(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼材と、前記鋼材の表面に形成されためっき層とを有するめっき鋼材であって、前記めっき層は、Fe、Al及びZnを含有するFe−Al系合金層のみからなるか、または前記鋼材側から、Fe、Al及びZnを含有するFe−Al系合金層と、Zn及びAlを含有する表面めっき層が順次形成されてなり、前記Fe−Al系合金層は、平均含有量で、Fe:10〜60質量%、Al:26〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、前記Fe−Al系合金層の平均厚さが30μm以上であり、前記めっき層が前記表面めっき層を含む場合には、前記表面めっき層は、平均含有量で、Al:0.1〜5.0質量%、残部が実質的にZn及び不純物からなり、前記表面めっき層の平均厚さが15μm未満であるか、または前記めっき層全体の厚さの1/10未満であることを特徴とする、耐食性に優れためっき鋼材。
前記Fe−Al系合金層が複数の層からなり、前記複数の層のうち前記表面めっき層に接する層のCr含有量が前記複数の層における他の層のCr含有量よりも高いことを特徴とする、請求項3に記載のめっき鋼材。
前記Fe−Al系合金層が、更に、平均含有量で、Mg:0超〜4質量%を含有し、かつMg含有量が前記Fe−Al系合金層中のZn含有量の1/10以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のめっき鋼材。
前記めっき層が前記表面めっき層を含み、前記表面めっき層が、更に、平均含有量で、Cr:0超〜0.2質量%、及びMg:0超〜5質量%を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のめっき鋼材。
【背景技術】
【0002】
鋼材、鋼製建築用部材、鋼製機械部品(以下鋼材)は一般に亜鉛系めっきにより耐食性が付与されている。めっきとしては、純亜鉛めっきが最も多く使用されている。鋼板と鋼線以外の鋼材は、電気めっき、溶融めっきのいずれにおいても連続めっきでなく、バッチ処理でめっきされている。いずれのめっきでも、屋外で使用される場合は、高い耐食性を得るために容易に大きなめっき付着量が得られる溶融めっきが採用される。連続溶融めっきでは、耐食性が高い合金めっきが開発されている。しかし、バッチでの溶融めっき(以下浸漬めっきと記す)で鋼材に高い耐食性が要求される場合、従来の純亜鉛めっきではその要求を満たすことが困難である。そのため、これまではこうした高い耐食性の要求に対してはZn−Al系合金の溶融めっきなどの耐食性に優れる合金めっきを適用するなどの対策が検討されるだけであった。
【0003】
浸漬めっきは容易に大きなめっき付着量を得ることができる特徴があるが、反面、薄めっきをすること、めっき付着量を制御すること、均一で美麗な表面を得ることが難しいという欠点もある。また、めっき付着量の大きさに対する耐食性向上効果がそれほど大きくないという課題もある。また、浸漬めっきのめっき付着量の制御は、めっき浴への浸漬時間等を制御してAl、Zn等の拡散により形成される合金層の厚さを変えることで行われる。浸漬めっきの操業条件により制御可能な対象は合金層の厚さだけであり、合金層上に形成される表面めっき層の付着量はほとんど制御されていない。前述したように浸漬めっき法においてはめっき層の全付着量を大きくする制御は比較的容易であるが、めっき付着量を小さくする事は難しいのはこのためである。
【0004】
また、浸漬めっきの耐食性はめっき付着量、特にめっき層中の亜鉛の付着量が大きいほど有利であると考えられており、これまであえて付着量を下げる事については積極的に検討されてこなかった。
【0005】
このように、浸漬めっきにおいてはめっき厚、特に表面めっき層厚を薄く制御する事が困難であるが、浸漬めっきの耐食性はめっき付着量、特にめっき層中の亜鉛の付着量が大きいほど有利であると考えられており、これまであえて付着量を下げる事については積極的に検討されてこなかった。
【0006】
しかし、例えば建築部材を浸漬めっきする場合、ボルト穴がめっきで埋まる、ボルト穴周囲にめっきの凹凸ができる、ねじ山が埋まる等の問題が生じやすく、めっき前の寸法、形状が維持できないという問題が生じるため、浸漬めっきにおいても、耐食性の向上と併せて薄めっき化が求められている。また、現在の浸漬めっきの主成分であるZnは、可採埋蔵量が少ないとされており、将来的な価格高沸は避けられない。この点からも、浸漬めっきの薄めっき化が求められている。
【0007】
浸漬めっき法による耐食性の向上については特許文献1に示されるような二段式の浸漬めっき方法によるZnAl合金めっきが提案されている。
【0008】
