特許第6870687号(P6870687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6870687-無方向性電磁鋼板 図000005
  • 特許6870687-無方向性電磁鋼板 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870687
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210426BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20210426BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20210426BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   H01F1/147 183
   !C21D8/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-561449(P2018-561449)
(86)(22)【出願日】2018年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2018000981
(87)【国際公開番号】WO2018131712
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2019年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2017-5212(P2017-5212)
(32)【優先日】2017年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】屋鋪 裕義
(72)【発明者】
【氏名】名取 義顕
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
(72)【発明者】
【氏名】務川 進
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−206092(JP,A)
【文献】 特開2010−024531(JP,A)
【文献】 特開2011−006731(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/046661(WO,A1)
【文献】 特開2016−145376(JP,A)
【文献】 特開2016−138316(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105132808(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9,46
H01F 1/12− 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0%超、0.0050%以下、
Si:3.0%〜4.0%、
Mn:1.2%〜3.3%、
P:0%超、0.030%未満、
S:0%超、0.0050%以下、
sol.Al:0%超、0.0040%以下、
N:0%超、0.0040%以下、
La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上:合計で0.0005%〜0.0200%、
Ca:0.0005%〜0.0100%、
Ti:0.0005%〜0.0100%、
Sn:0%〜0.10%、
Sb:0%〜0.10%、
Mg:0%〜0.0100%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
Si−0.5×Mn:2.0%以上であり、
Si+0.5×Mn:4.4%以上である
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、
Sn:0.005%〜0.10%、
Sb:0.005%〜0.10%、
から選ばれる1種または2種を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、
Mg:0.0005%〜0.0100%
を含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
本願は、2017年01月16日に、日本に出願された特願2017−005212号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球環境問題が注目されており、省エネルギーへの取り組みに対する要求は、一段と高まってきている。なかでも電気機器の高効率化は、近年強く要望されている。このため、モータや発電機又は変圧器等の鉄心材料として広く使用されている無方向性電磁鋼板においても、磁気特性の向上に対する要請が更に強まっている。近年、高効率化が進展する電気自動車やハイブリッド自動車用のモータや発電機、及び、コンプレッサ用モータにおいては、その傾向が顕著である。
【0003】
無方向性電磁鋼板の磁気特性の向上のためには、鋼中に合金元素を添加することで鋼板の電気抵抗を上げ、渦電流損を低減することが有効である。そのため、例えば以下の特許文献1及び特許文献2に開示されているように、Si、Al、Mnといった電気抵抗を上昇させる効果を有する元素を添加して、磁気特性の改善(鉄損の低下、磁束密度の増加等)を図ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/027565号
【特許文献2】日本国特開2016−130360号公報
【特許文献3】国際公開第2016/136095号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同一の含有量(質量%)で合金元素を添加することを考えた場合に、冷間圧延性への悪影響の大きいPを除くと、Siが、電気抵抗を上昇させやすく、鉄損の低減に有効な元素である。そのため、上記特許文献1では、Si含有量を6質量%以下とすることが開示されており、上記特許文献2では、Si含有量を5.0質量%以下とすることが開示されており、特許文献3では、Si含有量を8.0質量%以下とすることが開示されている。
また、特許文献1及び特許文献2では、Al含有量を0.0050%以下とし、SiとMnで電気抵抗を上昇させて、鉄損を低減することも開示されている。
【0006】
