(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度勾配を求める際の操業条件は、炭化室の炉温、炭化室に装入するときの装入炭の温度を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高炉用コークスの製造方法。
前記温度勾配は、前記炭化室の炉壁側部及び炉中心側部を除いた所定範囲における温度勾配であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高炉用コークスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、ビトリニット組織の内部クラックが生成する要因として、低石炭化度炭のビトリニット組織サイズに対し、温度勾配が影響することを知見し、温度勾配に応じて、低石炭化度炭の最適な粉砕粒度を設定することで、目標のコークス強度を得られることを見出した。以下に詳細を説明する。
【0016】
本発明者等は、炭化室における温度勾配が、低石炭化度炭のビトリニット組織の内部クラック生成に与える影響を明らかにするために、以下の複数の実験を行った。本発明における低石炭化度炭は、ビトリニット平均反射率(Ro)が0.9%以下であって、かつ、基準粒度に粉砕したときに、該低石炭化度炭中における絶対最大長さが1.5mm以上の粗大イナート組織含有率が5体積%未満の石炭であり、全膨張率が20%以上の石炭を対象とする。ここで、基準粒度とは3mm以下の累積%が70〜85質量%程度で、通常の操業で実施している粉砕粒度とする。
【0017】
粗大イナート組織が5体積%未満の低石炭化度炭を対象とする理由は、粗大イナートが多い場合、低石炭化度炭のビトリニット組織の内部に生成するクラックによるコークス強度影響よりも、粗大イナートによるコークス強度への影響の方が大きいため、本発明における温度勾配の影響が表れにくいためである。また、全膨張率が20%未満の低石炭化度炭では、細粒化した際に発生する微粉によるコークス強度低下影響が大きく表れるためである。
また、本発明の対象である低石炭化度炭以外に配合炭に配合される他の石炭として、ビトリニット平均反射率が0.9%以上の高石炭化度炭や、ビトリニット平均反射率が0.9%以下であるが本発明の対象ではない低石炭化度炭がある。他の石炭のうち、粗大イナート組織含有率が5体積%超の石炭は、3mm以下90質量%以上に粉砕することとする。低石炭化度炭の周囲に粗大イナートが残存していると、粗大イナートが主要な欠陥となるため、低石炭化度炭ビトリニットの細粒化によるコークス強度への影響が表れにくいためである。
また、他の石炭としては、粗大イナート組織含有率が5体積%未満であれば、1)ビトリニット平均反射率が0.9%以下で、かつ全膨張率が20%未満の石炭や、2)ビトリニット平均反射率が0.9%超の石炭、の粉砕粒度は、特に限定されるものではなく、3mm以下80〜85質量%程度が例示される。
【0018】
イナート組織の絶対最大長さとは、1つのイナート組織における境界上の任意の二点を直線で結んだときの最大長さのことである。絶対最大長さは、例えば、X線CTにより撮像された撮像データの画像解析結果に基づき、算出することができる。イナート組織とは、石炭の加熱時に軟化溶融しない不活性成分からなる組織のことである。温度勾配とは、単位長さ(mm)あたりの温度差(℃)のことである。上述した通り、コークス炉では、炭化室を昇温する際に、炭化室の炉壁側が相対的に高温となり、炉中心側が相対的に低温となる温度勾配が発生する。
【0019】
本発明者等は、炭化室における温度勾配が、低石炭化度炭のビトリニット組織の内部クラック生成に与える影響を明らかにするために、以下の実験を行った。
(実験1)
まず、粉砕した低石炭化度炭から、篩分けによって5〜7mmの低石炭化度炭粒子を得た。その低石炭化度炭粒子の中から、輝炭粒子を採取し、厚紙で作成した筒体(直径:20mm、高さ:20mm)の中心に配置し、この輝炭粒子の周りに微粉状の高石炭化度炭を充填することにより筒状石炭を作成した。なお、輝炭粒子は目視にて採取した。また、輝炭粒子は、ビトリニット組織を多く含むことから、この輝炭粒子をビトリニット組織と見なして検討した。
【0020】
この筒状石炭を、実際のコークス炉を模擬した試験炉を用いて、温度勾配を有する雰囲気下で18.5時間乾留した。試験炉の温度パターンは、試験炉の炭中での昇温曲線(時間と温度の関係線)が、実炉の炉温1250℃の場合の炭中の昇温曲線と同等になるように設定した。
図1は、試験炉の内部を透視して図示する概略斜視図であり、
図2は試験炉の概略平面図である。これらの図を参照して、互いに向き合う加熱壁11の間に、高石炭化度炭と低石炭化度炭を配合した配合炭を充填した中に、筒状石炭10を図示するように配列した。配列した筒状石炭内部において、加熱壁側と炉中心側で温度勾配が生じる。なお、筒の配置場所は、温度勾配が急な加熱壁側や、温度勾配が緩やかな炉中心側は避け、比較的均一な温度勾配条件となる場所とした。
【0021】
図3は、試験炉で乾留した後の低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークス部分をX線CTで撮影した画像の拡大画像であり、破線P1で囲んだ領域の内側が低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークスである。低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークス内に実線C1で示す楕円の内側に内部クラック生成が認められた。
【0022】
(実験2)
実験1と同様にして試料調整した筒状石炭10を、温度勾配のない加熱雰囲気下で乾留した(ただし、ここでは厚紙ではなく薬包紙を使用した)。
図4は、筒状石炭が配置された試験装置の概略斜視図であり(ただし、上下面に取り付けられるSUS板を省略して図示する)、
図5は、試験装置の側面図である。SUS板本体21には、筒状に形成された収容開口部21aがマトリクス状に配列されており、これらの収容開口部21aに対して各筒状石炭10が収められている。SUS板本体21の上面には、上部SUS板22が取り付けられており、SUS板本体21の下面には、下部SUS板23が取り付けられている。このSUSの試験装置を、上下に加熱ヒーターが付いた加熱炉に入れることで、上部SUS板22の上部及び下部SUS板23の下部から、其々加熱することができる。また、上部SUS板22及び下部SUS板23の熱は、SUS板本体21に伝熱するため、全ての筒状石炭10を略均等に加熱することができる。
【0023】
筒状石炭10を8.6時間加熱した後(300℃〜600℃は1℃/minにて昇温し、最終到達温度は1000℃とした。)、低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークスの内部を観察したところ、内部クラックは確認されなかった。
