特許第6870522号(P6870522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特許6870522-スタータ制御装置 図000002
  • 特許6870522-スタータ制御装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870522
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】スタータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/10 20060101AFI20210426BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   F02N11/10 B
   F02N11/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-147986(P2017-147986)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-27370(P2019-27370A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】小関 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 圭一
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−67008(JP,A)
【文献】 特開2013−24216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 1/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が車輪への動力を遮断された動力遮断状態であるときのみスタータの始動を許容するスタータ制御装置であって、
変速機の変速段がニュートラルである場合にエンジンを始動させるための信号が受信されると通常制御を開始して前記スタータを始動させ、前記変速段が前記ニュートラル以外であって且つクラッチペダルが踏み込まれている場合に前記信号が受信されると非常移動制御を開始して前記スタータを始動させる制御手段を備え
前記通常制御は、前記スタータの駆動中に前記車両が前記動力遮断状態から前記車輪へ動力を伝達可能な動力伝達状態に切り替わると前記スタータの駆動の継続を禁止し、
前記非常移動制御は、前記スタータの駆動中に前記車両が前記動力遮断状態から前記動力伝達状態に切り替わっても前記スタータの駆動の継続を許容することを特徴とするスタータ制御装置。
【請求項2】
前記非常移動制御は、前記スタータの駆動中に前記クラッチペダルの踏込が解除されても前記スタータの駆動の継続を許容する
ことを特徴とする請求項1に記載のスタータ制御装置。
【請求項3】
前記通常制御は、前記スタータの駆動中に、前記ニュートラル以外の前記変速段が選択された場合、又は、前記クラッチペダルの踏込が解除された場合に、前記スタータの駆動の継続を禁止する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスタータ制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記通常制御又は前記非常移動制御を開始してから所定時間が経過した場合に前記スタータを停止させる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスタータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを始動させるためのスタータを制御するスタータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの始動時に不用意に車両が急発進することを防止するための対策がなされている。例えば、エンジンの動力が車輪へ伝達されない動力遮断状態であること(具体的には、MT車で変速機のギヤ位置がニュートラルである又はクラッチペダルが踏み込まれていること)を条件として、スタータの駆動を許容する技術が知られている。
【0003】
