特許第6870861号(P6870861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870861
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】連続鋳造用浸漬ノズル
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20210426BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B22D11/10 330R
   B22D41/50 520
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-94926(P2019-94926)
(22)【出願日】2019年5月21日
(65)【公開番号】特開2020-189308(P2020-189308A)
(43)【公開日】2020年11月26日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000244176
【氏名又は名称】明智セラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】階戸 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 正成
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−347718(JP,A)
【文献】 特開平10−296408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00〜11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛質耐火物からなる略長筒状のノズル本体と、
当該ノズル本体の少なくともノズル頭部近傍を覆うメタルケースとを有し、
当該メタルケース内側面と前記ノズル頭部外側面によって区画形成される隙間に接合剤を充填して、
前記メタルケースを固化した前記接合剤で前記ノズル頭部近傍に接合固定している連続鋳造用浸漬ノズルであって、
前記ノズル頭部の外側面上端の角隅部を切り欠いて、前記隙間と連通する切欠部を設け、
当該切欠部及び前記隙間へ、前記接合剤を充填して凝固させるようにしたことを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
前記ノズル頭部上端にフランジ部を一体成形し、
当該フランジ部の側面上端の角隅部を切り欠いて前記切欠部を形成し、
当該切欠部が、前記フランジ部を覆う前記メタルケースの内側面と、前記フランジ部側面によって区画形成される前記隙間と連通していることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
前記フランジ部の厚さが5mm〜60mmであることを特徴とする請求項2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項4】
縦断面視形状が略三角形状となるように前記切欠部を形成し、
当該切欠部と前記隙間が連通する部分を底辺としたとき、前記切欠部の頂点の角度が15度〜85度であることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項5】
前記接合剤がモルタルであることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の連続鋳造用浸漬ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用浸漬ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、溶融金属に浸漬される浸漬ノズルは、他のノズルよりも短期間で溶損することから、適宜新たな浸漬ノズルに交換されている。
この浸漬ノズルの交換を容易に行うためにノズル交換装置が知られている。当該ノズル交換装置は、ガイドレールを有している。浸漬ノズルは、ガイドレールに沿って摺動するように当該ガイドレールに当接するフランジを有している。交換装置は、ガイドレールに浸漬ノズルをセットしておき、先に使用している浸漬ノズルが劣化したとき、当該劣化浸漬ノズルを押し出し排出して、新たな浸漬ノズルをタンディッシュ下の溶融金属排出部へガイドレールに沿って摺動させて、浸漬ノズルを速やかに交換するように形成されている。当該交換装置に使用される連続鋳造用浸漬ノズルの一例が、特開2002−153950号公報に開示されている。
【0003】
