特許第6870572号(P6870572)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870572
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】固体電解質シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20210426BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20210426BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/054
   H01B13/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-208070(P2017-208070)
(22)【出願日】2017年10月27日
(65)【公開番号】特開2019-79769(P2019-79769A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−037769(JP,A)
【文献】 特開2010−015782(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/138465(WO,A1)
【文献】 特表2018−518797(JP,A)
【文献】 特表2016−535391(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/141456(WO,A1)
【文献】 特開2011−051800(JP,A)
【文献】 特開2009−181882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/054
H01B 13/00
C04B 35/113
C04B 35/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第1の固体電解質の原料粉末のスラリーを基材上に塗布し、乾燥させることにより、第1のグリーンシートを用意する用意工程と、
前記第1のグリーンシートの少なくとも一方側の主面上に、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第2の固体電解質の粉末を含む拘束層を積層し、圧着することにより積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、
焼成後の前記積層体から、焼成後の前記拘束層の全部または一部を取り除く除去工程と、
を備える、固体電解質シートの製造方法。
【請求項2】
前記拘束層が、前記第2の固体電解質の粉末を含むスラリーを基材上に塗布し、乾燥させることにより用意した第2のグリーンシートである、請求項1に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項3】
前記用意工程の前に、前記第1の固体電解質の原料粉末を仮焼成する、請求項1又は2に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項4】
前記積層体形成工程において、前記第1のグリーンシートの両側の主面上に、それぞれ、前記拘束層を積層し、圧着する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項5】
前記積層体形成工程において、前記第1のグリーンシートと前記拘束層との圧着が、等方圧プレスにより行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項6】
前記除去工程において、焼成後の前記拘束層のうち、前記焼成後の第1のグリーンシートに付着していない部分を取り除く、請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項7】
前記第1の固体電解質と前記第2の固体電解質とが同じ組成を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項8】
前記第1の固体電解質及び前記第2の固体電解質が、それぞれ、β−アルミナ、β”−アルミナ及びNASICON型結晶のうち少なくとも1種を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質シートの厚みが500μm以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【請求項10】
前記固体電解質シートが、全固体ナトリウムイオン二次電池に用いられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の固体電解質シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等の分野において、高容量で軽量な電池として用いられている。しかしながら、リチウムイオン二次電池においては、電解質として、可燃性の有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は、高いイオン伝導性を示すものの、液体であり可燃性であることから、蓄電デバイスに用いた場合に、発火や漏液等の安全性上の問題がある。このような安全性の問題を解決するために、有機系電解液に代えて固体電解質を使用した全固体リチウムイオン二次電池の開発が進められている(特許文献1)。
【0003】
ところで、全固体リチウムイオン二次電池に用いられるリチウムは、世界的な原材料の高騰や枯渇問題等が懸念されている。そこで、リチウムイオンの代替として、ナトリウムイオンが注目されており、固体電解質にβ−アルミナやNASICON型の結晶を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池の開発も進められている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、全固体ナトリウムイオン二次電池では、全固体リチウムイオン二次電池と比較して、基準電位が0.3V上昇するため作動電圧が低下したり、あるいは原子量の増加に伴い電極活物質の重量当たりの容量が低下したりすることから、結果としてエネルギー密度が低下するという問題がある。
【0005】
従って、単位体積当たりのエネルギー密度向上の観点から、固体電解質は薄い方が望ましく、またシート化して固体電解質シートとして用いることが望ましい。
【0006】
固体電解質シートは、例えば、固体電解質の原料粉末をスラリー化してグリーンシートを得た後、焼成する、グリーンシート法により製造することができる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−205741号公報
【特許文献2】特開2010−15782号公報
【特許文献3】特開2017−37769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3のようなグリーンシート法では、グリーンシートを焼成する際にアルカリ金属イオンが蒸発し、表面にアルカリ金属イオンが存在しない、アルカリ金属イオン欠乏層が形成されることがある。そのため、得られた固体電解質シートのイオン伝導性が低下するという問題がある。
【0009】
特に、固体電解質にβ−アルミナやβ”−アルミナを用いる場合、焼成温度が高くなるため、イオン伝導性の低下が起こり易い。また、固体電解質シートの厚みが薄くなるほど、体積当たりの表面積が大きくなるため、焼成時にアルカリ金属イオンの蒸発が起こり易く、イオン伝導性の低下が起こり易い。
【0010】
さらに、固体電解質シートは、シート状であり機械的強度が低いため、アルカリ金属イオン欠乏層の除去が困難である。特に、ナトリウムイオン伝導性の固体電解質は、イオン伝導性に優れる一方、吸湿により表面に炭酸ナトリウムが形成され、イオン伝導性が低下することがある。そのため、水洗や湿式での研磨が難しく、アルカリ金属イオン欠乏層の除去が困難であるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、アルカリ金属イオンの蒸発を抑制することができる、固体電解質シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の固体電解質シートの製造方法は、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第1の固体電解質の原料粉末のスラリーを基材上に塗布し、乾燥させることにより、第1のグリーンシートを用意する用意工程と、前記第1のグリーンシートの少なくとも一方側の主面上に、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第2の固体電解質の粉末を含む拘束層を積層し、圧着することにより積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体を焼成する焼成工程と、焼成後の前記積層体から、焼成後の前記拘束層の全部または一部を取り除く除去工程と、を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記拘束層が、前記第2の固体電解質の粉末を含むスラリーを基材上に塗布し、乾燥させることにより用意した第2のグリーンシートであることが好ましい。
