(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、車両用開閉体制御装置をパワースライドドア装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両1は、車体2の側面2sに設けられたドア開口部3を開閉するスライドドア4を備えている。具体的には、この車両1には、その前後方向(
図1中、左右方向)に延びる複数(三本)のガイドレール5(5a〜5c)と、これらの各ガイドレール5に連結される複数のガイドローラユニット6(6a〜6c)と、が設けられている。即ち、本実施形態のスライドドア4は、これらの各ガイドレール5及び各ガイドローラユニット6を介して車体2の側面2sに支持される。また、これらの各ガイドレール5及び各ガイドローラユニット6は、各ガイドレール5の延伸方向に沿って、その各ガイドレール5に対する各ガイドローラユニット6の係合位置を移動させることが可能となっている。そして、本実施形態のスライドドア4は、これにより、その車体2の側面2sに沿う状態で車両前後方向に移動する構成になっている。
【0015】
即ち、本実施形態のスライドドア4は、車両前方側(
図1中、左側)に移動することにより、そのドア開口部3を閉塞する全閉状態となり、車両後方側(同図中、右側)に移動することにより、そのドア開口部3を介して車両1の乗員が乗降可能な全開状態となる。そして、このスライドドア4には、当該スライドドア4を開閉操作するためのドアハンドル10が設けられている。
【0016】
また、
図2に示すように、このスライドドア4には、複数のロック装置11が設けられている。尚、このスライドドア4には、当該スライドドア4を全閉位置で拘束する全閉ロックとしてのフロントロック11a及びリアロック11bが設けられている。更に、このスライドドア4には、当該スライドドア4を全開位置で拘束するための全開ロック11cが設けられている。そして、本実施形態のスライドドア4において、これらの各ロック装置11は、リモコン12を介してドアハンドル10に連結されている。
【0017】
即ち、本実施形態のスライドドア4は、そのドアハンドル10(アウトサイドドアハンドル及びインサイドドアハンドル)を操作することで、各ロック装置11による拘束状態が解除されるようになっている。尚、このスライドドア4は、車室内に設けられた操作スイッチ、或いは携帯機等を乗員が操作することにより、遠隔操作によっても、その各ロック装置11による拘束状態を解除することが可能になっている。そして、このスライドドア4は、そのドアハンドル10を把持部として、手動により開閉動作させることが可能となっている。
【0018】
また、本実施形態のスライドドア4には、モータ20を駆動源とするドアアクチュエータ21が設けられている。更に、このドアアクチュエータ21のモータ20は、ドアECU25から駆動電力の供給を受けることにより回転する。即ち、ドアECU25は、モータ20に対する駆動電力の供給を通じてドアアクチュエータ21の作動を制御する。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、そのモータ20の駆動力に基づきスライドドア4を開閉動作させることが可能な車両用開閉体制御装置としてのパワースライドドア装置30が形成されている。
【0019】
詳述すると、本実施形態のドアアクチュエータ21は、モータ20の駆動力に基づき図示しない駆動ケーブルを介してスライドドア4を開閉駆動する開閉駆動部31を備えている。
【0020】
また、本実施形態のドアアクチュエータ21には、その開閉駆動部31の動作に同期したパルス信号Spを出力するパルスセンサ32が設けられている。そして、本実施形態のドアECU25は、このパルスセンサ32のパルス出力に基づいて、そのドアアクチュエータ21に駆動されたスライドドア4の移動位置X及び移動速度Vdrを検出する。
【0021】
更に、本実施形態のドアECU25には、ドアハンドル10や車室内、或いは携帯機等に設けられた操作入力部33の出力信号(操作入力信号Scr)が入力されるようになっている。即ち、本実施形態のドアECU25は、この操作入力信号Scrに基づいて、利用者によるスライドドア4の作動要求を検知する。そして、その要求された作動方向にスライドドア4を移動させるべく、ドアアクチュエータ21の作動を制御する構成になっている。
【0022】
さらに詳述すると、