一方、このような技術を用いると、車輪への動力伝達が可能な動力伝達状態ではスタータの駆動が禁止されるため、例えば交差点や踏切内でエンジンストール等によりエンジンが非常停止した場合に、スタータの動力で車両を安全な場所まで走行させることができないという課題がある。この課題に対し、特許文献1には、非常時にドライバが操作可能な非常スイッチを車室内に設け、この非常スイッチが操作された場合には、車両が動力伝達状態であってもスタータを始動可能にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-247745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、非常スイッチが操作された場合に車両が動力伝達状態であってもスタータを始動可能にすると、ドライバがエンジンを始動させる操作(例えば、キー操作やボタン操作)を実施次第、車輪に動力が伝達されるため、車両が急発進する虞がある。特に、エンジンを始動させる操作が電子キーやボタンで実施される場合は、誤操作や電気系の故障,誤動作によりドライバが予期しないタイミングで車両が急発進する虞がある。
【0006】
本件のスタータ制御装置は、上述したような課題に鑑み創案されたものであり、スタータによる車両の走行を可能としながら、ドライバの意図に反した車両の急発進を防止することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するスタータ制御装置は、車両が車輪への動力を遮断された動力遮断状態であるときのみスタータの始動を許容するスタータ制御装置であって、変速機の変速段がニュートラルである場合にエンジンを始動させるための信号が受信されると通常制御を開始して前記スタータを始動させ、前記変速段が前記ニュートラル以外であって且つクラッチペダルが踏み込まれている場合に前記信号が受信されると非常移動制御を開始して前記スタータを始動させる制御手段を備え、前記通常制御は、前記スタータの駆動中に前記車両が前記動力遮断状態から前記車輪へ動力を伝達可能な動力伝達状態に切り替わると前記スタータの駆動の継続を禁止し、前記非常移動制御は、前記スタータの駆動中に前記車両が前記動力遮断状態から前記動力伝達状態に切り替わっても前記スタータの駆動の継続を許容する。
これにより、車両が移動準備状態である(すなわち、変速機の変速段がニュートラル以外であって且つクラッチペダルが踏み込まれている)場合にスタータを始動させてから、スタータの駆動中にドライバがクラッチペダルの踏込を解除することで、スタータの動力が車輪に伝達されて車両が走行し始める。
(2)前記非常移動制御は、前記スタータの駆動中に前記クラッチペダルの踏込が解除されても前記スタータの駆動の継続を許容してもよい。
(3)前記通常制御は、前記スタータの駆動中に、前記ニュートラル以外の前記変速段が選択された場合、又は、前記クラッチペダルの踏込が解除された場合に、前記スタータの駆動の継続を禁止してもよい。
(4)前記制御手段は、前記通常制御又は前記非常移動制御を開始してから所定時間が経過した場合に前記スタータを停止させてもよい。
【発明の効果】
【0008】
開示のスタータ制御装置によれば、変速機の変速段がニュートラル以外であって且つクラッチペダルが踏み込まれた状態でスタータが始動した場合、スタータの駆動中にクラッチペダルの踏込が解除されてもスタータの駆動の継続が許容されるため、スタータによる車両の走行を可能としながら、ドライバの意図に反した車両の急発進を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るスタータ制御装置のブロック図である。
図2図1のスタータ制御装置で実施されるスタータ駆動制御の内容を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、実施形態としてのスタータ制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0011】
[1.装置構成]
本実施形態に係るスタータ制御装置1は、図1に示す車両10に適用されている。車両10は、エンジンを駆動源とするMT車である。車両10には、エンジンを始動させるためのスタータ2と、ドライバがエンジンを始動させるために操作するパワースイッチ3と、変速機の変速段を検出するシフトセンサ4と、クラッチの係合解放状態を検出するクラッチセンサ5とが設けられている。
【0012】
スタータ2は、図示しない車載バッテリの電力で駆動される起動装置であって、例えばモータ及びこのモータで回転駆動されるギヤ等で構成される。スタータ2は、作動時に、エンジンのクランクシャフトに連結されたフライホイールを回転させる。スタータ2の作動状態(オンオフ状態)は、スタータ制御装置1によって制御される。
【0013】
パワースイッチ3は、例えば押している間だけオンになるプッシュスイッチであって、運転席の近傍に設けられる。パワースイッチ3は、押されている間、エンジンを始動させるためのエンジン始動要求信号(以下、S信号という)をスタータ制御装置1に伝達する。
