特許第6870976号(P6870976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6870976
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】X線高電圧装置およびX線診断装置
(51)【国際特許分類】
   H05G 1/66 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   H05G1/66 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-240584(P2016-240584)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-98013(P2018-98013A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】征矢 正治
(72)【発明者】
【氏名】望月 明
(72)【発明者】
【氏名】小島 勝則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−037998(JP,A)
【文献】 特開平04−245197(JP,A)
【文献】 特開2001−319799(JP,A)
【文献】 特開2002−093596(JP,A)
【文献】 特開2013−182764(JP,A)
【文献】 米国特許第05090041(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00 − 2/00
H01J 35/00 −35/32
A61B 6/00 − 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサバンクを有し、交流電源から給電され、前記コンデンサバンクに蓄電しつつ、X線源の回転陽極と前記X線源の陰極との間に高電圧を印加する高電圧回路と、
前記交流電源から給電され、前記回転陽極を回転駆動するステータコイルに対して交流電流を供給することにより前記回転陽極の回転を制御するスタータと、
前記スタータへの給電が停止されると、前記コンデンサバンクから前記ステータコイルに、前記スタータを介さずに、直流電流を供給させることにより前記回転陽極を制動する制動部と、
を備えたX線高電圧装置。
【請求項2】
前記ステータコイルは、
メインコイルの一端に接続されたメイン導線と、サブコイルの一端に接続されたサブ導線と、前記メインコイルの他端および前記サブコイルの他端に接続されたコモン導線の3本の導線を有し、
前記スタータは、
前記ステータコイルの前記3本の導線に交流電流を供給することにより前記回転陽極の回転を制御し、
前記制動部は、
前記スタータへの給電が停止されると、前記コンデンサバンクの陽極を前記サブ導線および前記コモン導線の一方に接続し、前記コンデンサバンクの陰極を他方に接続することにより、前記コンデンサバンクから前記ステータコイルに、前記スタータを介さずに、直流電流を供給させて前記回転陽極を制動する、
請求項1記載のX線高電圧装置。
【請求項3】
前記スタータを制御することにより前記回転陽極の回転数を制御する回転数制御部、
をさらに備え、
前記回転陽極は、
前記回転数制御部により前記スタータを介して回転数を制御され、共振回転周波数よりも高い回転数で前記回転陽極が回転する第1回転モードと、前記共振回転周波数よりも低い回転数で前記回転陽極が回転する第2回転モードと、の少なくとも2つの動作モードのいずれかで回転する、
請求項1または2に記載のX線高電圧装置。
【請求項4】
前記制動部は、
前記回転数制御部が前記回転陽極を前記第1回転モードで回転させており、かつ、前記スタータへの給電が停止されると、前記コンデンサバンクから前記ステータコイルに、前記スタータを介さずに、直流電流を供給させることにより前記回転陽極を制動する、
請求項3記載のX線高電圧装置。
【請求項5】
前記コンデンサバンクの蓄積電力を放電するための放電回路と、
前記回転数制御部が前記回転陽極を前記第2回転モードで回転させており、かつ、前記スタータへの給電が停止された場合は、前記コンデンサバンクと前記放電回路とを接続して前記コンデンサバンクの蓄積電力を放電する一方、それ以外の場合は前記コンデンサバンクと前記放電回路との接続を開放しておく放電制御部と、
をさらに備えた請求項4記載のX線高電圧装置。
【請求項6】
前記交流電源から前記スタータへの給電の停止を検出し前記制動部に通知する電源断検出部、
をさらに備えた請求項1ないし5のいずれか1項に記載のX線高電圧装置。
【請求項7】
陰極と、ステータコイルにより回転駆動される回転陽極と、を有するX線源と、
コンデンサバンクを有し、交流電源から給電され、前記コンデンサバンクに蓄電しつつ前記陰極と前記回転陽極との間に高電圧を印加する高電圧回路と、
前記交流電源から給電され、前記ステータコイルに交流電流を供給することにより前記回転陽極の回転を制御するスタータと、
