(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871017
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】多色成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20210426BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/26
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-35489(P2017-35489)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-140537(P2018-140537A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山木 貴博
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−160836(JP,A)
【文献】
特開平04−371812(JP,A)
【文献】
特開平01−168414(JP,A)
【文献】
特開昭61−146514(JP,A)
【文献】
特開2007−290133(JP,A)
【文献】
特開2000−226021(JP,A)
【文献】
特開平08−267479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 33/00−33/76
B29C 44/00−44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる材料同士を組み合わせて一体に成形した多色成形品の製造方法であって、
上記複数の異なる材料の境界を仕切るための仕切り板を挟んで、上記複数の異なる材料のそれぞれを上記仕切り板が存在する方向に射出する射出工程と、
上記複数の異なる材料のそれぞれを射出した後、上記複数の異なる材料のそれぞれに発泡または加硫が起きている期間のいずれかの時点に、上記仕切り板を上記境界から抜いて上記境界を開放する仕切り板抜去工程と、を含み、
上記仕切り板における上記境界の延伸方向に沿って延伸する2つの側面のそれぞれのテーパ角度が、0度を超え、かつ1度以下であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記複数の異なる材料が二種類の異なる材料であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の異なる材料同士を組み合わせて一体に成形した多色成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多色成形品とは、一般的に複数種類または複数色の樹脂材料を、同時にまたは順次射出成形することにより得られる成形品である。ただし、ここでは、同種類または同色の材料でも、複数の射出ユニットにより同時にまたは順次射出成形することで得られる成形品ならば多色成形品と定義する。また、以上の定義より、多色成形とは、複数の射出ユニットを用いて、材料を同時にまたは順次射出成形する成形方法であるとする。
【0003】
さて、多色成形品の製造方法として、(1)多色成形機による製造方法、(2)複数の射出成形機間の成形品移動による製造方法が知られている。上記(1)の方法には、複数の射出ユニットを持つ射出成形機を用いて、一つの金型に複数種類の材料を同時に射出する方法と、複数の射出ユニットと金型を回転させる機構とを備えた射出成形機を用いて、金型を切り替えながら複数種類の材料を順次射出成形していく方法とがある。上記(2)の方法は、第一の射出成形機で射出成形した一次成形品を、次の順番の射出成形機の金型の所定の位置にセットして、該射出成形機で射出成形し、得られた成形品を更に次の順番の射出成形機の金型にセットして射出成形を行うという工程を繰り返すことで、多色成形を行う方法である。
【0004】
特許文献1には、樹脂芯材の表面の一部を表皮材により被覆一体化した二色成形体を精度良く成形できる積層成形体の成形方法が開示されている。この成形方法においては、モールドプレス成形用下型には、各ゲートから供給される半溶融樹脂を区画する仕切りプレートが設置されている。
【0005】