また、特許文献2及び3には、めっき層にSiを含むAl−Zn系めっき鋼材を二段めっき法により製造する技術が開示されている。更に、特許文献4には、高耐食性を有し、二段めっき法により製造する、加工性に優れためっき鋼材が記載されている。
【0009】
鋼材のZnめっきによる防食は、Znの犠牲防食によってもたらされる。このため、めっきをあえて薄くするのは、加工性を確保する場合、あるいは屋内用途などで高い耐食性が必要とされない場合に限定され、合金層厚を小さくすることにより達成されている。特許文献4及び5には、浸漬めっきで加工性を維持するために、合金層の生成を抑制しためっき鋼材の製造方法が示されている。めっき鋼線は加工することが前提の商品であるため合金層厚の抑制が要求されるためである。この合金層厚の抑制はめっき厚の抑制を意味し、耐食性の低下はやむを得ないものとされている。
【0010】
特許文献6では、一段の浸漬めっきでの45−60%のAlを有するZn−Al−Siめっき方法が示されている。しかし、めっきの表面性状が必ずしもなめらかではないという問題がある。特許文献7に記載の発明は同様なめっき組成でめっきの表面性状を改善したものである。しかし、いずれのめっきもAl含有量が高いため、めっき浴の融点が550℃以上と高く、非めっき材の熱ひずみによる寸法精度の低下は避けられない。
【0011】
耐食性を確保した上でめっきを薄くすることは、コスト、被めっき材の寸法精度維持、また資源的にひっ迫していると言われるZnの消費を抑制する面でも望ましい。
【0012】
しかし、薄い浸漬めっきで高い耐食性を得る方法としては、合金めっき化、めっき後の化成処理、塗装の工夫以外にはほとんど知られていない。上記の二段めっきによる合金めっき化も、まためっき後の塗装も、コストアップを招くことは言うまでもない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[めっき鋼材]
本発明の実施形態のめっき鋼材は、鋼材表面を、FeAl合金を主体とするFe−Al系合金層で被覆し、更にFe−Al系合金層の上(すなわち表面側)に最小限の表面めっき層を形成するか、または表面めっき層を除去することで、耐食性をより向上させたものである。Fe−Al系合金層上のめっき存在量を小さくするか、または無くすことにより、Fe−Al系合金層の優れた耐食性を最大限に活かすことができる。以下、本実施形態のめっき鋼材について説明する。
【0021】
通常の浸漬亜鉛めっきは、JIS規格にて、最もめっきが薄い一種A(約28〜42μm相当)から最も厚い二種55(76μm以上相当)があるが、これは全厚さであり、合金層の厚さ・表面めっき層の厚さは規定されていない。
【0022】
本実施形態のめっき鋼材は、JIS規格に規定される浸漬亜鉛めっきと同様に、鋼材と、その表面に形成されためっき層と、を備えて構成される。めっき層には、鋼材側から、Fe−Al系合金層、表面めっき層が順次形成されている。耐食性の観点からは、Fe−Al系合金層は厚いほうが望ましく、この表面めっき層は薄いほど望ましく、全く無くても良い。また、表面めっき層の表面には、化成処理がなされていてもよい。また、表面めっき層が無い場合はFe−Al系合金層の表面に直接化成処理がなされていてもよい。
【0023】
本技術は原理的には、下地となる鋼材の鋼成分や加工形状の制約無く、全てのめっき鋼材に適用できる。しかし、表層のめっき金属の付着量削減を効率的に行うためには、めっきの直後、めっき金属が凝固する前の操作によって表面めっき層の厚さを削減することが可能なめっき鋼材に適用することが好ましい。具体的には、エアナイフ等によって物理的に表面めっき層を除去できる鋼線・棒鋼等の線状、鋼板等の板状、ネット状、鋼管等の筒状、棒状等の単純な形状のもの、または、遠心分離によって表面めっき層を除去できるような単純な形状の小物部材などへの適用が好適である。
【0024】
また、溶融状態での表面めっき層の除去が難しい機械部品などでは表面めっき層を機械的に研削するなどして除去することで、耐食性向上効果を得るとともに寸法精度も同時に高めることができるが、これも本発明の態様の一つである。また、部分的に表面めっき層を除去して得られる構成も本発明の態様の一つである。例えば、ボルト接合するH形鋼は、耐食性に加えて、接合部の表面形状・平坦度が重要である。この場合、例えば接合部の表面めっき層のみをエアブローで除去することにより、接合面の形状や寸法精度の確保と併せて耐食性向上を得る事が可能となる。
【0025】
[Fe−Al系合金層]
めっき層を構成するFe−Al系合金層は、鋼材の表面に形成されており、平均含有量で、Fe:10〜60質量%、Al:20〜60質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層である。さらに、Mg、Cr等の添加元素が含まれていても良い。Fe−Al系合金層の組成は、めっき浴の組成、及びめっき浴の温度、浸漬時間に依存する。
【0026】
