(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870911
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20210426BHJP
【FI】
A63B53/04 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-250860(P2015-250860)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-113210(P2017-113210A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月25日
【審判番号】不服2020-5255(P2020-5255/J1)
【審判請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】元川 祐貴
【合議体】
【審判長】
吉村 尚
【審判官】
藤本 義仁
【審判官】
尾崎 淳史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−24865(JP,A)
【文献】
特開2002−774(JP,A)
【文献】
特開2002−240068(JP,A)
【文献】
特開2006−289472(JP,A)
【文献】
特開2013−248180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00 - 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドを製造するための方法であって、
前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを含む金属製の板状部材を準備する準備工程と、
前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させるプレス工程とを含み、
前記準備工程は、前記返し部予定部分に、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットを形成する工程を含み、
前記プレス工程は、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とを、その厚さ方向で互いに重なる重なり部が前記返し部の全範囲で形成されるように変形させ、
前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の少なくとも一方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項2】
ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドを製造するための方法であって、
前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを含む金属製の板状部材を準備する準備工程と、
前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させるプレス工程とを含み、
前記準備工程は、前記返し部予定部分に、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットを形成する工程を含み、
前記プレス工程は、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とを、その厚さ方向で互いに重なる重なり部が前記返し部の全範囲で形成されるように変形させ、
前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の双方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁までのびている請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁の手前で終端することで、前記スリットの外周縁側に、継部分を存在させ、
前記継部分はプレス加工時に、バリ状に変形し、その後、切除される請求項1記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記スリットの幅は、前記外周縁に向かって漸増する請求項3又は4記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項6】
ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドを製造するための方法であって、
前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを含む金属製の板状部材を準備する準備工程と、
前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させるプレス工程とを含み、
前記準備工程は、前記返し部予定部分に、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットを形成する工程を含み、
前記プレス工程は、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とを、その厚さ方向で互いに重なるように変形させ、
