特許第6871008号(P6871008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871008リチウムイオン二次電池用電解質及びそれを用いたリチウムイオン二次電池用電解液並びにリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871008
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電解質及びそれを用いたリチウムイオン二次電池用電解液並びにリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20210426BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210426BHJP
   C07F 5/02 20060101ALN20210426BHJP
   C07F 9/146 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/052
   !C07F5/02 B
   !C07F5/02 C
   !C07F9/146
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-24295(P2017-24295)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-133146(P2018-133146A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−069328(JP,A)
【文献】 特開2007−165125(JP,A)
【文献】 特開2014−053193(JP,A)
【文献】 特開2008−282617(JP,A)
【文献】 特開2015−035420(JP,A)
【文献】 特開2016−100100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/05−10/0587
H01G 11/00−11/86
C07F 1/00−5/06
C07F 9/00−19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表され、下記rが下記式(1)を満たすことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用電解質。
【化1】
[一般式(I)において、Mは、B、Al、Ga、P、As又はSbを表し、rは、0<r<1の数を表し、mは1〜2、nは1〜4、qは0又は1の整数を表し、Rは、C〜C10のアルキレン、C〜C10のハロゲン化アルキレン、C〜C20のアリーレン又はC〜C20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンは、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。)を表し、Rは、ハロゲンを表し、X、Xは、O、S、Se又はNをそれぞれ表す。]
2.0×10−6≦r≦1.0×10−2・・・(1)
【請求項2】
前記qが0であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電解質。
【請求項3】
前記X及び前記XがOであることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用電解質。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電解質と、非水溶媒とを含有し、
前記リチウムイオン二次電池用電解質の濃度が0.005〜1.5mol/Lであることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項5】
さらに、LiPFを含むことを特徴とする、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用電解液。
【請求項6】
正極、負極及び請求項4または5に記載のリチウムイオン二次電池用電解液を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池用電解質及びそれを用いた電解液並びに電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型、軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。これらリチウムイオン二次電池では、電解質としてリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水系電解液を使用したものが主流となっている。
【0003】
このようなリチウム塩を電解質とする様々な化合物について多くの検討がなされているが、リチウム電池用電解質として実用化されている六フッ化リン酸リチウム(LiPF)は、耐熱性や耐加水分解性に劣るといった問題を有する。そこで、特許文献1では、下記一般式(X)で表される化学構造式よりなる電気化学デバイス用電解質が提案されている。
【0004】
【化1】
【0005】