図3に示すように、本実施形態のドアECU25は、スライドドア4を開閉動作させるべく、その駆動源となるモータ20の制御目標εを演算する制御目標演算部41を備えている。また、ドアECU25は、この制御目標εに基づいてモータ制御信号Smcを出力するモータ制御信号出力部43を備えている。更に、ドアECU25は、このモータ制御信号Smcに基づいてモータ20に駆動電力を出力する駆動回路45を備えている。そして、本実施形態のドアECU25は、これにより、そのモータ20に対する駆動電力の供給を通じてドアアクチュエータ21の作動を制御する構成になっている。
【0023】
具体的には、本実施形態の制御目標演算部41は、利用者の作動要求を示す操作入力信号Scr、並びにスライドドア4の移動位置X及び移動速度Vdr、或いは、例えば車速等、各種の車両状態量に基づいて、そのモータ20の制御目標εを演算する。尚、本実施形態のドアECU25において、この制御目標演算部41の出力する制御目標εは、モータ20の回転方向、及びそのデューティ(オンデューティ比)を示すものとなっている。また、本実施形態のモータ20には、ブラシレスモータが採用されており、モータ制御信号出力部43には、回転角センサ47により検出されたモータ20の回転角(電気角)θが入力される。そして、本実施形態のモータ制御信号出力部43は、これにより、そのモータ20の回転角θに応じて位相が変化するモータ制御信号Smcを出力する構成になっている。
【0024】
即ち、本実施形態の駆動回路45には、複数のスイッチング素子(FET:Field effect transistor、図示略)をブリッジ状に接続してなる周知のPWMインバータが用いられている。また、モータ制御信号出力部43が出力するモータ制御信号Smcは、駆動回路45の各スイッチング素子について、そのモータ20の回転角θに応じたオン/オフパターンの組み合わせとともに、制御目標演算部41が出力する制御目標εに示されたオンデューティ比に対応したオン/オフタイミングを規定するPWM制御信号となっている。そして、本実施形態のドアECU25は、これにより、その駆動回路45を介して三相(U,V,W)の駆動電力をモータ20に出力する構成になっている。
【0025】
また、本実施形態のドアECU25は、モータ制御信号Smcの位相を進角させるための進角値αを設定する進角値設定部51を備えている。即ち、本実施形態のモータ制御信号出力部43には、モータ20の回転角θとともに、この進角値設定部51の出力する進角値αが入力される。そして、本実施形態のドアECU25は、これにより、モータ制御信号出力部43が、その進角値αにより位相を進めたモータ制御信号Smcによって、そのモータ20に対する駆動電力の供給を実行可能な構成になっている(進角制御)。
【0026】
具体的には、
図4のフローチャートに示すように、本実施形態のドアECU25は、モータ20の回転速度N(例えば、回転数/分)を取得し(ステップ101)、その回転速度Nが所定速度N1以上であるかを判定する(ステップ102)。そして、モータ20の回転速度Nが所定速度N1以上である場合(N≧N1、ステップ102:YES)には、進角制御を実行し(ステップ103)、その回転速度Nが所定速度N1に満たない場合(N<N1、ステップ102:NO)には、進角制御を実行しない(ステップ104)。
【0027】
即ち、
図5に示すように、進角制御の実行により、そのモータトルクTと回転速度Nとの関係を示す所謂N−T特性が高回転・低トルク型に変化する。この点を踏まえ、本実施形態のパワースライドドア装置30においては、予めシミュレーション等によって、同図に示されるように、その進角制御の実行によりモータ20の回転速度Nを増速させることが可能な当該回転速度NとモータトルクTとの関係が求められている。そして、本実施形態のドアECU25は、その進角制御の実行によりモータ20を増速させることのできる回転速度Nの下限値を上記所定速度N1に設定する、つまりは、その進角制御によって、回転速度Nを増速させる余力を残してモータ20が回転している低負荷領域においてのみ、その進角制御を実行する構成になっている。
【0028】
また、
図5中、破線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α1」である場合におけるモータ20のN−T特性を表している。同様に、同図中、一点鎖線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α2」である場合のN−T特性、同じく二点鎖線に示す波形は、進角制御の進角値αが「α3」である場合のN−T特性を表している。そして、同図中、実線に示す波形は、その進角制御の進角値αが「α0=0°」、つまりは進角制御を実行しない場合におけるモータ20のN−T特性を表している。
