特許第6871002号(P6871002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871002レーザ溶接方法、溶接接合体の製造方法、スパークプラグ用の電極の製造方法、及びスパークプラグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871002
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法、溶接接合体の製造方法、スパークプラグ用の電極の製造方法、及びスパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/24 20140101AFI20210426BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20210426BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20210426BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20210426BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20210426BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B23K26/24
   B23K26/00 N
   B23K26/21 N
   B23K26/323
   H01T13/20 E
   H01T21/02
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-16899(P2017-16899)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-164811(P2017-164811A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-45605(P2016-45605)
(32)【優先日】2016年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】大原 穂波
【審査官】 大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−149631(JP,A)
【文献】 特開2002−273586(JP,A)
【文献】 特開2008−270185(JP,A)
【文献】 特開平11−320146(JP,A)
【文献】 特開昭57−062882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/24
B23K 26/00
B23K 26/21
B23K 26/323
H01T 13/20
H01T 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材を重ね合せ、その重ね合せ面の端縁にレーザ光を照射し、その端縁に沿うラインを溶接ラインとして、溶接の開始位置から終端に向けてレーザ光を走査させることによって2つの部材を前記重ね合せ面において溶接するレーザ溶接方法において、
前記溶接ラインの溶接の開始位置においてスパッタを発生させない出力でレーザ光の照射を開始し、
その開始後、該レーザ光を走査させることなく、該レーザ光の出力を、前記端縁から前記重ね合せ面の奥に向かう溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内となるように漸増し、
その漸増後に、前記終端に向けて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにしてレーザ光を走査させることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の出力範囲内で出力を漸減させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の速度範囲内で速度を漸増させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の出力範囲内で出力を漸減させながら、しかも、所定の速度範囲内で速度を漸増させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記2つの部材における一方の部材が、スパークプラグ用の接地側電極又は中心電極を構成する電極本体であり、他方の部材が、該電極本体の先端に溶接される貴金属チップであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法によって前記2つの部材を溶接する工程を含む溶接接合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のレーザ溶接方法によって前記電極本体と前記貴金属チップとを溶接する工程を含むスパークプラグ用の電極の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のスパークプラグ用の電極の製造方法を含むスパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材を重ね合せ(突き合せ)、その重ね合せ面における端縁に対し、その重ね合せ面の奥に向けてレーザ光を照射し、所望とする溶し込み深さ(溶け込み深さ)を確保して、両部材をその重ね合せ面においてレーザ溶接する方法、及び溶接接合体等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、一方の部材(板部材)の一主面(平面)に、他方の部材である例えば直方体の一平面を重ね、その重ね合せ面(突き合せ面)において両部材をレーザ溶接(以下、単に溶接ともいう)する場合がある。