特許第6870679号(P6870679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6870679アルツハイマー型認知症の将来の発症リスクの評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870679
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】アルツハイマー型認知症の将来の発症リスクの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   G01N33/68
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-526464(P2018-526464)
(86)(22)【出願日】2017年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2017025050
(87)【国際公開番号】WO2018008763
(87)【国際公開日】20180111
【審査請求日】2020年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-136339(P2016-136339)
(32)【優先日】2016年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池内 健
(72)【発明者】
【氏名】矢野 由紀
(72)【発明者】
【氏名】嵐田 直子
(72)【発明者】
【氏名】西本 瑠美
(72)【発明者】
【氏名】新保 和高
(72)【発明者】
【氏名】河合 信宏
【審査官】 三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−521928(JP,A)
【文献】 ORESIC, M. et al.,Metabolome in progression to Alzheimer's disease,Translational Psychiatry,2011年12月13日,Vol.1, No. e57,pp. 1-9
【文献】 HYE, A. et al.,Plasma proteins predict conversion to dementia from prodromal disease,Alzheimer's & Dementia,2014年,Vol. 10, Issue. 6,pp. 799-807.e2
【文献】 GRAHAM, S.F. et al.,Untargeted Metabolomic Analysis of Human plasma Indicates Differentially Affected Polyamine and L-Ar,PLOS ONE,2015年,pp. 1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価するための情報を取得する取得ステップを含むこと、
を特徴とする取得方法。
【請求項2】
制御部を備えた評価装置であって、
前記制御部は、
軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段
を備えたこと、
を特徴とする評価装置。
【請求項3】
制御部を備えた情報処理装置において実行される取得方法であって、
前記制御部において実行される、
軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価するための情報を取得する取得ステップ
を含むこと、
を特徴とする取得方法。
【請求項4】
制御部を備えた情報処理装置において実行させるための評価プログラムであって、
前記制御部において実行させるための、
軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価ステップ
を含むこと、
を特徴とする評価プログラム。
【請求項5】
制御部を備えた評価装置と制御部を備えた端末装置とをネットワークを介して通信可能に接続して構成された評価システムであって、
前記端末装置の前記制御部は、
軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値に関する濃度データを前記評価装置へ送信する濃度データ送信手段と、
前記評価装置から送信された、前記評価対象についてのアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクに関する評価結果を受信する結果受信手段と、
を備え、
前記評価装置の前記制御部は、
前記端末装置から送信された前記濃度データを受信する濃度データ受信手段と、
前記濃度データ受信手段で受信した前記濃度データに含まれている前記濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段と、
前記評価手段で得られた前記評価結果を前記端末装置へ送信する結果送信手段と、
を備えたこと、
を特徴とする評価システム。
【請求項6】
制御部を備えた端末装置であって、
前記制御部は、
軽度認知障害を有する評価対象についてのアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクに関する評価結果を取得する結果取得手段
を備え、
前記評価結果は、前記評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価した結果であること、
を特徴とする端末装置。
【請求項7】
端末装置とネットワークを介して通信可能に接続された、制御部を備えた評価装置であって、
前記制御部は、
前記端末装置から送信された、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の少なくともα−ABAの濃度値に関する濃度データを受信する濃度データ受信手段と、
前記濃度データ受信手段で受信した前記濃度データに含まれている前記濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段と、
前記評価手段で得られた評価結果を前記端末装置へ送信する結果送信手段と、
を備えたこと、
を特徴とする評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s Disease:以下、ADと記す場合がある。)の将来の発症リスクの評価方法、評価装置、評価プログラム、評価システム及び端末装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知症は、後天的な脳の病変により正常に発達した知的機能が全般的かつ持続的に低下し日常生活に支障を生じた状態を指し、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次大脳機能の障害からなる症候群」と定義される疾患である(非特許文献1)。複数からなる認知症の原因疾患のうち、約6割と最も高い割合を占めるのがアルツハイマー型認知症である。
【0003】