Fe−Al系合金層は、鋼材がめっき浴に接触した際に、主に、めっき浴に含まれるAlと鋼材に含まれるFeとが反応することによって形成される層であり、FeAl
3またはFe
2Al
5等を主体とする組成の合金相を含む。この合金は、いわゆる犠牲防食能力は低いが、安定な金属間化合物であることからバリア機能による防食機能を有する。安定に耐食性を発現するために必要な平均厚みは、30μm以上であり、望ましくは50μm以上である。厚みが30μm未満では十分なバリア性を確保できなくなる。合金層は厚いほど耐食性は向上するが、現実には長時間浸漬しても必ずしも合金層が厚くなることはなくめっき条件に応じた限界がある。そして、表面めっき層とFe−Al系合金層の界面の凹凸も大きくなり、表面めっき層を除去することが難しくなる。300μmを超えると合金層の層構造が壊れやすくなり、まためっきの密着性や耐衝撃性も低下するため、上限は300μmとする。
【0027】
上記のとおり、Fe−Al系合金層は、平均含有量で、Fe:10〜60質量%、及びAl:20〜60質量%を含有し、好ましくはFe:20〜45質量%、及びAl:25〜55質量%を含有する。しかしながら、Fe−Al系合金層がFe及びAlだけで構成されていると、赤錆が発生しやすい。Fe及びAlよりなる合金は耐食性に優れるが、腐食因子にさらされる限り長時間経過後はFeが腐食するからである。
【0028】
Fe−Al系合金層からの早期の赤錆発生を防止するためには、Fe−Al系合金層にZnやMg等の犠牲防食機能を発揮する元素をある程度含有させることが望ましい。しかしながら、Fe−Al系合金層中のZn及びMgの合計含有量が10質量%未満では、犠牲防食機能が小さく、またZn及びMgはすぐに消費され失われるため、Fe−Al系合金層から早期に赤錆が発生する。また、Zn及びMgの合計含有量が70%を超えると、白錆の生成・堆積量が多くなるため、表面めっき層を薄くした効果がなくなり、局部腐食が生じて赤錆が発生するようになる。従って、Fe及びAlの合計含有量は、30〜90質量%とし、残部に実質的にZnとMgを含むものとすることが好ましい。Fe及びAlの合計含有量は、好ましくは50〜85質量%であり、更に好ましくは60〜80質量%である。Fe及びAlの合計含有量がこの最適範囲内にあれば、バリアとしての機能に優れ、Zn及びMgの消耗速度を遅くしまた鋼を効果的に保護することができる。
【0029】
Znは、Zn相として存在してもよく、Mgと合金を形成してZnMg合金として存在してもよい。また、Znの一部はFeAl合金相中に固溶、あるいはFeAlZnの3元合金を形成していてもよい。この結果、本実施形態のFe−Al系合金層は、FeAl
3またはFe
2Al
5からなる合金相とともに、Zn相またはZnMg合金相を含むものとなる。これにより、Fe−Al系合金層は、バリア効果だけでなく犠牲防食効果によっても鋼を防食できるものとなる。
【0030】
Mgは微量添加することでZn系めっきの耐食性を改善することが知られている。本発明においても、微量のMgがFe−Al系合金層に存在することで、耐食性を向上させることができる。ただし、電位の関係でMgはZnより溶出・消耗しやすいため、Fe−Al系合金層を早くポーラスにしバリア機能を失わせる恐れがある。このため、Fe−Al系合金層がMgを含有する場合には、Mg含有量は、0超〜4質量%、好ましくは0.3〜4質量%であり、かつZn含有量の1/10以下、好ましくは1/30以下である。
【0031】
Crは、めっき浴に微量添加されることにより、初期のFeAl反応を促進し、Fe−Al系合金層生成を安定化する。めっき浴への添加量では、0.002質量%以上でFeAl反応に明確に影響し、その効果は0.005質量%以上でほぼ飽和する。Crがめっき浴に添加される場合、めっき後のFe−Al系合金層中の平均含有量としては、0超〜1.0質量%とする。Crはめっき組織としては必須ではないが、製造プロセス上重要であり、まためっき浴で一定濃度を維持するのが難しい添加元素である。CrはFe−Al系合金層中の、表面めっき層に近い部位に濃化して存在することがあるため、高Cr濃度めっき浴で薄めっきした場合には、Fe−Al系合金層中の平均Cr含有量は高くなり、1質量%を超えることもある。この場合には耐食性が低下する例もあったため、最大で1質量%とする。
【0032】
また、Fe−Al系合金層において「残部が実質的にZn」と定義したのは、Fe−Al系合金層に、Fe、Al、Zn、Mg及び不純物以外に、溶融めっき浴に添加された元素の混入を許容することを意図している。Fe−Al系合金層には、例えば、上記のように溶融めっき浴中の添加元素であるCr等は混入してもよい。また、この他にめっき浴の安定性を高め、めっきの外観を美麗にするCa、Sr、ミッシュメタル等があってもよい。
【0033】
