(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0022】
≪1.難燃性グリース組成物≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤とを含有するものであり、難燃性を有するグリース組成物(以下、「難燃性グリース組成物」、または単に「グリース組成物」ともいう)である。ここで、「難燃性」とは、着火し難い性質をいい、あるいは着火した場合でも燃え広がりを抑制することができる性質をいう。具体的に、難燃性については、そのグリースに対して、例えば後述する実施例にて行ったような、高温に加熱した鋼球等の加熱物を接触させる燃焼試験により評価することができる。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係る難燃性グリース組成物は、基油として合成油を含み、その合成油が少なくともコンプレックスエステルであり、また、リン酸エステルをさらに含有することを特徴としている。このように、基油として少なくともコンプレックスエステルを含む、またリン酸エステルを含有するグリース組成物であることにより、良好な潤滑性能を発揮させながら、優れた難燃性を奏することができる。以下、具体的に説明する。
【0024】
[基油]
基油は、グリース組成物の主成分をなすものである。本実施の形態に係る難燃性グリース組成物においては、基油として合成油を含む。基油としては、合成油と共に鉱物油を併用してもよいが、合成油のみからなり鉱物油を含まないことがより好ましい。基油として合成油のみから構成することで、難燃性の効果を向上させることができる。ここで、「合成油」とは化学的に合成された油であり、一方で、「鉱物油」とは天然の原油から分離、蒸留、精製されて得られる油である。
【0025】
そして、この難燃性グリース組成物においては、基油を構成する合成油として、少なくともコンプレックスエステルを含む。
【0026】
また、この難燃性グリース組成物において、基油としては、コンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合物により構成されることがより好ましい。このように、コンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合基油であることにより、効率的にグリース組成物を調製することができ、より一層に優れた難燃性を発揮させることができる。
【0027】
(コンプレックスエステル)
コンプレックスエステルとは、例えば、1価アルコール及び多価アルコールと、多塩基酸とを原料として合成されるエステルである。本実施の形態において、コンプレックスエステルとしては、特に限定されないが、脂肪族1価アルコール及び脂肪族多価アルコールと、直鎖状又は分岐状の脂肪族モノカルボン酸、直鎖状又は分岐状の脂肪族二塩基酸あるいは芳香族二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸とからなるコンプレックスエステルを好適に使用することができる。
【0028】
具体的に、1価アルコールとしては、特に限定されないが、炭素数1〜24、好ましくは炭素数6〜12のもの、より好ましくは炭素数8〜10のものが用いられる。このような1価アルコールとしては、直鎖のものでも分岐を有するものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、及びこれらの混合物等が挙げられる。その中でも特に、8〜10の炭化水素基に分岐を有する1価アルコールが好ましい。
【0029】
また、多価アルコールとしては、特に限定されないが、2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類等が挙げられる。その中でも特に、より高い熱安定性が得られる観点から、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びこれらの混合物等がより好ましい。
【0030】
また、多塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン−1,12−ジカルボン酸、プラシリン酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の二塩基酸等が挙げられる。また、その中でも、炭素数2〜40のダイマー酸であることが好ましく、炭素数36のダイマー酸であることがより好ましい。
【0031】
なお、多塩基酸としては、上述した二塩基酸に限られず、三塩基酸や四塩基酸等であってもよい。また、コンプレックスエステルとしては、一塩基酸を含むものであってもよく、一塩基酸としては例えば炭素数2〜24の脂肪酸が用いられる。
【0032】
上述した原料を用いたエステル化反応としては、例えば、アルコールと多塩基酸とを所定の割合で反応させればよい。
【0033】
