(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る水耕栽培装置1の代表的な実施形態を、
図1〜
図12を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0017】
1.構成
<水耕栽培装置1>
図1を用いて、本実施形態における水耕栽培装置1の概要を説明する。
図1(a)及び(b)は、本実施形態に係る水耕栽培装置1の概要を示す図であって、
図1(a)は、本実施形態の水耕栽培装置1における短手方向Xの断面図であり、
図1(b)は、本実施形態の水耕栽培装置1における長手方向Yの断面図である。
【0018】
本実施形態の水耕栽培装置1は、天候及び気温、さらに害虫等の種々の影響を殆ど受けることがなく、本実施形態の水耕栽培装置1の栽培エリア3は直方体状で上面および4側面を光の効率を高めるための反射面19で覆われ、かつ水耕栽培用プレート5が光を効率よく反射するため、植物21の光合成が高効率化し、安定した植物21の栽培を可能とするものである。
【0019】
また、前記水耕栽培装置1は、外形が直方体状に形成され、水耕栽培用プレートよりも上方の直方体状の4側面が反射部材で覆われているため、側方からの空気流入がほとんどなく、熱交換のための気流が発生しにくく、熱の滞留が起こり、各段間で温度差が生じるのが通常ではあるが、本実施形態の水耕栽培装置1、水耕栽培用プレート5に貫通孔で構成された通気道27が設けられていると共に直方体状の上方に排気口を有することから、栽培エリア内に空気の流れができ、これによる熱伝達が容易であり、各段間での温度差もなくなり、各段を貫通した気流が植物21の葉面境界層を打破するようになる。具体的には、主として屋内で植物21を栽培するための装置であって、当該植物21の栽培に必要な養分及び光合成に必要な光を供給しつつ、水耕栽培装置1の下方より水耕栽培装置1の設置場所の空気(例えば空調された空気)を栽培エリア3内に取り込み(場合によっては循環させ)、上記のように内部の温度を略均一にすることができるものである。
【0020】
本実施形態の水耕栽培装置1は、概ね本水耕栽培装置1の本体部となる栽培エリア3と、植物21を保持するための水耕栽培用プレート5と、植物21に養分を含んだ養液23を供給するための複数個の長尺状(換言すると樋状)の水耕栽培槽7と、植物21の光合成を促す照明装置9と、栽培エリア3内の空気を排出させるための排気ファン11と、栽培エリア3内に構成された棚13と、水耕栽培用プレート5の支持及び長手方向Yへのスライドを補助するローラ式コンベア15と、で構成されている。
【0021】
栽培エリア3は、全体としていわば箱状の空間を形成している箱体の本体部であり、本実施形態の水耕栽培装置1の本体部を構成しており、当該栽培エリア3に他の部品が載置されることにより水耕栽培装置1が形成されている。栽培エリア3は、栽培エリア3の天井となる天井板3Aと、長手方向Yの壁となる側板3Bと、栽培エリア3の略4隅に配置されて水耕栽培装置1の重量を支える4本の支柱3Cと、で構成されている。4本の支柱3Cは、それぞれを所定の間隔で配置され、当該支柱3Cに対して外側から天井板3A及び側板3Bが取り付けられている。なお、天井板3Aと側板3Bとの当接部に光が漏れる隙間はない方が好ましい。
【0022】
また、天井板3A及び側板3Bにおける内側の面には、反射面19が備わっており、それぞれの反射面19を内側に向けつつ栽培エリア3を構成することにより、当該栽培エリア3内において光を反射させて十分に拡散させることができる。側板3Bは箱体の支柱3Cの外側に掛けられるが、箱体の支柱3Cよりも内部に側板3Bを掛けることもできる。
【0023】
なお、側板3Bの高さ方向における長さは、支柱3Cの長さよりもが短い。このため、栽培エリア3を接地面101に接地する際、当該接地面101と、側板3Bと、は当接せず、支柱3Cにおける下面側の端部のみが接地面101に当接することになる。したがって、栽培エリア3は下方においてスリット状の開口17を具備することになり、該開口17を介して栽培エリア3の内部と外部とが連通しているため、容易に下方より空調(温度、湿度、炭酸ガス濃度)された空気を取り込める。
側板3Bは支柱3Cの上端から下端まで一体としたものでも良く、各段の高さに対応して分割したものでも良い。各段の高さで分割した側板3Cは、一体のものに比べて軽量になるので、取扱いしやすい点好ましい。
【0024】
