(54)【発明の名称】脂肪族ポリケトン共押出積層フィルム及びその延伸フィルム、これらを用いた転写フィルム、並びにこれらに用いる脂肪族ポリケトン接着用の接着性樹脂組成物
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  セパレータ層と、前記セパレータ層の一方の面上に設けられた易剥離性接着性樹脂層と、前記易剥離性接着性樹脂層の一方の面上に設けられた脂肪族ポリケトン層とをこの順に少なくとも備え、
  前記脂肪族ポリケトン層の厚みが0.005〜0.5mmであり、前記易剥離性接着性樹脂層の厚みが0.0005〜0.1mmであり、
  前記脂肪族ポリケトン層は、4〜10のメルトフローインデックス(g/10分、240℃、2.16kg、ASTM  D1238)を有する脂肪族ポリケトン系樹脂を含有し、
  前記易剥離性接着性樹脂層が、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体を、不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィンからなる
ことを特徴とする、脂肪族ポリケトン層の転写フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
  以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の実施態様の例(代表例)であり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。さらに、(共)重合体は、1のみの重合成分からなる単独重合体、2以上の共重合成分からなる共重合体の双方を包含する意味で用いる。
 
【0016】
<脂肪族ポリケトン積層フィルム>
  本実施形態の脂肪族ポリケトン積層フィルムは、脂肪族ポリケトン層と、この脂肪族ポリケトン層上に設けられた接着性樹脂層を少なくとも備える。なお、本明細書において、脂肪族ポリケトン層上に設けられたとは、脂肪族ポリケトン層と接着性樹脂層とが接して設けられていることを意味し、脂肪族ポリケトン層と接着性樹脂層とが他の層を介して離間して設けられた態様、すなわち非接触の態様を意図するものではない。以下、各層について詳述する。
 
【0017】
(脂肪族ポリケトン層)
  脂肪族ポリケトン層は、熱可塑性樹脂である脂肪族ポリケトンを含む樹脂層である。脂肪族ポリケトンは、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を少なくとも有するものである。
 
【0019】
  このような脂肪族ポリケトンは、当業界で公知であり、例えば、一酸化炭素(CO)とエチレン(C
2 H
4 )とを、必要に応じてさらに他の共重合成分とともに重合することにより得ることができる。かかる脂肪族ポリケトンは、カルボニル基と直鎖状又は分岐状の2価のアルキレン基とが交互につながった交互直鎖(リニアー)構造を有する線状重合体であり、比較的に高融点で、強度且つガスバリア性に優れる、半結晶性の樹脂である。また、耐溶剤性に優れており、比較的に安価な主原料を用いているため低価格が期待されている。
 
【0020】
  下記式(1)で表される繰り返し構造単位を少なくとも有する脂肪族ポリケトンの具体例としては、一酸化炭素及びエチレンを重合させたケトン−エチレンコポリマーの他、これに他の共重合成分を共重合させたもの等が挙げられる。他の共重合成分としては、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン及び1−ペンテン等の炭素数3〜12のα−オレフィン;ブタジエン、イソプレン及び2−クロロブタジエン−1,3等のジエン化合物;ビニリデンクロリド等のビニリデン化合物;テトラフルオロエチレン;酢酸ビニル、塩化ビニル、クロロ酢酸ビニル、ジメチル酢酸ビニル及びトリメチル酢酸ビニル等のビニルハロゲン化物又はそのエステル或いはアセタール;ビニルメチルケトン及びビニルエチルケトン等のビニルケトン類;スチレン、クロロスチレン及びα−メチルスチレン等のスチレン又はその誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのエステル、アミド、ニトリル及び酸ハロゲン化物;ヘキセン酸ビニル、クロトン酸ビニル等の不飽和カルボン酸のビニルエステル等が挙げられるが、これらに特に限定されない。他の共重合性分は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0021】
  これら中でも、他の共重合成分としては、炭素数3〜8の直鎖状又は分岐状のα−オレフィンが好ましく、より好ましくは炭素数3〜5の直鎖状又は分岐状のα−オレフィンであり、さらに好ましくはプロピレンである。
 
【0022】
  脂肪族ポリケトンの好適例としては、ケトン−エチレンコポリマー、ケトン−エチレン−プロピレンターポリマーが挙げられる。脂肪族ポリケトンが3元系以上の共重合体である場合、エチレンと他の共重合成分とモル比は、特に限定されないが、1より大きいことが好ましく、より好ましくは2〜30である。
 