一般式(X)中、Mは、B、またはP、Aa+は、Liイオン、aは1、bは1、pは1、mは1〜2、nは1〜4、qは0または1をそれぞれ表し、Rは、C〜C10のアルキレン、C〜C10のハロゲン化アルキレン、C〜C20のアリーレン、またはC〜C20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよく、またm個存在するRはそれぞれが結合してもよい。)、Rは、ハロゲン、X、Xは、Oをそれぞれ示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3722685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の電解質では、従来の電解質と比べて、耐熱性、耐加水分解性が向上しており、電解質を用いた電池を可能としている。
しかしながら、リチウムイオン二次電池においては、充放電を繰り返して行うことができるサイクル数(サイクル特性)を向上させることが求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の電解質と比べて、サイクル特性に優れた、非水二次電池用電解質及びそれを用いた電解液並びに電池を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]一般式(I)で表される非水二次電池用電解質。
【0010】
【化2】
【0011】
一般式(I)において、Mは、B、Al、Ga、P、As又はSbを表し、rは、0<r<1の数を表し、mは1〜2、nは1〜4、qは0又は1の整数を表し、Rは、C〜C10のアルキレン、C〜C10のハロゲン化アルキレン、C〜C20のアリーレン又はC〜C20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンは、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。)を表し、Rは、ハロゲンを表し、X、Xは、O、S、Se又はNをそれぞれ表す。
【0012】
[2]前記qが0であることを特徴とする、[1]に記載の非水二次電池用電解質。
[3]前記X及び前記XがOであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の非水二次電池用電解質。
[4]前記rが、下記式(1)を満たすことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の非水二次電池用電解質。
2.0×10−6≦r≦1.0×10−2・・・(1)
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の非水二次電池用電解質と、非水溶媒とを含有する電解液。
[6]前記非水二次電池用電解質の濃度が0.005〜1.5mol/Lであることを特徴とする、[5]に記載の電解液。
[7]さらに、LiPFを含むことを特徴とする、[5]または[6]に記載の電解液。
[8]正極、負極及び[5]〜[7]のいずれかに記載の電解液を有することを特徴とする電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の電解質と比べて、サイクル特性に優れた、非水二次電池用電解質及びそれを用いた電解液並びに電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の非水二次電池用電解質(以下、「一般式(I)の電解質」ともいう。)は、イオン性金属錯体構造を採っており、その中心となるMは、遷移金属、周期律表の第13族又は第15族元素から選ばれる。好ましくは、Al、B、Ga、P、As又はSbのいずれかであり、さらに好ましくは、B(ホウ素)又はP(リン)である。種々の元素を中心のMとして利用することは可能であるが、Al、B、Ga、P、As、またはSbの場合、比較的合成も容易であり、さらに、B、またはPの場合、合成の容易性のほか、低毒性、安定性、コストとあらゆる面で優れた特性を有する。
【0015】
次に、一般式(I)の電解質におけるイオン性金属錯体の特徴となる配位子の部分について説明する。以下、本明細書では、Mに結合している有機または無機の部分を配位子という。
【0016】
一般式(I)中のRは、炭素数1〜10(以下、C〜C10のように略記する)のアルキレン、C〜C10のハロゲン化アルキレン、C〜C20のアリーレン及びC〜C20のハロゲン化アリーレンから選ばれるものよりなるが、これらのアルキレン及びアリーレンは、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりにハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基、また、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、イオウ、酸素が導入された構造等を挙げることができる。
に付してある定数qは0又は1の整数を表す。qが1の場合、一般式(I)中のRは、上述した構造等を有するが、qが0の場合は、2つのカルボニル炭素が直接結合した構造を有する(例えば、化学式(II)の化合物)。qが0の場合は、Mを含む環状構造が五員環になるため、後述するキレート効果が最も強く発揮され、化学的安定性が増すため好ましい。
【0017】
【化3】
【0018】