ここで、連続鋳造用浸漬ノズルには、黒鉛質耐火物からなるノズル本体、少なくともノズル頭部近傍を保護するためにメタルケースに覆われている場合がある。そして、当該メタルケースは、ノズル本体の間に形成される隙間に接合剤を充填することによって、ノズル本体に接合固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−153950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の連続鋳造用浸漬ノズルは、使用前に高温環境下で数時間予熱され、その後ノズル交換装置のガイドレールにセットされる。このとき、図9に示すように、ノズル本体1のフランジ部1aと、当該フランジ部1aを覆うメタルケース2の位置が、ズレる場合がある。これは、メタルケース2が、予熱で膨張し、接合剤3と共にフランジ部1a及びノズル本体1の表面から剥がれてしまうことを原因としている。
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ノズル本体を覆うメタルケースが、予熱後にノズル本体に対してズレないようにした連続鋳造用浸漬ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の連続鋳造用浸漬ノズルは、黒鉛質耐火物からなる略長筒状のノズル本体と、
当該ノズル本体の少なくともノズル頭部近傍を覆うメタルケースとを有し、
当該メタルケース内側面と前記ノズル頭部外側面によって区画形成される隙間に接合剤を充填して、
前記メタルケースを固化した前記接合剤で前記ノズル頭部近傍に接合固定している連続鋳造用浸漬ノズルであって、
前記ノズル頭部の外側面上端の角隅部を切り欠いて、前記隙間と連通する切欠部を設け、
当該切欠部及び前記隙間へ、前記接合剤を充填して凝固させるようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の連続鋳造用浸漬ノズルは、請求項1に記載の発明において、前記ノズル頭部上端にフランジ部を一体成形し、
当該フランジ部の側面上端の角隅部を切り欠いて前記切欠部を形成し、
当該切欠部が、前記フランジ部を覆う前記メタルケースの内側面と、前記フランジ部側面によって区画形成される前記隙間と連通していることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の連続鋳造用浸漬ノズルは、請求項2に記載の発明において、前記フランジ部の厚さが5mm〜60mmであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の連続鋳造用浸漬ノズルは、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、縦断面視形状が略三角形状となるように前記切欠部を形成し、
当該切欠部と前記隙間が連通する部分を底辺としたとき、前記切欠部の頂点の角度が15度〜85度であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の連続鋳造用浸漬ノズルは、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、前記接合剤がモルタルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルによれば、黒鉛質耐火物からなるノズル本体の頭部近傍をメタルケースで覆い、当該メタルケース内側面とノズル頭部外側面によって区画形成される隙間に接合剤を充填し、固化した接合剤がメタルケースをノズル頭部近傍に接合固定するようにした連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、ノズル頭部の外側面上端の角隅部を切り欠いて、隙間と連通する切欠部を設けた。そして、隙間と切欠部へ接合剤を充填し、凝固させるようにした。
これによって、隙間及び切欠部で凝固した接合剤がノズル頭部の外側面上端の角隅部に係止される構造となるので、当該接合剤に固着しているメタルケースが、予熱によって膨張してノズル本体から剥がれた場合であっても、メタルケースがノズル本体から外れることを防止することができる。
【0013】
また好ましくは、ノズル頭部上端にフランジ部を一体成形して、当該フランジ部の側面上端の角隅部に切欠部を設けた。そして、当該切欠部とフランジ部側面との間の隙間に接合剤を充填し、凝固させたとき、当該接合剤はフランジ部上端の角隅部近傍に係止される構造となるので、上記のノズル交換装置にセットされて待機している予熱済みの浸漬ノズルが自然に冷却されたとき、当該接合剤に固着しているメタルケースが、予熱によって膨張してノズル本体から剥がれた場合であっても、メタルケースがノズル本体から外れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの構成の概略を示す断面図である。
図2】第1実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルのノズル頭部近傍の構成の概略を示す拡大断面図である。
