特許第6870509号(P6870509)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6870509-圧延機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870509
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】圧延機
(51)【国際特許分類】
   B21B 31/20 20060101AFI20210426BHJP
   B21B 38/10 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B21B31/20 D
   B21B38/10 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-134502(P2017-134502)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-13973(P2019-13973A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】西原 隆
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆史
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−067901(JP,U)
【文献】 特開昭59−097707(JP,A)
【文献】 特開昭63−063519(JP,A)
【文献】 特開平06−031301(JP,A)
【文献】 実開平04−012301(JP,U)
【文献】 特開昭55−128309(JP,A)
【文献】 特開昭55−106608(JP,A)
【文献】 実開昭56−018107(JP,U)
【文献】 特開平11−090501(JP,A)
【文献】 特開昭48−002356(JP,A)
【文献】 特開昭59−199103(JP,A)
【文献】 特開昭59−097706(JP,A)
【文献】 特開2004−009119(JP,A)
【文献】 特開昭49−074650(JP,A)
【文献】 特開昭56−026607(JP,A)
【文献】 米国特許第03670587(US,A)
【文献】 中国実用新案第206028327(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00−35/14
B21B 13/00−13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼片を幅圧下する対となる竪ロールを備えた圧延機において、
前記竪ロールの軸受け部に設けられ、該竪ロールの軸心の傾きを検知する角度センサーと、
前記竪ロールの軸心方向両側部に装着された前記軸受け部をそれぞれ、前記鋼片側へ水平方向に押圧する押圧手段とを有し、
前記各押圧手段は、前記角度センサーの出力に基づいて独立して押圧駆動して、前記竪ロールの傾きを抑制する手段であることを特徴とする圧延機。
【請求項2】
請求項1記載の圧延機において、前記竪ロールは、成形溝が軸心方向に複数段形成されたカリバーロールであることを特徴とする圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼片を幅圧下する対となる竪ロールを備えた圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼片を幅圧下する設備として、竪ロールを備えた圧延機(例えば、サイジングミル)がある。具体的には、鋼片の幅方向両側に対向配置され、しかも、鋼片の搬送方向に間隔を有して配置された2対の竪ロールと、この2対の竪ロール間に配置され、鋼片の厚み方向両側に対向配置された1対の水平ロールとを有するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
使用にあっては、鋼片を圧延機に対して往復移動させ、このとき、鋼片が圧延機を通過するごとに、対向配置された竪ロールの間隔を狭くすることで、搬送方向に渡って鋼片の幅と厚みを圧下する。なお、各竪ロールは、その軸心方向両側部に配置されたベアリングチョック(即ち、軸受け部、以下、単にベアリングともいう)によって回転可能に支持され、このベアリングを鋼片側へ押圧することで、対向配置された竪ロールの間隔を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−254048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した鋼片の幅圧下を行うに際しては、前記圧延機のベアリングの異常(部分剥離)が想定されるよりも早期に発生してベアリングが短寿命化する場合があり、ベアリングの購入費用や在庫が増加して不経済であった。
また、ベアリングの異常による突発的な生産休止を抑制するため、圧下荷重の上限値を規制することもできるが、この場合、圧下能力の低下に伴って生産性が低下するという課題があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、圧延機の竪ロールの軸受け部の早期異常発生を抑制することにより、鋼片の幅圧下を生産性よく実施可能な圧延機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、ベアリング(軸受け部)の早期異常発生の原因を調査したところ、以下の知見が得られた。
竪ロールには、鋼片の幅圧下を行う部分が、軸心方向の2箇所に設けられたものがある。
