特許第6870451号(P6870451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6870451スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870451
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】スチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20210426BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20210426BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   D07B1/06 A
   B60C9/00 M
   B60C9/00 L
   B60C9/18 K
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-80863(P2017-80863)
(22)【出願日】2017年4月14日
(65)【公開番号】特開2018-178316(P2018-178316A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】柿沢 寛志
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−298880(JP,A)
【文献】 特開平11−036182(JP,A)
【文献】 特開2003−020580(JP,A)
【文献】 特開2005−023494(JP,A)
【文献】 特開2007−191814(JP,A)
【文献】 特開平06−294083(JP,A)
【文献】 特開平05−033277(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0340910(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2007−0076495(KR,A)
【文献】 特開2003−268684(JP,A)
【文献】 特開2001−301415(JP,A)
【文献】 特開平06−116882(JP,A)
【文献】 特開2006−062610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B1/00−9/00
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコードにおいて、前記シースフィラメントのうちの2〜(M−2)本のシースフィラメントが癖付けされており、その癖付けされたシースフィラメントの全てが前記コアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置されていることを特徴とするスチールコード。
【請求項2】
前記コアフィラメント及び前記シースフィラメントが同一方向かつ同一ピッチで撚り合わされていることを特徴とする請求項1に記載のスチールコード。
【請求項3】
前記コアフィラメントの素線径dcと前記シースフィラメントの素線径dsとが0.8≦ds/dc<1.0の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコード。
【請求項4】
複数本の補強コードを含む補強層を備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記補強コードとして、N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコードが用いられており、前記シースフィラメントのうちの2〜(M−2)本のシースフィラメントが癖付けされており、その癖付けされたシースフィラメントの全てが前記コアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置されていることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記コアフィラメント及び前記シースフィラメント同一方向かつ同一ピッチで撚り合わされていることを特徴とする請求項4に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記コアフィラメントの素線径dcと前記シースフィラメントの素線径dsとが0.8≦ds/dc<1.0の関係を満たすことを特徴とする請求項4又は5に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記補強層がベルト層であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコード及び該スチールコードを補強層の補強コードとして用いた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、ゴム浸透性を改善すると共に、耐久性を改善することを可能にしたスチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層の補強コードとして、N本のコアフィラメントと該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本のシースフィラメントとからなる2層構造のスチールコードが使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。より具体的には、例えば、2本のコアフィラメントと7本のシースフィラメントとを含む2+7構造のスチールコードや、3本のコアフィラメントと8本のシースフィラメントとを含む3+8構造のスチールコードが挙げられる。
【0003】