この場合、その重ね合せ面における端縁(外端縁)のうちの一つの辺(以下、単に一辺ともいう)に対し、その重ね合せ面の奥に向かうようにレーザ光を照射し、その一辺を溶接ラインとして、一定速度でレーザ光の走査を行って両部材(母材)をその重ね合せ面において溶接することが行われている。例えば、自動車エンジンに用いられるスパークプラグを構成する接地側電極の製造時である(特許文献1参照)。このような溶接において、その精度を確保しながら溶接強度(接合強度)を高めるには、過剰溶融とならない範囲で、重ね合せ面のできるだけ広い面において溶融、凝固が行われるようにする必要がある。そして、そのためには、重ね合せ面の端縁のうち、レーザ光が照射される受光部(入射側)の一辺から、その照射の奥に位置する対向する一辺(レーザ光の進行先の一辺)に向かい、その重ね合せ面において両金属が必要かつ十分な溶け込み深さ(照射方向の溶融深さ)が得られるように、レーザ光の出力やその走査の速度(照射時間)等の条件を選択する必要がある。
【0003】
図6は、このような溶接の一例を説明する拡大図であり、図8に示したようなスパークプラグ100を構成する接地側電極(部品)31の製造において、その接地側電極本体(一部のみ図示)10の先端寄り部位に、貴金属チップ20を溶接するときの説明用の部分模式拡大図である。なお、図8は、従来公知のスパークプラグ100の一例を示す縦断半断面図であり、このものは、異径筒状の主体金具40と、その内部に貫通状に配置された中空軸状の碍子50と、この碍子50の中心軸穴内に組付けられ、この碍子50の先端(図示上端)53において自身の先端を露出させてなる中心電極60、そして、主体金具40の先端面43に溶接により固定され、接地側電極本体10において曲げ形成された接地側電極31等から構成されており、この接地側電極本体10の先端に溶接により固定されている貴金属チップ20と、中心電極60の先端とで火花放電ギャップを形成している。そして、ここに、貴金属チップ20は、スパークプラグ100における相手側電極である中心電極60の先端との放電着火性、さらには耐久性の向上のためのものである。以下、本願において、これら接地側電極、中心電極は、単に電極ともいい、接地側電極本体、中心電極本体は、電極本体ともいう。
【0004】
図6に示したように、その接地側電極本体10の先端寄り部位への貴金属チップ20の溶接においては、接地側電極本体(例えば、ニッケル合金からなる帯板状の角棒部材)10の先端面11寄り部位の板面(平面)13に、貴金属チップ(白金やイリジウム等の貴金属、又はこれらを主成分とする合金からなる微小直方体)20を、図6−A(正面図),図6−B(平面図)に示したように同本体10の先端面11に揃えて(又は近接させて)位置決めして重ね合わせる。そして、その両部材(溶接部材)10,20の重ね合せ面10a,20aの端縁のうち、例えば、図6−B(平面図)の右側の端縁(貴金属チップの端縁)20eである、接地側電極本体10の先端面11側における一辺(溶接ラインWL)に沿い、その一端S1から他端S2に向け、レーザ光Laを照射し、一定速度で走査が行われるようにし、両部材をその重ね合せ面10a,20aで溶接していた。このような接地側電極本体10は、横断面における幅W1が、2mm〜3mmで、厚さH1が、1mm〜1.5mm程度の小さい角棒部材(細長い帯板状の部材)であり、これに溶接される貴金属チップ(以下、チップともいう)20は、厚みH2が、0.4mm〜1mm程度で、平面(図6−B参照)が縦横1mm〜1.5mm角程度の微小な直方体である。したがって、その溶接ラインWLの長さも、1mm〜1.5mm程度と短いため、その溶接は、前記したように、溶接ラインWLに沿い、レーザ光Laがその一端(溶接の開始位置)S1から他端(終端)S2に向けて(図6−Bの例えば下から上に向けて)通過するように一定速度で、1回の走査をさせることによっていた。
【0005】
ところで、このようなレーザ溶接において精度の低下を招くことなく、所望とする高い溶接強度を得るためには、上記したように、重ね合せ面10a,20a(図6−B(平面図)における貴金属チップ10の平面と同じ領域面積)において両金属の過剰溶融を招くことなく、レーザ光の照射方向(図6−A,Bの右から左方向)に、貴金属チップ20の辺長Lhに対応して十分な溶し込み深さを確保する必要がある。そして、その溶かし込み深さは、レーザ光Laの走査方向である、照射の一端S1である開始位置(以下、開始位置ともいう)から、他端S2である終端にかけての一辺(溶接ラインWL)に沿っても、大きなバラツキが生じないようにしないといけない。すなわち、その溶かし込み深さは、貴金属チップ20の辺長Lhに対応した十分な溶し込み深さで、溶接ラインWLに沿っても大きなバラツキが生じないように、その辺長Lhに対し、なるべく小さい誤差αの範囲での溶かし込み深さ範囲(辺長Lh±α)とされるべきである。スパークプラグの接地側電極のように過酷な条件に晒され、着火性能や耐久性が要求されるものでは、精度の低下を招くことなく、重ね合せ面10a,20aの全体(全面)での確実な溶接が要求されるためである。こうしたことから、従来、このような溶接に際しては、テスト溶接に基づき、必要、十分な溶かし込み深さが得られるよう、レーザ光の出力や走査速度等を割り出し、一定出力のレーザ光を一定速度で走査させていた。なおこのレーザ光の走査は、レーザ側でなく溶接部材(母材)側、又はその両者の相対的な移動によってもできるから、本願でレーザ光の走査という場合には、このような場合も含むものとする。