ADの典型的な神経病理的特徴としては、脳における老人班及び神経原繊維変化が挙げられる。老人班の原因はアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質の沈着であり、神経原繊維変化の原因は過剰にリン酸化されたタウタンパク質であることが分かっている。近年行われた大規模観察研究により、これらの病理的特徴はADを発症する以前から始まっていることが明らかになっている(非特許文献2)。近年、脳組織におけるAβ及びリン酸化タウタンパク質の蓄積並びに脳組織の委縮を定量化する手法として、ポジトロン断層撮影法(PET(positron emission tomography))、シングルフォトン断層撮影法(SPECT(signle photon emission computed tomography))及び核磁共鳴画像法(MRI(magnetic resonance imaging))等の画像診断技術が提供されている。しかしながら、これらの画像診断技術のいずれも単独での確定診断法としては推奨されていない。そのため、ADは、神経心理検査や、問診による臨床症状所見等との総合評価に基づいて診断されているのが現状である。この他、脳脊髄液(CSF(cerebrospinal fluid))中のAβ及びリン酸化タウタンパク質の濃度を指標としたADの診断技術も提供されている(非特許文献3)。
【0004】
一方、ADの治療薬としてはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤やNMDA(N−methyl−D−aspartic acid)受容体阻害剤が用いられているが、いずれの薬も症状の進行を一定期間遅延させる効果しか得られていないので、根本治療に要求される病態修飾療法は未だ確立されていない。また、Aβやリン酸化タウタンパク質の蓄積といった神経病理的知見に基づく抗体医薬等の開発も行われているが、明確な効果を示す候補薬が得られていないのが現状である。そのため、近年では、ADを発症する前段階を介入対象としたAD治療薬及びAD予防薬の治験が増加しつつある。
【0005】
このように、近年では、AD発症前の早期診断及び早期介入によるAD発症予防の必要性が高まっている。ここで、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下、MCIと記す場合がある。)は、年齢や正常な老化と比べて認知機能に問題はあるが、日常生活に支障はなく認知症との診断には至らない、さまざまな認知症の前段階または境界例と考えられる状態を指す。現状、主に2つの診断基準が提唱され、広く受け入れられている(非特許文献4、5)。MCIと診断された患者の多くが高確率で数年後にADを発症することが明らかになっている。しかし、MCI罹患者の全てがADを発症するとは限らず、例えば脳血管型認知症やレヴィー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症等のADとは異なるタイプの認知症を発症することもある。さらに、認知症のタイプごとに治療法が異なる。よって、MCI罹患の段階で、病態に適した治療方針を判断することは困難である。そのため、さまざまな疾患を背景として認知機能低下を示すMCIの集団について症状がMCIから将来ADへ進行するか否かを判定する発症予測技術を提供することにより、早期からの適切な介入及び治療法の選択に役立つことが期待される。また、このような発症予測技術を提供することにより、MCIを対象としたAD治療薬及びAD予防薬の治験等における適切な被験者の選択手段としての当該技術の活用も期待される。
【0006】
また、近年、AD診断技術として用いられるアミロイドPET及びタウPET等の画像診断法のADの発症予測指標としての適用について研究が行われているものの、自覚症状のない無症状期の患者にこれらの侵襲性の高い検査を受診させることは現実的とはいえない。そのため、より簡便且つ安価なスクリーニング検査技術が求められる。
【0007】
ところで、血液中のアミノ酸及びアミノ酸関連代謝物の濃度を測定し、特定の疾患における特徴に基づいて罹患リスクを判定する方法は、癌やメタボリックシンドローム、肝疾患等において知られている(特許文献1、2、3)。また、血液中の特定のアミノ酸濃度を指標としたADの診断技術も考案されている(特許文献4)。他方、血液検査によりMCIを判別する技術としては、血液中のペプチド断片濃度を測定し指標とする技術が考案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−025946号公報
【特許文献2】特開2016−029398号公報
【特許文献3】特開2013−040923号公報
【特許文献4】特開2011−242217号公報
【特許文献5】特開2016−028244号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】国際疾病分類第10版(世界保健機関)
【非特許文献2】Jackら、Lancet Neurol(2010)9(1):119-28.; Hypothetical model of dynamic biomarkers of the Alzheimer's pathological cascade.
【非特許文献3】Knopmanら、Neurology.(2001)8;56(9):1143-53.; Practice parameter: diagnosis of dementia (an evidence-based review). Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology.
【非特許文献4】Petersenら、Arch Neurol (1999) 56(6):760.; Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome.
【非特許文献5】Winbladら、J. Intern. Med. (2004)256(3):240-6.; Mild cognitive impairment--beyond controversies, towards a consensus: report of the International Working Group on Mild Cognitive Impairment.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、血液検査で得られる血液中のアミノ酸及びアミノ酸関連代謝物の濃度を指標としてMCIからの将来のAD発症リスクを判定するといった簡便且つ安価な技術に関しては、開発されていない又は実用化されていない、という課題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、MCIからの将来のAD発症リスク(MCIから将来ADへ進行するリスク)を知る上で参考となり得る信頼性の高い情報を提供することができる評価方法、評価装置、評価プログラム、評価システム及び端末装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる評価方法は、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の23種類のアミノ酸(α−ABA,Ala,Arg,Asn,Cit,Gln,Glu,Gly,His,Ile,Leu,Lys,Met,Orn,Phe,Pro,Ser,Thr,Trp,Tyr,Val,Cysteine,Taurine)及び7種類のアミノ酸関連代謝物(bABA[3−Aminobutanoic acid],Ethylglycine,Hypotaurine,3−Me−His[N(tau)−Methyl−L−histidine],5−HydroxyTrp[5−Hydroxytryptophan],aAiBA[2−Aminoisobutyric acid],N8−Acetylspermidine)のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価ステップを含むこと、を特徴とする。