【0023】
  脂肪族ポリケトンは、当業界で公知の方法により重合することにより製造することができ、その製造方法は特に限定されない。例えば銀塩と過酸化物を触媒とし、銀塩とエチレンの錯化合物を形成してこれを水に溶解し、この溶解液中に一酸化炭素ガスを吹き込んでエチレンと共重合させた後、過酸化物と錯化合物中の銀を酸化還元反応させて銀を取り除く方法がある。また、ペルオキシエステルの存在下で一酸化炭素とエチレンとの混合物を反応させ共重合体を得る方法がある。また近年では、メタノール中での懸濁重合や固定化触媒を用いた気相重合、さらにはパラジウム(II)触媒を用いて重合する方法がある。また、特開昭47−32100号、特公平5−87527号、特公平6−13608号、米国特許第3694412号公報、米国特許第4880903号、欧州特許第181014号公報、欧州特許第121965号公報等においても具体的に開示されている。
 
【0024】
  脂肪族ポリケトンの融点(ASTM  D3418準拠)は、特に限定されないが、175〜300℃が好ましく、より好ましくは190〜280℃であり、さらに好ましくは200〜270℃である。脂肪族ポリケトンのホモポリマーの融点は、約270℃であるが、脂肪族ポリケトンのホモポリマー中に、プロピレンやブテン等の他の共重合成分を共重合させることにより、融点を175〜240℃程度に下げることができる。このように低融点化した脂肪族ポリケトンを用いれば、耐熱性と成形加工性とを兼ね備えた脂肪族ポリケトン層が得られ易い傾向にある。
 
【0025】
  また、脂肪族ポリケトンのメルトフローインデックス(MFI)は、特に限定されないが、1〜70g/10分が好ましく、より好ましくは2〜65g/10分、さらに好ましくは3〜30g/10分、特に好ましくは4〜10g/10分である。MFIが小さいほど、高い成形加工性と耐熱性とを兼ね備えた脂肪族ポリケトン層が得られ易い傾向にある。なお、脂肪族ポリケトンのMFIは、ASTM  D1238準拠に準拠し、240℃、荷重2.16gの条件下で測定される値を意味する。
 
【0026】
  一方、脂肪族ポリケトンの密度(ASTM  D792準拠)は、1.15〜1.30g/cm
3が好ましく、より好ましくは1.20〜1.28g/cm
3、さらに好ましくは1.22〜1.26g/cm
3である。
 
【0027】
  なお、脂肪族ポリケトンのカルボニル基を還元して、カルボニル基をヒドロキシメチレンに転化した水添脂肪族ポリケトンを用いることもできる。脂肪族ポリケトンのカルボニル基を還元することにより分子がより安定した構造となるため、脂肪族ポリケトンの物性がさらに向上される傾向にある。なお、水添脂肪族ポリケトンにおいて、カルボニル基の水素転化率は、特に限定されないが、50%以上が好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは95%である。
 
【0028】
  なお、上記の脂肪族ポリケトンとして、市販品を用いることもできる。例えば、シェル化学社製の商品名「Carilon  DP  P1000」、ヒョソン社製のポリケトン、商品名「POLYKETONE」、BP  Chemical社製の商品名「Ketonex」等が市販されており、これらの各種グレードのものを好適に用いることができる。
 
【0029】
  脂肪族ポリケトン層は、上述した脂肪族ポリケトンを含有する樹脂層であればよいが、必要に応じて、当業界で公知の各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、具体的には、プロセス油、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。これら添加剤を用いる場合、これらの含有量は限定されないが、脂肪族ポリケトン層の総量基準で、通常0.01質量%以上、好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下である。これらの中でも、熱酸化安定性等の観点から、酸化防止剤を含有していることが好ましい。ここで用いることのできる酸化防止剤としては、チバガイギー社製の商品名「Irganox1076」等のフェノール系化合物、芳香族アミン類及びこれらの混合物、トリフェニルホスファイト等のホスファイト類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。酸化防止剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、脂肪族ポリケトン層の総量基準で0.01〜0.5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜0.3質量%である。
 
【0030】
(接着性樹脂層)
  接着性樹脂層は、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体を、不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィンを少なくとも含有する。なお、本明細書において、「変性ポリオレフィン」とは、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性したものを意味し、不飽和カルボン酸又はその誘導体の結合位置は、特に限定されず、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体の主鎖末端及び側鎖の少なくとも一方に導入されていればよい。
 
【0031】
  原料として用いるエチレン・α−オレフィン共重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体は、エチレン又はプロピレンとα−オレフィンとの共重合体である。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体とは、それぞれ、エチレン又はプロピレンをモノマー単位の50モル%以上の組成で含有する共重合体を意味する。
 