栽培エリア3の内部には、所定の高さにおいて3段の棚13が設けられており、当該棚13は、長手方向Yに配置される2本の長手方向梁13Aと、当該2本の長手方向梁13Aを所定の間隔で繋ぐ複数本の短手方向梁13Bと、で構成された梯子状のフレームである。この棚13は、栽培エリア3の内部において所定の間隔で多段となるように複数載置されることで栽培株数を多くできるので好ましいが、単段であってもよい。
【0025】
次に、排気口(図示せず。)は、栽培エリア3内の空気を外部に排出させるためのものであって、当該栽培エリア3における天井板3A、又は側板3Bにおいて最上段の水耕栽培槽7付近より上方に形成されている。例えば
図13に示すとおり、最上段の水耕栽培槽7付近より上方であれば排気口及び排気ファン11を側板3Bに配設してもよい(
図13において、排気ファン11はその最下部が最上段の水耕栽培槽7よりも上方に位置している。)。なお、本実施形態では排気口に直接排気ファン11を取り付けて構成しているが、ダクト等を介して遠方に排気ファン11を配設したものであってもよい。
【0026】
また、本実施形態の場合、当該排気口に排気ファン11が設けられており、栽培エリア3と外部とを連通する当該排気口を介して栽培エリア3内の空気を外部へ排気している。これにより、当該栽培エリア3内に下方から上方に流れる気流を発生させることができ、結果として栽培物エリア3内の環境(温度、湿度、炭酸ガス濃度)を均一にすることが可能となる。
【0027】
排気ファン11としては、種々の排気ファンを使用することができるが、例えば電気機械装置等に用いられるケースファン等を用いることが好ましく、栽培エリア3の容量にもよるが、例えば略10m
3/minの排気能力を有することが望ましい。また、排気ファン11は、栽培エリア3内の空気の循環効率を高めるため、排気口とは無関係に、種々の位置に配設してもよい。
【0028】
平面方向から見た栽培エリア3の平面の面積に対する水耕栽培用プレート5の面積の割合については、50〜95%の範囲で設定すればよく、単位面積あたりの栽培量を増やすために高い値を設定される傾向が強い。高い値の場合には水耕栽培用プレート5の面積が大きくなるため、側板との隙間が小さくなり、照明装置から放出される熱が各段において滞留するようになる。そのような場合でも、本発明のように水耕栽培用プレート5に通気道27が形成されていると熱の滞留を緩和することができ、更に上方の排気口から排気ファン11により排気されるとさらに熱の滞留と各段(棚)間の温度ムラを防止することができる。
【0029】
また、水耕栽培用プレート5の面積が大きくなると、それに伴い栽培株数を多くすることができ、水耕栽培用プレート5の外周部における側板3Bとの間で隙間が小さくなる。これにより、当該隙間を通過する空気量が少なくなり、水耕栽培用プレート5における通気道27を通過する空気量が増えるため、各段の内部の温度差が小さくなり栽培の均一化が可能となる。
一方、栽培エリア3の平面の面積に対する水耕栽培用プレート5の面積の割合が比較的小さい場合では、水耕栽培用プレート5の周囲部分を通過する空気量が多くなり、各段間の熱の滞留が緩和される方向にあるものの、水耕栽培用プレート5の中央部では貫通する空気量が少なくなり、熱の滞留が起こりやすいという問題がある。
【0030】
栽培エリア3の温度、湿度、炭酸ガス濃度を均一にするには通気量が多いほうが好ましい。しかし、植物の葉面境界層を打破し、植物の光合成を促進させるためには1〜0.1m/minの風速が好ましく、1m/minより速くとなると植物へのストレスとなり、0.1m/minよりも遅くなると葉面境界層を打破できなくなるという問題がある。このように風速が所定範囲になるようにするため、排気量との関係で開口を調整する必要があり、本実施形態の水耕栽培装置1では、各段の水耕栽培用プレート5(通気道27を除く閉鎖部)の面積に対する開口(通気道27及びその他隙間)の割合を3〜50%の範囲とすることが望ましい。また、光合成においてより好ましい風速の0.3〜0.5m/minとするには開口の割合を16〜9%とすることが望ましい。
【0031】
ローラ式コンベア15は、長尺状のレール41に所定の間隔で複数個取り付けられており、水耕栽培用プレート5の下面側からローラ式コンベア15を当接させることで当該水耕栽培用プレート5を支持及びスライドさせることができる。レール41は、長手方向Yに対して略平行に配置されるものであり、棚13を構成する複数の短手方向梁13Bの上面に固定されている。なお、レール41は、後述する水耕栽培用プレート5が具備する第二溝33と同数載置される。