【0013】
ここで、本明細書では各種アミノ酸を主に略称で表記するが、それらの正式名称は以下の通りである。
(略称) (正式名称)
α−ABA α−Aminobutyric acid
Ala Alanine
Arg Arginine
Asn Asparagine
Cit Citrulline
Gln Glutamine
Glu Glutamic acid
Gly Glycine
His Histidine
Ile Isoleucine
Leu Leucine
Lys Lysine
Met Methionine
Orn Ornithine
Phe Phenylalanine
Pro Proline
Ser Serine
Thr Threonine
Trp Tryptophan
Tyr Tyrosine
Val Valine
【0014】
また、本発明にかかる評価装置は、制御部を備えた評価装置であって、前記制御部は、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段を備えたこと、を特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる評価方法は、制御部を備えた情報処理装置において実行される評価方法であって、前記制御部において実行される、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価ステップを含むこと、を特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる評価プログラムは、制御部を備えた情報処理装置において実行させるための評価プログラムであって、前記制御部において実行させるための、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価ステップを含むこと、を特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる記録媒体は、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、情報処理装置に前記評価方法を実行させるためのプログラム化された命令を含むこと、を特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる評価システムは、制御部を備えた評価装置と制御部を備えた端末装置とをネットワークを介して通信可能に接続して構成された評価システムであって、前記端末装置の前記制御部は、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値に関する濃度データを前記評価装置へ送信する濃度データ送信手段と、前記評価装置から送信された、前記評価対象についてのアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクに関する評価結果を受信する結果受信手段と、を備え、前記評価装置の前記制御部は、前記端末装置から送信された前記濃度データを受信する濃度データ受信手段と、前記濃度データ受信手段で受信した前記濃度データに含まれている前記少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段と、前記評価手段で得られた前記評価結果を前記端末装置へ送信する結果送信手段と、を備えたこと、を特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる端末装置は、制御部を備えた端末装置であって、前記制御部は、軽度認知障害を有する評価対象についてのアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクに関する評価結果を取得する結果取得手段を備え、前記評価結果は、前記評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価した結果であること、を特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる端末装置は、前記の端末装置において、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価装置とネットワークを介して通信可能に接続されており、前記制御部は、前記少なくとも1つの濃度値に関する濃度データを前記評価装置へ送信する濃度データ送信手段をさらに備え、前記結果取得手段は、前記評価装置から送信された前記評価結果を受信すること、を特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる評価装置は、端末装置とネットワークを介して通信可能に接続された、制御部を備えた評価装置であって、前記制御部は、前記端末装置から送信された、軽度認知障害を有する評価対象の血液中の前記23種類のアミノ酸及び前記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値に関する濃度データを受信する濃度データ受信手段と、前記濃度データ受信手段で受信した前記濃度データに含まれている前記少なくとも1つの濃度値を用いて、前記評価対象についてアルツハイマー型認知症の将来の発症リスクを評価する評価手段と、前記評価手段で得られた評価結果を前記端末装置へ送信する結果送信手段と、を備えたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、MCIからの将来のAD発症リスク(MCIから将来ADへ進行するリスク)を知る上で参考となり得る信頼性の高い情報を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態の基本原理を示す原理構成図である。
図2図2は、第2実施形態の基本原理を示す原理構成図である。
図3図3は、本システムの全体構成の一例を示す図である。
図4図4は、本システムの評価装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、濃度データファイル106aに格納される情報の一例を示す図である。
図6図6は、評価結果ファイル106bに格納される情報の一例を示す図である。
図7図7は、評価部102bの構成を示すブロック図である。
図8図8は、本システムのクライアント装置200の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる評価方法の実施形態(第1実施形態)、及び、本発明にかかる評価装置、評価方法、評価プログラム、記録媒体、評価システム及び端末装置の実施形態(第2実施形態)を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施形態により限定されるものではない。