前記スタータへの給電が停止されると、前記コンデンサバンクから前記ステータコイルに、前記スタータを介さずに、直流電流を供給させることにより前記回転陽極を制動する制動部と、
を備えたX線診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線高電圧装置およびX線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置には、X線発生源として回転陽極を含むX線管を用いたものがある。回転陽極は、たとえば停止モード、低速モード(たとえば60Hz(回転/秒)など)、高速モード(たとえば180Hzなど)の3つのモードのいずれかで動作するよう、スタータによって回転を制御される。
【0003】
回転陽極を含むX線管には、固有の共振回転周波数(共振点、たとえば100Hz前後など)がある。共振点では、部材の機械的な振動が大きくなってしまう。このため、共振点付近で長時間回転を行うと、たとえば回転軸の軸受けベアリングが損傷してしまうことがある。したがって、高速モードから停止させる場合など、共振点の通過をともなう回転制御を行う場合には、スタータは、共振点をできるだけ速やかに通過させるように陽極の回転を制御することが好ましい。
【0004】
しかし、陽極が回転している状態でスタータに対する給電が停止してしまうと、スタータは陽極の回転を制御することができず、陽極は惰性回転を続けることになる。このため、共振点よりも高い回転数で回転している状態でスタータに対する給電が停止した場合、陽極の回転数は共振点をゆっくりと通過することになり、軸受けベアリングの損傷や騒音の問題が発生してしまう。
【0005】
この種のスタータへの給電停止時に陽極を速やかに停止させるための技術として、たとえば、スタータをインバータで構成し、スタータへの給電停止時には、蓄電部材の残留電荷を用いてスタータのインバータを駆動して共振点よりも低い目標回転数に対応する周波数の交流電流をスタータからステータコイルに流すことで、陽極を制動する技術が開発されている。
【0006】
しかし、この種の技術では、スタータへの給電停止時にも、スタータのインバータに入力する駆動信号のパルス幅を制御することが必要であり、非常に煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−37998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、簡易な構成でスタータへの給電停止時にX線管陽極の回転を速やかに減速させることができるX線高電圧装置およびX線診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係るX線高電圧装置は、上述した課題を解決するために、コンデンサバンクを有し、交流電源から給電され、前記コンデンサバンクに蓄電しつつ、X線源の回転陽極と前記X線源の陰極との間に高電圧を印加する高電圧回路と、前記交流電源から給電され、前記回転陽極を回転駆動するステータコイルに対して交流電流を供給することにより前記回転陽極の回転を制御するスタータと、前記スタータへの給電が停止されると、前記コンデンサバンクから前記ステータコイルに直流電流を供給させることにより前記回転陽極を制動する制動部と、を備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るX線高電圧装置を含むX線診断装置の一例を示すブロック図。
図2】第1実施形態に係るX線高電圧装置の構成例を概略的に示すブロック図。
図3】第1実施形態に係る処理回路により実現される機能の一例を示すブロック図。
図4図1に示すX線高電圧装置により、簡易な構成でスタータへの給電停止時に回転陽極の回転を速やかに減速させる際の手順の一例を示すフローチャート。
図5】第2実施形態に係るX線高電圧装置の構成例を概略的に示すブロック図。
図6】第2実施形態に係る処理回路により実現される機能の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るX線高電圧装置およびX線診断装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態に係るX線診断装置は、透視や撮影が可能なものであってX線源が回転陽極を含むものであればよく、たとえばX線TV装置などを含む。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るX線高電圧装置1を含むX線診断装置10の一例を示すブロック図である。
【0013】
X線診断装置10は、図1に示すように、撮像装置11と画像処理装置12とを有する。X線診断装置10の撮像装置11は、通常は検査室に設置され、被検体Oに関する画像データを生成するよう構成される。画像処理装置12は、検査室に隣接する操作室に設置され、画像データにもとづくX線画像を生成して表示を行なうよう構成される。なお、画像処理装置12は、撮像装置11が設置される検査室に設置されてもよい。
