特許第6871000号(P6871000)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871000航空機用の脚展開装置及び航空機の脚展開方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871000
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】航空機用の脚展開装置及び航空機の脚展開方法
(51)【国際特許分類】
   B64C 25/12 20060101AFI20210426BHJP
   B64C 25/24 20060101ALI20210426BHJP
   B64C 25/26 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B64C25/12
   B64C25/24
   B64C25/26
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-15390(P2017-15390)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-122674(P2018-122674A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】人見 敦
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05875994(US,A)
【文献】 特表2012−510405(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0105624(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の脚と連結され、前記脚の展開及び収納並びに前記脚の緩衝を行う伸縮機構と、
前記伸縮機構を伸縮させるモータと、
前記脚の展開及び収納時には前記モータの回転位置フィードバック制御を行うことによって前記伸縮機構を伸縮させる一方、前記脚の緩衝時には、前記モータの回転位置フィードバック制御を行うことによって前記脚の復元力を、前記モータの回転速度フィードバック制御を行うことによって前記脚の減衰力を、それぞれ発生させる制御回路と、
を有する航空機用の脚展開装置。
【請求項2】
前記制御回路は、一方の脚に設けられた車輪のみが接地した場合には、前記回転速度フィードバック制御をオフにする請求項記載の航空機用の脚展開装置。
【請求項3】
前記制御回路は、一方の脚に設けられた車輪のみが接地した場合には、前記回転位置フィードバック制御をオフにする請求項又は記載の航空機用の脚展開装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記脚の展開中には、前記回転速度フィードバック制御をオフにする請求項乃至のいずれか1項に記載の航空機用の脚展開装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の航空機用の脚展開装置を用いて前記脚の展開及び収納並びに前記脚の緩衝を行う航空機の脚展開方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、航空機用の脚展開装置及び航空機の脚展開方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の降着装置は、脚展開用のアクチュエータと、脚緩衝装置とからなる(例えば特許文献1参照)。脚緩衝装置は、機体が着陸する際に受ける衝撃荷重や地上滑走時の振動荷重を吸収する装置である。脚緩衝装置としては、オレオ式緩衝装置が代表的である。オレオ式緩衝装置は、空気圧と油圧を利用した緩衝装置であり、シリンダとピストンから成る。より具体的には、オレオ式緩衝装置のシリンダ内には、油と圧縮ガスが封入されており、シリンダ内に設けられたオリフィスを油が通る構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−156889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より簡易な構成で航空機の脚の展開と緩衝とを行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る航空機用の脚展開装置は、伸縮機構モータ及び制御回路を有する。