【0014】
シフトセンサ4は、ドライバが変速時に操作するシフトレバーの位置に基づいて、変速機の変速段を検出するものである。シフトセンサ4で検出される変速段には、ニュートラル(N)や前後進段(1,2,3,・・・,R)が含まれる。変速機の変速段がニュートラルである場合は、変速機内のギヤの噛合が解除されて車輪への動力が遮断される。一方、変速機の変速段がニュートラル以外である場合は、車輪への動力伝達が可能となるように変速機内のギヤが噛み合った状態とされる。
【0015】
クラッチセンサ5は、ドライバが操作するクラッチペダルの踏込状態に基づいて、エンジンと車輪との間の動力伝達経路に介装されたクラッチの係合解放状態を検出するものである。クラッチペダルが踏み込まれている場合は、クラッチが解放されて車輪への動力が遮断される。一方、クラッチペダルが踏み込まれていない場合は、車輪への動力伝達が可能となるようにクラッチが係合される。シフトセンサ4及びクラッチセンサ5は、検出した情報をスタータ制御装置1に随時伝達する。
【0016】
スタータ制御装置1は、車両10に搭載された電子制御装置であって、周知のマイクロプロセッサ,記憶装置(ROM,RAM等),タイマカウンタ等を備えて構成され、車載ネットワークの通信ラインに接続される。本実施形態に係るスタータ制御装置1は、パワースイッチ3,シフトセンサ4及びクラッチセンサ5から伝達される各種情報に基づいて、スタータ駆動制御を実施する。
【0017】
[2.制御構成]
スタータ駆動制御とは、スタータ2を駆動しても車両10が急発進しないような状況下に限って、スタータ2を駆動する制御である。具体的には、スタータ駆動制御では、車両10が車輪への動力を遮断された動力遮断状態であることを条件として、スタータ2の始動が許容され、車両10が車輪への動力を伝達可能な動力伝達状態である場合にはスタータ2の始動が禁止される。
【0018】
仮に、車両10が動力伝達状態である場合にスタータ2を始動させると、スタータ2の動力やこれにより始動したエンジンの動力がスタータ2の始動直後に車輪に伝達されるため、車両10が急発進する虞がある。これに対し、車両10が動力遮断状態である場合に限ってスタータ2を始動させれば、スタータ2の始動時にスタータ2の動力やこれにより始動したエンジンの動力が車輪に伝達されないため、車両10の急発進が防止される。
【0019】
一方、例えば交差点や踏切内でエンジンストール等によりエンジンが非常停止した場合は、エンジンを再始動させることができなくても、スタータ2の動力で車両10を走行させることができれば車両10を安全な場所へと移動させることが可能となる。すなわち、このような場合には、車両10が動力伝達状態であってもスタータ2を駆動可能とすることが好ましい。ただし、この場合もドライバの意図に反した車両10の急発進を防止できなければ、安全性が担保されない虞がある。
【0020】
そこで、スタータ駆動制御では、ドライバが例えば交差点や踏切内から車両10を急いで移動させようとしている場合に限って、スタータ2の駆動中に車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わってもスタータ2の駆動の継続を許容する非常移動制御が実施される。非常移動制御は、エンジンに故障や異常が発生していたとしても、スタータ2の動力でフライホイール及び駆動軸を直接的に回転させることにより、車両10を安全な場所まで速やかに移動可能とするための制御である。
【0021】
また、スタータ駆動制御では、ドライバが車両10を急いで移動させようとしていない場合には、スタータ2の駆動中に車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わるとスタータ2の駆動の継続を禁止する(スタータ2の駆動を停止する)通常制御が実施される。通常制御は、ドライバが予期しない車両10の急発進を防止するための制御である。
【0022】
このように、スタータ駆動制御には、通常制御と非常移動制御との二つが含まれており、ドライバの意図に基づいて何れの制御を実施するのかが決定される。通常制御及び非常移動制御は、車両10が動力遮断状態であることを条件としてスタータ2の始動を許容する点では共通するが、スタータ2の駆動中に車両10が動力伝達状態に切り替わった場合に、スタータ2の駆動の継続を許容するか否かが異なる。なお、通常制御と非常移動制御との何れにおいても、エンジンが正常であれば、スタータ2が一定時間以上駆動されるとエンジンが始動し、車両10がエンジンの動力で走行可能になる。
【0023】
