(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記正極活物質合剤層に含まれる前記リン酸リチウムの粒子の数に対する前記炭酸リチウムの粒子の数の割合は、0.5以下である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
前記正極活物質合剤層において、隣接する前記炭酸リチウムの粒子と前記リン酸リチウムの粒子の平均距離が、4μm〜20μmである請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイブリッド電気自動車(PHEV、HEV)や電気自動車(EV)の駆動用電源等に利用される非水電解質二次電池には、更なる信頼性の向上が求められる。
【0008】
本発明の目的の一つは、非水電解質二次電池が過充電状態となったときの信頼性をさらに向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態の非水電解質二次電池は、
正極活物質を含有する正極活物質合剤層を有する正極板と負極板を含む電極体と、
非水電解質と、
前記電極体と前記非水電解質を収容する電池ケースと、
前記電池ケース内の圧力が所定値以上となったときに作動する感圧式の安全機構を備えた非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質はフッ素を含有する電解質塩を含み、
前記正極活物質合剤層は炭酸リチウムとリン酸リチウムを含み、
前記正極活物質合剤層に含まれる炭酸リチウムの平均粒子径は、前記正極活物質合剤層
に含まれるリン酸リチウムの平均粒子径よりも大きく、
前記正極活物質合剤層に含まれる炭酸リチウムの粒子の数は、前記正極活物質合剤層に含まれるリン酸リチウムの粒子の数よりも少ない。
【0010】
本発明の一形態の非水電解質二次電池は、正極活物質合剤層が炭酸リチウムを含有すると共に、感圧式の安全機構を備える。このため、非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、正極板の電位が上昇することにより炭酸リチウムが分解し炭酸ガスが発生する。そして、この炭酸ガスの発生により、電池ケース内の圧力が即座に上昇し、感圧式の安全機構が早期に作動する。なお、感圧式の安全機構は、過充電の進行を抑制する機構であり、ガス排出弁は含まない。
【0011】
なお、非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、正極板の電位が上昇し、正極活物質とフッ素を含有する電解質塩を含む非水電解液が反応し、フッ酸ないし五フッ化リンが生じる。そして、このフッ酸ないし五フッ化リンが非水電解液と反応し、非水電解質二次電池の温度が異常に上昇する。このため、正極活物質合剤層に炭酸リチウムを含有させ、炭酸リチウムの分解により発生した炭酸ガスにより感圧式の安全機構を作動させて、充電電流を早期に遮断したとしても、非水電解質二次電池の温度上昇を抑制できない虞がある。
【0012】
そこで正極活物質合剤層にリン酸リチウムを含有させることにより、正極活物質表面で生じたフッ酸ないし五フッ化リンをリン酸リチウムで捕獲し、フッ酸ないし五フッ化リンと非水電解液が反応することを抑制する。これにより、非水電解質二次電池の温度上昇を抑制できる。
【0013】
発明者は、より信頼性の高い非水電解質二次電池を開発するため、非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、非水電解質二次電池内で生じる現象について鋭利検討を行った。その結果、より過酷な条件で非水電解質二次電池が過充電状態となった場合には、以下のような課題が存在することを見出した。
【0014】
リン酸リチウムは、正極活物質表面で生じて非水電解液中を移動するフッ酸ないし五フッ化リンを捕獲する。ここで、炭酸リチウムが分解して炭酸ガスが発生すると、炭酸ガスが発生した部分では発生した炭酸ガスの圧力により非水電解液が他の部分に押しやられる。そして、炭酸リチウムが存在した場所の周囲では、非水電解液がない、あるいは周囲に比べて少ない状態となる。そのため、正極活物質合剤層中に、小さな粒子径を有する炭酸リチウムが数多く分散して存在すると、正極活物質合剤層中のいたるところで大量のガス発生が起こり、非水電解液中を移動するフッ酸ないし五フッ化リンをリン酸リチウムが捕捉することを阻害する虞がある。
【0015】