【0014】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記用意工程の前に、前記第1の固体電解質の原料粉末を仮焼成することが好ましい。
【0015】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記積層体形成工程において、前記第1のグリーンシートの両側の主面上に、それぞれ、前記拘束層を積層し、圧着することが好ましい。
【0016】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記積層体形成工程において、前記第1のグリーンシートと前記拘束層との圧着が、等方圧プレスにより行われることが好ましい。
【0017】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記除去工程において、焼成後の前記拘束層のうち、焼成後の前記第1のグリーンシートに付着していない部分を取り除くことが好ましい。
【0018】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記第1の固体電解質と前記第2の固体電解質とが同じ組成を有することが好ましい。
【0019】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記第1の固体電解質及び前記第2の固体電解質が、それぞれ、β−アルミナ、β”−アルミナ及びNASICON型結晶のうち少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記固体電解質シートの厚みが500μm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の固体電解質シートの製造方法では、前記固体電解質シートが、全固体ナトリウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アルカリ金属イオンの蒸発を抑制することができる、固体電解質シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る固体電解質シートの製造方法を説明するための模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る固体電解質シートの製造方法を説明するための模式的断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る固体電解質シートの製造方法を説明するための模式的断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る固体電解質シートの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0025】
本発明の固体電解質シートの製造方法は、第1の固体電解質の原料粉末のスラリーを基材上に塗布し、乾燥させることにより、第1のグリーンシートを用意する用意工程と、第1のグリーンシートの少なくとも一方側の主面上に、第2の固体電解質の粉末を含む拘束層を積層し、圧着することにより積層体を形成する積層体形成工程と、積層体を焼成する焼成工程と、焼成後の積層体から、焼成後の拘束層を取り除く除去工程と、を備える。
【0026】
以下、図1図4を参照して、本発明の一実施形態に係る固体電解質シートの製造方法における各工程についてより詳細に説明する。
【0027】
(用意工程)
図1に示す第1のグリーンシート2の用意工程では、まず、第1の固体電解質の原料粉末5をスラリー化し、スラリーを得る。次に、得られたスラリーをポリエチレンテレフタレート等の基材上に塗布し、乾燥させることにより、第1のグリーンシート2を得ることができる。
【0028】
第1の固体電解質の原料粉末5のスラリーは、例えば、第1の固体電解質の原料粉末5に、必要に応じてバインダー、可塑剤、溶媒を添加し、撹拌することにより得ることができる。また、スラリーの塗布は、例えば、ドクターブレードや、ダイコーター等により行うことができる。
【0029】
第1の固体電解質;
第1の固体電解質は、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる。本発明において「ナトリウムイオン伝導性酸化物」とは、25℃における交流インピーダンス法により求められるナトリウムイオン伝導度が10−5S/cm以上である酸化物をいう。ナトリウムイオン伝導性酸化物としては、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na、並びにOを含有する化合物が挙げられる。その具体例としては、β−アルミナ、β”−アルミナ、又はNASICON型結晶が挙げられる。好ましくは、ナトリウムイオン伝導性酸化物が、β−アルミナ又はβ”−アルミナである。これらは、ナトリウムイオン伝導性により一層優れている。
【0030】
第1の固体電解質がβ−アルミナやβ”−アルミナである場合、第1の固体電解質の原料粉末5としては、例えば、モル%で、Al:65%〜98%、NaO:2%〜20%、MgO+LiO:0.3%〜15%を含有するものが挙げられる。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0031】
Alは、β−アルミナ及びβ”−アルミナを構成する主成分である。Alの含有量は、好ましくは65%〜98%、より好ましくは70%〜95%である。Alが少なすぎると、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、Alが多すぎると、ナトリウムイオン伝導性を有さないα−アルミナが残存し、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0032】
NaOは、第1の固体電解質にナトリウムイオン伝導性を付与する成分である。NaOの含有量は、好ましくは2%〜20%、より好ましくは3%〜18%、さらに好ましくは4%〜16%である。NaOが少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、NaOが多すぎると、余剰のナトリウムがNaAlO等のナトリウムイオン伝導性に寄与しない化合物を形成するため、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0033】
MgO及びLiOは、β−アルミナ及びβ”−アルミナの構造を安定化させる成分(安定化剤)である。MgO+LiOの含有量は、好ましくは0.3%〜15%、より好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは0.8%〜8%である。MgO+LiOが少なすぎると、第1の固体電解質中にα−アルミナが残存してナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、MgO+LiOが多すぎると、安定化剤として機能しなかったMgO又はLiOが第1の固体電解質中に残存して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0034】
第1の固体電解質の原料粉末5は、上記成分以外にも、ZrOやYを含有することが好ましい。ZrO及びYは、原料を焼成して第1の固体電解質を作製する際のβ−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの異常粒成長を抑制し、β−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの各粒子の密着性をより一層向上させる効果がある。ZrOの含有量は、好ましくは0%〜15%、より好ましくは1%〜13%、さらに好ましくは2%〜10%である。また、Yの含有量は、好ましくは0%〜5%、より好ましくは0.01%〜4%、さらに好ましくは0.02%〜3%である。ZrO又はYが多すぎると、β−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの生成量が低下して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0035】
第1の固体電解質がNASICON型結晶である場合、一般式NaA1A2(A1はAl、Y、Yb、Nd、Nb、Ti、Hf及びZrから選択される少なくとも1種、A2はSi及びPから選択される少なくとも1種、s=1.4〜5.2、t=1〜2.9、u=2.8〜4.1、v=9〜14)で表される結晶を含有するものが挙げられる。なお、上記結晶の好ましい形態としては、A1はY、Nb、Ti及びZrから選択される少なくとも1種、s=2.5〜3.5、t=1〜2.5、u=2.8〜4、v=9.5〜12である。この場合、ナトリウムイオン伝導性により一層優れた結晶を得ることができる。特に、単斜晶系又は三方晶系のNASICON型結晶であれば、ナトリウムイオン伝導性にさらに一層優れるため好ましい。