しかしながら、発明者らが検討した結果、特許文献1〜特許文献3に示された鋼板では、W10/400のような高周波鉄損の低減は十分ではなかった。その理由として、高周波鉄損の低減には高合金化が不可欠であるが、特許文献1〜特許文献3では、高周波鉄損については検討されておらず、高周波鉄損低減に必要な合金量の下限値や、Si、Al、Mnの適正な添加量の配分が考慮されていないので、W10/400のような高周波鉄損の低減が十分ではなかったと考えられる。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされた。本発明の目的は、冷間圧延性が良好で、磁気特性、特に高周波鉄損の優れる、無方向性電磁鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、(i)Al含有量を所定の値以下とすること、(ii)電気抵抗の上昇に寄与し、冷間圧延性への悪影響が少ないMnをSiとともに含有させること、及び(iii)La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上とTiとを更に含有させること、によって、良好な冷間圧延性を確保しつつ、粒成長性の低下を防止して磁気特性を向上させることができるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
上記知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0%超、0.0050%以下、Si:3.0%〜4.0%、Mn:1.2%〜3.3%、P:0%超、0.030%未満、S:0%超、0.0050%以下、sol.Al:0%超、0.0040%以下、N:0%超、0.0040%以下、La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上:合計で0.0005%〜0.0200%、Ca:0.0005%〜0.0100%、Ti:0.0005%〜0.0100%、Sn:0%〜0.10%、Sb:0%〜0.10%、Mg:0%〜0.0100%、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Si−0.5×Mn:2.0%以上であり、Si+0.5×Mn:4.4%以上である。
【0010】
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板では、前記化学組成が、Sn:0.005%〜0.10%、Sb:0.005%〜0.10%、から選ばれる1種または2種を含有してもよい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板では、前記化学組成が、Mg:0.0005%〜0.0100%を含有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、良好な冷間圧延性、及び優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した図である。
図2】同実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施の一形態について詳細に説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
(無方向性電磁鋼板について)
無方向性電磁鋼板においては、先だって説明したように、高周波鉄損を低減するために、一般的には、鋼中に合金元素を含有させて鋼板の電気抵抗を上げて、渦電流損を低減させる。ここで、同一の含有量(質量%)の合金元素を含有させることを考えた場合に、Siが、電気抵抗を上昇させやすいので、鉄損の低減に有効な元素である。しかしながら、本発明者らによる検討の結果、Si含有量が4.0質量%を超える場合には、無方向性電磁鋼板の冷間圧延性が著しく低下することが明らかとなった。
【0016】
また、Alも、Siと同様に電気抵抗の上昇効果を示す合金元素である。しかしながら、本発明者らによる検討の結果、AlもSiと同様に冷間圧延性の低下を招くことが明らかとなった。また、Al含有量が多くなると、ヒステリシス損が劣化して磁気特性が低下する傾向がある。そのため、無方向性電磁鋼板に、合金元素としてAlを大量に含有させることは、困難である。無方向性電磁鋼板において、ヒステリシス損の劣化による磁気特性の低下を抑制するためには、Al含有量は、少なくすることが好ましい。一方で、本発明者らが鋭意検討を行った結果、Al含有量を低減した鋼材では、粒成長性が低下して、磁気特性が低下することも明らかとなった。
【0017】
本発明者らは、Al含有量を低減した場合でも、粒成長性の低下を抑制でき、冷間圧延性と磁気特性とを共に向上させることが可能な方法について鋭意検討を行った。その結果、冷間圧延性への悪影響が少ないMnをSiとともに含有させた上で、更に、La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上及びTiを複合的に含有させることが有効であることを見出した。
【0018】
以下では、図1を参照しながら、本発明の一実施形態に係る無方向性電磁鋼板(本実施形態に係る無方向性電磁鋼板)について、詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の構造を模式的に示した図である。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10は、図1に模式的に示したように、所定の化学組成の地鉄11を有している。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、地鉄11のみからなってもよいが、地鉄11の表面に、絶縁被膜13を更に有していることが好ましい。
【0020】
以下では、まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11について、詳細に説明する。
【0021】
<地鉄の化学組成について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11は、質量%で、C:0%超、0.0050%以下、Si:3.0%〜4.0%、Mn:1.2%〜3.3%、P:0%超、0.030%未満、S:0%超、0.0050%以下、sol.Al:0%超、0.0040%以下、N:0%超、0.0040%以下、La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上:合計で0.0005%〜0.0200%、Ca:0.0005%〜0.0100%、Ti:0.0005%〜0.0100%、 Sn:0%〜0.10%、Sb:0%〜0.10%、Mg:0%〜0.0100%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Si含有量、及び、Mn含有量を用いて、「Si+0.5×Mn」で表される値を計算した場合に、3.8%以上であり、Si含有量、及び、Mn含有量を用いて、「Si−0.5×Mn」で表される値を計算した場合に、2.0%以上である。