また、多価アルコール中の水酸基又は多塩基酸のカルボキシル基の全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基又はカルボキシル基の一部がエステル化されず水酸基又はカルボキシル基のまま残存する部分エステルでもよい。
【0034】
コンプレックスエステルの含有量は、グリース組成物全量に対して5質量%を超え55質量%未満の範囲であることが好ましい。また、より好ましくは、10質量%以上50質量%以下の範囲であり、特に好ましくは、15質量%以上45質量%程度の範囲である。組成物中におけるコンプレックスエステルの含有量が5質量%以下であると、難燃性の効果が十分に得られないことがある。一方で、含有量が55質量%以上であると、難燃性の効果が低下することがあり、また効率的にグリース組成物を製造できないことがある。
【0035】
なお、後述するように、コンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合基油とする場合には、ポリアルファオレフィンの含有量も考慮して、グリース組成物中の基油の含有量を決定することが好ましい。
【0036】
(ポリアルファオレフィン)
上述したように、本実施の形態に係る難燃性グリース組成物は、基油として、少なくともコンプレックスエステルを含み、そして、その基油としては、特に、コンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合基油であることがより好ましい。
【0037】
ポリアルファオレフィンは、アルファオレフィンの重合体である。モノマーであるアルファオレフィンの炭素数としては、粘度指数や蒸発性の観点から、炭素数6〜20程度のものが好ましく、炭素数8〜16程度のものがより好ましく、炭素数10〜14程度のものがさらに好ましい。また、ポリアルファオレフィンとしては、低蒸発性及び省エネルギーの観点から、アルファオレフィンの2量体〜5量体までのものが好ましい。なお、目的とする性状に合わせて、モノマーの炭素数、配合比、重合度を調節することができる。
【0038】
アルファオレフィンの重合触媒としては、メタロセン触媒、AlCl
3触媒、チーグラー型触媒等が使用可能であり、特に、メタロセン触媒により重合させることが好ましい。メタロセン触媒を使用して重合したポリアルファオレフィンは、安価であるとともに、低分子量成分が少なく分子量分布が狭い範囲となる。そのため、引火しにくい。
【0039】
なお、メタロセン触媒としては、例えば、メタロセン錯体を組み合わせた公知のものを用いることができる。メタロセン錯体としては、例えば、チタン、ジルコニウム、又はハフニウム等を含有する共役炭素5員環を有する錯体を用いることができる。
【0040】
また、ポリアルファオレフィンとしては、特に限定されないが、40℃における動粘度が400mm
2/s以上のものであることが好ましい。40℃動粘度が400mm
2/s以上であるポリアルファオレフィンにより基油を構成することで、その難燃性グリース組成物の難燃性が向上し、また着火した場合でも燃え拡がりを有効に抑制して、良好な難燃性を発揮するものとなる。メタロセン触媒を用いて重合させてポリアルファオレフィンを合成することにより、より効率的に、40℃動粘度が400mm
2/s以上のものとすることができる。なお、40℃動粘度が400mm
2/s未満であると、難燃性の効果が低下してしまう可能性がある。
【0041】
混合基油を構成するポリアルファオレフィンの含有量としては、特に限定されるものではなくコンプレックスエステルの含有量も考慮して決定すればよいが、例えば、グリース組成物全量に対して20質量%〜50質量%程度の範囲とすることができ、30質量%〜40質量%程度の範囲とすることがより好ましい。ポリアルファオレフィンの含有量が少なすぎると、効率的にグリース組成物を製造できない可能性がある。一方で、含有量が多すぎると、相対的にコンプレックスエステルの含有量が少なくなり、難燃性の効果が十分に得られない可能性がある。
【0042】
(ポリアルファオレフィンとコンプレックスエステルの混合比率)
上述したように、基油としてコンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合基油とする場合、その混合比率としては、特に限定されないが、質量比でコンプレックスエステル:ポリアルファオレフィン=30:70〜70:30とすることが好ましく、40:60〜60:40とすることが好ましく、50:50とすることがより好ましい。
【0043】
混合比率に関して、コンプレックスエステルの割合が少なすぎると、グリース組成物の難燃性の効果が十分に得られない可能性があり、一方で、コンプレックスエステルの割合が多すぎると、グリースを調製するにあたって添加した水と反応して加水分解を生じさせ、グリース組成物が効率的に得られない可能性がある。
【0044】
(基油の含有量)