【0029】
更に、これらの各波形に示す進角値α0〜α3には、その番号が大きいもの程、より大きくモータ制御信号Smcを進角させる値が設定されている(α0<α1<α2<α3)。そして、これらの各進角値α0〜α3の間隔は、それぞれ、等しい値に調整されている(α3−α2=α2−α1=α1−α0)。
【0030】
即ち、進角制御を実行することによるモータ20の増速作用は、その進角値αが大きくなるに従って、より顕著なものとなる。そして、進角値αが小さい領域(例えば、α<α0)では、その進角値αの変更による影響が極めて小さなものとなっている。
【0031】
この点を踏まえ、
図6に示すように、本実施形態のドアECU25において、進角値設定部51は、その進角値αの初期値を「α1」に設定する。また、進角値設定部51は、モータ20の回転速度Nが上昇するに従って、より大きな進角値αを設定する。更に、本実施形態のパワースライドドア装置30においては、このようなモータ20の回転速度Nと進角値αとの関係が、マップ形式で、そのドアECU25の記憶領域25mに保持されている(
図2参照、進角マップ53)。そして、本実施形態のドアECU25においては、これにより、進角制御の実行時、その進角マップ53により規定されるモータ20の回転速度Nに応じた進角値αで、そのモータ制御信号Smcの位相が進められる構成になっている。
【0032】
また、
図3に示すように、本実施形態のドアECU25は、例えば、乗員の手や足等の異物が、スライドドア4の前端部4fとドア開口部3の前縁部3fとの間に挟み込まれた場合等、そのスライドドア4に生じた挟み込みの検知判定を実行する挟み込み検知部55を備えている。具体的には、本実施形態のドアECU25においては、電流センサ57により検出された車載電源60から駆動回路45に流れ込む電流の値、即ちモータ20の電流値Imが、この挟み込み検知部55に入力される。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、このモータ20の電流値Imに基づいて、その挟み込み検知判定を実行する構成になっている。
【0033】
具体的には、
図7のフローチャートに示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、モータ20の電流値Imを取得すると(ステップ201)、その挟み込み検知に用いる判定閾値Ithを設定する(ステップ202)。更に、挟み込み検知部55は、この判定閾値Ithとモータ20の電流値Imとを比較し(ステップ203)、その電流値Imが判定閾値Ithを超える場合(Im>Ith、ステップ203:YES)に、そのスライドドア4の挟み込みが発生していると判定する(ステップ204)。そして、モータ20の電流値Imが判定閾値Ith以下である場合(Im≦Ith、ステップ203:NO)には、スライドドア4の挟み込みは発生していないものと判定する(ステップ205)。
【0034】
即ち、挟み込みの発生によりモータ20の回転が拘束されることで、そのモータ20の電流値Imが上昇する(拘束電流)。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、このモータ20に生ずる電流変化を監視することにより、そのスライドドア4の挟み込みを検知する構成になっている。
【0035】
また、
図8のフローチャートに示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、この挟み込み検知の判定閾値Ithを設定する際(
図7参照、ステップ202)、その基準値I0をドアECU25の記憶領域25mから読み出すと(ステップ301、
図2参照)、続いて、進角制御の実行中であるか否かを判定する(ステップ302)。そして、進角制御の実行中である場合(ステップ302:YES)には、進角制御が実行されていない場合(ステップ302:NO)よりも高い判定閾値Ithを設定する構成になっている(ステップ303〜305)。
【0036】
詳述すると、
図2及び