【0025】
[第1実施形態]
[1−1.第1実施形態の概要]
ここでは、第1実施形態の概要について図1を参照して説明する。図1は第1実施形態の基本原理を示す原理構成図である。
【0026】
まず、MCIを有する評価対象(例えば動物やヒトなどの個体)から採取した血液(例えば血漿、血清などを含む)中の上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つ(上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物から任意に選ばれる1つ又は複数の物質)の濃度値に関する濃度データを取得する(ステップS11)。ここで、MCIを有する評価対象とは、例えば、MCIの既存の診断基準(例えば非特許文献4など)に基づきMCIと診断された評価対象などである。
【0027】
なお、ステップS11では、例えば、濃度値測定を行う企業等が測定した濃度データを取得してもよい。また、評価対象から採取した血液から、例えば以下の(A)、(B)又は(C)などの測定方法により濃度値を測定することで濃度データを取得してもよい。ここで、濃度値の単位は、例えばモル濃度、重量濃度又は酵素活性であってもよく、これらの濃度に任意の定数を加減乗除することで得られるものでもよい。なお、(A)の測定方法を用いる場合は、質量分析計より得られたクロマトグラムにおける各物質のピーク面積またはピーク高さ値を濃度値の代わりに使用しても良い。
(A)採取した血液サンプルを遠心することにより血液から血漿を分離する。全ての血漿サンプルは、濃度値の測定時まで−80℃で凍結保存する。濃度値測定時には、アセトニトリルを添加し除蛋白処理を行った後、標識試薬(3−アミノピリジル−N−ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート)を用いてプレカラム誘導体化を行い、そして、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)により濃度値を分析する(国際公開第2003/069328号、国際公開第2005/116629号を参照)。
(B)採取した血液サンプルを遠心することにより血液から血漿を分離する。全ての血漿サンプルは、濃度値の測定時まで−80℃で凍結保存する。濃度値測定時には、スルホサリチル酸を添加し除蛋白処理を行った後、ニンヒドリン試薬を用いたポストカラム誘導体化法を原理としたアミノ酸分析計により濃度値を分析する。
(C)採取した血液サンプルを、膜やMEMS技術または遠心分離の原理を用いて血球分離を行い、血液から血漿または血清を分離する。血漿または血清取得後すぐに濃度値の測定を行わない血漿または血清サンプルは、濃度値の測定時まで−80℃で凍結保存する。濃度値測定時には、酵素やアプタマーなど、標的とするアミノ酸又はアミノ酸関連代謝物と反応または結合する分子等を用い、基質認識によって増減する物質や分光学的値を定量等することにより濃度値を分析する。
【0028】
つぎに、ステップS11で取得した濃度データに含まれている、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価する(ステップS12)。なお、ステップS12を実行する前に、ステップS11で取得した濃度データから欠損値や外れ値などのデータを除去してもよい。ここで、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価するとは、例えば、この対象がADを将来発症するリスクを予測又は検査することである。また、将来とは、例えば、採血時から所定期間(例えば、医学分野において知られている「MCIからアルツハイマー型認知症へ進行するまでにかかる平均的な期間」、又は、例えば3年、4年、5年等といった年単位の期間、など)が経過した時、などである。
【0029】
以上、第1実施形態によれば、ステップS11ではMCIを有する評価対象の濃度データを取得し、ステップS12では、ステップS11で取得した評価対象の濃度データに含まれている、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価する。これにより、将来のAD発症リスクを知る上で参考となり得る信頼性の高い情報を、例えばMCIというAD発症の前段階で、例えばAD発症予防を目的として提供することができる。また、本実施形態に係る評価方法は、マススクリーニングに適した簡便且つ安価なAD発症リスク予測検査法として有用なものである。
【0030】
また、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値が評価対象についてのADの将来の発症リスクを反映したものであると決定してもよく、さらに濃度値を例えば以下に挙げた手法などで変換し、変換後の値が評価対象についてのADの将来の発症リスクを反映したものであると決定してもよい。換言すると、濃度値又は変換後の値そのものを、評価対象についてのADの将来の発症リスクに関する評価結果として扱ってもよい。
濃度値の取り得る範囲が所定範囲(例えば0.0から1.0までの範囲、0.0から10.0までの範囲、0.0から100.0までの範囲、又は−10.0から10.0までの範囲、など)に収まるようにする等のために、例えば、濃度値に対して任意の値を加減乗除したり、濃度値を所定の変換手法(例えば、指数変換、対数変換、角変換、平方根変換、プロビット変換、逆数変換、Box−Cox変換、又はべき乗変換など)で変換したり、また、濃度値に対してこれらの計算を組み合わせて行ったりすることで、濃度値を変換してもよい。例えば、濃度値を指数としネイピア数を底とする指数関数の値(具体的には、ADの将来の発症リスクが所定の状態(例えば高リスクの状態など)である確率pを定義したときの自然対数ln(p/(1−p))が濃度値と等しいとした場合におけるp/(1−p)の値)をさらに算出してもよく、また、算出した指数関数の値を1と当該値との和で割った値(具体的には、確率pの値)をさらに算出してもよい。
また、特定の条件のときの変換後の値が特定の値となるように、濃度値を変換してもよい。例えば、感度が95%のときの変換後の値が5.0となり且つ感度が80%のときの変換後の値が8.0となるように濃度値を変換してもよい。
また、各アミノ酸及びアミノ酸関連代謝物ごとに、濃度分布を正規分布化した後、平均50、標準偏差10となるように偏差値化してもよい。
なお、これらの変換は、男女別や年齢別に行ってもよい。
【0031】
また、濃度値を例えば上述した変換手法で変換した後の値を用いて、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価してもよい。
【0032】