【0014】
撮像装置11は、X線高電圧装置1、X線検出器13、回転陽極52を含むX線源14、Cアーム15、寝台16、天板17およびコントローラ18を有する。
【0015】
なお、以下の説明ではX線検出器13およびX線源14がCアーム15に支持される場合の例について示すが、Cアーム15は必須の構成ではなく、X線検出器13とX線源14とが被検体Oを挟んで対向配置されればよい。たとえば、Cアーム15にかえて、X線検出器13およびX線源14がそれぞれ独立な支持部材に支持されてもよい。
【0016】
X線検出器13は、寝台16の天板17に支持された被検体Oを挟んでX線源14と対向配置されるようCアーム15の一端に設けられる。X線検出器13は、たとえば平面検出器(FPD:flat panel detector)により構成され、X線検出器13に照射されたX線を検出し、この検出したX線にもとづいてX線透視画像やX線撮影画像の画像データを出力する。この画像データはコントローラ18を介して画像処理装置12に与えられる。なお、X線検出器13は、イメージインテンシファイア、TVカメラなどを用いて構成されてもよい。
【0017】
X線源14は、Cアーム15の他端に設けられ、X線絞りを有する。X線絞りは、たとえば複数枚の鉛羽で構成されるX線照射野絞りである。X線絞りは、コントローラ18により制御されて、X線の照射範囲を調整する。
【0018】
Cアーム15は、X線検出器13とX線源14とを一体として保持する。Cアーム15がコントローラ18に制御されて駆動されることにより、X線検出器13およびX線源14は一体として被検体Oの周りを移動する。
【0019】
X線診断装置10の撮像装置11は、X線検出器13、X線源14およびCアーム15により構成されるX線照射系を2系統有するバイプレーン式であってもよい。バイプレーン式の撮像装置11を有する場合、X線診断装置10は、床置き式Cアームと、天井走行式Ωアームの2方向からX線ビームを個別に照射させて、バイプレーン画像(Frontal側画像およびLateral側画像)を取得することができる。なお、天井走行式Ωアームにかえて、天井走行式のCアームタイプのものを使用してもよい。
【0020】
寝台16は、床面に設置され、天板17を支持する。寝台16は、コントローラ18により制御されて、天板17を水平方向、上下方向に移動させたり回転(ローリング)させたりする。
【0021】
コントローラ18は、プロセッサおよび記憶回路を少なくとも有する。コントローラ18は、この記憶回路に記憶されたプログラムに従って画像処理装置12により制御されて、X線照射系を制御することにより被検体OのX線透視撮像などを実行して画像データを生成し、画像処理装置12に与える。
【0022】
なお、図1にはコントローラ18と画像処理装置12とが有線接続される場合の例について示したが、コントローラ18と画像処理装置12とはネットワークを介してデータ送受信可能に接続されてもよい。
【0023】
一方、画像処理装置12は、図1に示すように、ディスプレイ21、入力回路22、記憶回路23および制御回路24を有する。
【0024】
ディスプレイ21は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどの一般的な表示出力装置により構成され、制御回路24の制御に従って、制御回路24により生成されたX線画像などを表示する。
【0025】
入力回路22は、たとえばトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、テンキーなどの一般的な入力装置により構成され、ユーザの操作に対応した操作入力信号を制御回路24に出力する。
【0026】
記憶回路23は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有する。これら記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は電子ネットワークを介した通信によりダウンロードされるように構成してもよい。記憶回路23は、制御回路24に制御されて、たとえば撮像装置11から出力される画像データを記憶する。
【0027】
制御回路24は、記憶回路23に記憶されたプログラムを読み出して各種処理を実行するプロセッサである。たとえば、制御回路24は、ユーザによる入力回路22を介した指示に従って、コントローラ18を介してX線高電圧装置1を含む撮像装置11を制御し、X線透視やX線撮影を実行する。また、制御回路24は、撮像装置11から受けた画像データにもとづいてX線透視画像やX線撮影画像などのX線画像を生成してディスプレイ21に表示する。
【0028】
図2は、第1実施形態に係るX線高電圧装置1の構成例を概略的に示すブロック図である。
【0029】
X線高電圧装置1は、交流電源30から電力供給を受ける高電圧回路31およびスタータ32、処理回路33、ならびに切替回路34を有する。なお、X線高電圧装置1はX線源14を含んでもよい。
【0030】