【0032】
  α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数2〜20のα−オレフィンが好ましく、より好ましくは炭素数2〜8のα−オレフィンである。α−オレフィンは、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0033】
  また、必要に応じて、エチレン・α−オレフィン共重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体は、上記のα−オレフィン以外の共重合成分(以下、「他の共重合成分」とも称する。)を含有していてもよい。他の共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する(以下、同様とする)。なお、他の共重合成分は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0034】
  エチレン・α−オレフィン共重合体の具体例としては、エチレン含有量が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%のエチレン・α−オレフィン共重合体であり、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・ブテン・ヘキセン共重合体、エチレン・ブテン・オクテン共重合体、エチレン・ヘキセン・オクテン共重合体、及び、これらに酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等をさらに共重合させたもの等が挙げられる。
 
【0035】
  また、プロピレン・α−オレフィン共重合体としては、プロピレン含有量が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%のプロピレン・α−オレフィン共重合体であり、例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ヘキセン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体、及び、これらに酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等をさらに共重合させたもの等が挙げられる。
 
【0036】
  これらの中でも、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体が安価で容易に入手することができ、経済性に優れるため好ましい。なお、原料として用いるエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0037】
  原料として用いるエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体の密度(JIS  K6922−1,2:1997準拠)は、特に限定されないが、0.85g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm
3以上であり、一方、0.96g/cm
3以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm
3以下である。
 
【0038】
  また、原料として用いるエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、成形性等の観点から、0.01〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜10g/10分、さらに好ましくは2〜8g/10分である。ここで、エチレン・α−オレフィン共重合体のMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。また、プロピレン単独重合体及びプロピレン・α−オレフィン共重合体のMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。
 
【0039】
  上記のエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合やプロピレン・α−オレフィン共重合体は、各種グレードのものが国内外のメーカから数多く市販されており、その市販品を用いることができる。
 
【0040】
  本実施形態で用いる変性ポリオレフィンは、前記のエチレン・α−オレフィン共重合体及び/又はプロピレン単独重合及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体が、不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性されている。
 
【0041】
  不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されないが、代表的には酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
 
【0042】
  また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。具体的には、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N,N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、Nブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等が挙げられる。
 
【0043】
  不飽和カルボン酸又はその誘導体は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特にマレイン酸、マレイン酸無水物が好ましい。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。不飽和カルボン酸又はその誘導体は、これらのうち、特にマレイン酸又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
 
【0044】
  上述したグラフト変性は、従来公知の種々の方法で行うことができる。変性方法としては、溶融させた上記(共)重合体に不飽和カルボン酸又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶融変性法、溶媒に溶解させた上記(共)重合体に不飽和カルボン酸又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶液変性法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。溶融変性法としては、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、押出機等を使用して当該(共)重合体の融点以上(例えば170〜290℃)で溶融し、通常0.5〜10分間反応させる方法が挙げられる。また、溶液変性法としては、有機溶剤中に、エチレン・α−オレフィン共重合体及び/又はプロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体と不飽和カルボン酸又はその誘導体と必要に応じてラジカル開始剤等を投入し、当該(共)重合体の融点以上(例えば170〜290℃)の温度で、通常0.5〜15時間、好ましくは1〜10時間反応させる方法が好ましい。これらの中でも、衛生性の観点から、溶媒を使用しなくてもよい溶融変性法が好ましく、押出機を用いてグラフト変性することがより好ましい。なお、効率よくグラフト変性するためには、ラジカル開始剤の存在下に変性することが好ましい。
 
【0045】
  ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物又はアゾ化合物が好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,4−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレエート、2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(トルイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類;ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ラジカル開始剤は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0046】
  これらの中でも、半減期が1分となる分解温度が100℃以上であるラジカル開始剤がグラフト変性効率の観点から好ましい。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、又は、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類が好ましい。ラジカル開始剤の使用量は、特に限定されないが、原料となるエチレン・α−オレフィン共重合体100質量部に対して、0.001質量部以上1質量部以下の割合が好ましい。
 
【0047】
  変性ポリオレフィン中の不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有割合(以下、「グラフト率」と称する場合がある。)は、特に限定されないが、変性ポリオレフィンの総量に対して、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、一方、20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。原料として使用するエチレン・α−オレフィン共重合体及び/又はプロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体、不飽和カルボン酸又はその誘導体によっても変動するが、グラフト率が前記好ましい含有割合の範囲を外れる場合には、脂肪族ポリケトン層との接着性が劣る傾向にあり、或いは溶融粘度が増大又は低下して成形性の低下や、成形した際の外観不良が生じ易くなる傾向にある。
 
【0048】
  ここで、グラフト率の測定は、例えば以下の方法で行うことができる。すなわち、まず圧縮成形機等を用いて、変性ポリオレフィンから厚さ0.1〜0.4mmのシート状のプレスサンプルを作成する。次に、フーリエ変換型赤外分光光度計にて、プレスサンプル中のカルボン酸又はその誘導体特有の吸収である1900〜1600cm
-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。なお、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体及び/又はプロピレン・α−オレフィン共重合体のグラフト変性においては、未反応の不飽和カルボン酸又はその誘導も残留し得るが、本明細書におけるグラフト率とは、上記の通り、変性ポリオレフィンを上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
 