伸縮機構は、航空機の脚と連結され、前記脚の展開及び収納並びに前記脚の緩衝を行う。モータは、前記伸縮機構を伸縮させる。制御回路は、前記脚の展開及び収納時には前記モータの回転位置フィードバック制御を行うことによって前記伸縮機構を伸縮させる一方、前記脚の緩衝時には、前記モータの回転位置フィードバック制御を行うことによって前記脚の復元力を、前記モータの回転速度フィードバック制御を行うことによって前記脚の減衰力を、それぞれ発生させる。
【0006】
また、本発明の実施形態に係る航空機の脚展開方法は、前記航空機用の脚展開装置を用いて前記脚の展開及び収納並びに前記脚の緩衝を行うものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る航空機用の脚展開装置を駆動させて航空機の脚を収納した状態を示す図。
図2図1に示す脚展開装置を駆動させて航空機の脚を展開した状態を示す図。
図3】航空機がウイングロー着地方法で着地した状態を示す図。
図4図1乃至図3に示す制御回路における制御内容を示すブロック線図。
図5図1乃至図3に示す伸縮機構、モータ及びセンサの第1の詳細構成例を示す図。
図6図1乃至図3に示す伸縮機構、モータ及びセンサの第2の詳細構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る航空機用の脚展開装置及び航空機の脚展開方法について添付図面を参照して説明する。
【0010】
(構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係る航空機用の脚展開装置を駆動させて航空機の脚を収納した状態を示す図であり、図2図1に示す脚展開装置を駆動させて航空機の脚を展開した状態を示す図である。
【0011】
脚展開装置1は、航空機2の脚2Aの展開及び収納のみならず脚2Aの緩衝を行う装置である。すなわち、脚展開装置1は、脚2Aの展開機能及び収納機能に加えて脚2Aの緩衝機能を有している。脚展開装置1は、伸縮機構3、モータ4及び制御回路5を用いて構成することができる。
【0012】
伸縮機構3は、航空機2の脚2Aと連結され、脚2Aの展開及び収納並びに脚2Aの緩衝を行うように構成される。モータ4は、伸縮機構3を伸縮させるための動力源である。制御回路5は、脚2Aの展開及び収納並びに脚2Aの緩衝が行われるようにモータ4を制御する回路である。
【0013】
従って、脚展開装置1は、電動式のアクチュエータであるということもできる。このような電動式のアクチュエータで構成される脚展開装置1によって脚2Aの展開及び収納のみならず脚2Aの緩衝を行うことが可能な航空機2は、アクチュエータの耐荷重の観点から重量が比較的小さい小型機であると考えられる。具体的には、機体重量が1kg以上1000kg以下である航空機2であれば、耐荷重の観点から脚展開装置1によって脚2Aの展開及び収納並びに脚2Aの緩衝を行うことが可能であると考えられる。脚展開装置1を備える対象となる小型機の具体例としては、ラジコンやドローン等の無人機が挙げられる。もちろん、小型有人機に脚展開装置1を備えることもできる。
【0014】
図1及び図2は、胴体2Bと主翼2Cを有する航空機2の脚2Aの展開及び収納と緩衝とを行うことができるように脚展開装置1を備えた例を示している。脚展開装置1の伸縮機構3及びモータ4は、脚2Aごとに設けることができる。従って、左右の主翼2Cの間の胴体2B付近に左右の2本の脚2Aを有する図1及び図2に示すような典型的な航空機2の場合には、2本の脚2Aにそれぞれ伸縮機構3及びモータ4が備えられる。
【0015】
脚2Aを収納する場合には、各伸縮機構3が図1に示すように駆動する。すなわち、制御回路5による制御下における各モータ4の駆動によって各伸縮機構3を収縮させることができる。これにより、左右の各脚2Aをそれぞれ主翼2C内の収納位置に収納することができる。尚、図1では、脚2Aが主翼2Cの先端側に向かって収納されているが、胴体2B方向に収納することもできる。