【0022】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11は、Sn:0.005%〜0.10%、Sb:0.005%〜0.10%から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0023】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11は、Mg:0.0005%〜0.0100%を含有することが好ましい。
【0024】
以下では、本実施形態に係る地鉄11の化学組成が上記のように規定される理由について、詳細に説明する。以下では、特に断りの無い限り、化学組成に係る「%」は「質量%」を表す。
【0025】
[C:0%超、0.0050%以下]
C(炭素)は、不可避的に含有される元素であるとともに、鉄損劣化(鉄損の増加)を引き起こす元素である。C含有量が0.0050%を超える場合には、無方向性電磁鋼板において鉄損劣化が生じ、良好な磁気特性を得ることができない。従って、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、C含有量を、0.0050%以下とする。C含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
C含有量は、少なければ少ないほど好ましいが、Cは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、C含有量を0.0005%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップとなる。従って、C含有量は、0.0005%以上としてもよい。
【0026】
[Si:3.0%〜4.0%]
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善する元素である。また、Siは、固溶強化能が大きいため、無方向性電磁鋼板の高強度化にも有効な元素である。無方向性電磁鋼板において、高強度化は、モータの高速回転時の変形抑制や疲労破壊抑制といった観点から必要である。このような効果を十分に発揮させるためには、Si含有量を3.0%以上とすることが必要である。Si含有量は、好ましくは3.1%以上、より好ましくは3.2%以上である。
一方、Si含有量が4.0%を超える場合には、加工性が著しく劣化し、冷間圧延を実施することが困難となったり、冷間圧延の途中で鋼板が破断したりする(すなわち、冷間圧延性が低下する)。従って、Si含有量は、4.0%以下とする。Si含有量は、好ましくは3.9%以下であり、より好ましくは3.8%以下である。
【0027】
[Mn:1.2%〜3.3%]
Mn(マンガン)は、電気抵抗を上昇させることで渦電流損を低減し、高周波鉄損を改善するために有効な元素である。また、Mnは、Siより固溶強化能は小さいものの、加工性を劣化させることなく、高強度化に寄与できる元素である。このような効果を十分に発揮させるために、Mn含有量を1.2%以上とすることが必要である。Mn含有量は、好ましくは1.3%以上、より好ましくは1.4%以上、更に好ましくは1.5%以上である。
一方、Mn含有量が3.3%を超える場合には、磁束密度の低下が顕著となる。従って、Mn含有量は、3.3%以下とする。Mn含有量は、好ましくは3.2%以下であり、より好ましくは3.1%以下であり、更に好ましくは3.0%以下である。
【0028】
[P:0%超、0.030%未満]
P(リン)は、Si及びMn含有量が多い高合金鋼において、著しく加工性を劣化させて冷間圧延を困難にする元素である。従って、P含有量は、0.030%未満とする。P含有量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは、0.010%以下である。
P含有量は、少なければ少ないほど良いが、Pは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。P含有量を0.001%未満にしようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、下限を0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.002%以上である。
【0029】
[S:0%超、0.0050%以下]
S(硫黄)は、不可避的に含有される元素である。また、Sは、MnSの微細析出物を形成することで鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。そのため、S含有量は、0.0050%以下とする必要がある。S含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは、0.0035%以下である。
S含有量は、少なければ少ないほど好ましいが、Sは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。S含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、S含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。
【0030】
[sol.Al:0%超、0.0040%以下]
Al(アルミニウム)は、鋼中に固溶されると、無方向性電磁鋼板の電気抵抗を上昇させることで渦電流損を低減し、高周波鉄損を改善する元素である。しかしながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、Alよりも加工性を劣化させずに電気抵抗を上昇させる元素であるMnを積極的に含有させる。そのため、Alを積極的に含有させる必要はない。また、sol.Al(酸可溶Al)含有量が0.0040%を超えると、鋼中に微細な窒化物が析出して熱延板焼鈍や仕上焼鈍での結晶粒成長を阻害し、磁気特性が劣化する。従って、sol.Al含有量は、0.0040%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
