(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来の手法においては、磁束密度の抑制が十分でないことから、振動及び騒音の原因となるトルクリプル及び電磁加振力を十分に低減できない。
【0005】
本発明は、以上の事情を鑑み、振動及び騒音の原因となるトルクリプル及び電磁加振力のより一層の低減を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、永久磁石モータの回転子であって、この回転子の鉄心にはその一方の端面から他方の端面に亘って前記永久磁石モータのモータシャフトと同一方向に貫通すると共に当該回転子のd軸を線対称に配置される一対の永久磁石挿入孔が形成され、この一対の永久磁石挿入孔は前記回転子の外周側から軸心にかけて複数層に配置形成され、最も外周側の一対の永久磁石挿入孔には、前記回転子のq軸側の当該一対の永久磁石挿入孔の端部から当該回転子の外周に沿ってd軸側に延びると共に鉄心の一端から他端に亘って前記モータシャフトと同一方向に貫通する第一の磁気遮断部が形成され、前記第一の磁気遮断部は、前記d軸から電気角で14°から46°の範囲に形成されている。
【0007】
本発明の一態様は、前記回転子において、前記外周側の一対の永久磁石挿入孔よりも軸心側に複数層に配置形成された一対の永久磁石挿入孔のq軸側端部には、前記回転子のd軸上外径側端部を中心した同心の円弧を成す第二の磁気遮断部がさらに形成されている。
【0008】
本発明の一態様は、前記回転子において、前記永久磁石挿入孔に挿入される永久磁石の横断面の長手方向の長さは、前記回転子の外周側から軸心側につれて長くなる。
【0009】
本発明の一態様は、前記回転子において、前記一対の永久磁石挿入孔に挿入される永久磁石のVの字の配置角度は、前記回転子の外周側から軸心側につれて小さくなる。
【0010】
本発明の一態様は、前記回転子において、前記軸心側に配置される永久磁石は複数に分割され、この分割された個々の永久磁石は前記回転子のd軸上外径側端部を中心した同心に配置される。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明によれば、磁束密度が抑制されるので、振動及び騒音の原因となるトルクリプル及び電磁加振力のより一層の低減が図られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[実施形態1]
図1は本発明の一態様である永久磁石モータの回転子1の軸方向に直交する断面の構造を示す。本図においては、回転子1の一つの主磁極のみが示され、その他の主磁極は主磁極と同様の構成であるので図示省略されている。
【0015】
前記永久磁石モータは、回転子1と、これと同軸に回転子1に周設される固定子2を備える。固定子2には、ステータコイル21が装着される複数のステータスロット22が回転子1の外周に沿って等間隔に配置形成されている。
【0016】
(鉄心10)
回転子1の鉄心10は、珪素鋼板を積層して形成した略円筒状の部材である。そして、この鉄心10の軸芯部には、モータシャフト11が嵌入されており、モータシャフト11は軸受(図示省略)により回転自在に支持される。
【0017】
鉄心10は、
図1の回転子1(モータシャフト11)の軸心と、マグネットトルクを生成する任意の主磁極の中心(例えば、一対の永久磁石13a,13b(15a,15b)間の中央位置)とを結ぶ
図7の直線dで示す軸が、d−q軸座標のd軸となる。また、鉄心10のうち、一磁極分の主磁極の永久磁石13a,13b(15a,15b)と、この主磁極に周方向に隣接する主磁極の永久磁石13a,13b(15a,15b)との間の鉄心は、リアクタンストルクを生成する補助磁極部16となる。さらに、回転子1(モータシャフト11)の軸心と補助磁極部16の中心軸とを結ぶ同図の直線qで示す軸、即ち、前記d軸と電気角で直交する軸が、d−q軸座標のq軸となる。
【0018】
(永久磁石挿入孔12a,12b,14a,14b)
図1に示されたように、主磁極には、一対の永久磁石挿入孔が、回転子1の外周側及び軸心側にVの字に配置形成されることにより、後述の永久磁石が二層に配置される。
【0019】
すなわち、鉄心10の外周側にて、一対の永久磁石挿入孔12a,12bが、鉄心10の一方の端面から他方の端面に亘ってモータシャフト11と同一方向に鉄心10を貫通するように形成されている。そして、この永久磁石挿入孔12a,12bは、鉄心10の周方向に沿い等間隔に配置形成されている。
【0020】
また、この永久磁石挿入孔12a,12bよりもさらに回転子1の軸心側にて、一対の永久磁石挿入孔14a,14bが、永久磁石挿入孔12a,12bと同様に、鉄心10を貫通するように形成されている。特に、永久磁石挿入孔14a,14bは、永久磁石挿入孔12a,12bよりも長径に形成されている。そして、この永久磁石挿入孔12a,12bも、鉄心10の周方向に沿い等間隔に配置形成されている。