【0032】
照明装置9は、栽培エリア3内で発光させ、植物の光合成に必要な光を供給するための照明器具であって、光源としては例えば長尺型となるHF型蛍光管や蛍光管型LED等を用いて発光させることができる。本実施形態において、照明装置9は、水耕栽培槽7及びレール41の下面において、短手方向Xと略平行に固定されているが、栽培エリア3の大きさや形状によっては、長手方向Yと略平行に固定してもよく、この場合には棚13を構成する短手方向梁13Bの下面に固定してもよい。
【0033】
<水耕栽培用プレート5>
次に、本実施形態の水耕栽培ユニット1の特徴の一つである水耕栽培用プレート5の詳細について説明する。
図2(a)(b)(c)は、水耕栽培用プレート5の詳細を説明する図であって、
図2(a)は水耕栽培用プレート5の表面を示した平面図であり、
図2(b)は
図2(a)に示した矢視線Aの側面図であり、
図2(c)は水耕栽培用プレート5の裏面を示した平面図である。裏面の凸凹は必ずしも必要ではないが、植物(栽培物)の位置決め、水耕栽培プレート5のズレ防止には有効である。水耕栽培用プレート5は、植物21を保持しつつ該植物21の根を後述する水耕栽培槽7内の養液23に浸し、植物21の栽培における土台となるものである。
【0034】
図2(a)に示す水耕栽培用プレート5は、略四角形であるが、栽培物の種類、栽植密度によっては三角形や五角形等の多角形等の平面形状を有していればよく、植物21を保持する貫通孔で構成された植物用保持孔25と、空気の移動路となる通気道27と、をそれぞれ所定の間隔で所定数具備している。当該2種の孔は水耕栽培用プレート5の表面から裏面に貫通している。なお、通気道27は、一つの水耕栽培用プレート5において孔として認識される場合だけでなく、例えば水耕栽培用プレート5に半円の切欠きを形成し、他の水耕栽培用プレート5と突合せをした時に孔として機能する場合も含む。すなわち、装置として組み立てた時に通気道27として機能するものを含む。
【0035】
水耕栽培用プレート5における通気道27は、植物用保持孔25の近傍にあり、本実施形態ではX方向及びY方向ともに、一定ピッチの中間位置に設けられている。このようにすると、通気道27を空気が通過する際、植物用保持孔25に定植された植物の葉の下面を空気が当たり、葉面境界層を破壊し、葉に新鮮な空気を供給することができる。これにより、植物の育成が促進される効果がある。通気道27と植物用保持孔25の間の距離は栽培する植物21にもよるが、なるべく小さくにすることが好ましく、植物用保持孔25の相互間距離よりも短くすることが良く、当該相互間距離にできるように適宜通気道27の数や位置を調整できる。植物用保持孔25の相互間距離よりも短くすると通気道27からの通気が葉面にあたりやすくなるからである。
【0036】
植物用保持孔25は、例えばウレタン樹脂等で構成された略スポンジ状の培地29に囲繞された植物21を挿通して保持しながら育成するものであり、通気道27は、水耕栽培用プレート5の表面側と裏面側との空気における移動路である。なお、植物用保持孔25の数は1枚の水耕栽培用プレート5における植物21の同時栽培株数によって決定されるものであり、通気道27の数は栽培エリア3の容積及び各棚13間の容積によって決定されるものである。
【0037】
図2(b)及び(c)に示すとおり、水耕栽培用プレート5は、下面側に所定数の第一溝31及び第二溝33を有しており、短手方向Xにおいて凹凸の断面形状を形成している。本実施形態においては、第一溝31の幅及び深さは、それぞれ第二溝33の幅及び深さよりも大きく形成されている。第一溝31は、水耕栽培槽7の上部に被せられる溝であり、第二溝33は、ローラ式コンベア15のガイドとなる溝であるため、当該2種の溝はどちらも長手方向Yに伸びている。
【0038】
また、水耕栽培用プレート5が有する植物用保持孔25は、植物21の根を水耕栽培槽7内における養液23に浸す必要があるため、本実施形態においては、当該水耕栽培槽7の上部に被せられる第一溝31に沿って設けられ、通気道27は第二溝33に沿って設けられている。
【0039】
なお、本実施形態の水耕栽培用ユニット1においては、多量の植物21を栽培するときは、複数個の水耕栽培用プレート5を、栽培エリア3内の水耕栽培槽7を継手などで連結長尺化し、水耕栽培槽7の上に並べて使用することができ、長手方向Yにおいては当該水耕栽培用プレート5同士を突き合わせた状態で、例えばローラ式コンベア15を回転させつつ移動させることができるので、植物21の出し入れは例えば川上側と川下側の2か所のみでよく、作業性は向上する。