【0006】
一方、このようなレーザ溶接において従来は、その照射に用いる一定出力のレーザ光の出力を高めに設定していた。理由は次のようである。レーザ光が照射され、溶融が始まっている状態にある溶接母材(図6の両部材をなす接地側電極本体と貴金属チップ)の走査箇所の近傍は既に入熱がある。しかし、レーザ光の照射の開始時(溶接開始時)となるその開始位置S1では、冷却、固化状態にあるその母材にレーザ光を照射し、溶融させるのであるから、その溶融のためには、レーザ光が照射され、既に、走査、溶融が始まっている状態にある溶接母材(照射開始後のワーク)におけるその溶融部位の近傍の溶融に必要な熱エネルギーよりも多くの熱エネルギーを要する。すなわち、走査、溶融が始まっている状態での溶接母材の溶融部位の近傍は既に入熱があるのであるから、相対的に小さい出力のレーザ光で所望とする溶かし込み深さが得られる。これに対し、照射による入熱及び溶融の無いその開始位置S1においては、そのような入熱、溶融が無い分、レーザ光の出力を高くしないと、所望とする溶かし込み深さが得られない。これが、一定出力のレーザ光による照射、走査で溶接する従来技術において、その出力を高めに設定していた理由である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−277272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前記したようにレーザ光の出力を高めに設定することによって、それを照射し、走査させることでレーザ溶接をする場合には、その溶接過程でスパッタ(溶接中に飛散するスラグや金属粒)が発生しやすく、これが母材表面に付着しやすいという解決すべき課題があった。前記したように、レーザ光の照射(溶接)の開始位置においては、冷却、固化状態にある母材へのその照射となるから、その開始箇所では急激な入熱、温度上昇となり、急激な溶融の発生となる。それだけではなく、上記したように、レーザ光の出力を高めに設定して照射を開始し、走査をする場合には、その溶接の開始位置(受光部位)での母材への入熱、温度上昇は一層、急激となる。こうしたことから、母材の照射の開始位置においては局所的にその内部よりも表面又は表面付近に急激な熱伝導による急激な温度上昇が生じるとともに、その後も過剰溶融となりがちである。結果、その開始位置も含め、溶融金属の突沸が生じてしまい、これがスパッタの発生、飛散を招くと考えられる。このようなスパッタの発生、飛散によるその付着は、それ自体許容されるものではないが、その発生、飛散があると、その分、溶融金属のロスを招くことになるから、上記した接地側電極の製造におけるような小物の精密溶接であり、微細なビート幅となるようなレーザ溶接では、溶接強度(接合強度)にも影響してしまうという大きな課題がある。
【0009】
このようなスパッタの発生を防ぐためには、レーザ光の出力を低めに設定するか、スパッタの発生の可能性の高い走査の初期ないし前半においては、その発生を招かない程度の十分に低い出力のレーザ光としておき、その後の走査過程で所定の溶かし込み深さが得られる出力に増大することも考えられる。しかし、そのいずれにおいても、少なくとも走査過程の初期である照射の開始位置及びその近傍においては、所望とする溶し込み深さが得られない。結果、両部材の重ね合せ面10a,20aでは、図7中にダブルハッチングで示したように、照射(溶接)の終端S2側では十分な深さの溶かし込み範囲が得られるとしても、開始位置S1寄りの走査の初期ないし前半における溶し込み深さは、終端S2側のそれに比べて浅くなり、その重ね合せ面における十分な溶接面積が得られない。また、このような溶接では、溶接面積が単に小さくなるというだけでなく、走査方向(溶接ラインWL)に沿い、溶接面の深さが、貴金属チップ20の辺長Lh方向(図7の左右方向)において大きく異なるものとなるため、接合強度のアンバランスを招いてしまう。このように、溶接の初期ないし前半における出力を低下させることで、スパッタの発生を防ぐことはできるとしても、それでは、十分な溶接面積が得られないし溶接面のアンバランスを招いてしまい、強固かつ安定した溶接強度が得られない。
【0010】
本発明は、如上のようなレーザ溶接における課題に鑑みてなされたもので、2つの部材を重ね合せ、その重ね合せ面の端縁にレーザ光を照射し、その端縁に沿うラインを溶接ラインとして、溶接の開始位置から終端に向けてレーザ光を走査させることによって、2つの部材を前記重ね合せ面において溶接するレーザ溶接方法において、スパッタの発生を招くこともなく、しかも、その溶接の開始位置及びその付近における溶かし込み深さの不足を招くこともなく、その走査方向において、前記端縁から前記重ね合せ面の奥に向かう溶かし込み深さが所望とする溶かし込み深さで溶接できるようにすると共に、このような溶接工程を含む溶接接合体の製造方法、スパークプラグ用の電極(接地側電極、中心電極)等の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本発明は、2つの部材を重ね合せ、その重ね合せ面の端縁にレーザ光を照射し、その端縁に沿うラインを溶接ラインとして、溶接の開始位置から終端に向けてレーザ光を走査させることによって2つの部材を前記重ね合せ面において溶接するレーザ溶接方法において、