また、正極活物質合剤層に含まれる炭酸リチウムの粒子径が大きく、また炭酸リチウムの粒子の数が少ない場合であっても、感圧式の安全機構を問題なく作動させることができることを見出した。
【0016】
本発明は、このような知見に基づいて成されたものであり、正極活物質合剤層中に含まれる炭酸リチウムの平均粒子径をリン酸リチウムの平均粒子径よりも大きくするとともに、正極活物質合剤層中に含まれる炭酸リチウム粒子の数をリン酸リチウム粒子の数よりも少なくすることを特徴とする。このような構成では、非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、炭酸リチウムの分解により発生するガスにより即座に感圧式の安全機構を作動させることができる。更に、正極活物質合剤層中に粒子径の小さな炭酸リチウムがより多く存在する場合と比較し、炭酸リチウムの分解により生じるガスにより非水電解液が追いやられてリン酸リチウムがフッ酸ないし五フッ化リンを捕捉し難くなることを効果的に
抑制できる。よって、リン酸リチウムがフッ酸ないし五フッ化リンを効果的に捕捉できる。したがって、より信頼性の高い非水電解質二次電池となる。
【0017】
前記炭酸リチウムの平均粒子径は、前記リン酸リチウムの平均粒子径の1.5倍〜5倍であることが好ましい。
【0018】
前記正極活物質合剤層に含まれる前記リン酸リチウムの粒子の数に対する前記炭酸リチウムの粒子の数の割合は、0.5以下であることが好ましい。
【0019】
前記炭酸リチウムの平均粒子径は2.0μm〜10.0μmであり、
前記リン酸リチウムの平均粒子径は1.0μm〜5.0μmであることが好ましい。
【0020】
前記炭酸リチウムの粒子は扁平形状であり、
前記炭酸リチウムの粒子の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比が、1.2〜5であることが好ましく、2〜5であることがより好ましい。
【0021】
前記正極活物質合剤層において、隣接する前記炭酸リチウムの粒子と前記リン酸リチウムの粒子の平均距離が、4μm〜20μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、より信頼性の高い非水電解質二次電池を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の例示であり、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0025】
まず、
図1及び
図2を用いて実施形態に係る角形の非水電解質二次電池100の構成を説明する。
図1及び
図2に示すように、実施形態に係る角形の非水電解質二次電池100は、開口を有する角形の有底筒状の外装体1と、外装体1の開口を封口する封口板2を有する。外装体1と封口板2により電池ケース200が構成される。電池ケース200には、帯状の正極板と帯状の負極板が帯状のセパレータを介して巻回された扁平状の巻回電極体3と非水電解液が収容されている。巻回電極体3は、一方の端部に巻回された正極芯体露出部4を有し、他方の端部に巻回された負極芯体露出部5を有する。
【0026】
正極芯体露出部4には正極集電体6が接続され、正極集電体6と正極端子7が電気的に接続される。正極端子7と封口板2の間には樹脂製の外部側絶縁部材11が配置される。なお、正極集電体6と正極端子7の間に、電池ケース200内の圧力が所定値以上となったときに作動し、正極板と正極端子7の間の導電経路を切断する電流遮断機構10が設けられている。
【0027】
負極芯体露出部5には負極集電体8が接続され、負極集電体8と負極端子9が電気的に接続される。負極集電体8と封口板2の間には樹脂製の内部側絶縁部材12が配置され、負極端子9と封口板2の間には樹脂製の外部側絶縁部材13が配置される。
【0028】
巻回電極体3と外装体1の間には樹脂製の絶縁シート14が配置されている。封口板2には、電池ケース200内の圧力が所定値以上となった時に破断し、電池ケース200内のガスを電池ケース200外に排出するガス排出弁15が設けられている。また、封口板2には、電解液注液孔16が形成されている。この電解液注液孔16は電池ケース200内に非水電解液を注液した後、封止栓17により封止される。ガス排出弁15の作動圧は、電流遮断機構10の作動圧よりも大きい値とする。
【0029】