前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁の手前で終端することで、前記スリットの外周縁側に、継部分を存在させ、
前記継部分はプレス加工時に、バリ状に変形し、その後、切除され、
前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の少なくとも一方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項7】
ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドを製造するための方法であって、
前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを含む金属製の板状部材を準備する準備工程と、
前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させるプレス工程とを含み、
前記準備工程は、前記返し部予定部分に、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットを形成する工程を含み、
前記プレス工程は、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とを、その厚さ方向で互いに重なるように変形させ、
前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁の手前で終端することで、前記スリットの外周縁側に、継部分を存在させ、
前記継部分はプレス加工時に、バリ状に変形し、その後、切除され、
前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の双方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことを特徴とするゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項8】
金属製のフェース部材と、ヘッド本体とが接合されたゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部材は、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状であり、
前記返し部は、その少なくとも一部に、第1エッジ部と第2エッジ部とが、その厚さ方向で互いに重ねられた重なり部を含み、
前記重なり部は、前記返し部の全範囲で形成され、
前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の少なくとも一方は、前記返し部の他の部分に比べて厚さが小さい薄肉部を有することを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
金属製のフェース部材と、ヘッド本体とが接合されたゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部材は、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状であり、
前記返し部は、その少なくとも一部に、第1エッジ部と第2エッジ部とが、その厚さ方向で互いに重ねられた重なり部を含み、
前記重なり部は、前記返し部の全範囲で形成され、
前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の双方は、前記返し部の他の部分に比べて厚さが小さい薄肉部を有することを特徴とするゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れたフェース部材を具えたゴルフクラブヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ゴルフクラブヘッドの製造方法が記載されている。この製造方法は、ゴルフクラブヘッドのソール部と、このソール部の周縁部で折れ曲がってヘッドサイドを形成するサイド部とを一体に具えたサイド付きソール部材を製造する工程が記載されている。より具体的に述べると、下記特許文献1は、板状のサイド付きソール部材に、サイド部からソール部に向かって小巾で切り欠かれた歪緩和用の切欠き部を形成し、塑性加工により前記サイド部を仕上がり形状に折り曲げて仕上がり形状のサイド付きソール部材を形成することを提案している。
【0003】
上記特許文献1の方法では、サイド部をソール部の周縁部で折り曲げするときに生じるサイド部の歪が、切欠き部の巾を徐々に減じる変形によって緩和、吸収され、サイド部の曲げ加工性を向上するという作用効果が期待されている。これにより、例えば、プレス皺や変形不良などの発生を効果的に防止して見映え良く成形することも可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、塑性加工の後、サイド付きソール部材の前記切欠き部の隙間を溶接により閉塞する工程が行われている。しかしながら、この溶接部分は、元々、材料が切り離されていた部分であるため、十分な強度が得られにくく、ひいては、損傷の起点になりやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、その主たる課題は、耐久性に優れたフェース部材を具えたゴルフクラブヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドを製造するための方法であって、前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを含む金属製の板状部材を準備する準備工程と、前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させるプレス工程とを含み、前記準備工程は、前記返し部予定部分に、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットを形成する工程を含み、前記プレス工程は、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とを、その厚さ方向で互いに重なるように変形させることを特徴とする。