前記溶接ラインの溶接の開始位置においてスパッタを発生させない出力でレーザ光の照射を開始し、
その開始後、該レーザ光を走査させることなく、該レーザ光の出力を、前記端縁から前記重ね合せ面の奥に向かう溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内となるように漸増し、
その漸増後に、前記終端に向けて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにしてレーザ光を走査させることを特徴とする。
【0012】
前記(請求項1に記載の)本発明とは異なる発明(以下、「参考発明」ともいう)としては、2つの部材を重ね合せ、その重ね合せ面の端縁にレーザ光を照射し、その端縁に沿うラインを溶接ラインとして、溶接の開始位置から終端に向けてレーザ光を走査させることによって2つの部材を前記重ね合せ面において溶接するレーザ溶接方法において、
前記溶接ラインの溶接の開始位置においてスパッタを発生させない出力でレーザ光の照射を開始し、
その開始後の所定の時間内に限り、その他の時間における走査よりも相対的に遅い速度でレーザ光を走査させながら、前記開始位置の近くにおいて、前記端縁から前記重ね合せ面の奥に向かう溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内となるように、該レーザ光の出力を漸増し、
その漸増後に、前記終端に向けて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにしてレーザ光を走査させることを特徴とする発明がある。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の出力範囲内で出力を漸減させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法である。
請求項3に記載の本発明は、請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の速度範囲内で速度を漸増させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法である。
【0014】
請求項4に記載の本発明は、請求項1において、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、
その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の出力範囲内で出力を漸減させながら、しかも、所定の速度範囲内で速度を漸増させながらの走査を含め、走査させることを特徴とするレーザ溶接方法である。
請求項5に記載の本発明は、前記2つの部材における一方の部材が、スパークプラグ用の接地側電極又は中心電極を構成する電極本体であり、他方の部材が、該電極本体の先端に溶接される貴金属チップであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法である
【0015】
請求項6に記載の本発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法によって前記2つの部材を溶接する工程を含む溶接接合体の製造方法である。
請求項7に記載の本発明は、請求項5に記載のレーザ溶接方法によって前記電極本体と前記貴金属チップとを溶接する工程を含むスパークプラグ用の電極の製造方法である。
請求項8に記載の本発明は、請求項7に記載のスパークプラグ用の電極の製造方法を含むスパークプラグの製造方法である。
【0016】
レーザ光の出力に関して、スパッタを発生させない出力と、発生させる出力とのおおよその境界値は、溶接する部材(母材)に応じてテスト溶接することで知ることができる。ここで、テスト溶接は、母材の融点、熱伝導率、熱容量に応じ、レーザ光の出力等を変化させながら行えばよい。このため、スパッタを発生させない出力は、このようなテスト溶接に基づき、任意に設定すればよい。すなわち、溶接の開始位置における開始の出力は、0でもよいし、テスト溶接においてスパッタの発生が開始される平均的な出力の例えば、50%とするなど、適宜に安全率をみて設定すればよい。
【0017】
本発明において「所定の溶かし込み深さ範囲」は、溶接する2つの部材の材質、大きさ、さらにはその重ね合せ面の大きさ等に応じて、重ね合せ面のうち、溶接すべきとされる面積等に基づいて設定すればよい。例えば、2部材の重ね合せ面が長方形で、その一方の長辺が照射側をなす端縁(溶接ライン)である場合において、その重ね合せ面の全体を溶融、凝固させて溶接したい場合における溶かし込み深さは、その短辺に沿う方向になる。そして、「所定の溶かし込み深さ範囲」は、その短辺の長さを基準に設定すればよい。例えば、その短辺の長さが、1.5mmであれば、1.4mm〜1.6mm、或いは、1.3mm〜1.4mm、又は1.4mm〜1.5mmなどとして、溶接寸法精度等に基づき、適宜の寸法公差を付与して設定すればよい。また、漸増後は、前記終端に向けて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにしてレーザ光を走査させることとすればよく、これは、出力と走査の速度との関係で、それが保持されるようにすればよい。
【0018】