図3】第1実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの一例を示す平面図である。
図4】第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの構成の概略を示す断面図である。
図5】第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルのノズル頭部近傍の構成の概略を示す拡大断面図である。
図6】第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの一例を示す平面図である。
図7】第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの他の例を示す平面図である。
図8】第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの効果を確認する実験の結果を示す図表である。
図9】従来の連続鋳造用浸漬ノズルのノズル頭部近傍で発生する予熱後のズレを示す説明図である。
【実施例1】
【0015】
本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルの実施例を添付した図面にしたがって説明する。図1は、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの構成の概略を説明する断面図であり、図2は、当該浸漬ノズルのノズル頭部近傍を拡大して構成の概略を説明する断面図である。
【0016】
連続鋳造用浸漬ノズル10は、図1に示すように、略長筒状のノズル本体11を有している。ノズル本体11は、溶融金属に浸漬されるノズル胴部12と、当該ノズル胴部12よりも拡径されたノズル頭部13を有している。ノズル本体11にはノズル頭部13から長手方向に沿ってノズル胴部12の下端に向って内孔14が設けられている。内孔14の先端には溶融金属が吐出可能な吐出口15,15が形成されている。そして、少なくともノズル頭部13近傍は、メタルケース16によって覆われて補強され、破損等から保護されている。メタルケース16内側面とノズル頭部13外側面との間には、隙間が区画形成される。
【0017】
さらに、ノズル頭部13は、図2に示すように、外側面上端の角隅部を切り欠いて、隙間と連通する切欠部17が形成されている。図2に示すように、メタルケース16の内側面とノズル頭部13外側面によって区画形成された空間は、隙間から内孔14側に伸びる切欠部17によって、略Γ字状の空間が形成される。切欠部17は、図2に示すように、縦断面視略三角形状に切り欠いて形成されているがこれに限定されるものではなく、隙間と連通する凹部、たとえば他に、円弧状又はL字状に切り欠いても良い。本実施例において略三角形状に切り欠いたのは、製造工程が容易となるからである。
なお、切欠部17は、ノズル頭部13上端縁部を環状に一様に切り欠いて形成しても良いし、また、ノズル頭部13上端の一部を少なくとも1か所若しくは複数か所を切り欠いて、たとえば、図3の平面図に示すように、ノズル頭部13を4か所切り欠いて形成しても良い。ここで図3のA−A線で浸漬ノズル10を切断した縦断面図が図1に示す断面図である。
【0018】
そして、メタルケース16内側面とノズル頭部13外側面によって区画形成された空間には、接合剤が充填される。当該接合剤が時間と共に固化したとき、凝固した接合剤は、メタルケース16をノズル頭部13近傍に接合固定するように形成されている。本実施例において、接合剤はモルタルであることが好ましい。なお、接合剤は、当該モルタルに限定されるものではなく、高温環境下で変成し難く所定の強度を保ってメタルケースとノズル本体とを接合可能な耐熱系素材であれば良い。
【0019】
ノズル頭部13近傍で接合剤が凝固したとき、図2に示すように、縦断面視が略Γ字状の空間形状に沿って同一形状の係止部20が形成される。当該係止部20は、一方の側面でノズル頭部13の外側面と係合し、他方の側面にメタルケース16を接合する係合縦部20aと、切欠部17に係合する係合横部20bを有している。当該係合横部20bの斜面と、切欠部17の被係合斜面が係合することによって、係止部20は、ノズル頭部13上端の角隅部に係止されている。そのため、係止部20がノズル頭部13の外側面又は切欠部17の被係合斜面から剥がれた場合であっても、係止部20がメタルケース16と共に下がるとき、係合横部20bが切欠部17、すなわちノズル頭部角隅部近傍に引っ掛かるので、係止部20に接合されているメタルケース16が落下することを防止することができる。
【0020】