【0008】
上記第1発明の一態様では、前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の少なくとも一方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことができる。
【0009】
上記第1発明の一態様では、前記準備工程は、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の双方を、前記返し部予定部分の他の部分に比べて小さい厚さで形成する工程を含むことができる。
【0010】
上記第1発明の一態様では、前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁までのびていても良い。
【0011】
上記第1発明の一態様では、前記スリットは、前記板状部材の前記外周縁の手前で終端していても良い。
【0012】
上記第1発明の一態様では、前記スリットの幅は、前記外周縁に向かって漸増しても良い。
【0013】
本願の第2発明は、金属製のフェース部材と、ヘッド本体とが接合されたゴルフクラブヘッドであって、前記フェース部材は、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状であり、前記返し部は、その少なくとも一部に、第1エッジ部と第2エッジ部とが、その厚さ方向で互いに重ねられた重なり部を含むことを特徴とする。
【0014】
上記第2発明の一態様では、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の少なくとも一方は、前記返し部の他の部分に比べて厚さが小さい薄肉部を有しても良い。
【0015】
上記第2発明の一態様では、前記第1エッジ部及び前記第2エッジ部の双方は、前記返し部の他の部分に比べて厚さが小さい薄肉部を有しても良い。
【発明の効果】
【0016】
本願の第1発明(製造方法の発明)によれば、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを含む略カップ状の金属製のフェース部材を用いたゴルフクラブヘッドが製造される。この製造方法は、準備工程と、プレス工程とを少なくとも含んでいる。
【0017】
上記準備工程では、前記返し部に加工される返し部予定部分と、前記フェース部に加工されるフェース部予定部分とを一体に含む金属製の板状部材が準備される。この際、前記返し部予定部分には、前記フェース部予定部分の周縁近傍から前記板状部材の外周縁に向かってのびる少なくとも1本のスリットが形成される。
【0018】
上記プレス工程では、前記板状部材を、前記略カップ状のフェース部材に塑性変形させる。この際、前記スリットで分断されていた前記返し部予定部分の第1エッジ部と第2エッジ部とは、その厚さ方向で互いに重なるように変形される。従って、本発明によれば、前記返し部において、前記スリットを境として、材料が途切れる部分を実質的に無くしたフェース部材を提供することができる。このような、フェース部材は、スリット近傍での損傷を抑制し、ひいては優れた耐久性を発揮することができる。
【0019】
本願の第2発明(物の発明)によれば、金属製のフェース部材と、ヘッド本体とが接合されたゴルフクラブヘッドが提供される。前記フェース部材は、ボールを打撃するためのフェース部と、前記フェース部の周縁で折れ曲がってヘッド後方にのびる返し部とを一体に含む略カップ状であり、前記返し部は、その少なくとも一部に、第1エッジ部と第2エッジ部とが、その厚さ方向で互いに重ねられた重なり部を含む。このようなゴルフクラブヘッドは、第1エッジ部と第2エッジ部との重なり部において、損傷が抑制され、ひいては優れた耐久性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の製造方法により製造されたゴルフクラブヘッドの一例を示す斜視図である。
【
図2】フェース部材の正面側からみた斜視図である。
【
図3】フェース部材の背面側からみた斜視図である。
【
図4】フェース部材を作るための板状部材の平面図である。
【
図6】(A)及び(B)は、プレス工程を説明するための概略断面図である。
【
図7】(A)〜(C)は、板状部材の背面側から見た斜視図であり、変形過程を例示する。
【
図8】(A)〜(C)は、板状部材の正面側から見た斜視図であり、変形過程を例示する。
【
図9】フェース部材の重なり部を拡大した斜視図である。
【
図10】第1エッジ部及び第2エッジ部の重なり部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のいくつかの実施形態が図面に基づき説明される。全ての実施形態を通して、同一乃至共通する部材については、同じ符号が付されている。