上述のようなスチールコードは一般的にはタイトコードであるが、ゴム浸透性を改善するために、スチールコードを構成するフィラメントに癖付けが施される場合がある。しかしながら、フィラメントに癖付けを施すと、スチールコードの伸び特性が変化し、初期伸び(低荷重域の伸び率)が過大となる傾向がある。そして、スチールコードの初期伸びが過大であると、それに起因して空気入りラジアルタイヤの耐久性が低下することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−273778号公報
【特許文献2】特開2001−11783号公報
【特許文献3】特開2001−288685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゴム浸透性を改善すると共に、耐久性を改善することを可能にしたスチールコード及びそれを用いた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のスチールコードは、N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコードにおいて、前記シースフィラメントのうちの2〜(M−2)本のシースフィラメントが癖付けされており、その癖付けされたシースフィラメントの全てが前記コアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置されていることを特徴とするものである。
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、複数本の補強コードを含む補強層を備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記補強コードとして、N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコードが用いられており、前記シースフィラメントのうちの2〜(M−2)本のシースフィラメントが癖付けされており、その癖付けされたシースフィラメントの全てが前記コアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、2層構造を有するスチールコードについて鋭意研究したところ、シースフィラメントに癖付けを施してゴム浸透性を改善するにあたって、シースフィラメントの癖付け本数及びその配置を規定することにより、スチールコードの初期伸びを抑制し、耐久性を効果的に改善可能になることを知見し、本発明に至ったのである。
【0009】
即ち、本発明では、空気入りラジアルタイヤの補強層の補強コードとして、N本(N=1〜3)のコアフィラメントと、該コアフィラメントの周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメントとからなる2層構造を有するスチールコードを用いるにあたって、2〜(M−2)本のシースフィラメントに癖付けを施すことにより、スチールコードの内部へのゴム浸透性を改善することができ、しかも、その癖付けされたシースフィラメントの全てをコアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置することにより、スチールコードの初期伸びを抑制することができ、空気入りラジアルタイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0010】
本発明において、コアフィラメント及びシースフィラメントは同一方向かつ同一ピッチで撚り合わされていることが好ましい。これにより、コアフィラメント及びシースフィラメントを一括して撚り合わせることが可能になるので、スチールコードの生産性を高めることができ、そのような撚り構造においても十分なゴム浸透性を確保することができる。
【0011】
更に、コアフィラメントの素線径dcとシースフィラメントの素線径dsとは0.8≦ds/dc<1.0の関係を満たすことが好ましい。このようにコアフィラメントをシースフィラメントよりも太くすることにより、スチールコードの内部へのゴム浸透性を改善することができる。また、コアフィラメントをシースフィラメントよりも太くした場合、スチールコードが座屈し難くなるため、耐久性の観点からも好ましい。
【0012】
本発明において、上記スチールコードが使用される空気入りラジアルタイヤの補強層は特に限定されるものではなく、例えば、カーカス層、ベルト層、サイド補強層を挙げることができる。しかしながら、上記スチールコードの特性を考慮すると、該スチールコードが使用される補強層はベルト層であることが好ましい。この場合、ベルト層に含まれるスチールコードのゴム浸透性を改善し、空気入りラジアルタイヤの耐久性を効果的に改善することができる。また、上記スチールコードはタイヤ以外のゴム製品を補強するための補強コードとしても利用可能である。
【0013】
また、本発明はトラック・バス用の空気入りラジアルタイヤに適用することが好適であるが、上述のようなスチールコードが補強層の補強コードとして使用される限りにおいて、上記以外の用途の空気入りラジアルタイヤにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線半断面図である。
図2】本発明で使用される2層構造を有するスチールコードの一例を示す断面図である。
図3】本発明で使用される2層構造を有するスチールコードの他の例を示す側面図である。
図4】本発明の要件を満たさないスチールコードの一例を示す側面図である。
図5図2及び図4のスチールコードの伸び特性を示すグラフである。
図6図2及び図3のスチールコードにおいて癖付けされたシースフィラメントを抽出して示す側面図である。
図7図2及び図3のスチールコードにおいて癖付けされていないコアフィラメント及びシースフィラメントを抽出して示す側面図である。
図8】(a)〜(f)は試験に使用された各種スチールコードのフィラメントの配置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含むカーカス層4が装架され、そのカーカス層4の端部がビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。