また、図2に示すように、切欠部17は、縦断面視が略三角形状となるように切り欠いて形成されているので、同一形状を示す係止部20の係合横部20bは、縦断面視したとき、頂点20cを備える略三角形状に形成されている。頂点20cの頂角θは、15度〜85度の範囲内にあることが好ましい。当該範囲内に収まる鋭角の頂点20cを備え、かつ、内孔側へ十分に伸ばされた係合横部20bを備えた係止部20は、メタルケース16を支えるに十分な強度を備えている。しかし、頂角θが15度よりも小さい場合は、係合横部20bの強度が弱くなり、根元から又は途中で折れてしまうおそれがある。
一方、頂角θを85度よりも大きくした場合、係合横部20bの斜面が急斜面となってしまう。これによって、係合横部20bの斜面が、被係合斜面上を滑動して、係止部20がノズル頭部13に係止しないおそれがある。また、ノズル本体11とメタルケース16が予熱によって膨張した場合に、メタルケース16内側面とノズル頭部13外側面とによって区画形成される隙間が、当初よりも拡がってしまって、係止部20と共にメタルケース16がノズル頭部13から脱落するおそれがある。
【0021】
上記構成を有する連続鋳造用浸漬ノズル10は、使用前に予熱炉に入れられて所定の温度で予熱される。そして、予熱終了後に所定の位置まで移動させられ、タンディッシュ(図示略)の底面に設けた溶融金属排出部(図示略)に取り付けられて使用される。このとき、メタルケース16は予熱時に大きく膨張する。ここで、予熱時の高温環境下におけるメタルケース16の膨張率と黒鉛質耐火物からなるノズル本体11の膨張率の違いによって、ノズル本体11よりもメタルケース16が大きく膨張し、メタルケース16とノズル頭部13とを接合固定していた接合剤からなる係止部20が、ノズル頭部13から剥がれてしまう場合がある。
この場合に、略Γ字状に形成されている係止部20は、係合横部20bがノズル頭部13上端の角隅部近傍に係止している。これによって、係止部20がノズル頭部13の外側面又は切欠部17の被係合斜面から剥がれた場合であっても、係合横部20bが切欠部17の被係合斜面と係合し、係止部20が切欠部17、すなわちノズル頭部13上端の角隅部近傍に係止するので、係止部20の係合縦部20aに接合しているメタルケース16が、ノズル頭部13から落下することを防止することができる。
【0022】
このように、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10によれば、メタルケース16が予熱で膨張して、係止部20がノズル頭部13表面から剥がれた場合であっても、当該メタルケース16がノズル頭部13から落下することを防止することができるので、ノズル頭部13を補強しているメタルケース16を確実にノズル頭部13近傍に保持することができる。
【実施例2】
【0023】
次に、他の実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルを、添付した図面にしたがって説明する。図4は、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズルの構成の概略を説明する断面図であり、図5は、当該浸漬ノズルのノズル頭部近傍を拡大して構成の概略を説明する断面図である。
【0024】
連続鋳造用浸漬ノズル10Aは、第1実施例と同様に、ノズル胴部12とノズル頭部13を備え、内孔14が設けられた略長筒状のノズル本体11Aを有している。本実施例に係る連続鋳造用ノズルが第1実施例と相違する点は、図4に示すように、ノズル頭部13上端にフランジ部30が一体成形されている点である。フランジ部30は、好ましくは一様な厚さのプレート状であり、図5に示すように、フランジ部30の厚さδは、5mm〜60mmであることが好ましい。5mm以下の場合は、後述するノズル交換装置にセットしたとき、ノズル本体11Aの重量に耐えられず折損するおそれがあり、60mm以上の場合は、フランジ部30を含めたノズル頭部13が重くなり、ノズル本体11Aの重量バランスが崩れて倒れやすくなるおそれがあるからである。そして、フランジ部30とノズル頭部13近傍は、図5に示すように、メタルケース16Aによって覆われて補強され、破損等から保護されている。メタルケース16A内側面とフランジ部30側面の間には、第1実施例と同様に、隙間が区画形成される。
【0025】
さらに、フランジ部30は、図5に示すように、側面上端の角隅部を切り欠いて、第1実施例と同様に、隙間と連通する切欠部17Aが形成されている。図5に示すように、メタルケース16Aの内側面とフランジ部40側面によって区画形成された空間は、隙間からノズル頭部13側に伸びる切欠部17Aによって、略Γ字状の空間が形成される。切欠部17Aは、図5に示すように、縦断面視略三角形状に切り欠いて形成されているがこれに限定されるものではなく、隙間と連通する凹部、たとえば他に、円弧状又はL字状に切り欠いても良い。本実施例において略三角形状に切り欠いたのは、製造工程が容易となるからである。