【0024】
本発明者等は、実験1および2の結果から、低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークスの内部に発生する内部クラック生成の支配的要因は、高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織の収縮率差ではなく、低石炭化度炭ビトリニット組織内部の温度勾配に伴う収縮率差であると推測した。
【0025】
高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織の収縮率差が、内部クラック生成の支配的要因とならない理由について、石炭乾留時の挙動を示しながら、詳細に説明する。
図6は、温度勾配を有する雰囲気下で加熱される石炭を示しており、再固化した領域をハッチングで示し、軟化溶融している領域をハッチングせずに示している。また、楕円の内側が低石炭化度炭ビトリニット組織であり、楕円の外側が高石炭化度炭ビトリニット組織である。本来、石炭中にはイナート組織も含まれるため、
図6に示すように、低石炭化度ビトリニット組織の周囲が、均一な高石炭化度炭ビトリニット組織とは限らないが、ここでは、高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織の再固化温度の違いによる軟化・固化状況を説明するため、便宜上、低石炭化度炭ビトリニット組織の周囲を均一な高石炭化度ビトリニット組織としている。
【0026】
図7は、石炭の収縮係数(1/K)と、温度(℃)との関係を示すグラフであり、実線が低石炭化度炭(ビトリニット平均反射率(Ro):0.69%)の収縮係数であり、破線が高石炭化度炭(ビトリニット平均反射率(Ro):1.42%)の収縮係数である。T1は低石炭化度炭の再固化温度(ここでは、約440℃)であり、T2は高石炭化度炭の再固化温度(ここでは、約480℃)である。ここで、再固化温度は、収縮係数の測定において、石炭が収縮を開始した温度を再固化温度とした。なお、収縮係数の測定は、完全にビトリニット組織のみを抽出することは難しいため、石炭を用いた測定であるが、石炭中のビトリニット組織の割合が多い(およそ70体積%以上)石炭を用いたため、ビトリニット組織による収縮によるものが大半であると考え、ここでは、それぞれ低石炭化度炭および高石炭化度炭の収縮係数を、それぞれのビトリニット組織の収縮係数として検討した。
【0027】
図6(a)を参照して、低石炭化度炭ビトリニット組織の炉壁側端部の温度が例えば475℃、低石炭化度炭ビトリニット組織の中心の温度が440℃(再固化温度T1)に達した時、ハッチングで示す低石炭化度炭ビトリニット組織の一部の領域(低石炭化度炭ビトリニット組織の中心よりも炉壁側の領域)は再固化して、収縮している。一方、この再固化した低石炭化度炭ビトリニット組織の周囲にある高石炭化度炭ビトリニット組織は、再固化温度T2に到達していないため、軟化溶融しながら膨張している。したがって、
図6(a)に図示する状態では、高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織の収縮率差による内部クラックは生成されないと考えられる。
【0028】
図6(b)は、
図6(a)より乾留が進んだ状態を示している。低石炭化度炭ビトリニット組織における炉中心側端部及びビトリニット組織の中心の温度が其々再固化温度T1及び再固化温度T2に達した時、低石炭化度炭ビトリニット組織は全て再固化して、収縮している。一方、低石炭化度炭ビトリニット組織の周りの高石炭化度炭ビトリニット組織は、低石炭化度炭ビトリニット組織の中心よりも炉壁側の部分が再固化し、低石炭化度炭ビトリニット組織の中心よりも炉中心側の部分が軟化溶融状態にある。
【0029】
ここで、
図7に示すように、低石炭化度炭は、再固化温度に到達すると急激に収縮するが、高石炭化度炭の再固化温度T2における高石炭化度炭及び低石炭化度炭ビトリニット組織の収縮係数を比較すると、大きな差異はない。したがって、
図6(b)に図示する状態では、低石炭化度炭ビトリニット組織と、この低石炭化度炭ビトリニット組織の周囲に存在する再固化後の高石炭化度炭ビトリニット組織との間に、大きな収縮率差は生じない。つまり、低石炭化度炭ビトリニット組織は高石炭化度炭ビトリニット組織よりも再固化後の収縮率は大きいが、高石炭化度炭ビトリニット組織の再固化温度T2に到達した後の収縮率を比較すると、高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織との間に大きな差異は認められない。
【0030】
以上の理由から、低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークスの内部クラック生成の支配的要因は、高石炭化度炭ビトリニット組織と低石炭化度炭ビトリニット組織の収縮率差ではないと考えられる。
【0031】
さらに、本発明者等は、低石炭化度炭のビトリニット組織のサイズ(以降、単に「サイズ」と記載することがある)によるクラック生成に対する影響を調べるために、実験1と同様に、温度勾配を有する条件下で、低石炭化度炭の輝炭粒子の粒子径を変化させながら乾留したところ、粒子径が小さくなるほど内部クラック生成の発生確率が低くなることを明らかにした。具体的には、例えば、温度勾配が15(℃/mm)の条件下であれば、低石炭化度炭ビトリニット組織のサイズを3(mm)未満にすることにより、内部クラック生成の確率が大きく低下することを明らかにした。ここで、本発明では、ビトリニット組織のサイズは、後述するCT画像の解析により求めた、円相当径とする。温度勾配を有する条件において、ビトリニット組織のサイズと内部クラック生成の関係について、熱応力計算を実施することで、さらに検証した。以下の式(1)は、熱応力計算に用いられる計算式である。
【数1】
ただし、σ:熱応力、α:収縮係数、T:温度、E:ヤング率、ν:ポアソン比である。ヤング率E及びポアソン比νを其々0.01(GPa)及び0.2に設定して、低石炭化度炭ビトリニット組織のサイズと温度勾配より、低石炭化度炭ビトリニット組織の内部の温度差ΔTを求めた。ここでは、ビトリニット組織を円と仮定し、円の直径をビトリニット組織のサイズとした。さらに、
図7に示す再固化後の収縮係数より、低石炭化度炭の再固化温度および、再固化温度+ΔTでの収縮係数からα×ΔTを求め、(1)式に基づき発生する熱応力σを求めた。なお、ポアソン比は文献(磯部ら, 鉄と鋼, 1980(66),3)を参考に設定した。また、石炭は、温度上昇とともに軟化・膨張し、400℃後半にて再固化する。軟化状態ではヤング率は示さず、再固化してからヤング率を示す。そのため、ヤング率の値は、文献(Konykhin, AP., Koks i Khimiya, 1983(12), 12)の再固化温度でのヤング率に設定した。