一方、Alは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、sol.Al含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、sol.Al含有量は、0.0001%以上としてもよい。
【0031】
[N:0%超、0.0040%以下]
N(窒素)は、不可避的に含有される元素である。また、Nは、鋼中で微細な窒化物を形成して鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。そのため、N含有量は、0.0040%以下とする必要がある。N含有量は、好ましくは0.0030%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。
一方、Nは不可避的に含有される元素であり、下限を0%超とする。また、N含有量は、少なければ少ないほど良いが、N含有量を0.0001%よりも低減させようとすると、大幅なコストアップを招く。従って、N含有量は、0.0001%以上としてもよい。より好ましくは、0.0003%以上である。
【0032】
[Ti:0.0005%〜0.0100%]
Ti(チタン)は、上記MnやSiの原材料中に不可避的に含有される。Tiは、地鉄中のC、N、Oなどと結合してTiN、TiC、Ti酸化物などの微小析出物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させる元素である。そのため、従来、地鉄中のTi含有量を極力少なくするために、高純度化されたMnやSiの原材料を利用することが行われてきた。
しかしながら、本発明者らが検討を行った結果、以下で説明するLa、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上を、Tiとともに複合的に含有させることで、焼鈍中の結晶粒の成長を阻害せずに、粒成長性を保持可能であることが明らかとなった。その原因はまだ明確ではないが、生成したTiN、TiC、Ti酸化物等の微小析出物がLa、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上の化合物と合体することで粗大化されて、結晶粒の成長を阻害しない、より大きな析出物になったためと考えられる。すなわち、粗大な析出物が生成されることによって粒成長を阻害する微小な析出物が減少し、粒成長性の低下が抑制されると考えられる。
更に、従来、地鉄中におけるTi含有量を極力少なくするために、原材料の高純度化が図られてきたが、La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上を含有させることでTiの悪影響を回避可能であるので、原材料の過度の高純度化を図らなくともよくなる。その結果、より高性能な無方向性電磁鋼板をより低コストで製造することが可能となる。
【0033】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上を含有させることにより、原材料からTiが混入しても結晶粒成長性が確保できる。そのため、原材料の過度の高純度化を図る必要がない。コストの観点からTiを含有するMnやSiの原材料を使用することを考慮し、Ti含有量は0.0005%以上とする。しかしながら、Ti含有量が0.0100%を超える場合には、許容される最大量のLa、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上を含有させたとしても、Tiによる悪影響を防止することが困難となる。従って、Ti含有量は、0.0005%以上、0.0100%以下とする。La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上と複合的に含有されることによる粒成長性の改善効果をより確実に発現させ、かつ低コスト化をはかるために、Ti含有量は、好ましくは、0.0015%以上、0.0080%以下であり、より好ましくは、0.0025%以上、0.0060%以下である。
【0034】
[La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上:合計で0.0005%〜0.0200%]
La、Ce、Pr、Ndは、Sと結合して粗大な硫化物、硫酸化物又はこれらの両方を形成することで微細なMnSの析出を抑制し、焼鈍時の結晶粒成長を促進する元素である。更に、La、Ce、Pr、Ndは、Tiに起因して生成されるTiN、TiC、Ti酸化物等の微小析出物を、La、Ce、Pr、Ndの硫化物もしくは硫酸化物又はこれらの両方に複合析出させて結晶粒成長性を改善し、磁気特性を向上させる元素である。このような効果を得るために、La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上の含有量は、合計で0.0005%以上であることが必要である。一方、La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上の含有量が合計で0.0200%を超える場合には、上記のような微小析出物の粗大化効果が飽和する上、経済的に不利となるので好ましくない。従って、La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上の含有量は、合計で0.0200%以下とする。La、Ce、Pr及びNdの1種又は2種以上の含有量は、好ましくは合計で0.0010%以上、0.0150%以下であり、より好ましくは合計で0.0020%以上、0.0100%以下である。
【0035】
[Ca:0.0005%〜0.0100%]
Ca(カルシウム)は、Sと結合して粗大な化合物を形成することで微細なMnSの析出を抑制し、焼鈍時の結晶粒成長を促進する元素である。更に、La、Ce、Pr、Ndの1種又は2種以上との複合含有により、連続鋳造時の酸化物起因のノズル閉塞を回避するのに有効な元素である。このような効果を得るために、Ca含有量は、0.0005%以上であることが必要である。好ましくは、0.0010%以上である。
一方、Ca含有量が0.0100%を超える場合には、上記のような結晶粒成長性の改善効果やノズル閉塞の抑制効果が飽和し、経済的に不利となる。従って、Ca含有量は、0.0100%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0060%以下である。
