(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項3に記載の母材に対して、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料を用いて溶接を行うことで溶接金属を製造する、溶接金属の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、排熱回収ボイラは石炭火力発電ボイラのように連続稼働することは少なく、必要な発電量に応じて停機、稼動を繰り返すのが一般的であり、例えば、電力需要の多い昼間のみ稼働し、夜間は停機するような運転がなされる。その結果、使用されている過熱器管などの部材には、加熱および冷却が繰り返し行われることとなる。
【0006】
このように、高温への加熱と冷却とが繰り返される場合、溶接部を含む過熱器管にはその温度差による熱衝撃が発生する。そのため、構成する部材には熱衝撃に対する特性、すなわち、繰り返し熱サイクルを受けた後の衝撃特性に優れることも必要となる。特に、溶接金属を含む溶接部は形状、材質とも不連続となるため、問題となる場合が多い。
【0007】
前記の特許文献3および4に開示されているような溶接材料を使用して得られる溶接金属は、確かに優れたクリープ破断強度を安定して得られるものの、繰り返し熱サイクルを受けた場合の衝撃特性については考慮しておらず、部材の寸法または構造によっては、十分な性能が得られない場合があり、改善の余地があることが明らかとなった。
【0008】
本発明は、高温加熱と冷却とを繰り返した後でも十分な衝撃特性を有する溶接金属が得られるオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料、それを用いてなる溶接金属、およびその溶接金属を有する溶接構造物、ならびに上記の溶接金属および溶接構造物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料、溶接金属および溶接構造物ならびに溶接金属および溶接構造物の製造方法を要旨とする。
【0010】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.06〜0.14%、
Si:0.10〜0.40%、
Mn:2.0〜4.0%、
P:0.020%以下、
Cu:2.0〜4.0%、
Ni:15.0〜19.0%、
Cr:16.0〜20.0%、
Mo:0.50〜1.50%、
Nb:0.30〜0.60%、
N:0.10〜0.30%、
Al:0.030%以下、
O:0.020%以下、
S:0〜0.0030%、
Sn:0〜0.0030%、
Bi:0〜0.0030%、
Zn:0〜0.0030%、
Sb:0〜0.0030%、
As:0〜0.0030%、
V:0〜0.50%、
Ti:0〜0.50%、
Ta:0〜0.50%、
Co:0〜2.0%、
B:0〜0.020%、
Ca:0〜0.020%、
Mg:0〜0.020%、
REM:0〜0.06%、
残部:Feおよび不純物であり、
S、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsから選択される2種以上を、下記(i)式を満足する範囲で含有する、
オーステナイト系耐熱鋼用溶接材料。
0.0005≦S+Sn+Bi+Zn+Sb+As≦0.0030 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
【0011】
(2)前記化学組成が、質量%で、
V:0.01〜0.50%、
Ti:0.01〜0.50%、
Ta:0.01〜0.50%、
Co:0.01〜2.0%、
B:0.001〜0.02%、
Ca:0.001〜0.02%、
Mg:0.001〜0.02%、および
REM:0.001〜0.06%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)に記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料。
【0012】
(3)オーステナイト系耐熱鋼からなる母材の溶接に用いられ、
前記母材の化学組成が、質量%で、
C:0.05〜0.15%、
Si:0.10〜0.30%、
Mn:0.1〜1.0%、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Cu:2.0〜4.0%、
Ni:7.0〜11.0%、
Cr:16.0〜20.0%、
Mo:0.03〜0.80%、
Nb:0.30〜0.60%、
N:0.05〜0.20%、
Al:0.030%以下、
O:0.020%以下、
V:0〜0.10%、
Ti:0〜0.10%、
Co:0〜1.0%、
W:0〜0.50%、
B:0〜0.005%、
Ca:0〜0.010%、
Mg:0〜0.010%、
REM:0〜0.10%、
残部:Feおよび不純物である、
上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料。
【0013】
(4)上記(3)に記載の母材と、上記(1)から(3)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料とを用いてなる、溶接金属。
【0014】
(5)上記(4)に記載の溶接金属を有する、溶接構造物。
【0015】