これを種々の温度勾配において低石炭化度炭ビトリニット組織サイズを変化させて求めた。その結果を
図8に示す。熱応力計算を実施したところ、温度勾配が大きくなる程、熱応力が大きくなることを確認した。また、低石炭化度炭ビトリニット組織のサイズが小さくなるほど、熱応力が小さくなることが確認された。
【0032】
コークス炉内の低石炭化度炭ビトリニット組織において、炉中心側端部は炉壁側端部よりも低温となる。
図7の収縮係数の曲線から分かるように、低石炭化度炭ビトリニット組織は、再固化温度での収縮係数が大きい。そのため、ビトリニット組織のサイズが大きくなると、炉中心側端部が再固化温度となったときに、高温側である炉壁側端部との収縮係数の差が大きくなると考えた。これにより、低石炭化度炭ビトリニット組織の内部に熱応力が発生し、その熱応力が再固化直後のセミコークスの強度を超えると、クラックが発生すると推察した。
【0033】
炉中心側端部と炉壁側端部の距離が長くなるほど、つまり、低石炭化度炭ビトリニット組織のサイズが大きくなるほど、温度差の拡大により収縮係数の差が大きくなるため、内部クラックが生成されやすくなると推察した。
【0034】
前述の[0031]段落の通り、ビトリニット組織のサイズを変化させた実験を行ったところ、内部クラックが生成された条件での、具体的な熱応力値は、
図8を用いると、約300(kPa)であった。つまり、温度勾配が15(℃/mm)の条件下では、低石炭化度ビトリニット組織は3(mm)が内部クラック生成を生じさせる最小サイズ(以降、臨界径と呼び、Rcと記載することがある)であり、この時の熱応力値(以降、クラック生成熱応力と呼ぶことがある)である約300(kPa)以上になると、内部クラックが生成されると考えられる。
【0035】
したがって、低石炭化度炭ビトリニット組織サイズと発生熱応力との関係を温度勾配毎に準備しておくとともに、任意の温度勾配下において、低石炭化度炭ビトリニット組織サイズを変化させたときに、実験にて内部クラックが生成するサイズと、その温度勾配およびサイズの条件で応力計算にて得られる熱応力をクラック生成熱応力として予め調べておくことにより、実施する操業条件の温度勾配(操業温度勾配)から、臨界径を明らかにすることができる。
【0036】
ちなみに、熱応力を求めるにあたり、文献によってヤング率は異なる数値が開示されており、ヤング率の値が変わると、前述の(1)式で求められる熱応力の値も変わる。しかし、熱応力の値は、最終的には、所定の温度勾配において、この熱応力となるビトリニット組織のサイズを求めることを目的としていることから、本発明においては、熱応力の絶対値が多少変化しても、問題にはならない。
【0037】
また、実験にてクラックが生成するサイズを調べる際に、輝炭粒子の周囲に充填する石炭は、実際の操業を反映するために、実際に操業するときに用いる高石炭化度炭のRoの平均値と同程度の高石炭化度炭とすることが好ましい。
【0038】
以上より、温度勾配が低石炭化度炭ビトリニット組織由来のコークスの内部クラック生成に大きな影響を与えていることが確認された。そこで、温度勾配とコークス炉の操業条件との関係について、検討した。ここでは、(2)式の基礎式から構成される一次元熱伝導モデル(例えば、西岡邦彦、吉田周平、播木道春、“コークス化機構を考慮した乾留モデルの開発”、鉄と鋼、1984、日本鉄鋼協会、P358〜365)を用い、コークス炉の炉温を境界条件として、コークス炉に装入するときの石炭の温度(以下、石炭装入温度と称する)を初期条件として与えることで、炉温および石炭装入温度が温度勾配に及ぼす影響を検討した。
【数2】
ここで、Cp:比熱、ρ:密度、λ:熱伝導率、q:反応熱、T:温度、t:時間、X:距離である。
図9に示す結果を得た。
【0039】
本発明者らは、低石炭化度ビトリニット組織が再固化して収縮し、かつ組織内で温度勾配が存在することが、クラック生成に影響すると考えた。したがって、低石炭化度ビトリニット組織内の再固化温度到達後(例えば再固化温度+(50〜100)℃程度の範囲)での温度勾配が重要であると考えられる。なお、温度勾配は、再固化温度前後では大きく変化しないことを知見しているため、温度勾配の求め方としては、再固化温度での温度勾配を求めることとした。
【0040】
ちなみに、低石炭化度ビトリニット組織の再固化温度での温度勾配の求め方としては、伝熱計算を用い、再固化温度での温度勾配を求めても良いし、温度勾配が大きく変化しない温度範囲で、低石炭化度炭ビトリニット組織の再固化温度を挟む2点の温度でのそれぞれの温度勾配を求め、温度差から按分して再固化温度での温度勾配を求めてもよい。
【0041】
本実施形態では、低石炭化度ビトリニット組織の再固化温度である440℃における温度勾配とし、再固化温度を挟む2点の温度でのそれぞれの温度勾配を求め、温度差から按分して再固化温度での温度勾配を求める方法について説明する。具体的には、炉幅450mmの炭化室の炉中心から片側の炉壁まで(炉幅の半分)の範囲を炉幅方向に20等分し、各分割点における400℃到達時点及び500℃到達時点の温度勾配を求め、400℃および500℃での温度勾配から按分して440℃での温度勾配を分割点毎に算出した。次に、これらの各分割点の温度勾配の中から、炉壁側部及び炉中心側部を除いた所定範囲(炉壁から45mm〜180mmの範囲)に含まれる温度勾配をピックアップし、これらを更に平均化することによって、所定の炉温、石炭装入炭温度での440℃における温度勾配とした。炉壁側部は温度勾配が急になり、炉中心側部は温度勾配が緩やかになるため、温度勾配のバラツキが小さい炉壁から45mm〜180mmの範囲に含まれる温度勾配に基づき、440℃における温度勾配を算出した。
【0042】
図9に示すとおり、石炭装入温度が互いに異なる全ての石炭において、炉温が高くなるほど温度勾配が大きくなることを確認した。また、石炭装入温度が低くなるほど温度勾配が大きくなることを確認した。
【0043】
このように、操業条件によって温度勾配は異なり、炭化室の炉温が高くなるほど、また、石炭装入温度が低くなるほど、温度勾配が大きくなることがわかった。操業を予定している種々の炉温および石炭装入温度にて温度勾配を求めておけば、熱応力の計算より、操業条件毎に低石炭化度炭のビトリニット組織の臨界径を求めることができる。
【0044】
臨界径が明らかになれば、低石炭化度炭の臨界径以上の粒子を全て臨界径未満に細粒化すれば、コークス強度を最大化することができる。しかし、実操業における通常の粉砕機では、臨界径以上の粒子を全て臨界径以下に細粒化することは難しく、不可避的に臨界径以上の粒子が配合炭中に残存する。そのため、配合炭中での低石炭化度炭の臨界径以上の粒子比率とコークス強度の関係を求めておき、更に低石炭化度炭の粉砕粒度と臨界径以上の粒子比率の関係を調べておくことで、目標の強度のコークスを製造するために必要な低石炭化度炭の粉砕粒度を求めることができる。