また、特許文献2には、二色成形品であるエアバック用自動車内装品の製造方法が開示されている。この製造方法では、一方の注入用プランジャの注入孔から硬質熱可塑性樹脂材を成形樹脂注入ゲートに供給するとともに、他方の注入用プランジャの注入孔から樹脂注入ゲート内に軟質熱可塑性樹脂材を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−267479号公報(1996年10月15日公開)
【特許文献2】特開2001−97163号公報(2001年4月10日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の成形方法では、仕切りプレートを用いることで異なる材料の境界部分が滑らかに接続する構造になるものの、異なる材料を二回の工程に分けて射出成形しているため、成形工数が増加してしまうという問題点がある。
【0008】
一方、上記特許文献2に記載の製造方法では、異なる材料を1回の工程で射出成形しているため、成形工数を低減できるものの、上記特許文献1に記載の成形方法のように、異なる材料の境界部分を滑らかに接続させる観点については配慮されていないという問題点がある。
【0009】
本発明は以上の問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、成形工数を低減させるとともに、異なる材料の境界部分を滑らかに接続させることができる多色成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る多色成形品の製造方法は、複数の異なる材料同士を組み合わせて一体に成形した多色成形品の製造方法であって、上記複数の異なる材料の境界を仕切るための仕切り板を挟んで、上記複数の異なる材料のそれぞれを上記仕切り板が存在する方向に射出する射出工程と、上記複数の異なる材料のそれぞれを射出した後、上記複数の異なる材料のそれぞれに発泡または加硫が起きている期間のいずれかの時点に、上記仕切り板を上記境界から抜いて上記境界を開放する仕切り板抜去工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
上記方法によれば、射出工程で、複数の異なる材料の境界を仕切るための仕切り板を挟んで、複数の異なる材料のそれぞれを仕切り板が存在する方向に射出する。このため、一回の工程で、複数の異なる材料のそれぞれを射出することができる。これにより、複数の異なる材料のそれぞれを複数回の工程に分けて射出成形する方法と比較して成形工数を低減させることができる。また、上記方法によれば、仕切り板抜去工程で、複数の異なる材料のそれぞれを射出した後、複数の異なる材料のそれぞれに発泡または加硫が起きている期間のいずれかの時点に、仕切り板を境界から抜いて境界を開放する。このため、複数の異なる材料を同時並列的に成形し、複数の異なる材料の境界部分を馴染ませることにより、異なる材料の境界部分を滑らかに接続させることができる。以上により、上記の方法によれば、成形工数を低減させるとともに、異なる材料の境界部分を滑らかに接続させることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る多色成形品の製造方法は、上記複数の異なる材料が二種類の異なる材料であっても良い。上記方法によれば、異なる材料の境界部分が滑らかに接続した二色成形品を製造することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る多色成形品の製造方法は、上記仕切り板における上記境界の延伸方向に沿って延伸する2つの側面のそれぞれのテーパ角度が、0度を超え、かつ1度以下であることが好ましい。上記方法によれば、仕切り板をスムーズに動かすことができる。
【0014】
本発明の一態様に係る多色成形品の製造方法は、上記仕切り板を下降させたときに、上記仕切り板における上記境界の延伸方向に沿って延伸する2つの側面の一方と、上記複数の異なる材料のうち上記側面の一方に近接する材料と、の間にできる上記射出の方向に沿う隙間の幅が、0mmを超え、かつ0.05mm以下となることが好ましい。上記方法によれば、隙間に材料が入って根詰まりすることを回避することで連続射出を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る多色成形品の製造方法によれば、成形工数を低減させるとともに、異なる材料の境界部分を滑らかに接続させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る成形機の構造を示す斜視図である。
【
図2】上記成形機の縦断面の構造を示す縦断面図である。
【