【0036】
上記一般式NaA1A2で表される結晶の具体例としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が挙げられる。
【0037】
第1の固体電解質の原料粉末5の平均粒子径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。第1の固体電解質の原料粉末5の平均粒子径が大きすぎると、第1の固体電解質の原料粉末5同士の接触面積が低下するため、焼成による固相反応が進行し難くなる場合がある。そのため、負極活物質粉末と固体電解質粉末との間のナトリウムイオン伝導パスが減少し、放電容量が低下しやすくなる。また、固体電解質シート1を薄型化し難しくなる場合がある。さらに、ナトリウムイオン伝導に要する距離が長くなりナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。第1の固体電解質の原料粉末5の平均粒子径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
【0039】
また、第1の固体電解質の原料粉末5は、予め仮焼成した後に用いてもよい。第1の固体電解質の原料粉末5を仮焼成する場合、後述の本焼成において、アルカリ金属イオンの蒸発をより一層抑制することができる。また、脱ガスやアルカリ金属イオンの蒸発に伴う固体電解質シート1の膨張をより一層抑制することができる。仮焼成の温度としては、例えば、1000℃以上1400℃未満とすることができる。また、仮焼成の時間としては、例えば、1時間〜20時間とすることができる。
【0040】
バインダー;
バインダーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂などを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0041】
可塑剤;
可塑剤としては、特に限定されず、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ベンジルブチルなどを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。可塑剤を用いることにより、乾燥速度をコントロールしたり、得られた膜に柔軟性を付与したりすることができる。
【0042】
溶媒;
また、溶媒としては、例えば、水、あるいはエタノール、アセトン、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒を用いることができる。もっとも、溶媒として、水を用いた場合、ナトリウム成分が第1の固体電解質の原料粉末5から溶出してスラリーのpHが上昇し、第1の固体電解質の原料粉末5が凝集するおそれがある。そのため、溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましい。
【0043】
第1のグリーンシート2の厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは60μm以上、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは600μm以下、特に好ましくは400μm以下である。第1のグリーンシート2の厚みが薄すぎると、固体電解質シート1の機械的強度が低下することがある。また、第1のグリーンシート2の厚みが厚すぎると、得られる固体電解質シート1の厚みも厚くなる。そのため、固体電解質シート1中のイオン伝導に要する距離も長くなり、単位体積当たりのエネルギー密度が低下し易くなる。
【0044】
(積層体形成工程)
積層体形成工程においては、図2に示すように、まず、第1のグリーンシート2の第1の主面2a上に、第1の拘束層3を積層する。また、第1のグリーンシート2の第2の主面2b上に、第2の拘束層4を積層する。なお、第1のグリーンシート2の第1の主面2a及び第2の主面2bは、互いに対向している。
【0045】
第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、それぞれ、第2の固体電解質の粉末6を含んでいる。第2の固体電解質の粉末6は、第2の固体電解質の原料粉末を焼成することにより得られた焼成後の粉末である。そのため、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、難焼結性の拘束層である。
【0046】
第2の固体電解質としては、例えば、ナトリウムイオン伝導性酸化物を用いることができる。ナトリウムイオン伝導性酸化物としては、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na、並びにOを含有する化合物が挙げられる。その具体例としては、β−アルミナ、β”−アルミナ、又はNASICON型結晶が挙げられる。好ましくは、ナトリウムイオン伝導性酸化物が、β−アルミナ又はβ”−アルミナである。これらは、ナトリウムイオン伝導性により一層優れている。
【0047】
第2の固体電解質がβ−アルミナやβ”−アルミナである場合、例えば、モル%で、Al:65%〜98%、NaO:2%〜20%、MgO+LiO:0.3%〜15%を含有するものが挙げられる。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0048】
Alは、β−アルミナ及びβ”−アルミナを構成する主成分である。Alの含有量は、好ましくは65%〜98%、より好ましくは70%〜95%である。Alが少なすぎると、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、Alが多すぎると、ナトリウムイオン伝導性を有さないα−アルミナが残存し、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0049】
NaOは、第2の固体電解質にナトリウムイオン伝導性を付与する成分である。NaOの含有量は、好ましくは2%〜20%、より好ましくは3%〜18%、さらに好ましくは4%〜16%である。NaOが少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、NaOが多すぎると、余剰のナトリウムがNaAlO等のナトリウムイオン伝導性に寄与しない化合物を形成するため、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0050】
MgO及びLiOは、β−アルミナ及びβ”−アルミナの構造を安定化させる成分(安定化剤)である。MgO+LiOの含有量は、好ましくは0.3%〜15%、より好ましくは0.5%〜10%、さらに好ましくは0.8%〜8%である。MgO+LiOが少なすぎると、第2の固体電解質中にα−アルミナが残存してナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、MgO+LiOが多すぎると、安定化剤として機能しなかったMgO又はLiOが第2の固体電解質中に残存して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0051】
第2の固体電解質は、上記成分以外にも、ZrOやYを含有することが好ましい。ZrO及びYは、原料を焼成して第2の固体電解質を作製する際のβ−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの異常粒成長を抑制し、β−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの各粒子の密着性をより一層向上させる効果がある。ZrOの含有量は、好ましくは0%〜15%、より好ましくは1%〜13%、さらに好ましくは2%〜10%である。また、Yの含有量は、好ましくは0%〜5%、より好ましくは0.01%〜4%、さらに好ましくは0.02%〜3%である。ZrO又はYが多すぎると、β−アルミナ及び/またはβ”−アルミナの生成量が低下して、ナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。
【0052】
第2の固体電解質がNASICON型結晶である場合、一般式NaA1A2(A1はAl、Y、Yb、Nd、Nb、Ti、Hf及びZrから選択される少なくとも1種、A2はSi及びPから選択される少なくとも1種、s=1.4〜5.2、t=1〜2.9、u=2.8〜4.1、v=9〜14)で表される結晶を含有するものが挙げられる。なお、上記結晶の好ましい形態としては、A1はY、Nb、Ti及びZrから選択される少なくとも1種、s=2.5〜3.5、t=1〜2.5、u=2.8〜4、v=9.5〜12である。この場合、ナトリウムイオン伝導性により一層優れた結晶を得ることができる。特に、単斜晶系又は三方晶系のNASICON型結晶であれば、ナトリウムイオン伝導性にさらに一層優れるため好ましい。