【0016】
一方、脚2Aを展開する場合には、各伸縮機構3が図2に示すように駆動する。すなわち、制御回路5による制御下における各モータ4の駆動によって各伸縮機構3を伸張させることができる。これにより、左右の各脚2Aをそれぞれ地面6に向けて展開位置まで展開することができる。
【0017】
左右の各脚2Aが展開された後は、脚展開装置1が緩衝装置として働く。脚展開装置1が緩衝装置としても機能することが可能であるのは、伸縮機構3がモータ4で電気的に動作するためである。すなわち、油圧やバネ等を利用した機械式の伸縮機構に比べて、電気式の伸縮機構3は瞬時に駆動させることができる。このため、伸縮機構3の電気制御によって脚展開装置1を緩衝装置として動作させることができる。
【0018】
このように緩衝装置としても機能する脚展開装置1で脚2Aの展開及び収納を行うようにすれば、他の緩衝装置や緩衝機構が不要となる。例えば、脚2Aの緩衝のために従来のような多関節の脚柱を用いる必要がない。従って、図1及び図2に例示されるように、脚2Aを単関節の脚柱2Dに車輪2Eを連結した構造とすることができる。つまり、単純な支持構造物で脚柱2Dを構成することが可能となる。
【0019】
また、伸縮機構3は、モータ4で電気的に瞬時に駆動させることが可能であることから、ウイングロー着地方法で航空機2が着地した場合に生じる急激なロールを緩和する制御を行うことができる。
【0020】
図3は、航空機2がウイングロー着地方法で着地した状態を示す図である。
【0021】
ウイングロー着地方法は、横風がある状況下において横風とのバランスを取ることを目的として、図3に示すように主翼2Cを傾けた状態で着地する方法である。ウイングロー着地方法で着地する場合には、片方の車輪2Eが先に接地することとなる。片方の車輪2Eが先に接地すると、通常は、接地した片方の車輪2Eの反発力によって急激なロールが発生し、機体が不安定となる。
【0022】
そこで、制御回路5でロールを緩和するための制御を行うことができる。具体的には、片方の車輪2Eのみが接地した場合には、地面6からの反発力が低減されるように伸縮機構3を制御することができる。伸縮機構3は、モータ4で電気的に瞬時に駆動させることができるため、理論上は、地面6からの反発力をゼロにすることができる。これにより、ウイングロー着地方法で着地する場合において機体の不安定化の原因となる急激なロールを緩和することができる。
【0023】
片方の車輪2Eのみが接地したか否かは、各伸縮機構3に必要なセンサ7を設けることによって検出することができる。各伸縮機構3に取付けられるセンサ7としては、各伸縮機構3が伸縮中であるか否かを検出することが可能であれば任意のものを用いることができる。各センサ7の検出信号は、制御回路5に出力される。このため、制御回路5において、各センサ7からの検出信号に基づいて各伸縮機構3が伸縮中であるか否かをモニタし、一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地したことを認識することができる。
【0024】
従って、制御回路5では、脚2Aの展開及び収納を行うためのモータ4の制御、脚2Aの緩衝を行うためのモータ4の制御並びに片方の車輪2Eのみが接地した場合に地面6からの反発力を低減させるためのモータ4の制御が行われることになる。更に、脚2Aの展開中において脚2Aの緩衝機能が発揮されると、脚2Aの展開が妨げられる恐れがある。そこで、脚2Aの展開中には、脚2Aの緩衝を行うためのモータ4の制御をオフにする制御を制御回路5において行うことができる。脚2Aが展開中であることについても、各センサ7からの検出信号に基づいて判定することができる。
【0025】
すなわち、制御回路5の回路構成を、センサ7からの検出信号に基づいて、脚2Aが展開中であること及び一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地したことの少なくとも一方を認識できるようにすることができる。
【0026】
図4は、図1乃至図3に示す制御回路5における制御内容を示すブロック線図である。
【0027】