(6)上記(3)に記載の母材に対して、上記(1)から(3)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料を用いて溶接を行うことで溶接金属を製造する、溶接金属の製造方法。
【0016】
(7)上記(3)に記載の母材に対して、上記(1)から(3)までのいずれかに記載のオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料を用いて溶接を行う、溶接構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温加熱と冷却とを繰り返した後でも十分な衝撃特性を有する溶接金属が得られるオーステナイト系耐熱鋼用溶接材料、それを用いてなる溶接金属、およびその溶接金属を有する溶接構造物、ならびに上記の溶接金属および溶接構造物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、高温加熱と冷却とを繰り返した後でも十分な衝撃特性を有する溶接金属を得るために、高温加熱および冷却を受ける溶接金属の衝撃特性について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得るに至った。
【0020】
(a)溶接金属中のS、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsの含有量が増大すると、靭性低下が顕著となる。
【0021】
(b)衝撃試験後の破面には柱状晶境界が混在するようになり、S、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsの含有量が多くなると、その割合が大きくなる。
【0022】
(c)破面に柱状晶境界が混在する割合は、高温加熱および冷却を複数回繰り返すと飽和する傾向がある。
【0023】
これらの事項から以下の結論に至った。すなわち、溶接金属中に含有されるS、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsは、溶接の凝固時に凝固偏析することに加え、その後に繰り返される高温への加熱および高温からの冷却の過程で柱状晶境界へ偏析し、柱状晶境界の脆化を招く。そのため、上記S、Snなどの含有量が増加すると、衝撃特性が低下するとともに、破面上に占める柱状晶境界の割合が増えると考えられた。
【0024】
そこで、本発明者らはその防止策について検討した結果、S、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsの含有量を極力減らすことが有効であることを見出した。
【0025】
しかしながら、これら元素を極端に低減した場合、確かに高温加熱および冷却を受けた後に必要な衝撃特性が得られることは確認できたものの、溶け込みが不十分となる、いわゆる裏波形成能が極端に劣化することが判明した。これを解決するためには、溶接入熱を増大させることが一つの方法となる。しかしながら、入熱の増大は、溶接時の凝固割れ感受性を高める。
【0026】
そこで、この問題を解決すべく検討した結果、S、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsから選択される2種以上を合計で0.0005〜0.0030%の範囲で含有させることにより、繰り返し加熱、冷却後の衝撃特性を確保するとともに、溶け込み深さを増大させることが可能であることを見出した。これは、これらの元素が溶接中の溶融池内の対流に影響を及ぼし、鉛直方向への熱輸送を促進すること、または溶融池表面から蒸発し、アーク中でイオン化して通電経路を形成し、アークの電流密度を高めることによるものと考えられた。
【0027】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0028】
(A)溶接材料の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0029】
C:0.06〜0.14%
Cはオーステナイト生成元素であり、高温での溶接金属の組織安定性を高めるとともに、微細な炭化物を生成してクリープ強度の確保に寄与する。しかしながら、Cが過剰に含有された場合、炭化物が粗大かつ多量に析出し、却ってクリープ強度の低下を招くとともに、衝撃特性を損ねる。そのため、C含有量は0.06〜0.14%とする。C含有量は0.07%以上であるのが好ましく、0.08%以上であるのがより好ましい。また、C含有量は0.13%以下であるのが好ましく、0.12%以下であるのがより好ましい。
【0030】
Si:0.10〜0.40%
Siは脱酸剤として含有されるが、過剰に含有する場合、溶接時の凝固割れ感受性を増大させる。しかしながら、Si含有量の過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず、溶接材料の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Si含有量は0.10〜0.40%とする。Si含有量は0.15%以上であるのが好ましく、0.20%以上であるのがより好ましい。また、Si含有量は0.35%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。
【0031】