まず、通常制御について説明する。通常制御は、下記の条件S1,S2が共に成立した場合に開始される。通常制御の実施中は、スタータ2が駆動される(オン状態に制御される)。
<条件S1> S信号が発信されている。
<条件S2> 変速機の変速段がニュートラルである。
【0024】
このように、通常制御は、ドライバがシフトレバーでニュートラルを選択し、且つパワースイッチ3をプッシュ操作した場合に、クラッチペダルの踏込の有無に関わらず開始される。条件S2が成立する場合、変速機内のギヤの噛合が解除されているため、車両10は動力遮断状態である。したがって、通常制御が開始される場合、車両10は動力遮断状態である。
【0025】
また、通常制御は、下記の条件E1〜E3の少なくとも何れか一つが成立した場合に終了される。
<条件E1> 車両10が動力伝達状態になった。
<条件E2> S信号が発信されなくなった。
<条件E3> 制御開始から所定時間Toが経過した。
【0026】
このように、通常制御は、ドライバがシフトレバーでニュートラル以外を選択したりクラッチペダルの踏込を解除したりした場合、あるいはパワースイッチ3のプッシュ操作を止めた場合、もしくはスタータ2の駆動継続時間が所定時間Toを超えた場合に終了される。
【0027】
なお、所定時間Toは、スタータ2に故障や異常が発生している場合にスタータ2を強制的に停止させるために設定された時間であって、例えばスタータ制御装置1内の記憶装置に予め記憶されている。所定時間Toは、正常なエンジンを始動させるために必要なスタータ2の駆動時間と、スタータ2の動力で車両10を交差点や踏切内から移動させるために必要なスタータ2の駆動時間との双方よりも長くなるように設定される。
【0028】
通常制御では、終了条件に条件E1が含まれていることから、スタータ2の駆動中に車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わるとスタータ2が停止される(スタータ2の駆動の継続が禁止される)。このため、ドライバが予期しない車両10の急発進が防止される。
【0029】
次に、非常移動制御について説明する。非常移動制御は、条件S1に加えて下記の条件S3,S4が何れも成立する場合に開始される。非常移動制御では、スタータ2が駆動される。
<条件S3> 変速機の変速段がニュートラル以外である。
<条件S4> クラッチペダルが踏み込まれている。
【0030】
このように、非常移動制御は、ドライバがシフトレバーで前後進段の何れかを選択し、クラッチペダルを踏み込みながらパワースイッチ3をプッシュ操作した場合に開始される。条件S4が成立する場合、クラッチペダルが踏み込まれていることからクラッチが解放されているため、車両10は動力遮断状態である。したがって、非常移動制御が開始される場合、車両10は動力遮断状態である。
【0031】
条件S3,S4が共に成立する場合は、ドライバが車両10を急いで移動させようとしており、車両10が走行に備えた移動準備状態とされていると見做せる。これは、エンジンが非常停止した車両10をドライバが速やかに移動させようとする場合、走行可能な変速段(ニュートラル以外)を選択するとともにクラッチペダルを踏み込んだ状態でパワースイッチ3をプッシュ操作し、スタータ2が始動したらクラッチペダルを戻して車両10を走行させると考えられるためである。非常移動制御は、車両10が移動準備状態であることを条件として開始される。
【0032】
また、非常移動制御は、条件E2,E3の少なくとも何れかが成立した場合に終了される。このように、非常移動制御では、終了条件に条件E1が含まれていないことから、スタータ2の駆動中に車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わってもスタータ2の駆動の継続が許容される。このため、例えば交差点や踏切内でエンジンが非常停止した場合に、スタータ2の動力で車両10を安全な場所まで速やかに移動させることが可能となる。
【0033】
スタータ制御装置1は、上述したスタータ駆動制御を実施するための機能要素として、判定部(判定手段)1A及び制御部(制御手段)1Bを有する。判定部1A及び制御部1Bは、電子回路(ハードウェア)で実現されてもよいし、ソフトウェアとしてプログラミングされたものであってもよいし、これらの機能のうちの一部がハードウェアとして設けられ、他部がソフトウェアとして設けられてもよい。
【0034】
判定部1Aは、条件S1〜S4,E1〜E3の成否を判定する。判定部1Aは、判定結果を制御部1Bに随時伝達する。なお、条件S1〜S4,E1,E2の成否は、パワースイッチ3,シフトセンサ4,クラッチセンサ5から伝達される情報に基づいて判断可能であり、条件E3の成否は、例えばスタータ制御装置1内のタイマカウンタを用いて判断可能である。
