特許第6871032号(P6871032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871032
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20210426BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20210426BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210426BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20210426BHJP
   C25D 13/06 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C09D175/04
   C09D5/44 A
   C09D7/61
   C09D163/00
   C25D13/06 E
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-57927(P2017-57927)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159031(P2018-159031A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】大原 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】宮前 治広
(72)【発明者】
【氏名】下平 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−172944(JP,A)
【文献】 特開平06−065790(JP,A)
【文献】 特開平08−170035(JP,A)
【文献】 特開2010−144104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
101/00−201/10
C25D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化樹脂(A)ブロックイソシアネート硬化剤(B)およびエポキシ粘性剤(D)を含む樹脂エマルションを含むカチオン電着塗料組成物であって、
前記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜は、110℃における塗膜粘度が5,000〜1,000,000mPa・sの範囲内であり、
前記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が、2〜30mN/mの範囲内であ
前記エポキシ粘性剤(D)は、平均粒子径が1〜200nmであり、数平均分子量が100,000〜10,000,000の範囲内であり、前記エポキシ粘性剤(D)はアミノ基を有し、前記アミノ基の30〜100%は酢酸中和されている、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記カチオン電着塗料組成物は、さらに、第3族元素化合物、亜鉛化合物およびビスマス化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素化合物(C)を含み、
前記カチオン電着塗料組成物中に含まれる前記金属元素化合物(C)の含有量は、金属元素換算で0.02〜1質量%の範囲内である、
請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の前記金属元素化合物(C)の量は、金属元素換算で1〜100mg/mの範囲内である、請求項2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記アミン化樹脂(A)の水酸基価が150〜400mgKOH/gである、請求項1〜3いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記カチオン電着塗料組成物中に含まれるエポキシ粘性剤(D)の量は、前記樹脂エマルションの樹脂固形分およびエポキシ粘性剤(D)の樹脂固形分の合計量100質量部に対して、樹脂固形分として0.1〜15質量部である、
請求項記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
さらに亜硝酸金属塩(E)を含む、請求項1〜いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜いずれかに記載のカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装を行い、次いで加熱硬化することにより、被塗物上に硬化電着塗膜を形成する工程を包含する、硬化電着塗膜形成方法。
【請求項8】
前記被塗物はエッジ部を有し、および、形成された硬化電着塗膜を有する被塗物を塩水噴霧試験した場合において、エッジ塗装部1cmにおける錆発生個数が3個/cm未満である、請求項記載の塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆性に優れたカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観を付与している。一般に、被塗物に防食性を付与する塗膜としては、電着塗装により形成される電着塗膜が広く用いられている。電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。このような電着塗装として、カチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装が広く用いられている。
【0003】
塗膜は、被塗物の防食性付与が求められることに加えて、その表面状態の良好さも求められる。塗膜の表面状態を向上させる手段として、塗膜形成時に塗膜のレベリング性を向上させる方法がある。例えば、加熱などの硬化時に熱フローによって塗膜をレベリングさせ、塗膜の表面状態を向上させることができる。一方、被塗物がエッジ部を有する場合は、このエッジ部の塗装は電着塗装を用いる場合であっても困難である。さらに、このレベリング作用そして熱フローによって加熱硬化時にエッジ部から塗膜が流れてしまうことがあり、これによって防錆性が劣ることとなる。そのため、エッジ部を有する被塗物の塗装においては、エッジ部の防錆性を向上させる手段が求められている。
【0004】
エッジ部の防錆性を向上させる方法として、例えば電着塗膜加熱硬化時の熱フローによる電着塗膜の流れを抑制することにより、エッジ部の膜厚を確保し、これにより防錆性を向上させる手法が挙げられる。この手法においては、加熱硬化時の熱フローによる塗膜の流れを抑制するために、電着塗料組成物中に増粘剤を添加するなどの手法によって、電着塗料組成物の粘度を高めるなどの手法がとられる。しかしながら、電着塗料組成物に増粘剤を添加することによって、塗膜のレベリング性が劣ることとなり、エッジ部以外の平坦部などの表面状態が劣ることとなる。このため、被塗物のエッジ部の防錆性の向上と、塗膜の表面状態の向上(塗膜平滑性の向上)との両立は、一般に困難である。
【0005】