【0022】
図1には、本実施形態の製造方法により得られたゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1の斜視図が示されている。ヘッド1は、内部の中空部iを画定するように、例えば、フェース部2、クラウン部3、ソール部4、サイド部5を含んでいる。本実施形態のヘッド1は、例えば、金属材料を用いて形成されている。この金属材料として、例えば、ステンレス、マレージング鋼、チタン合金、マグネシウム合金又はアルミニウム合金等が採用され得る。ヘッド1の一部が、繊維強化樹脂を用いて構成されても良い。
【0023】
フェース部2は、ボールの打撃するための面であるフェース2aを有している。クラウン部3は、フェース部2に連なりヘッド上面を形成している。ソール部4は、フェース部2に連なりヘッド底面を形成している。サイド部5は、クラウン部3とソール部4との間をつないでいる。このサイド部5のトウ側及びヒール側は、それぞれフェース部2に接続されている。クラウン部3のヒール側には、ホーゼル部6が設けられている。ホーゼル部6は、シャフト(図示省略)が固定可能なように、シャフト差込孔6aを有した筒状である。
【0024】
本実施形態のヘッド1は、ウッド型のものが示されている。ウッド型のヘッドは、少なくともドライバー(#1)、ブラッシー(#2)、スプーン(#3)、バフィ(#4)及びクリーク(#5)を含んでいる。加えて、ウッド型のヘッドは、先に列挙されたものと番手又は名称が異なっていても、略類似した形状を持つヘッドを含む。本発明の他の実施形態では、ヘッド1は、例えば、ユーティリティー型やアイアン型として構成され得る。
【0025】
本実施形態のヘッド1は、金属製のフェース部材7と、金属製のヘッド本体8とを含んでおり、これらが固着されて構成されている。
【0026】
図2及び
図3には、フェース部材7の正面側及び背面側から見た斜視図がそれぞれ示されている。本実施形態のフェース部材7は、上記フェース部2と、フェース部2の周縁2eで折れ曲げられてヘッド後方にのびる返し部9とを一体に含んでおり、これにより、略カップ状に構成されている。即ち、フェース部2と返し部9とは、溶接等で連結されているのではなく、同一の金属製の板材を塑性変形させることによって提供されている。
【0027】
返し部9は、例えば、クラウン部3、ソール部4、サイド部5のトウ側、及び、サイド部5のヒール側の各前側部分をそれぞれ形成するクラウン返し部3a、ソール返し部4a、トウ側返し部5t及びヒール側返し部5hを含んでいる。この実施形態では、フェース部材7の返し部9は、ホーゼル部6を含まないように構成されており、その部分は、円弧状の切欠き部10として構成されている。
【0028】
図1に戻ると、ヘッド本体8は、フェース部材7よりもヘッド後側を構成する部分である。即ち、ヘッド本体8は、クラウン部3、ソール部4、サイド部5の各後側部分を形成している。これにより、ヘッド本体8は、ヘッド前側に開口を有した略カップ状に形成されている。このようなヘッド本体8は、例えば、鋳造による一体成形や、複数種類のパーツの溶接構造体として形成される。本実施形態では、ホーゼル部6は、ヘッド本体8に含まれているが、特にこの態様に限定されるものではない。
【0029】
略カップ状のフェース部材7とヘッド本体8とは、別々に製造された後、互いの開口を向き合わせ、それらの突き合わせ部Jが、例えば、溶接により固着される。これにより、ヘッド1の組立体が製造され得る。この組立体に対して、研磨、洗浄、さらには塗装といった処理を施すことにより、ヘッド1が製造され得る。
【0030】
本願の第1発明(ゴルフクラブヘッドの製造方法)では、フェース部材7を作る工程に特徴を有する。この工程は、金属製の板状部材を準備する準備工程と、板状部材を、略カップ状のフェース部材7に塑性変形させるプレス工程とを含んでいる。
【0031】
準備工程では、
図4に示されるように、フェース部材7を作るための板状部材20が準備(用意)される。板状部材20は、非カップ状であり、例えば、平板状で提供される。好ましい態様では、板状部材20は、例えば、一定厚さの圧延材料から、
図4に示す輪郭形状で切り出されて準備される。
図4は、板状部材20を背面(中空部i側)から見た平面図であり、図面の上部がクラウン部3側に、下部がソール部4側に、右側がトウ側に、左側がヒール側にそれぞれ対応している。
【0032】
板状部材20は、フェース部材7の返し部9へと加工されることになる返し部予定部分21と、フェース部2へと加工されることになるフェース部予定部分22とを予め一体に含んでいる。フェース部予定部分22の周縁が、符号23で示されている。本実施形態の板状部材20は、例えば、ほぼ横長の米粒状の輪郭形状(外周縁24)を具えている。板状部材20の具体的な輪郭形状は、歩留まり良く最終仕上がり形状のフェース部材7へ加工するために、例えば、最終仕上がり形状のフェース部2の輪郭形状、返し部9の折り返し長さ、及びそれらの湾曲度合い等を考慮して、適宜定められる。
【0033】