【0040】
次に、
図3(a)及び(b)を用いて、水耕栽培用プレート5における長手方向Yの端部について説明する。
図3(a)及び(b)は、水耕栽培用プレート5における長手方向Yの端部を説明する図であって、
図3(a)は
図2(a)に示した矢視線Bの側面図であり、
図3(b)は長手方向Yに水耕栽培用プレート5同士を突き合わせた状態における端部の側面図である。
【0041】
水耕栽培用プレート5の長手方向Yにおける端部は、
図3(a)及び(b)に示すとおり、両端で形状が異なっており、出隅端部35と、入隅端部37と、が設けられている。当該出隅端部35と、入隅端部37と、は互いに嵌合するよう形成されたものである。
【0042】
このような構成の出隅端部35及び入隅端部37により、長手方向Yに水耕栽培用プレート5同士を突き合わせた際に、それぞれの水耕栽培用プレート5の方向を合わせることで当該出隅端部35と、入隅端部37と、が勘合する。これにより、長手方向Yに水耕栽培用プレート5を複数枚突き合わせて並べた際に、最端部の水耕栽培用プレート5のみを押して、その他複数枚を安全かつ同時にスライドさせることが可能となる。
【0043】
また、出隅端部35と入隅端部37を接続することにより、接続した隙間から光が入る事がなく、水耕栽培槽7内部に光進入を防止して、光の進入による藻の発生を防止することができる。
【0044】
なお、上記のような本実施形態の形状以外にも、厚み数ミリの薄物板の前後の端部を上方にL字状に折り曲げて、上方折り曲げ片55を有するものも使用できる。この場合、隣接する水耕栽培用プレート5同士がそれぞれの上方折り曲げ片55で接するため、隣接する水耕栽培用プレート5を押す場合に、該水耕栽培用プレート5同士が重なってしまうという薄板特有の問題を回避することができる。
【0045】
ここで、
図4に示すように、隣接する水耕栽培用プレート5同士の間に隙間が発生し、そこに光が進入し、藻が発生することを防止するため、当接した2つの上方折り曲げ片55の上方を逆U字状の長尺キャップからなる光遮断部材43を戴置することにより、隙間での光の進入を防止してもよい。また、当該光遮断部材43は、当接した2つの上方折り曲げ片55を把持して固定可能な略クリップ状としてもよい。上方折り曲げ片55は高さ5〜50mmにすることができる。
【0046】
更に、水耕栽培用プレート5や光遮断部材43は種々の形態を採り得る。
図5〜7に、水耕栽培用プレート5の変形例と、隣接する水耕栽培用プレート5同士の間に配置される光遮断部材43の構成の変形例と、を示す。
図5は、断面形状が略T字状の光遮断部材43を載置した例で、水耕栽培用プレート5間の隙間から光が侵入することを防ぎつつ、垂直板45が水耕栽培用プレート5同士の突き合わせ部に挟まれることで光遮断部材43が固定され、天板47が突き合わせ部の浮き上がりを抑制することにより、水耕栽培用プレート5の重なりを防止するものである。
【0047】
図6は、上方折り曲げ片55を具備しない水耕栽培用プレート5同士の突き合わせ部を把持可能な、略クリップ状の把持部49を背中合わせに配置して構成された光遮断部材43を載置した例で、水耕栽培用プレート5同士の突き合わせ部を把持して隙間を遮蔽することにより光の侵入を防ぎつつ、把持部49の把持力によって突き合わせ部を固定し、水耕栽培用プレート5の重なりを防止するものである。
【0048】
また、
図7は、所定の間隔で複数の固定用突起51を具備する板状の光遮断部材43を載置した例で、当該光遮断部材43を用いて、上方折り曲げ片55を具備せず、光遮断部材43に配置された固定用突起51と同じ寸法間隔で配置された突起挿入孔53を有する水耕栽培用プレート5同士の突き合わせ部を固定したものである。光遮断部材43の固定用突起51を突起挿入孔53に挿入することで水耕栽培用プレート5同士の突き合わせ部を固定して重なりを防ぎつつ、光の侵入を防止することができる。
【0049】
<水耕栽培槽7>
次に、
図8を用いて水耕栽培槽7の詳細を説明する。
図8に示すように、水耕栽培槽7は、住宅に好適に用いられる合成樹脂製の樋等を用いて構成したものであって、略U字の断面形状を有した長尺状の水槽である。当該水耕栽培槽7は、内部に植物21の成長を促進させる養液23を貯留又は循環するものであるため、両端部に端部壁39を設けて養液23が外部へ流出することを防止している。