モータ4が、直流(DC:direct current)モータである場合には、各伸縮機構3の伸縮指令信号sとして、目標とするモータ4の正回転又は負回転の速度に対応する電圧の制御値が入力される。電圧の制御値の初期値は、最大値ではない正の適正値に設定される。
【0028】
次に、モータ4の直前の回転位置xに位置フィードバックゲインKxを乗じて得られる電圧補正値Kx・xが、モータ4への電圧制御値として与えられた指令信号sから減じられる。すなわち、モータ4の回転位置フィードバック制御が実行される。モータ4の回転位置フィードバック制御は、伸縮機構3の伸縮位置フィードバック制御及び脚2Aの展開位置フィードバック制御に相当する。
【0029】
続いて、モータ4の直前の回転速度vに速度フィードバックゲインKvを乗じて得られる電圧補正値Kv・vが、指令信号sから減じられる。すなわち、モータ4の回転速度フィードバック制御が実行される。モータ4の回転速度フィードバック制御は、伸縮機構3の伸縮速度フィードバック制御及び脚2Aの展開速度フィードバック制御に相当する。
【0030】
次に、モータ4の回転子コイルのインダクタンスLと抵抗値Rを用いて、指令信号sに対して1/(Ls+R)の演算が実行される。これにより、指令信号sは、モータ4を流れる電流制御値となる。次に、モータ4の特性値であるトルク定数Ktが指令信号sに乗じられる。これにより、指令信号sは、モータ4のトルクとなる。次に、脚2Aの慣性モーメントJを用いて、指令信号sに対して1/(Js)の演算が実行される。これにより、指令信号sは、モータ4の回転速度vとなる。次に、指令信号sに対して1/sの演算が実行される。これにより、指令信号sは、伸縮機構3の伸縮距離に対応するモータ4の回転位置xとなる。
【0031】
これらの演算の過程で算出されたモータ4の回転速度vは、速度フィードバックループLoop_vにおける速度フィードバックゲインKvとの乗算に用いられる。一方、モータ4の回転位置xは、位置フィードバックループLoop_xにおける位置フィードバックゲインKxとの乗算に用いられる。
【0032】
モータ4の回転位置フィードバック制御、すなわちモータ4の直前の回転位置xに位置フィードバックゲインKxを乗じて得られる電圧補正値Kx・xを指令信号sから減じる差分処理を行うと、展開位置に脚2Aを復元させるための復元力を伸縮機構3によって発生させることができる。一方、モータ4の回転速度フィードバック制御、すなわちモータ4の直前の回転速度vに速度フィードバックゲインKvを乗じて得られる電圧補正値Kv・vを指令信号sから減じる差分処理を行うと、伸縮機構3によって減衰力を発生させることができる。
【0033】
尚、速度フィードバックゲインKv及び位置フィードバックゲインKxは任意の定数であり、シミュレーション等で決定することができる。例えば、速度フィードバックゲインKvを大きい値に設定する程、発生する減衰力を大きくすることができる。また、位置フィードバックゲインKxを大きい値に設定する程、発生する復元力を大きくすることができる。
【0034】
脚2Aを展開又は収納するための制御としては、モータ4の回転位置フィードバック制御のみで十分であり、回転速度フィードバック制御は不要である。一方、脚2Aが展開された後の緩衝時には、上述したように、回転位置フィードバック制御によって脚2Aの復元力を発生させるができる。更に、モータ4の回転速度フィードバック制御を行うことによって、脚2Aに減衰力を発生させることができる。すなわち、伸縮機構3が急激に伸縮し、モータ4の回転速度が急激に速くなる程、モータ4の回転速度フィードバック制御によって伸縮機構3を通じて脚2Aにより大きな減衰力を発生させることができる。
【0035】
つまり、モータ4の回転位置フィードバック制御によるバネとしての性質と、モータ4の回転速度フィードバック制御によるダンパとしての性質を脚展開装置1に付与することができる。これにより、脚展開装置1をバネ定数とダンパ定数を有する緩衝装置として動作させることができる。
【0036】
尚、伸縮機構3は、モータ4によって電気的に制御されるため、瞬時に最大の減衰力を発生させることができる。このため、従来のオイルダンパ等の機械式のダンパに比べて脚展開装置1の緩衝性能を飛躍的に向上させることができる。
【0037】