板状部材20は、返し部予定部分21に、フェース部予定部分22の周縁23の近傍から板状部材20の外周縁24に向かってのびる少なくとも1本のスリット25を具えている。このスリット25は、上述の材料切り出し時に同時に加工されても良いし、スリット無しの板状部材20が切り出された後、各種の機械加工(NC加工又はプレスによる打ち抜き加工)で形成されても良い。また、スリット25は、後のプレス工程の加工性を向上させるために提供される。即ち、プレス工程では、平板状の板状部材20が立体的な略カップ状に塑性変形されるので、スリット25は、塑性変形した返し部予定部分21の逃げ場(空間)を提供し、プレス加工時の材料の変形皺や割れなどの成形不良の発生を抑制するのに役立つ。
【0034】
図5には、
図4のA−A線断面図が示されている。
図4及び
図5に示されるように、返し部予定部分21は、スリット25を介して分断された第1エッジ部31と、第2エッジ部32とを含んでいる。本発明の必須の要素ではないが、好ましい態様として、第1エッジ部31及び第2エッジ部32の少なくとも一方(この例では双方)は、返し部予定部分21の他の部分の厚さtに比べて、より小さい厚さの薄肉部31a及び32aで形成されている。本実施形態では、第1エッジ部31及び第2エッジ部32の薄肉部31a、32aは、いずれも、端部に向かって厚さが漸減するテーパ状とされている。これらのメリットについては後で述べる。
【0035】
スリット25の本数や位置については、特に限定されないが、後のプレス加工において、材料の変形度合いが最も大きな位置に、少なくとも1本のスリット25が設けられるのが望ましい。これにより、プレス加工性が向上する。例えば、
図1に示されるような典型的なウッド型のヘッド1の場合、クラウン部3、サイド部5のトウ側の部分及びフェース部2の3つの面が交差する部分、中でも、返し部9のトウ側コーナ部30は、平板からの変形量が非常に大きい領域の一つである。
【0036】
図4に示したスリット25は、上記トウ側コーナ部30の領域でのプレス加工性を向上するのに有効である。例えば、スリット25は、フェース部予定部分22の周縁23の最もトウ側の位置Pの近傍の位置(例えば、フェース部予定部分22を除いて、位置Pを中心とする半径2mm以内の領域)から、周縁23に対してほぼ直交する向きで外周縁24までのびている。このようなスリット25は、プレス加工時、トウ側コーナ部30での材料の変形の逃げ場を確実に提供し、その加工性を大幅に向上させ得る。
【0037】
また、平面的な板状部材20から立体的な略カップ状への変形過程において、返し部予定部分21は、一般に、その外周縁24側ほど、周長の変化が大きい。従って、
図4に示されるように、スリット25の幅Wは、板状部材20の外周縁24に向かって漸増する扇状であるのが望ましい。このようなスリット25は、返し部予定部分21の外周縁24側での大きな周長変化を効果的に吸収しうる。但し、スリット25は、例えば、一定の幅で形成されても良く、フェース部材7の形状等に応じて、種々の態様に変形して実施され得る。
【0038】
プレス工程では、準備工程で得られた板状部材20を、例えば、金型を用いて塑性変形させる。プレス工程では、例えば、
図6(A)に示されるように、板状部材20がキャビティCを有する下金型40の上に位置決めして載置される。次に、板状部材20の上に、強い力で上金型42が押し込まれる。これにより、
図6(B)に示されるように、平板状であった板状部材20が下金型40と上金型42とで挟まれ、キャビティCに沿った所望の略カップ状へと塑性変形される。
【0039】
図7(A)〜(C)は、プレス工程での板状部材20の背面側から見た変形過程を示し、
図8(A)〜(C)は、プレス工程での板状部材20の正面側から見た変形過程を示している。好ましい態様では、
図7及び
図8に示されるように、板状部材20に少しずつ変形を与えるように、複数回に分けて上金型42による打撃が行われる。この際、例えば、キャビティCの形状が異なる複数種類の下金型40が用いられて段階的な変形が行われる。
【0040】
また、プレス時の加工性を高めるために、慣例に従い、板状部材20、下金型40又は上金型42は、予め所望の温度まで加熱されることが望ましい。上記のような加工により、板状部材20の返し部予定部分21は、フェース部予定部分22の周縁23で折り曲げられる。また、第1エッジ部31と第2エッジ部32とは、スリット25の幅を狭めて互いに接近するように塑性変形する。これにより、略カップ状のフェース部材7へ成形される。
【0041】
図9には、プレス工程を終えた
図7のフェース部材7の返し部9のA部の拡大図が示されている。
図9では、第1エッジ部31及び第2エッジ部32をより理解しやすいように、
図7から少し視点の向きを変えた状態が示されている。
図10には、そのA−A線端面図が示されている。
図9及び
図10から明らかなように、本実施形態のプレス工程は、第1エッジ部31及び第2エッジ部32が板状部材20の厚さ方tの向において互いに重なる重なり部35が形成されるように、板状部材20を変形させる。
【0042】
重なり部35は、例えば、板状部材20の外周縁24の周長L1(スリット25の部分を除く)を、それよりも小さいフェース部材7の返し部9の端部の周長L2(<L1)へと変形させることで、成形することができる。スリット25の位置では、プレス加工時、材料が比較的大きく動きやすくなるので、この部分で第1エッジ部31と第2エッジ部32とを容易に重ねることができる。
【0043】
特に、
図5に示したように、第1エッジ部31及び第2エッジ部32の少なくとも一方を薄肉部31a又は32aで形成した場合、塑性変形の途中で、第1エッジ部31及び第2エッジ部32が突き合わされた場合でも、すぐに厚さ方向での位置ずれを生じさせ、ひいては、互いに厚さtの方向で重ねるような変形を促進させることができる。このような作用は、第1エッジ部31又は第2エッジ部32がテーパ状に形成された場合に、より一層高められる。
