹き込んだ場合に温度センサ16により測定される炉体温度を100%とした場合の、対象の粉状還元材を吹き込んだ後の炉体温度の変化率を示す。
【0045】
まず
図5に示すように燃焼開始温度300℃の無煙炭の場合、送風温度が上昇するにつれて炉体温度も上昇してしまった。これに対して燃焼開始温度が700℃のニードルコークスAの場合、送風温度が高くなっても炉体温度の上昇が抑えられ、送風温度が1280℃以上であっても炉体温度の上昇が十分に抑制された。
【0046】
また、
図6に示すように送風温度1280℃において各炭材を吹き込んだ場合の炉体温度を比較すると、燃焼開始温度が300℃と600℃の粉状還元材の場合は炉体温度が上昇してしまうが、700℃と800℃の場合には炉体温度の上昇が十分に抑制できた。
【0047】
以上より、燃焼開始温度が700℃以上の粉状還元材を用いることによって、送風温度を1280℃以上とした場合であっても、炉体の温度上昇が抑制され、高炉の炉体の熱負荷を確実に抑制することができる。従って、送風温度を1280℃以上として送風を行うことで粉状還元材が燃え残って蓄積してしまうことが抑制されるとともに、送風温度を上昇させたことによる炉体温度の上昇を、燃焼開始温度700℃以上の粉状還元材を用いることで確実に抑えることができることが確認された。よって、本実施形態の高炉の操業方法によれば、燃焼性の劣る粉状還元材を使用して高炉の熱負荷も十分に抑制された安定した高炉の操業が可能となる。