図9に示すように、本実施形態のドアECU25は、挟み込み検知に用いる判定閾値Ith(の基準値I0)を補正するための補正マップ61を記憶領域25mに保持する。具体的には、本実施形態のドアECU25において、この補正マップ61は、その実行中の進角制御における進角値αと補正値βとの関係を規定するものとなっている。そして、本実施形態の補正マップ61は、その実行中の進角制御に設定された進角値αが大きいほど、より大きな補正値βが演算される構成になっている。
【0037】
即ち、
図8のフローチャートに示すように、本実施形態の挟み込み検知部55は、進角制御の実行中である場合(ステップ302:YES)、その進角制御の進角値αを取得する(ステップ303)。更に、挟み込み検知部55は、補正マップ61を用いることにより、その進角値αに応じた補正値βを演算する(ステップ304)。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、この補正値βを基準値I0に加えた値を、その挟み込み検知に用いる判定閾値Ithに設定する構成になっている(Ith=I0+β、ステップ305)。
【0038】
一方、進角制御が実行されていない場合(ステップ302:NO)、挟み込み検知部55は、ステップ301で読み出した基準値I0をそのまま判定閾値Ithに設定する(Ith=I0、ステップ306)。そして、本実施形態の挟み込み検知部55は、これにより、その進角制御を実行しない場合との比較において、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、進角制御の実行時の判定条件を変更する構成になっている。
【0039】
即ち、
図10に示すように、進角制御の実行によりモータ20のI−T特性が変化することで、同じモータトルクTを発生させるために必要な電流値Imが増大することになる。この点を踏まえ、本実施形態の挟み込み検知部55は、進角制御の実行時には、上記のように、予め、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、その挟み込み検知判定の判定条件を変更する。そして、これにより、実際には挟み込みが発生していないにも関わらず、モータ20の電流値Imが挟み込み検知の判定閾値Ithを超えないようにすることで、その誤判定を抑制する構成になっている。
【0040】
以上、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ドアECU25は、駆動源となるモータ20の電流値Imに基づいて、車両1のドア開口部3に設けられた開閉体としてのスライドドア4の挟み込み検知判定を実行する挟み込み検知部55を備える。また、駆動制御部70としてのドアECU25は、モータ20に駆動電力を供給するためのモータ制御信号Smcを出力するモータ制御信号出力部43と、そのモータ制御信号Smcの位相を進角させるための進角値αを設定する進角値設定部51と、を備える。そして、挟み込み検知部55は、その進角値αに基づいた進角制御が実行されている場合には、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、挟み込み検知判定の判定条件を変更する。
【0041】
上記構成によれば、進角制御の実行によって、同じモータトルクTを発生させるために必要となるモータの電流値Imが増大している場合であっても、正しく、その電流値Imの監視によって、スライドドア4に生じた挟み込みを検知することができる。
【0042】
(2)挟み込み検知部55は、モータ20の電流値Imが判定閾値Ithを超えた場合に(
図7参照、Im>Ith、ステップ203:YES)、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定する(ステップ204)。そして、進角制御が実行されている場合(
図8参照、ステップ302:YES)には、その進角制御が実行されていない場合(Ith=I0、ステップ302:NO、及びステップ306)よりも高い判定閾値Ithを設定する(Ith=I0+β、ステップ305)。
【0043】
即ち、モータ20の回転が拘束されることによる電流値Imの上昇(拘束電流)を監視することで、そのスライドドア4に生じた挟み込みを検知することができる。更に、進角制御の実行時には、当該進角制御の実行によりモータの電流値Imが上昇する分、予め、その挟み込み検知の判定閾値Ithを高く設定する。そして、これにより、実際にはスライドドア4の挟み込みが発生していないにも関わらず、モータ20の電流値Imが判定閾値Ithを超えないようにすることで、その誤判定を抑制することができる。