なお、上記レーザ光の出力の漸増は、時間の経過に伴ってその出力が増大するものであればよく、その増大のさせ方は、時間に比例する直線的な変化となるものでも、1又は複数の屈曲点をもつ複数の直線的な変化となるものでも、曲線的な変化となるものでも、若しくは、階段的な変化となるものでも、又は、これらの組合せからなる変化のものでもよい。照射の開始時の出力と、所定の溶かし込み深さが得られるときの出力との差等を考慮して、スパッタの発生を招くような急激な入熱、温度上昇とならないように、溶接すべき部材等の条件に応じ、徐々に増大する制御を行うこととすればよい。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の本発明によれば、溶接(照射)の開始位置においてレーザ光を走査させることなく、所定の溶かし込み深さ範囲が得られるまでのその出力の漸増制御と、その漸増後の終端に向けてのレーザ光の走査の制御を行うものである。このため、スパッタの発生を防止ないし抑制できるとともに、溶接ラインに沿って、所望とする溶かし込み深さ範囲による溶接ができる。結果、過剰溶融を招くこともなく、所望とする溶接面積の溶接が得られるから、強固かつ安定した溶接が効率的に得られる。
【0020】
請求項1では、所定の溶かし込み深さ範囲が得られるまでレーザ光の走査をさせることなく、すなわち、溶接の開始位置において、停止した状態で、その出力を漸増させることとしているが、上記したような、本発明とは異なる発明(参考発明)のように、その開始後の所定の時間内に限り、その他の時間における走査よりも相対的に遅い速度でレーザ光を走査させながら、前記開始位置の近くにおいて、該レーザ光の出力を、前記端縁から前記重ね合せ面の奥に向かう溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内となるように漸増することを、「参考発明」として提案できる。ここに「相対的に遅い速度」は、漸増後に、終端に向けてレーザ光を走査させる速度よりも遅い速度を意味するが、このような、「参考発明」では、相対的に遅い速度とはいえ、所定の溶かし込み深さ範囲となるまで、走査がある分、溶接ラインのうち、その走査範囲では所定の溶かし込み深さが得られない。したがって、この「相対的に遅い速度」は、溶接ラインにおいて、このような所定の溶かし込み深さが得られない範囲ができるだけ短くなるように、できるだけ低速の停止状態に近い速度とするのがよい。また、その走査過程ではスパッタの発生を招かない範囲で、なるべく出力の漸増スピード(漸増の変化率)を上げる制御をするのがよい。
【0021】
なお、所定の溶し込み深さ範囲内となった出力の漸増後は、前記終端に向けて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させることとすればよく、この走査過程における出力は、所定の溶し込み深さ範囲が得られた時の出力と、同一でも異なるものでもよいが、異なるものとする場合には、請求項2に記載の発明のように、請求項1において、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の出力範囲内で出力を漸減させながらの走査を含め、走査させることとするのがよい。このようにすることで、出力の漸増後の入熱過多や過剰溶融を防止でき、溶かし込み深さのバラツキを抑制できるためである。ここで、出力を漸減させながらの走査を含め、というのは、その漸減は、漸増後の全走査過程であっても、その全走査過程でなくてもよいことを意味する。例えば、その漸増後に続く、後半の走査過程における前半だけ、漸減させてもよい。また、このような漸増後の走査における速度は、所望とする所定の溶かし込み深さ範囲が保持されるように、出力との関係も考慮して、一定でも、変化するものでもよい。
【0022】
なお、請求項2における出力の漸増後の出力の漸減のさせ方は、上述した、レーザ光の出力の漸増のさせ方とは逆になるものの、時間に比例する直線的な変化となるものでも、1又は複数の屈曲点をもつ複数の直線的な変化となるものでも、曲線的な変化となるものでも、若しくは、階段的な変化となるものでも、又は、これらの組合せからなる変化のものでもよい。走査の速度や、母材及び重ね合せ面の大きさ、溶接ラインの長さ等に応じて、所望とする溶かし込み深さ範囲が保持されるように設定すればよい。また、出力の漸減の開始時期は、所定の溶かし込み深さが得られた後、すなわち、漸増終了の直後でも、それから時間をおいた後でもよいのは上述したとおりである。
【0023】
請求項2においては、入熱過多や過剰溶融を防止し、溶かし込み深さのバラツキを抑制するのに、出力の漸増後に出力を漸減させることとしたが、請求項3に記載の発明のように、請求項1において、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるようにレーザ光を走査させること、に代えて、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持されるように、レーザ光を、所定の速度範囲内で速度を漸増させながらの走査を含め、走査させることとしてもよい。このように、走査の速度を漸増させることにより照射時間を短くできるため、同様の効果が得られる。なお、このような場合における走査速度の漸増のさせ方も、上述した出力の漸増のさせ方と同様、適宜のパターンのものとすることができる。
【0024】
請求項2,3より理解されるが、本発明では、請求項4の発明のように、それらを組み合わせた制御を行うこととしてもよい。そして、この場合には、所望とする所定の溶かし込み深さ範囲が、溶接ライン沿ってバラツキなく得られるように、出力の漸減と、速度の漸増を組み合わせればよい。
【0025】