なお、グリース組成物中における基油の含有量としては、特に限定されないが、グリース組成物中に60質量%〜95質量%程度の割合とすることができる。なお、基油の含有量に関しては、所望のグリース硬度を得るために添加する増ちょう剤の含有量も考慮して任意に定めることができる。
【0045】
[増ちょう剤]
増ちょう剤は、上述した基油と共にグリース基剤を構成し、油を保持する成分であり、従来から一般的に使用されているものを用いることができる。
【0046】
具体的に、増ちょう剤は、石けん系と非石けん系とに大別できる。石けん系としては、例えば、リチウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム石けん、アルミニウム複合石けん等が挙げられる。また、非石けん系としては、例えば、ウレア化合物、有機ベントナイト、シリカ等が挙げられる。その中でも特に、リチウム複合石けんを用いることが好ましい。なお、これらの増ちょう剤は、1種類を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0047】
増ちょう剤の含有量としては、特に限定されず、基油と共に所望とするグリース硬度となるように配合すればよく、基油との関係で任意に決定することができる。例えば、グリース硬度を硬くするためには基油の割合を少なくし、一方で柔らかくするためには基油の割合を多くすることで調整することができる。
【0048】
[固体潤滑剤]
本実施の形態に係る難燃性グリース組成物には、添加剤として固体潤滑剤を含有させることができる。このように固体潤滑剤を含有させることによって、耐荷重性等の優れた潤滑性を発揮させながら、難燃性を有するグリース組成物とすることができる。
【0049】
固体潤滑剤としては、特に限定されるものではないが、難燃性、自己消化性に優れている点で、グラファイト又は炭酸カルシウムが好ましい。これら固体潤滑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
なお、固体潤滑剤としては、上述したグラファイトや炭酸カルシウムのほか、二硫化モリブデン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、二硫化タングステン等を使用することも可能ではあるが、例えば二硫化モリブデン等を使用した場合は、グリースに着火してから消化までの時間が若干長くなる可能性がある。したがって、これらの固体潤滑剤を使用する場合には、炭酸カルシウムやグラファイト等の固体潤滑剤と併用して、その含有量を調整することが好ましい。
【0051】
固体潤滑剤の含有量としては、特に限定されず、その要求される潤滑性に応じた含有量とすることができる。具体的には、グリース組成物全量に対して0.1質量%〜10質量%程度の範囲とすることができ、1質量%〜5質量%程度の範囲とすることがより好ましい。固体潤滑剤の含有量が0.1質量%未満であると、グリース組成物の潤滑性の向上効果が十分に得られず、一方で、含有量が10質量%を超えると、グリースの圧送性を阻害する可能性がある。
【0052】
[リン酸エステル]
本実施の形態に係る難燃性グリース組成物においては、リン酸エステルを含有する。このように、上述したコンプレックスエステルと共にリン酸エステルを含有することにより、より優れた難燃性が得られ、実施例にて示すような燃焼試験において着火しない。したがって、苛酷な使用環境であっても火災等の発生を有効に防ぐことができ、安全性を向上させることができる。
【0053】
リン酸エステルとしては、特に限定されないが、引火点が200℃〜400℃の化合物であることが好ましく、250℃〜350℃の化合物であることがより好ましい。具体的には、例えば下記一般式(I)で示されるような芳香族系リン酸エステルを好適に用いることができる。なお、式(I)中のRはアルキル基又は水素を示し、またnは0〜5である。また、その形状としては、液状のものであっても、粉状のものであってもよい。
【0055】
例えば上記一般式にて表されるようなリン酸エステル化合物は、優れた難燃性を奏する難燃剤として作用するとともに、摩耗を効果的に抑制することもでき、グリース組成物としてより潤滑性を高めることが可能となる。
【0056】
リン酸エステルの含有量としては、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下の範囲であることがより好ましい。リン酸エステルの含有量が0.1質量%未満であると、難燃性の効果が十分に得られない可能性がある。一方で、含有量が20質量%を超えると、圧送性が悪くなり、得られるグリース組成物のハンドリング性が悪化する。
【0057】
[フェノール系酸化防止剤]
また、本実施の形態に係る難燃性グリース組成物には、添加剤としてフェノール系酸化防止剤を含有させることができる。フェノール系酸化防止剤は、優れた難燃性を有する成分である。そのメカニズムは明らかではないが、フェノール系酸化防止剤を配合させることで、より優れた難燃性を発揮させることができる。