なお、切欠部17Aは、図6に示すように、フランジ部30上端縁部の周囲を一様に切り欠いて形成しても良いし、また、フランジ部上端の一部を少なくとも1か所若しくは複数か所を切り欠いて、たとえば、図7に示すように、平面視矩形状のフランジ部30の角部30aを4か所切り欠いて形成しても良い。なお、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10Aは、図6に示すように、切欠部17Aを形成したものであって、A−A線に沿って切断した縦断面図が図4に示す断面図である。
またフランジ部30外縁近傍に切欠部17Aを設ける場合、図5に示すように、フランジ部30外縁近傍が略台形状となるように角隅部を切り欠くのが好ましい。フランジ部30の外縁が略三角形状となるように角隅部を切り欠いた場合、後述する接合剤の充填時又は浸漬ノズルの予熱時、或いは浸漬ノズルの移動時といった様々な場合に、フランジ部30の外縁が折損してしまうおそれがあるからである。
【0026】
そして、図5に示すように、メタルケース16A内側面とフランジ部30側面、さらにはノズル頭部13外側面によって区画形成された空間には、接合剤が充填される。当該接合剤が時間と共に固化したとき、凝固した接合剤は、メタルケース16Aをフランジ部30に、また好ましくはノズル頭部13に接合固定するように形成されている。本実施例において、接合剤はモルタルであることが好ましい。なお、接合剤は、当該モルタルに限定されるものではなく、高温環境下で変成し難く所定の強度を保ってメタルケース16Aとフランジ部30とを接合可能な耐熱系素材であれば良い。
【0027】
フランジ部30近傍で接合剤が凝固したとき、図5に示すように、メタルケース16A内側面とフランジ部30側面との間には、縦断面視が略Γ字状の空間形状に沿って同一形状の係止部20Aが形成される。当該係止部20Aは、一方の側面でフランジ部30側面と係合し、他方の側面にメタルケース16Aを接合する係合縦部20aと、切欠部17Aに係合する係合横部20bを有している。当該係合横部20bの斜面と、切欠部17Aの被係合斜面が係合することによって、係止部20Aは、フランジ部30上端の角隅部近傍に係止されている。そのため、係止部20Aがフランジ部30の側面又は切欠部17Aの被係合斜面から剥がれた場合であっても、係止部20Aがメタルケース16Aと共に下がるとき、係合横部20bが切欠部17A、すなわちフランジ部30角隅部近傍に引っ掛かるので、係止部20Aに接合されているメタルケース16Aが落下することを防止することができる。
【0028】
また、図5に示すように、切欠部17Aは、縦断面視が略三角形状となるように切り欠いて形成されているので、同一形状を示す係止部20Aの係合横部20bは、縦断面視したとき、頂点20cを備える略三角形状に形成されている。頂点20cの頂角θは、15度〜85度の範囲内にあることが好ましい。当該範囲内に収まる鋭角の頂点20cを備え、かつ、内孔側へ十分に伸ばされた係合横部20bを備えた係止部20Aは、メタルケース16を支えるに十分な強度を備えている。しかし、頂角θが15度よりも小さい場合は、係合横部20bの強度が弱くなり、根元から又は途中で折れてしまうおそれがある。
一方、頂角θを85度よりも大きくした場合、係合横部20bの斜面が急斜面となってしまう。これによって、係合横部20bの斜面が、被係合斜面上を滑動して、係止部20Aがフランジ部に係止しないおそれがある。また、ノズル本体11とメタルケース16が予熱によって膨張した場合に、メタルケース16内側面とフランジ部30外側面とによって区画形成される隙間が、当初よりも拡がってしまって、係止部20と共にメタルケース16Aがフランジ部30から脱落するおそれがある。
【0029】
上記構成を有する連続鋳造用浸漬ノズル10Aは、第1実施例と同様に予熱された後、ノズル交換装置(図示略)にセットされる。
ノズル交換装置は、タンディッシュ(図示略)底面に設けた溶融金属流出部(図示略)に設けられている。ノズル交換装置は、図4に示すように、一対の対向配置されたガイドレール40,40を有している。ガイドレール40,40は、フランジ部30と係合している。これによって、ノズル交換装置はノズル本体11を取り外し可能に支承することができる。ガイドレール40,40には、溶融金属流出部にセットされる第一の浸漬ノズル10Aの他に、少なくとも一個以上の浸漬ノズル10Aがカートリッジ状に保持されている。すなわち、溶融金属流出部にセットされた第一の浸漬ノズル10Aを交換するとき、当該第一の浸漬ノズル10Aをガイドレール40,40に沿って押し出して外し、空いた溶融金属流出部へ新たに第二の浸漬ノズル10Aをガイドレール40,40に沿って押し込むようにセットする。このようにして、先にセットされていた第一の浸漬ノズル10Aと、次にセットする第二の浸漬ノズル10Aを容易に、かつ、迅速に交換することができる。
【0030】