本発明は、請求項5に記載のレーザ溶接方法のように、一方の部材が、スパークプラグ用の接地側電極又は中心電極を構成する電極本体であり、他方の部材が、該電極本体の先端に溶接される貴金属チップである場合のように、その溶接接合体が過酷な条件に晒され続けるスパークプラグ用の電極のように、その溶接に高精度、高溶接強度が要求される場合に極めて適する。もっとも、本発明における溶接対象はこれに限られるものではなく、同じスパークプラグ用の部品であるとしても、溶接接合体であれば電極以外にも適用できるし、スパークプラグ用以外に用いられる溶接接合体(2部材の溶接体)を得る場合にも適用できる。また請求項6に記載の本発明のように、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法によって前記2つの部材を溶接する工程を含む溶接接合体の製造方法によれば、高精度、高溶接強度の溶接接合体を得ることができる。
【0026】
そして、ここに溶接接合体は、ガスセンサ等のセンサやグロープラグ等の車用部品(自動車用搭載部品)等の各種部品の構成部品、構成部材があげられるが、請求項7に記載の本発明のスパークプラグ用の電極の製造方法によれば、上記したように高精度、高溶接強度の電極(接地側電極又は中心電極)が得られる。よって、請求項8に記載の本発明のように、請求項7に記載のスパークプラグ用の電極の製造方法を含むスパークプラグの製造方法によれば、放電着火性のみならず耐久性についても信頼性の高い高品質のスパークプラグを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1−Aは、スパークプラグ用の接地側電極本体(帯状板部材又は角棒部材)に、貴金属チップ(直方体)を位置決めして重ね合せ、その重ね合せ面で両部材をレーザ溶接するとき(図6参照)の時間と、レーザ光の出力との関係の説明図であって、横軸が時間で、縦軸が出力の変化状態を示す図であり、図1−Bは、この出力の変化状態において、時間と、レーザ光の走査速度との関係の説明図であって、横軸が時間で、縦軸が走査速度の変化状態を示す図。
図2図1においてレーザ溶接したときの重ね合せ面における溶し込み深さ(ダブルハッチング部分)の説明用模式図。
図3】レーザ光の出力の漸増のさせ方の別例(時間と、レーザ光の出力の変化状態の4パターン)を説明する図。
図4】レーザ光の出力を所定の溶かし込み深さ範囲が得られるまで漸増した後、その出力を漸減させる例(4パターン)を説明する漸減のさせ方(時間と、レーザ光の出力の変化状態)を説明する図。
図5】レーザ光の出力を所定の溶かし込み深さ範囲が得られるまで漸増した後、その走査速度を漸増させる例(2パターン)を説明する漸増のさせ方(時間と、走査速度の変化状態)を説明する図。
図6】スパークプラグ用の接地側電極本体(帯状板部材又は角棒部材)に、貴金属チップ(直方体)を位置決めして重ね合せ、両部材を重ね合せ面においてレーザ溶接するときの説明用の部分模式拡大図であって、Aは、正面図、BはAの平面図、CはAを右から見た図(接地側電極本体を先端面から見た図)。
図7図6のレーザ溶接における問題点を説明する模式的な平面図。
図8】従来公知のスパークプラグの一例を示す縦断半断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係るレーザ溶接方法、及び溶接接合体の製造方法を具体化した実施の形態例について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本形態例においては、上記したところの図6に示したスパークプラグ用の接地側電極本体10に、貴金属チップ(直方体)20を位置決めして重ね、その重ね合せ面10a、20aの端縁のうち、電極本体10の先端面11(同図A,Bの右側)側における端縁(チップの端縁)20eである一辺(直線)を溶接ラインWLとして、その重ね合せ面10a,20aにおいて両部材10,20をレーザ溶接する場合であり、溶接接合体として接地側電極を製造する場合とする。また、その溶接ラインWLのうち、図6−B(平面図)の図示下端をレーザ光Laの照射(溶接)の開始位置S1とし、図示上端である他端を溶接の終端(終了位置)S2として、レーザ光Laを走査させる制御をするものとする。なお、各部材の材質、大きさ等は上述したとおりである。また、本例における溶かし込み深さ範囲は、平面視(図6−B)における貴金属チップ(直方体)20の辺長Lh(例えば、1.5mm)に対応するもので、溶接ラインWLに沿う方向において、Lh±α(例えば、1.4mm〜1.6mm)の範囲内に保持すべきものとする。
【0029】
このような本例においては、図示しないレーザ溶接機を用い、図6−Bに示した、溶接ラインWLにおける溶接(レーザ光Laの照射)の開始位置S1に、その照射の開始時には、スパッタを発生させない程度の低い(弱い)出力のレーザ光Laで照射を開始する。そして、このレーザ光Laを走査させることなく、その照射の開始位置S1においてレーザ光Laの出力を漸増する。その漸増は、重ね合せ面10a,20aにおける端縁20eから奥に向かう溶かし込み深さが、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)内となるまで行う。そして、その溶かし込み深さが得られた後は、その漸増後の出力のレーザ光Laを、終端S2に向けて、適度の例えば一定速度で走査させる。なお、この速度は、その溶かし込み深さが所定の溶かし込み深さ範囲内に保持される範囲で設定される。
【0030】