図3は電流遮断機構10の近傍の封口板2の短手方向に沿った断面図である。封口板2の電池内部側の面には、樹脂製の第1絶縁部材20を介して導電部材21が配置される。導電部材21は、金属製であり、巻回電極体3側に開口を有する。導電部材21の開口は、金属製の変形板22により密閉されている。変形板22には正極集電体6が接続されている。変形板22と正極集電体6の間には樹脂製の第2絶縁部材23が配置されている。第2絶縁部材23は、第1絶縁部材20と嵌合により接続されている。また、第2絶縁部材23は、正極集電体6と嵌合により接続されている。
【0030】
正極集電体6には薄肉部6aが設けられている。薄肉部6aの中央には接続用開口6bが形成されている。接続用開口6bの縁部が変形板22に溶接接続されている。薄肉部6aには環状のノッチ部6cが設けられている。
【0031】
非水電解質二次電池が過充電状態となり電池ケース200内の圧力が上昇したとき、変形板22の中央部が封口板2に近づくように変形する。そして、変形板22の変形により、正極集電体6に設けられた破断予定部としてのノッチ部6cが破断する。これにより、正極板と正極端子7の間の導電経路が切断される。
【0032】
次に、非水電解質二次電池100の製造方法を説明する。
【0033】
[正極板の作製]
正極活物質としてのLiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2で表されるリチウム遷移金属極複合酸化物、導電剤としての炭素粉末、炭酸リチウム、リン酸リチウム、及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、分散媒としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合して正極合剤スラリーを作製する。ここで、正極合剤スラリーに含まれる正極活物質、炭酸リチウム、リン酸リチウム、導電剤、結着剤の質量比は、88:2:1:7:2とする。なお、平均粒子径が3.0μmのLiNi
0.35Co
0.35Mn
0.30O
2を用いた。
【0034】
上述の方法で作製した正極合剤スラリーを、正極芯体としての厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にダイコーターにより塗布する。その後、正極合剤スラリーを乾燥させて分散媒としてのNMPを除去する。一対の圧縮ローラを用いて正極活物質合剤層を圧縮する。このとき、圧縮後の正極活物質合剤層の充填密度が2.5g/cm
3となるように圧縮処理を行った。そして、正極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に正極活物質合剤層が形成されていない正極芯体露出部が形成されるように所定寸法に切断し正極板40とする。
【0035】
図4は正極板40の断面図である。正極板40は、アルミニウム箔からなる正極芯体40aと、正極芯体40aの両面に形成された正極活物質合剤層40bを有する。
図5は正極活物質合剤層40bの拡大断面図であり、正極活物質合剤層40b中の正極活物質の粒
子41と、炭酸リチウムの粒子42及びリン酸リチウムの粒子43の状態を示す模式図である。なお、
図5においては導電剤及び結着剤の図示は省略する。
図5に示すように、正極活物質の粒子41同士の間に、炭酸リチウムの粒子42、リン酸リチウムの粒子43が配置される。
【0036】
[負極板の作製]
負極活物質としての黒鉛粉末と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR)とを、それぞれの質量比で98:1:1の割合で水に分散させ負極合剤スラリーを作製する。
【0037】
上述の方法で作製した負極合剤スラリーを、負極芯体としての銅箔の両面にダイコーターにより塗布する。次いで、負極合剤スラリーを乾燥させて分散媒としての水を除去し、ロールプレスによって所定厚さとなるように圧縮する。そして、負極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に負極活物質合剤層が形成されていない負極芯体露出部が形成されるように所定寸法に切断し負極板とする。
【0038】
[扁平状の巻回電極体の作製]
上述の方法で作製した正極板と負極板を、厚さ20μmのポリプロピレン製のセパレータを介して巻回した後、扁平状にプレス成形して扁平状の巻回電極体3を作製する。このとき、扁平状の巻回電極体3の巻き軸方向の一方の端部には巻回された正極芯体露出部4が形成され、他方の端部には負極芯体露出部5が形成されるようにする。