高電圧回路31は、電源オンオフ制御回路41、整流回路42、コンデンサバンク43、高電圧用インバータ44および高電圧用トランス45を有する。また、本実施形態に係る高電圧回路31はさらに、コンデンサバンク43の蓄積電力を放電するための放電回路46を有する。
【0031】
電源オンオフ制御回路41は、たとえばコンダクタやリレー回路を含み、処理回路33により制御されて、交流電源30からX線高電圧装置1への給電のオンオフ制御を行う。
【0032】
交流電源30から高電圧回路31へ供給される電力は、電源オンオフ制御回路41を介し整流回路42に与えられ、整流回路42で整流され、コンデンサバンク43に蓄電されつつ平滑化されて直流電力に変換される。この直流電力は高電圧用インバータ44でスイッチングされ、高電圧用トランス45で高電圧化されて、X線源14に印加される。
【0033】
放電回路46は、たとえばスイッチと抵抗器とにより構成される。放電回路46のスイッチは、処理回路33により制御される。本実施形態においては、交流電源30からX線高電圧装置1またはスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が低速モードで回転している場合には、処理回路33が放電回路46のスイッチを短絡してコンデンサバンク43と抵抗器とを接続することにより、コンデンサバンク43の蓄積電力が抵抗器によって消費されて放電される。一方、それ以外の場合には、処理回路33は放電回路46のスイッチを開放しておく。
【0034】
X線源14は、図2に示すように、陰極としてのフィラメント51、回転陽極52、ロータ53およびステータコイル54を有する。回転陽極52は、陰極としてのフィラメント51からの熱電子の衝突によりX線を発生する。高電圧回路31は、フィラメント51と回転陽極52との間に高電圧を印加する。ロータ53は、回転陽極52に接続され回転陽極52と一体的に回転する。
【0035】
ステータコイル54は、回転磁場を発生させてロータ53を介して回転陽極52を回転駆動する。たとえば、ステータコイル54は図2に示すように、メインコイルの一端に接続されたメイン導線Mと、サブコイルの一端に接続されたサブ導線Sと、メインコイルの他端およびサブコイルの他端に接続されたコモン導線Cの3本の導線を有する。
【0036】
回転陽極52は、処理回路33によりスタータ32を介して回転数を制御され、共振回転周波数よりも高い回転数で回転陽極52が回転する高速モードと、共振回転周波数よりも低い回転数で回転陽極52が回転する低速モードと、停止モードと、の少なくとも3つの動作モードのいずれかで動作する。
【0037】
スタータ32は、交流電源30から給電され、処理回路33に制御されて、処理回路33に動作モードに応じた周波数の交流電流をステータコイル54に供給することにより、回転陽極52の回転を制御する。スタータ32は、高速モードおよび低速モードのそれぞれに応じた交流電流を出力可能であればよく、インバータを用いて構成されてもよいし、チョッパを用いて構成されてもよい。
【0038】
処理回路33は、プロセッサおよび記憶回路を少なくとも有する。処理回路33のプロセッサは、記憶回路に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、簡易な構成でスタータ32への給電停止時に回転陽極52の回転を速やかに減速させるための処理を実行する。
【0039】
切替回路34は、第1の切替回路56と第2の切替回路57を有する。第1の切替回路56は、電源オンオフ制御回路41を介して交流電源30とスタータ32とを接続するための開閉器を含む。第2の切替回路57は、コンデンサバンク43の陽極をサブ導線Sおよびコモン導線Cの一方に接続し、コンデンサバンク43の陰極をサブ導線Sおよびコモン導線Cの他方に接続するための開閉器を含む。
【0040】
ここで、本実施形態に係る処理回路33による回転陽極52の制動方法について説明する。
【0041】
交流電源30からスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が高速モードで回転している場合には、回転陽極52の回転が共振点を速やかに通過するよう、回転陽極52を制動することが好ましい。この制動方法として、たとえばスタータ32をインバータで構成し、インバータへの給電停止時には、コンデンサバンクの残留電力を用いてインバータを駆動し、共振点よりも低い目標回転数に対応する周波数の交流電流をインバータからステータコイルに流すことで、陽極を制動する方法が知られている。
【0042】
しかし、この方法では、交流電源からスタータへの給電停止時にも、スタータのインバータに入力する駆動信号のパルス幅を制御することが必要であり、非常に煩雑である。
【0043】
そこで、本実施形態に係る処理回路33は、交流電源30からスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が高速モードで回転している場合には、コンデンサバンク43からステータコイル54に直流電流を供給させることにより、回転陽極52を制動する。すなわち、本実施形態において、回転陽極52の制動にはインバータは不要である。