【0053】
上記一般式NaA1A2で表される結晶の具体例としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等が挙げられる。
【0054】
なお、第1の固体電解質と、第2の固体電解質とは、同じ組成を有することが好ましい。この場合、後述するアルカリ金属イオンの蒸発をより一層抑制することができる。
【0055】
第2の固体電解質の粉末6の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましい。第2の固体電解質の粉末6の平均粒子径が小さすぎると、第1のグリーンシート2と第1の拘束層3及び第2の拘束層4との界面において、第1の固体電解質の原料粉末5と第2の固体電解質の粉末6とが反応し、反応生成物が形成され、その結果固着状態が強固となる場合がある。この場合、後述する第1の拘束層3及び第2の拘束層4の除去や、反応生成物の除去が困難なる場合がある。第2の固体電解質の粉末6の平均粒子径の上限は、特に限定されないが、例えば、15μm以下であることが好ましい。
【0056】
本実施形態において、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、いずれも第2の固体電解質の粉末6を含む第2のグリーンシートである。
【0057】
第2のグリーンシートを用意するに際しては、まず、第2の固体電解質の粉末6を含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の基材上に塗布し、乾燥させることにより得ることができる。なお、第2の固体電解質の粉末6のスラリーは、例えば、第2の固体電解質の粉末6に、必要に応じてバインダー、可塑剤、溶媒を添加し、撹拌することにより得ることができる。バインダー、可塑剤、溶媒に関しては、上述の第1のグリーンシート2の用意工程で例示したものを用いることができる。また、スラリーの塗布は、例えば、ドクターブレードや、ダイコーター等により行うことができる。
【0058】
次に、第1のグリーンシート2上に、第2のグリーンシートである第1の拘束層3及び第2の拘束層4を積層させた状態で圧着することにより一体化させ、積層体10を得る。第1のグリーンシート2と、第1の拘束層3及び第2の拘束層4との圧着は、等方圧プレスにより行うことが好ましい。このように、第1のグリーンシート2を含む積層体10を焼成する前に等方圧プレスを行なう場合、固体電解質の各粒子の密着性がより一層向上し、イオン伝導性をより一層高めることができる。
【0059】
等方圧プレスの圧力は、特に限定されないが、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上であることが望ましい。等方圧プレス時の圧力が低すぎると、原料粉末同士の密着が不十分となり、焼成時に固相反応が生じ難くなる場合がある。また、固体電解質の各粒子の密着性が不十分となり、イオン伝導性が低下することがある。
【0060】
なお、本実施形態では、第1のグリーンシート2の両側の主面2a,2b上に、それぞれ、第1の拘束層3及び第2の拘束層4を設けたが、本発明においては第1の拘束層3及び第2の拘束層4のどちらか一方が設けられていればよい。もっとも、後述するアルカリ金属イオンの蒸発をより一層抑制する観点からは、第1のグリーンシート2の両側の主面2a,2b上に、それぞれ、第1の拘束層3及び第2の拘束層4が設けられていることが好ましい。
【0061】
また、本実施形態では、第1の拘束層3及び第2の拘束層4が、いずれも第2の固体電解質の粉末6を含む第2のグリーンシートであったが、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、実質的に第2の固体電解質の粉末6のみからなり、バインダーなどを含んでいなくともよい。また、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、第2の固体電解質の粉末6を含むペーストであってもよい。また、第1の拘束層3及び第2の拘束層4上(第1のグリーンシート2とは反対側の表面上)にさらにα−アルミナを含む層を設けてもよい。
【0062】
(焼成工程)
次に、積層体10を焼成する。本実施形態では、第1のグリーンシート2の両側の主面2a,2bに、それぞれ、第1の拘束層3及び第2の拘束層4を圧着した状態で、焼成する。
【0063】
具体的に、本実施形態では、まず、脱バインダーのための焼成を行う。そして、脱バインダーのための焼成を行った後に、本焼成を行なう。この場合、脱バインダーのための焼成によりバインダーが消失し、図3に示すように、第1のグリーンシート2は、実質的に第1の固体電解質の原料粉末5のみからなる層となる。また、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、実質的に第2の固体電解質の粉末6のみからなる層となる。そして、この状態でさらに本焼成を行うことにより、第1の固体電解質の原料粉末5の固相反応が進行し、第1の固体電解質の粉末となる。なお、脱バインダーのための焼成は、本焼成の温度より低温で一定時間行うものとする。
【0064】
脱バインダーのための焼成温度としては、例えば、350℃〜800℃とすることができる。脱バインダーのための焼成時間は、例えば、30分〜120分とすることができる。また、本焼成の焼成温度としては、例えば、1200℃〜1750℃、さらには1400〜1750℃とすることができる。本焼成の焼成時間は、例えば、10分〜120分とすることができる。
【0065】
本実施形態のように、積層体10の焼成は、脱バインダーのための焼成と、本焼成の二段階に分けて行なうことが好ましい。この場合、後述するアルカリ金属イオンの蒸発をより一層抑制することができる。もっとも、本発明においては、脱バインダーのための焼成と本焼成を同時に一段階で行ってもよい。
【0066】
(除去工程)
次に、図4に示すように、焼成後の積層体から、焼成後の第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aを分離し、除去する。それによって、固体電解質シート1を得ることができる。
【0067】
なお、焼成後の第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aを除去するに際しては、焼成後の第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aのうち、全部または一部を取り除く。焼成後の第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aのうち一部を取り除く場合は、例えば、焼成後の第1のグリーンシート2Aに付着していない部分を取り除くことが望ましい。特に、焼成後の第1のグリーンシート2Aに付着していない部分のみを取り除くことが望ましい。すなわち、第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aのうち、第1のグリーンシート2Aに付着している部分は、取り除かずにそのまま残しておくことが望ましい。
【0068】
第1の拘束層3A及び第2の拘束層4Aの除去方法としては、特に限定されないが、例えば、高圧エアーを吹き付けることにより除去することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態の製造方法では、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第1の固体電解質の原料粉末5を含む第1のグリーンシート2の両側の主面2a,2bに、それぞれ、ナトリウムイオン伝導性酸化物からなる第2の固体電解質の粉末6を含む難焼結性の第1の拘束層3及び第2の拘束層4を圧着した状態で、積層体10を焼成する。そのため、第1の拘束層3及び第2の拘束層4により、第1のグリーンシート2におけるアルカリイオンの蒸発を抑制することができる。従って、得られた固体電解質シート1では、アルカリ金属イオン欠乏層が形成され難く、イオン伝導性を高めることができる。
【0070】
また、第1の拘束層3及び第2の拘束層4により第1のグリーンシート2の上下主面2a,2bを圧着した状態で焼成する際に、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、実質的には焼結しない。従って、第1の拘束層3及び第2の拘束層4は、焼成により第1のグリーンシート2が収縮する際に、第1のグリーンシート2の上下主面2a,2bに拘束力を及ぼす。その結果、第1のグリーンシート2の平面方向への収縮が抑制され、厚み方向にのみ収縮することとなる。そのため、平坦性に優れた固体電解質シート1を得ることができる。なお、得られた固体電解質シート1の平坦性をより一層高める観点から、本実施形態のように、第1の拘束層3及び第2の拘束層4がグリーンシートであることが好ましい。