【0049】
  変性ポリオレフィンの密度は、特に限定されないが、0.85g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm
3以上であり、一方、0.96g/cm
3以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm
3以下である。また、変性ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、0.01〜3000g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜2500g/10分である。ここで、変性ポリオレフィンがエチレン・α−オレフィン共重合体の変性物の場合、そのMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。また、変性ポリオレフィンがプロピレン単独重合体又はプロピレン・α−オレフィン共重合体の変性物である場合、そのMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。
 
【0050】
  なお、接着性樹脂層は、本発明の効果を著しく妨げない範囲において、上述のエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体やラジカル開始剤の他に、当業界で公知の各種添加剤やその他の樹脂成分等を含有していてもよい。これらの各種添加剤や他の樹脂成分は、1種のみを単独で用いることができ、また、2種以上を任意の比率で適宜組み合わせて用いることができる。
 
【0051】
  添加剤としては、具体的には、プロセス油、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。これら添加剤を用いる場合のその含有量は限定されないが、接着性樹脂層の総量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.2質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下であることが望ましい。
 
【0052】
  難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が好ましく、具体的には、金属水酸化物、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
 
【0053】
  充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
 
【0054】
  他の樹脂成分としては、具体的には、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等を挙げることができる。
 
【0055】
  また、接着性樹脂層は、上述の変性ポリオレフィン以外のポリオレフィン系樹脂を含んでいてもよい。かかるポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1等の炭素数2以上のα−オレフィンの単独重合体、これら2種類以上のモノマーのランダム共重合体又はブロック共重合体、若しくは、炭素数4以上のα−オレフィンを主成分とし、他のモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体、グラフト共重合体、上述したエチレン・α−オレフィン共重合体やプロピレン・α−オレフィン共重合体であって不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性されていない共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
 
【0056】
  好適態様の1つとして、上述した変性ポリオレフィンからなる接着性樹脂層が挙げられる。この態様の接着性樹脂層は、粘着付与剤の使用が必須とされない。かかる観点から、粘着付与剤は実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、粘着付与剤の含有量が、接着性樹脂層の総量に対して、1質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは0.05質量%未満であることを意味する。なお、本明細書において粘着付与剤とは、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂を水素添加した脂環族系炭化水素樹脂、α−ピネン樹脂、テルペン樹脂、ロジン、変性ロジン及びこれらの混合物等を意味する。
 
【0057】
  また別の好適態様としては、上述した変性ポリオレフィンと、上述したポリオレフィン系樹脂と、エチレンプロピレンゴム類とを少なくとも含有する接着性樹脂層が挙げられる。ここで使用する変性ポリオレフィンとポリオレフィン系樹脂の具体例については、先に述べたとおりである。ここで用いるポリオレフィン系樹脂としては、シングルサイト触媒を使用して重合されたα−オレフィンの共重合体やプロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。エチレンプロピレンゴム類とは、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴムが挙げられる。この態様の接着性樹脂層においては、上述したポリオレフィン系樹脂及びエチレンプロピレンゴム類を併用することで、変性ポリオレフィンの使用割合を低減させたものである。そして、この態様の接着性樹脂層では、変性ポリオレフィンの含有量が、接着性樹脂層の総量に対して、1〜35質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは2〜25質量%である。このとき、上述したポリオレフィン系樹脂の含有量は、接着性樹脂層の総量に対して、40〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは43〜73質量%、さらに好ましくは45〜70質量%である。同様に、エチレンプロピレンゴム類の含有量は、接着性樹脂層の総量に対して、10〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは12〜48質量%、さらに好ましくは15〜45質量%である。ここで、先の好適態様と同様に、この態様においても、粘着付与剤の使用が必須とされない。かかる観点から、粘着付与剤は実質的に含有しないことが好ましく、粘着付与剤の含有量は、接着性樹脂層の総量に対して、1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下である。
 
【0058】
  本実施形態の接着性樹脂層は、上述した変性ポリオレフィンと必要に応じて配合されるラジカル開始剤や上記添加剤等を少なくとも含有する接着性樹脂組成物を、シート状或いはフィルム状に加工することにより得ることができる。かかる接着性樹脂組成物は、脂肪族ポリケトンに対して良好な接着性を有する接着剤として機能し、或いは、脂肪族ポリケトンに対して良好な易剥離性接着剤として機能する。
 