【0035】
制御部1Bは、判定部1Aによる判定結果に基づいて、スタータ2の作動状態を制御する。制御部1Bは、判定部1Aで条件S1,S2が共に成立したことが判定された場合に通常制御を開始する。より具体的には、制御部1Bは、判定部1Aで条件S2が成立したことが判定された場合にスタータ2の始動を許容し、判定部1Aで条件S2に加えて条件S1が成立したことが判定された場合にスタータ2を実際に始動させる。
【0036】
また、制御部1Bは、通常制御の実施中に判定部1Aで条件E1〜E3の少なくとも何れかが成立したことが判定された場合に通常制御を終了する。すなわち、制御部1Bは、通常制御によるスタータ2の駆動中に、条件E1〜E3の少なくとも何れかが成立した時点でスタータ2を停止させる。
【0037】
一方、制御部1Bは、判定部1Aで条件S1,S3,S4が何れも成立したことが判定された場合に非常移動制御を開始する。より具体的には、制御部1Bは、判定部1Aで条件S3,S4が成立した(車両10が移動準備状態である)ことが判定された場合にスタータ2の始動を許容し、判定部1Aで条件S3,S4に加えて条件S1が成立したことが判定された場合にスタータ2を実際に始動させる。
【0038】
また、制御部1Bは、非常移動制御の実施中に判定部1Aで条件E2,E3の少なくとも一方が成立したことが判定された場合に非常移動制御を終了する。すなわち、制御部1Bは、非常移動制御によるスタータ2の駆動中に、条件E2,E3の少なくとも一方が成立した時点でスタータ2を停止させる。
【0039】
なお、制御部1Bは、判定部1Aで条件S1が成立しない又は車両10が動力伝達状態である(すなわち、条件S2,S4が共に成立せず、条件S3が成立する)と判定された場合には、スタータ2の始動を禁止する。このように、制御部1Bは、車両10が動力遮断状態であるときのみスタータ2の始動を許容する。このため、スタータ2の始動時に車両10が発進することが防止される。
【0040】
[3.フローチャート]
図2は、上述したスタータ駆動制御の手順を例示したフローチャートである。このフローは、スタータ制御装置1において所定の演算周期で繰り返し実施される。なお、このフローでは、パワースイッチ3,シフトセンサ4及びクラッチセンサ5からの各種情報が随時取得されているものとする。
【0041】
フロー中で使用されるフラグFは、タイマカウンタの作動状態を表すものであり、カウントしていない場合は0となり、カウントしている場合は1となる。また、フロー中で使用されるフラグGは、実施する制御内容を表すものであり、通常制御を実施する場合は0となり、非常移動制御を実施する場合は1となる。フラグF,Gは、このフローのスタート時は共に0に設定されている。
【0042】
パワースイッチ3からS信号が発信されると、フラグFが0であるか否かが判定され(ステップS1,S2)、フローのスタート時はフラグFが0であるためステップS3に進む。ステップS3で変速比の変速段がニュートラルであれば通常制御が実施されるため、Gが0に設定された状態のまま、ステップS4,S5をスキップしてステップS6に進む。
【0043】
ステップS6では、スタータ2が始動されるとともにタイマカウンタによるカウントが開始され、続くステップS7でフラグFが1に設定される。そして、カウントしている時間が所定時間Toを経過しておらず、フラグGが0であって車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わっていなければ(ステップS8〜S10)、このフローをリターンする。なお、カウントしている時間が所定時間Toを経過している、あるいはフラグGが0であって車両10が動力遮断状態から動力伝達状態に切り替わっていれば(ステップS8〜S10)、ステップS11に進む。
【0044】
次の演算周期では、フラグFが1に設定されているため、ステップS1でS信号が引き続き発信されていればステップS2からステップS8に進む。そして、タイマカウンタによるカウントが所定時間Toを超えるか(ステップS8)、車両10が動力伝達状態に切り替わるか(ステップS10)、S信号が発信されなくなったら(ステップS1)、ステップS11に進む。ステップS11では、スタータ2が停止されるとともにタイマカウンタによるカウントがリセットされ、続くステップS12でフラグF,Gが共に0に設定されてこのフローをリターンする。
【0045】