【0036】
[Sn:0%〜0.10%]
[Sb:0%〜0.10%]
Sn(スズ)及びSb(アンチモン)は、表面に偏析し焼鈍中の酸化や窒化を抑制することで、低い鉄損を確保するのに有用な元素である。従って、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、上記効果を得るために、Sn又はSbの少なくとも何れか一方を、地鉄中に含有させてもよい。上記効果を十分に発揮させるためには、Sn又はSbの含有量を、それぞれ0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.010%以上である。
一方、Sn又はSbの含有量がそれぞれ0.10%を超える場合には、地鉄の延性が低下して冷間圧延が困難となる可能性がある。従って、Sn又はSbの含有量は、含有させる場合でも、それぞれ0.10%以下とすることが好ましい。より好ましくは、それぞれ0.05%以下である。
Sn、Sbは任意元素であり、必ずしも含有させる必要がないので、下限は0%である。
【0037】
[Mg:0%〜0.0100%]
Mg(マクネシウム)は、Sと結合して粗大な化合物を形成する。MgとSとの粗大な化合物が形成されると、微細なMnSの析出が抑制され、焼鈍時の結晶粒成長が促進されるので、低い鉄損を確保するのに有利である。従って、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、上記効果を得るために、Mgを含有させてもよい。効果を十分に発揮させるためには、Mg含有量を、0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超える場合には、結晶粒成長性の改善効果が飽和し、経済的に不利となるので好ましくない。従って、Mg含有量は、0.0100%以下とすることが好ましい。Mgを地鉄中に含有させる場合に、Mg含有量は、より好ましくは、0.0050%以下である。
Mgは任意元素であり、必ずしも含有させる必要がないので、下限は0%である。
【0038】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記の元素を含み、残部がFe及び不純物からなることを基本とする。しかしながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、上述した元素以外のNi(ニッケル)、Cr(クロム)、Cu(銅)、及び、Mo(モリブデン)等の元素をさらに含有してもよい。これらの元素をそれぞれ0.50%以下含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の効果は損なわれない。
【0039】
また、上記の元素の他に、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、V(バナジウム)、As(ヒ素)、B(ホウ素)などの元素をさらに含有してもよい。これらの元素がそれぞれ0.0050%以下含まれていても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の効果は損なわれない。
【0040】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記のように各元素の含有量を制御した上で、Si含有量とMn含有量とが所定の関係性を満足するように制御される必要がある。
【0041】
[Si+0.5×Mn:3.8%以上]
鉄損、特に本実施形態に係る無方向性電磁鋼板が目的とするW10/400のような高周波鉄損を低減する(改善する)場合には、高合金化して鋼板の電気抵抗を増加させることが有効である。具体的には、Si+0.5×Mnが3.8%以上となるようにSi、Mnを含有させることで、高周波鉄損をさらに低減することができる。そのため、Si+0.5×Mnを3.8%以上とする。Si+0.5×Mnは、好ましくは3.9%以上、より好ましくは4.0%以上、更に好ましくは4.4%以上である。
Si+0.5×Mnの実質的な上限は、Si及びMnの含有量の上限から計算される値である。
【0042】
[Si−0.5×Mn:2.0%以上]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、含有されたLa、Ce、Pr、Nd、Caが、Sを硫化物や酸硫化物として固定する。この場合、鋼板の表面の酸化や窒化が促進され、磁気特性が低下するおそれがある。
しかしながら、Si−0.5×Mn≧2.0とすることにより、磁気特性の低下を抑制することができる。その理由は明確ではないが、Si−0.5×Mn≧2.0とすることにより、仕上げ焼鈍の加熱時に、緻密なSiOの薄い酸化層が鋼板表面に生じやすくなり、仕上げ焼鈍の均熱過程での酸化や窒化が抑制されるためであると考えられる。
【0043】
また、Siは、フェライト相形成促進元素(いわゆる、フェライトフォーマー元素)である。一方で、Mnは、オーステナイト相形成促進元素(いわゆる、オーステナイトフォーマー元素)である。従って、Si及びMnそれぞれの含有量に応じて、無方向性電磁鋼板の金属組織は変化し、無方向性電磁鋼板は、変態点を有する成分系となったり、変態点を有しない成分系となったりする。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、地鉄における平均結晶粒径を適度に大きくすることが求められており、変態点を有しない成分系とすることは、結晶粒径を大きくするための有効な手段となる。そのため、変態点を有しない成分系となるように、Si及びMnのそれぞれの含有量は、所定の関係性を満たすことが好ましい。
【0044】
本発明者らの検討によれば、Mnによるオーステナイト相形成促進能(換言すれば、フェライト相形成促進能を打ち消す効果)は、Siによるフェライト相形成促進能の0.5倍程度と考えられる。そのため、本実施形態におけるフェライト相形成促進能の等量は、Siの含有量を基準として、「Si−0.5×Mn」として表すことができる。
【0045】
Si−0.5×Mnの値が2.0%未満である場合には、無方向性電磁鋼板は、変態点を有する成分系となってしまう。その結果、製造途中の高温処理時において鋼板の金属組織がフェライト単相ではなくなり、無方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する懸念がある。従って、Si−0.5×Mnの値は、2.0%以上とする。好ましくは2.1%以上である。
