特許第6871028号(P6871028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 矢崎総業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6871028-車両用電流センサ 図000002
  • 特許6871028-車両用電流センサ 図000003
  • 特許6871028-車両用電流センサ 図000004
  • 特許6871028-車両用電流センサ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871028
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】車両用電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20210426BHJP
   B60R 16/04 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   G01R19/00 B
   B60R16/04 W
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-53218(P2017-53218)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-155625(P2018-155625A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和弘
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−219444(JP,A)
【文献】 特開2011−164008(JP,A)
【文献】 特表2008−544255(JP,A)
【文献】 特開2001−091602(JP,A)
【文献】 特開昭56−119858(JP,A)
【文献】 特開平10−090315(JP,A)
【文献】 特開平04−110669(JP,A)
【文献】 特開2012−183950(JP,A)
【文献】 特開2013−250157(JP,A)
【文献】 米国特許第05601058(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 19/00−19/32、
H02J 7/00−7/12、
7/34−7/36
H01M 10/42−10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバッテリに繋がる電流路における電流値を測定する車両用電流センサであって、
前記電流路に接続される抵抗器と、
前記抵抗器において生じる電位差と前記抵抗器の電気抵抗値とに基づいて前記電流値を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両の停車中である第1状態と、前記車両のエンジンが始動可能であり且つ前記エンジンのクランキングの開始前である第2状態と、前記クランキングの実行中である第3状態と、の各々において、異なる作動モードに従って前記電流値を算出し、
前記車両の状態が前記第1状態から前記第2状態に変化したとき、前記第2状態に対応した前記作動モードに従って前記電流値を算出した後、前記クランキングが実行される前に、前記第3状態に対応した前記作動モードに従って前記電流値の算出を開始し、
前記第2状態での前記電位差のサンプリングタイムよりも前記第3状態での前記電位差のサンプリングタイムが短いように、前記作動モードが定められている、
車両用電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用電流センサであって、
前記制御部が、前記電位差を増幅可能な増幅器を更に有し、
前記第1状態での前記増幅器における電圧利得よりも前記第2状態での前記増幅器における電圧利得が小さく、且つ、前記第2状態での前記増幅器における電圧利得よりも前記第3状態での前記増幅器における電圧利得が小さいように、前記作動モードが定められている、
車両用電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバッテリに繋がる電流路における電流値を測定する車両用電流センサ、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電流路における電流値を測定するための各種の電流センサが提案されている。そのような電流センサの一例として、シャント抵抗方式に準じて電流値を測定するセンサ(シャント式電流センサ)が挙げられる。シャント式電流センサは、電流路に抵抗器を接続すると共に、抵抗器において通電時に生じる電位差(V)と、抵抗器の既知の抵抗値(R)と、をオームの法則(V=R・I)に適用することにより、電流値(I)を測定(算出)するようになっている。