従って、制御回路5では、モータ4の回転位置フィードバック制御と回転速度フィードバック制御の双方が行われることになる。より具体的には、脚展開装置1を動作させて脚2Aを展開又は収納する際には、モータ4の回転位置フィードバック制御が行われる一方、脚2Aが展開された後に脚展開装置1を緩衝装置として動作させる際には、脚展開装置1にバネ及びダンパの双方の性質を付与するために回転位置フィードバック制御及び回転速度フィードバック制御の双方が行われることになる。
【0038】
但し、伸縮機構3の減衰力は脚2Aの展開力に対して大きな反力となる。このため、伸縮機構3の減衰力は脚2Aの展開の妨げとなる恐れがある。そこで、脚2Aの展開中には、モータ4の回転速度フィードバック制御をオフにすることができる。
【0039】
また、上述したように、ウイングロー着地方法による航空機2の着地によって、一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地した場合には、地面6からの脚2Aへの反発力を低減させる制御を行うことが急激なロールを低減させる観点から望ましい。片方の車輪2Eのみが接地した場合の地面6からの反発力を低減するためには、伸縮機構3の減衰力を発生させないように伸縮機構3を制御すればよい。加えて、伸縮機構3の復元力についても発生させないように伸縮機構3を制御することが好ましい。つまり、伸縮機構3の減衰力及び復元力をいずれも発生させずに、脚展開装置1の緩衝装置としての機能をオフにすることによって、地面6からの反発力を低減することができる。
【0040】
従って、制御回路5では、一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地した場合には、回転速度フィードバック制御及び回転位置フィードバック制御の少なくとも一方をオフにする伸縮機構3の制御を行うことができる。
【0041】
一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地して片脚伸縮が起きた場合に回転速度フィードバック制御をオフにする制御、一方の脚2Aに設けられた車輪2Eのみが接地して片脚伸縮が起きた場合に回転位置フィードバック制御をオフにする制御並びに脚2Aの展開中にモータ4の回転速度フィードバック制御をオフにする制御は、それぞれ図4に示すように制御回路5に第1の判定スイッチ5A、第2の判定スイッチ5B及び第3の判定スイッチ5Cを設けることによって行うことができる。
【0042】
第1の判定スイッチ5Aは、片脚伸縮が起きた場合に回転速度フィードバック制御をオフにするためのスイッチである。このため、第1の判定スイッチ5Aは、速度フィードバックループLoop_vに設けられる。第2の判定スイッチ5Bは、片脚伸縮が起きた場合に回転位置フィードバック制御をオフにするためのスイッチである。このため、第2の判定スイッチ5Bは、位置フィードバックループLoop_xに設けられる。第3の判定スイッチ5Cは、脚2Aが展開中である場合に回転速度フィードバック制御をオフにするためのスイッチである。このため、第3の判定スイッチ5Cは、速度フィードバックループLoop_vに設けられる。
【0043】
片脚伸縮が起きたこと及び脚2Aが展開中であることは、各伸縮機構3に設けられるセンサ7からの検出信号に基づいて判定することができる。すなわち、図1乃至図3に例示されるような左右の2つの脚2Aを備えた航空機2において片脚伸縮が起きれば、一方の伸縮機構3に設けられるセンサ7のみから伸縮機構3が脚2Aの展開位置に対応する長さよりも短くなったことを示す検出信号が出力されることになる。従って、一方の伸縮機構3に設けられるセンサ7のみから伸縮機構3が脚2Aの展開位置に対応する長さから収縮したことを示す検出信号が出力された場合には、片脚伸縮が起きたと判定することができる。
【0044】
また、脚2Aが展開中であれば、伸縮機構3が脚2Aの収納位置に対応する長さから脚2Aの展開位置に対応する長さとなるように伸張している最中であることを示す検出信号が双方の伸縮機構3に設けられるセンサ7から出力されることになる。従って、伸縮機構3が脚2Aの収納位置に対応する長さから脚2Aの展開位置に対応する長さとなるように伸張している最中であることを示す検出信号が双方の伸縮機構3に設けられるセンサ7から出力された場合には、脚2Aの展開中であると判定することができる。