Mn:2.0〜4.0%
Mnは溶接中に溶融金属の窒素の活量を下げることにより溶融池表面からの窒素の飛散を抑制し、間接的に溶接金属の引張強さおよびクリープ強度の確保に寄与する。しかしながら、Mnを過剰に含有すると、脆化を招く。そのため、Mn含有量は2.0〜4.0%とする。Mn含有量は2.2%以上であるのが好ましく、2.5%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は3.8%以下であるのが好ましく、3.5%以下であるのがより好ましい。
【0032】
P:0.020%以下
Pは不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部に偏析し、その融点を低下させ、凝固割れ感受性を増大させる。そのため、P含有量は0.020%以下とする必要がある。P含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、P含有量の下限は特に設ける必要はなく、つまり含有量が0%であってもよいが、極度の低減は溶接材料の製造コストの増大を招く。そのため、P含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.001%以上であるのがより好ましい。
【0033】
Cu:2.0〜4.0%
Cuは高温での溶接金属の組織安定性を確保するとともに、Cu富化相として析出し、クリープ強度を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、Cuを過剰に含有すると、Cu富化相が過剰に析出し、衝撃特性を損ねる。そのため、Cu含有量は2.0〜4.0%とする。Cu含有量は2.3%以上であるのが好ましく、2.5%以上であるのがより好ましい。また、Cu含有量は3.8%以下であるのが好ましく、3.5%以下であるのがより好ましい。
【0034】
Ni:15.0〜19.0%
Niは溶接金属の高温での組織安定性を確保し、クリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、Niは高価な元素であり、多量の含有は溶接材料の製造コストの増大を招く。加えて、Niを過剰に含有すると、溶接中の溶融金属の窒素溶解度を低めて、逆にクリープ強度を損なう。そのため、Ni含有量は15.0〜19.0%とする。Ni含有量は15.5%以上であるのが好ましく、16.0%以上であるのがより好ましい。また、Ni含有量は18.5%以下であるのが好ましく、18.0%以下であるのがより好ましい。
【0035】
Cr:16.0〜20.0%
Crは溶接金属の高温での耐酸化性および耐食性の確保のために含有される。しかしながら、Crを過剰に含有すると、溶接金属の高温での組織安定性を損ない、クリープ強度の低下を招く。そのため、Cr含有量は16.0〜20.0%とする。Cr含有量は16.5%以上であるのが好ましく、17.0%以上であるのがより好ましい。また、Cr含有量は19.5%以下であるのが好ましく、19.0%以下であるのがより好ましい。
【0036】
Mo:0.50〜1.50%
Moはマトリックスに固溶して溶接金属のクリープ強度の向上に寄与する元素である。しかしながら、過剰に含有させてもその効果は飽和するとともに、溶接金属の高温での組織安定性を低下させ、却ってクリープ強度の低下を招く。そのため、Mo含有量は0.50〜1.50%とする。Mo含有量は0.60%以上であるのが好ましく、0.80%以上であるのがより好ましい。また、Mo含有量は1.40%以下であるのが好ましく、1.20%以下であるのがより好ましい。
【0037】
Nb:0.30〜0.60%
Nbは高温での使用中に微細な炭化物、窒化物または炭窒化物として粒内に析出し、溶接金属のクリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、過剰に含有すると、炭窒化物が多量かつ粗大に析出し、クリープ強度およびクリープ延性の低下を招く。そのため、Nb含有量は0.30〜0.60%とする。Nb含有量は0.32%以上であるのが好ましく、0.35%以上であるのがより好ましい。また、Nb含有量は0.58%以下であるのが好ましく、0.55%以下であるのがより好ましい。
【0038】
N:0.10〜0.30%
Nは高温での溶接金属の組織安定性を高めるとともに、固溶して、または窒化物として粒内に微細に析出して、クリープ強度の向上に大きく寄与する。しかしながら、過剰に含有すると、高温での使用中に多量の窒化物を析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、N含有量は0.10〜0.30%とする。N含有量は0.12%以上であるのが好ましく、0.15%以上であるのがより好ましい。また、N含有量は0.28%以下であるのが好ましく、0.25%以下であるのがより好ましい。
【0039】
Al:0.030%以下
Alは、脱酸剤として含有されるが、多量に含有すると清浄性を著しく害し、溶接材料の加工性および溶接金属の延性を低下させる。そのため、Al含有量は0.030%以下とする。Al含有量は0.025%以下であるのが好ましく、0.020%以下であるのがより好ましい。なお、Al含有量について特に下限を設ける必要はなく、つまり含有量が0%であってもよいが、極度の低減は溶接材料の製造コストの増大を招く。そのため、Al含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.001%以上であるのがより好ましい。