【0044】
図3は、第1実施形態に係る処理回路33により実現される機能の一例を示すブロック図である。
【0045】
処理回路33は、図3に示すように、少なくとも電源断検出機能61、回転数制御機能62、制動機能63および放電制御機能64を有する。
【0046】
電源断検出機能61は、ユーザによる電源オンオフ制御回路41を介した電源オフや図示しない電源スイッチを介した電源オフの指示、または停電などによる交流電源30の電源供給停止などによる、交流電源30からスタータ32への給電の停止を検出し、制動機能63に通知する。電源断検出機能61は、たとえば、電源オンオフ制御回路41のリレー回路の動作からスタータ32への給電の停止を検出してもよいし、電源オンオフ制御回路41から第1の切替回路56までの経路上でスタータ32への給電の停止を検出してもよい。
【0047】
回転数制御機能62は、スタータ32を制御することにより、回転陽極52の回転数を制御する。回転数制御機能62は、たとえばユーザにより入力回路22を介して高速モードが指定されると、回転陽極52を高速モードで回転させるようにスタータ32の出力を制御する。
【0048】
また、回転数制御機能62は、回転陽極52の現在の回転数の情報を制動機能63に与える。この回転数の情報は、回転数制御機能62から制動機能63に常時リアルタイムに与えられてもよいし、制動機能63に要求されるごとに与えられてもよい。
【0049】
制動機能63は、交流電源30からスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が高速モードで回転している場合には、第1の切替回路56を開放するとともに第2の切替回路57を短絡することにより、コンデンサバンク43からステータコイル54に直流電流を供給させて回転陽極52を制動する。一方、それ以外の場合には、第1の切替回路56を短絡するとともに第2の切替回路57を開放する。
【0050】
なお、X線源14が回転陽極52を含むX線管を複数備えてもよく、この場合、制動機能63は、回転動作中の回転陽極52を制動する。
【0051】
放電制御機能64は、交流電源30からX線高電圧装置1またはスタータ32への給電が停止した場合であって、回転陽極52が低速モードで回転している場合には、処理回路33が放電回路46のスイッチを短絡してコンデンサバンク43と抵抗器とを接続することにより、コンデンサバンク43の蓄積電力を抵抗器によって消費して放電させる。一方、それ以外の場合には、放電制御機能64は放電回路46のスイッチを開放しておく。たとえば、交流電源30からスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が高速モードで回転している場合には、放電制御機能64は放電回路46のスイッチを開放しておく。
【0052】
次に、本実施形態に係るX線高電圧装置1およびX線診断装置10の動作の一例について説明する。
【0053】
図4は、図1に示すX線高電圧装置1により、簡易な構成でスタータ32への給電停止時に回転陽極52の回転を速やかに減速させる際の手順の一例を示すフローチャートである。図4において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0054】
この手順は、回転数制御機能62によって回転陽極52が高速モードまたは低速モードのいずれかで回転動作し、X線源14からX線が発生しており、コンデンサバンク43に電力が蓄電された状態でスタートとなる。また、スタート時点において、第1の切替回路56は短絡され、第2の切替回路57は開放され、放電回路46のスイッチは開放されているものとする。
【0055】
まず、ステップS1において、処理回路33の電源断検出機能61は、交流電源30からスタータ32への給電の停止を検出したか否かを判定する。交流電源30からスタータ32への給電の停止を検出した場合は、ステップS2に進む。一方、スタータ32への給電が継続している場合は、電源断検出機能61はスタータ32への給電の停止を監視し続ける。
【0056】
次に、ステップS2において、制動機能63は、回転数制御機能62からの情報にもとづいて回転陽極52の現在の動作モードの情報を取得し、高速モードであるか否かを判定する。
【0057】
高速モードの場合は(ステップS2のYES)、制動機能63は、コンデンサバンク43からステータコイル54に直流電流を供給させて回転陽極52を制動する(ステップS3)。具体的には、制動機能63は、第1の切替回路56を開放するとともに第2の切替回路57を短絡する。
【0058】
他方、高速モードではなく低速モードである場合は(ステップS2のNO)、放電制御機能64は、コンデンサバンク43の蓄積電力を放電回路46により放電する(ステップS4)。具体的には、放電制御機能64は、放電回路46のスイッチを短絡してコンデンサバンク43と抵抗器とを接続することにより、コンデンサバンク43の蓄積電力を抵抗器によって消費して放電させる。このとき、第1の切替回路56は短絡のまま、第2の切替回路57は開放されたままとする。