一方、Si−0.5×Mnの上限値は、特に規定するものではないが、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のSi含有量及びMn含有量の範囲から、Si−0.5×Mnの値は、3.4%を超えることはあり得ない。従って、Si−0.5×Mnの上限値は、実質的には、3.4%となる。
【0046】
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板における地鉄の化学組成について、詳細に説明した。
【0047】
無方向性電磁鋼板における地鉄の化学組成を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能である。例えば、スパーク放電発光分析法、ICP発光分析法、更に、C、Sを精度良く測定する場合には燃焼−赤外吸収法、O、Nを精度良く測定する場合には不活性ガス融解−赤外吸収法/熱伝導率法等を適宜利用すればよい。
【0048】
<地鉄の板厚について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚(図1における厚みt)は、渦電流損を低減させて高周波鉄損を低減するために、0.40mm以下とすることが好ましい。一方、地鉄11の板厚tが0.10mm未満である場合には、板厚が薄いために焼鈍ラインの通板が困難となる可能性がある。従って、無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚tは、0.10mm以上、0.40mm以下とすることが好ましい。無方向性電磁鋼板10における地鉄11の板厚tは、より好ましくは、0.15mm以上、0.35mm以下である。
【0049】
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の地鉄11について、詳細に説明した。
【0050】
<絶縁被膜について>
続いて、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10が有していることが好ましい絶縁被膜13について、簡単に説明する。
【0051】
無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるためには、鉄損を低減することが重要である。鉄損は、渦電流損とヒステリシス損とから構成されている。地鉄11の表面に絶縁被膜13を設けることで、鉄心として積層された電磁鋼板間の導通を抑制して鉄心の渦電流損を低減することが可能となるので、無方向性電磁鋼板10の実用的な磁気特性を更に向上させることが可能となる。
【0052】
ここで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10が備える絶縁被膜13は、無方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、更に有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩又はコロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくとも何れかを主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩やZrあるいはTiのカップリング剤、又は、これらの炭酸塩やアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
【0053】
上記のような絶縁被膜13の付着量は、特に限定するものではないが、例えば、片面あたり0.1g/m以上2.0g/m以下程度とすることが好ましく、片面あたり0.3g/m以上1.5g/m以下とすることがより好ましい。上述した付着量となるように絶縁被膜13を形成することで、優れた均一性を保持することが可能となる。絶縁被膜13の付着量を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能である。絶縁被膜13の付着量は、例えば、絶縁被膜13を形成した無方向性電磁鋼板10を熱アルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜13のみを除去し、絶縁被膜13の除去前後の質量差から算出することが可能である。
【0054】
<無方向性電磁鋼板の磁気特性の測定方法について>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10は、上記のような構造を有することで、優れた磁気特性を示す。ここで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の示す各種の磁気特性は、JIS C2550に規定されたエプスタイン法や、JIS C2556に規定された単板磁気特性測定法(Single Sheet Tester:SST)に則して、測定することが可能である。
【0055】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10について、詳細に説明した。
【0056】
(無方向性電磁鋼板の製造方法について)
続いて、図2を参照しながら、以上説明したような本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の好ましい製造方法について、簡単に説明する。
図2は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の流れの一例を示した図である。
【0057】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の製造方法では、以上説明したような所定の化学組成を有する鋼塊に対して、熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を順に実施する。また、絶縁被膜13を地鉄11の表面に形成する場合には、上記仕上焼鈍の後に絶縁被膜の形成が行われる。以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10の製造方法で実施される各工程について、詳細に説明する。
【0058】
<熱間圧延工程>
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、まず、上記の化学組成を有する鋼塊(スラブ)を加熱し、加熱された鋼塊に対して熱間圧延を行って、熱延鋼板を得る(ステップS101)。熱間圧延に供する際の鋼塊の加熱温度については、特に規定するものではないが、例えば、1050℃〜1300℃とすることが好ましい。鋼塊の加熱温度は、より好ましくは、1050℃〜1250℃である。