【0071】
また、本実施形態の製造方法で得られた固体電解質シート1は、平坦性に優れることから、固体電解質シート1上に電極層をより一層均一に塗布することができる。そのため、電極層の厚みにムラが生じ難く、局所的に内部抵抗が大きい箇所が生じ難い。よって、得られた固体電解質シート1を用いた場合、全固体ナトリウムイオン二次電池のレート特性を高めることができる。
【0072】
また、本実施形態においては、積層体10の焼成により、第1の固体電解質の結晶が生成する際、第1のグリーンシート2の表面で第1の固体電解質と第2の固体電解質とが反応する。そのため、第1の拘束層3及び第2の拘束層4を除去する際に、第1の固体電解質と反応した第2の固体電解質が、固体電解質シート1の表面に残存することとなる。その結果、固体電解質シート1の表面が粗面化されることとなる。特に、本実施形態の製造方法では、表面に残存した第2の固体電解質により粗面化することができるので、乾式研磨やサンドブラストで粗面化した場合とは異なり、割れを生じることなく粗面化することができる。
【0073】
このように、本実施形態の製造方法では、固体電解質シート1の表面を粗面化することができるので、比表面積を大きくすることができる。そのため、固体電解質シート1の表面上に電極層を形成したときに、電極層とのイオンのやり取りが増加し、全固体ナトリウムイオン二次電池のレート特性を高めることができる。
【0074】
(固体電解質シート)
本発明の固体電解質シートは、例えば、上述した固体電解質シート1の製造方法により得ることができる。
【0075】
固体電解質シート1の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは150μm以上、好ましくは2000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは200μm以下である。固体電解質シート1の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下して破損しやすくなり、また内部短絡が起こりやすくなる。一方、固体電解質シート1の厚みが厚すぎると、充放電に伴うナトリウムイオン伝導距離が長くなるため内部抵抗が大きくなり、放電容量及び作動電圧が低下しやすくなる。また、全固体ナトリウムイオン二次電池の単位体積当たりのエネルギー密度も低下することがある。
【0076】
固体電解質シート1の算術平均粗さRaは、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上、好ましくは5.5μm以下、より好ましくは2μm以下である。算術平均粗さRaが上記下限以上である場合、固体電解質シート1から電極層がより一層剥離し難く、充放電容量をより一層高めることができる。また、算術平均粗さRaが上記上限以下である場合、固体電解質シート1と電極層との間に空隙が生じ難く、充放電容量をより一層高めることができる。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0633−2001に準拠して測定することができる。
【0077】
(全固体ナトリウムイオン二次電池)
本発明の製造方法で得られた固体電解質シートは、全固体ナトリウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。全固体ナトリウムイオン二次電池は、固体電解質シートの一方の面に正極層が形成され、他方の面に負極層が形成されてなる。
【0078】
正極層;
正極層は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な正極活物質を含み、正極層として機能するものであれば特に限定されない。正極活物質は、例えば、ガラス粉末等の正極活物質前駆体粉末を焼成して形成してもよい。正極活物質前駆体粉末を焼成することにより、正極活物質結晶が析出し、この正極活物質結晶が正極活物質として作用する。
【0079】
正極活物質として作用する正極活物質結晶としては、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co、V及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P及びOを含むナトリウム遷移金属リン酸塩結晶が挙げられる。具体例としては、NaFeP、NaFePO、Na(PO、NaNiP、Na3.64Ni2.18(P、NaNi(PO(P)、NaCoP、Na3.64Co2.18(P等が挙げられる。当該ナトリウム遷移金属リン酸塩結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため好ましい。なかでも空間群P1またはP−1に属する三斜晶系結晶、特に一般式Na(1.2≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8)で表される結晶がサイクル特性に優れるため好ましい。その他に正極活物質として作用する正極活物質結晶としては、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4等の層状ナトリウム遷移金属酸化物結晶が挙げられる。なお、正極層に含まれる正極活物質結晶は、1種類の結晶のみが析出した単相であってもよく、複数種類の結晶が析出した混相であってもよい。
【0080】
正極活物質前駆体粉末としては、(i)Cr、Fe、Mn、Co、Ni、Ti及びNbから選択される少なくとも1種の遷移金属元素、(ii)P、Si及びBから選択される少なくとも1種の元素、並びに(iii)Oを含むものが挙げられる。
【0081】
正極活物質前駆体粉末としては、特に酸化物換算のモル%で、NaO:8%〜55%、CrO+FeO+MnO+CoO+NiO:10%〜70%、P+SiO+B:15%〜70%を含有するものが挙げられる。各成分をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0082】
NaOは、充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。NaOの含有量は、好ましくは8%〜55%、より好ましくは15%〜45%、さらに好ましくは25%〜35%である。NaOが少なすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、NaOが多すぎると、NaPO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0083】
CrO、FeO、MnO、CoO、NiOは、充放電の際に各遷移元素の価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する成分である。なかでも、NiO及びMnOは酸化還元電位を高める効果が大きい。また、FeOは充放電において特に構造を安定化させやすく、サイクル特性を向上させやすい。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOの含有量は、好ましくは10〜70%、より好ましくは15%〜60%、さらに好ましくは20%〜55%、さらに好ましくは23%〜50%、特に好ましくは25%〜40%、最も好ましくは26%〜36%である。CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが少なすぎると、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。一方、CrO+FeO+MnO+CoO+NiOが多すぎると、異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0084】
、SiO及びBは3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。特に、P、SiOがナトリウムイオン伝導性に優れるために好ましく、Pがより好ましい。P+SiO+Bの含有量は、好ましくは15%〜70%、より好ましくは20%〜60%、さらに好ましくは25%〜45%である。P+SiO+Bが少なすぎると、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる傾向にある。一方、P+SiO+Bが多すぎると、P等の充放電に寄与しない異種結晶が析出する傾向にある。なお、P、SiO及びBの各成分の含有量は各々好ましくは0%〜70%、より好ましくは15%〜70%、さらに好ましくは20%〜60%、特に好ましくは25%〜45%である。
【0085】
また、正極活物質としての効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて種々の成分を含有させることでガラス化を容易にすることができる。このような成分としては、酸化物表記でMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CuO、Al、GeO、Nb、TiO、ZrO、V、Sbが挙げられ、特に網目形成酸化物として働くAlや活物質成分となるVが好ましい。上記成分の含有量は、合量で、好ましくは0%〜30%、より好ましくは0.1%〜20%、さらに好ましくは0.5%〜10%である。