このような竪ロールを備えた圧延機では、竪ロールの軸心方向中央部ではなく、中央部からずれた位置で幅圧下が行われるため、竪ロールの軸心方向一側により大きな荷重がかかり、竪ロールの軸心方向両側のたわみ量が不均一(軸心方向中央部を中心として対称でない形状)になっていた。これにより、一方のベアリングを押圧するプレッシャーブロックの摩耗が顕著となって竪ロールが傾き、ベアリングの異常が早期に発生することを見出した。
【0008】
上記の知見を基に、課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)鋼片を幅圧下する対となる竪ロールを備えた圧延機において、
前記竪ロールの軸受け部に設けられ、該竪ロールの軸心の傾きを検知する角度センサーと、
前記竪ロールの軸心方向両側部に装着された前記軸受け部をそれぞれ、前記鋼片側へ水平方向に押圧する押圧手段とを有し、
前記各押圧手段は、前記角度センサーの出力に基づいて独立して押圧駆動して、前記竪ロールの傾きを抑制する手段であることを特徴とする圧延機。
【0009】
(2)前記竪ロールは、成形溝が軸心方向に複数段形成されたカリバーロールであることを特徴とする(1)に記載の圧延機。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る圧延機は、竪ロールの軸心方向両側部に装着された軸受け部をそれぞれ押圧する押圧手段が、角度センサーの出力に基づいて独立して押圧駆動できるので、それぞれの軸受け部への押圧量を制御して竪ロールの傾きを抑制することができる。これにより、軸受け部の異常発生時期を、従来よりも遅らせることができる(軸受け部の長寿命化が図れる)ため、鋼片の幅圧下を生産性よく実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る圧延機の部分正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る圧延機10は、鋼片11(鋳片:例えばスラブ)を幅圧下する対となって対向配置された竪ロール12を備え、鋼片11の幅圧下を生産性よく経済的に実施可能な設備である。なお、圧延機10は、鋼片11を中心としてその幅方向両側に位置する部分に設けられた装置等が略同様の構成であるため、図1では圧延機10の一方側(右側)のみを図示している。
以下、詳しく説明する。
【0013】
圧延機10は、例えば、2対の竪ロール12と1対の水平ロールを有する前記したサイジングミルであるが、鋼片11を幅圧下する対となる竪ロール12を備えた圧延機であれば、これに限定されるものではなく、エッジャーミルやユニバーサル圧延機等でもよい。
また、竪ロール12は、圧延機の構成によって、1対でもよく、また、3対以上の複数対でもよい(水平ロールも同様)。なお、図1中の符号13は、鋼片11の搬送ロールである。
【0014】
圧延機10は、鋼片11を挟んでその幅方向両側にそれぞれ配置された圧下装置14を備え、各圧下装置14に竪ロール12が設けられている。
圧下装置14は、鋼片11の幅方向(搬送方向に直交する方向)に沿って配置されたガイドレール(図示しない)を有し、このガイドレールに、竪ロール12を軸心回りに回転可能に支持(軸支)するベアリングチョック(軸受け部の一例:以下、単にベアリングともいう)15、16が、ガイドレールに沿って進退可能に設けられている。なお、ベアリング15、16は、竪ロール12の軸心方向両側部に装着されて、竪ロール12の軸心方向が鉛直方向となるようにしている。
【0015】
圧下装置14は、上側(一側)に配置された押圧手段17と、下側(他側)に配置された押圧手段18を有している。
押圧手段17、18はそれぞれ、ハウジング19と、このハウジング19内に設けられた油圧シリンダー(液圧シリンダー)20及び圧下スクリュー21とを有している。なお、油圧シリンダー20と圧下スクリュー21の軸心は、鋼片11の幅方向に合わせている。
各油圧シリンダー20の先端部には、ベアリング15、16の側部に当接可能なプレッシャーブロック22が設けられ、油圧シリンダー20の駆動により、プレッシャーブロック22がガイド部材23に案内されて進退可能となっている。
【0016】
このガイド部材23は、下側に配置された押圧手段18のハウジング19に、バランスロッド24を介して傾動可能に設けられている。これにより、プレッシャーブロック22とベアリング15、16との位置ずれを防止している。なお、ベアリング15、16は、プレッシャーブロック22よりも摩耗し難い(耐摩耗性を有する)材料で構成されている。
使用にあっては、油圧シリンダー20を動作させてベアリング15、16を押圧し、ベアリング15、16(竪ロール12)を鋼片11側へ水平方向に押圧することで、対向配置された竪ロール12の間隔を、幅圧下する鋼片11の目標の幅(予め設定した幅)に応じて調整できる。
【0017】
竪ロール12は、鋼片11の側部に接触する断面凹状の成形溝(カリバー)25が、軸心方向に2段(複数段)形成されたカリバーロールである。なお、竪ロールは、この構成に限定されるものではなく、3段以上の複数段形成されたものでもよい。また、成形溝が竪ロールの軸心方向中央からずれた位置に形成されていれば、1段でもよい。
胴部周囲に形成された成形溝25を2段有する竪ロール12は、1本の竪ロール12で2箇所の圧延が可能なものである。これにより、竪ロールの在庫(本数)を低減でき、竪ロールの購入費用の抑制、循環整備の効率化、置き場の省スペース化が図れる。
【0018】
しかし、竪ロール12に形成された成形溝25の軸心方向の位置は、2つのベアリング15とベアリング16の中間位置から、一方は下側に、また、他方は上側に、それぞれずれている。このため、各押圧手段17、18に設けられた油圧シリンダー20の動作を同調(同期駆動)させた場合、下側の成形溝25を用いて鋼片11の幅圧下を行うに際しては、竪ロール12の上側よりも下側に大きな荷重がかかる。そのため、竪ロール12を圧延機10に組込みした時点からの時間経過に伴い、下側のベアリング16を押圧するプレッシャーブロック22の方が、上側のベアリング15を押圧するプレッシャーブロック22よりも、摩耗の進行が早くなる。