このような溶接において、レーザ光Laの出力の漸増と、時間との関係は、例えば、図1−Aに示したようにされる。すなわち、その照射の開始時において出力Pは0とし、スパッタの発生を招かないように時間T1をかけて、所望とする所定の溶かし込み深さが得られる出力P1となるまで、その出力を比例的に漸増させ、その漸増後は出力P1を保持し、レーザ光Laを開始位置S1から終端S2に向けて一定の適度の速度V1で走査させる。すなわち、本例では、図1−Bに示したように、出力P1への到達時T1までは、レーザ光Laを溶接の開始位置S1に停止させておき、その出力P1への到達時T1の経過と同時に、出力P1のレーザ光(照射スポット)Laを、終端S2に向けて一定速度V1で走査させる。なお、このような本例では、レーザ光Laの漸増後の出力P1は、例えば、250〜500Wの範囲で、そして、走査速度V1は、例えば、50〜200mm/秒の範囲で設定される。
【0031】
しかして、このような本例によるレーザ溶接方法によれば、スパッタの発生を招くこともなく、しかも、図2中にダブルハッチングで示したように、両部材10,20の重ね合せ面10a,20aは、溶接ラインWLに沿って、所望とする所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)内でもって溶接される。このように本例の溶接方法によれば、従来におけるように、レーザ光Laの照射の開始位置S1から高めに設定した出力によるその照射を開始してその出力のままで走査させるものでなく、スパッタを発生させない出力のレーザ光で照射を開始し、その出力を漸増させることとしているため、スパッタの発生を招かない。また、低い出力によるレーザ光の照射で終端S2まで走査をするものでもないため、その照射の開始位置S1及びその近傍において所望とする溶し込み深さが得られないということもない。このように、本溶接方法によれば、その走査の開始位置S1から終端S2に向かい、溶かし込み深さの不足やアンバランスもなく、重ね合せ面10a,20aの全領域において両部材を溶接することができる。結果、強固かつ安定した溶接による、貴金属チップ付きの接地側電極が得られるため、着火性能や耐久性に優れたスパークプラグを得ることができる。
【0032】
すなわち、前記した本例のレーザ溶接方法を具体化した電極の製造方法によって得られた接地側電極(部品)は、その後、スパークプラグの製造に用いられ、図8に示したような従来公知のスパークプラグ100を構成することになる。なお、このようなスパークプラグ100の製造工程は従来、公知であるため、簡単な説明に止めるが、例えば次のようである(図8参照)。その接地側電極(部品)を、上述したような主体金具(ただし製造仕掛品)40の先端面43に、図8中、2点鎖線で示したように、貴金属チップ20と反対側の一端(後端面)を垂直状に突き合せるようにして抵抗溶接する。その後、その主体金具40の外周面にネジ46を形成する等の仕上げ加工を行い、このように仕上げられた接地側電極付きの主体金具をその後の組立て工程に送る。そして、その組立て工程では、主体金具内に、上述したように中心電極60、その端子65等を含む碍子50等を組付け、主体金具40の後端47を内側に曲げ、かつ、先方(図8の上方)に向けて圧縮変形(カシメ)加工をした後、所定の放電用火花ギャップが得られるよう、接地側電極31を接地側電極本体10において内側に折り曲げ加工する。このような各工程を経ることで、図8に示したようなスパークプラグ100が得られる。
【0033】
本例では接地側電極31の溶接、製造において、本発明を具体化した場合で説明したが、中心電極60に、その先端に貴金属チップを溶接してなる貴金属チップ付きの中心電極を製造する場合においても同様に具体化できる。そして、少なくとも、その一方の電極において本発明を具体化した電極を用いたスパークプラグとすることで、このような電極を用いないスパークプラグに比べ、着火性能や耐久性の高度化を図ることができる。なお、中心電極の先端に貴金属チップを溶接する工程(貴金属チップ付きの中心電極の製造工程)については、その貴金属チップが、通常、円柱体(又は円板)となるために重ね合せ面が円形となり、したがって、そのような場合には溶接ラインが円周となる点が上記例における場合と相違するが、この相違点を除けば、上述したのと同様にして具体化することができる。その詳細については後述する。
【0034】
上記例(レーザ溶接方法例)では、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるまでのレーザ光Laの出力を、照射開始時の0から比例的に漸増させた場合を例示したが、この漸増は、図3−A2に示したように、階段状に漸増させても、図3−A3に示したように、曲線的(下向き凸の曲線)に漸増させてもよいし、図3−A4に示したように、上向き凸の曲線で漸増させてもよい。さらに、このような出力の漸増は、0からではなく、図3−A5に示したように、スパッタの発生を招かない範囲での適度の低出力を出発点として照射を開始してもよい。このように、上述もしたように、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるまでのレーザ光Laの出力の漸増の仕方は、適宜のものとして具体化できる。
【0035】