また、熱間圧延後の熱延鋼板の板厚についても、特に規定するものではないが、地鉄の最終板厚を考慮して、例えば、1.6mm〜3.5mm程度とすることが好ましい。熱間圧延工程は、鋼板の温度が700℃〜1000℃の範囲にあるうちに終了することが好ましい。熱間圧延の終了温度は、より好ましくは、750℃〜950℃である。
【0059】
<熱延板焼鈍工程>
上記熱間圧延の後には、熱延板焼鈍(熱延鋼板に対する焼鈍)が実施される(ステップS103)。連続焼鈍の場合には、熱延鋼板に対して、例えば、750℃〜1200℃で、10秒〜10分の均熱を含む焼鈍を実施することが好ましい。また、箱焼鈍の場合、熱延鋼板に対して、例えば、650℃〜950℃で、30分〜24時間の均熱を含む焼鈍を実施することが好ましい。
熱延板焼鈍工程を実施した場合と比較して磁気特性はやや劣ることになるが、コスト削減のために、熱延板焼鈍工程を省略してもよい。
【0060】
<酸洗工程>
上記熱延板焼鈍工程の後には、酸洗が実施される(ステップS105)。これにより、熱延板焼鈍の際に鋼板の表面に形成された、酸化物を主体とするスケール層が除去される。熱延板焼鈍が箱焼鈍である場合、脱スケール性の観点から、酸洗工程は、熱延板焼鈍前に実施することが好ましい。
【0061】
<冷間圧延工程>
上記酸洗工程の後(熱延板焼鈍が箱焼鈍で実施される場合は、熱延板焼鈍工程の後となる場合もある。)には、熱延鋼板に対し、冷間圧延が実施される(ステップS107)。冷間圧延では、地鉄の最終板厚が0.10mm以上0.40mm以下となるような圧下率で、スケールの除去された酸洗板を圧延することが好ましい。
【0062】
<仕上焼鈍工程>
上記冷間圧延工程の後には、冷間圧延工程によって得られた冷延鋼板に対し、仕上焼鈍が実施される(ステップS109)。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上焼鈍の昇温過程を、急速加熱とすることが好ましい。昇温過程の加熱を急速に行うことにより、地鉄11において、磁気特性に有利な再結晶集合組織が形成される。仕上焼鈍の昇温過程を急速加熱とする場合、仕上焼鈍は、連続焼鈍で実施することが好ましい。
【0063】
具体的には、昇温過程では、平均昇温速度を1℃/秒〜2000℃/秒とすることが好ましい。また、昇温時の炉内の雰囲気を、Hの割合が10体積%〜100体積%であるH及びNの混合雰囲気(すなわち、H+N=100体積%)とし、雰囲気の露点を30℃以下とすることが好ましい。平均昇温速度は、より好ましくは、5℃/秒〜1500℃/秒であり、雰囲気中のHの割合は、より好ましくは、15体積%〜90体積%であり、雰囲気の露点は、より好ましくは、20℃以下であり、更に好ましくは、10℃以下である。上記の平均加熱速度は、例えば、ガス燃焼による加熱の場合には直接加熱やラジアントチューブを用いた間接加熱を用いたり、その他に通電加熱又は誘導加熱等といった公知の加熱方法を用いたりすることで、実現することが可能である。
【0064】
昇温過程の後の均熱過程では、均熱温度を、700℃〜1100℃とし、均熱時間を、1秒〜300秒とし、雰囲気を、Hの割合が10体積%〜100体積%であるH及びNの混合雰囲気(すなわち、H+N=100体積%)とし、雰囲気の露点を20℃以下とすることが好ましい。均熱温度は、より好ましくは、750℃〜1050℃であり、雰囲気中のHの割合は、より好ましくは、15体積%〜90体積%であり、雰囲気の露点は、より好ましくは、10℃以下であり、更に好ましくは、0℃以下である。
【0065】
均熱過程の後の冷却過程では、平均冷却速度を1℃/秒〜50℃/秒で200℃以下まで冷却することが好ましい。平均冷却速度は、より好ましくは、5℃/秒〜30℃/秒である。
【0066】
上記のような各工程を含む製造方法によれば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板10を製造することができる。
【0067】
<絶縁被膜形成工程>
上記仕上焼鈍の後には、必要に応じて、絶縁被膜の形成工程が実施される(ステップS111)。絶縁被膜の形成工程については、特に限定されるものではなく、上記のような公知の絶縁被膜処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布及び乾燥を行えばよい。
【0068】
絶縁被膜が形成される地鉄の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してもよいし、これら前処理を施さずに仕上焼鈍後のままの表面であってもよい。
【0069】
以上、図2を参照しながら、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0070】
以下では、実施例を示しながら、本発明に係る無方向性電磁鋼板について、具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明に係る無方向性電磁鋼板のあくまでも一例であって、本発明に係る無方向性電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0071】
(実験例1)
以下の表1に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1150℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を連続焼鈍式の焼鈍炉で、均熱温度が1000℃で均熱時間が40秒の熱延板焼鈍を行った後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板とした。この冷延鋼板に対し、均熱温度が1000℃で均熱時間が15秒の仕上焼鈍を行った。その後、更にリン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。
【0072】
上記の仕上焼鈍は、昇温過程、均熱過程における、露点が−30℃、Hの割合が30体積%のH及びNの混合雰囲気下で実施した。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度を20℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を20℃/秒とした。仕上げ焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0073】