一般式(I)中のRは、ハロゲンを表し、特にフッ素が好ましい。Rがフッ素の場合、その強い電子吸引性による電解質の解離度の向上とサイズが小さくなることによる移動度の向上の効果により、イオン伝導性が非常に高くなる。
【0019】
一般式(I)中のX、Xは、それぞれ独立に、O、S、Se又はNであり、これらのヘテロ原子を介して配位子がMに結合する。X、Xは、合成が容易であることから、Oが好ましい。この化合物の特徴として同一の配位子内にXとXによるMとの結合があるため、これらの配位子がMとキレート構造を構成している。このキレート構造を構成する効果(キレート効果)により、この化合物の耐熱性、化学的安定性、耐加水分解性が向上している。
【0020】
ここまでに説明した配位子の数に関係する整数m及びnは、中心のMの種類によって決まってくるものであるが、mは、1から2、nは、1から4が好ましい。
【0021】
一般式(I)の電解質は、カチオン種としてリチウム、ナトリウムの双方を含有する。一般式(I)の電解質のカチオン種にリチウムに加えてナトリウムを含むことで、電池としたときのサイクル特性の向上を図ることができる。
【0022】
rは、リチウムとナトリウムのモル基準の存在比率の合計を1とした場合のナトリウムの存在比率(固体の電解質におけるNa/Li比)である。一般式(I)の電解質は、カチオン種としてリチウムとナトリウムの双方を含有するため、rは、0より大きく1より小さい値となる(0<r<1)。通常、一般式(I)の電解質を有機溶媒に溶解した電解液中には、リチウムイオンの方がはるかに多く存在するため、(1−r)>>rとなる。
【0023】
rは、下記式(1)を満たすことが好ましい。
2.0×10−6≦r≦1.0×10−2・・・(1)
rが前記下限値以上であれば、高い容量維持率、高い容量発現率、あるいはその両方を可能とすることができるという利点があり、前記上限値以下であると、高い容量発現率を可能とするという利点がある。
【0024】
本発明の一般式(I)で表される化合物は、強力な電子吸引性のカルボニル基(C=O基)を有することにより、アニオンが安定化され、アニオンとカチオンの電荷の分離が容易になる。すなわち、アニオンとカチオンが解離しやすい状態となる。
電解質と呼ばれる塩類は、無数に存在するが、大部分は水には溶解、解離してイオン伝導をする。しかし、水以外の有機溶媒等には溶解すらしない場合が多い。このような水溶液も電解液に使用することは可能であるが、溶媒である水の分解電位が低く、酸化還元に弱いため、制約が多い。例えば、リチウム電池などでは、そのデバイスの電極間の電位差が3V以上になるため、水は水素と酸素に電気分解されてしまう。一方、有機溶媒や高分子はその構造により、水よりも酸化還元に強いものも多いため、リチウム電池や電気二重層キャパシタといった高電圧を必要とするデバイスに用いられる。
【0025】
一般式(I)の電解質は、上記のようにC=O基の効果と従来の電解質に比べ、アニオンサイズを大きくした効果により、有機溶媒に非常に溶解しやすく、しかも、解離しやすい。このため、これらの有機溶媒との溶液は、リチウム電池等のデバイスの優秀なイオン伝導体として使用できる。一般に有機物と金属の錯体は加水分解を受けやすく、化学的にも不安定なものが多い。一方、一般式(I)の電解質は、キレート構造を有するため、非常に安定であり、加水分解などを受けにくく、耐加水分解性に優れる。また、一般式(I)で表される化学構造中にフッ素を有するものは、その強い電子吸引効果により、イオン伝導度が向上し、耐酸化性等の化学的安定性もさらに増加し、より好ましい。
【0026】
一般式(I)の電解質は、上述したようにリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタといった電気化学デバイスの電解質として用いることができる。
【0027】
一般式(I)の電解質の合成法は、特に限定されるものではないが、例えば、次に示した化学式(II)の化合物の場合、非水溶媒中でLiBFと微量のNaBF、2倍モルのリチウムアルコキシドを反応させた後、シュウ酸を添加して、ホウ素に結合しているアルコキシドをシュウ酸で置換することにより合成できる。
電解質中のナトリウムの存在比率rは、例えば、一般式(I)の電解質を上述した方法で合成する際に、添加するNaBFの添加量によって調整される。
ナトリウム源としては、ナトリウム源となるナトリウムを含む電解質を用いることができる。例えば、上記のNaBFの他、(COO)Na、NaClO等が挙げられる。
【0028】
【化4】
【0029】
本実施形態の電池は、正極、負極及び電解液を有する電池である。
本実施形態の電解液は、一般式(I)の電解質と、非水溶媒とを含有する。
本実施形態の電池は、一般式(I)の電解質を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、イオン伝導体、正極、負極、セパレータ及び容器等を備えて構成される。
【0030】