【0045】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態は、A)予め、データベースを作成する工程と、B)実操業において温度勾配を変化させる場合に、目標のコークス強度となる様に、新たな操業条件を決定する工程、で構成される。
【0046】
まず、A)予め、データベースを作成する工程について説明する。
1点目として、低石炭化度炭の粉砕粒度と、その粉砕粒度に対応したビトリニット組織のサイズ分布を調べておく方法を以下に述べる。
各粉砕粒度に粉砕した低石炭化度炭において、1mm以上の粒子について、複数の粒度区分に分ける。粒度区分としては、4つの粒度区分(1mm以上3mm未満、3mm以上5mm未満、5mm以上10mm未満、10mm以上)に分けることが例示される。なお、1mm以上の粒子について調べた理由は、通常のコークス炉操業条件による温度勾配の範囲において、クラック生成の臨界径が1mm未満になることは無いことを知見しているためである。
【0047】
乾留容器に粉コークスを充填した中に、それぞれ粒度区分毎の複数個の低石炭化度炭粒子を配置し、乾留する。ビトリニット組織のサイズ分布を調べるために、石炭粒子ではなく、乾留する理由は、低石炭化度炭粒子中のビトリニット組織を識別しやすくするためである。ビトリニット組織は乾留後に気孔構造を有するため、乾留をしたほうが識別しやすくなる。乾留後の粒子をX線CTを用いて撮影する。
図10(a)に乾留後粒子のX線CT画像の一例を示す。撮影した画像に対し、粒子中の気孔構造を有する部分をビトリニットとして判別してサイズおよび粒子中での面積比の測定を行う。1つの粒度区分の低石炭化度炭粒子から求めた、サイズa
1からa
nまでのn個のビトリニット組織の面積比S
1〜S
nそれぞれに対し、低石炭化度炭全体に対するその粒度区分の質量比(−)を掛けることで、低石炭化度炭全体に対する各ビトリニット組織の面積比となる。同様に、全ての粒度区分について各ビトリニット組織の面積比を求め、得られた全てのビトリニット組織について、サイズ順に順列をつけて、サイズの大きいビトリニット組織から面積比を積算することで、
図10(b)に示すような低石炭化度炭中でのビトリニット組織のサイズ分布を求めることができる。
【0048】
この様にして、粉砕粒度毎にサイズ分布を求めることにより、
図10(b)に、一例として示す様に、低石炭化度炭を3mm以下75質量%、85質量%および95質量%に粉砕したときのビトリニット組織のサイズ分布を求めることができる。なお、通常、2次元断面における面積比は、3次元空間における体積比と扱うことができるので、上記で求めたビトリニットの面積比をビトリニットの体積比として扱うことができる。
【0049】
2点目として、
図11に示すような、温度勾配毎に、配合炭中の臨界径以上のビトリニット組織比率とコークス強度の関係を求めておく方法について述べる。
実機での実施が想定される温度勾配および低石炭化度炭の粉砕粒度の範囲において、各温度勾配条件下にて、配合炭中の低石炭化度炭の粉砕粒度を変えて、配合炭を乾留し、コークスを製造してコークス強度DI
15015を測定する。併せて、各温度勾配に対応する臨界径を、前述の[0035]段落で述べた方法によりそれぞれ求める。
次に、
図10(b)に示す様なビトリニット組織のサイズ分布を用いて、粉砕粒度毎に臨界径以上のビトリニット組織比率を求め、求めたビトリニット組織比率に配合炭中における低石炭化度炭の配合比を掛けることによって、配合炭中における臨界径以上のビトリニット組織比率に換算する。
以上の結果に基き、低石炭化度炭の粉砕粒度毎に、測定しておいたコークス強度と対応させることで、
図11に示すような、温度勾配毎に、配合炭中の臨界径以上のビトリニット組織比率とコークス強度の関係を求めることができる。
なお、以降では、配合炭中における臨界径以上のビトリニット組織比率を+Rc比率と記載することがある。
【0050】
図11に示すコークス強度を求めるときの留意点について述べる。配合炭中の低石炭化度炭の配合率としては、30質量%以上70質量%以下の範囲で任意に設定すればよい。30質量%未満では、低石炭化度炭の粒度変化に対するコークス強度の変化が小さいため、配合炭中における臨界径以上のビトリニット組織比率とコークス強度DI
15015の関係において、+Rc比率の変化が狭い範囲の関係しか求めることができない。また、70質量%超では、低石炭化度炭のビトリニット組織に生成するクラック以外の要因によってセンチメートルオーダーの大きな亀裂が増加するためである。
【0051】
用いる配合炭としては、実際操業で実施するときと同程度の石炭性状(石炭反射率、全膨張率)とすることが好ましい。また、石炭粒子同士の接着が十分であることが好ましい。嵩密度に応じて決めればよいが、目安としては、配合炭の全膨張率が10%以上、好ましくは20%以上である。また、本発明の低石炭化度炭以外の石炭について、1.5mm以上の粗大イナート組織の含有量が少ない石炭を用いるか、または粗大イナート組織の含有率が高い石炭は3mm以下90質量%以上に粉砕して用いることが必要である。理由は、粗大イナート組織が多く存在すると、低石炭化度ビトリニット組織の細粒化によるコークス強度の向上が表れないためである。これは、粗大イナート組織の方がコークス強度低下影響が大きく、粗大イナート組織が多い条件では粗大イナート組織による影響によって、低石炭化度ビトリニット組織による影響が表れないためであると考えられる。
【0052】
また、粉砕粒度が大きく変化しない(例えば、粉砕条件の変更等)場合は、粉砕粒度毎の低石炭化度炭中でのビトリニット組織のサイズ分布も大きく変化しないため、各温度勾配において、
図10(b)に示す様な、配合炭中での臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織比率とコークス強度の関係を事前に一度求めておくことで、この関係を使用することができる。一方、粉砕粒度が極端に変化する(例えば、分級粉砕等)場合には、
図10(b)に示す様な、配合炭中での臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織比率とコークス強度の関係が大きく変わるため、改めて配合炭中での臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織の比率とコークス強度の関係を求め直すことが好ましい。
【0053】
なお、前述の