【0003】
例えば、従来のシャント式電流センサの一つ(以下「従来センサ」という。)は、車両に適用され、車載バッテリと各種の電装品等との間を繋ぐ電流路における電流値を測定するようになっている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−096880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車載バッテリの劣化状態(例えば、エンジン始動性能)を評価するにあたり、エンジンを始動するためにクランキングを行う際の車載バッテリの出力(電流値および電圧値)が用いられる場合がある。クランキングとは、停止状態にあるエンジンのクランクシャフトをスタータモータによって強制的に回転駆動することを指す。なお、車載バッテリの劣化状態を評価する手法の他の例として、コールド・クランキング・アンペア(CCA)を用いる手法なども広く知られている。
【0006】
従来センサのようなシャント式電流センサでは、一般に、抵抗器において生じる電位差を表すアナログ信号を所定のサンプリングタイムにてサンプリングして(AD変換して)得られるデジタル信号(電位差のサンプリング値)に基づき、電流値が算出されるようになっている。そのような処理を行う制御装置(マイコン等)の処理量および消費電流を低減する観点からは、サンプリングタイムが長い(換言すると、単位時間あたりの処理回数が少ない)ことが好ましい。しかし、エンジンのクランキング開始直後には、上述した電流値が極めて短時間に急激に変化する場合がある。このように電流値が短時間に急激に変化する場合、サンプリングタイムが長いと、電流値を正確に測定することができない。
【0007】
よって、クランキング開始後におけるサンプリングタイムは、クランキング開始前のサンプリングタイムよりも短いことが好ましい。ところが、制御装置においてサンプリングタイムを切り替えるためには、当然ながら、制御装置の処理能力に応じた一定の時間を要する。更に、一般に、サンプリングタイムの切り替え中には、電位差の検出(即ち、電流値の算出)を実行できない。
【0008】
以上の理由から、クランキング開始時にサンプリングタイムを切り替える処理を始めた場合、クランキング開始直後の電流値(サンプリングタイムを切り替えてまで測定したかった電流値)を算出し得なくなる。その結果、クランキング開始直後の電流値を正確に測定するとの目的を十分に達成できず、車載バッテリの劣化状態を正確に評価することが困難となるおそれがある。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車載バッテリに繋がる電流路における電流値を精度良く測定可能な車両用電流センサ、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用電流センサは、下記(1)〜()を特徴としている。
(1)
車両のバッテリに繋がる電流路における電流値を測定する車両用電流センサであって、
前記電流路に接続される抵抗器と、
前記抵抗器において生じる電位差と前記抵抗器の電気抵抗値とに基づいて前記電流値を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両の停車中である第1状態と、前記車両のエンジンが始動可能であり且つ前記エンジンのクランキングの開始前である第2状態と、前記クランキングの実行中である第3状態と、の各々において、異なる作動モードに従って前記電流値を算出し、
前記車両の状態が前記第1状態から前記第2状態に変化したとき、前記第2状態に対応した前記作動モードに従って前記電流値を算出した後、前記クランキングが実行される前に、前記第3状態に対応した前記作動モードに従って前記電流値の算出を開始し、
前記第2状態での前記電位差のサンプリングタイムよりも前記第3状態での前記電位差のサンプリングタイムが短いように、前記作動モードが定められている、
車両用電流センサであること。

上記(1)に記載の車両用電流センサであって、
前記制御部が、前記電位差を増幅可能な増幅器を更に有し、