表1において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明の範囲から外れていることを表す。
【0074】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B50及び鉄損W10/400を評価した。得られた結果を、表1にあわせて示した。
【0075】
【表1】
【0076】
上記表1から明らかなように、La、Ce、Pr及びNdの合計含有量とCa含有量が本発明の範囲より低めに外れた試験番号1、Ti含有量が本発明範囲より高めに外れた試験番号8、La、Ce、Pr及びNdの合計含有量が本発明範囲より低めに外れた試験番号11は、鉄損及び磁束密度が劣っていた。また、Ca含有量が本発明の範囲より低めに外れた試験番号9は、連続鋳造時にノズル閉塞が生じたため、製造を断念した。一方、鋼板の化学組成が本発明の範囲内である試験番号2、3、4、5、6、7及び10は、鉄損と磁束密度とがともに優れていた。
【0077】
(実験例2)
表2に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1150℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を均熱温度が1000℃で均熱時間が40秒となる条件で連続焼鈍式の焼鈍炉で熱延板焼鈍した後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板に対し、均熱温度が1000℃で均熱時間が15秒となる条件で仕上焼鈍を行った。その後、更にリン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。
【0078】
ここで、上記の仕上焼鈍は、昇温過程及び均熱過程における、雰囲気露点が−30℃、Hの割合が20体積%のH及びNの混合雰囲気下で実施した。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度を20℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を20℃/秒とした。仕上げ焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0079】
表2において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明の範囲から外れていることを表す。
【0080】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B50及び鉄損W10/400を評価した。得られた結果を、表2にあわせて示した。
【0081】
【表2】
【0082】
P含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号14、及び、Si含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号23は、冷間圧延時に破断したため、磁気測定が出来なかった。鋼板の化学組成が本発明の範囲内である試験番号12、13、15、16、18、19、20、24、25、及び26は、冷間圧延が可能であり、鉄損及び磁束密度が優れていた。一方、sol.Al含有量が本発明の範囲から高めに外れた試験番号17は、sol.Alを除きほぼ同一の組成である本発明の範囲内の試験番号16と比較して鉄損が劣っていた。また、Mn含有量が本発明の範囲より高めに外れた試験番号22は、鉄損と磁束密度とが劣っていた。また、Si−0.5×Mnが本発明の範囲より低めに外れた試験番号21は鉄損と磁束密度とが劣っていた。
【0083】
(実験例3)
以下の表3に示す組成を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼スラブを、1150℃に加熱した後、熱間圧延にて2.0mm厚に圧延した。続いて、熱延鋼板を均熱温度が1000℃、均熱時間が40秒となる条件で連続焼鈍式の焼鈍炉で熱延板焼鈍した後、冷間圧延を行って0.25mm厚の冷延鋼板を得た。その後、この冷延鋼板に、均熱温度が800℃、均熱時間が15秒となる条件で仕上焼鈍を行った。その後、リン酸金属塩を主体とし、アクリル樹脂のエマルジョンを含む溶液を鋼板の両面に塗布及び焼き付けし、複合絶縁被膜を形成することで無方向性電磁鋼板を製造した。続いて、上記鋼板に対し、750℃×2hrの歪取焼鈍を施した。
【0084】
ここで、上記の仕上焼鈍は、昇温過程及び均熱過程における、雰囲気露点が−30℃、Hの割合が20体積%のH及びNの混合雰囲気下で実施した。また、仕上焼鈍時の昇温過程における平均昇温速度15℃/秒、冷却過程における平均冷却速度を15℃/秒とした。仕上げ焼鈍後は200℃以下まで冷却した。
【0085】
表3において、「Tr.」とは、該当する元素を意図して含有させていないことを表す。また、下線は、本発明の範囲から外れていることを表す。
【0086】
その後、製造したそれぞれの無方向性電磁鋼板について、JIS C2550に規定されたエプスタイン法により、磁束密度B50及び鉄損W10/400を評価した。得られた結果を、表3にあわせて示した。
【0087】
【表3】
【0088】
実験例3の各試験番号の無方向性電磁鋼板の磁気特性は、歪取り焼鈍を実施したことにより、歪取り焼鈍を行わない場合と比較すれば、全般的に向上しているものの、特に、鋼板の化学組成が本発明の範囲である試験番号27、28、31、及び32は、鉄損及び磁束密度に優れていた。一方、La、Ce、Pr、Ndの合計含有量、及び、Ca含有量が本発明の範囲から低めに外れた試験番号29は、La、Ce、Pr、Nd、Caを除きほぼ同一の組成である試験番号27と比較して鉄損と磁束密度とが劣っていた。また、Si+0.5×Mnが低めに外れた試験番号30は、鉄損が劣っていた。以上のように、歪取焼鈍を行う場合にも、本発明に係る無方向性電磁鋼板は、磁気特性が向上することが明らかとなった。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、良好な冷間圧延性、及び優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板が得られるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0091】
10 無方向性電磁鋼板
11 地鉄
13 絶縁被膜
図1
図2