図11のコークス強度を求める際に、実操業のプロセスを模擬したプロセスを用いることが好ましい。理由は、後述する[0055]段落のB−1−5)のステップにおいて、求めた配合炭中での臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織の比率とコークス強度の関係を補正する際に、その補正代がより小さくなることから、コークス強度の推定精度をより高くすることができるためである。なお、実操業のプロセスとしては、配合炭全体の粉砕粒度が細かい場合に、微粉を塊成化するプロセスなど例示できる。
【0054】
以上のようにして、予め、低石炭化度炭の粉砕粒度とビトリニット組織のサイズ分布の関係、および、複数の温度勾配毎に、臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織の比率とコークス強度の関係を求めておく。
【0055】
次に、上記A)の工程で作成したデータベースを用いて、B)実操業において温度勾配を変化させる場合に、目標のコークス強度となる様に、新たな操業条件を決定する工程、について説明する。本実施形態では、温度勾配が変化する場合や、さらに加えて目標とするコークス強度の値も変化する場合について、目標とするコークスを製造する方法を説明する。
B−1)温度勾配の変化前の状態について、以下のステップを有している。
B−1−1)温度勾配(変化前)を求めるステップと、
B−1−2)温度勾配(変化前)に対応する相関関係とクラック生成熱応力(
図12(a))に基づき、前記低石炭化度炭のビトリニット組織の臨界径Rc(α)を求めるステップと、
B−1−3)
図12(b)の関係に基き、実操業における低石炭化度炭の粉砕粒度における臨界径Rc(α)以上の前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率X´を求めるステップと、
B−1−4)前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率X´を、配合炭中のビトリニット組織の比率Xに換算するステップと、
B−1−5)
図11において、前記の配合炭中のビトリニット組織の比率Xにおけるコークス強度2が、操業条件の決定前の状態における実測のコークス強度1に一致する様に、前記の
図11を
図12(c)に補正するステップ。
なお、詳細には、以下に述べる通りである。
【0056】
前記B−1−3)における留意点を述べる。
実操業における温度勾配(変化前)での低石炭化度炭の粉砕粒度に該当するデータがあれば、そのデータを読み取ればよいが、データが無い場合は、実操業における温度勾配(変化前)での低石炭化度炭の粉砕粒度に近い、2つの粉砕粒度とビトリニット組織のサイズ分布の関係から、按分して求めればよい。例として、実操業における温度勾配(変化前)での低石炭化度炭の粉砕粒度が3mm以下82質量%、臨界径Rc(α)が4.5mmだった場合を、
図12(b)を用いて説明する。予め求めておいた、粉砕粒度3mm以下75質量%と85質量%の関係を用い、それぞれの関係において、臨界径4.5mmにおけるビトリニット組織比率(縦軸)の点を求め、その2点を結ぶ線分を、前記2つの粉砕粒度と、実操業における温度勾配(変化前)での粉砕粒度との比率に応じて按分する。つまり、線分を7:3に分ける点の縦軸での値を、ビトリニット組織比率X’として求める。
【0057】
前記B−1−5)における補正の方法について述べる。
図12(c)に示すように、前記B−1−3で求めた+Rc比率Xと、温度勾配(変化前)で、実装業において製造されたコークスの強度であるコークス強度1(
図12(c)中のA)をもとに、A)の工程で求めた
図11の関係において、横軸がXの際のコークス強度2が、実測のコークス強度1になるように、縦軸方向に平行移動させることにより、温度勾配(変化前)に対応させた+Rc比率とコークス強度の関係を求める。
なお、この補正は、A)の工程でデータベースを作成する際に用いる配合炭を構成する各石炭の性状や配合比率に対して、B)の工程では実操業で用いる配合炭を構成する各石炭の性状や配合比率が通常は相違するため、得られるコークス強度の絶対値に差分が生じることから、この差分を是正するために、行うものである。
【0058】
前記B−1−5)における留意点を述べる。予め求めておいた
図11の関係での温度勾配と、温度勾配(変化前)が同じならば
図11の関係を用いればよい。しかし、必ずしも
図11で求めておいた温度勾配と、温度勾配(変化前)が同じとは限らない。異なる場合は、温度勾配(変化前)の関係線を、予め求めておいた
図11の関係線から按分して求める。按分の方法は、
図11の関係線のうち、温度勾配(変化前)の値に近い2本の関係線から按分して求める。具体的には、
図12(d)に示すように、前記2本の関係線において、同じ粉砕粒度でのプロットを結ぶ。その線分を、2本それぞれの関係線の温度勾配における臨界径と、前記のB−1−2)で求めた温度勾配(変化前)での臨界径の値Rc(α)の比率に分ける点をプロットし、全ての粉砕粒度において同様に求めたプロットを結ぶことで、温度勾配(変化前)の条件での温度勾配における関係線として求める。なお、按分して関係線を求めるためには、
図11を求める際に、操業上実施しうる範囲で、臨界径の条件および粉砕粒度それぞれについて、少なくとも異なる2条件でデータを求める必要がある。さらに好ましくは、3条件以上であれば、関係線の精度がより良くなると考えられる。
【0059】
次に、B−2)温度勾配の変化後の新たな操業条件として、粉砕粒度を決定する方法について説明する。
B−2−1)温度勾配(変化後)を求めるステップと、
B−2−2)前記のB−1−5)で補正された関係のうち、温度勾配(変化後)に対応する関係である
図12(e)に基き、温度勾配(変化後)に、目標とするコークス強度となる、配合炭中の臨界径以上のビトリニット組織の比率Zを求めるステップと、
B−2−3)前記配合炭中のビトリニット組織の比率Zを、低石炭化度炭のビトリニット組織の比率Z´に換算するステップと、
B−2−4)
図12(f)に基づき、温度勾配(変化後)の前記低石炭化度炭のビトリニット組織の臨界径Rc(β)を求めるステップと
B−2−5)
図12(g)に基き、前記の比率Z´と、前記の臨界径Rc(β)から、低石炭化度炭の粉砕粒度を求めるステップと、
B−2−6)前記のB−2−5)で求めた粉砕粒度より細かく低石炭化度炭を粉砕するステップと、を有している。
なお、詳細には、以下に述べる通りである。
【0060】
前記B−2−2)における留意点を述べる。前記B−2−2)で用いた、温度勾配(変化後)に対応する+Rc比率とコークス強度の関係について、求め方は、前述のB−1−5)で補正された関係のうち、温度勾配(変化後)に対応する関係線があればそれを用いればよいし、無い場合は、段落[0058]で説明したように按分して求めればよい。