図3】(a)は、複数の材料を仕切り板の存在する方向に射出したときの二色成形品の状態を示す斜視図であり、(b)は、上記二色成形品の断面図であり、(c)は、仕切り板を下降させたときの二色成形品の状態を示す斜視図であり、(d)は、仕切り板の側面のテーパ角度について説明するための図であり、(e)は、仕切り板の側面と、その側面に近接する材料との間にできる隙間の幅について説明するための図である。
【
図4】(a)は、本発明の一実施形態に係る二色成形品の構造の一例を示す図であり、(b)は、上記二色成形品の断面の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について
図1〜
図4に基づいて説明すれば、次の通りである。以下、説明の便宜上、ある項目にて説明した構成と同一の機能を有する構成については、他の項目においても同一の符号を付記し、その説明を省略する場合がある。
【0018】
〔成形機の構造〕
図1は、本発明の一実施形態に係る成形機100の構造を示す斜視図である。また、
図2は、成形機100の縦断面の構造を示す縦断面図である。これらの図に示すように成形機100は、上側金型1、下側金型2、仕切り板3、ポット4、プランジャ5、油圧シリンダ6、ノズル7、およびノズル8を備える。
【0019】
上側金型1の下面には、成形機100にて製造される二色成形品(多色成形品)11の略上半分を形成するための型が彫り込まれている。また、下側金型2の上面には、二色成形品11の略下半分を形成するための型が彫り込まれている。
【0020】
上側金型1の下面と、下側金型2の上面とを接合させ、後述するノズル7から材料m1を金型内で射出するとともにノズル8から材料m2を金型内で射出することにより、材料m1および材料m2の境界が仕切り板3で仕切られた状態の成形途中の二色成形品11が形成される。二色成形品11は、複数の異なる材料である材料m1および材料m2同士を組み合わせて一体に成形される成形品である。上側金型1の上方には、注入口10が形成されており、この注入口10を通して材料m1が注入される。
【0021】
材料m1と材料m2との組合せの例としては、ソリッド状の成形材料とスポンジ状の成形材料との組合せ、および、硬質性の成形材料と軟質性の成形材料(例えば、オレフィン系のエラストマー)との組合せなどを例示することができる。
【0022】
本実施形態では、複数の異なる材料が二種類の異なる材料m1および材料m2である二色成形品11の成形方法について説明するが、本発明を適用可能な方法はこれに限定されず、例えば、3つ以上の異なる材料を組合せて一体に成形される多色成形品の成形方法にも本発明を適用することができる。
【0023】
上側金型1と下側金型2との接合部の手前側には、開口部hが形成されており、この開口部hを通して二色成形品11が取り出されるようになっている。また、下側金型2の手前側の側面における開口部hの下部に形成された孔からは、仕切り板3を下降させるための取っ手3aが突出している。
【0024】
仕切り板3は、複数の異なる材料m1および材料m2の境界を仕切るための板状部材である。ポット4は、中心軸上の点を中心とする円形状の孔が中心軸に沿って延伸して形成された略円筒形状の部材であり、ポット4の一端は、ノズル8に接続されており、ノズル8の一端は、ポット4の孔に連結している。ポット4の孔に材料m2を入れてプランジャ5で押し込むことにより、ノズル8の射出部から材料m2が射出するようになっている。プランジャ5は、油圧シリンダ6の押圧によりポット4の孔に押し込まれるようになっている。一方、ノズル7の射出部からは、材料m1が射出される。
【0025】
〔二色成形品の製造方法〕
上述した成形機100を用いた本実施形態の二色成形品11の製造方法は、少なくとも以下の(1)および(2)に示す工程を含む。
(1)材料m1および材料m2の境界を仕切るための仕切り板3を挟んで、材料m1および材料m2のそれぞれを仕切り板3が存在する方向に射出する射出工程。
(2)材料m1および材料m2のそれぞれを射出した後、材料m1および材料m2のそれぞれに発泡または加硫が起きている期間のいずれかの時点(例えば、射出開始から30秒後)に、仕切り板3を上記境界から抜いて上記境界を開放する(より具体的には、仕切り板3を下降させる)仕切り板抜去工程。
【0026】
上述した成形機100においてノズル7およびノズル8の2つのノズルを金型内に内蔵させることで、上記(1)の射出工程により、一回の工程で、材料m1および材料m2のそれぞれを射出することができる。これにより、材料m1および材料m2のそれぞれを二回の工程に分けて射出成形する方法と比較して成形工数を低減させることができる。
【0027】