ここで、ノズル交換装置において、予熱時の高温環境下におけるメタルケース16Aの膨張率と黒鉛質耐火物からなるノズル本体11の膨張率の違いによって、フランジ部30よりもメタルケース16Aが大きく膨張し、メタルケース16Aとフランジ部30とを接合固定していた接合剤からなる係止部20Aがフランジ部30から剥がれ、ノズル交換装置内でフランジ部30がガイドレール40,40から外れてしまったり、メタルケース16Aに対してフランジ部30がねじれてしまったりする場合がある。
この場合に、略Γ字状に形成されている係止部20Aは、係合横部20bがフランジ部30上端の角隅部近傍に係止している。これによって、係止部20Aがフランジ部30の外側面又は切欠部17Aの被係合斜面から剥がれた場合であっても、係合横部20bが切欠部17Aの被係合斜面と係合し、係止部20Aが切欠部17A、すなわちフランジ部30上端の角隅部近傍に係止するので、係止部20Aの係合縦部20aに接合しているメタルケース16Aが、フランジ部30から落下することを防止することができる。
【0031】
このように、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10Aによれば、メタルケース16Aが予熱で膨張して、係止部20Aがフランジ部30表面から剥がれた場合であっても、当該メタルケース16Aがフランジ部30から落下することを防止することができるので、ノズル交換装置のガイドレール40,40上で連続鋳造用浸漬ノズル10Aを正しく保持することができる。
【0032】
次に、第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10Aについて、フランジ部30からメタルケース16Aがズレるか否か確認する比較実験を行った。図8は当該実験結果を示す表である。
比較実験は、予熱温度を800℃とした第1実験、1000℃とした第2実験、1200℃とした第3実験からなる。各実験において、第1ノズル、第2ノズル、第3ノズルと三種類の浸漬ノズルを用意して3回試行し、それぞれ予熱した後、メタルケースのズレの有無を目視確認した。図8に示す実験結果では、ズレが無かったものを○で示し、ズレが発生したものを×で示している。
【0033】
第1ノズルは、フランジ部30の厚さδが50mm、図5に示す頂点20cの頂角θが90度、すなわち、切欠部17Aが形成されていないノズルである。
第2ノズルは、フランジ部30の厚さδが50mm、図5に示す頂点20cの頂角θが80度の切欠部17Aを備え、メタルケース16A内側面と切欠部17A及びフランジ部30側面との間に係止部20Aが形成されているノズルである。
第3ノズルは、フランジ部30の厚さδが10mm、図5に示す頂点20cの頂角θが30度の切欠部17Aを備え、メタルケース16A内側面と切欠部17A及びフランジ部30側面との間に係止部20Aが形成されているノズルである。
【0034】
図8に示した実験結果によれば、800℃の第1実験及び1000℃の第2実験では、第1〜第3の各ノズルでメタルケース16Aのズレは発生していない。しかし、1200℃の第3実験では、第1ノズルでメタルケース16Aのズレが発生し、第2ノズル及び第3ノズルでメタルケース16Aのズレが発生していないことを確認することができた。
そして、ノズル交換装置を利用する場合、待機中に浸漬ノズル10Aが大幅に冷えてしまうと使用時にヒートショック等で浸漬ノズル10Aが破損するおそれがあるため、予め従来よりも高温で浸漬ノズル10Aを予熱しておく必要がある。この場合に、フランジ部30に切欠部17Aを形成していない従来型のノズルの場合には、実験結果に示す通り、メタルケース16Aのズレが発生して浸漬ノズル10Aが使用できなくなるおそれがある。これに対して、本実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10Aの場合は、メタルケース16Aのズレは発生せずに使用することができる。
【0035】
第1、第2実施例に係る連続鋳造用浸漬ノズル10,10Aによれば、フランジ部30の有無にかかわらず、少なくともノズル頭部13近傍を補強保護するメタルケース16,16Aを備えた連続鋳造用浸漬ノズル10,10Aの当該メタルケース16,16Aが、高温で予熱した後に収縮した場合であっても、ノズル頭部13又はフランジ部30から外れて落下することを防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
10,10A…連続鋳造用浸漬ノズル、
11,11A…ノズル本体、12…ノズル胴部、13…ノズル頭部、14…内孔、15…吐出口、
16,16A…メタルケース、17,17A…切欠部、
20,20A…係止部、
20a…係合縦部、20b…係合横部、20c…頂点、θ…頂角、
30…フランジ部、δ…フランジ部の厚さ、
40…ガイドレール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9