【0050】
また、水耕栽培槽7は、長手方向Yに対して複数個が略平行に配置されるものであり、棚13を構成する複数の短手方向梁13Bの上面に保持されている。本実施形態においては、水耕栽培槽7の数は、水耕栽培用プレート5が有する第一溝31の数と同じである。
【0051】
なお、水耕栽培槽7内で養液23を循環させる場合は、例えば、水耕栽培槽5に所定の勾配を設けて川上側と川下側とを設定し、ポンプ及び導水パイプ等を用いて外部に設けた貯水槽から養液23を川上側に供給し、川下側から排水して当該貯水槽に戻す等の機構を備えることで可能となる。
【0052】
上述したような本実施形態の水耕栽培用プレート5と水耕栽培槽7の配置関係について説明する。
図9は、水耕栽培用プレート5と水耕栽培槽7の配置関係を示す斜視図である。水耕栽培用プレート5と水耕栽培槽7は、
図9に示すとおり、水耕栽培用プレート5が複数の水耕栽培槽7を跨ぐ形で設置されており、複数の植物21を一つの水耕栽培用プレート5によって収穫等の作業ができると共に、水耕栽培用プレート5のサイズが大きくなっても通気道27により植物21に新鮮な空気を供給できる点で好ましい。そして、水耕栽培用プレート5の第一溝31が水耕栽培槽7の上部に被さるような位置関係で互いに配置されており、各植物用保持孔25に保持された植物21の根が水耕栽培槽7内の養液23に浸される。
【0053】
また、水耕栽培用プレート5及び水耕栽培槽7は、いずれも長手方向Yに対して略平行に配置されるため、水耕栽培用プレート5を長手方向Yにスライドしても、当該水耕栽培用プレート5と共に植物21が水耕栽培槽7に沿って移動することになる。
【0054】
更に、水耕栽培用プレート5に設けられた通気道27は、第二溝33に沿って配置されているため、ローラ式コンベア15の直上及び並列した水耕栽培槽7の間の上方に位置する。また、上述のとおり、ローラ式コンベア15は、長尺のレール41に所定の間隔で複数個取り付けられているため、それぞれのローラ式コンベア15間にも隙間が存在する。
【0055】
これにより、ローラ式コンベア15が第二溝33の当接した状態であっても、通気道27が完全に塞がれることがなく、当該通気道27は並列した水耕栽培槽7における隙間と連通することになり、水耕栽培用プレート5の表面側と裏面側とにおける空気の移動を可能にしている。無論、通気道27と、並列した水耕栽培槽7における隙間と、における連通関係は、水耕栽培用プレート5を長手方向Yにスライドしても維持されるものである。
【0056】
なお、
図14に示すとおり、各段を必ずしも一枚の水耕栽培用プレート5で構成する必要はなく、例えば各水耕栽培槽7ごとに複数枚に分割して(セパレート)してもよい。当該構成で用いる水耕栽培用プレート5は、通気道27を孔として設ける必要がなく、隣接する水耕栽培槽7の隙間を通気道27として代用することができる。
各段の水耕栽培用プレート5を複数枚で構成することにより、当該各段内でも複数種の植物21を栽培することが可能で、該植物21の種類ごとに後述する水耕栽培用プレート5のスライドを用いた栽培作業を行うことができる。
【0057】
<変形例>
これまで詳述した本発明の一実施形態に係る水耕栽培装置1については、本発明の技術思想を具備していれば種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更による態様も当然に本願発明の技術的範囲に含まれる。以下に幾つかの変形例について説明する。
【0058】
(1)ミスト噴霧器追加型301
図15を用いて上記水耕栽培装置1の変形例となるミスト噴霧器追加型301の詳細を説明する。
図15は、ミスト噴霧器追加型301の概要を示す短手方向Xの断面図である。ミスト噴霧器追加型301は、栽培エリア303内にミストを噴霧するミスト噴霧器357を配設し、例えば液体肥料や液化炭酸ガス、又は殺虫剤等の液体をミストに変えて噴霧し、植物321の栽培効率を更に向上するものである。(水をミスト化して噴霧を基本とし、これに液体肥料や殺虫剤などの各種薬品を添加する事も出来る。また、ミストと同様に炭酸ガスなどの気体を噴霧することもできる。)
【0059】