【0044】
加えて、第1エッジ部31及び第2エッジ部32の少なくとも一方を、薄肉部31a又は32aで形成した場合、重なり部35の厚さが、他の部分に比べて局部的に大きくなるのを防止できる。返し部9の剛性が局部的に大きくなると、ヘッド1の反発性が低下するおそれがあるが、本実施形態では、このような不具合を防止するのに役立つ。特に好ましい態様では、重なり部35の厚さが、板状部材20の厚さtと実質的に同一とされるのが望ましい。
【0045】
第1エッジ部31又は第2エッジ部32の薄肉部31a、32aの加工は、例えば、板状部材20を金属板から切り出す際に同時になされることが望ましい。これは、例えば、板状部材20を金属板から打ち抜く際の打ち抜き型にテーパ面などを加工しておくことにより、容易に実現される。
【0046】
図5の実施形態では、第1エッジ部31及び第2エッジ部32のそれぞれの薄肉部31a、32aは、一方の面を平坦とし、かつ、他方の面のみが斜面とされている。そして、斜面同士が互いに接するように重ねられている。これにより、重なり部35の厚さの変化をより一層抑えることができる。他の実施形態として、薄肉部31a、31bは、両側の面が、斜面で形成されても良いのは言うまでもない。
【0047】
プレス工程の後、例えば、溶接工程が行われる。溶接工程では、
図11に示されるように、返し部9において、重なり部35を維持したまま、第1エッジ部31と第2エッジ部32とが溶接によって確実に固着される。また、溶接工程後、余分に盛られた溶融金属36は、例えば、研磨によって除去され、返し部9の表面が滑らかに成形される。
【0048】
以上説明したように、重なり部35は、フェース部材7の返し部9において、スリット25を境とした板状部材20の金属材料の途切れ部分を実質的に無くすことができる。本実施形態の製造方法で得られたフェース部材7は、
図1に示した返し部9のトウ側コーナ部30において、クラウン部3側からサイド部5側にかけて、溶接によって付加された溶融金属ではなく、材料自体を実質的に連続させることができる。従って、このようなフェース部材7は、スリット25近傍での損傷が効果的に抑制され、ひいては優れた耐久性を発揮することができる。
【0049】
上記作用をより高めるために、
図10に示されるように、第1エッジ部31と第2エッジ部32との重なり幅35の幅W1(最大値)は、好ましくは2.0〜7.0mm程度であるのが望ましい。また、本実施形態のように、重なり部35は、返し部9の全範囲で形成されているのが望ましい。一つの実施形態として、重なり部35の幅Wが、フェース部2側からヘッド本体8側に向かって漸増する態様が挙げられる。但し、本発明の実施形態としては、が、重なり部35の幅Wが、ヘッド本体8側からフェース部2側に向かって漸増する態様でも良い。この場合、応力が集中しやすくかつよく撓む前記P点付近での耐久性が向上する。
【0050】
図12には、板状部材20の他の実施形態が示されている。この実施形態では、スリット25は、板状部材20の外周縁24の手前で終端している。このような実施形態においても、スリット25は、プレス加工時において、第1エッジ部31及び第2エッジ部32の変形の逃げ場を提供するとともに、第1エッジ部31及び第2エッジ部32をその厚さ方向で互いに重ねることができる。なお、この実施形態では、スリット25の外周縁24側に、継部分26が存在している。この継部分26はプレス加工時に、バリ状に変形し、その後、切除され得る。
【0051】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変更して実施され得るのは言うまでもない。
【実施例】
【0052】
本発明の効果を確認するために、
図1〜10で説明された製造方法に従って製造されたウッド型ゴルフクラブヘッドの20サンプル(実施例)について、耐久試験が行われた。また、比較のために、板状部材のスリットの幅を実施例のそれよりも大きく加工し、プレス加工時に、第1エッジ部と第2エッジ部とを互いに重ねることなく単に突き合わせたもの(その他の工程は、実施例と同じ)20サンプル(比較例)についても同様の耐久試験が行われた。テスト内容等は、次の通りである。
【0053】
<ゴルフクラブヘッドの仕様>
ヘッド体積:180cc
フェース部材の材料:HT1770M(日新製鋼製)
返し部のヘッド後方への長さ:10mm
返し部の厚さ:1.2mm
重なり部の重なり幅W1:3.0mm
【0054】
<耐久試験の内容>
各ゴルフクラブヘッドにクラブシャフトを装着してゴルフクラブが試作された。次に、スイングロボットを用いて、下記の条件で連続打撃テストが行われた。そして、フェース部及び返し部に損傷が生じるまでの打球数が測定された。
ヘッドスピード:49m/s
クラブ全長:43インチ
【0055】
<テスト結果>
テストの結果、比較例の20サンプルの平均打球数を100とした場合、実施例の20サンプルの平均打球数は130であった。
【符号の説明】
【0056】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェース部
2a フェース
7 フェース部材
9 返し部
20 板状部材
21 返し部予定部分
22 フェース部予定部分
23 フェース部予定部分の周縁
24 板状部材の外周縁
25 スリット
31 第1エッジ部
32 第2エッジ部
35 重なり部