【0016】
また、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6が埋設されている。これらベルト層6はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば20°〜60°の範囲に設定されている。
【0017】
上記空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層6の補強コードとして、後述する2層構造を有するスチールコードが使用されている。
【0018】
図2は本発明で使用される2層構造を有するスチールコードの一例を示すものである。図2に示すように、スチールコード10は、N本(N=1〜3)のコアフィラメント11と、該コアフィラメント11の周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメント12とからなる2層構造を有している。本実施形態において、スチールコード10は2本のコアフィラメント11と7本のシースフィラメント12とから構成されている。つまり、2+7構造である。その他の例として、例えば、図3に示すように、3+8構造を挙げることができる。なお、スチールコード10が複数本のコアフィラメント11を有する場合、それらコアフィラメント11は互いに撚り合わされていることが望ましい。
【0019】
上述したスチールコード10において、M本のシースフィラメント12のうち、2〜(M−2)本のシースフィラメント12Aには癖付けが施されており、残りのシースフィラメント12Bには癖付けが施されていない。図2及び図3においては、それぞれ4本のシースフィラメント12Aに癖付けが施されている。そして、癖付けされたシースフィラメント12Aの全てがコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置される一方で、癖付けされていないシースフィラメント12Bの全てがコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置されている。つまり、図2及び図3に示すように、M本のシースフィラメント12はコアフィラメント11を取り囲むように配置されているが、癖付けされたシースフィラメント12Aの全てが互いに隣接するように配置され、癖付けされていないシースフィラメント12Bの全てが互いに隣接するように配置されている。
【0020】
上述した空気入りラジアルタイヤでは、ベルト層7の補強コードとして、N本(N=1〜3)のコアフィラメント11と、該コアフィラメント11の周囲に撚り合わされたM本(M=5〜9)のシースフィラメント12とからなる2層構造を有するスチールコード10を用いるにあたって、2〜(M−2)本のシースフィラメント12Aに癖付けを施すことにより、スチールコード10の内部へのゴム浸透性を改善することができる。しかも、その癖付けされたシースフィラメント12Aの全てをコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置することにより、癖付けの位相が揃った状態でシースフィラメント12Aが所定の位置に配置されるため、スチールコード10の初期伸びを抑制することができ、空気入りラジアルタイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0021】
ここで、本発明に含まれるスチールコード10(図2)の物性と本発明に含まれないスチールコード10(図4)の物性との差異について説明する。図4に示すスチールコード10′において、シースフィラメント12Aに癖付けが施されており、シースフィラメント12Bには癖付けが施されていないという点では図2の例と同じであるが、図2の例とは異なって癖付けされたシースフィラメント12Aの全てがコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置されていない。そして、図2に示すスチールコード10と図4に示すスチールコード10′について、引張荷重(N)を変化させながら伸び率(%)を測定した場合、図5のような結果が得られた。図5に示すように、癖付けされたシースフィラメント12Aの全てがコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置されていない図4のスチールコード10′は、癖付けされたシースフィラメント12Aの全てがコアフィラメント11の周囲で連続して並ぶように配置されている図2のスチールコード10に比べて初期伸びが大きくなっている。このような初期伸びの増大は癖付けされたシースフィラメント12Aの配置に起因している。
【0022】
上述したスチールコード10において、コアフィラメント11の本数をN本(N=1〜3)とし、シースフィラメント12の本数をM本(M=5〜9)としているが、これはゴム浸透性と形状安定性を確保するためである。コアフィラメント11及びシースフィラメント12の本数が多過ぎるとゴム浸透性が低下し、シースフィラメント12の本数が少な過ぎると安定した撚り構造を得ることが困難になる。また、2〜(M−2)本のシースフィラメント12Aに対して癖付けが施されているが、これはゴム浸透性を確保しつつ初期伸びを抑制するためである。癖付けされたシースフィラメント12Aの本数が少な過ぎるとゴム浸透性が低下し、逆に多過ぎると初期伸びが過大になる。
【0023】
図6に示すように、スチールコード10のシースフィラメント12Aはその長手方向に沿って蛇行するように癖付けされている。癖付けの形態は、波状でも良く、或いは、螺旋状でも良い。シースフィラメント12Aの波高Hは、シースフィラメント12Aの素線径dsに対して、1.3≦H/ds≦2.0の範囲にあると良い。この比H/dsが小さ過ぎるとゴム浸透性の改善効果が低下し、逆に大き過ぎると初期伸びの抑制効果が低下することになる。また、シースフィラメント12Aの癖付けピッチLは、シースフィラメント12Aの波高Hに対して、10≦L/H≦30の範囲にあると良い。この比L/Hが小さ過ぎると初期伸びの抑制効果が低下し、逆に大き過ぎるとゴム浸透性の改善効果が低下することになる。