このFe−Al系合金層は、均一な組成及び組織であってもよいし、一方で、必ずしも均一な組成及び組織である必要はない。すなわち、Fe−Al系合金層は、1つの層から構成されてもよいし、FeAl合金であれば複数の層から構成されてもよい。例えば、めっき浴にCrを添加した場合、Crは初期のFeAl合金化反応に影響し、Fe−Al系合金層中の表面めっき層近傍に濃縮される場合がある。このような場合には、Crの分布からは、Fe−Al系合金層は、後で説明する表面めっき層に接する層のCr含有量が他の層のCr含有量よりも高い複数の層からなる構造、より具体的には2層構造とみなせる。CrはFeAl合金化反応を均一、かつ速やかに進める効果がある。また、めっき浴浸漬時間によっては、合金層中の表面めっき層近傍が、Znのマトリクス中に断面視で直方体状のFeAl合金が凝集した構造となり、合金層の鋼側の不定形な構造と合わせて、形態的にFe−Al系合金層は2層構造とみることができる。また、鋼材の成分系によっては、Fe−Al系合金層は、FeAl合金と浴組成のZn層との層状構造の繰り返し、または浴組成のZn中にFeAl合金が分散した組織になることもある。このように、Fe−Al系合金層は多くの元素を含むこともあるため、それらの元素の分布、また組織によっては、Fe−Al系合金層は複数のFeAl合金層と浴組成のZnとの混合体であることが多い。
【0034】
Fe−Al系合金層の厚さは、断面組織を顕微鏡で観察することで、容易に確認できる。この組織は不均一なため、EPMA分析のような点または線での化学組成の分析は好ましくない。機器分析であれば、ある程度の面積の平均値を測定するグロー放電−発光分析、グロー放電−質量分析等が望ましい。しかし、これらの機器は高価であるため、化学的に全めっき層を溶解し、表面めっき層の組成を浴組成と同等とみなして、厚さの比率よりFe−Al系合金層の組成を算出するのが一般的である。表層めっき層の厚さが十分に小さいものである限り、この方法でも大きな誤差は生じることはない。
【0035】
[表面めっき層]
次に、表面めっき層は、平均含有量で、Al:数質量%、残部が実質的にZn及び不純物よりなる層であり、Fe−Al系合金層の上に形成される。表面めっき層は、Znを主成分とするめっき層であるため、犠牲防食機能を発揮するとともにめっき表面に亜鉛の腐食生成物を堆積させて防蝕に寄与する、とされている。このため、一般的には、このZnめっき層は厚いほどめっき全体の防食機能は高くなることが予想される。しかしながら、本発明者らの試験によれば、この表面めっき層は必ずしも常にめっきの防食能を高めるだけでないことがわかった。むしろ、平均値で15μm未満の厚さにすることで明らかにめっき全体の防食能が向上し、赤錆発生が遅くなることわかった。しかし、めっきの全体厚が大きくなると、Fe−Al系合金層−表面めっき層の界面の凹凸が大きくなるため、遠心処理、エアナイフなどでの除去は難しく、表面めっき層を薄くすることは困難になる。この場合は、表面めっき層の厚さを全体の1/10未満にすることが、耐食性を向上させる上での一つの目安になることわかった。Fe−Al系合金層が厚くなれば、耐食性も当然向上するため、表面めっき層の悪い影響も小さくなるためである。このため、表面めっき層の厚さは15μm未満またはめっき層全体の厚さの1/10未満とする。
【0036】
なお、浸漬溶融めっきの常として、めっき厚のばらつき、合金層/鋼の界面、表面めっき層/合金層の界面の凹凸は大きい。本発明の場合、通常の純Zn浸漬めっきよりも厚い、100μm超のめっき厚も容易であり、界面の凹凸、めっき厚のばらつきは更に大きいため、めっき層の厚さは平均値である。なお、操業上の工夫により、界面の凹凸を小さくし、めっき層の厚さのばらつきを小さくすることは可能である。
【0037】
この表面めっき層は耐食性の観点からは薄いほど望ましく、理想的にはゼロである。機械部品、例えば、ねじ類のように、寸法精度が重要なめっきでは、表面めっき層を薄めっきとすることにより、寸法精度と高い耐食性が両立できる。
【0038】
表面めっき層はこのように薄いほど望ましい。このため、その組成は特に厳しく限定するものではない。まためっきが薄くなると組織は不均一になり、成分を正確に測定することも困難となる。ただし、この表面めっき層の組成はめっき浴成分から限定される。浸漬めっきの浴組成としては、0.1〜5.0質量%程度のAlを含むZn浴が一般的であり、Al以外の成分として、上述したMg、Cr、Ca等が添加される。このため、表面めっき層の組成もめっき浴と同様なものになる。
【0039】
また、表面めっき層において「残部が実質的にZn」と定義したのは、表面めっき層に、Al、Zn及び不純物以外に、溶融めっき浴に添加された元素の混入を許容することを意図している。例えば、溶融めっき浴に添加される少量のMg、Cr、Sr等が表面めっき層に混入していてもよい。また、めっき浴中に存在する、被めっき材から溶出したFeは、表面めっき層に取り込まれるが、この浴中Fe濃度は変動幅が大きい。また表面めっき層の、Fe−Al系合金層との界面近傍には、凝固までにFe−Al系合金層から溶出したFeも存在する。このため、表面めっき層中のFeは、制御困難な不可避的不純物である。