【0044】
(3)挟み込み検知部55は、進角制御における進角値αの設定が大きいほど、挟み込み検知の判定閾値Ithに高い値を設定する。
即ち、進角値αが大きくなるに従って、その同じモータトルクTを発生させるために必要なモータ20の電流値Imもまた増大する。従って、このような構成を採用することで、より効果的に、挟み込み検知の誤判定を抑制することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、車両1の側面2sに設けられたスライドドア4を開閉体とするパワースライドドア装置30に具体化した。しかし、これに限らず、駆動源となるモータ20を進角制御しつつ、その電流値Imに基づいた挟み込み検知を行うものであれば、その開閉体は、車両後部に設けられたバックドアやスイング式のサイドドア等であってもよい。そして、例えば、車両の窓ガラスを昇降させるウィンドレギュレータやサンルーフ装置等、ドア以外の開閉体を対象とする車両用開閉体制御装置に適用してもよい。
【0046】
・上記実施形態では、モータ20の回転速度Nと進角値αとの関係が規定された進角マップ53を用いることにより、その回転速度Nに応じた進角値αを設定することとした。しかし、これに限らず、例えば、モータ20の電流値Imに応じた進角値αを設定する等、その他の要素、或いはその組み合わせに基づいて、進角制御の進角値αを設定する構成であってもよい。
【0047】
・また、マップ演算以外の方法で進角値αを設定する構成を採用してもよい。
例えば、
図11のフローチャートに示すように、モータ制御信号Smcの出力時、その進角値αを調整するか否かの進角調整判定を実行する(ステップ401)。尚、この進角調整判定の内容については、モータ20の回転速度Nや電流値Im、或いは、その他の要素を用いる等、任意に設定してもよい。そして、この進角調整判定の結果、その進角値αを調整すべきと判定した場合(ステップ402:YES)に、所定の進角調整値Δαにて、その進角値αを調整する構成としてもよい。
【0048】
具体的には、この
図11に示す例においては、現在の進角値αを取得することにより(ステップ403)、その進角値αに応じた進角調整値Δαが演算される。そして、進角値αを増加させる場合(ステップ405:YES)には、その進角値αに進角調整値Δαを加算した値を新たな進角値αに設定し(α=α+Δα、ステップ406)、進角値αを減少させる場合(ステップ405:NO)には、その進角値αから進角調整値Δαを減算した値を新たな進角値αに設定する(α=α−Δα、ステップ407)。
【0049】
・更に、進角値αの大きさに依らず、当該進角値αの調整により得られるモータ20の回転速度Nの変化が略一定となるように、その進角調整値Δαを設定するとよい。例えば、進角値αを「α2」から「α3」に変更した場合における回転速度Nの変化量が、その進角値αを「α1」から「α2」に変更した場合におけるモータ20の回転速度Nの変化量の二倍であるとする。
【0050】
図12に示すように、このような場合、その進角値αが「α1」〜「α2」であるとき(α1≦α<α2)の進角調整値Δαを「δ」とし、「α2」〜「α3」であるとき(α2≦α<α3)とする。更に、進角値αが「α3」以上の領域(α3≦α(<α4))でも、同様の傾向でモータ20の回転速度Nが変化する場合、つまり、進角値αを一定の間隔で調整した場合に、その回転速度Nの変化量が二倍となる場合には、その進角値αが「α3」以上の領域における進角調整値Δαを「δ/4」にするとよい。そして、これにより、進角値αの大きさに依らず、当該進角値αの調整により得られる回転速度Nの変化を略一定にすることができる。その結果、モータ20の作動を安定させることができる。
【0051】
・上記実施形態では、挟み込み検知部55は、進角値αの設定が大きいほど、挟み込み検知の判定閾値Ithに高い値を設定する。そして、これにより、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、その進角制御の実行時における挟み込み検知判定の判定条件を変更することとした。しかし、これに限らず、進角制御の実行時には、モータ20の電流値Imを低い値に補正して、その挟み込み検知の判定閾値Ithと比較する構成としてもよい。
【0052】
例えば、