また、上記(2)の仕切り板抜去工程により、材料m1および材料m2を同時並列的に成形し、材料m1および材料m2の境界部分を馴染ませることにより、材料m1および材料m2の境界部分が滑らかに接続する二色成形品11を製造することができる。以上により、上記の方法によれば、一回の工程で材料m1および材料m2の同時成形を実現することで成形工数を低減させるとともに、材料m1および材料m2の境界部分を隙間無く滑らかに接続させることができる。
【0028】
また、上記方法によれば、使用する成形機100が一台で済み、通常の成形時間である180秒内で材料m1および材料m2の同時成型が可能になる。これにより、材料m1および材料m2のそれぞれを二回の工程に分けて射出成形する方法と比較して総成形時間を半減させることができる。また、従来の二回の工程に分けて射出成形する方法では、2台の成形機または専用機が必要となり、追加の設備投資が必要であるという問題点があるが、上記方法によれば、このような問題点は生じない。
【0029】
〔成形途中の二色成形品の状態について〕
次に、
図3に基づき、成形途中の二色成形品11の状態について説明する。
図3の(a)は、材料m1および材料m2のそれぞれを仕切り板3の存在する方向に射出したときの二色成形品11の状態を示す斜視図である。また、
図3の(b)は、
図3の(a)に示す状態の二色成形品11の断面図である。
【0030】
図3の(b)は、材料m1および材料m2の境界を仕切るための仕切り板3を挟んで、材料m1および材料m2のそれぞれを仕切り板3が存在する方向に射出したときの二色成形品11の状態を示している。
【0031】
図3の(c)は、仕切り板3を下降させたときの二色成形品11の状態を示す斜視図である。
図3の(c)は、上述した射出工程で、材料m1および材料m2のそれぞれを射出した後、材料m1および材料m2のそれぞれに発泡または加硫が起きている期間のいずれかの時点に、仕切り板3を下降させたときの状態を示している。
【0032】
次に、
図3の(d)に基づき、仕切り板3の側面のテーパ角度について説明する。同図に示すように、仕切り板3における境界BDの延伸方向に沿って延伸する2つの側面SUF1および側面SUF2のそれぞれのテーパ角度θは、0度を超え、かつ1度以下であることが好ましい。この条件を満たせば、仕切り板3を下降させる際に、スムーズに動かすことができる。
【0033】
次に、
図3の(e)に基づき、仕切り板3の側面と、その側面に近接する材料との間にできる隙間の幅について説明する。同図に示すように、仕切り板3を下降させたときに、仕切り板3における境界BDの延伸方向に沿って延伸する側面SUF1と、側面SUF1に近接する材料m2と、の間にできる射出方向に沿う隙間の幅dは、0mmを超え、かつ0.05mm以下となることが好ましい。また、同様に、仕切り板3を下降させたときに、仕切り板3における境界BDの延伸方向に沿って延伸する側面SUF2と、側面SUF2に近接する材料m1と、の間にできる射出方向に沿う隙間の幅dは、0mmを超え、かつ0.05mm以下となることが好ましい。以上の条件を満たせば、隙間に材料が入って根詰まりすることを回避することで連続射出を可能にすることができる。
【0034】
〔二色成形品の構造について〕
次に、
図4に基づき、上述した方法にて製造した二色成形品11の構造について説明する。
図4の(a)は、上述した方法にて製造した二色成形品11の構造の一例を示す図である。一方、
図4の(b)は、
図4の(a)に示す二色成形品11を上下方向に切断したときの断面図である。
【0035】
図4の(a)に示すように、二色成形品11の材料m1と材料m2との境界部分である接合部J1は、仕切り板3の開放によって形成された部分であり、境界部分が隙間無く滑らかに接続する構造となる。また、上述した方法にて製造した二色成形品11では、
図4の(b)に示すように、その断面においても、材料m1と材料m2との境界面(接合部J1)の位置が明確に特定できる構造となる。
【0036】
なお、接合部J2および接合部J3のそれぞれは、
図1に示す上側金型1および下側金型2の手前側および裏側の側面における内壁で仕切られることによって必然的にできる境界部分であり、上述した仕切り板3の開放によって形成される境界部分とは異なる。
【0037】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0038】
3 仕切り板 3a 11 二色成形品(多色成形品)
BD 境界 θ テーパ角度 d 幅 m1 材料 m2 材料
SUF1 側面 SUF2 側面