【0059】
以上の手順により、簡易な構成でスタータ32への給電停止時に回転陽極52の回転を速やかに減速させることができる。
【0060】
本実施形態に係るX線高電圧装置1は、交流電源30からスタータ32への給電が停止した場合であって回転陽極52が高速モードで回転している場合には、コンデンサバンク43の残留エネルギーを用いてステータコイル54に直流電流を流すことによって回転陽極52を制動する。このため、回転陽極52が高速モードで回転しているときに停電やご操作などによる電源遮断が起きた場合であっても、非常に簡易な構成で速やかに回転陽極52を減速させることができるため、共振点を速やかに通過させることができる。
【0061】
また、コンデンサバンク43の残留エネルギーは、一般には電源遮断時には危険防止のために放電させる以外の用途がなかったところ、本実施形態に係るX線高電圧装置1は、この残留エネルギーを回転陽極52の制動に有効活用することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
次に、本発明に係るX線高電圧装置およびX線診断装置の第2実施形態について説明する。
【0063】
図5は、第2実施形態に係るX線高電圧装置1Aの構成例を概略的に示すブロック図である。また、図6は、第2実施形態に係る処理回路33Aにより実現される機能の一例を示すブロック図である。
【0064】
この第2実施形態に示すX線高電圧装置1Aは、放電回路46を備えず、また処理回路33Aは放電制御機能64を備えない点で第1実施形態に示すX線高電圧装置1と異なる。他の構成および作用については図1に示すX線高電圧装置1と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
処理回路33Aの制動機能63Aは、電源断検出機能61が交流電源30からスタータ32への給電の停止を検出した場合には、回転陽極52の動作モードによらず、第1の切替回路56を開放するとともに第2の切替回路57を短絡することにより、コンデンサバンク43からステータコイル54に直流電流を供給する。すなわち、本実施形態では、図4に示したフローチャートのうちステップS2およびステップS4が省略され、ステップS1における電源断の検出判定の後、直ちにステップS3を実行して一連の手順が終了となる。
【0066】
本実施形態に係るX線高電圧装置1AおよびX線高電圧装置1Aを備えたX線診断装置によっても、回転陽極52が高速モードで回転しているときに停電やご操作などによる電源遮断が起きた場合であっても、非常に簡易な構成で速やかに回転陽極52を減速させることができるため、共振点を速やかに通過させることができる。また、コンデンサバンク43の残留エネルギーを回転陽極52の制動に有効活用することができる。
【0067】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、簡易な構成でスタータ32への給電停止時に回転陽極52の回転を速やかに減速させることができる。
【0068】
なお、本実施形態における処理回路33の電源断検出機能61、回転数制御機能62、制動機能63および63Aならびに放電制御機能64は、それぞれ特許請求の範囲における電源断検出部、回転数制御部、制動部および放電制御部の一例である。
【0069】
なお、上記実施形態において、「プロセッサ」という文言は、たとえば、専用または汎用のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(たとえば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびFPGA)等の回路を意味するものとする。プロセッサは、記憶媒体に保存されたプログラムを読み出して実行することにより、各種機能を実現する。
【0070】
また、上記実施形態では処理回路の単一のプロセッサが各機能を実現する場合の例について示したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサが各機能を実現してもよい。また、プロセッサが複数設けられる場合、プログラムを記憶する記憶媒体は、プロセッサごとに個別に設けられてもよいし、1つの記憶媒体が全てのプロセッサの機能に対応するプログラムを一括して記憶してもよい。
【0071】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1、1A…X線高電圧装置
10…X線診断装置
14…X線源
30…交流電源
31…高電圧回路
32…スタータ
33、33A…処理回路
43…コンデンサバンク
46…放電回路
52…回転陽極
54…ステータコイル
61…電源断検出機能
62…回転数制御機能
63…制動機能
63A…制動機能
64…放電制御機能
C…コモン導線
M…メイン導線
S…サブ導線
図1
図2
図3
図4
図5
図6