【文献】
WAMPLER, F. B.,The SO2(3B1) photosensitized isomerization of cis- and trans-1,2-difluoroethylene,International Journal of Chemical Kinetics,1976年,Vol.8,pp.511-17
【文献】
WAMPLER, F. B.,The Photolysis of SO2 at 3080Å in the Presence of Cis- and Trans-1,2-Difluoroethylene,International Journal of Chemical Kinetics,1976年,Vol.8,pp.519-528
【文献】
STRAUSZ, O. P. et al.,Mercury 6(3P1) Photosensitization of Mono- and Difluoroethylenes. Correlation of Mechanism with Calculated Molecular Orbital Energy Levels,Journal of the American Chemical Society,1970年,Vol.92, No.22,pp.6395-6402
【文献】
CRAIG, N. C. et al.,Thermodynamics of cis-trans isomerizations. The 1,2-difluoroethylenes,Journal of the American Chemical Society,1961年,Vol.83,pp.3047-3050
【文献】
編者 社団法人 日本化学会,化学便覧 応用化学編 第6版,2003年,pp.176, 177, 190, 191
【文献】
新井 達郎 ほか,二重結合の光異性化の新展開,有機合成化学,1986年,Vol.44, No.11,pp.999-1009
【文献】
WAMPLER, F. B. et al.,The SO2(3B1) Photosensitized Isomerization of cis- and trans-1,2-dichloroethylene,International Journal of Chemical Kinetics,1976年,Vol.8,pp.585-597
【文献】
GUILLORY, W. A. et al.,The vacuum-ultraviolet photolysis of the difluoroethylenes,The Journal of Chemical Physics,1975年,Vol.62, No.8,pp.3208-3216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応器に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を供給し、光増感剤の存在下、光照射により、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含み、
前記異性化反応は、バッチ式の反応容器を用いて行うこと、又は、管型反応器を用いた液相連続流通式で行うことである、
トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法。
反応器に、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を、又はトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及びシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を、供給し、光増感剤の存在下、光照射を行うことにより、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含み、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を製造する、請求項1に記載の製造方法。
反応器に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を、又はトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及びシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を、供給し、光増感剤の存在下、光照射を行うことにより、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含み、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を製造する、請求項1に記載の製造方法。
前記異性化反応後、蒸留により、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)とに分離する工程を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
前記分離する工程の後、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を、前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供する工程を含み、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を製造する、請求項5に記載の製造方法。
前記分離する工程の後、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を、前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供する工程を含み、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を製造する、請求項5に記載の製造方法。
前記反応器に蒸留塔のスチル(still)部を用い、前記異性化反応と、蒸留によりトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との分離とを同時に実施する、請求項1、2又は4に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従来の増感剤として二酸化硫黄を使用して、気相で、光異性化反応を進行させる方法では、反応の効率が低く原料の1−ハロ−2−フルオロエチレンに対して大過剰量の二酸化硫黄を必要であった。また、従来の光異性化反応では、反応後に二酸化硫黄を回収したり、再利用したりする際に、1−ハロ−2−フルオロエチレンは、二酸化硫黄(沸点:−10℃)との沸点が近接しており、異性化反応後に、1−ハロ−2−フルオロエチレンのE体とZ体とを分離し、更に二酸化硫黄を分離することは、非常に煩雑であった。本発明者らは、その様な従来の光異性化反応では、生産時の経済性を損なうという課題を見出した。