特開2010−144104号公報(特許文献1)には、(a)アミン濃度1.0mol/kg以上のアミン変性エポキシ樹脂、(b)ブロックイソシアネート化合物、(c)陽イオン交換された非晶質シリカ微粒子を必須成分とすることを特徴とするカチオン電着塗料組成物が記載されている。このカチオン電着塗料組成物は、被塗物に対するエッジカバー性と平滑性に優れた塗膜を形成することができると記載されている([0001]段落など)。この特許文献1には、(c)成分に由来する構造粘性挙動の発現によって、エッジカバー性を高めることができることが記載されている([0029]段落など)。一方で、(c)成分は粒状物であるため、電着塗料組成物中において凝集し、得られる塗膜の平滑性が劣ることとなるおそれがある。例えば[0032]段落などには、(c)成分の量が多いと平滑性が悪化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−144104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、防錆性、特にエッジ部防錆性、に優れたカチオン電着塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルションを含むカチオン電着塗料組成物であって、
上記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜は、110℃における塗膜粘度が5,000〜1,000,000mPa・sの範囲内であり、
上記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が、2〜30mN/mの範囲内である、
カチオン電着塗料組成物。
[2]
上記カチオン電着塗料組成物は、さらに、第3族元素化合物、亜鉛化合物およびビスマス化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素化合物(C)を含み、
上記カチオン電着塗料組成物中に含まれる上記金属元素化合物(C)の含有量は、金属元素換算で0.02〜1質量%の範囲内である、
カチオン電着塗料組成物。
[3]
上記カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の上記金属元素化合物(C)の量は、金属元素換算で1〜100mg/mの範囲内である、カチオン電着塗料組成物。
[4]
上記アミン化樹脂(A)の水酸基価が150〜400mgKOH/gである、カチオン電着塗料組成物。
[5]
上記カチオン電着塗料組成物はさらにエポキシ粘性剤(D)を含み、
上記エポキシ粘性剤(D)は、平均粒子径が1〜200nmであり、数平均分子量が100,000〜10,000,000の範囲内であり、上記エポキシ粘性剤(D)はアミノ基を有し、上記アミノ基の30〜100%は酢酸中和されている、
カチオン電着塗料組成物。
[6]
上記カチオン電着塗料組成物中に含まれるエポキシ粘性剤(D)の量は、上記樹脂エマルションの樹脂固形分およびエポキシ粘性剤(D)の樹脂固形分の合計量100質量部に対して、樹脂固形分として0.1〜15質量部である、
カチオン電着塗料組成物。
[7]
さらに亜硝酸金属塩(E)を含む、上記カチオン電着塗料組成物。
[8]
上記カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電着塗装を行い、次いで加熱硬化することにより、被塗物上に硬化電着塗膜を形成する工程を包含する、硬化電着塗膜形成方法。
[9]
上記被塗物はエッジ部を有し、および、形成された硬化電着塗膜を有する被塗物を塩水噴霧試験した場合において、エッジ塗装部1cmにおける錆発生個数が3個/cm未満である、上記塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装することによって、防錆性、特にエッジ部防錆性に優れ、かつ優れた塗膜外観を有する、硬化電着塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルションを含むカチオン電着塗料組成物である。そして本発明のカチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜は、110℃における塗膜粘度が5,000〜1,000,000mPa・sの範囲内であり、そして、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が2〜30mN/mの範囲内である。
【0011】
樹脂エマルション
上記樹脂エマルションは、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む。樹脂エマルションは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。
【0012】
アミン化樹脂(A)
アミン化樹脂(A)は電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化樹脂(A)として、エポキシ樹脂骨格中のオキシラン環を、アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂が好ましい。一般にアミン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を、1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン化合物との反応によって開環して調製される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0013】
上記出発原料樹脂は、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。
【0014】
また、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物またはオクチル酸などのモノカルボン酸化合物を付加して用いることもできる。
【0015】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環とアミン化合物とを反応させることによって、アミン変性エポキシ樹脂が得られる。オキシラン環と反応させるアミン化合物として、1級アミンおよび2級アミンが挙げられる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。例えば、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。なお、オキシラン環と反応させるアミンとして、必要に応じて、3級アミンを併用してもよい。
【0016】
1級アミン、2級アミン、3級アミンとして、上述のものを用いることができる。また、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンの具体例として、例えば、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどが挙げられる。また、必要に応じて用いてもよい3級アミンの具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン類は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記エポキシ樹脂のオキシラン環と反応させるアミン化合物は、2級アミンが50〜95質量%、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンが0〜30質量%、1級アミンが0〜20質量%の量範囲で含むものが好ましい。
【0018】
アミン化樹脂(A)の数平均分子量は、1,000〜5,000の範囲であるのが好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。一方で、数平均分子量が5,000以下であることにより、アミン化樹脂の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、また、得られたアミン化樹脂(A)の乳化分散の取扱いが容易になる。アミン化樹脂(A)の数平均分子量は2,000〜3,500の範囲であるのがより好ましい。
【0019】