図15に示すとおり、ミスト追加型301は、栽培エリア303を構成する天井板303Aと、側板303Bと、支柱303Cと、の構成及び構造は水耕栽培装置1と概ね同様とし、最下段に位置する水耕栽培槽307の更に下方(側板303Bの開口317近傍)にミスト噴霧器357を追加配設している。当該ミスト噴霧器357は、例えば自身に液体を供給するための液体導管359を備え、継時的又は定期的にミストを栽培エリア303内に噴霧するものであればよい。また、ミスト噴霧器357は、専用の棚313等を設けて固定する、又は別途金具(図示せず)等を用いて吊り下げる等、種々の固定方法を用いることができる。
【0060】
ミスト噴霧器357から噴霧したミストは、栽培エリア303内の気流に従って各通気道327を通過させ、上方に移送しつつ各段の植物321に対して容易に供給することができる。
【0061】
(2)温調装置追加型401
次に、
図16を用いて上記水耕栽培装置1の変形例となる温調装置追加型401の詳細を説明する。
図16は、温調装置追加型401の概要を示す短手方向Xの断面図である。温調装置追加型401は、栽培エリア403内の温度を任意に調整可能な温調装置457を配設し、栽培エリア403内を栽培する植物421の育成に適した温度に調整し、栽培効率を更に向上するものである。
【0062】
図16に示すとおり、温調装置追加型401は、栽培エリア403を構成する天井板403Aと、側板403Bと、支柱403Cと、の構成及び構造は水耕栽培装置1と概ね同様とし、側板403Bの上方と下方とを連通するダクト459及び該ダクト459に載置される温調装置457が追加されている。
【0063】
ダクト459は、一般的な建築の空調用途に用いられる亜鉛鋼板、アルミ、塩化ビニル等で形成された中空の筒であって、直径(中空径)及び長さは、使用する温調装置追加型401のサイズによって決定することが望ましい。
温調装置457は、例えば小型のファンコイルユニット等、熱交換による空調機能を備えた熱交換器である。熱交換能力は、使用する栽培エリア403の容積及び温調装置457の設置数により決定することが望ましい。
【0064】
温調装置追加型401の具体的な構造は、側板403Bに対し、ダクト459の一方を最上段の水耕栽培槽407より上方で、かつ栽培エリア403内に連通させつつ接続し、他方を開口417から栽培エリア403内に挿入しつつ温調装置457が接続されている。上記ダクト459及び温調装置457は、栽培エリア403のサイズ及び形状に応じて複数設け、より効率的に温調を行うことができる。なお、当該温調装置追加型401は、排気ファン11ではなく、循環気流を起こすファンが温調装置457に内蔵されているが、ファンを温調装置457から分離していてもよい。また、開口417は塞がれておらず、新鮮な空気を栽培エリア403内に引き込むことができるため、光合成による酸素過多な空気のみが循環されるわけではない。
【0065】
温調装置457により温調された空気は、開口417から栽培エリア403内に噴出され、各通気道427を通過し、上方に移動しつつ各段の空気を温調することができる。また、温調装置457の動作により、ダクト459内が負圧となることから、栽培エリア403上方(最上段の水耕栽培槽407より上方)から該栽培エリア403内の空気をダクト459内に引き込む。更に、引き込んだ空気を再度温調装置457によって温調した後、開口417から栽培エリア403下方より該栽培エリア403内に噴出する。
栽培エリア403内の空気は上記フローにより栽培エリア403と、ダクト459及び温調装置457と、を循環し、効率的に各段の空気を温調することができる。
【0066】
(3)葛折通気道型501
次に、
図17を用いて上記水耕栽培装置1の変形例となる葛折通気道型501の詳細を説明する。
図17は、葛折通気道型501の概要を示す長手方向Yの断面図である。葛折通気道型501は、各段の通気道527を長手方向Yの略最離位置に交互配置し、開口517から侵入した空気を葛折り状に移送させて(換言すると、
図17において矢印で示すように下方から上方に向けていわゆるサーペンタイン(serpentine)状に移送させて)栽培エリア503内を通過させるものである。
【0067】
図17に示すとおり、葛折通気道型501は、栽培エリア503を構成する天井板503Aと、側板503Bと、支柱503Cと、の構成及び構造は水耕栽培装置1と概ね同様とし、通気道527を各段で変則的に配置して構成している。より具体的には、上下に隣合う段の通気道527を長手方向Yにおいて略最遠位置にのみ配置(例えば、長手方向Yに対面視した状態で、通気道527を最上段は右端、2段目は左端、3段目は右端・・・となるよう配置する)する。なお、通過する空気量を確保するため、通気道527の開口率は水耕栽培装置1と同様とする。