イオン伝導体としては、電解質と非水溶媒又はポリマーの混合物が用いられる。非水溶媒を用いれば、一般にこのイオン伝導体は電解液と呼ばれ、ポリマーを用いれば、ポリマー固体電解質と呼ばれるものになる。ポリマー固体電解質には可塑剤として非水溶媒を含有するものも含まれる。ここに挙げられた電解質としては、一般式(I)の電解質を一種類、又は二種類以上の混合物で用いる。電解質を二種類以上混合する場合は、一般式(I)に該当しない電解質(その他の電解質)を含んでもよい。この場合、一種類は、必ず一般式(I)の電解質を含有する。その他の電解質としては、一般的なリチウム塩類、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO)およびLiSbF等を使用することもできる。電池を高電圧、高エネルギー密度にできる観点から、LiPFが好ましい。
【0031】
本実施形態の電解液は、一般式(I)の電解質と、非水溶媒とを含有する。本実施形態の電解液の製造方法は特に限定されず、例えば、一般式(I)の電解質を所定の量計り取り、エチレンカーボネート等の非水溶媒に混合し、任意の温度で任意の時間攪拌することにより電解液が得られる。
この方法によれば、電解液中に別途ナトリウムイオンを添加する必要がなく、容易に、適切なナトリウムイオン濃度の電解液を調製することができる。
電解液中のナトリウムイオン濃度としては、0.01〜15000μMが好ましく、0.02〜15000μMがより好ましく、0.2〜10000μMがさらに好ましい。電解液中のナトリウムイオン濃度が、前記範囲内であると、電池のサイクル特性をより向上しやすい。
【0032】
イオン伝導体が電解液の場合、一般式(I)の電解質の濃度は、0.005〜1.5mol/L(以下、Mと略記することもある。)が好ましく、0.01〜1.5Mがより好ましく、0.1〜1Mがさらに好ましい。一般式(I)の電解質の濃度が、前記下限値以上であれば、電池のサイクル特性及び電解液の保存安定性を向上しやすい。前記上限値以下であれば、電極表面上での電解質の分解等の副反応によるガスの発生等を抑制しやすい。
【0033】
電解液中に電解質を二種類以上含有する場合は、その他の電解質の濃度は、0.01〜2Mが好ましく、0.05〜1.5Mがより好ましく、0.1〜1Mがさらに好ましい。その他の電界質の濃度が、前記下限値以上であれば、電池のエネルギー密度を向上しやすい。その他の電解質の濃度が、前記上限値以下であれば、電極表面上での電解質の分解等の副反応によるガスの発生等を抑制しやすい。
【0034】
電解液中に電解質を二種類以上含有する場合の一般式(I)の電解質の濃度及びその他の電解質の濃度の合計は、0.015〜3.5Mが好ましく、0.06〜3Mがより好ましく、0.2〜2.5Mがさらに好ましい。一般式(I)の電解質の濃度及びその他の電解質の濃度の合計が、前記下限値以上であれば、電池のサイクル特性、電解液の保存安定性及び電池のエネルギー密度を向上しやすい。一般式(I)の電解質の濃度及びその他の電解質の濃度の合計が、前記上限値以下であれば、電極表面上での電解質の分解等の副反応によるガスの発生等を抑制しやすい。
【0035】
非水溶媒としては、一般式(I)の電解質を溶解できる非プロトン性の溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類等が使用できる。また、単一の溶媒だけでなく、二種類以上の混合溶媒でもよい。具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、およびγ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0036】
また、電解質に混合するポリマーとしては、一般式(I)の電解質が分散される非プロトン性のポリマーであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレンオキシドを主鎖または側鎖に持つポリマー、ポリビニリデンフロライドのホモポリマーまたはコポリマー、メタクリル酸エステルポリマー、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのポリマーに可塑剤を加える場合は、上記の非プロトン性非水溶媒が使用可能である。これらのイオン伝導体中における一般式(I)の電解質濃度は、0.1M以上飽和濃度以下が好ましく、0.5M以上1.5M以下がより好ましい。一般式(I)の電解質濃度が、前記下限値以上であると、イオン伝導性を向上しやすく、前記上限値以下であるとイオン伝導体の安定性が増加しやすい。
【0037】
本実施形態の電池において、正極の材質は特に限定されないが、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の電池において、負極の材質は特に限定されないが、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0039】
本実施形態の電池において、セパレータの材質は、特に限定されないが、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0040】
本実施形態の電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
【0041】
本実施形態の電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、一般式(I)の電解質、前記電解液及び電極を使用して製造すればよい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0043】
[製造例1]
テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)27.4g、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF)0.013mgをアセトニトリルに室温で溶解して200gとした溶液を溶液Yとした。溶液Yを調整する際、NaBF13mgを200gのアセトニトリルに溶解した溶液を100μL量り取り、アセトニトリルを加え100mLとしたNaBF1000倍希釈溶液を用いた。以下、NaBFを用いた製造例においても同様とした。溶液Y10gにリチウムヘキサフルオロイソプロポキシド(LiOCH(CF)5.09gをゆっくりと添加した。その後、60℃で3時間撹拌して反応させた。このとき、フッ化リチウムが析出した。こうして得られた反応液にシュウ酸1.31gを添加して、60℃で1時間撹拌して反応させた。次にこの反応液をろ過して、フッ化リチウム、フッ化ナトリウムを分離し、得られたろ液の溶媒を60℃、10−1Paの減圧条件で除去し、白色の固体が1.90g得られた。この固体を100℃、10−1Paの減圧条件で24時間乾燥することにより、化学式(II)で表されるジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムナトリウム(以下、Li・NaDFOBと略記する。Li・Naの符号は、分子中にリチウムとナトリウムが併存していることを表す。)1.90g(収率:91%)を得た。本製造例で得られた電解質をA−1とする。得られた電解質A−1のナトリウムの存在比率rをカチオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社製、商品名:ICS−1500)で測定したところ、2ppmであった。なお、本明細書におけるppmは、リチウムとナトリウムのモル基準の存在比率の合計を1とした場合のナトリウムの存在比率(固体の電解質におけるNa/Li比)を表す。
【0044】
【化5】
【0045】
[製造例2]
非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(EC/DEC=3/7(体積比))をサンプル瓶に量り取り、製造例1で得られた電解質A−1を加えて、Li・NaDFOBの濃度が0.1M、LiPFの濃度が1Mとなるようにし、23℃で混合し、攪拌することで、電解液E−1を得た。
【0046】
[製造例3]
添加するNaBFの量を0.13mgとして、製造例1と同様にして電解質A−2を得た。得られた電解質A−2のナトリウムの存在比率rを測定したところ、20ppmであった。添加する電解質を電解質A−2に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液E−2を得た。
【0047】
[製造例4]
ヘキサフルオロリン酸リチウム200.0g、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム4.4mgをエチルメチルカーボネートに溶解して800gとした溶液Zを作成し、溶液Z80gに、シュウ酸を12.1g仕込み、攪拌した。次に四塩化ケイ素10.9gを1時間かけて導入した。導入終了後、1時間攪拌を継続したのち、反応器を減圧にし、溶媒を15g留去し、溶存する塩化水素、四フッ化ケイ素を除去した。得られた固体をエチルメチルカーボネート/ヘキサンで精製し、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムナトリウム(以下、Li・NaTFOPと略記する。化学式(III)。)を得た。得られた電解質をB−1とする。得られた電解質B−1のナトリウムの存在比率rを測定したところ、20ppmであった。添加する電解質を電解質B−1に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液F−1を得た。
【0048】
【化6】
[製造例5]
ヘキサフルオロリン酸リチウム200.0g、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム4.4mgをエチルメチルカーボネートに溶解して800gとした溶液Zを作成し、溶液Z80gに、シュウ酸を24.3g仕込み、攪拌した。次に四塩化ケイ素22.4gを1時間かけて導入した。導入終了後、1時間攪拌を継続したのち、反応器を減圧にし、溶媒を15g留去し、溶存する塩化水素、四フッ化ケイ素を除去した。得られた固体をエチルメチルカーボネート/ヘキサンで精製し、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムナトリウム(以下、Li・NaDFOPと略記する。化学式(IV)。)を得た。得られた電解質をC−1とする。得られた電解質C−1のナトリウムの存在比率rを測定したところ、20ppmであった。添加する電解質を電解質C−1に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液G−1を得た。
【0049】
【化7】
【0050】
[製造例6]
添加するヘキサフルオロリン酸ナトリウムの量を22mgとして、製造例5と同様にして電解質C−2を得た。得られた電解質C−2のナトリウムイオンの存在比率(r)を測定したところ、100ppmであった。添加する電解質を電解質C−2に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液G−2を得た。