【0086】
正極活物質前駆体粉末は、焼成により、正極活物質結晶とともに非晶質相が形成されるものであることが好ましい。非晶質相が形成されることにより、正極層内及び正極層と固体電解質シート1との界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0087】
正極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜15μm、より好ましくは0.05μm〜12μm、さらに好ましくは0.1μm〜10μmである。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質前駆体粉末同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散性に劣る傾向がある。その結果、電池の内部抵抗が高くなり作動電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの容量が低下する傾向がある。一方、活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
【0088】
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
【0089】
正極層の厚みは、3μm〜300μmの範囲であることが好ましく、10μm〜150μmの範囲であることがより好ましい。正極層の厚みが薄すぎると、全固体ナトリウムイオン二次電池自体の容量が小さくなることから、エネルギー密度が低下する場合がある。正極層の厚みが厚すぎると、電子伝導に対する抵抗が大きくなるため放電容量及び作動電圧が低下する傾向にある。
【0090】
正極層には、必要に応じて、固体電解質粉末が含まれていてもよい。従って、正極層は、正極活物質と、固体電解質粉末との合材である正極合材であってもよい。固体電解質粉末としては、上述の固体電解質シート1と同様の材料の粉末を用いることができる。固体電解質粉末を含むことにより、正極層内及び正極層と固体電解質シート1との界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜15μm、より好ましくは0.05μm〜10μm、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。
【0091】
固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオン伝導に要する距離が長くなりナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。また、正極活物質粉末と固体電解質粉末との間のナトリウムイオン伝導パスが減少する傾向がある。結果として、放電容量が低下しやすくなる。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、ナトリウムイオンの溶出や炭酸ガスとの反応による劣化が起こってナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。また、空隙が形成されやすくなるため電極密度も低下しやすくなる。結果として、放電容量が低下する傾向がある。
【0092】
正極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末の体積比は、好ましくは20:80〜95:5、より好ましくは30:70〜90:10、さらに好ましくは35:65〜88:12である。
【0093】
また、正極層には、必要に応じて、カーボン粉末等の導電助剤やバインダーが含まれていてもよい。導電助剤が含まれることにより、正極層の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、正極層中に0質量%〜20質量%で含有させることが好ましく、1質量%〜10質量%の割合で含有させることがより好ましい。
【0094】
バインダーとしては、不活性雰囲気で低温分解するポリプロピレンカーボネート(PPC)が好ましい。また、ナトリウムイオン伝導性に優れるカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
【0095】
負極層;
負極層は、ナトリウムを吸蔵・放出可能な負極活物質を含み、負極層として機能するものであれば特に限定されない。負極活物質は、例えば、ガラス粉末等の負極活物質前駆体粉末を焼成して形成してもよい。負極活物質前駆体粉末を焼成することにより、負極活物質結晶が析出し、この負極活物質結晶が負極活物質として作用する。
【0096】
負極活物質として作用する負極活物質結晶としては、例えば、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、またはSn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含む合金結晶を挙げることができる。
【0097】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、サイクル特性に優れるため好ましい。さらに、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、Na及び/又はLiを含むと、充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)が高まり、高い充放電容量を維持することができるため好ましい。なかでも、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶又は単斜晶系結晶、特に空間群P2/mに属する単斜晶系結晶であれば、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため、より好ましい。
【0098】
斜方晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。六方晶系結晶としては、NaTiO、NaTi13、NaTiO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiTi等が挙げられる。立方晶系結晶としては、NaTiO、NaNbO、LiTi12、LiNbO等が挙げられる。単斜晶系結晶としては、NaTi13、NaTi、NaTiO、NaTi12、NaTi、NaTi19、NaTi、NaTi、Li1.7Nb、Li1.9Nb、Li12Nb1333、LiNb等が挙げられる。空間群P2/mに属する単斜晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。
【0099】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、さらに、B、Si、P及びGeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、負極活物質結晶とともに非晶質相を形成させやすくし、ナトリウムイオン伝導性をより一層向上させる効果を有する。
【0100】
その他に、Na金属結晶、または少なくともNaを含む合金結晶(例えばNa−Sn合金、Na−In合金)や、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含む合金結晶(例えばSn−Cu合金、Bi−Cu合金、Bi−Zn合金)、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含有するガラスを用いることができる。これらは、高容量であり、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。
【0101】
負極活物質前駆体粉末としては、酸化物換算のモル%で、SnO:0%〜90%、Bi:0%〜90%、TiO:0%〜90%、Fe:0%〜90%、Nb:0%〜90%、SiO+B+P:5%〜75%、NaO:0%〜80%を含有することが好ましい。上記構成にすることにより、負極活物質成分であるSnイオン、Biイオン、Tiイオン、Feイオン又はNbイオンが、Si、B又はPを含有する酸化物マトリクス中により均一に分散した構造が形成される。また、NaOを含有することにより、ナトリウムイオン伝導性により一層優れた材料となる。結果として、ナトリウムイオンを吸蔵及び放出する際の体積変化を抑制でき、サイクル特性により一層優れた負極活物質を得ることが可能となる。
【0102】
負極活物質前駆体粉末の組成を上記の通り限定した理由を以下に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。また、「○+○+・・・」は該当する各成分の合量を意味する。
【0103】