また、モニタ等の表示装置又は紙等の物理媒体に視認可能に示される所定の物差し上における所定の目印の位置に関する位置情報を、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値又は当該濃度値を変換した場合にはその変換後の値を用いて生成し、生成した位置情報が評価対象についてのADの将来の発症リスクを反映したものであると決定してもよい。なお、所定の物差しとは、ADの将来の発症リスクを評価するためのものであり、例えば、目盛りが示された物差しであって、「濃度値又は変換後の値の取り得る範囲、又は、当該範囲の一部分」における上限値と下限値に対応する目盛りが少なくとも示されたもの、などである。また、所定の目印とは、濃度値又は変換後の値に対応するものであり、例えば、丸印又は星印などである。
【0033】
また、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値が、所定値(平均値±1SD、2SD、3SD、N分位点、Nパーセンタイル又は臨床的意義の認められたカットオフ値など)より低い若しくは所定値以下の場合又は所定値以上若しくは所定値より高い場合に、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価してもよい。その際、濃度値そのものではなく、偏差値(各アミノ酸および各アミノ酸関連代謝物ごとに、男女別に濃度分布を正規分布化した後、平均50、標準偏差10となるように偏差値化した値)を用いてもよい。例えば、濃度偏差値が平均値−2SD未満の場合(濃度偏差値<30の場合)又は濃度偏差値が平均値+2SDより高い場合(濃度偏差値>70の場合)に、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価してもよい。
【0034】
また、評価対象がADを将来発症するリスク(可能性)の程度を定性的に評価してもよい。具体的には、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値と予め設定された1つ又は複数の閾値を用いて、評価対象を、ADの将来の発症リスクの程度を少なくとも考慮して定義された複数の区分のうちのどれか1つに分類してもよい。なお、複数の区分には、ADの将来の発症リスクが高い対象を属させるための区分、ADの将来の発症リスクが低い対象を属させるための区分及びADの将来の発症リスクが中程度である対象を属させるための区分が含まれていてもよい。また、複数の区分には、ADの将来の発症リスクが高い対象を属させるための区分及びADの将来の発症リスクが低い対象を属させるための区分が含まれていてもよい。また、濃度値を所定の手法で変換し、変換後の値を用いて評価対象を複数の区分のうちのどれか1つに分類してもよい。
【0035】
そして、ADの将来の発症リスクを評価する際、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値以外に、以下に挙げる他の生体情報に関する値を更に用いても構わない。
1.アミノ酸以外の他の血中の代謝物(アミノ酸代謝物・糖類・脂質等)、タンパク質、ペプチド、ミネラル、ビタミン、有機酸、ホルモン等の濃度値
2.アルブミン、総蛋白、トリグリセリド(中性脂肪)、HbA1c、糖化アルブミン、インスリン抵抗性指数、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、アミラーゼ、総ビリルビン、クレアチニン、推算糸球体濾過量(eGFR)、尿酸、GOT(AST)、GPT(ALT),GGTP(γ−GTP)、グルコース(血糖値)、CRP(C反応性蛋白)、赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、MCH,MCHC、白血球、血小板数等の血液検査値
3.超音波エコー、X線、CT、MRI、内視鏡像等の画像情報から得られる値
4.年齢、身長、体重、BMI、腹囲、収縮期血圧、拡張期血圧、性別、喫煙情報、食事情報、飲酒情報、運動情報、ストレス情報、睡眠情報、家族の既往歴情報、疾患歴情報(糖尿病等)等の生体指標に関する値
5.アルツハイマー型認知症のリスク遺伝子(APOEε4アリル等)の保有数等の遺伝子情報から得られる値
【0036】
[第2実施形態]
[2−1.第2実施形態の概要]
ここでは、第2実施形態の概要について図2を参照して説明する。図2は第2実施形態の基本原理を示す原理構成図である。なお、本第2実施形態の説明では、上述した第1実施形態と重複する説明を省略する場合がある。
【0037】
制御部は、血液中の上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値に関する予め取得したMCIを有する評価対象の濃度データに含まれている当該少なくとも1つの濃度値を用いて、評価対象についてADの将来の発症リスクを評価する(ステップS21)。これにより、将来のAD発症リスクを知る上で参考となり得る信頼性の高い情報を、例えばMCIというAD発症の前段階で、例えばAD発症予防を目的として提供することができる。
【0038】
[2−2.第2実施形態の構成]
ここでは、第2実施形態にかかる評価システム(以下では本システムと記す場合がある。)の構成について、図3から図8を参照して説明する。なお、本システムはあくまでも一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0039】
まず、本システムの全体構成について図3を参照して説明する。図3は本システムの全体構成の一例を示す図である。本システムは、図3に示すように、評価対象である個体についてADの将来の発症リスクを評価する評価装置100と、個体の濃度データを提供するクライアント装置200(本発明の端末装置に相当)とを、ネットワーク300を介して通信可能に接続して構成されている。
【0040】
ネットワーク300は、評価装置100とクライアント装置200を相互に通信可能に接続する機能を有し、例えばインターネットやイントラネットやLAN(有線/無線の双方を含む)等である。なお、ネットワーク300は、VANや、パソコン通信網や、公衆電話網(アナログ/デジタルの双方を含む)や、専用回線網(アナログ/デジタルの双方を含む)や、CATV網や、携帯回線交換網または携帯パケット交換網(IMT2000方式、GSM(登録商標)方式またはPDC/PDC−P方式等を含む)や、無線呼出網や、Bluetooth(登録商標)等の局所無線網や、PHS網や、衛星通信網(CS、BSまたはISDB等を含む)等でもよい。
【0041】
つぎに、本システムの評価装置100の構成について図4から図7を参照して説明する。図4は、本システムの評価装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0042】
評価装置100は、当該評価装置を統括的に制御するCPU(central processing unit)等の制御部102と、ルータ等の通信装置および専用線等の有線または無線の通信回線を介して当該評価装置をネットワーク300に通信可能に接続する通信インターフェース部104と、各種のデータベースやテーブルやファイルなどを格納する記憶部106と、入力装置112や出力装置114に接続する入出力インターフェース部108と、で構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。ここで、評価装置100は、各種の分析装置(例えばアミノ酸分析装置等)と同一筐体で構成されてもよい。例えば、血液中の上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を算出(測定)・出力(印刷やモニタ表示など)する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を備えた小型分析装置において、後述する評価部102bをさらに備え、当該評価部102bで得られた結果を前記構成を用いて出力すること、を特徴とするものでもよい。