前記第1状態での前記増幅器における電圧利得よりも前記第2状態での前記増幅器における電圧利得が小さく、且つ、前記第2状態での前記増幅器における電圧利得よりも前記第3状態での前記増幅器における電圧利得が小さいように、前記作動モードが定められている、
車両用電流センサであること。
【0011】
上記(1)の構成の車両用電流センサによれば、エンジンのクランキング開始前に(第2状態から第3状態に変化する前の第2状態の継続中に)、クランキング時に適した作動モード(例えば、クランキング時の電流値の変動に適したサンプリングタイム)に従った電流値の算出が開始される。換言すると、クランキングが始まる前に、クランキング時の電流値を測定するための準備が整えられる。よって、クランキング開始直後に電流値が短時間に急激に変化しても、電流値を精度良く算出できることになる。
【0012】
したがって、本構成の車両用電流センサは、車載バッテリに繋がる電流路における電流値を精度良く測定可能である。
【0013】
更に、上記()の構成の車両用電流センサによれば、第3状態(クランキング時)の電位差を測定するためのサンプリングタイムが、第2状態(いわゆるIG−ON中)の電位差を測定するためのサンプリングタイムよりも短い。その結果、第2状態(IG−ON中)における電流センサの制御部の処理量および消費電流を低減でき、且つ、第3状態(クランキング時)における電流値(特に、クランキングの開始直後において短時間に急激に変化する電流値)を精度良く算出できることになる。
【0014】
上記()の構成の車両用電流センサによれば、増幅器における電圧利得(ゲイン)が、第1状態、第2状態および第3状態の順に小さくなる。これにより、電流値が比較的小さいとき(例えば、第1状態)には、測定した電流値の解像度を高められるため電流値を精度良く測定可能となり、電流値が比較的大きいとき(例えば、第3状態)では、電流値を各種の処理装置(例えば、AD変換器)の入力可能範囲内に収められるため電流値を精度良く測定可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車載バッテリに繋がる電流路における電流値を精度良く測定可能な車両用電流センサを提供できる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両用電流センサを搭載した車両の機能ブロック図である。
図2図2は、エンジンのクランキング時の電流値(アナログ値)の推移の一例を示すグラフである。
図3図3は、図2に示した電流値の推移におけるクランキング開始直後の部分(図2におけるA部分)のサンプリング値の推移を拡大して示すグラフであり、図3(a)はサンプリングタイムが比較的長い場合を示し、図3(b)はサンプリングタイムが比較的短い場合を示す。
図4図4は、エンジン始動の際における、車両状態、作動モード、及び、電流値の推移の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る車両用電流センサ1(以下、「本電流センサ1」とも称呼する。)について説明する。
【0019】
図1に示すように、本電流センサ1は、抵抗器10と、マイコン20と、を備える。本電流センサ1は、車両に搭載されたエンジンEGをクランキングするためのスタータモータMと、車両に搭載されたバッテリBと、を繋ぐ電流路における電流値Iを測定するためのシャント式電流センサである。
【0020】
図1に示すように、バッテリBの負極およびスタータモータMの負極は、車両のフレーム等にボディアースされている。その結果、バッテリBの負極は、このフレーム等を介してスタータモータMの負極と接続された状態となっている。なお、バッテリBの正極は、スタータモータMの正極と直接接続されている。抵抗器10は、バッテリBの負極とアースポイントとを繋ぐ電流路(即ち、スタータモータMとバッテリBとを車両のフレーム等を介して繋ぐ電流路)に介装されている。抵抗器10の抵抗値は既知である。
【0021】
なお、バッテリBの正極は、スタータモータMだけでなく、他の負荷類(図示省略)の正極とも接続されている。他の負荷類の負極は、通常、スタータモータMと同様にボディアースされている。そのため、本電流センサ1は、スタータモータMを流れる電流だけでなく、他の負荷類を流れる電流も測定できるようになっている。
【0022】
マイコン20は、増幅器21、AD変換器22(ADC。アナログ・デジタル・コンバータ)、演算部23、メモリ24、及び、CPU25、を含んで構成されている。
【0023】
増幅器21は、抵抗器10において生じる電位差に対応するアナログ信号を増幅し、増幅後のアナログ信号を出力するようになっている。増幅器21の増幅率(電圧利得。ゲイン)は調整可能となっている。