このように通気道527の位置を意図的に変則配置することにより、開口517から排気ファン511までにおける気流の流れを任意に決定することができる。
【0068】
(4)連結可能な水耕栽培装置100上述した本実施形態の水耕栽培装置1において、例えば支柱3c等の本数を増やして、長い水耕栽培装置100としてもよい。この水耕栽培装置100は、各種部品を適宜複数個連結し、かつ隣接する前記水耕栽培装置1における前記水耕栽培槽7が互いに連結することにより、本実施形態の長尺の水耕栽培装置100が構成可能となる。
【0069】
図10は、上記の水耕栽培装置1の連結した水耕栽培装置100の一例を示しており、連結した第一水耕栽培装置201A及び第二水耕栽培装置201Bにおける長手方向Yの断面図である。
図10に示すとおり、本実施形態の水耕栽培装置は、長手方向Yに連結して長尺化し、さらに多くの植物21を同時に栽培することができる。
【0070】
第一水耕栽培装置201A及び第二水耕栽培装置201Bは、双方の長手方向Y及び短手方向Xの向きを揃えた状態で、当該長手方向Yにおいて一直線となるよう配置し、水耕栽培装置201Aと、水耕栽培装置201Bと、における対面した短手方向Xの側板Bをそれぞれ1枚のみ取外したうえで、双方の端部を突き合わせて固定する。なお、双方の水耕栽培槽7は、養液23が流出しないよう所定の継手等により連結し、双方のローラ式コンベア15は、レ−ル41の軸が継手で屈折しないよう注意する必要がある。
【0071】
また、第一水耕栽培装置201Aと、第二水耕栽培装置201Bと、の突き合わせ部に隙間が発生してしまうと当該隙間より外部の光及び空気が内部に侵入してしまい、光の供給及び空気の移動が不均一となるため、隙間が発生しないよう留意する必要がある。なお、栽培エリア3は任意で大きさを決定することができるものであるため、長手方向Yにおける連結だけではなく、栽培エリア3における短手方向Xを拡張することで、該短手方向Xに水耕栽培用プレート5を複数並列させて使用することもできる。
【0072】
図10に示す本実施形態の水耕栽培装置100は、各棚13において一枚の水耕栽培用プレート5のみを具備した最小ユニット等で使用する場合、植物21の栽培完了まで水耕栽培用プレート5を移動させず固定して使用することになるが、上述のように連結して長尺の本水耕栽培装置1を使用する場合は、
図11に示すとおり、植物21の育成状況に応じて水耕栽培用プレート5を長手方向Yにスライドさせ、栽培作業を高効率化することができる。
【0073】
図11は、水耕栽培用プレート5のスライドを用いた栽培作業例を示す模式図である。
水耕栽培装置100は本水耕栽培装置1を長尺に変形した実施形態であるが、本水耕栽培装置1の水耕栽培槽7のみを連結させる事もできる。この場合、本水耕栽培装置1を長手方向Yに直列に設置しつつ、水耕栽培槽7を連結させて、養液23の濃度や温度などの管理を一括し、管理の容易化を図ることができる。水耕栽培槽7の連結は、当該水耕栽培槽7を長尺化して形成する物のほか、水耕栽培槽7を配管で接続する場合もある。この場合、側板3Bには水耕栽培槽7の形状や配管の形状に対応して開口を形成されている。このように本水耕栽培装置1を直列に配置した場合、水耕栽培槽7に使用する養液23は共通するものの、各水耕栽培装置1で一定の栽培エリア3が区切られているので、各水耕栽培装置1内での排気、通気を確実に実行でき、または独立して温度条件等を設定することもでき、さらに各水耕栽培装置間で異なる植物21を栽培することもできる。
また、水耕栽培槽7を長尺化して形成した場合、
図11に示す育成を行う事もできる。この場合には、隣接する水耕栽培装置1間の側板3Bを一時的に取り外した後、水耕栽培用プレート5を長手方向Yにスライドさせ、スライド完了後、側板3Bを設置することができる。
【0074】
2.作用効果
次に、上述した構成を有する本実施形態の水耕栽培装置1及び水耕栽培装置100の作用効果について説明する。
図12は、本実施形態の水耕栽培装置1内部における空気の流れを示した模式図である。
【0075】
図12に示すとおり、本実施形態の水耕栽培装置1は、天井板3Aに設けられた排気ファン11により、外部の空気を内部に取り込みつつ、内部の空気を外部に排出させることができる。具体的には、排気ファン11が回転することで本水耕栽培装置1内部の空気が天井板3A側に上昇し、排気ファン11を介して外部に排出される。この時、本水耕栽培装置1内は減圧状態となるため、側板3Bの下方に設けられたスリット17を介して外部の空気が内部に取り込まれる。