【0045】
このため、各センサ7の出力先は、第1の判定スイッチ5A、第2の判定スイッチ5B及び第3の判定スイッチ5Cと接続される。そして、第1の判定スイッチ5Aは、左右の2つの伸縮機構3のうちの一方の伸縮機構3に設けられるセンサ7のみから伸縮機構3が脚2Aの展開位置に対応する長さから収縮したことを示す検出信号が出力された場合には、片脚伸縮が起きたと判定してモータ4の回転速度フィードバック制御をオフに切換えるように構成される。また、第2の判定スイッチ5Bは、左右の2つの伸縮機構3のうちの一方の伸縮機構3に設けられるセンサ7のみから伸縮機構3が脚2Aの展開位置に対応する長さから収縮したことを示す検出信号が出力された場合には、片脚伸縮が起きたと判定してモータ4の回転位置フィードバック制御をオフに切換えるように構成される。
【0046】
他方、第3の判定スイッチ5Cは、伸縮機構3が脚2Aの収納位置に対応する長さから脚2Aの展開位置に対応する長さとなるように伸張している最中であることを示す検出信号が双方の伸縮機構3に設けられるセンサ7から出力された場合には、脚2Aが展開中であると判定してモータ4の回転速度フィードバック制御をオフに切換えるように構成される。
【0047】
尚、脚2Aが収納中である場合についても、脚2Aが展開中である場合と同様に、モータ4の回転速度フィードバック制御をオフに切換えて、伸縮機構3に減衰力を発生させないようにすることができる。その場合には、第3の判定スイッチ5Cを、伸縮機構3が脚2Aの展開位置に対応する長さから脚2Aの収納位置に対応する長さとなるように収縮している最中であることを示す検出信号が双方の伸縮機構3に設けられるセンサ7から出力された場合には、脚2Aが収納中であると判定してモータ4の回転速度フィードバック制御をオフに切換えるように構成すればよい。
【0048】
次に、伸縮機構3、モータ4及びセンサ7の詳細構成例について説明する。
【0049】
図5は、図1乃至図3に示す伸縮機構3、モータ4及びセンサ7の第1の詳細構成例を示す図である。
【0050】
伸縮機構3は、図5に例示されるように2つのベアリング4Aによって回転子4Bが回転するモータ4の駆動によって回転するボールスクリュー10と、ボールスクリュー10の回転によってボールスクリュー10の長さ方向にボールスクリュー10に対して相対的に移動するナット11によって構成することができる。すなわち、ボールスクリュー10とナット11によってモータ4の回転移動を直線移動に変換することができる。そして、ナット11を脚柱2Dに回転可能に連結することができる。これにより、モータ4の回転制御によって脚2Aの展開、収納及び緩衝を行うことができる。
【0051】
センサ7としては、ボールスクリュー10に対するナット11の相対位置を表す指標を検出するセンサを用いることができる。図5に示す例であれば、センサ7としてボールスクリュー10の回転位置を検出する回転センサ7Aをモータ4の回転軸と一体となったボールスクリュー10の端部に設けることができる。回転センサ7Aとしては、レゾルバや回転式可変差動変圧器(RVDT:Rotary Variable Differential Transformer)が代表的である。
【0052】
回転センサ7Aを用いると、ボールスクリュー10の回転位置が、脚2Aの展開位置に対応する回転位置でも収納位置に対応する回転位置でもなければ、伸縮機構3が伸縮中であると判定することができる。或いは、ボールスクリュー10の回転位置が時間的に変化していれば、伸縮機構3が伸縮中であると判定することができる。
【0053】
図6は、図1乃至図3に示す伸縮機構3、モータ4及びセンサ7の第2の詳細構成例を示す図である。
【0054】
図5に示す伸縮機構3の場合、ナット11から突出するボールスクリュー10の長さが変化することになる。このため、ナット11から突出するボールスクリュー10との干渉を避ける脚2Aの設計が必要となる。
【0055】