SnO、Bi、TiO、Fe及びNbは、アルカリイオンを吸蔵及び放出するサイトとなる負極活物質成分である。これらの成分を含有させることにより、負極活物質の単位質量当たりの放電容量がより大きくなり、かつ、初回充放電時の充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)がより向上しやすくなる。但し、これらの成分の含有量が多すぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化を緩和できずに、サイクル特性が低下する傾向がある。以上に鑑み、各成分の含有量範囲は以下の通りとすることが好ましい。
【0104】
SnOの含有量は、好ましくは0%〜90%、より好ましくは45%〜85%、さらに好ましくは55%〜75%、特に好ましくは60%〜72%である。
【0105】
Biの含有量は、好ましくは0%〜90%、より好ましくは10%〜70%、さらに好ましくは15%〜65%、特に好ましくは25%〜55%である。
【0106】
TiOの含有量は、好ましくは0%〜90%、より好ましくは5%〜72%、さらに好ましくは10%〜68%、さらに好ましくは12%〜58%、特に好ましくは15%〜49%、最も好ましくは15%〜39%である。
【0107】
Feの含有量は、好ましくは0%〜90%、より好ましくは15%〜85%、さらに好ましくは20%〜80%、特に好ましくは25%〜75%である。
【0108】
Nbの含有量は、好ましくは0%〜90%、より好ましくは7%〜79%、さらに好ましくは9%〜69%、さらに好ましくは11%〜59%、特に好ましくは13%〜49%、最も好ましくは15%〜39%である。なお、SnO+Bi+TiO+Fe+Nbは、好ましくは0%〜90%、より好ましくは5%〜85%、さらに好ましくは10%〜80%である。
【0109】
また、SiO、B及びPは、網目形成酸化物であり、上記負極活物質成分におけるナトリウムイオンの吸蔵及び放出サイトを取り囲み、サイクル特性をより一層向上させる作用がある。なかでも、SiO及びPは、サイクル特性をより一層向上させるだけでなく、ナトリウムイオン伝導性に優れるため、レート特性をより一層向上させる効果がある。
【0110】
SiO+B+Pは、好ましくは5%〜85%、より好ましくは6%〜79%、さらに好ましくは7%〜69%、さらに好ましくは8%〜59%、特に好ましくは9%〜49%、最も好ましくは10%〜39%である。SiO+B+Pが少なすぎると、充放電時のナトリウムイオンの吸蔵及び放出に伴う負極活物質成分の体積変化を緩和できず構造破壊を起こすため、サイクル特性が低下しやすくなる。一方、SiO+B+Pが多すぎると、相対的に負極活物質成分の含有量が少なくなり、負極活物質の単位質量当たりの充放電容量が小さくなる傾向がある。
【0111】
なお、SiO、B及びPの各々の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0112】
SiOの含有量は、好ましくは0%〜75%、より好ましくは5%〜75%、さらに好ましくは7%〜60%、さらに好ましくは10%〜50%、特に好ましくは12%〜40%、最も好ましくは20%〜35%である。SiOの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなる。
【0113】
の含有量は、好ましくは5%〜75%、より好ましくは7%〜60%、さらに好ましくは10%〜50%、特に好ましくは12%〜40%、最も好ましくは20%〜35%である。Pの含有量が少なすぎると、上記の効果が得られにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、耐水性が低下しやすくなる。また、水系電極ペーストを作製した際に、望まない異種結晶が生じてPネットワークが切断されるため、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0114】
の含有量は、好ましくは0%〜75%、より好ましくは5%〜75%、さらに好ましくは7%〜60%、さらに好ましくは10%〜50%、特に好ましくは12%〜40%、最も好ましくは20%〜35%である。Bの含有量が多すぎると、放電容量が低下しやすくなるとともに、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0115】
負極活物質前駆体粉末は、焼成により、負極活物質結晶とともに非晶質相が形成されるものであることが好ましい。非晶質相が形成されることにより、負極層内及び負極層と固体電解質シートとの界面におけるナトリウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0116】
負極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜15μm、より好ましくは0.05μm〜12μm、さらに好ましくは0.1μm〜10μmである。負極活物質前駆体粉末の平均粒子径が小さすぎると、負極活物質前駆体粉末同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散性に劣る傾向がある。その結果、電池の内部抵抗が高くなり作動電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの容量が低下する傾向がある。一方、負極活物質前駆体粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
【0117】
なお、本発明において、平均粒子径は、D50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値を指すものとする。
【0118】
負極層の厚みは、0.3μm〜300μmの範囲であることが好ましく、3μm〜150μmの範囲であることがより好ましい。負極層の厚みが薄すぎると、負極の絶対容量(mAh)が低下する傾向にある。負極層の厚みが厚すぎると、抵抗が大きくなるため容量(mAh/g)が低下する傾向にある。
【0119】
負極層には、固体電解質粉末、導電助剤、バインダー等が含有されていてもよい。固体電解質粉末を含有させ負極合材とすることにより、負極活物質と固体電解質粉末の接触界面が増加し、充放電に伴うナトリウムイオンの吸蔵・放出が行いやすくなり、その結果レート特性をより一層向上させることができる。
【0120】
固体電解質粉末としては、上述の固体電解質シート1における第1及び第2の固体電解質と同様の材料の粉末を用いることができる。固体電解質粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01μm〜15μm、より好ましくは0.05μm〜10μm、さらに好ましくは0.1μm〜5μmである。
【0121】
固体電解質粉末の平均粒子径が大きすぎると、ナトリウムイオン伝導に要する距離が長くなりナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。また、負極活物質粉末と固体電解質粉末との間のナトリウムイオン伝導パスが減少する傾向がある。結果として、放電容量が低下しやすくなる。一方、固体電解質粉末の平均粒子径が小さすぎると、ナトリウムイオンの溶出や炭酸ガスとの反応による劣化が起こってナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。また、空隙が形成されやすくなるため電極密度も低下しやすくなる。結果として、放電容量が低下する傾向がある。
【0122】
負極活物質前駆体粉末と固体電解質粉末の体積比は、好ましくは20:80〜95:5、より好ましくは30:70〜90:10、さらに好ましくは35:65〜88:12である。
【0123】
導電助剤としては、例えば、カーボン粉末等が挙げられる。導電助剤が含まれることにより、負極層の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、負極層中に0質量%〜20質量%で含有させることが好ましく、1質量%〜10質量%の割合で含有させることがより好ましい。
【0124】
バインダーとしては、不活性雰囲気で低温分解するポリプロピレンカーボネート(PPC)が好ましい。また、イオン伝導性に優れるカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0126】
(実施例1)
(a)第1のグリーンシート用のスラリー作製
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、NaO:13.0%、Al:80.2%、MgO:6.8%となるように原料粉末を調製した。なお、原料粉末を1250℃で4時間仮焼成した後、粉砕、分級したものを使用した(仮焼原料)。次に、原料粉末と、バインダーとしてアクリル酸エステル系共重合体(共栄社化学社製、「オリコックス1700」)、可塑剤としてフタル酸ベンジルブチルを用い、原料粉末:バインダー:可塑剤=83.5:14:2.5(質量比)となるように秤量し、N−メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、第1のグリーンシート用のスラリーを作製した。