【0021】
永久磁石挿入孔12a,12b,14a,14bは、回転子1のd軸を線対称、且つ、回転子1の外周に近づくにつれて配置角度が広くなるVの字状に配置形成されている。特に、軸心側の永久磁石挿入孔14a,14bのVの字の配置角度は、外周側の永久磁石挿入孔12a,12bの当該配置角度よりも小さく設定されている。
【0022】
(永久磁石13a,13b,15a,15b)
永久磁石挿入孔12a,12bには、回転子1の軸方向に沿う長板状の永久磁石13a,13bが挿入されることにより、鉄心10の周方向に沿って一対の永久磁石13a,13bがVの字状に配置される。
【0023】
一方、永久磁石挿入孔14a,14bには、回転子1の軸方向に沿う長板状の永久磁石15a,15bが挿入されることにより、鉄心10の軸心側に一対の永久磁石15a,15bがVの字状に配置される。特に、
図1に示したように、永久磁石15a,15bの横断面の長手方向の長さL2は、永久磁石13a,13bの横断面の長手方向の長さL1よりも長く設定されている。
【0024】
以上のように、回転子1において一対の永久磁石が二層構造で配置された態様となる。特に、本態様においては、
図7に示した永久磁石13a,13b,15a,15bの外周側磁極面13ou,15ouは、同一の磁気極性(S極またはN極)になっている。これにより、永久磁石13a,13b,15a,15bにより、一つの主磁極が形成される。
【0025】
(磁気遮断部17a,17b)
図1,6に示したように、永久磁石挿入孔12aのq軸側の端部には、外周に沿ってd軸側に延びると共に鉄心10の一端から他端に亘ってモータシャフト11と同一方向に貫通する磁気遮断部17a(第一の磁気遮断部)が形成されている。
【0026】
同様に、永久磁石挿入孔12bのq軸側端部にも、d軸を中心に磁気遮断部17aと線対称に外周に沿ってd軸側に延びると共に鉄心10の一端から他端に亘ってモータシャフト11と同一方向に貫通する磁気遮断部17b(第一の磁気遮断部)が形成されている。
【0027】
特に、磁気遮断部17a,17bは、
図7に示されたd軸からの電気角Aが14°から46°の範囲に収まるように形成されている。磁気遮断部17a,17bは、孔(空間)であるため、鉄心10に比べて透磁率が極めて小さく、磁束が極めて通り難くなっており、磁気的な遮断部として機能する。尚、磁気遮断部17a,17bを形成する孔(空間)内に、非磁性で透磁率の低い金属(例えば、アルミニウムや真鍮など)や、接着剤、ワニス、樹脂等を充填していても、磁気遮断部であることに変わりはない。
【0028】
(本実施形態の効果)
以上の回転子1の構造によれば、磁気遮断部17a,17bが回転子1のd軸とq軸との間に形成されることにより、永久磁石13a,13bによって回転子1の外周面に発生する磁束密度分布の変化、特に主磁極の周方向の両端部分での磁束密度分布を正弦波に近づけることができる。これにより、回転子1のトルクリプル及び電磁加振力を効果的に低減することができ、永久磁石モータの騒音及び振動のさらなる低減化が図られる。
【0029】
特に、磁気遮断部17a,17bがd軸から電気角Aが14°から46°の範囲に収まるように形成されることにより、当該範囲の回転子1の磁石磁束が抑制されるので、回転子1の外周と磁気遮断部17a,17bとの間のギャップ円周上の磁束密度分布が正弦波形状に近くなる。したがって、トルクリプル及び電磁加振力が低減し、振動及び騒音のさらなる低減を図ることができる。そして、電気角Aが約46°の範囲(例えば
図6に示されたd軸から一番目と二番目のステータスロット22の範囲)以下とすることにより、磁極中心(d軸)から二つ目のティース23の磁石磁束が抑制され、磁路幅も確保できるのでトルクも向上する。また、前記磁束密度分布の動径方向成分の13次高調波も抑制される。
【0030】
図2は磁気遮断部17a,17bを有しない
図10に示された従来の回転子1のギャップ磁束密度の波形を示す。また、
図3は磁気遮断部17a,17bを有する回転子1のギャップ磁束密度の波形を示す。特に、
図3の特性図は、d軸から磁気遮断部17aのd軸側端部までの電気角Aが16°の場合のギャップ磁束密度の波形を示す。
図2,3の特性図の比較から明らかなように、ギャップ磁束密度は電気角Aが60°及び120°前後の磁束密度が低減して正弦波形状に近似している。そして、この傾向は磁気遮断部17a,17bがd軸からの電気角Aが14°から46°の範囲で特に顕著に示された。
【0031】
図4に回転子1のd軸側端までの電気角Aとギャップ磁束密度波形の高調波成分の変化を、
図5に回転子1のトルクリプルの変化(電気角A=28°基準)を示した。