【0016】
本発明者らは、また、例えば、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)等のトリハロゲン化エタンを原料として、触媒存在下で脱フッ化水素反応を行うことにより、HFO−1132を得る従来の方法においては、異性体であるHFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とが併産されるため、いずれかの異性体のみを得たい場合には、他方の異性体が不要となり、コスト面で非効率的となるという課題を見出した。
【0017】
よって、本開示は、かかる課題を解決する手段を提供することを課題とする。具体的には、1−ハロ−2−フルオロエチレンを得る方法において、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)とが併産される場合において、より効率的にトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を得る方法を提供することを課題とする。
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、1−ハロ−2−フルオロエチレンを含む反応組成物において、光増感剤の存在下、光照射により、液相で、異性化が可能であることを見出した。また異性化反応を行う工程と、所望の異性体を分離する工程とを組み合わせることによって、上記の課題を解決できることを見出した。本開示はかかる知見に基づいてさらに検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0019】
1.異性化反応
本開示の製造方法は、反応器に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を供給し、光増感剤の存在下、光照射により、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含む、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法である(
図1)。
【0020】
本開示の製造方法は、反応器に、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を、又はトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及びシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を、供給し、光増感剤の存在下、光照射を行うことにより、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含み、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を製造する方法である。
【0021】
本開示の製造方法は、反応器に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を、又はトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及びシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を、供給し、光増感剤の存在下、光照射を行うことにより、液相で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う工程を含み、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を製造する方法である。
【0022】
量子化学計算によれば1−ハロ−2−フルオロエチレンの三重項励起エネルギーは大きく、光増感剤を用いても異性化反応が極めて進行し難いと考えられている(表1)。
【0024】
本開示の製造方法では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応を行う。この異性化反応は、以下の反応式に従う。E−異性体は、Z−異性体よりも熱力学的に安定性が低いため、この平衡はZ−異性体側に傾いている。
【0026】
(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子から選ばれるハロゲン原子を示す。)
【0027】
本開示では、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を、光増感剤の存在下、光照射により、液相で、異性化反応に供することにより、HFO−1132(E)の含有割合が変化した組成物が得られる。
【0028】
本開示では、前記異性化反応における光照射を、200nm以上450nm以下の波長を有する光を照射して行うことが好ましい。
【0029】
本開示では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との間の異性化反応における平衡関係を利用することにより、いずれかの化合物の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0030】
1−1.トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物
本開示では、異性化の原料は、以下の式で表されるトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物
【0032】
(式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子から選ばれるハロゲン原子を示す。)
である。
【0033】
異性化の原料として用いられる、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、上記異性化反応を著しく妨げない限り、特に限定されず、幅広く選択することができる。
【0034】
その他の成分の例として、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を得る過程で混入した不純物、及び生成した副生成物等が含まれる。混入した不純物には、原料に含まれる不純物等が含まれる。
【0035】
例として、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を得る方法であれば、原料のHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を得る方法として、例えば、ハロゲン化エタンを脱ハロゲン化水素反応又は脱ハロゲン化反応に供することにより得る方法等が挙げられる。かかる反応において用いられるハロゲン化エタンとしては、特に限定されず、幅広く選択できる。具体例として、以下のハロゲン化エタン等が挙げられる。これらのハロゲン化エタンは、冷媒、溶剤、発泡剤、噴射剤等の用途として広く使用されており、一般に入手可能である。