【0059】
  かかる接着性樹脂組成物のMFRは、ハンドリング性や成形加工性等の観点から、特に限定されないが、0.1〜10g/10分が好ましく、より好ましくは0.3〜8.0g/10分、さらに好ましくは0.5〜6.0g/10分である。ここで、原料としてエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合のMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、190℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。また、原料としてプロピレン単独重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合のMFRは、JIS  K7210:1999に準拠し、230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した値を意味する。また、ハンドリング性や成形加工性等の観点から、本実施形態の接着性樹脂組成物の密度(JIS  K6922−1,2:1997準拠)は、特に限定されないが、0.915〜0.930g/cm
3が好ましく、より好ましくは0.917〜0.926g/cm
3、さらに好ましくは0.920〜0.925g/cm
3である。
 
【0060】
  なお、接着性樹脂組成物の調製は、従来公知の方法で行うことができる。例えば混合、混練又は溶融混練等してすればよい。このとき、必要に応じて若干量の溶媒を添加してもよい。混合、混練又は溶融混練の際には、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロール、バンバリーミキサー等を用いて行うことができる。そして、接着性樹脂組成物は、上述した各成分の混合物、混練物或いは溶融混練物として、そのまま用いることができる。このとき、必要に応じて造粒したり、樹脂塊を粉砕する等して、マスターバッチとして用いることもできる。
 
【0061】
(積層フィルム)
  次に、本実施形態の脂肪族ポリケトン積層フィルムについて説明する。
  本実施形態の脂肪族ポリケトン積層フィルムは、脂肪族ポリケトン層(X層)と、この脂肪族ポリケトン層(X層)上に設けられた接着性樹脂層(Y層)を少なくとも備える積層構造体である。また、本実施形態の脂肪族ポリケトン積層フィルムは、上述した層構成を有する積層フィルムを延伸した、延伸積層フィルムであってもよい。このとき、延伸方向は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよく、また逐次延伸であっても、同時延伸であってもよい。なお、本明細書において、積層フィルムとの用語は、上記の層構成を有する薄膜状の積層体を意味するものであり、積層シートや積層体等を包含する概念で用いている。
 
【0062】
  このような積層フィルムや延伸積層フィルムは、従来公知の種々の製法で製造することができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、多層ブロー成形法、多層シート成形法、多層フィルム成形法、多層チューブ成形法、多層ラミネーション成形法、インフレーション成形法、熱圧着法、押出機で溶融させた各層の溶融樹脂を押し出す共押出法や共インジェクション成形法等で製造することができる。これらの中でも、脂肪族ポリケトン積層フィルムは、熱圧着法により成形された熱圧着積層フィルム、共押出法により成形された共押出積層フィルムであることが好ましい。また、これらの成形法の後に、延伸や絞り等の2次加工を施してもよい。さらに、別個に設けた各層に熱をかけてラミネートすることで、本実施形態の積層フィルムを得ることもできる。また、延伸方法としては、例えば、前記方法で得られた未延伸の積層フィルムを冷却固化後、インライン又はアウトラインで60〜240℃の延伸温度まで再加熱し、テンター、プラグ及び圧縮空気等を用い一軸方向、或いは二軸方向に少なくとも面積比で1.5倍以上の延伸を行い、一軸又は二軸延伸成形したフィルム、カップ、ボトル等の延伸成形体を得る方法が挙げられる。インフレーションフィルムの場合、インフレーション同時二軸延伸法、ロール及びテンターによる逐次二軸延伸法等が、カップの場合には、金型内で圧縮空気等のみによる圧空成形、プラグと圧縮空気を併用するSPPF成形等が一般的に用いられている。上記のように延伸して延伸積層フィルムを得た後に、熱固定を行ってもよいし、熱固定をせずに製品としてもよい。すなわち、熱固定を行わない場合は、その後に加熱されたときに応力が開放されて熱収縮する、シュリンクフィルムとして用いることができる。
 
【0063】
  本実施形態の脂肪族ポリケトン積層フィルムは、必要に応じてX層及びY層以外の層(以降において、単に「他の層」と称する場合がある。)を有していてもよく、この場合は3層以上の積層構造体となる。他の層としては、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層、ガスバリア層、セパレータ層等が挙げられる。
 