【0040】
また、表面めっき層には、Cr及びMgが含まれていてもよい。これらの元素が表面めっき層に含まれる場合には、これらの元素はめっき浴の組成に従って0超〜数質量%、具体的にはCr:0超〜0.2質量%及びMg:0超〜5質量%が含まれることになるが、表面めっき層は本発明では耐食性には大きな寄与はないため、この組成も耐食性には大きな関係はない。このように、表面めっき層はZnと共晶組織を形成するAl、Mgなどの多くの元素を含む不均一なものであるため機器による点分析は意味がなく、まためっきが薄いため単独で取り出して分析することも困難である。このため、厳密な含有量の範囲を設定することは難しく、あまり意味は無い。
【0041】
本発明においては、表面めっき層の厚さまたはZn量を確認するためには、断面を顕微鏡で観察して、組織を観察することで、Fe−Al系合金層と表面めっき層とを区別し、表面めっき厚を確認できる。エッチングした場合、表面めっき層と合金層は色調が異なるため、画像を2値化して面積を求めることで平均厚さは容易に算出できる。めっき層全体の厚さは、断面組織観察で同時に測定できる。簡易的には、めっき層全体の厚さは電磁膜厚計によっても測定できる。なお、特に断りのない限り、本発明において「表面めっき層の平均厚さ」とは、試験片の断面組織を写真撮影し、試験片約1mm長以上の平均値を画像解析して算出したものを言う。
【0042】
なお、この表面めっき層は、切削などの機械的な方法により除去するのでないかぎり、完全に除去することは不可能であり、Zn含有率が高い極薄い表面めっき層は必ず残存する。このため、塗装性、滑り防止のためのりん酸塩処理など、通常の亜鉛めっきの後処理には全く問題ない。
【0043】
ここで、表層めっき層の存在が耐食性を低下させる原因について述べる。Znめっきの防蝕機構が前述した犠牲防食と腐食生成物のバリア能であれば、Zn絶対量が大きい方がめっきの耐食性が優れるはずである。しかし、本発明者らの試験によれば、腐食試験の過程において、表面に生成しているZnの腐食生成物を定期的に除去することによって、めっきの消耗速度が小さくなり、また赤錆の発生が抑制されることがあることが確認された。この現象は、腐食条件が厳しく、めっき表面へのZnの腐食生成物の堆積量が大きいほど顕著であった。また、浸漬めっきで得られた2層構造のめっきだけでなく、防蝕には寄与しない薄い合金層を有するZnAlMg合金の連続めっきでもこの現象が確認された。田園地帯のように、マイルドな腐食環境でめっき鋼材を使用した場合は、めっき表面には薄くかつ均一な白錆が生成する事が多い。しかし、海岸近くなどの腐食が厳しい環境では、腐食促進試験のような、不均一な白錆の堆積が観察される。この白錆の不均質な堆積が、めっき表面の、水、酸素、塩化物イオン等の腐食因子の濃度を不均一にし、通気差腐食等を引き起こしてめっき金属の腐食、消耗を促進したものと考えている。めっき表面に堆積するZnの腐食生成物の形態は様々である。そして、めっきに高い耐食性が求められるのは、不均一に白錆が生成・堆積する、厳しい腐食環境なのである。
【0044】
本発明者らは、Fe−Al系合金層の高い耐食性が現実には発揮されない原因が、まず表面めっき層上のZnの腐食生成物の不均一な堆積であり、その不均一な堆積が更に表面めっき層の不均一な腐食、残存を招き、そして、Fe−Al系合金層が不均一に腐食因子と接触することで腐食が促進されるものと考えた。このため、Fe−Al系合金層を有する浸漬めっきでは、表層めっき層の絶対量を小さくすることにより、表層めっき層に起因する腐食生成物を少なくし、めっき層全体の耐食性を高めることができると考えた。そして、実際に、Fe−Al系合金層と表面めっき層を有するめっき鋼材を作製し、当該表面めっき層を機械加工により切削除去してFe−Al系合金層をむき出しにすると、その耐食性が顕著に向上し赤錆の発生が遅くなることを見出した。これに関連して、表面めっき層の付着量と耐食性の関係を調査した結果、Znを主成分とする表面めっき層を完全除去しないでも、表面めっき層を平均値で15μm未満とすることで、めっき鋼材の耐食性が顕著に改善され、Fe−Al系合金層がFeAl合金本来の性能に近い耐食性を示すようになることを確認した。また、Fe−Al系合金層を厚く成長させた場合、表面めっき層を薄くすることは難しくなるが、この場合は表面めっき層の厚さを全体の1/10未満に削減することによっても、めっき鋼材の耐食性が改善することを確認し、本発明を完成させたものである。
【0045】