【0024】
AD変換器22は、増幅器21が出力する増幅後のアナログ信号を所定のサンプリングタイムでサンプリングして(AD変換して)、デジタル信号(電位差のサンプリング値)を出力するようになっている。AD変換器22におけるサンプリングタイムは調整可能となっている。
【0025】
演算部23は、AD変換器22が出力する電位差のサンプリング値に基づいて、スタータモータMとバッテリBとを繋ぐ電流路における電流値I(図1を参照)を算出するようになっている。具体的には、電流値Iは、AD変換器22が出力する電位差のサンプリング値(V)と、既知の抵抗器10の既知の抵抗値(R)とを用いて、オームの法則(V=R・I)によって算出される。
【0026】
メモリ24は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)であり、演算部23で算出された電流値Iのデータ群を記憶できるようになっている。また、演算部23は、メモリ24に記憶されている電流値Iのデータ群を読み取ることができるようになっている。
【0027】
CPU25は、増幅器21、AD変換器22、及び、演算部23と接続されている。また、CPU25は、車両に搭載された車速センサ31及びキーシリンダ32とも接続されている。車速センサ31は、車両の速度を検出すると共に、車両が停止している状態(車速=0)を検出できるようになっている。キーシリンダ32は、挿入された車両のキーの位置に基づき、車両のイグニッション・オフ(停車)、イグニッション・オン(IG−ON)、及び、クランキングの状態を識別可能となっている。なお、車速センサ31及びキーシリンダ32は、図1ではCPU25に直接接続されているが、CANやLINなどの通信網を介してCPU25に接続することも可能である。
【0028】
CPU25は、車速センサ31およびキーシリンダ32の出力信号に基づいて、増幅器21の増幅率を調整すると共に、AD変換の際のサンプリングタイムを調整できるようになっている。また、CPU25は、演算部23を制御することにより、演算部23で算出された電流値Iのデータ群をメモリ24に記憶させ、且つ、メモリ24が記憶している電流値Iのデータ群を演算部23に読み取らせることができるようになっている。
【0029】
上記のように構成された本電流センサ1は、車両のエンジンEGの始動の際(停車状態からエンジンEGの始動完了まで)における電流値Iの推移を測定する。その電流値Iの推移のうち、特にクランキング時の電流値Iの推移は、例えば、バッテリBの劣化状態(エンジンEGの始動性能)を評価する際に利用され得る。よって、バッテリBの劣化状態を精度良く評価するため、本電流センサ1は、特にクランキング時の電流値Iの推移を精度良く測定する。
【0030】
図2は、時刻tAにてクランキングが開始された際のクランキング時の電流値I(アナログ値)の推移の一例を示す。図2から理解できるように、通常、電流値Iは、クランキング開始直後において、短時間に非常に急激に増大すると共に最大値(ピーク値)に達し、ピーク値に達した直後において短時間に急激に減少し、その後は緩やかに減少していく。なお、実際には、図2に示す電流値Iには、スタータモータMを流れる電流だけでなく、クランキング中に他の負荷類(例えば、各種のランプ及び各種のセンサ等)を流れる電流も含んでいる。しかし、前者(スタータモータを流れる電流)に比べて後者(他の負荷類を流れる電流)は十分に小さいため、例えばバッテリBの劣化状態を評価する点において、後者は無視し得る。
【0031】
以下、先ず、AD変換器22におけるサンプリングタイムの設定に着目する。本電流センサ1のマイコン20の処理量および消費電流の低減の観点からは、サンプリングタイムが長いことが好ましい。電流値Iの変化がそれほど急激でなければ、サンプリングタイムが比較的長くても、電流値Iを精度良く測定することができる。
【0032】
しかし、図2に示した電流値Iの推移におけるクランキング開始直後のサンプリング値の推移(図2におけるA部分)を拡大した図3に示すように、サンプリングタイムが比較的長いと(図3(a)を参照)、クランキング開始直後の電流値の急激な変化、及び、クランキング時の電流値のピーク値(サンプリング値のピーク値)を正確に測定することができない。例えば、図3(a)に示す例では、サンプリング値のピーク値が、真の値に対してΔIだけ小さい値に算出されている。換言すると、ΔIだけ測定誤差が生じている。
【0033】