【0036】
1,1,2−トリフルオロエタン(CHF
2CH
2F、HFC−143)
1−ブロモ−1,2−ジフルオロエタン(CHFBrCH
2F)
1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(CHClFCH
2F)
1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエタン(CHClFCHClF)
1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHF
2CHF
2)
1−クロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(CHClFCHF
2)
【0037】
本開示では、特に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)の製造方法とする時、原料として、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を使用することで、効果的に、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)への異性化反応を進めることができる。
【0038】
本開示では、また、特に、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法とする時、原料として、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を使用することで、効果的に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)からシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)への異性化反応を進めることができる。
【0039】
1−2.液相反応
本開示の製造方法では、異性化反応は、反応器に、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を供給し、光増感剤の存在下、光照射により、液相で行う。
【0040】
本開示の製造方法の重要な特徴は、光照射による異性化反応を液相で実施することである。原料のトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を液化するために、加圧及び/又は冷却をしても良い。
【0041】
後述する
図3に示す様に、生産設備で、連続的に、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を生産する時には、蒸留塔内の還流を維持する目的で、加熱しても良い。
【0042】
光増感剤
本開示における異性化反応において、使用する光増感剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン等の芳香環を有するケトン化合物、ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素化合物等をもちいちることができる。
【0043】
また、本開示における異性化反応において、使用する光増感剤としては、増感剤の励起波長や励起エネルギー順位を調整(チューニング)する目的で、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゼン、ナフタレン等の光増感剤に、各種官能基を導入した構造を持つ化合物を使用することができる。
【0044】
前記光増感剤としては、例えば、2,2,2−トリフルオロ−4‘−メトキシアセトフェノン、4’−アセチルアセトフェノン、2−古ロロアセトフェノン、4‘−ヒドロキシアセトフェノン、2,2,2−トリフェニルアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、4‘−クロロアセトフェノン、3’−メチルアセトフェノン、2−プロピルアセトフェノン、4,4‘−ジカルボメトキシベンゾフェノン、4、4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2,2‘−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾフェノン、4−カルボメトキシベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジメチルベンゾフェノン、3,4−ジメチルベンゾフェノン、2−ベンジルベンゾフェノン、4,4‘−ジ−tert−ブチルベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4‘−ジフルオロベンゾフェノン、4−シアノベンゾフェノン、1,3−ジシアノベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、1,4−ジクロロベンゼン、メタキシレン、1,4−ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、ベンゾチアゾール、2,7ジヒドロキシナフタレン、1−メチルナフタレン等が挙げられる。
【0045】
本開示における異性化反応において、使用する光増感剤は、前記光増感剤の中から単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。中でも、比較的安価に入手可能であり、照射すべき波長の光源が入手し易いという点で、アセトフェノン、ベンゾフェノン等の芳香環を有するケトン化合物が好ましく、ベンゾフェノンはより好ましい。
【0046】
本開示における異性化反応において、使用する光増感剤は、光照射を実施する際の光源として使用する時に、後述する光照射の波長により適宜選択することができる。
【0047】
本開示における異性化反応において、光増感剤の使用量については、特に限定的ではない。一般に光増感剤を用いる光異性化反応において、光増感剤の濃度が高過ぎる場合、光増感剤の自己消光により、異性化反応の進行が阻害されることがある。本開示では、効率良く異性化反応を進める為に、光照射を行う液相中の光増感剤濃度は、0.1mM〜2M程度の範囲とすることが好ましく、1mM〜500mM程度の範囲とすることがより好ましく、5mM〜100mM程度の範囲とすることが更に好ましい。前記光増感剤を用いることで、光照射により、液相で、効率良く異性化反応を進めることができる。
【0048】
反応の溶媒
本開示における異性化反応では、使用する光増感剤が液化したトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物に混和する時は、特に溶媒を必要としない。
【0049】