図13のフローチャートに示すように、進角制御の実行中である場合(ステップ502:YES)には、上記実施形態における判定閾値Ith(基準値I0)の補正値βと同様に、その進角値αに応じた補正値γを演算する(ステップ503及びステップ504、
図9参照)。更に、ステップ501において取得したモータ20の電流値Imから、この補正値γを減算する(Im=Im−γ、ステップ505)。そして、これにより低い値に補正された新たな電流値Imを用いて、その挟み込み検知判定を実行する構成とするとよい(ステップ506〜ステップ508)。このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
・また、進角制御の実行によりモータ20の電流値Imが挟み込み検知の判定閾値Ithを超えないように、その進角値αを設定する構成としてもよい。
例えば、
図14のフローチャートに示すように、図示しない進角調整判定(
図11参照、ステップ401)において、その進角値αを増加させると判定した場合(ステップ605:YES)に、現在の進角値αが、その挟み込み検知の誤判定を抑制するためのガード値αxよりも小さいか否かを判定する(ステップ606)。そして、現在の進角値αがガード値αxよりも小さい場合(α<αx、ステップ606:YES)にのみ、その現在の進角値αに進角調整値Δαを加算した値を新たな進角値αに設定する構成にするとよい(α=α+Δα、ステップ607)。
【0054】
尚、
図14のフローチャートにおいて、図示しないステップ601〜ステップ604、及びステップ608の各処理は、
図11のフローチャートにおけるステップ401〜ステップ407の各処理と同一である。そして、このような構成としても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0055】
・更に、モータ20の電流微分値に基づきスライドドア4の挟み込み検知判定を実行する構成においてもまた、進角制御の実行時には、スライドドア4の挟み込みが発生したと判定し難くなるように、その挟み込み検知判定の判定条件を変更する構成としてもよい。そして、これにより、その挟み込み検知の誤判定を抑制することができる。
【0056】
・上記実施形態では、モータ20の回転速度Nが所定速度N1以上であるか否かを判定することで、進角制御によって回転速度Nを増速させる余力を残してモータ20が回転している低負荷領域においてのみ、その進角制御を実行することとした。しかし、これに限らず、例えば、モータ20の電流値Imに基づきモータトルクTを演算する。尚、この際、電源電圧を考慮した演算式を用いるとよい。そして、これにより、モータ20が低負荷領域にある場合にのみ(
図5参照、T≦T1)、その進角制御を実行する構成としてもよい。
【0057】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記挟み込み検知部は、前記モータの電流値が判定閾値を超えた場合に、前記開閉体の挟み込みが発生したと判定するとともに、前記進角制御が実行されている場合には、該進角制御が実行されていない場合よりも低い値に前記電流値を補正して前記判定閾値と比較すること、を特徴とする車両用開閉体制御装置。
【0058】
即ち、進角制御の実行時には、当該進角制御の実行によりモータの電流値が上昇する分、その電流値を補正した値で挟み込み検知判定を実行する。そして、これにより、実際には開閉体の挟み込みが発生していないにも関わらず、モータの電流値が判定閾値を超えないようにすることで、その誤判定を抑制することができる。
【0059】
(ロ)モータを駆動源として車両の開閉体を開閉動作させる駆動制御部と、前記モータの電流値に基づいて前記開閉体の挟み込み検知判定を実行する挟み込み検知と、を備え、前記駆動制御部は、前記モータに駆動電力を供給するためのモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部と、前記モータ制御信号の位相を進角させるための進角値を設定する進角値設定部と、を備えるとともに、前記挟み込み検知部は、前記モータの電流値が判定閾値を超えた場合に、前記開閉体の挟み込みが発生したと判定するものであって、前記進角値設定部は、前記進角値に基づいた進角制御の実行によって前記モータの電流値が前記判定閾値を超えないように、前記進角値を設定する車両用開閉体制御装置。これにより、進角制御の実行時における挟み込み検知の誤判定を抑制することができる。