【0024】
図7に示すように、スチールコード10において、コアフィラメント11はピッチPcにより一方向(例えば、S撚り)に撚り合わされ、シースフィラメント12はピッチPsにより一方向(例えば、S撚り)に撚り合わされている。また、ピッチPcとピッチPsは同一値に設定されている。このようにコアフィラメント11及びシースフィラメント12は同一方向かつ同一ピッチで撚り合わされていることが好ましい。これにより、コアフィラメント11及びシースフィラメント12を一括して撚り合わせることが可能になるので、スチールコード10の生産性を高めることができる。しかも、そのような撚り構造を採用した場合であっても十分なゴム浸透性を確保することができる。
【0025】
スチールコード10において、コアフィラメント11の素線径dcとシースフィラメント12の素線径dsとは0.8≦ds/dc<1.0の関係を満たしていると良い。このようにコアフィラメント11をシースフィラメント12よりも太くすることにより、スチールコード10の内部へのゴム浸透性を改善することができる。また、コアフィラメント11をシースフィラメント12よりも太くした場合、スチールコード10が座屈し難くなるため、耐久性の観点からも好ましい。但し、比ds/dcが小さ過ぎるとコアフィラメント11とシースフィラメント12の強力のバランスが悪くなって断線等の不都合を生じ易くなる。
【0026】
スチールコード10において、コアフィラメント11の素線径dc及びシースフィラメント12の素線径dsは0.15mm〜0.40mmの範囲に設定することが好ましい。このように素線径dc,dsを適正化することにより、コード強力を十分に確保しながら、良好な耐疲労性を確保することができる。素線径dc,dsが0.15mmよりも小さいとコード強力が不十分になり、逆に0.40mmよりも大きいと耐疲労性が低下することになる。
【0027】
上述した実施形態では、2層構造を有するスチールコード10をベルト層6に使用した場合について説明したが、本発明では、上記のようなスチールコード10を他の補強層に適用することが可能である。
【実施例】
【0028】
タイヤサイズ295/80R22.5の空気入りラジアルタイヤにおいて、ベルト層の補強コードだけを異ならせた従来例、比較例1〜3及び実施例1〜5のタイヤを製作した。
【0029】
即ち、従来例、比較例1〜3及び実施例1〜5において、ベルト層の補強コードとして、3本のコアフィラメントと8本のシースフィラメントとからなる3+8構造を有するスチールコード又は2本のコアフィラメントと7本のシースフィラメントとからなる2+7構造を有するスチールコードを使用し、コアフィラメントの素線径dc、シースフィラメントの素線径ds、比ds/dc、癖付けされたシースフィラメントの本数、癖付けされたシースフィラメントの配置を表1のように設定した。なお、癖付けされたシースフィラメントの配置は図8(a)〜(f)の通りであるが、理解を容易にするために、図8(a)〜(f)において癖付けされたシースフィラメントには斜線を付与した。また、各スチールコードにおいて、コアフィラメント及びシースフィラメントは同一方向かつ同一ピッチで撚り合わせた。
【0030】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ゴム浸透率及びタイヤ耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0031】
ゴム浸透率:
各試験タイヤからベルト層のスチールコードを取り出し、カッターナイフでスチールコードの外側に付着したゴムを除去し、1本のシースストランド及び1本のコアフィラメントを除去した際のコード内のゴム浸透率を目視にて測定した。このような測定をタイヤ周上の8ケ所に配置されたスチールコードについて行い、これら8本のスチールコードのゴム浸透率の平均値を求め、これをゴム浸透率とした。
【0032】
タイヤ耐久性:
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50の試験リムに装着し、空気圧800kPa、初期速度160km/h、荷重30kNの条件にて、室内ドラム試験機により走行試験を実施し、10分毎に速度を10km/hずつ増加させ、タイヤが故障するまでの走行時間を計測した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐久性が優れていることを意味する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、実施例1〜5では、従来例との対比において、スチールコードのゴム浸透率が高く、タイヤ耐久性が優れていた。特に、実施例3〜5から判るように、コアフィラメントの素線径dcをシースフィラメントの素線径dsよりも適度に太くした場合、タイヤ耐久性の改善効果が顕著に現れていた。これに対して、比較例1,2では、癖付けされたシースフィラメントの本数が実施例1と同じであるものの、その癖付けされたシースフィラメントの全てがコアフィラメントの周囲で連続して並ぶように配置されていないため、初期伸びの増大に起因してタイヤ耐久性の改善効果が得られなかった。また、比較例3では、癖付けされたシースフィラメントの本数が少な過ぎるため、ゴム浸透性が不十分であり、タイヤ耐久性の改善効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
10 スチールコード
11 コアフィラメント
12 シースフィラメント
12A 癖付けされたシースフィラメント
12B 癖付けされていないシースフィラメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8