【0040】
O:0.020%以下
O(酸素)は不純物として含有されるが、多量に含まれる場合には、溶接材料の加工性および溶接金属の延性を低下させる。そのため、O含有量は0.020%以下とする。O含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、O含有量について特に下限を設ける必要はなく、つまり含有量が0%であってもよいが、極度の低減は材料の製造コストの増大を招く。そのため、O含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0041】
S:0〜0.0030%
Sn:0〜0.0030%
Bi:0〜0.0030%
Zn:0〜0.0030%
Sb:0〜0.0030%
As:0〜0.0030%
S、Sn、Bi、Zn、SbおよびAsは溶接の凝固時に凝固偏析することに加え、その後、例えば溶接金属を備える溶接構造物の使用時において繰り返される高温への加熱および高温からの冷却の過程で溶接金属の柱状晶境界へ偏析し、衝撃特性の低下を招く。一方で、これらの元素は、溶接中の溶け込み深さを増大させ、特に初層溶接時の溶け込み不良を防止するのに有効な元素である。
【0042】
繰り返し加熱、および冷却後の衝撃特性と溶接性を両立するためには、これらの元素から選択される2種以上を、下記(i)式を満足する範囲で含有する必要がある。(i)式左辺値は0.0008であるのが好ましく、0.0010であるのがより好ましい。また、(i)式右辺値は0.0028であるのが好ましく、0.0025であるのがより好ましい。
0.0005≦S+Sn+Bi+Zn+Sb+As≦0.0030 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
【0043】
なお、それぞれの元素の含有量の下限については特に制限は設けないが、上記(i)式を満足する範囲において、上記のうちのいずれかの元素の含有量を0.0001%以上とするのが好ましく、0.0002%以上とするのがより好ましく、0.0003%以上とするのがさらに好ましい。
【0044】
本発明の溶接材料の化学組成において、上記の元素に加えて、さらにV、Ti、Ta、Co、B、Ca、MgおよびREMから選択される1種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0045】
V:0〜0.50%
VはCおよび/またはNと結合して、微細な炭化物、窒化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度に寄与するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、V含有量は0.50%以下とする。V含有量は0.45%以下であるのが好ましく、0.40%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、V含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0046】
Ti:0〜0.50%
TiはVと同様、微細な炭化物、窒化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度に寄与するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、Ti含有量は0.50%以下とする。Ti含有量は0.45%以下であるのが好ましく、0.40%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Ti含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0047】
Ta:0〜0.50%
TaもVおよびTiと同様、微細な炭化物、窒化物または炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度に寄与するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、炭窒化物が多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、Ta含有量は0.50%以下とする。Ta含有量は0.45%以下であるのが好ましく、0.40%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Ta含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0048】
Co:0〜2.0%
CoはNiおよちCuと同様、溶接金属の高温での組織安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、極めて高価な元素であるため、過剰の含有は大幅なコスト増を招く。そのため、Co含有量は2.0%以下とする。Co含有量は1.5%以下であるのが好ましく、1.0%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Co含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.02%以上であるのがより好ましい。