【0061】
なお、前記のB−2−5)における留意点を説明する。
図10(b)において、目標のコークス強度を達成するための+Rc比率に対応する低石炭化度炭の粉砕粒度を予め求めていなかった場合には、
図12(g)に示すように、
図10(b)の粉砕粒度とビトリニット組織のサイズ分布の関係から、按分して求めればよい。具体的には、
図12(g)に示すように、温度勾配(変化後)における臨界径Rc(β)および目標とする+Rc比率が決まれば、
図10(b)において、横軸(臨界径)および縦軸(+Rc比率Zを配合比で割り戻した値Z’)が決まる。臨界径Rc(β)にて、目標とするコークス強度を到達するための+Rc比率Zに該当する値Z’をプロットし、そのプロットを挟む2つの関係線それぞれにおいて、同じ縦軸上でのビトリニット組織比率(縦軸)を求める。その2点を結ぶ線分を、目標とするコークス強度を到達するための+Rc比率に該当する値が分ける比率に応じて、2つの関係線の粉砕粒度を按分することで、目標のコークス強度を達成するための+Rc比率となる低石炭化度炭の粉砕粒度を求める。
【0062】
なお、複数銘柄の低石炭化度炭を用いる際には、それぞれの銘柄の配合比に応じて合計して+Rc比率を求め、全体として+Rc比率が目標コークス強度に到達する比率とすればよい。その際の各銘柄の粉砕粒度は、異なっても良いし、同じでも良い。
【0063】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態は、第一の実施形態に対して、温度勾配の変化後の新たな操業条件として、「粉砕粒度」から「石炭配合」に変更したものである。
すなわち、A)およびB−1)は共通しており、B−2)に代えて、下記のB−3)とする。
具体的には、第一の実施形態のB−2)に代えて、
B−3)温度勾配の変化後の新たな操業条件として、石炭配合を決定するに際し、
B−3−1)温度勾配(変化後)を求めるステップと、
B−3−2)温度勾配(変化後)に対応する
図12(f)に基づき、前記低石炭化度炭のビトリニット組織の臨界径Rc(β)を求めるステップと、
B−3−3)
図12(h)に基き、実操業における低石炭化度炭の粉砕粒度における臨界径Rc(β)以上の前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率Y´を求めるステップと、
B−3−4)前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率Y´を、配合炭中のビトリニット組織の比率Yに換算するステップと、
B−3−5)補正された
図12(i)に基き、温度勾配(変化後)において、
前記の配合炭中のビトリニット組織の比率Yに相当するコークス強度を求めるステップと、
B−3−6)前記のB−3−5)で求めたコークス強度に対して、目標とするコークス強度となるように、石炭の配合構成を変化させるステップと、を有している。
【0064】
目標とするコークス強度となるように、石炭の配合構成を変化させる方法としては、広く知られているコークス強度の推定式などから、低石炭化度炭または高石炭化度炭の使用する石炭銘柄やその配合率を変化させることができる。推定式としては、例えば、特許文献である特開2005−194358号公報に示されているものを用いることができる。
この文献では、主に、配合する石炭の平均反射率及び配合率、さらに配合炭の嵩密度とコークス炉温が、体積破壊粉コークス量に及ぼす影響に基づいて体積破壊粉コークス量を推定し、併せて、石炭の膨張率および装入嵩密度とコークス強度の関係に基づいて表面破壊粉コークス量を推定することで、コークス強度を推定している。
本実施形態では、前記B−3−5)〜B−3−6)で記載した通り、温度勾配(変化後)において求めたコークス強度に対して、目標とするコークス強度となるように、石炭の配合構成を変化させる。従って、目標とするコークス強度となる石炭配合は、この文献の推定式により、温度勾配(変化後)の条件で求めたコークス強度推定値と、石炭の配合のみを変化させた条件で求めたコークス強度推定値との差(差1)が、前記B−3−5)で求めたコークス強度と、目標とするコークス強度の差(差2)と等しくなるように、石炭配合を変化させて計算することで、求めることができる。なお、実際に石炭の配合構成を変化させる際には、上記の「差1」が「差2」よりも大きくなるように(すなわち、目標とするコークス強度よりも大きくなるように)石炭の配合を変化させても構わない。
【0065】
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態は、第一の実施形態に対して、実操業において温度勾配を「変化させていた」から「温度勾配を変化させない」場合に変更したものである。すなわち、A)は共通しており、B)に代えて、C)実操業において温度勾配を変化させず、目標のコークス強度を変化させる場合に、新たな操業条件を決定する工程として、粉砕粒度を決定する方法である。
具体的には、第一の実施形態のB)に代えて、
C)実操業において温度勾配を変化させず、目標のコークス強度を変化させる場合に、新たな操業条件を決定する工程として、粉砕粒度を決定する方法であって、
C−1)実操業の温度勾配が一定の状態において、
C−1−1)温度勾配(実操業)を求めるステップと、
C−1−2)温度勾配(実操業)に対応する
図12(a)に基づき、前記低石炭化度炭のビトリニット組織の臨界径Rc(α)を求めるステップと、
C−1−3)
図12(b)に基き、実操業における低石炭化度炭の粉砕粒度における臨界径Rc(α)以上の前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率X´を求めるステップと、
C−1−4)前記低石炭化度炭のビトリニット組織の比率X´を、配合炭中のビトリニット組織の比率Xに換算するステップと、
C−1−5)
図11において、前記の配合炭中のビトリニット組織の比率Xにおけるコークス強度2が、操業条件の決定前の状態における実測のコークス強度1に一致する様に、前記の
図11を
図12(c)に補正するステップと、
C−1−6)補正された
図12(j)に基き、目標とするコークス強度となる配合炭中の臨界径以上のビトリニット組織比率Wを求めるステップと、
C−1−7)前記配合炭中のビトリニット組織の比率Wを、低石炭化度炭のビトリニット組織の比率W´に換算するステップと、
C−1−8)
図12(k)に基き、前記の比率W´と、前記の臨界径Rc(α)から、低石炭化度炭の粉砕粒度を求めるステップと、
C−1−9)前記C−1−8)で求めた粉砕粒度より細かく低石炭化度炭を粉砕するステップと、を有している。
【0066】
C−1−1)からC−1−5)までは、B−1−1)からB−1−5)までと同様であり、留意点も同様である。また、C−1−8)における留意点は、段落[0061]で述べたB−2−5)の留意点と同様である。