これに対し、サンプリングタイムが比較的短いと(図3(b)を参照)、クランキング開始直後の電流値の急激な変化、及び、クランキング時の電流値のピーク値(サンプリング値のピーク値)を正確に測定することができる。具体的には、ΔIがほぼゼロである。このように、図3(b)に示す例では、サンプリング値のピーク値が正確に測定されているため、測定誤差が生じていない。
【0034】
次いで、増幅器21における増幅率の設定に着目する。エンジンEGの始動の際の電流値Iに関し、図4に示すように、停車時では、電流値Iは微小値で略一定に推移する(スリープ状態)。IG−ON時では、電流値Iは、種々の電装品(図1における他の負荷類に含まれる)を稼働させるため、停車時より若干大きい値で略一定に推移する。一方、クランキング時は、スタータモータMに電流を流す必要があるため、図2に示すように、停車時およびIG−ON時と比べて、電流値Iが非常に大きい値で推移する期間が発生する。
【0035】
ここで、電流値Iが比較的小さい値で推移する場合、増幅器21の増幅率を大きくすることで取得したデータの解像度が向上し、電流値Iを精度良く測定可能となる。一方、電流値Iが比較的大きい値で推移する場合、電流値IをAD変換器22の入力レンジの範囲内にて推移させるため、増幅器21の増幅率を小さくする必要がある。
【0036】
以上の知見に基づき、本電流センサ1のマイコン20は、停車時に対応した作動モードであるモード1、IG−ON時に対応した作動モードであるモード2、及び、クランキング時に対応した作動モードであるモード3の3種類の作動モードに従って電流値Iを算出する。以下、この点について、図4を参照しながら説明する。
【0037】
具体的には、停車時(時刻t1以前)では、作動モードがモード1に設定されて、モード1にて電流値Iが算出される。モード1では、電流値Iが、微小値で略一定に推移することを考慮して、AD変換器22のサンプリングタイムが比較的長い時間に設定され、且つ、増幅器21の増幅率が比較的大きい値に設定される。これにより、マイコン20の処理量および消費電流を低減でき、且つ、解像度が向上することで電流値Iを精度良く測定可能となる。
【0038】
時刻t1にて、停車時からIG−ON時に移行すると、作動モードをモード1からモード2に変更する切替処理(1→2)が開始される。モード2では、電流値Iが、停車時より若干大きい値で略一定に推移することを考慮して、AD変換器22のサンプリングタイムがモード1と同じ時間に設定され、且つ、増幅器21の増幅率がモード1より小さい値に設定される。なお、モード2におけるサンプリングタイムがモード1におけるサンプリングタイムよりも短い時間に設定されてもよい。
【0039】
ここで、増幅器21の増幅率およびAD変換器22のサンプリングタイムを変更する切替処理には、マイコン20の処理能力に応じた一定の時間を要する。よって、実際には、図4に示すように、時刻t1から切替処理(1→2)に要する時間が経過した後に、モード2にて電流値Iの算出が開始される。切替処理(1→2)中は、電位差のサンプリング値の検出(よって、電流値Iの算出)はなされない。
【0040】
モード2における電流値Iの算出は、予め定められた短期間に亘って実行される。そして、この短期間が経過した後、クランキングの開始(時刻t2)とは無関係に(クランキングが開始される前に)直ちに、作動モードをモード2からモード3に変更する切替処理(2→3)が開始される。その結果、クランキングの開始(時刻t2)の前に、切替処理(2→3)が終了してモード3にて電流値Iの算出が開始される。なお、切替処理(2→3)中は、電位差のサンプリング値の検出(よって、電流値Iの算出)はなされない。
【0041】
モード3では、電流値Iが、短時間に急激に変化する期間および非常に大きい値で推移する期間が発生することを考慮して、AD変換器22のサンプリングタイムがモード2より短い時間に設定され、且つ、増幅器21の増幅率がモード2より小さい値に設定される。これにより、クランキング開始直後の短時間に急激に変化する電流値Iが精度良く測定可能となると共に、電流値IをAD変換器22の入力レンジの範囲内にて推移させることができる。
【0042】
このように、クランキング開始(時刻t2)の前に、クランキング時に適した作動モード(即ち、モード3)に従った電流値Iの算出が開始され、モード3に従った電流値Iの算出がクランキング開始(時刻t2)の後も継続される。よって、クランキングの開始(時刻t2)の直後にて電流値Iが短時間に急激に変化しても、電流値Iを精度良く算出できる。
【0043】