【0039】
[非水電解液の調整]
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比(25℃、1気圧)で3:3:4となるように混合した混合溶媒を作製する。この混合溶媒に、溶質としてLiPF
6を1mol/Lとなるように添加する。
【0040】
[正極端子、電流遮断機構の封口板への取り付け]
封口板2の正極端子取り付け孔2aの周囲の電池外部側の面に外部側絶縁部材11を配置する。封口板2の正極端子取り付け孔2aの周囲の電池内部側の面に第1絶縁部材20及び導電部材21を配置する。その後、電池外部側から正極端子7を、外部側絶縁部材11の貫通孔、封口板2の正極端子取り付け孔2a、第1絶縁部材20の貫通孔及び導電部材21の貫通孔に挿入させる。そして、正極端子7の先端側を、導電部材21上にカシメる。その後、正極端子7においてカシメられた部分と導電部材21を溶接接続する。なお、正極端子7のフランジ部7aは、封口板2よりも電池外部側に配置される。次に、導電部材21の巻回電極体3側の開口の縁部と変形板22を溶接接続する。これにより、導電部材21の巻回電極体3側の開口を密閉する。
【0041】
次に、図示は省略するが、第2絶縁部材23に設けた突起を、正極集電体6の開口に挿入し、第2絶縁部材23に設けた突起の先端部を拡径する。これにより、第2絶縁部材23と正極集電体6が固定される。その後、正極集電体6に固定された第2絶縁部材23を、第1絶縁部材20に接続する。
【0042】
正極端子7の端子貫通孔7bを通じて、電池外部側から導電部材21内にガスを送り込み、変形板22と正極集電体6を接触させた状態で、変形板22と正極集電体6を溶接接続する。また、ガスを送り込むことにより、リークチェックを行うことが好ましい。その後、正極端子7の端子貫通孔7bを、端子栓25で封止する。端子栓25は、ゴム部材25aと金属板25bを有することが好ましい。
【0043】
[負極端子の封口板への取り付け]
封口板2の負極端子取り付け孔の周囲の電池外部側の面に外部側絶縁部材13を配置する。封口板2の負極端子取り付け孔の周囲の電池内部側の面に内部側絶縁部材12及び負極集電体8を配置する。その後、電池外部側から負極端子9を、外部側絶縁部材13の貫通孔、封口板2の負極端子取り付け孔、内部側絶縁部材12の貫通孔及び負極集電体8の貫通孔に挿入させる。そして、負極端子9の先端側を、負極集電体8上にカシメる。その後、負極端子9においてカシメられた部分と負極集電体8を溶接接続する。
【0044】
[集電体と電極体の接続]
正極集電体6を巻回電極体3の巻回された正極芯体露出部4に溶接接続する。また、負極集電体8を巻回電極体3の巻回された負極芯体露出部5に溶接接続する。溶接接続は、抵抗溶接、超音波溶接、レーザ溶接等を用いることができる。
【0045】
[電極体の外装体への挿入]
巻回電極体3を絶縁シート14で包み、巻回電極体3を外装体1に挿入する。その後、外装体1と封口板2を溶接し、外装体1の開口を封口板2により封口する。
【0046】
[注液・封止]
上述の方法で作製した非水電解液を封口板2に設けられた電解液注液孔16から電池ケース200内に注液し、その後、電解液注液孔16を封止栓17としてのブラインドリベットにより封止する。以上のようにして非水電解質二次電池100が作製される。
【0047】
[実施例1]
平均粒子径が4.9μmの炭酸リチウム、及び平均粒子径が2.7μmのリン酸リチウムを用いて、上述の方法で非水電解質二次電池を作製し、実施例1の非水電解質二次電池とした。
【0048】
[実施例2]
平均粒子径が5.7μmの炭酸リチウム、及び平均粒子径が1.4μmのリン酸リチウムを用いて、上述の方法で非水電解質二次電池を作製し、実施例2の非水電解質二次電池とした。
【0049】
[比較例1]
平均粒子径が4.9μmの炭酸リチウムを用い、リン酸リチウムを添加せずに上述の方法で非水電解質二次電池を作製し、比較例1の非水電解質二次電池とした。
【0050】
[比較例2]
炭酸リチウムを添加せず、平均粒子径が2.7μmのリン酸リチウムを用いて、上述の方法で非水電解質二次電池を作製し、比較例2の非水電解質二次電池とした。
【0051】
[比較例3]
平均粒子径が4.9μmの炭酸リチウム、及び平均粒子径が6.0μmのリン酸リチウムを用いて、上述の方法で非水電解質二次電池を作製し、比較例3の非水電解質二次電池とした。
【0052】
