(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870536
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】植物栽培設備における人工受粉用車両
(51)【国際特許分類】
A01H 1/02 20060101AFI20210426BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
A01H1/02 A
A01G9/14 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-164575(P2017-164575)
(22)【出願日】2017年8月29日
(65)【公開番号】特開2019-41584(P2019-41584A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英博
【審査官】
市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−150584(JP,A)
【文献】
特開2011−147377(JP,A)
【文献】
特開2013−135634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00−17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス内に設定間隔で複数設置し、誘引ワイヤに引っ掛ける誘引フックを上端に設ける誘引紐に沿って植物を伸長させる培地間の床面近傍に、培地に沿って延びる温湯管を走行する走行車体であって、
走行車体には、温湯管を走行する駆動輪と、床面を走行する前側遊転輪と後側遊転輪を備え、
走行車体の後部には、操作盤とオペレータ用の手すりを設け、
走行車体の上方には植物を撮像するカメラと、カメラの上方にあって走行方向と交差する方向の培地側に向かって送風する送風機を設け、カメラと送風機は支持体に支持され、該支持体は、培地間を自動走行しながらのカメラの撮像結果に基づく昇降モータの駆動により昇降動作可能に構成し、
送風機は送風向きがそれぞれ反対方向に複数設け、
前記操作盤には、培地間を設定速度で自動往復走行するモードと、送風機の送風モードを設定する設定スイッチを設けることを特徴とする植物栽培設備における人工受粉用車両。
【請求項2】
送風機は斜め上方を向く姿勢に設けることを特徴とする請求項1記載の植物栽培設備における人工受粉用車両。
【請求項3】
自動往復走行中に走行車体を設定間隔毎に停止して間欠運転モード又は強弱運転モードを選択する設定スイッチを設けることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物栽培設備における人工受粉用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウスやいわゆる植物工場等の植物栽培設備の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トマト等の果実の植物の花に、無人飛行体に搭載する送風装置からエアーを供給して人口受粉させる技術が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ハウス内を走行する走行車体に振動装置を設け、植物の花に振動を与えて人工受粉させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−12137号公報
【特許文献2】特開2011−200196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、ハウス内で植物を養液で栽培するいわゆる植物工場内で飛行するのは困難である。
【0006】
特許文献2においては、装置が高価になるという欠点がある。
【0007】
本願発明は、ハウス内に複数並設する前後方向に長い培地で植物を栽培する植物栽培設備において、培地全体の植物に円滑に人工受粉を行うことのできる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
ハウス内に設定間隔で複数設置し、
誘引ワイヤに引っ掛ける誘引フックを上端に設ける誘引紐に沿って植物を伸長させる培地間の床面近傍に、培地に沿って延びる温湯管を走行する
走行車体であって、
走行車体には、温湯管を走行する駆動輪と、床面を走行する前側遊転輪と後側遊転輪を備え、
走行車体の後部には、操作盤とオペレータ用の手すりを設け、
走行車体の上方には植物を撮像するカメラと、カメラの上方にあって走行方向と交差する方向の培地側に向かって送風する送風機を設け、カメラと送風機は支持体に支持され、該支持体は、培地間を自動走行しながらのカメラの撮像結果に基づく昇降モータの駆動により昇降動作可能に構成し、
送風機は送風向きがそれぞれ反対方向に複数設け、
前記操作盤には、培地間を設定速度で自動往復走行するモードと、送風機の送風モードを設定する設定スイッチを設けることを特徴とする植物栽培設備における人工受粉用車両とする。
これにより、自動往復走行するモードを選択し、人工受粉用車両が培地間を無人走行で前後進1往復して走行始端側に戻って停止すると、オペレータは当該走行した培地から、走行車体後部側の手すりと前側遊転輪及び後側遊転輪を利用して次の培地間に人工受粉用車両を手動で走行させて走行始端部にセットする。
【0009】
請求項2記載の発明は、
送風機は斜め上方を向く姿勢に設けることを特徴とする請求項1記載の植物栽培設備における人工受粉用車両とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、
自動往復走行中に走行車体を設定間隔毎に停止して間欠運転モード又は強弱運転モードを選択する設定スイッチを設けることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物栽培設備における人工受粉用車両とする。
【0011】
【0012】
【0013】
【発明の効果】
【0014】