【0064】
  上記の熱可塑性樹脂層は、構成樹脂として熱可塑性樹脂を含むものである。かかる熱可塑性樹脂層を、ヒートシール層として用いれば脂肪族ポリケトン積層フィルムにヒートシール性を付与でき、また、保護層として用いれば脂肪族ポリケトン積層フィルムの表面保護性が高められる。ここで用いることのできる熱可塑性樹脂としては、エチレン又はプロピレンの単独重合体の他、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及び4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン;アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、α−メチルスチレン等の不飽和芳香族化合物等を共重合成分としたオレフィン系共重合体等が挙げられる。例えば5mm以下の積層体(シートやフイルム)用途の場合は、成形加工性及び透明性等の観点からは、エチレン含有量が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%のポリエチレン系(共)重合体が望ましい。これらの中でも、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、チレン−1−オクテン共重合体が好ましく、密度が0.930g/cm
3以下である直鎖状低密度ポリエチレン又はEVAがより好ましい。また、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等を用いることもできる。なお、上記の熱可塑性樹脂層を設ける場合の積層順序は、熱可塑性樹脂層/X層/Y層とすることもできるが、接着性樹脂層による接着が容易なX層/Y層/熱可塑性樹脂層の積層構造が好ましい。脂肪族ポリケトン層側に熱可塑性樹脂層を設ける場合には、良好な接着性を担保するために、接着性樹脂層を介在させた積層構造、すなわち熱可塑性樹脂層/Y層/X層/Y層の積層構造や熱可塑性樹脂層/Y層/X層/Y層/熱可塑性樹脂層の積層構造等が好ましい。
 
【0065】
  上記のガスバリア層は、ガスバリア性を有する樹脂層である。ここでガスバリア性を有するとは、酸素透過度が1000(cc/(m
2 ・day・atm)未満を有することを意味し、より好ましくは100(cc/(m
2 ・day・atm)未満、さらに好ましくは50(cc/(m
2 ・day・atm)未満、特に好ましくは10(cc/(m
2 ・day・atm)未満である。かかるガスバリア層を積層されることで、脂肪族ポリケトン積層フィルムのガスバリア性をさらに高めることができる。ガスバリア層の構成樹脂としては、かかる熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂等の任意の樹脂を用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、テレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン共重合体等のポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、融点、剛性等に優れるナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、MXDナイロン等のポリアミド系樹脂、エチレン含有量が15〜65モル%、さらに好ましくは25〜48モル%であるエチレン・ビニルアルコール共重合体がガスバリア性に優れているために好ましい。エチレン・ビニルアルコール共重合体の鹸化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上である。なお、上記のガスバリア層を設ける場合の積層順序は、ガスバリア層/X層/Y層とすることもできるが、接着性樹脂層による接着が容易なX層/Y層/ガスバリア層の積層構造が好ましい。脂肪族ポリケトン層側にガスバリア層を設ける場合には、良好な接着性を担保するために、接着性樹脂層を介在させた積層構造、すなわちガスバリア層/Y層/X層/Y層の積層構造やガスバリア層/Y層/X層/Y層/熱可塑性樹脂層の積層構造等が好ましい。
 
【0066】
  上記のセパレータ層は、接着性樹脂層を介して脂肪族ポリケトン層を仮接着させておき、使用時に、セパレータ層を剥離除去して、脂肪族ポリケトン層を他のフィルムや金属等の被着体に転写させるための支持部材である。かかる形態を採用することにより、使用時にセパレータ層及び必要に応じて易剥離性接着樹脂組成物を剥離除去することで脂肪族ポリケトン層を他のフィルムや金属等の被着体に転写可能な、転写フィルムを実現することができる。セパレータ層としては、従来公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等、各種グレードのプラスチックフィルムが市販されている。また、上述した熱可塑性樹脂層の構成樹脂で説明した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることもできる。また、必要に応じて、セパレータ層の表面を、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系もしくは脂肪酸アミド系の離型剤、シリカ粉等による離型処理或いは防汚処理や、塗布型、練り込み型、蒸着型等の帯電防止処理が施されていてもよい。なお、セパレータ層の剥離除去時に、接着性樹脂層をセパレータ層とともに剥離除去すればよいが、セパレータ層の剥離除去時に接着性樹脂層を脂肪族ポリケトン層側に残存させ、この接着性樹脂層を、転写後の脂肪族ポリケトン層の接着層として用いてもよい。なお、上記のセパレータ層を設ける場合の積層順序は、X層/Y層/セパレータ層の積層構造が好ましい。脂肪族ポリケトン層側にセパレータ層を設ける場合には、良好な接着性を担保するために、接着性樹脂層を介在させた積層構造、すなわちセパレータ層/Y層/X層/Y層の積層構造や熱可塑性樹脂層/セパレータ層/Y層/X層/Y層の積層構造等が好ましい。
 