なお、炭酸リチウムの平均粒子径とリン酸リチウムの平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により粒子を観察し、それぞれ20個の粒子の粒子径を測定することにより平均の値を算出した。なお、一つの粒子の粒子径については、最も径が大きくなる方向の径を測定した。
【0053】
実施例1及び2、比較例1〜3の非水電解質二次電池は、それぞれ電池容量が4Ahであった。
【0054】
実施例1及び2、比較例1〜3の非水電解質二次電池に関について、以下の過充電試験を行った。
[過充電試験]
(1)25℃の条件下で、非水電解質二次電池を4Aの電流で4.1Vまで充電を行った。
(2)次に、60℃の条件下で、130Aの定電流で充電を行った。
なお、130Aは32.5Cに相当するハイレートの充電であり、また60℃の高温条件下であることから、過充電の試験条件としては非常に厳しい条件である。
[評価]
各非水質二次電池に関し、それぞれ3つについて、上述の過充電試験を行った。
試験を行った3つの全てが、電流遮断機構が作動した後5分以内に発煙に至った場合を「×」とした。
試験を行った3つのうち1つ又は2つが、電流遮断機構が作動した後5分以内に発煙に至った場合を「△」とした。
試験を行った3つの全てが、電流遮断機構が作動した後、発煙に至らなかった場合を「○」とした。
【0055】
[正極活物質合剤層中の炭酸リチウムの粒子の数とリン酸リチウムの粒子の数の比]
正極板40をクロスセッションポリッシャー(CP)を用いて切断した後、正極活物質合剤層40bの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。そして、20μm×50μmの範囲内に存在する炭酸リチウムの粒子の数と、リン酸リチウムの粒子の数を測定した。これにより、正極活物質合剤層における、リン酸リチウムの粒子の数に対する炭酸リチウムの粒子の数の割合を求めた。
【0056】
表1に、各非水電解質二次電池についての過充電試験の評価結果を示す。また、表1には、各非水電解質二次電池における炭酸リチウムの平均粒子径(μm)、リン酸リチウム平均粒子径(μm)、炭酸リチウムの平均粒子径/リン酸リチウム平均粒子径、炭酸リチウムの粒子の数/リン酸リチウムの粒子の数を示す。
【0058】
正極活物質合剤層中において、炭酸リチウムの平均粒子径がリン酸リチウムの平均粒子径よりも大きく、炭酸リチウムの粒子の数がリン酸リチウムの粒子の数よりも少ない実施例1及び2では、過充電試験において発煙に至らなかった。実施例1及び2の構成では、
電流遮断機構を即座に作動させることができ、しかも、リン酸リチウムによりフッ酸ないし五フッ化リンを効果的に捕捉できていると考えられる。
【0059】
これに対し、リン酸リチウムを含まない比較例1及び炭酸リチウムを含まない比較例2では、過充電試験により電流遮断機構作動後5分以内に発煙に至る場合があった。リン酸リチウムを含まない比較例1では、炭酸リチウムの分解により炭酸ガスが発生し、電流遮断機構を即座に作動させることができるものの、非水電解質二次電池の温度上昇を抑制できず発煙に至ったと考えられる。また、炭酸リチウムを含まない比較例2では、電流遮断機構の作動が遅くなり、発煙に至ったものと考えられる。
【0060】
炭酸リチウムの平均粒子径がリン酸リチウムの平均粒子径よりも小さく、炭酸リチウムの粒子の数がリン酸リチウムの粒子の数よりも多い比較例3では、過充電試験により電流遮断機構作動後5分以内に発煙に至る場合があった。炭酸リチウムの平均粒子径がリン酸リチウムの平均粒子径よりも小さく、炭酸リチウムの粒子の数がリン酸リチウムの粒子の数よりも多い場合、炭酸リチウムの分解により発生した炭酸ガスが、非水電解液中のフッ酸ないし五フッ化リンをリン酸リチウムが捕捉することを阻害したものと考えられる。その結果、フッ酸ないし五フッ化リンと非水電解液の反応が抑制されず、非水電解質二次電池の温度上昇が抑制されず発煙に至ったと考えられる。
【0061】
このように、正極活物質合剤層中において、炭酸リチウムの平均粒子径がリン酸リチウムの平均粒子径よりも大きく、炭酸リチウムの粒子の数がリン酸リチウムの粒子の数よりも少ないことにより、炭酸リチウムのガス発生により即座に感圧式の電流遮断機構を作動させることができると共に、リン酸リチウムによるフッ酸ないし五フッ化リンの捕獲効果を阻害することのない、信頼性に優れた非水電解質二次電池となる。
【0062】