本発明により、前後方向に延びる培地の植物全体に良好に送風することができ、受粉を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図8】別実施例の側面から見た人工授粉用車両を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態の植物栽培設備について、以下説明する。
【0017】
図1及び
図2に示すハウスHは太陽光を透過するビニルハウス式の植物栽培設備である。ハウスH内には前後方向に延びる栽培用の培地1を多数並設する。培地1に移植した多数の苗の茎kそれぞれは誘引紐2に沿って伸長する。誘引紐2の上端には誘引フック3を設け、誘引フック3は培地1と交差する姿勢の誘引ワイヤ4に引っ掛ける構成である。
【0018】
培地1に養液を供給するシステムについて
図1に基づいて説明する。
【0019】
肥料を収容する肥料タンク5と、PH調整剤を収容するPH調整タンク6と、希釈用の原水を収容する原水タンク7、原水及び肥料を混合して養液にする混合タンク8を備える。
【0020】
混合タンク8から培地1へ養液を供給する供給管9と、培地1から養液を排出する排液管10を設ける。供給管9には養液を培地1に供給する供給ポンプ11を設け、排液管10は排出された養液を収容する排液タンク13に接続する。排液タンク13の養液を混合タンク8に供給する排液ポンプ12及び戻し管14を設け、養液を再利用する構成である。養液はその濃度(いわゆるEC値)が設定値になるように原水・肥料・PH調整剤を適宜ポンプ16、17、18で供給する。
【0021】
ハウスHの天井部20には換気用の開閉窓21を設ける。また、ハウスHの上部にはノズルで細霧を噴射する加湿器22を設ける。ハウスH内には、ハウスHを透過する太陽光を遮光する遮光カーテン23を設ける。開閉窓21、加湿器22、遮光カーテン23は、植物栽培設備の制御部(図示せず)で制御する構成である。また、ハウスHを照射する日射量を計測する日射計(図示せず)を設ける。
【0022】
培地1間の間の床面GL近傍には、暖房用の温湯が通過する温湯管27が培地1に沿う方向に延びている。
【0023】
培地1間を走行する人工受粉用車両29について説明する。
【0024】
人工受粉用車両29の下部の走行車体30には、床面GLを走行する一対の前側遊転輪31と、後側遊転輪32を備える。培地1間を走行するときに温湯管27上を走行する駆動輪33と従動輪34を備える。駆動輪33はバッテリ等の駆動源35により前後方向に駆動する。
【0025】
走行車体30の後部には、走行条件を設定する操作盤36を設ける。走行車体30の上方には送風機37を設ける。送風機37は、走行方向と交差する方向、すなわち、左右方向の培地1側に向かって送風する構成である。また、本実施の形態の送風機37は、隣接する位置に一対設けており、それぞれ反対方向の培地1に向かって送風する構成である。送風機37の下方にはカメラ38を設けている。カメラ38は苗の茎kに咲く花hを撮像するものである。送風機37とカメラ38は支持体39に支持される構成とし、支持体39は昇降モータ40により
図6に示すように昇降動作可能に構成している。
【0026】
操作盤36には送風機37の送風のモードを設定する設定スイッチ41を設ける。例えば、送風機37を設定時間毎に運転したり停止したりする間欠運転モードや、設定時間毎に強風運転や弱風運転を行う強弱運転モードを設定できるようにする。また、培地1間を設定速度で自動往復走行できるモードや、走行中に設定距離毎に停止する間欠走行モードを設定できるようにする。
【0027】
人工受粉用車両29には
図10に示す制御部Sを備えている。
【0028】
次に、人工受粉の運転について説明する。
【0029】
オペレータは培地1間の走行始端部に人工受粉用車両29を設置し、操作盤36で運転条件を設定して走行開始させる。人工受粉用車両29は無人で温湯管27上を走行しながら、送風機37を運転する。送風機37は左右両側の培地1の茎kと対向しているので、設定速度で走行しながら送風することで、送風機37の送風作用で茎k1や花hが揺動すると、花粉(図示せず)が飛び受粉することができる。例えば、強弱運転モードについて説明すると、人工受粉用車両29を設定距離走行させて停止し、送風機37が設定時間強く送風する。すると、花h及び花hの根元の茎k1の部分が風に押されて向きが変わる。そして、送風機37が弱い送風に切り換えると、茎k1及び花hの向きが元の位置に戻ろうとする。その花hの動きにより花粉が飛び受粉が可能となる。
【0030】
間欠運転モードでも同様で、送風機37で設定時間送風して茎k及び花hの向きを変えてから送風機37を停止することで茎k1及び花hの向きが元の位置に戻る動作により、受粉が可能となる。
【0031】
トマトの例で説明すると、花hは茎kの生長点近傍に集中するため、オペレータは、操作盤36の昇降スイッチ42で昇降モータ40を操作し、支持体39を適宜昇降させて送風機37が生長点近傍に対向する位置に走行前に予め設定しておくと良い。
【0032】
あるいは、培地1間を自動走行しながら、カメラ38で花hの撮像結果から、花hが集中している箇所を検出し、それに応じて昇降モータを駆動して送風機37の高さを自動的に設定する構成としても良い。この構成によると、苗k毎の生長点近傍に送風を行うことが可能となる。
【0033】
人工受粉用車両29が培地1間を無人走行で前後進1往復して走行始端側に戻って停止すると、オペレータは当該走行した培地1から、走行車体30後部側の手すり43と前側遊転輪31及び後側遊転輪32を利用して次の培地1間に人工受粉用車両29を手動で走行させて走行始端部にセットする。
【0034】
図4及び
図5の送風機37は真横を向いている構成としているが、
図8のように、送風向きを斜め上向きに設定しても良い。花hは
図7に示すように通常下向きに垂れ下がっているので、斜め下側から送風することで、受粉を活発にすることができる。あるいは、送風機37を上下方向や左右方向に首振りする構成としても良い。
【0035】
本実施の形態の人工受粉用車両29は専用機で記載しているが、植物栽培設備の培地間を走行する例えば、薬液散布車両や収穫台車等に送風機を搭載する多目的作業車両の形態としても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 培地
2 誘引紐
29 人工受粉用車両
30 走行車体
36 操作盤
37 送風機
38 カメラ
39 支持体
40 昇降モータ
41 設定スイッチ
H ハウス
GL 床面