【0043】
通信インターフェース部104は、評価装置100とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)との間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部104は、他の端末と通信回線を介してデータを通信する機能を有する。
【0044】
入出力インターフェース部108は、入力装置112や出力装置114に接続する。ここで、出力装置114には、モニタ(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下では、出力装置114をモニタ114として記載する場合がある。)。入力装置112には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニタを用いることができる。
【0045】
記憶部106は、ストレージ手段であり、例えば、RAM・ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。記憶部106は、図示の如く、濃度データファイル106aと、評価結果ファイル106bと、を格納する。
【0046】
濃度データファイル106aは、血液中の上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を格納する。図5は、濃度データファイル106aに格納される情報の一例を示す図である。濃度データファイル106aに格納される情報は、図5に示すように、評価対象である個体(サンプル)を一意に識別するための個体番号と、濃度データとを相互に関連付けて構成されている。ここで、図5では、濃度データを数値、すなわち連続尺度として扱っているが、濃度データは名義尺度や順序尺度でもよい。なお、名義尺度や順序尺度の場合は、それぞれの状態に対して任意の数値を与えることで解析してもよい。また、濃度データに、他の生体情報に関する値を組み合わせてもよい。
【0047】
図4に戻り、評価結果ファイル106bは、後述する評価部102bで得られた評価結果を格納する。図6は、評価結果ファイル106bに格納される情報の一例を示す図である。評価結果ファイル106bに格納される情報は、評価対象である個体(サンプル)を一意に識別するための個体番号と、予め取得した個体の濃度データと、ADの将来の発症リスクに関する評価結果(例えば、後述する変換部102b1で濃度値を変換した後の値、後述する生成部102b2で生成した位置情報、又は、後述する分類部102b3で得られた分類結果、など)と、を相互に関連付けて構成されている。
【0048】
図4に戻り、制御部102は、OS等の制御プログラム・各種の処理手順等を規定したプログラム・所要データなどを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。制御部102は、図示の如く、大別して、受信部102aと評価部102bと結果出力部102cと送信部102dとを備えている。制御部102は、クライアント装置200から送信された濃度データに対して、欠損値のあるデータの除去・外れ値の多いデータの除去・欠損値のあるデータの多い変数の除去などのデータ処理も行う。
【0049】
受信部102aは、クライアント装置200から送信された情報(具体的には、濃度データなど)を、ネットワーク300を介して受信する。
【0050】
評価部102bは、受信部102aで受信した個体の濃度データに含まれる、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を用いて、個体についてADの将来の発症リスクを評価する。
【0051】
ここで、評価部102bの構成について図7を参照して説明する。図7は、評価部102bの構成を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。評価部102bは、変換部102b1と、生成部102b2と、分類部102b3と、をさらに備えている。
【0052】
変換部102b1は、濃度データに含まれている、上記23種類のアミノ酸及び上記7種類のアミノ酸関連代謝物のうちの少なくとも1つの濃度値を、例えば上述した変換手法などで変換する。なお、評価部102bは、変換部102b1で変換した後の値を評価結果として評価結果ファイル106bの所定の記憶領域に格納してもよい。
【0053】
生成部102b2は、モニタ等の表示装置又は紙等の物理媒体に視認可能に示される所定の物差し上における所定の目印の位置に関する位置情報を、濃度値又は当該濃度値を変換部102b1で変換した後の値を用いて生成する。なお、評価部102bは、生成部102b2で生成した位置情報を評価結果として評価結果ファイル106bの所定の記憶領域に格納してもよい。
【0054】
分類部102b3は、濃度値又は当該濃度値を変換部102b1で変換した後の値を用いて、個体を、ADを将来発症するリスクの程度を少なくとも考慮して定義された複数の区分のうちのどれか1つに分類する。
【0055】
結果出力部102cは、制御部102の各処理部での処理結果(例えば、評価部102bで得られた評価結果など)等を出力装置114に出力する。
【0056】
送信部102dは、外部装置へのデータ送信を行う手段であり、例えば、個体の濃度データの送信元のクライアント装置200に対して、評価部102bで得られた評価結果などを送信する。
【0057】
つぎに、本システムのクライアント装置200の構成について図8を参照して説明する。図8は、本システムのクライアント装置200の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。
【0058】
クライアント装置200は、制御部210とROM220とHD230とRAM240と入力装置250と出力装置260と入出力IF270と通信IF280とで構成されており、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0059】
制御部210は、受信部211及び送信部212を備えている。受信部211は、通信IF280を介して、評価装置100から送信された評価結果などの各種情報を受信する。送信部212は、通信IF280を介して、個体の濃度データなどの各種情報を評価装置100へ送信する。なお、制御部210は、評価装置100の制御部102に備えられている評価部102bが有する機能と同様の機能を有する評価部210a(変換部210a1、生成部210a2及び分類部210a3を含む)を備えていてもよい。
【0060】
入力装置250はキーボードやマウスやマイク等である。なお、後述するモニタ261もマウスと協働してポインティングデバイス機能を実現する。出力装置260は、通信IF280を介して受信した情報を出力する出力手段であり、モニタ(家庭用テレビを含む)261およびプリンタ262を含む。この他、出力装置260にスピーカ等を設けてもよい。入出力IF270は入力装置250や出力装置260に接続する。