炭酸リチウムの平均粒子径は、リン酸リチウムの平均粒子径の1.5倍〜5倍であることが好ましく、2〜4倍であることが更に好ましい。これにより、本発明の効果がより効果的に得られる。
【0063】
正極活物質合剤層に含まれるリン酸リチウムの粒子の数に対する正極活物質合剤層に含まれる炭酸リチウムの粒子の数の割合は、0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることが更に好ましい。これにより、正極活物質合剤層内により多くのリン酸リチウム粒子を分散させることができる。よって、より効果的にフッ酸ないし五フッ化リンをリン酸リチウムにより捕捉できる。
【0064】
炭酸リチウムの平均粒子径は、2.0μm〜10.0μmであることが好ましく、3.0μm〜9.0μmであることがより好ましく、4.0μm〜8.0μmであることが更に好ましい。炭酸リチウムの平均粒子径がこのような範囲にあると、非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、炭酸リチウムが分解し易く、感圧式の安全機構をより確実に即座に作動させることができる。
【0065】
リン酸リチウムの平均粒子径は、1.0μm〜5.0μmであることが好ましく、1.0μm〜4.0μmであることがより好ましい。リン酸リチウムの平均粒子径がこのような範囲にあると、より効果的にフッ酸ないし五フッ化リンをリン酸リチウムにより捕捉できる。
【0066】
炭酸リチウムの粒子は扁平形状であり、炭酸リチウムの粒子の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比が、1.2〜5であることが好ましく、2〜5であることがより好ましい。炭酸リチウムの粒子が扁平形状であると、正極活物質合剤層を圧縮処理する際、炭酸リチウムが正極芯体側に入り込むことを抑制できる。よって、炭酸リチウムが分解し正
極活物質合剤層内で発生した炭酸ガスが、正極活物質合剤層外に排出され易くなる。また、炭酸リチウムが過度に扁平となることを避けることにより、炭酸ガスが局所的に大量に発生し炭酸リチウムの周囲の非水電解液が追いやられることをより効果的に抑制できる。よって、リン酸リチウムがより効果的にフッ酸ないし五フッ化リンを捕獲できる。
【0067】
正極活物質合剤層において、隣接する炭酸リチウムの粒子とリン酸リチウムの粒子の平均距離が、4μm〜20μmであることが好ましい。これにより、炭酸リチウムの分解により発生した炭酸ガスが、リン酸リチウムによるフッ酸ないし五フッ化リンの捕獲を阻害することを、より確実に抑制できる。
【0068】
[短絡機構]
安全機構として、電流遮断機構に代えて感圧式の短絡機構を設けることができる。短絡機構は、過充電等により電池ケース内の圧力が所定値以上となった時に作動する。短絡機構が作動し、正極板と負極板が巻回電極体の外部で電気的に短絡するようにする。これにより、過充電の更なる進行を防止する。なお、短絡電流により溶断するヒューズ部を正極集電体等に設けることが好ましい。
【0069】
短絡機構の構成を、
図6A及び
図6Bを用いて説明する。
図6Aは、負極端子105の近傍の封口板の長手方向に沿った断面図である。外装体101の開口を封口する封口板102には変形部103が設けられている。変形部103の電池外部側には負極端子105に電気的に接続された負極外部導電部材106が配置されている。負極板に接続される負極集電体104は、負極端子105に接続されている。負極端子105は、内部側絶縁部材107の貫通孔、封口板102の貫通孔、外部側絶縁部材108の貫通孔及び負極外部導電部材106の貫通孔に挿入され、負極端子105の先端側が負極外部導電部材106上にカシメられている。
【0070】
図6Bは、正極端子110の近傍の封口板の長手方向に沿った断面図である。
図6Bに示すように、正極板に接続された正極集電体109は、正極端子110に接続されている。正極端子110は、正極外部導電部材111に接続されている。正極板は正極集電体109、正極端子110、正極外部導電部材111を介して封口板102と電気的に接続されている。なお、正極外部導電部材111と封口板102の間に導電性の部材を配置してもよい。封口板102と正極端子110の間には、内部側絶縁部材112が配置されている。
【0071】