【0067】
なお、本発明における温度勾配は、低石炭化度炭が再固化する温度における温度勾配であり、440℃における温度勾配に限定されるものではない。また、炭化室の炉壁側部及び炉中心側部を除いた所定範囲の温度勾配としたが、この所定範囲は、温度勾配が急激に変化する部分を除くこととする。その決め方は、例えば、炉幅方向での温度勾配の微分値が大きく変わらない範囲などとすることができる。今回の実施形態である、炉幅450mmでは、壁および炭中から45mm未満を除いた45〜180mm程度である。この決定は、要求される精度に応じて決定することができる。
【0068】
以上の方法により、目標とするコークス強度DI
15015の高炉用コークスを製造することができる。なお、配合炭に含まれる低石炭化度炭の配合割合は、特に限定しないが、好ましくは、30質量%以上70質量%以下である。低石炭化度炭の配合割合が30質量%よりも低くなると、粘結炭の割合が増加して、コストが増大する。低石炭化度炭の配合割合が70質量%よりも高くなると、粘結炭の割合が低下して、コークス強度を維持できなくなるおそれがある。
【0069】
次に、実施例を示しながら、本発明について具体的に説明する。
【0070】
(実施例1)
図9に示すように、石炭装入温度および炉温を変化させて、操業条件と温度勾配の関係を求めた。また、実施の形態にて述べたように、
図8のビトリニット組織サイズと発生熱応力の関係を求めた。また、クラック生成熱応力を300kPaとした。
【0071】
さらに、低石炭化度炭C炭を用い、
図10(b)に示すように、粉砕粒度とビトリニット組織のサイズ分布の関係を求めた。
【0072】
次に、表1に示す各操業条件にて、臨界径以上の低石炭度炭ビトリニット組織の比率とコークス強度の関係を調べるために、以下の実験を行った。
【表1】
【0073】
まず、各操業条件における温度勾配を
図9より求めた。さらに、
図8およびクラック生成熱応力を300kPaとすることで、各操業条件の温度勾配における臨界径を求めた。
それぞれを表1に併記する。
【0074】
次に、表2に示す石炭を用い、表2の配合条件で配合し、操業条件を表1の各条件として、配合炭を、0.5mmで分級して0.5mm以下の微粉炭は塊成化して塊成炭とし、0.5mm超の粗粒炭と塊成炭を混合した装入炭を試験コークス炉にて乾留してコークスを製造した。表2に、各石炭を3mm以下80質量%に粉砕したときの粗大イナート(+1.5mmイナート)の比率を示すが、高石炭化度炭AおよびB炭は粗大イナート組織の比率が高いため、粉砕粒度を3mm以下95質量%に設定して粉砕した。低石炭化度炭C炭は、3mm以下75質量%、85質量%および95質量%に粉砕してそれぞれ配合した。乾留後のコークスの強度を求めた。
【表2】
【0075】
また、操業条件に対応する温度勾配ごとに、
図10(b)に求めておいた低石炭化度炭C炭の粉砕粒度とビトリニット組織のサイズ分布の関係から、各粉砕粒度における臨界径以上のビトリニット組織比率を求め、配合比0.6を掛けて、配合炭中における臨界径以上のビトリニット組織比率を求めた。求めておいたコークス強度と、配合炭中における臨界径以上のビトリニット組織比率(+Rc比率)との関係を求めた。結果を
図13に示す。
以上までを、データベースとして作成しておいた。
【0076】
温度勾配を変化する前の条件として、石炭装入温度50℃、炉温1050℃、石炭水分2.0%で操業しており、温度勾配は9.6℃/mmで臨界径は4.5mmであった。配合炭中の非微粘結炭比率は65%で、本発明の粉砕粒度調整の対象である低石炭化度炭は、表1のC炭を用いており、比率は60%であった。粗大イナート高含有炭は3mm以下95質量%に粉砕し、低石炭化度炭を3mm以下90質量%に粉砕し、配合炭を0.5mmで分級して0.5mm以下の微粉炭は塊成化して塊成炭とし、0.5mm超の粗粒炭と塊成炭を混合した装入炭を乾留してコークスを製造したところ、コークス強度は85.5であり、目標のコークス強度85.5を満たすコークスを製造できていた。このとき、
図10(b)より、粉砕粒度3mm以下90質量%での低石炭化度炭の臨界径以上のビトリニット組織比率を按分して求めると、2.8%であった。さらに、配合比が0.6であることから、配合炭中の臨界径以上の低石炭化度ビトリニット組織比率(+Rc比率)は、1.7%であった。
臨界径4.5mm、+Rc比率が1.7%でコークス強度が85.5となるように、
図13の縦軸のコークス強度を縦軸方向に平行移動させた図を、
図14に示す。
【0077】
炉温のみを1300℃に上げる予定とされており、
図9および
図8を用いると、炉温の変化によって温度勾配を変化させた後の温度勾配は16.1℃/mmとなり、臨界径は2.8mmになることが分かった。
図14より、目標のコークス強度85.5を満たすためには、+Rc比率は2.2%以下とすることが必要である。また、配合炭中の低石炭化度炭比率は60%のため、低石炭化度炭基準では3.7%となる粉砕粒度を
図10(b)より求めた。
図10(b)にて横軸が臨界径2.8mmで縦軸が3.7%となる点は、3mm以下85質量%と95質量%の線から按分すると3mm以下93質量%に該当する。そこで、低石炭化度炭を3mm以下93質量%に粉砕してコークスを製造したところ、コークス強度85.5のコークスを製造することができた。
【0078】
なお、低石炭化度炭を3mm以下90質量%のままで粉砕粒度を変更しなかった場合、
図10(b)より、3mm以下85質量%と95質量%の関係線を按分して3mm以下90質量%の関係を求め、臨界径2.8mmでのビトリニット組織比率を求めると、+Rc比率は3.9%となり、コークス強度は85.3になると予想された。
【表3】
【0079】
(実施例2)
温度勾配を変化する前の条件として、石炭装入温度50℃、炉温1050℃、石炭水分2.0%で操業しており、温度勾配は9.6℃/mmで臨界径は4.5mmであった。配合炭中の非微粘結炭比率は65%で、低石炭化度炭比率は表1のC炭を用いており、比率は60%であった。粗大イナート高含有炭は3mm以下95質量%に粉砕し、低石炭化度炭を3mm以下90質量%に粉砕し、配合炭を0.5mmで分級して0.5mm以下の微粉炭は塊成化して塊成炭とし、0.5mm超の粗粒炭と塊成炭を混合した装入炭を製造したところ、コークス強度は85.5であり、目標のコークス強度85.5を満たすコークスを製造できていた。このときの配合炭中に臨界径以上のビトリニット組織比率は、1.7%であった。
【0080】
炉温を1300℃に上げることが予定されており、
図9および
図8を用いると、炉温の変化によって温度勾配を変化させた後の温度勾配は16.1℃/mmとなり、臨界径は2.8mmになることが分かった。