【0067】
  積層フィルムや延伸積層フィルムにおける各層の厚さは、要求性能、例えば層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等に応じて任意に設定することができ、特に限定されない。一例を挙げると例えば5mm以下の積層体(シートやフイルム)用途の場合は、脂肪族ポリケトン層(X層):0.005〜0.5mm、接着性樹脂層(Y層):0.0005〜0.1mm、必要に応じて熱可塑性樹脂層やガスバリア層:0.005〜1mm、セパレータ層:0.005〜1mmである。また、多層成形体の場合の各層の厚さは、脂肪族ポリケトン層(X層):0.1〜10mm、接着性樹脂層(Y層):0.005〜1mm、必要に応じて熱可塑性樹脂層やガスバリア層:0.005〜1mm、セパレータ層:0.005〜1mmである。また、接着性樹脂層の脂肪族ポリケトン層に対する剥離力は、要求性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。通常は1.0〜30.0N/15mm程度が目安とされる。比較的に強い接着性が要求される場合には、例えば、10.0N/15mm以上が好ましく、より好ましくは20.0N/15mm以上である。また、易剥離性のある接着性が要求される場合には、1.0N/15mm以上が好ましく、より好ましくは3.0N/15mm以上である。
 
【実施例】
【0068】
  以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0069】
  使用した樹脂は、以下のとおりである。
(X1)脂肪族ポリケトン:ヒョソン社製  ポリケトン(商品名:POLYKETONE  M330A、密度1.24:g/cm
3(ASTM  D782準拠)、融点:220℃(ASTM  D3418準拠)、MFI:60.0g/10分(ASTM  D1238準拠、240℃、荷重2.16kg)
(X2)脂肪族ポリケトン:ヒョソン社製  ポリケトン(商品名:POLYKETONE  M630A、密度1.24:g/cm
3(ASTM  D782準拠)、融点:220℃(ASTM  D3418準拠)、MFI:6.0g/10分(ASTM  D1238準拠、240℃、荷重2.16kg)
(Y1)変性ポリオレフィン:三菱化学社製  無水マレイン酸変性ポリエチレン(商品名:モディックM545、密度:0.90g/cm
3、MFR:6.0g/10分(190℃、荷重2.16kg))
(Y2)変性ポリオレフィン:三菱化学社製  無水マレイン酸変性ポリプロピレン(商品名:モディックP565、密度:0.89g/cm
3、MFR:5.7g/10分(230℃、荷重2.16kg))
(Z1)未変性ポリオレフィン:サウディ石油化学社製  エチレン・1−ブテン共重合体(商品名:QAMAR  FD18N、MFR:2.0g/10分、密度:0.918g/cm
3 )
(Z2)未変性ポリオレフィン:サンアロマー社製  プロピレン・エチレン共重合体(商品名:Adfex  V109F、MFR:12.0g/10分、密度:0.880g/cm
3 )
(Z3)未変性ポリオレフィン:日本ポリエチレン社製  直鎖状エチレン・1−ヘキセン共重合体(商品名:ノバテックSF8402、LLDPE、MFR:2.6g/10分、密度:0.929g/cm
3 )
(Z4)未変性ポリオレフィン:日本ポリプロ社製  プロピレン・エチレンランダム共重合体(商品名:FW4B、MFR:6.5g/10分、密度:0.900g/cm
3 )
【0070】
(実施例1及び2)
  脂肪族ポリケトン(X1)及び(X2)を用いて、熱プレス機により、温度240℃及び圧力10MPaの条件下で熱圧縮成形して、厚さ2mm、幅10cm、長さ20cmのプレス片(脂肪族ポリケトン層X1,X2)をそれぞれ作製した。
  次に、変性ポリオレフィン(Y1)を用いて、熱プレス機により、温度200℃及び圧力10MPaの条件下で熱圧縮成形して、厚さ2mm、幅10cm、長さ20cmのプレス片(接着性樹脂層Y1)を作製した。
  次いで、得られた脂肪族ポリケトン層X1,X2と接着性樹脂層Y1とをそれぞれ重ね合わせて、熱プレス機により、温度240℃及び圧力2MPaの条件下で熱圧縮成形して、脂肪族ポリケトン層X1及び接着性樹脂層Y1の積層構造を有する厚さ2.5mm、幅10cm、長さ20cmの実施例1の熱圧着積層フィルム(脂肪族ポリケトン積層フィルム)と、脂肪族ポリケトン層X2及び接着性樹脂層Y1の積層構造を有する厚さ2.5mm、幅10cm、長さ20cmの実施例2の熱圧着積層フィルム(脂肪族ポリケトン積層フィルム)をそれぞれ作製した。
【0071】
(比較例1及び2)
  変性ポリオレフィン(Y1)に代えて未変性ポリオレフィン(Z1)及び(Z2)をそれぞれ用いること以外は、実施例1と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X1及び樹脂層Z1の積層構造を有する比較例1の熱圧着積層フィルムと、脂肪族ポリケトン層X1及び樹脂層Z2の積層構造を有する比較例2の熱圧着積層フィルムとをそれぞれ作製した。
【0072】
(比較例3及び4)