【0049】
B:0〜0.020%
Bは高温使用中に溶接金属の柱状結晶境界に偏析し、粒界を強化するとともに粒界炭化物を微細分散させることによりクリープ強度を向上させるのに有効な元素であるため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、溶接中の凝固割れ感受性を高める。そのため、B含有量は0.020%以下とする。B含有量は0.018%以下であるのが好ましく、0.015%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、B含有量は0.001%以上であるのが好ましく、0.002%以上であるのがより好ましい。
【0050】
Ca:0〜0.020%
Caは溶接材料製造時の熱間加工性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、酸素と結合し、清浄性を著しく低下させて、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、Ca含有量は0.020%以下とする。Ca含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Ca含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.001%以上であるのがより好ましい。
【0051】
Mg:0〜0.020%
MgはCaと同様、溶接材料製造時の熱間加工性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、酸素と結合し、清浄性を著しく低下させて、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、Mg含有量は0.020%以下とする。Mg含有量は0.015%以下であるのが好ましく、0.010%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、Mg含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.001%以上であるのがより好ましい。
【0052】
REM:0〜0.06%
REMはCaおよびMgと同様、溶接材料製造時の熱間加工性を改善する効果を有するため、必要に応じて含有してもよい。しかしながら、過剰に含有すると、酸素と結合し、清浄性を著しく低下させて、却って熱間加工性を劣化させる。そのため、REM含有量は0.06%以下とする。REM含有量は0.05%以下であるのが好ましく、0.04%以下であるのがより好ましい。なお、上記の効果を得たい場合には、REM含有量は0.001%以上であるのが好ましく、0.002%以上であるのがより好ましい。
【0053】
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
【0054】
本発明の溶接材料の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0055】
(B)溶接金属の製造方法
本発明に係る溶接金属は、上述の溶接材料(溶加材)を用いて、オーステナイト系耐熱鋼の母材を溶接して作製される。上記の溶接金属を得るための溶接方法について、特に限定されるものではないが、例えば、ティグ溶接、ミグ溶接、被覆アーク溶接、サブマージアーク溶接、レーザー溶接等が挙げられる。
【0056】
なお、前記オーステナイト系耐熱鋼の母材の好ましい組成としては、特に限定されるものではない。例えば、母材の化学組成は、質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.10〜0.30%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Cu:2.0〜4.0%、Ni:7.0〜11.0%、Cr:16.0〜20.0%、Mo:0.03〜0.80%、Nb:0.30〜0.60%、N:0.05〜0.20%、Al:0.030%以下、O:0.020%以下、V:0〜0.10%、Ti:0〜0.10%、Co:0〜1.0%、W:0〜0.50%、B:0〜0.005%、Ca:0〜0.010%、Mg:0〜0.010%、REM:0〜0.10%、残部:Feおよび不純物であることが好ましい。
【0057】
前記母材の化学組成は、質量%で、V:0.01〜0.10%、Ti:0.01〜0.10%、Co:0.01〜1.0%、W:0.01〜0.50%、B:0.0002〜0.005%、Ca:0.0005〜0.010%、Mg:0.0005〜0.010%、および、REM:0.0005〜0.10%、から選択される1種以上を含有してもよい。
【0058】
また、上記の母材および溶接材料(溶加材)の製造方法について特に制限は設けないが、化学組成が調整された鋼に対して、常法により、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工を順に施すことにより製造することができる。
【0059】
(C)溶接構造物