【0061】
通信IF280は、クライアント装置200とネットワーク300(またはルータ等の通信装置)とを通信可能に接続する。換言すると、クライアント装置200は、モデムやTAやルータなどの通信装置および電話回線を介して、または専用線を介してネットワーク300に接続される。これにより、クライアント装置200は、所定の通信規約に従って評価装置100にアクセスすることができる。
【0062】
ここで、プリンタ・モニタ・イメージスキャナ等の周辺装置を必要に応じて接続した情報処理装置(例えば、既知のパーソナルコンピュータ・ワークステーション・家庭用ゲーム装置・インターネットTV・PHS端末・携帯端末・移動体通信端末・PDA等の情報処理端末など)に、制御部210に備えられる各種処理機能を実現させるソフトウェア(プログラム、データ等を含む)を実装することにより、クライアント装置200を実現してもよい。
【0063】
また、制御部210は、当該制御部で行う処理の全部又は任意の一部を、CPU及び当該CPUにて解釈して実行するプログラムで実現してもよい。ROM220又はHD230には、OSと協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。当該コンピュータプログラムは、RAM240にロードされることで実行され、CPUと協働して制御部210を構成する。また、当該コンピュータプログラムは、クライアント装置200と任意のネットワークを介して接続されるアプリケーションプログラムサーバに記録されてもよく、クライアント装置200は、必要に応じてその全部または一部をダウンロードしてもよい。また、制御部210で行う処理の全部または任意の一部を、ワイヤードロジック等によるハードウェアで実現してもよい。
【0064】
以上、評価システムの構成に関する上述した説明では、評価装置100が、濃度データの受信から、濃度データに基づく個体の評価(濃度値の変換、位置情報の生成及び個体の区分への分類を含む)、そして評価結果の送信までを実行し、クライアント装置200が評価結果の受信を実行するケースを例として挙げたが、クライアント装置200に評価部210aが備えられている場合、例えば、濃度値の変換、位置情報の生成及び個体の区分への分類などは、評価装置100とクライアント装置200とで適宜分担して実行してもよい。例えば、クライアント装置200が評価装置100から濃度値を変換した後の値を受信した場合、評価部210aは、生成部210a2で変換後の値に対応する位置情報を生成したり、分類部210a3で変換後の値を用いて個体を複数の区分のうちのどれか1つに分類したりしてもよい。また、例えば、クライアント装置200が評価装置100から濃度値を変換した後の値と位置情報とを受信した場合、評価部210aは、分類部210a3で変換後の値を用いて個体を複数の区分のうちのどれか1つに分類してもよい。
【0065】
[2−3.他の実施形態]
本発明にかかる評価装置、評価方法、評価プログラム、評価システム及び端末装置は、上述した第2実施形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施形態にて実施されてよいものである。
【0066】
また、第2実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0067】
また、本明細書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例及びデータベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0068】
また、評価システムを構成する各装置に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0069】
例えば、評価装置100が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部又は任意の一部を、CPU及び当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、情報処理装置に本発明にかかる評価方法を実行させるためのプログラム化された命令を含む一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されており、必要に応じて評価装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROM又はHDDなどの記憶部106などには、OSと協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部を構成する。
【0070】
また、このコンピュータプログラムは、評価装置100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部又は一部をダウンロードすることも可能である。
【0071】
また、本発明にかかる評価プログラムを、一時的でないコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよく、また、プログラム製品として構成することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、メモリーカード、USBメモリ、SDカード、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM(登録商標)、CD−ROM、MO、DVD、及び、Blu−ray(登録商標) Disc等の任意の「可搬用の物理媒体」を含むものとする。
【0072】
また、「プログラム」とは、任意の言語又は記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコード又はバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OSに代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成及び読み取り手順並びに読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0073】
記憶部に格納される各種のデータベース等は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、及び、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理やウェブサイト提供に用いる各種のプログラム、テーブル、データベース、及び、ウェブページ用ファイル等を格納する。
【0074】
また、評価装置100は、既知のパーソナルコンピュータ又はワークステーション等の情報処理装置として構成してもよく、また、任意の周辺装置が接続された当該情報処理装置として構成してもよい。また、評価装置100は、当該情報処理装置に本発明の評価方法を実現させるソフトウェア(プログラム又はデータ等を含む)を実装することにより実現してもよい。