非水電解質二次電池が過充電状態となったとき、電池ケース内の圧力が上昇し、変形部103の中央部が負極外部導電部材106に近づくように変形し、変形部103と負極外部導電部材106が電気的に接続される。そして、封口板102及び変形部103を介して正極板と負極板が電気的に短絡する。これにより、充電電流が巻回電極体3内に流れることを抑制できる。よって、過充電の進行を抑制できる。なお、非水電解質二次電池に短絡電流が流れ、正極集電体6等に設けられたヒューズ部が溶断するようにしておけば、過充電の進行を防止できるため、より好ましい。なお、短絡機構が作動する圧力は、ガス排出弁が作動する圧力よりも低い値とする。
【0072】
<その他>
上述の実施形態においては、巻回型の電極体を用いる例を示したが、積層型の電極体を用いることができる。
【0073】
正極活物質合剤層に含まれる炭酸リチウムの量は、正極活物質合剤層の総量に対して、0.5質量%〜5質量%であることが好ましく、1.0質量%〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0074】
正極活物質合剤層に含まれるリン酸リチウムの量は、正極活物質合剤層の総量に対して、0.5質量%〜5質量%であることが好ましく、1.0質量%〜4.0質量%であることがより好ましい。
【0075】
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi
1−xMn
xO
2(0<x<1))、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi
1−xCo
xO
2(0<x<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
xCo
yMn
zO
2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1))等が挙げられる。
【0076】
また、上記のリチウム遷移金属複合酸化物にAl、Ti、Zr、Nb、B、W、Mg又はMo等を添加したものも使用し得る。例えば、Li
1+aNi
xCo
yMn
zM
bO
2(M=Al、Ti、Zr、Nb、B、Mg及びMoから選択される少なくとも1種の元素、0≦a≦0.2、0.2≦x≦0.5、0.2≦y≦0.5、0.2≦z≦0.4、0≦b≦0.02、a+b+x+y+z=1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0077】
負極活物質としてはリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料を用いることができる。リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛性炭素、易黒鉛性炭素、繊維状炭素、コークス及びカーボンブラック等が挙げられる。これらの内、特に黒鉛が好ましい。さらに、非炭素系材料としては、シリコン、スズ、及びそれらを主とする合金や酸化物などが挙げられる。
【0078】
非水電解質の非水溶媒(有機溶媒)としては、カーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類等を使用することができ、これらの溶媒の2種類以上を混合して用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解質に添加することもできる。
【0079】
非水電解質の電解質塩としては、従来のリチウムイオン二次電池において電解質塩として一般に使用されているものを用いることができる。例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4、Li
2B
10Cl
10、Li
2B
12Cl
12、LiB(C
2O
4)
2、LiB(C
2O
4)F
2、LiP(C
2O
4)
3、LiP(C
2O
4)
2F
2、LiP(C
2O
4)F
4等及びそれらの混合物が用いられる。これらの中でも、LiPF
6が特に好ましい。また、前記非水溶媒に対する電解質塩の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0080】
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることが好ましい。特にポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)を有するセパレータを用いることが好ましい。また、セパレータにアルミナ等の無機粒子とバインダーから成る耐熱層を設けることができる。また、ポリマー電解質をセパレータとして用い
てもよい。