図4,5のグラフを比較すると、トルクリプルと13次高調波の波形が似通っている。これは、磁気遮断部17a,17bを設けることにより、13次高調波が抑制され、トルクリプルが低減することを示唆する。そして、13次高調波は電気角Aが小さくしすぎると増加する傾向にあり、13次高調波を低減できる範囲としては14°≦A<28°がより好ましいことが示された。
【0032】
尚、本発明に係る磁気遮断部は二層以上の例えば後述の三層構造の配置であっても最も外周側の磁気遮断部が上記と同じ範囲にあれば同様の傾向となる。さらに、永久磁石13a,13b,15a,15bの配置状態は、上述の「Vの字」の配置に限らず、「逆Vの字」、「U字状」、「アーチ状」、「台形状」などであっても、同様の効果が得られる。
【0033】
[実施形態2]
図8に例示の実施形態2の回転子1は、最も外周側の一対の永久磁石13a,13bよりも軸心側に複数層配置される一対の永久磁石のq軸側に、回転子1のd軸上外径側端部Eを中心した同心の円弧を成す磁気遮断部18a,18b,32a,32b(第二の磁気遮断部)が形成されている。
【0034】
図示の態様においては、一対の永久磁石が三層に配置されている。すなわち、回転子1の外周側から軸心にかけて永久磁石挿入孔12a,12b、永久磁石挿入孔14a,14b、永久磁石挿入孔30a,30bが順次、回転子1のd軸を線対称に、且つ、回転子1の外周に近づくにつれて配置角度が広くなるVの字状に配置形成されている。尚、永久磁石挿入孔30a,30bは永久磁石挿入孔14a,14bよりも長い円弧に形成されている。
【0035】
そして、永久磁石挿入孔12a,12b、永久磁石挿入孔14a,14b、永久磁石挿入孔30a,30bに、永久磁石13a,13b、永久磁石15a,15b及び永久磁石31a,31bが各々挿入されることで軸心側に永久磁石13a,13b,15a,15b,31a,31bがVの字状に一対に配置される。尚、
図8に示されたように、永久磁石31a,31bの横断面の長手方向の長さL3は、永久磁石15a,15bの横断面の長手方向の長さL2よりも長く設定されている。以上のように、回転子1において一対の永久磁石が三層構造で配置された態様となる。
【0036】
そして、永久磁石挿入孔14a,14bのq軸側端部には、回転子1のd軸上外径側端部Eを中心した同心の円弧を成して延びると共に鉄心10の一端から他端に亘ってモータシャフト11と同一方向に貫通する磁気遮断部18a,18bが形成されている。
【0037】
同様に、永久磁石挿入孔30a,30bのq軸側端部にも、回転子1のd軸上外径側端部Eを中心した同心の円弧を成して延びると共に鉄心10の一端から他端に亘ってモータシャフト11と同一方向に貫通する磁気遮断部32a,32bが形成されている。
【0038】
本態様の回転子1の構造によれば、実施形態1の効果に加えて、磁気遮断部18a,18b,32a,32bが同心の円弧となっているので、直線状のバリアの態様と比較しても、磁束の流れがスムーズとなり、トルクの向上、損失低減効果が期待される。特に、回転子1のd軸端を円弧の中心とすることにより、磁路幅を確保しつつ、永久磁石をより回転子1の内径側に埋め込むことができるため、磁石の損失を低減できる。
【0039】
また、同図のように、永久磁石13a,13b,15a,15b,31a,31bの横断面の長手方向の長さL1,L2,L3が回転子1の外周側から軸心側につれて長くなることにより、回転子1のマグネットトルクがさらに向上する。
【0040】
さらに、同図のように、Vの字に配置される一対の永久磁石13a,13b,15a,15b,31a,31bの配置角度が回転子1の外周側から軸心側につれて小さくなることにより、各層のd軸側の当該一対の永久磁石間の距離が次第に離間する。これにより、各層間で発生する磁気飽和が抑制され、リアクタンストルクが向上する。
【0041】
尚、
図9に例示された回転子1の構造のように、回転子1の軸心側に配置される永久磁石15が複数(例えば3つ以上)に分割され、個々の永久磁石15が回転子1のd軸上外径側端部Eを中心した同心に配置されるとよい。軸心側の永久磁石15は回転子1のd軸上外径側端部Eを中心とした同心に円弧に配置された永久磁石挿入孔14に挿入されている。本態様によれば、複数の永久磁石15が前記同心に配置されることにより、永久磁石15の渦電流損失がさらに低減する。そして、各層に配置される複数の永久磁石の配置が回転子1の外周側から軸心側につれてU字に近づくことにより、磁束の流れがスムーズとなり、リアクタンストルクがさらに向上する。
【符号の説明】
【0042】
1…回転子
2…固定子
10…鉄心
11…モータシャフト
12a,12b,14,14a,14b,30a,30b…永久磁石挿入孔
13a,13b,15,15a,15b,31a,31b…永久磁石
16…補助磁極部
17a,17b,18a,18b,32a,32b…磁気遮断部
21…ステータコイル、22…ステータスロット、23…ティース