【0076】
上述のとおり、本水耕栽培装置1の水耕栽培用プレート5は、通気道27を具備し、当該通気道27により水耕栽培用プレート5の表面側と裏面側とにおける空気の移動を可能にしているため、多段に配置された水耕栽培用プレート5間における空気は当該水耕栽培用プレート5に遮られることなく、天井板3A側へ容易に上昇することができる。
【0077】
このように、本実施形態の水耕栽培装置1は、排気ファン11を作動させることで内部における各棚間の空気を移動させ、長時間部分的に滞留させないでおくことができる。また、水耕栽培用プレート5に設けられた通気道27は、所定の間隔で複数設けられているため、空気の移動に偏りがなく、各棚間の空気は略均一に移動することができる。そのため、各棚間の空気環境(温度、湿度、炭酸ガス濃度、風量)の差が少なくなることにより、各棚間、各棚内の栽培物の生育ムラが生じなくなる。
【0078】
本実施形態の水耕栽培装置1は、植物21の光合成に必要な光を照明装置9により供給しており、また当該照明装置9は、各棚間それぞれに設けられているが、上述による空気の移動により、照明装置9で温められた空気の滞留を防止し、各棚及び各場所における温度を均一化することができる。これにより、植物21の育成環境を同一条件とし、育成速度を揃えることが可能となり、出荷する植物の大きさが揃うため、良品率が高めることができる。また、各棚間の空気環境(温度、湿度、炭酸ガス濃度、風量)の差が少なくなることにより、各棚間、各棚内の栽培物の生育ムラが生じなくなる。
【実施例】
【0079】
ここで、上記の本実施形態の水耕栽培装置1(栽培エリア3)内における温度比較を行うべく、以下のような実験を行った。
【0080】
<実験1>
図1に示す構造を有する水耕栽培装置1を作製した。具体的には、外径寸法として幅890mm×長さ1530mm×高さ1600mmの栽培エリア3に、棚13を350mm間隔で3段配置し、各棚13には照明装置9として(株)東芝製の23W型LED電球を6本配置した。水耕栽培槽7は、PVCで構成された給水20型の樋を配置し、水耕栽培用プレート5は、発泡スチロール製の厚さ20mmの物を用いた。なお、当該水耕栽培用プレート5は中央に通気道27を具備している。そして、水耕栽培装置1の外周の4つの側面には反射板が設けられており、側方からの空気の流入が規制された状態にある。また、排気ファン11は、オリエンタルモーター(株)製の消費電力54.5W、換気能力12.8m
3/min(MRE 18−BH)を用いて栽培エリア3内の空気を外部に排出させた。
【0081】
<実験2>
排気ファン11を作動させないこと以外は、上記実験1と同様のことを実施した。
【0082】
<実験3>
水耕栽培用プレート5に通気道27を設けなかったこと以外は、上記実験1と同様のことを実施した。
【0083】
上記の実験1〜3において、それぞれの水耕栽培装置1の各棚13及び外部における雰囲気温度を測定した。用いた温度測定器はGRAPHTEC社製データロガー GL−820であり、各棚13における照明装置9の下端から略200mm下方で、短手方向Xの略中央近傍と、端と、を測定位置とした。また、測定条件は、照明装置9を点灯と同時に測定を開始し、当該測定の開始から温度が一定になったことを確認後(約1時間)、測定を終了するものとした。得られた結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示されているように、本発明の水耕栽培装置1と略同様の構成を有する実験1では、各棚13及び外部における雰囲気温度の差が、略中央近傍及び端の双方ともに1度未満となり、温度の均一化を好適に達成していることが確認できる。これに対し、排気ファン11を作動させなかった実験2では、各棚13における略中央近傍及び端の双方ともに略5度となる顕著な温度差が確認された。また、実験3では排気ファン11を作動したため、各棚13における雰囲気温度の差は小さいが、水耕栽培用プレート5に貫通孔27を具備しないため、各棚13における略中央近傍の雰囲気温度において比較的明確な温度差が確認できた。
【0086】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の精神及び教示を逸脱しない範囲でその他の改良例や変形例が存在する。そして、かかる改良例や変形例は全て本発明の技術的範囲に含まれることは、当業者にとっては容易に理解されるところである。