本開示における異性化反応では、使用する光増感剤が液化したトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物に混和しない時は、必要に応じて溶媒を使用することができる。
【0050】
本開示における異性化反応では、必要に応じて、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物と光増感剤とを溶解させる溶媒を使用する。
【0051】
前記溶媒としては、水及び非水溶媒のいずれも採用することができる。非水溶媒としては、比較的安価に入手が可能であり、反応後のトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との分離が比較的容易である点で、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル等が好ましい。
【0052】
本開示における異性化反応において、使用する溶媒は、前記溶媒の中から単独で使用することもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、イソプロピルアルコール、アセトニトリル等を好ましく用いることができる。
【0053】
反応の温度、時間及び圧力
一般に、光異性化反応の進行は温度依存性が無い、若しくは非常に小さいことから、本開示における異性化反応では、反応温度は特に限定されない。本開示における異性化反応では、反応温度は加熱・冷却により適宜設定することができる。反応温度は−100℃〜100℃程度の範囲とすることができ、好ましくは−50℃〜50℃程度の範囲、或は室温とすればよい。
【0054】
本開示における異性化反応では、反応時間は特に限定されず、光異性化反応における光照射時間は、使用する光源の出力(放射照度)により適宜設定することができる。照射時間を長くすれば反応溶液の組成を平衡組成に達せしめることができるが、過剰な光照射を行うことは経済的に非効率となるため、適当な照射時間を設定することができる。通常は、0.01時間〜10時間程度の範囲とすることができ、好ましくは0.1時間〜3時間程度の範囲とすればよい。
【0055】
本開示における異性化反応では、反応器の圧力は特に限定されず、適宜設定することができる。圧力が高いとタール等の重合物の生成が促進されるため、適当な圧力を設定することができる。本開示における異性化反応では、通常、上記化合物の中で最も蒸気圧の高い1,2−ジフルオロエチレンを加熱した場合を考慮すると、常圧〜2.5MPa程度の範囲、好ましくは常圧〜1.7MPa程度の範囲とすればよい。
【0056】
光照射
本開示では、前記異性化反応における光照射を、200nm以上450nm以下の波長を有する光を照射して行うことが好ましい。光照射を実施する際の光源としては、特に限定的ではないが、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、蛍光ランプ、白熱ランプ、紫外線発光ダイオード等を好ましく使用することができる。本開示では、光照射装置として、例えば、250Wの高圧水銀ランプを使用することができる。
【0057】
本開示では、200nm以上450nm以下の波長を有する光を照射することから、光増感剤を介して、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)から異性化反応を進行させることが特徴である。本開示の製造方法は、光増感剤を介することで、経済的に有利なトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法である。
【0058】
本開示における異性化反応において、光照射の波長は、前述の使用する光増感剤の紫外・可視スペクトルを考慮して、適宜調整することができる。本開示では、光増感剤としてベンゾフェノンを用いる時、240nm以上420nm以下の波長を有する光を照射することが好ましい。本開示では、光増感剤としてアセトフェノンを用いる時、220nm以上400nm以下の波長を有する光を照射することが好ましい。本開示では、光増感剤としてベンゼンを用いる時、200nm以上370nm以下の波長を有する光を照射することが好ましい。本開示では、光増感剤としてナフタレンを用いる時、240nm以上450nm以下の波長を有する光を照射することが好ましい。
【0059】
バッチ式反応
本開示では、異性化反応を液相で行い、異性化反応を行う反応器として、バッチ式の反応容器を用いて、異性化反応を行うことが好ましい。バッチ式の反応では、密閉反応系の反応容器を用いることができる。バッチ式で反応を行う場合には、例えば、反応器に異性化の原料として用いられる、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を供給し、光増感剤の存在下、ヒーター等を用いて適切な反応温度に設定し、光照射を実施し、一定時間反応することが好ましい。
【0060】
本開示では、異性化反応をバッチ式で反応(例えば、密閉反応系)を行う場合には、反応温度は、適宜調節することができる。即ち、光源から発生する熱を除去する目的で冷却を行い、反応装置内を所望の温度範囲内に保つことができる。使用した増感剤の析出を防ぐ等の目的で加熱を行うこともできる。
【0061】
本開示における異性化反応する工程では、また、光照射後の平衡組成はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)に偏るため(一例として増感剤にベンゾフェノンを用いた場合、E体:Z体≒5:95)、バッチ式の反応容器(密閉反応容器等)で行うことにより、効率的にシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を得ることができる。
【0062】
流通式反応
本開示では、異性化反応を液相で行い、異性化反応を行う反応器として、管型反応器を用いた液相連続流通式で行うことが好ましい。液相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できることから、経済的に有利である。流通式で反応を行う場合には、例えば、反応器に異性化の原料として用いられる、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物を供給し、光増感剤の存在下、ヒーターもしくは冷却器にて適切な反応温度に設定し、光照射を実施し、一定時間反応することが好ましい。
【0063】
本開示における異性化反応する工程では、流通式の反応容器で行うことにより、効率的にトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を得ることができる。
【0064】
異性化反応は、反応器に原料を連続的に仕込み、当該反応器から目的化合物を連続的に抜き出す流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施することができる。
【0065】