以上の説明からわかる通り、本発明において、めっき厚を薄くすることによって耐食性を向上させることができるものは、1つまたは複数の層からなる合金層に表面めっき層が加わった複層構造のめっきで、合金層は耐食性に優れるが、表面めっき層が不均一な腐食生成物を堆積させるために当該合金層の高い耐食性を発揮できないめっきに限られる。なお、理論的には、めっきは必ずしも合金である必要はない。複数層の構造を有するめっきで、最上層のめっきが不均一な腐食生成物を堆積させるために下層のめっきの高い耐食性を発揮できない場合、最上層のめっきを薄くすることで耐食性が向上する。しかし、浸漬めっきでない場合、あえて最上層のめっきをしなければ良い。本発明は、溶融めっきで耐食性に優れたFe−Al合金層が生成するが、その上に、不均一な腐食生成物を堆積させる最上層のめっき(表面めっき)層が否応なく生成するため意味がある。
【0046】
このため、FeZn合金を生成する通常の浸漬亜鉛めっきでは、表面の純Znめっき層を薄くしても、耐食性には大きな影響はない。下層の合金層が高い耐食性を有さないためである。また、複層構造を有さないめっきでは、腐食生成物を定期的に除去することによりめっき層の消耗を遅らせることができることは上述した。しかし、単層構造のめっきの場合は、めっきを薄くしても腐食生成物の生成・堆積には全く影響しない。このため、耐食性の向上につながらないことは言うまでもない。
【0047】
次に、本実施形態のめっき鋼材の製造方法について説明する。本実施形態のめっき鋼材は、フラックス処理した鋼材をめっき浴に浸漬させてから引き上げる、いわゆる浸漬めっき方法で製造し、めっき直後のめっきが完全に凝固する前に表面めっき層を除去するのが最も現実的である。
【0048】
表面めっき層と鋼材の中間に、Fe−Al系合金層としてFeAl合金が形成されるめっき浴及びめっき方法であれば、詳細な条件は問わない。浸漬めっきにおいては、Fe−Al系合金層の上に、めっき浴と同等の組成の表面めっき層が形成される。一般に浸漬めっきでは、耐食性、加工性等の要求性能のバランスからFe−Al系合金層厚を決定し、表面めっき層の厚さはほとんど問題としない。表面めっき層の厚さは制御が難しいものであり、表面にFe−Al系合金層が露出する「めっきやけ」がなければよい、Znが多く付着しているほうが耐食性はよい、との考えからである。このため、表面めっき層の厚さを制御することによりめっき鋼材の耐食性を改善するという技術的思想はこれまでに全くないものであり、表面めっき層の厚さを制御するという考えそのものも希薄であり、寸法精度が重要なボルトナット等のめっきで、遠心により表面めっき量制御を行っているほかは、表面めっき層の厚さを制御している例は従来ほとんどない。
【0049】
本発明は、これまで一般には浸漬亜鉛めっきで成行とされていた表面めっき層厚を15μm未満、またはめっき層全体の厚さの1/10未満にすることが重要である。この方法としては、まず遠心除去とエアナイフによる方法があげられる。
【0050】
遠心除去は、ボルトなどの小物で寸法精度が重要な場合に用いられている方法であり、本発明でもそのまま適用可能である。またエアナイフによる方法は、主に連続めっきで鋼板のめっき付着量を制御する方法であり、通常は浸漬めっきで使われることはない。しかし、形状・寸法に大きな変化がなく、構造が単純、あるいは空間が大きいなどでガスが抜けやすい場合、あるいはガス流れが制御できる場合には浸漬めっきでも適用可能な場合がある。この例としては、グレーチング(溝蓋)、エキスパンドメタル、鋼管、平板などがあげられる。また、表面めっき層を部分的に除去する場合にも有効な方法である。
【0051】
特殊な例としては、例えば、細い鋼管、棒鋼のめっきの場合には、形状が単純であるため、めっき直後に耐熱性が高く柔らかい高分子素材などで表面めっき層を削ぎ落とすことが可能である。
【0052】
これ以外の方法として、前述のようにめっきが凝固後に研削、切削等により表面めっき層を除去する事によっても本発明の要件を満たすことは可能である。高コストであるため一般的な方法ではなく、通常の化成処理もできないが、耐食性に加えて寸法精度、または表面の平滑性の要求レベルが高い機械部品などには適用することができる。
【0053】
めっき層の形成が完了した後は、白錆の早期発生を防止するため、一般に亜鉛系めっきで行われている化成処理をすることが望ましい。
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、耐食性に優れためっき鋼材、めっき建築部材を製造できる。その特徴は耐食性にとどまらず、めっきが薄いため、寸法精度に優れ、FeAl合金ベースのめっきであることも加わって亜鉛使用量も小さく、低コストでめっき製品が得られることである。
【0055】
なお、本実施形態のめっき組織は、上記の製造方法で製造されるものに限られるものではない。
【0056】