これに対し、モード2における電流値Iの算出をクランキング開始(時刻t2)まで継続し、クランキング開始(時刻t2)と同時に作動モードをモード2からモード3に変更する切替処理(2→3)を開始すると、クランキング開始(時刻t2)から切替処理(2→3)に要する時間が経過するまでの間、電流値Iが算出されなくなる。即ち、クランキング開始(時刻t2)の直後の電流値Iが算出されなくなり、電流値Iの測定精度が低下する。
【0044】
時刻t3にてエンジンEGの始動が完了すると、時刻t3以降(エンジンEGの回転中)、モード2にて電流値Iの算出が実行される。このモード2における電流値Iの算出は、予め定められた期間に亘って実行され、この期間が経過した後、本電流センサ1によるエンジンEGの始動の際における電流値Iの測定が完了する。なお、エンジンEGの始動後における作動モードは、必ずしもモード2である必要はなく、モード1でもよく、モード1〜3とは異なるエンジンEGの指導後に最適化された他のモードであってもよい。
【0045】
電流値Iの測定完了後、図4に示したような電流値Iの推移を表すデータ群は、メモリ24に記憶される。メモリ24に記憶された電流値Iのデータ群は、その後、バッテリBの劣化状態(エンジンEGの始動性能)を評価する際などに利用され得る。
【0046】
以上、本発明の実施形態に係る車両用電流センサによれば、エンジンEGのクランキング開始前に(IG−ON時からクランキング時に変化する前のIG−ON時の継続中に)、クランキング時に適した作動モード(モード3)に従った電流値Iの算出が開始される。よって、クランキング開始直後に電流値が短時間に急激に変化しても、電流値Iを精度良く算出できる。
【0047】
したがって、本発明の実施形態に係る車両用電流センサは、車載バッテリBに繋がる電流路における電流値Iを精度良く測定可能である。
【0048】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用できる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0049】
例えば、上記実施形態では、増幅器21の増幅率が、停車時、IG−ON時およびクランキング時の順により小さい値に設定されているが、停車時およびIG−ON時に同じ値に設定され、クランキング時に停車時およびIG−ON時より小さい値に設定されてもよい。
【0050】
ここで、上述した本発明に係る車両用電流センサの実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)〜(3)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
車両のバッテリ(B)に繋がる電流路における電流値(I)を測定する車両用電流センサであって、
前記電流路に接続される抵抗器(10)と、
前記抵抗器(10)において生じる電位差と前記抵抗器(10)の電気抵抗値とに基づいて前記電流値(I)を算出する制御部(20)と、を備え、
前記制御部(20)は、
前記車両の停車中である第1状態と、前記車両のエンジンが始動可能であり且つ前記エンジン(EG)のクランキングの開始前である第2状態と、前記クランキングの実行中である第3状態と、の各々において、異なる作動モード(モード1,2,3)に従って前記電流値(I)を算出し、
前記車両の状態が前記第1状態から前記第2状態に変化したとき、前記第2状態に対応した前記作動モード(モード2)に従って前記電流値(I)を算出した後、前記クランキングが実行される前に、前記第3状態に対応した前記作動モード(モード3)に従って前記電流値(I)の算出を開始する、
車両用電流センサ。
(2)
上記(1)に記載の車両用電流センサにおいて、
前記第2状態での前記電位差のサンプリングタイムよりも前記第3状態での前記電位差のサンプリングタイムが短いように、前記作動モード(モード2,3)が定められている、
車両用電流センサ。
(3)
上記(1)又は上記(2)に記載の車両用電流センサであって、
前記制御部(20)が、前記電位差を増幅可能な増幅器(21)を更に有し、
前記第1状態での前記増幅器(21)における電圧利得よりも前記第2状態での前記増幅器(21)における電圧利得が小さく、且つ、前記第2状態での前記増幅器(21)における電圧利得よりも前記第3状態での前記増幅器(21)における電圧利得が小さいように、前記作動モード(モード1,2,3)が定められている、
車両用電流センサ。
【符号の説明】
【0051】
1 電流センサ(車両用電流センサ)
10 抵抗器
20 マイコン(制御部)
21 増幅器
B バッテリ
EG エンジン

図1
図2
図3
図4