【0051】
[製造例7]
Li・NaDFOBの濃度が1Mとなるようにした以外は、製造例3と同様にして電解液E−3を得た。
【0052】
[製造例8]
製造例3で得られた電解質A−2を加えて、Li・NaDFOBの濃度が2M、LiPFの濃度が1Mとなるようにし、製造例2と同様に、23℃で混合し、攪拌したが、未溶解分が残り、均一な電解液とならなかった。
【0053】
[製造例9]
6.0gのシュウ酸を水で希釈して200mlの溶液とし、10.44gのホウ酸を水で希釈して130mlの溶液として、それぞれの溶液を混合した。そこへ2.8M水酸化ナトリウム水溶液60mlをゆっくりと添加した。その後、55℃で12時間攪拌して反応させた。こうして得られた反応液を冷却し、析出した固体をろ過して、ビス(オキサラト)ホウ酸ナトリウムを得た。得られたビス(オキサラト)ホウ酸ナトリウムをアセトニトリルで再結晶し、精製されたビス(オキサラト)ホウ酸ナトリウムを得た。これに、市販のビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを加え、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムナトリウム(以下、Li・NaBOBと略記する。化学式(V)。)を得た。得られた電解質をD−1とする。得られた電解質D−1のナトリウムの存在比率rを測定したところ、20ppmであった。添加する電解質を電解質D−1に変更し、Li・NaBOBの濃度が0.05Mとなるようにした以外は、製造例2と同様にして電解液H−1を得た。
【0054】
【化8】
【0055】
[製造例10]
添加するNaBFの量を0.0007mgとして、製造例1と同様にして電解質A−3を得た。得られた電解質A−3のナトリウムの存在比率rを測定したところ、0.1ppmであった。添加する電解質を電解質A−3に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液E−4を得た。
【0056】
[製造例11]
添加するNaBFの量を0.007mgとして、製造例1と同様にして電解質A−4を得た。得られた電解質A−4のナトリウムの存在比率rを測定したところ、1ppmであった。添加する電解質を電解質A−4に変更した以外は、製造例2と同様にして電解液E−5を得た。
【0057】
以下に示す実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池(シート型のラミネート電池)の作製は、すべてドライボックス内又は真空デシケータ内で行った。
【0058】
[実施例1]
正極活物質を含む固形成分100質量部と、導電助剤としてカーボンブラックを5質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部と、溶媒としてNMPからなるスラリーを混合し、固形分45%に調整後、アルミニウム箔に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。電極を4kNで加圧プレスし、さらに電極寸法の40mm角に打ち抜き、正極を作製した。
負極活物質を含む固形成分100質量部と、結着材としてスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを1.5質量部と、水溶媒からなるスラリーを混合し、固形分50%に調整後、スラリーを銅箔に塗布し、100℃で乾燥した。電極を2kNで加圧プレスし、さらに電極寸法の42mm角に打ち抜き、負極を作製した。
正極、負極、セパレータを積層し、製造例2で得られた電解液E−1を注入し、封止してシート型のラミネート電池を作製した。電池評価を実施したところ、初期放電容量は50mAhであった。
【0059】
[実施例2〜6、比較例1〜4]
表1〜2に記載の各電解液を用いて、実施例1と同様にしてラミネート電池を作製した。比較例1では、電解液を得ることができなかったため、ラミネート電池を作製することができなかった。
【0060】
上記各実施例及び比較例のラミネート電池を、25℃において電流値1Cで4.2Vまで充電した後、電流値1Cで2.7Vまで放電した。この充放電サイクルを繰り返し行い、1000サイクル繰り返した後の容量維持率(%)と、レート2Cでの容量発現率(%)を測定し、サイクル特性とレート特性を評価した。結果を表1〜2に示す。表中、DFOB等の符号は、一般式(I)の電解質におけるアニオン種の略号を表す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1〜2に示すように、本発明を適用した実施例1〜6は、サイクル特性がいずれも75%以上であった。また、実施例1〜6は、レート特性がいずれも85%以上であった。
一方、一般式(I)のアニオンにハロゲンを含有しない電解質を用いた比較例2では、サイクル特性が66%、レート特性が70%と低い値だった。
ナトリウムの存在比率rが2ppm未満の比較例3〜4では、サイクル特性が71%以下だった。
【0064】
本発明によれば、従来の電解質と比べて、サイクル特性に優れた、非水二次電池用電解質及びそれを用いた電解液並びに電池を提供できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。