本発明に係る溶接構造物は、上述した溶接金属を有する構造物である。例えば、溶接構造物は、溶接金属と母材とからなる。すなわち、上記の母材に対して、本発明に係る溶接材料を用いて溶接を行うことにより製造される。母材は、金属からなり、鋼材であることが好ましく、ステンレス鋼であることがより好ましく、オーステナイト系耐熱鋼であることがさらに好ましい。なお、溶接構造物の具体的形状、溶接構造物を得るための溶接の具体的態様(溶接姿勢)は特に限定されない。
【0060】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
表1に示す化学組成を有する鋼を溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工により、板厚15mm、幅50mm、長さ100mmの板材(母材)および板厚4mm、幅200mm、長さ500mmの板材を作製した。さらに、上記の板厚4mmの板材を用い、機械加工により、2mm角、長さ500mmのカットフィラーを作製した。これらを用いて、以下に示す各種の性能評価試験を行った。
【0062】
【表1】
【0063】
<裏波形成能>
上記母材の長手方向の端部に、
図1に示す形状の開先加工を施した。その後、開先を形成した母材を2つ突き合わせ、各母材と同じ板材から得られたカットフィラーを溶加材として用い、ティグ溶接により突き合わせ溶接を行った。入熱9kJ/cmとして、各母材につき2つずつ溶接継手を作製した。得られた溶接継手のうち、2つとも溶接線の全長にわたり、裏ビードが形成されたものを裏波形成能が良好であるとし、「合格」とした。一方、2つの溶接継手のうち一部でも裏ビードが形成されない部分があった場合は「不合格」と判定した。
【0064】
<衝撃特性>
その後、続けて各母材と同じ板材から得られたカットフィラーを溶加材として用い、開先内に手動ティグ溶接により積層溶接を行った。入熱9〜15kJ/cmとし、各母材につき2つずつ溶接継手を作製した。
【0065】
その後、1体の溶接継手について、「室温→650℃×108時間→室温」の加熱および冷却のサイクルを5回繰り返したのち、溶接金属にVノッチを有するフルサイズシャルピー衝撃試験片を3本採取し、常温でシャルピー衝撃試験を行った。そして、吸収エネルギーの平均値が27J以上となるものを「合格」、27Jを下回るものを「不合格」とした。
【0066】
<クリープ破断強さ>
さらに、溶接継手の残り1体から、溶接金属が平行部の中央となるように丸棒クリープ破断試験片を採取し、母材の目標破断時間が約1000時間となる650℃、216MPaの条件でクリープ破断試験を行った。そして、破断時間が母材の目標破断時間の90%以上となるものを「合格」とした。
【0067】
それらの結果を表2にまとめて示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2から分かるように、本発明の規定を満足する鋼A〜Fを母材および溶加材の双方に用いた試験No.1〜6では、溶接継手の作製時に必要な裏波形成能を有するとともに、高温加熱と冷却とを繰り返した後での衝撃特性に優れる結果となった。
【0070】
それに対して、比較例である鋼GおよびHは(i)式の上限を上回ったため、それらを用いた試験No.7および8では、高温加熱と冷却とを繰り返した後での衝撃特性が劣る結果となった。また、鋼IおよびJは(i)式の下限を下回ったため、それらを用いた試験No.9および10では、十分な溶け込み深さが得られず、裏波形成能が不芳であった。
【実施例2】
【0071】
表3に示す化学組成を有する鋼を溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工により、板厚15mm、幅50mm、長さ100mmの板材(母材)を作製した。これを用いて、以下に示す各種の性能評価試験を行った。
【0072】
【表3】
<衝撃特性>
上記母材の長手方向の端部に、
図1に示す形状の開先加工を施した。その後、開先を形成した母材を2つ突き合わせ、鋼Aの板材から得られたカットフィラーを溶加材として用い、開先内に手動ティグ溶接により積層溶接を行った。入熱9〜15kJ/cmとし、各母材につき2つずつ溶接継手を作製した。
【0073】
その後、1体の溶接継手について、「室温→650℃×108時間→室温」の加熱および冷却のサイクルを5回繰り返したのち、溶接金属にVノッチを有するフルサイズシャルピー衝撃試験片を3本採取し、常温でシャルピー衝撃試験を行った。そして、吸収エネルギーの平均値が27J以上となるものを「合格」、27Jを下回るものを「不合格」とした。
【0074】
<クリープ破断強さ>
さらに、溶接継手の残り1体から、溶接金属が平行部の中央となるように丸棒クリープ破断試験片を採取し、母材の目標破断時間が約1000時間となる650℃、216MPaの条件でクリープ破断試験を行った。そして、破断時間が母材の目標破断時間の90%以上となるものを「合格」とした。
【0075】
それらの結果を表4にまとめて示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4から分かるように、溶接材料の化学組成が本発明の規定を満足する試験No.11〜14では、溶接継手の作製時に必要な裏波形成能を有するとともに、高温加熱と冷却とを繰り返した後での衝撃特性に優れる結果となった。
【0078】
以上のように、本発明の要件を満足する場合のみ、必要な溶接施工性および耐溶接割れ性ならびに優れたクリープ強度が得られることが分かる。