また、上記例では溶接の開始位置S1においてはレーザ光Laの走査をさせないで、照射を開始し、その出力を漸増させる場合を例示したが、上記したような「参考発明」のように、照射の開始時からレーザ光Laの走査があるとしても、その速度が停止に近いような微速であり、開始位置S1近くで、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるような場合には、その所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるまでのその開始時から所定の時間内は、レーザ光Laの出力の漸増過程で、レーザ光Laの走査があってもよい。ただし、この場合には、少ないとはいえ所定の溶かし込み深さが得られるまでに、レーザ光Laの走査(移動)がある分、その開始位置S1寄り部位に溶かし込み深さが浅い部分が生じる。よって、このような場合にはできるだけ低速の走査とするのがよいのは上述したとおりである。
【0036】
上記例では、出力を漸増し、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られた後、その漸増時の出力を保持した一定の出力のレーザ光Laにて、終端S2に向けて一定速度V1で走査させた場合を説明したが、その漸増後においては、それまでの入熱により、走査させるレーザ光Laの出力を小さくしても、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られる場合があるのは上述したとおりである。したがって、そのような場合には、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られた後の走査過程のうち、その例えば前半において、図4のA6,A7,A8,A9にそれぞれ示したような変化状態で、その漸増後の出力P1から漸減させ、その後、走査の終端までは一定に保持するようにしてもよい。なお、このような出力の漸減のさせ方は、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるように、走査速度との関係も考慮しながら設定し、制御をすればよい。
【0037】
さらに、上記例では、出力を漸増し、レーザ光Laを、一定の速度で走査させることとして説明したが、出力の漸増後(時間経過時T1後)において、それまでの入熱により、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られた後は、レーザ光Laを走査させる速度を漸増しても(照射時間が短くなるとしても)、所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が確保される場合には、その速度は一定(等速)ではなく、図5−B2,B3に示したように漸増し、高速にすることもできる。すなわち、時間経過時T1後の速度は、図5−B2に示したように、比例的に高速となるようにしてもよいし、図5−B3に示したように階段的に漸増(増速)されるようにしてもよい。いずれも、溶接ラインWLに沿って所望とする所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られるように、出力との関係で適宜に設定すればよい。以上より明らかなように、出力の漸増後(時間経過時T1後)において、溶接ラインWLに沿って所望とする所定の溶かし込み深さ範囲(Lh±α)が得られる限り、出力の漸減と、走査速度の漸増を組み合わせてもよい。
【0038】
上記例では、スパークプラグ用の接地側電極の製造において、その接地側電極本体に貴金属チップを溶接する場合で説明したが、本発明のレーザ溶接方法(溶接接合体の製造方法)は、このような部材に限られず、2つの部材を上記したように重ね合せて溶接する場合に広く適用できる。すなわち、上述したように、その溶接方法は溶接接合体(2部材の溶接体)の用途、種類等に関係なく適用できるし、製造される溶接接合体は、スパークプラグ用の接地側電極、中心電極の他、ガスセンサ等のセンサやグロープラグ等の車用部品(自動車用搭載部品)等の各種部品の構成部品、構成部材に広く適用できる。また、異種金属、同種金属間の溶接に限られず、レーザ溶接する場合、及び、それによって溶接接合体を製造する場合に広く適用できる。さらに、本発明のレーザ溶接方法においては、溶接面(溶かし込み深さ)が重ね合せ面の全体でなくても、所望とする所定の溶し込み深さ範囲が得られる溶接をする場合に広く適用できる。
【0039】
また、上記例では、スパークプラグ用の接地側電極の製造において具体化したが、スパークプラグ用の中心電極の製造においても、同様に適用できるのは上述したとおりである。すなわち、その中心電極をなすべき中心電極本体の先端(放電用火花ギャップをなす端)に貴金属チップを溶接する場合においても適用できる。上述もしたように、このような貴金属チップは、通常、円柱体(又は円板)となるため、重ね合せ面が円形となり、したがって、溶接ラインWLは円周となるが、このような場合には、その溶接部材をその円の中心を回転中心として例えば1回転させながら、重ね合せ面の端縁である円周にレーザ光を照射することで、その端縁(円周)にレーザ光を走査させることができる。これにより、円周に沿って、半径方向における所定の幅を溶かし込み深さとする所定の溶かし込み深さ範囲の溶接が得られる。すなわち、本発明における溶接ラインは直線に限定されるものではない。なお、レーザ溶接は、YAGレーザ溶接、COレーザ溶接等公知の各種のものに適用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 部材(接地側電極本体)
10a,20a 重ね合せ面
20 部材(貴金属チップ)
20e 端縁
31 スパークプラグ用の接地側電極(溶接接合体)
60 スパークプラグ用の中心電極
100 スパークプラグ
La レーザ光
WL 溶接ライン
S1 溶接(照射)の開始位置
S2 終端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8