本開示では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)からシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)への異性化反応を実施する場合、異性化反応を行った後で残余のE体と目的のZ体、更に溶媒や増感剤を分離する必要がある為、連続式反応装置を使用することによって、分離工程も連続化することができ、生産設備の効率化を図ることができる。例えば、分離工程で、蒸留塔を2塔使用することで、
図1や
図2で表す連続式反応装置を用いて、連続的に反応・分離を実施することが可能である。
【0066】
本開示では、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)への異性化反応を実施する場合、光照射後のE体の組成比が決して大きくならないこと、E体に比べて高沸点なZ体と溶媒、増感剤は必ずしも分離する必要が無いことから、連続式反応装置を使用することによって、後述する蒸留塔スチル(still)部で光異性化反応を行い、同時に蒸留によってE体を連続的に得る方が効率良く、設備も経済的である。
【0067】
2.分離する工程
本開示では、前記異性化反応後、蒸留により、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)とに分離する工程を含み、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を製造する(
図2)。
【0068】
本開示で、原料とするトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)とでは、E体の方が低沸点である(表2)。
【0070】
本開示で、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を得る時は、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)に光照射を行いながら、蒸留により、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を分離することが好ましい(
図2及び
図3)。この操作により、光照射後のE体とZ体との平衡組成に関わらず、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を連続的に効率良く生産することが可能となる。
【0071】
前記異性化反応で得られた反応生成物を、例えば、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を主成分とする第1ストリームと、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を主成分とする第2ストリームとに分離する。具体的には、異性化反応により生成した反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留して、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を主成分とする第1ストリームと、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を主成分とする第2ストリームとに分離する。
【0072】
3.リサイクルする工程
本開示では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)のいずれかの含有割合がより高められた組成物を回収するために、前記分離する工程で得られた、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を主成分とする第1ストリーム、或はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を主成分とする第2ストリームとを、前記異性化反応にリサイクルすることができる。
【0073】
本開示では、前記分離する工程の後、好ましくは、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を、前記反応器に移し、リサイクルして、再び異性化反応に供する工程を含み、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を製造する(
図2)。分離する工程の後、例えば、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を主成分とする第2ストリームをリサイクルすることによって、リサイクル後の異性化反応において、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0074】
トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を含む組成物に、光照射し、異性化反応を行うと、反応後の平衡組成は大きくZ体に偏る(一例として増感剤にベンゾフェノンを用いた場合、E体:Z体≒5:95)。その為、本開示では、前記光照射後、E体を分離し、純粋なZ体をリサイクルして、再び光照射により異性化反応を行うことで、E体を増加させることが可能である。
【0075】
本開示では、また、リサイクル工程において、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を主成分とする第1ストリームをリサイクルすることによって、リサイクル後の異性化反応において、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0076】
4.異性化反応と蒸留による分離とを同時進行する工程
本開示では、前記反応器に蒸留塔のスチル(still)部を用い、前記異性化反応と、蒸留によりトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)との分離とを同時に実施する(反応蒸留)ことが好ましい。
【0077】
本開示では、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)への異性化反応を実施する場合、E体に比べて高沸点なZ体と溶媒、増感剤は必ずしも分離する必要が無いことから、連続式反応装置を使用することによって、蒸留塔スチル(still)部で光異性化反応を行いつつ、効率良く蒸留によってE体を連続的に得ることができ、設備も経済的である。
【0078】
5.好ましい製造方法
好ましいトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)の製造方法
図3に、本開示におけるトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法において、効率的にシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を連続的に生産する製造設備の概略を示す。