【0075】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部又は一部を、各種の付加等に応じて又は機能負荷に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。すなわち、上述した実施形態を任意に組み合わせて実施してもよく、実施形態を選択的に実施してもよい。
【実施例1】
【0076】
MCIと診断された高齢者の血液サンプル、及びサンプル取得後3〜5年経過時の認知症診断情報を取得した(計30例)。そして、AD以外のタイプの認知症を発症した2人を除外した28人を対象とした。認知症診断情報に従って、この28人を、AD発症群とAD非発症群に分類した。血液サンプルから、前述の測定方法(A)を用いて、23種のアミノ酸(α−ABA,Ala,Arg,Asn,Cit,Glu,Gln,Gly,His,Ile,Leu,Lys,Met,Orn,Phe,Pro,Ser,Thr,Trp,Tyr,Val,Cysteine,Taurine)の血中濃度(mol/ml)を測定した。さらに、同一の血液サンプルから、前述の測定方法(A)を用いて2種のアミノ酸関連代謝物(L−3−Aminoisobutyric acid,N8−Acetylspermidine)の血中濃度(mol/ml)を測定した。なお、MCIの診断基準として、1995年にMayo clinicのPetersenらにより提唱されたもの(非特許文献4)を用いた。
【0077】
AD非発症群とAD発症群の血中濃度について帰無仮説を「両群の平均値が等しい」とした場合の検定(Mann−Whitney U検定)において、AD非発症群に対して有意(p値<0.05)な変動が認められた物質は、Ala、α−ABA、L−3−Aminoisobutyric acid及びN8−Acetylspermidineであった。表1に、これら物質の血中濃度を用いた3〜5年後のAD非発症者とAD発症者との鑑別におけるROC曲線のROC_AUCの値を示す。本実施例により、これら物質が、MCIと診断された者を対象とした「ADを将来発症するリスクの評価(例えば、ADを将来(例えば採血後3〜5年経過した時など)に発症するリスクが高いか低いかの2群判別、など)」に有用であることが判明した。ここで、ROC_AUCは、2次元座標上に(x,y)=(1−特異度,感度)をプロットして作成される受信者特性曲線(ROC)の曲線下面積(AUC)として定義され、ROC_AUCの値は完全な判別では1となり、この値が1に近いほど判別性が高いことを示す。
【0078】
【表1】
【実施例2】
【0079】
実施例1に記載のMCIと診断された高齢者のうち、女性(全17人)を対象とした。認知症診断情報に従って、この17人を、AD発症群とAD非発症群に分類した。血液サンプルから、実施例1と同様の測定方法を用いて、23種類のアミノ酸及び2種のアミノ酸関連代謝物(Ethylglycine, 5−Hydroxytryptophan)のピーク面積値及び血中濃度(mol/ml)を測定した。
【0080】
AD非発症群とAD発症群のピーク面積値及び血中濃度について帰無仮説を「両群の平均値が等しい」とした場合の検定(Mann−Whitney U検定)において、AD非発症群に対して有意(p値<0.05)な変動が認められた物質は、Ethylglycine及び5−Hydroxytryptophanであった。表2に、これら物質のピーク面積値及び血中濃度を用いた3〜5年後のAD非発症者とAD発症者との鑑別におけるROC曲線のROC_AUCの値を示す。本実施例により、これら物質が、MCIと診断された者を対象とした「ADを将来発症するリスクの評価(例えば、ADを将来(例えば採血後3〜5年経過した時など)に発症するリスクが高いか低いかの2群判別、など)」に有用であることが判明した。
【0081】
【表2】
【実施例3】
【0082】
実施例1に記載のMCIと診断された高齢者のうち、男性(全11人)を対象とした。認知症診断情報に従って、この11人を、AD発症群とAD非発症群に分類した。血液サンプルから、実施例1と同様の測定方法を用いて、23種類のアミノ酸及び2種のアミノ酸関連代謝物(L−3−Aminoisobutyric acid,N(tau)−Methyl−L−histidine)の血中濃度(mol/ml)を測定した。
【0083】
AD非発症群とAD発症群の血中濃度について帰無仮説を「両群の平均値が等しい」とした場合の検定(Mann−Whitney U検定)において、AD非発症群に対して有意(p値<0.05)な変動が認められた物質は、Pro、α−ABA、L−3−Aminoisobutyric acid及びN(tau)−Methyl−L−histidineであった。表3に、これら物質の血中濃度を用いた3〜5年後のAD非発症者とAD発症者との鑑別におけるROC曲線のROC_AUCの値を示す。本実施例により、これら物質が、MCIと診断された者を対象とした「ADを将来発症するリスクの評価(例えば、ADを将来(例えば採血後3〜5年経過した時など)に発症するリスクが高いか低いかの2群判別、など)」に有用であることが判明した。
【0084】
【表3】
【実施例4】
【0085】
実施例1に記載のMCIと診断された高齢者のうち、既知のAD発症リスク因子の一つであるAPOEε4アレルの非保有者(全10人)を対象とした。認知症診断情報に従って、この10人を、AD発症群とAD非発症群に分類した。血液サンプルから、実施例1と同様の測定方法を用いて、23種類のアミノ酸及びHypotaurineの血中濃度(mol/ml)を測定した。
【0086】
AD非発症群とAD発症群の血中濃度について帰無仮説を「両群の平均値が等しい」とした場合の検定(Mann−Whitney U検定)において、AD非発症群に対して有意(p値<0.05)な変動が認められた物質は、Val、Leu、Ile及びHypotaurineであった。さらに、分岐鎖アミノ酸(Val,Leu,Ile)の合計値および必須アミノ酸(His,Ile,Leu,Lys,Met,Val,Phe,Thr,Trp)の合計値にも有意(p値<0.05)な変動が認められた。表4に、これら物質の血中濃度を用いた3〜5年後のAD非発症者とAD発症者との鑑別におけるROC曲線のROC_AUCの値を示す。本実施例により、これら物質が、MCIと診断された者を対象とした「ADを将来発症するリスクの評価(例えば、ADを将来(例えば採血後3〜5年経過した時など)に発症するリスクが高いか低いかの2群判別、など)」に有用であることが判明した。
【0087】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明は、産業上の多くの分野、特に医薬品や食品、医療などの分野で広く実施することができ、極めて有用である。
【符号の説明】
【0089】
100 評価装置
102 制御部
102a 受信部
102b 評価部
102b1 変換部
102b2 生成部
102b3 分類部
102c 結果出力部
102d 送信部
104 通信インターフェース部
106 記憶部
106a 濃度データファイル
106b 評価結果ファイル
108 入出力インターフェース部
112 入力装置
114 出力装置
200 クライアント装置(端末装置(情報通信端末装置))
300 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8