例えば、鋼部品に高Al濃度のZnAl浴で溶融めっきを行い、めっき後に加熱して表面まで合金化を進め、FeAl合金を主成分としZnを含むめっき層を形成する。このままでも本発明の要件を満たしためっきが得られるが、化成処理性、表面性状等の要求があれば、5μm以下のZn系フラッシュめっきを行って本実施形態のめっき鋼材を製造してもよい。ただし、複数の操作を要するため、単純な一段めっきよりもコスト高となることは明らかであり、薦められる方法ではない。
【実施例】
【0057】
(例1〜4)
鋼材として、200mm×100mm×1.6mmの熱延鋼板(黒皮付SS400)を用いた。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄後、10%塩酸酸洗して表面のスケールを除去した。酸洗後の鋼板を、60℃の熱水で洗浄後、80℃のフラックス(ZnCl
2/NaCl/SnCl
2=200/20/6g/l、pH=6.0)に約1分間浸漬し、200℃の加熱炉で大気雰囲気下5分間加熱乾燥した。この鋼板を、Zn−2.7質量%Al−0.005質量%Cr−2.5質量%Mg組成の480℃のめっき浴に、300〜600秒浸漬してめっきした後、引き上げ、自然放冷し、めっきが完全に凝固した後に水冷した。得られためっき鋼板をフライス切削処理して表面めっき層を除去してFe−Al系合金層をむき出しにし、めっきしたままの鋼板と比較した。また、別の鋼板では、めっき層の右半分のみを研磨布を用いて表面めっき層を除去した。めっき厚・めっき組成は、断面顕微鏡観察と化学分析により評価した。表面めっき層厚は試験片中央部の断面組織を写真撮影し、試験片約1mm長の平均値を画像解析して算出した。全めっき厚は電磁膜厚計で測定し、Fe−Al系合金層厚は全めっき厚から表面めっき層厚を差し引いた値を平均厚さとして示した。
【0058】
これらの試験片について、サイクル腐食試験であるJASO M609−91により耐食性を比較した。なお、耐食性に関する各評価は、以下の状態を意味するものである。
「白錆発生」:試験面の面積にして50%以下で白錆が発生している状態
「全面白錆」:試験面の面積にして50%以上が白錆であり赤錆が発生していない状態
「点状赤錆」:白錆の中に直径3mm以下程度の(目立たない)赤錆が発生している状態
「全面赤錆」:試験面の面積にして50%以上が赤錆を生じている状態
【0059】
本発明はめっき構造の部分的改善により、耐食性を向上させたものである。このため、構造の改善により明確な耐食性の差異が確認できれば、実施例/比較例とする。したがって、例1と2、例3と4については、同等の試験片で表面めっき層の厚さのみを変えて耐食性の差異を調査したものであり、本発明の効果である耐食性に明確な差異が確認できたため、実施例/比較例としている。後で説明する例5と6、例7と8についても同様である。なお、本めっきのFe−Al系合金層は10%以上のFeを含むため、腐食早期に赤錆が発生する。この初期の赤錆はFe−Al系合金層の腐食に起因するものであり、外見は悪いが構造物としては問題ない。しかし、Fe−Al系合金層の腐食が進み、赤錆面積が50%を超えると鋼の腐食がはじまっている可能性が出てくる。また、更に耐食性試験を継続すれば、最終的には、例1〜4及び後で説明する例5〜26の全ての試験片が全面赤錆発生することは言うまでもない。
【0060】
また、めっき層の表面性状は、めっき欠陥の有無・光沢・凹凸・模様等を目視で判定した。評価方法については、以下の例についても同様である。
【0061】
作成しためっき鋼材の外観及び耐食性を評価した結果を表1及び2並びに
図1に示す。例2(
図1(b))は、めっきしたままのめっき鋼板であり、例1(
図1(a))は例2と同等のめっき鋼板をフライス切削処理することで、表面めっき層を除去したものである。耐食性の差異は
図1(a)及び(b)から明らかである。表面めっき層をフライス切削除去することにより、めっき厚が1/2であるにもかかわらず、はるかに高い耐食性を有することがわかる。例3(
図2の右半面)は表面めっき層を完全には除去していないため、例1にはやや劣るが、例2及び例4(
図2の左半面)と比べると表面めっき層の低減による耐食性向上は明らかである。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(例5及び6)
鋼材として、30mmφx300mm長の鋼管を用いた。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄−10%塩酸酸洗−水洗後、80℃のフラックス(ZnCl
2/NaCl/SnCl
2=200/20/6g/l、pH=6.0)に約1分間浸漬し、200℃の加熱炉で大気雰囲気下で10分間加熱乾燥した。この鋼管を、Zn−2.0質量%Al−0.010質量%Cr−1.0質量%Mg組成の500℃のめっき浴に、300秒浸漬してめっきした後、引き上げ時にアラミド繊維布で表面を拭い表面めっき層を除去した。めっき厚・めっき組成は、断面顕微鏡観察と化学分析により評価した。表面めっき層厚は試験片中央部の断面組織を写真撮影し、試験片約1mm長の平均値を画像解析して算出した。全めっき厚も同様に断面組織写真より算出し、Fe−Al系合金層厚は全めっき厚から表面めっき層厚を差し引いた値を平均厚さとして示した。なお、鋼管内面は表面めっき層を除去していないため、分析・評価の対象外とした。