【0058】
フェノール系酸化防止剤としては、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6−di−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が特に好ましい。
【0059】
フェノール系酸化防止剤の含有量としては、特に限定されないが、グリース組成物全量に対して0.1質量%〜5質量%の範囲とすることが好ましく、1質量%〜4質量%の範囲とすることがより好ましい。フェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%〜5質量%の範囲であることにより、難燃性の向上効果を十分に発揮させることができる。
【0060】
[その他の添加剤]
本実施の形態に係るグリース組成物においては、上述した各成分のほか、グリースに一般的に用いられている各種添加剤を、難燃性の作用を阻害しない範囲でさらに配合させることができる。具体的には、フェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤、防錆剤、油性剤、極圧剤、耐摩耗剤、金属不活性剤、ポリマー、金属系清浄剤、非金属系清浄剤、着色剤、撥水剤等が挙げられる。
【0061】
例えば、酸化防止剤としては、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−α−ナフチルアミン、フェノチアジン等が挙げられる。また、防錆剤としては、酸化パラフィン、カルボン酸金属塩、スルフォン酸金属塩、カルボン酸エステル、スルフォン酸エステル、サリチル酸エステル、コハク酸エステル、ソルビタンエステルや各種アミン塩等が挙げられる。また、油性剤、極圧剤、耐摩耗剤としては、硫化ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオリン酸モリブテン、硫化ジアリルジチオリン酸モリブテン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブテン、硫化ジアリルジチオカルバミン酸モリブテン、有機モリブテン錯体、硫化オレフィン、トリフェニルフォスフェート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジンフォスフェート、その他リン酸エステル類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0062】
また、金属不活性剤としては、N,N’ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパン、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。また、ポリマーとしては、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメタクリレート等が挙げられる。また、金属系清浄剤として、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フィネート等が挙げられる。また、非金属系清浄剤として、コハク酸イミド等が挙げられる。
【0063】
これらの任意の添加剤の含有量としては、特に限定されないが、グリース組成物全量に対して0.1質量%〜5質量%程度の割合で含有させることができる。
【0064】
≪2.難燃性グリース組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る難燃性グリース組成物は、合成油を含む基油と、増ちょう剤と、リン酸エステルとを含有し、具体的にその基油としては少なくともコンプレックスエステルを含む。
【0065】
このようなグリース組成物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、基油としてのコンプレックスエステルと、増ちょう剤とを銅釜内で混合し、100℃〜300℃程度の温度で1時間〜24時間加熱して溶解させながら撹拌し、続いて、リン酸エステル、固体潤滑剤、酸化防止剤、その他の任意の添加剤を混合してさらに撹拌し、その後冷却することによって、グリース組成物を得ることができる。
【0066】
また、基油として、コンプレックスエステルとポリアルファオレフィンとの混合基油とする場合には、先ず、ポリアルファオレフィンを、脂肪酸とアルカリとを使用して1次及び2次けん化反応を生じさせ、完全に水分を除去した状態でコンプレックスエステルを混合させ、100℃〜300℃程度の温度で1〜24時間加熱し、その後冷却することによって、グリース組成物を製造することができる。さらに、その他の任意の添加剤を、その後に添加混合することができる。
【0067】