そこで、図6に示すようにナット11を内部でスライドさせるシリンダ20と、連結具21を伸縮機構3に更に設けることができる。連結具21の一端は、シリンダ20内においてナット11と連結される。一方、連結具21の他端は、脚柱2Dとファスナ等で回転自在に連結するための連結構造を有する。また、連結構造を有する連結具21の他端が、シリンダ20の外部に突出するように連結具21が配置される。尚、図6に示す例では、連結具21のナット11側が、ナット11から突出するボールスクリュー10を収納できるように開口するシリンダ構造となっているが、複数のシャフトで構成してもよい。
【0056】
伸縮機構3の構造をこのような構造にすると、シリンダ20から突出する連結具21の長さが、ナット11の移動距離だけ変化することになる。このため、ナット11から突出するボールスクリュー10と脚2Aとの干渉を避ける設計を不要にすることができる。
【0057】
センサ7としては、ナット11に対するボールスクリュー10の長さ方向における相対位置を検出する位置センサ7Bをボールスクリュー10と同軸上に設けることができる。位置センサ7Bとしては、線形可変差動変圧器(LVDT:Linear Variable Differential Transformer)が代表的である。
【0058】
以上のような脚展開装置1は、脚展開用のアクチュエータを電気式のアクチュエータとし、かつ小型の航空機2を対象とすることによって、脚展開用のアクチュエータを脚緩衝装置としても機能させることができるようにしたものである。
【0059】
尚、従来の脚緩衝装置として代表的なオレオ式緩衝装置は、2000kgから3000kg程度の荷重を吸収するように構成されている。一方、従来の脚の展開用のアクチュエータは200kgから300kg程度の荷重に耐えることが想定されている。つまり、オレオ式緩衝装置が対象とする荷重のオーダは、従来の脚の展開用のアクチュエータが対象とする荷重のオーダと異なる。従って、従来は、緩衝装置と脚の展開用のアクチュエータとの共通化は不可能であると考えられてきた。
【0060】
これに対して、脚展開装置1は、航空機2の重量が小さければ、緩衝装置が対象とする荷重のオーダと、脚の展開用のアクチュエータが対象とする荷重のオーダが同等となり得るという点に着眼して緩衝装置と脚の展開用のアクチュエータとを共通化したものである。換言すれば、脚展開装置1は、緩衝装置が対象とする荷重のオーダと、脚の展開用のアクチュエータが対象とする荷重のオーダが同等となり得る航空機2の重量範囲が存在するという点に着眼して緩衝装置と脚の展開用のアクチュエータとを共通化したものである。
【0061】
(効果)
脚展開装置1を用いれば、航空機2の脚柱2Dに他の緩衝装置を設けることが不要となる。このため、航空機2の重量軽減及び小型化を図ることができる。また、脚柱2Dの構造を単関節の単純な支持構造のみとすることができる。
【0062】
また、脚展開装置1を用いれば、車輪2Eが接地した状態において地面6からの反発力を理論上ゼロにする伸縮機構3の制御を行うことができる。このため、横風がある状況下においてウイングロー着地方法で航空機2が着地した場合に生じ得る急激なロールを緩和することができる。例えば、ラジコン等の軽い機体が着地時に跳ねる状況を改善することができる。
【0063】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0064】
例えば、図5及び図6には、ボールスクリュー10を利用した伸縮機構3について例示したがボールスクリュー10以外の電気式の機構を用いて伸縮機構3を構成してもよい。具体例としてラック・アンド・ピニオンが挙げられる。ラック・アンド・ピニオンは、円形歯車であるピニオンと、平板状の棒に歯切りをしたラックを噛合せることによって、ピニオンの回転をラックの直線移動に変換するものである。ラック・アンド・ピニオンを用いて伸縮機構3を構成する場合には、モータ4の出力軸にピニオンが固定され、モータ4の出力軸と垂直な方向にラックが直線移動することになる。
【符号の説明】
【0065】
1 脚展開装置
2 航空機
2A 脚
2B 胴体
2C 主翼
2D 脚柱
2E 車輪
3 伸縮機構
4 モータ
4A ベアリング
4B 回転子
5 制御回路
5A 第1の判定スイッチ
5B 第2の判定スイッチ
5C 第3の判定スイッチ
6 地面
7 センサ
7A 回転センサ
7B 位置センサ
10 ボールスクリュー
11 ナット
20 シリンダ
21 連結具
図1
図2
図3
図4
図5
図6