【0079】
光照射後の平衡組成はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)に偏る(一例として増感剤にベンゾフェノンを用いた場合、E体:Z体≒5:95)。原料(反応ガス)(
図3の1)中、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)の方が低沸点であるため、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)に光照射を行いながら(
図3の6)、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を分離する(
図3の7)ことが好ましい。これにより光照射後の平衡組成に関わらず、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を連続的に生産することが可能となる。
【0080】
本開示では、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)への異性化反応を実施する場合、例えば、連続式反応装置を使用することによって、蒸留塔スチル(still)部(
図3の6)で光異性化反応を行いつつ、効率良く、蒸留によってE体を連続的に得る(
図3の7及び8)ことができ、設備も経済的である。本開示では、シス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)からトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を生産する場合には、光異性化反応と蒸留分離とを同時に実施することが好ましい。
【0081】
好ましいシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法
図4に、本開示におけるトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)の製造方法において、効率的にトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)からシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を生産する製造設備の概略を示す。
【0082】
本開示では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)とシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)とでは、光照射後の平衡組成が大幅にZ体に偏るため、平衡組成に達するまで光照射を行った後に(
図4の2)、残余のトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)を分離し(
図4の4及び5)、再利用して(
図4の6)、再度、光照射により、異性化反応を行う(
図4の2)ことが好ましい。本開示では、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)からシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を生産する場合には、蒸留塔のスチル部内が平衡組成に達するまでは光照射のみを行い(
図4の4)、最後に残ったE体のみを分離すること(
図4の5)が好ましい。
【0083】
本開示における製造方法によれば、トランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を製造する際に副生することが不可避な所望しない異性体を、高効率的に所望の異性体に変換することが可能となり、所望の異性体を生産する方法の経済性を大きく向上することができる。本開示における製造方法により製造したトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)は、例えば、樹脂製品原料、有機合成中間体、熱媒体等の各種用途に、有効に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0085】
(1)異性化反応
液化したシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))を用いた。光照射前では、前記シス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))(組成物)には、
19F−NMR測定を行うと、300ppmのトランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))が含まれていた。
【0086】
反応器として外径4mm、内径3mmのPFA樹脂製チューブを用いた。光増感剤としてベンゾフェノンを用い、ベンゾフェノンのアセトニトリル溶液(ベンゾフェノン濃度50mM)315μLと、前記液化したシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))とを含む組成物77μLを、前記反応器に封入した。前記反応器の液相部に対して、室温で、250Wの高圧水銀ランプ(主に230nm〜440nmの波長を有する光)を照射した。
【0087】
(2)異性化反応の結果
光照射開始から、1時間後、3時間後、及び9時間後の時点に、
19F−NMR測定を行い、液相の組成を確認した。液相内のHFO−1132(Z)とHFO−1132(E)とのモル比は、HFO−1132(Z):HFO−1132(E)が、夫々96.38:3.62(光照射開始から1時間後)、95.48:4.52(光照射開始から3時間後)、95.12:4.88(光照射開始から9時間後)となった。
【0088】
HFO−1132(Z)を含む反応器(液相)に、光増感剤を添加し、光照射により、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応の進行が確認された。また、光照射開始から9時間の時点で、ほぼ平衡組成に達していることが確認された。
【0089】
図5に、光照射前及び光照射9時間後のサンプルの
19F−NMRスペクトルを示す。
【0090】
比較実験として、上記方法で、ベンゾフェノン(光増感剤)を含むアセトニトリル溶液に替えて、光増感剤を添加していないアセトニトリルを用いて光照射を行った。比較実験では、HFO−1132(E)の生成は確認されなかった。
【0091】
本開示の製造方法により、目的とするトランス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(E体)及び/又はシス−1−ハロ−2−フルオロエチレン(Z体)を効率よく製造する方法が構築でき、特にHFO−1132(E)を高効率的に得ることが可能であると評価できた。