その結果、下側のベアリング16を押圧するプレッシャーブロック22の方が、上側のベアリング15を押圧するプレッシャーブロック22よりも、早期に厚みが薄くなり、鋼片11を圧延する際に、竪ロール12の軸心が傾くようになる。竪ロール12の軸心が傾くと、ベアリング15、16に偏荷重がかかるようになり、早期に異常が発生する。
なお、この現象は、成形溝が1つの場合でも、例えば、成形溝の形成位置や鋼片の厚みによって、発生するおそれがある。
【0019】
そこで、下側に配置されたベアリング16に、竪ロール12の軸心の傾きを検知する角度センサー26を設け、この角度センサー26の出力に基づいて、2つの押圧手段17、18(油圧シリンダー20)を個別に作動させ、独立してベアリング15、16を押圧させる。この押圧手段17、18の個別の駆動は、例えば、油圧回路(構造)をそれぞれ持たせることで実施できる。
なお、角度センサー26は、上側のベアリング15に設けることもできる。
【0020】
上記した角度センサー26の出力はコンピュータ(図示しない)に送信され、この角度センサー26の出力に基づいて、予めコンピュータに設定したプログラムにより、竪ロール12の傾きを抑制するように、各油圧シリンダー20による押圧駆動が押圧手段17、18ごとに独立して行われる。なお、コンピュータは、RAM、CPU、ROM、I/O、及び、これらの要素を接続するバスを備えた従来公知のものであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
続いて、上記した圧延機10を用いて鋼片11を幅圧下する方法について説明する。
鋼片(スラブ)11は、例えば、連続鋳造により製造した鋳片を所定の長さに切断した後、加熱炉(図示しない)にて予め設定した温度まで加熱したものである。
この鋼片11を圧延機10へ搬送して幅圧下する。
以下、詳しく説明する。
【0022】
鋼片11を圧延機10に対して往復移動させ、搬送方向に渡って鋼片11の幅を圧下する。具体的には、鋼片11の幅が目標の幅(予め設定した幅)となるように、鋼片11が圧延機10を通過するごとに、対向配置された竪ロール12の間隔を狭くする。
圧延機10の使用に際しては、前記したように、下側に形成された成形溝25で鋼片11を幅圧下するため、竪ロール12の上側よりも下側に大きな荷重がかかる。
【0023】
このため、各押圧手段17、18に設けられた油圧シリンダー20を同期駆動させた場合(それぞれのベアリング15、16の水平方向の押圧幅を同じにした場合)、下側のベアリング16を押圧するプレッシャーブロック22の摩耗が顕著となる。これは、プレッシャーブロック22がベアリング16よりも摩耗し易い材質で構成されていることによる。
これにより、竪ロール12が傾いて、ベアリング16の異常(剥離)が早期に発生し易くなる。
【0024】
そこで、角度センサー26により検出された竪ロール12の軸心の傾斜角度(傾き)が、予め設定した角度(傾き)よりも大きくなった場合は、2つの押圧手段17、18(油圧シリンダー20)を独立して駆動させて、竪ロール12の傾きを補正して直立させる。
ここで、予め設定した角度とは、竪ロール12の傾きによるベアリングにかかる偏荷重の抑制(ベアリングの長寿命化)を図ることを考慮して設定でき、例えば、0.1度、更には0.07度、に設定することが好ましい。
【0025】
以下、圧延の際の2つの押圧手段17、18の駆動について説明する。
上記したように、2つの押圧手段17、18(油圧シリンダー20)を独立して駆動させて、竪ロール12の傾きを補正して直立させる。鋼片11の幅圧下に際しては、竪ロール12を直立させた状態から必要な幅圧下量まで、2つの押圧手段17、18で同一量押圧する。
【0026】
これにより、幅圧下時の竪ロール12の上下のたわみ量の不均一はそのままだが、竪ロールの傾きによる下側のベアリング16にかかる偏荷重を抑制できるため、ベアリングの早期異常発生を抑制することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
上記した圧延機10に対して鋼片を往復移動させ、搬送方向に渡ってスラブの幅と厚みを圧下した。
ここで、角度センサーによって検出された竪ロールの傾斜角度は、0.17度(3/1000rad)であった。この竪ロールの傾きを補正しないまま各押圧手段に設けられた油圧シリンダーを同期駆動させた場合(比較例)、ベアリングの寿命は、正規寿命の約26%まで低下した。
一方、実施例では、各押圧手段に設けられた油圧シリンダーを個別に駆動させて、竪ロールの傾斜角度を0.03〜0.06度(0.5/1000〜1/1000rad)まで補正して直立させた。この場合、ベアリングの寿命は、正規寿命の85〜98%程度まで回復した。
なお、上記した正規寿命とは、圧延条件に基づいて算出したベアリングの寿命である。
【0028】
以上のことから、本発明の圧延機を用いることで、鋼片の幅圧下を生産性よく実施できることを確認できた。
【0029】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の圧延機を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、圧下装置の構成は、竪ロールの軸心方向両側に配置された押圧手段を、個別に押圧駆動可能な構成であれば、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0030】
10:圧延機、11:鋼片、12:竪ロール、13:搬送ロール、14:圧下装置、15、16:ベアリングチョック(軸受け部)、17、18:押圧手段、19:ハウジング、20:油圧シリンダー、21:圧下スクリュー、22:プレッシャーブロック、23:ガイド部材、24:バランスロッド、25:成形溝、26:角度センサー
図1