一方、変速機の変速段がニュートラル以外であってクラッチペダルが踏み込まれていれば(ステップS3,S4)、非常移動制御が実施されるためステップS5でフラグGが1に設定されてステップS6に進む。そして、通常制御と同様に、スタータ2が始動されるとともにタイマカウンタによるカウントが開始され、フラグFが1に設定される(ステップS6,S7)。一方、非常移動制御ではフラグGが1であるため、カウントしている時間が所定時間Toを経過していなければ(ステップS8)、ステップS9からステップS10の判定をスキップしてこのフローをリターンする。なお、カウントしている時間が所定時間Toを経過していればステップS11に進む。
【0046】
次の演算周期では、フラグFが1に設定されているため、ステップS1でS信号が引き続き発信されていればステップS2からステップS8に進む。そして、タイマカウンタによるカウントが所定時間Toを超えるか(ステップS8)、S信号が発信されなくなったら(ステップS1)、上述したステップS11,S12の各処理が実施されてこのフローをリターンする。なお、このフローでは、ステップS1,S3,S4,S8,S10が判定部1Aで実施される判定であり、ステップS6,S11が制御部1Bで実施される処理である。
【0047】
[4.効果]
上述したスタータ制御装置1によれば、スタータ2を始動させる場合に、変速機の変速段がニュートラル以外であって且つクラッチペダルが踏み込まれていれば非常移動制御が実施される。非常移動制御では、スタータ2の駆動中にクラッチペダルの踏込が解除されても、スタータ2の駆動の継続が許容されるため、スタータ2による車両の走行を可能とすることができる。
【0048】
また、非常移動制御では、ドライバが踏み込んでいたクラッチペダルを戻した場合に、クラッチが係合されることでスタータ2の動力が車輪へと伝達されて車両10が走行し始める。このように、非常移動制御では、ドライバによるクラッチペダルの操作に応じて車両10が走行し始めることから、ドライバの意図に沿って車両10を発進させることができる。よって、ドライバの意図に反した車両10の急発進を防止することができる。
【0049】
さらに、非常移動制御では、クラッチペダルの踏込に応じてスタータ2の駆動が制御されるため、例えばエンジンを始動させるための電子キー又はパワースイッチ3への誤操作や電気系の故障,誤動作によって、ドライバの意図に反してS信号が流れたとしても、車両10の発進を防止することができる。したがって、安全性を担保することができる。
【0050】
また、上述したスタータ制御装置1によれば、スタータ2を始動させる場合に変速機の変速段がニュートラルであれば、通常制御が実施される。通常制御では、スタータ2の駆動中に車両10が動力伝達状態に切り替わるとスタータ2が停止されるため、ドライバが予期しない車両10の急発進を防止することができる。
【0051】
また、上述したスタータ制御装置1によれば、車両10が動力遮断状態であるときのみスタータ2の始動を許容するため、車両10がスタータ2の始動直後に急発進することを防止することができる。
【0052】
また、上述したスタータ制御装置1によれば、スタータ2の駆動時間が所定時間Toを超えたらスタータ2が停止されるため、例えば、スタータ2が故障している場合や、電子キー又はパワースイッチ3への誤操作があった場合に、スタータ2への無駄な給電を抑制することができるとともに安全性をより高めることができる。
【0053】
[5.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0054】
例えば、スタータ2を始動させるための条件は、上述した条件S1〜S4に限定されない。スタータ2を始動させるための必要条件として、ブレーキペダルが踏み込まれていることを追加してもよい。同様に、スタータ2を停止するための条件は、上述した条件E1〜E3に限定されず、例えば条件E3を省略して制御構成を簡素化してもよい。
【0055】
また、上述した実施形態では、エンジンを始動させるためのパワースイッチ3がプッシュスイッチである場合を例示したが、これに代えて、メカニカルキーの差込及び回動操作によりエンジンを始動させるような機構が採用されてもよい。
【0056】
さらに、シフトセンサ4が、上述したようなシフトレバーの位置に代えて、変速機内のギヤの噛合状態を直接検出するものであってもよい。同様に、クラッチセンサ5が、クラッチペダルに連動するクラッチの断接状態を直接検出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 スタータ制御装置
1A 判定部(判定手段)
1B 制御部(制御手段)
2 スタータ
3 パワースイッチ
4 シフトセンサ
5 クラッチセンサ
10 車両
To 所定時間
図1
図2