なお、撹拌、混練処理に際しては、例えば、3本ロールミル、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の混練処理装置を用いて行うことができる。
【実施例】
【0068】
≪3.実施例≫
以下、本発明の実施例を示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[グリース組成物の製造]
実施例、比較例において、下記表1に示す組成となるようにグリース組成物を製造し、難燃性等についての評価を行った。
【0070】
具体的には、下記表1に示す各成分原料(単位:質量%)を秤量して混合させた後、自転公転ミキサー(泡取り練太郎)を用いて自転1000rpm×1分間、公転2000rpm×1分間の撹拌処理を行い、脱泡後、3本ロールミル(2パス)で混練させた。
【0071】
なお、グリース組成物の成分原料のうち、基グリース、合成油(基油)、酸化防止剤としては、それぞれ以下のものを用いた。
<基グリース>
・リチウム複合石鹸グリース
メタロセンPAOを基油とし、リチウム複合石鹸を増ちょう剤として含有するグリース
<合成油(基油)>
・ポリアルファオレフィン:メタロセンPAO(40℃動粘度:400mm
2/s)
メタロセン触媒を用いた重合させたポリアルファオレフィン
・コンプレックスエステル:
ネオペンチルグリコールと、ダイマー酸と、2−エチルヘキシルアルコールとをエステル化反応して得られたもの
<リン酸エステル>
芳香族系リン酸エステル
<フェノール系酸化防止剤>
ヘキサメチレンビス[3−(3,5−di−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【0072】
[難燃性の評価]
(燃焼試験1)
φ85mmの円形のブリキ製皿(深さ7mm)に、作製したグリース組成物10gを均一に詰め、電気炉中で900℃に加熱した3/4インチJIS玉軸受鋼球1個を、その中央投入して、着火の有無、着火した場合は消火するまでの時間(秒)を測定した。
【0073】
(燃焼試験2)
φ85mmの円形のブリキ製皿(深さ7mm)に、作製したグリース組成物10gを均一に詰め、電気炉中で900℃に加熱した3/4インチJIS玉軸受鋼球2個を、その中央に連続投入して、着火の有無、着火した場合は消火するまでの時間(秒)を測定した。
【0074】
(難燃性の評価)
上述した難燃試験の結果から、下記表1の評価欄では、燃焼試験1及び燃焼試験2の両方において着火しなかった場合を「○」とし、燃焼試験1では着火せず燃焼試験2では着火した場合を「△」、燃焼試験1及び燃焼試験2の両方で着火した場合を「×」として表記し、実施例、比較例にて作製したグリース組成物について評価した。
【0075】
[非延焼性の評価]
非延焼性とは、上述したような燃焼試験において着火せず、あるいは着火した場合でも短時間で消火して燃え広がりを抑制することができる性質をいうものとする。
【0076】
(非延焼性試験)
非延焼性の評価は、φ85mmの円形のブリキ製皿(深さ7mm)に、作製したグリース組成物10gを均一に詰め、電気炉中で900℃に加熱した3/4インチJIS玉軸受鋼球1個を、その中央に投入して、延焼距離を縦方向と横方向とで測定してその平均値(mm)を求めた。なお、着火しない場合もブリキ製皿内のグリース組成物への焦げ範囲で測定した。
【0077】
(非延焼性の評価)
上述した非延焼性試験の結果から、下記表1の評価欄では、非延焼性に優れる場合を「○」とし、非延焼性が無い(十分ではない)場合を「×」として表記し、実施例、比較例にて作製したグリース組成物について評価した。
【0078】
[潤滑性(耐摩耗性)の評価]
潤滑性(耐摩耗性)の評価として、耐荷重性試験を実施した。耐荷重性試験としては、ASTM D 2596により規定された方法に基づいてシェル式四球試験を実施し、融着荷重(WL、N)を測定した。下記表1の評価欄では、その融着荷重の測定結果から、耐荷重性が良好であったものを「○」とし、それよりもやや耐荷重性が劣ったものを「△」として表記した。この耐荷重性試験においては、融着荷重が2452N以上であると、実用上、耐荷重性が特に良好であるといえる。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の実施例1〜5の結果に示したように、基油としてコンプレックスエステルを含有し、さらにリン酸エステルを含有するグリース組成物であることにより、優れた難燃性を奏することが分かった。また、潤滑性についても良好なものであった。
【0081】
これに対して、比較例1〜5のグリース組成物では、潤滑性は良好であったものの、燃焼試験1又は2において着火が認められ、難燃性に劣るものであった。
【0082】
これらの結果から、基油としてコンプレックスエステルを含有し、さらにリン酸エステルを含有するグリース組成物であることにより、良好な潤滑性を示すとともに、難燃性に優れており高温に曝される環境下においても火災の危険性をより低下させることができるグリース組成物となることが分かった。