図10(b)より、3mm以下85質量%と95質量%の関係線を按分して3mm以下90質量%の関係を求め、臨界径2.8mmでのビトリニット組織比率を求めると、低石炭化度炭基準で6.5%であった。配合比が0.6であるため、+Rc比率は3.9%となる。さらに、
図14の関係より、低石炭化度炭を3mm以下90質量%に粉砕してコークスを製造すると、臨界径2.8mmの関係線で横軸が3.9%のとき、コークス強度は85.3になり、コークス強度は0.2低下すると予測された。そこで、特開2005−194358号公報に記載の推定式を用い、石炭配合を変更することによるコークス強度変化を推定した。配合炭中の高石炭化度炭である非微粘結炭を、高石炭化度炭の粘結炭に2質量%振り返えることで、コークス強度が0.2向上すると推定されたため、配合炭中の高石炭化度炭である非微粘結炭を、高石炭化度炭の粘結炭に2質量%振り返えてコークスを製造したところ、コークス強度85.5のコークスを製造することができた。
【表4】
【0081】
(実施例3)
温度勾配を変化する前の条件として、石炭装入温度250℃、炉温1100℃、石炭水分0.0%で操業しており、温度勾配は8.7℃/mmとなり、臨界径は5.4mmであった。配合炭中の非微粘結炭比率は65%で、本発明の粉砕粒度調整の対象である低石炭化度炭は、表1のC炭を用いており、比率は60%であった。粗大イナート高含有炭は3mm以下95質量%に粉砕し、低石炭化度炭を3mm以下90質量%に粉砕し、配合炭を0.5mmで分級して微粉炭は塊成化し、粗粒炭と塊成炭を混合した装入炭を乾留してコークスを製造したところ、コークス強度は85.5であり、目標のコークス強度85.5を満たすコークスを製造できていた。
【0082】
次に、
図13より、温度勾配が8.7℃/mmでの、+Rc比率とコークス強度の関係を求めた。具体的には、温度勾配が9.6℃/mmと、温度勾配が8.0℃/mmの関係線をもとに、按分して求めた。温度勾配9.6℃/mmおよび温度勾配8.0℃/mmそれぞれの関係線において、同じ粉砕粒度毎に結んだ線分を、臨界径である4.5mmと6mmから、9:6に分ける点をプロットし、プロットを結んで関係線を求めた。
図15にその線を示す。また、変化前の低石炭化度炭の粉砕粒度は、3mm以下90質量%であり、その際の+Rc比率を求めた。臨界径5.4mmの場合、
図10(b)より、5.4mm以上のビトリニット組織比率は1.8%であり、配合率60%であることから、+Rc比率は1.1%であった。
【0083】
さらに、コークス強度は85.5であったことから、
図15に求めた関係線を、+Rc比率が1.1%、コークス強度85.5に合うように、縦軸方向に平行移動した。その結果を
図16に示す。また、併せて予め求めておいた
図15の全ての関係線について、同じだけ縦軸方向に平行移動しておいた。
【0084】
石炭配合は変えずに、石炭装入温度を50℃に、炉温を1250℃に変更する予定とされており、
図9および
図8を用いると、石炭装入温度および炉温の変化によって温度勾配を変化させた後の温度勾配は14.7℃/mmであり、臨界径は3.1mmとなることが分かった。温度勾配14.7℃/mmでの、+Rc比率とコークス強度の関係を求めた。求め方は、
図13を平行移動させた後の関係線から、温度勾配9.6℃/mmと15.7℃/mmの関係線より按分して、14.7℃/mmでの関係線を求めた。その結果を
図16に、変化前と合せて示す。
【0085】
また、
図10(b)より、粉砕粒度3mm以下90質量%において、臨界径3.1mmでは、3.1mm以上のビトリニット組織比率は5.0%となり、配合率60%より、+Rc比率は3.0%となる。そのため、
図16より、粉砕粒度を3mm以下90質量%から変更しない場合、コークス強度は85.3となると予測される。
【0086】
コークス強度85.5にするためには、
図16より、+Rc比率を1.4%にする必要がある。+Rc比率を1.4%とするためには、
図10(b)にて、横軸が3.1mmのときに縦軸が2.3%(=1.4÷0.6)となる粒度とすることが求められる。
図10(b)より、粉砕粒度は3mm以下95質量%となった。そこで、低石炭化度炭を3mm以下95質量%に粉砕してコークスを製造したところ、コークス強度85.6のコークスを製造することができた。
【表5】
【0087】
(実施例4)
目標のコークス強度が変化する前の操業条件は、石炭装入温度50℃、炉温1300℃、石炭水分2.0%で操業しており、温度勾配は16.1℃/mmで臨界径は2.8mmであった。配合炭中の非微粘結炭比率は65%で、本発明の粉砕粒度調整の対象である低石炭化度炭は、表1のC炭を用いており、比率は60%であった。粗大イナート高含有炭は3mm以下95質量%に粉砕し、低石炭化度炭を3mm以下90質量%に粉砕し、配合炭を0.5mmで分級して0.5mm以下の微粉炭は塊成化して塊成炭とし、0.5mm超の粗粒炭と塊成炭を混合した装入炭を乾留してコークスを製造したところ、コークス強度は85.5であり、目標のコークス強度85.5を満たすコークスを製造できていた。このときの、配合炭中の臨界径以上の低石炭化度ビトリニット組織比率(+Rc比率)は、
図10から3mm以下90質量%の場合を按分して求めると、3.9%であった。
臨界径2.8mm、+Rc比率が3.9%でコークス強度が85.5となるように、
図13の縦軸のコークス強度を縦軸方向に平行移動させた図を、
図17に示す。
【0088】
操業条件は変わらずに、目標のコークス強度が85.7とすることとなった。そこで、石炭配合は変えずに、低石炭化度炭の粉砕粒度変更により、目標のコークス強度となるコークスを製造することとした。
図17より、コークス強度85.6のコークスを製造するためには、低石炭化度炭の+Rc比率を2.0%とする必要がある。また、配合炭中の低石炭化度炭比率は60%のため、低石炭化度炭基準では3.3%となる粉砕粒度を
図10(b)より求めた。
図10(b)にて横軸が臨界径2.8mmで縦軸が3.3%となる点は、3mm以下85質量%と95質量%の線から按分すると3mm以下94質量%に該当する。そこで、低石炭化度炭を3mm以下94質量%に粉砕してコークスを製造したところ、コークス強度85.7のコークスを製造することができた。
【0089】
各操業条件において、目標とするコークス強度に対応する臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織の比率以下となるように低石炭化度炭を粉砕することで、目標とするコークス強度DI
15015(85.5)の高強度なコークスを製造することができた。また、温度勾配毎の臨界径以上の低石炭化度炭ビトリニット組織の比率とコークス強度の関係から、操業条件の変化に伴うDI
15015の変化代を予測することにより、配合変更することで目標とするコークス強度のコークスを製造することができた。