【0127】
(b)第2のグリーンシート(拘束用グリーンシート)用の固体電解質粉末の作製
仮焼原料を用いてΦ30mmのプレス金型に充填し、40MPaでプレスして圧粉体を作製した。次に、この圧粉体を1600℃で30分間焼成して、β”−アルミナの焼結体を得た。この焼結体を粉砕、分級することでD50:2.0μmの固体電解質粉末を得た。
【0128】
(c)第2のグリーンシート(拘束用グリーンシート)用のスラリー作製
上記と同様に、得られた固体電解質粉末を、固体電解質粉末:バインダー:可塑剤=83.5:14:2.5(質量比)となるように秤量し、N−メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、第2のグリーンシート用のスラリーを作製した。
【0129】
(d)第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの作製
PETフィルム上に、ドクターブレードを用いて上記で得られた第1のグリーンシート用のスラリーを塗布し、70℃で乾燥することにより第1のグリーンシートを得た。また、PETフィルム上に、ドクターブレードを用いて上記で得られた第2のグリーンシート用のスラリーを塗布し、70℃で乾燥することにより第2のグリーンシートを得た。
【0130】
(e)グリーンシート積層体
得られた第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートをそれぞれ15mm角に切断し、第1のグリーンシートの両主面に、第2のグリーンシートを重ね合わせて、等方圧プレス装置を用いて90℃、40MPaで、5分間プレスし積層体を得た。プレス後の積層体をMgOセッター上に設置し、500℃で1時間脱バインダーのための焼成を行い、さらに1600℃で30分間本焼成を行った。
【0131】
(f)拘束層の除去
拘束層として表面に積層している固体電解質粉末を高圧エアーで吹き飛ばして除去し、固体電解質シートを得た。なお、得られた固体電解質シートの表面には、拘束層由来の固体電解質粉末が付着していた。
【0132】
(g)表面粗さRaの測定
得られた固体電解質シートの表面粗さRaは、接触式表面形状測定器(小坂研究所製、品番「ET4000A」)を用いて、JIS B 0633−2001(ISO 4288−1966)の手順に記載されている方法で測定することにより求めた。
【0133】
(h)全固体ナトリウムイオン二次電池の作製
(h−1)正極活物質結晶前駆体粉末の作製
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、酸化第二鉄(Fe)及びオルソリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO:40%、Fe:20%、P:40%となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、正極活物質結晶前駆体を作製した。
【0134】
得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末を得た。次いで、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤にエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0135】
析出される活物質結晶を確認するため、質量%で、得られた正極活物質結晶前駆体粉末:93%、アセチレンブラック(TIMCAL社製、「SUPER C65」):7%を十分に混合した後、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素:96体積%、水素:4体積%)中、550℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)由来の回折線が確認された。なお、粉末X線回折パターンは、X線回折装置(RIGAKU社、「RINT2000」)を用いて測定した。
【0136】
(h−2)試験電池の作製
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末:72%、固体電解質粉末:25%、アセチレンブラック(TIMCAL社製、「SUPER C65」):3%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢及び乳棒を用いて30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0137】
表面に開口部10mm角、厚さ100μmのマスキングシールを貼り付けた上記の固体電解質シートに対し、スキージを用いてスラリーを塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中、550℃にて1時間焼成することで固体電解質シートの一方の表面に正極層を形成した。得られた正極層についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFePO7)及びナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−アルミナ[(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。
【0138】
正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製、「SC−701AT」)を用いて厚み300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを固体電解質シートの正極層が形成された層とは反対の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0139】
(h−3)充放電試験
得られた試験電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量を測定した。結果を表1に示す。充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4.3VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4.3Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.01Cとした。
【0140】
なお、表1中の平均電圧及び放電容量は、Cレート0.01Cで評価した初回の平均電圧及び放電容量を意味し、急速充放電特性は、Cレート0.01Cの初回放電容量に対する0.1Cの初回放電容量の割合((0.1C/0.01C)×100(%))をそれぞれ示している。
【0141】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の拘束用グリーンシート(第2のグリーンシート)の代わりに、α−アルミナ粉末からなるグリーンシートを用いた。具体的には、平均粒径0.4μmのα−アルミナ粉末を、α−アルミナ:バインダー:可塑剤=84:14:2(質量比)となるように秤量し、N−メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化し、ドクターブレード法により厚み120μmのα−アルミナ粉末からなるグリーンシートを作製した。次に、得られたα−アルミナ粉末からなるグリーンシートを、実施例1と同じ基材用のグリーンシート(第1のグリーンシート)の両主面に、重ね合わせて、等方圧プレス装置を用いて90℃、40MPaで、5分間プレスし積層体を得た。その他の点は、実施例1と同様にして固体電解質シートを得た。また、得られた固体電解質シートについて実施例1と同様の評価を行った。
【0142】
結果を下記の表1に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
表1に示すように、実施例1では、拘束層によりアルカリ金属イオンの蒸発が抑制され、充放電試験において良好な結果が得られた。一方、比較例1においては、電池が作動しなかった。これは、グリーンシートを焼成する際にナトリウムイオンが蒸発し、表面にナトリウムイオンが存在しない、ナトリウムイオン欠乏層が形成され、それによって、イオン伝導性が低下したためであると考えられる。また、焼成により得られた固体電解質シートの表面にα−アルミナが付着し、α−アルミナのナトリウムイオン欠乏層が形成され、それによって、イオン伝導性が低下したためであると考えられる。
【符号の説明】
【0145】
1…固体電解質シート
2a…第1の主面
2b…第2の主面
2…第1のグリーンシート
2A…焼成後の第1のグリーンシート
3…第1の拘束層
3A…焼成後の第1の拘束層
4…第2の拘束層
4A…焼成後の第2の拘束層
5…第1の固体電解質の原料粉末
6…第2の固体電解質の粉末
10…積層体
図1
図2
図3
図4