  変性ポリオレフィン(Y1)に代えて未変性ポリオレフィン(Z1)及び(Z2)をそれぞれ用いること以外は、実施例2と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z1の積層構造を有する比較例3の熱圧着積層フィルムと、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z2の積層構造を有する比較例4の熱圧着積層フィルムとをそれぞれ作製した。
【0073】
<接着強度の評価>
  得られた実施例1及び2及び比較例1〜4の積層フィルムについて、室温23℃雰囲気下で、脂肪族ポリケトン層と接着性樹脂層の層間剥離強度(N/15mm)を測定した。この測定では、得られた積層フィルムを幅15mm及び長さ200mmにカットし、得られた試験片に対して、テンシロン引張試験機(エーアンドディー社製)を用いて、剥離速度10mm/分の条件下で90゜剥離試験を行った。評価基準は、以下のとおりである。
    ◎    20N/15mm以上
    ○    10N/15mm以上、20N/15mm未満
    ×      1N/15mm以上、10N/15mm未満
    ××    1N/15mm未満
【0074】
  表1に、剥離強度の評価結果を示す。
【表1】
【0075】
(実施例3)
  脂肪族ポリケトン(X2)及び変性ポリオレフィン(Y1)を、二軸押出機が接続された2層共押出Tダイ成形機を用いて共押出成形して、冷却ロール面に接する側から脂肪族ポリケトン層X2(設定厚さ50μm)及び接着性樹脂層Y1(設定厚さ50μm)の積層構造を有する実施例3の共押出積層フィルムを作製した(積層フィルムとしての合計の設定厚さ100μm)。ここでは、脂肪族ポリケトン側の設定条件は、口径30mm、溶融混練ゾーンの設定温度230−240℃、スクリュー回転数30rpmとし、変性ポリオレフィン側の設定条件は、口径20mm、溶融混練ゾーンの設定温度190−240℃、スクリュー回転数48rpmの条件とし、ラインスピード8.0〜8.5m/分とした。
【0076】
(実施例4)
  ラインスピードを2.6〜2.8m/分に変更すること以外は、実施例3と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2(設定厚さ150μm)及び接着性樹脂層Y1(設定厚さ150μm)の積層構造を有する実施例4の共押出積層フィルムを作製した(積層フィルムとしての合計の設定厚さ300μm)。また、得られた実施例4の共押出積層フィルムを、2×2倍の二軸延伸を施して、延伸積層フィルムを得た。
【0077】
(実施例5)
  変性ポリオレフィン(Y1)に代えて変性ポリオレフィン(Y2)を用いること以外は、実施例3と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2(設定厚さ50μm)及び接着性樹脂層Y2(設定厚さ50μm)の積層構造を有する実施例5の共押出積層フィルムを作製した(積層フィルムとしての合計の設定厚さ100μm)。
【0078】
(実施例6)
  ラインスピードを2.6〜2.8m/分に変更すること以外は、実施例5と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2(設定厚さ150μm)及び接着性樹脂層Y2(設定厚さ150μm)の積層構造を有する実施例6の共押出積層フィルムを作製した(積層フィルムとしての合計の設定厚さ300μm)。また、得られた実施例4の共押出積層フィルムを、2×2倍の二軸延伸を施して、延伸積層フィルムを得た。
【0079】
(比較例5及び6)
  変性ポリオレフィン(Y1)に代えて未変性ポリオレフィン(Z3)を用い、未変性ポリオレフィン側のスクリュー回転数を55rpmに変更すること以外は、実施例3及び4と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z3の積層構造を有する比較例5の共押出積層フィルムと、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z3の積層構造を有する比較例6の共押出積層フィルムをそれぞれ作製した。
【0080】
(比較例7及び8)
  変性ポリオレフィン(Y1)に代えて未変性ポリオレフィン(Z4)を用いること以外は、実施例5及び6と同様に行い、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z4の積層構造を有する比較例7の共押出積層フィルムと、脂肪族ポリケトン層X2及び樹脂層Z4の積層構造を有する比較例8の共押出積層フィルムをそれぞれ作製した。
【0081】
<接着強度の評価>
  得られた実施例3〜6及び比較例5〜8の積層フィルムについて、室温23℃雰囲気下で、脂肪族ポリケトン層と接着性樹脂層の層間剥離強度(N/15mm)を測定した。この測定では、各積層フィルムを幅15mm及び長さ200mmにカットし、得られた試験片に対して、テンシロン引張試験機(エーアンドディー社製)を用いて、剥離速度100mm/分の条件下でT−ピール剥離試験をそれぞれ行った。評価基準は、以下のとおりである。
    ◎      3N/15mm以上
    ○      1N/15mm以上、3N/15mm未満
    ××    サンプリング時に接着性樹脂層が剥離
【0082】
  表2に、剥離強度の評価結果を示す。
【表2】