【0065】
得られためっき鋼管は、両端を封止してサイクル腐食試験であるJASO M609−91により評価した。
【0066】
作成した鋼管の外観及び耐食性を評価した結果を表3に示す。表面めっき層を耐熱繊維布で拭払うことで除去した場合、鋼管に若干の筋模様が残り外観は劣化したが、耐食性は明らかに向上した。
【0067】
【表3】
【0068】
(例7及び8)
鋼材として、市販のエキスパンドメタル(JIS XS32)を用いた。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄−10%塩酸酸洗−水洗後、80℃のフラックス(ZnCl
2/NaCl/SnCl
2=200/20/6g/l、pH=6.0)に約1分間浸漬し、200℃の加熱炉で大気雰囲気下で5分間加熱乾燥した。このエキスパンドメタルを、Zn−2.0質量%Al−0.010質量%Cr−2.0質量%Mg−0.05質量%Ca組成の500℃のめっき浴に、180秒浸漬してめっきした後、引き上げ後に自然凝固させたものと、エアナイフで表面めっき層を除去しためっき材を試作した。めっき厚・めっき組成は、断面顕微鏡観察と化学分析により評価した。表面めっき層厚は試験片中央部の断面組織を写真撮影し、試験片約1mm長の平均値を画像解析して算出した。全めっき厚は電磁膜厚計で測定し、Fe−Al系合金層厚は全めっき厚から表面めっき層厚を差し引いた値を平均厚さとして示した。
【0069】
得られたエキスパンドメタルを60x120mmに切断、切断端面を塗料シールし、サイクル腐食試験であるJASO M609−91により評価した。評価は面積の判定が難しいため、外観観察で行い、写真を示した。
【0070】
作成したエキスパンドメタルの耐食性を評価した結果を表4及び
図3に示す。エキスパンドメタルは熱容量が小さいためエアナイフにより冷却されるめっきは凝固する。このため、表面めっき層の除去は狙い通りのものではなく、ばらつきも大きいため、白錆堆積が見られたが、耐食性は明らかに向上した。
【0071】
【表4】
【0072】
(例9〜26)
鋼材として、200mm×100mm×2.3mmの熱延鋼板(黒皮付SS400)を用いた。市販のアルカリ性脱脂剤により表面洗浄後、10%塩酸酸洗して表面のスケールを除去した。酸洗後の鋼板を、60℃の熱水で洗浄後、80℃のフラックス(ZnCl
2/NaCl/BiCl
3=200/20/8g/l、pH=6.0)に約30秒浸漬し、200℃の加熱炉で大気雰囲気下10分間加熱乾燥した。この鋼板を、Zn−(0.5〜4.0)質量%Al−(0〜0.010)質量%Cr−(0〜12)質量%Mg組成の480〜520℃のめっき浴に、300〜600秒浸漬してめっきした後、溶融状態の表面めっき層をエアナイフで除去しながら引き上げ、自然放冷し、めっきが完全に凝固した後に水冷した。めっき厚・めっき組成は、断面顕微鏡観察と化学分析により評価した。表面めっき層厚は試験片中央部の断面組織を写真撮影し、試験片約1mm長の平均値を画像解析して算出した。全めっき厚は電磁膜厚計で測定し、Fe−Al系合金層厚は全めっき厚から表面めっき層厚を差し引いた値を平均厚さとして示した。
【0073】
得られためっき鋼板について、サイクル腐食試験であるJASO M609−91により耐食性を比較した。作成しためっき鋼材の外観及び耐食性を評価した結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
例9〜26については、600サイクル時点での評価で明確な耐食性の差異を確認し、例9〜20を実施例、例21〜26を比較例とした。より詳しく説明すると、例21はFe−Al系合金層のFe及びAl含有量が少なく、さらにFe及びAlの合計含有量も30質量%未満であり白錆の発生・堆積が多いため腐食進行が速い。例22、23は、Fe−Al計合金層中のAl分率が高すぎるか、あるいは低すぎるため、Fe−Al系合金層が不安定でバリア機能が低く、赤錆の増加が速い。例24〜26は、表面めっき層の平均厚さが15μm以上で厚いため、白錆の堆積が多いか、または早期に赤錆が発生し、赤錆増加も速い。
【0076】
例18は、表面めっき層の平均厚さが大きく17μmである。このため早期に赤錆が発生したが、当該表面めっき層の平均厚さはめっき層全体の厚さの1/10未満であり、それゆえめっき層自体が厚いため赤錆の増加は遅い。例12及び20は、Fe−Al系合金層中のFe及びAlの合計含有量がそれぞれ85及び81%と大きいが、犠牲防食能を有するZn及びMgを合計で10質量%以上含有するため、比較的早期に赤錆が発生するもののその増加は遅い。