アミン化樹脂(A)のアミン価は、20〜100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アミン化樹脂(A)のアミン価が20mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(A)の乳化分散安定性が良好となる。一方で、アミン価が100mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがなくなる。アミン化樹脂(A)のアミン価は、20〜80mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0020】
アミン化樹脂(A)の水酸基価は、150〜650mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が150mgKOH/g以上であることにより、硬化電着塗膜において硬化が良好となり、塗膜外観も向上する。一方で、水酸基価が650mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがなくなる。アミン化樹脂(A)の水酸基価は、150〜400mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0021】
本発明の電着塗料組成物において、数平均分子量が1,000〜5,000の範囲内であり、アミン価が20〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が150〜650mgKOH/g、より好ましくは150〜400mgKOH/gであるアミン化樹脂(A)を用いることによって、被塗物に優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0022】
なおアミン化樹脂(A)としては、必要に応じて、アミン価および/または水酸基価の異なるアミン化樹脂を併用してもよい。2種以上の異なるアミン価、水酸基価のアミン化樹脂を併用する場合は、使用するアミン化樹脂の質量比に基づいて算出する平均アミン価および平均水酸基価が、上記の数値範囲であるのが好ましい。また、併用するアミン化樹脂(A)としては、アミン価が20〜50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜300mgKOH/gであるアミン化樹脂と、アミン価が50〜200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200〜500mgKOH/gであるアミン化樹脂との併用が好ましい。このような組合わせを用いると、エマルションのコア部がより疎水となりシェル部が親水となるため優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0023】
なおアミン化樹脂(A)は、必要に応じて、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂などを含んでもよい。
【0024】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)
ブロックイソシアネート硬化剤(B)(以下、単に「硬化剤(B)」ということがある)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0025】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0026】
封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0027】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0028】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、脂肪族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤と、芳香族ジイソシアネートを封止剤でブロック化することによって調製された硬化剤とを併用することが好ましい。
【0029】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、アミン化樹脂(A)の1級アミンと優先的に反応し、さらに水酸基と反応して硬化する。硬化剤としては、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の硬化剤を、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と併用してもよい。
【0030】
樹脂エマルションの調製
樹脂エマルションは、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)それぞれを有機溶媒中に溶解させて、溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、調製することができる。中和酸として、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。本発明においては、アミン化樹脂(A)および硬化剤(B)を含む樹脂エマルションを、ギ酸、酢酸および乳酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の酸によって中和するのがより好ましい。
【0031】
硬化剤(B)の含有量は、硬化時にアミン化樹脂(A)中の、1級アミノ基、2級アミノ基または水酸基などの活性水素含有官能基と反応して、良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましい硬化剤(B)の含有量は、アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分質量比(アミン化樹脂(A)/硬化剤(B))で表して90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分質量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗装外観が向上する。
【0032】
樹脂エマルションの固形分量は、通常、樹脂エマルション全量に対して25〜50質量%、特に35〜45質量%であるのが好ましい。ここで「樹脂エマルションの固形分」とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、樹脂エマルション中に含まれる、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0033】
中和酸は、アミン化樹脂(A)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10〜100%となる量で用いるのがより好ましく、20〜70%となる量で用いるのがさらに好ましい。本明細書において、アミン化樹脂(A)が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率とする。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0034】
金属元素化合物(C)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、第3族元素化合物、亜鉛化合物およびビスマス化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素化合物(C)を含むのが好ましい。カチオン電着塗料組成物中に金属元素化合物(C)が含まれることによって、防錆性に優れた硬化電着塗膜が得られることとなる。
【0035】
第3族元素化合物は、酸化ランタン、水酸化ランタン、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、酸化ランタンおよび有機酸の混合物、水酸化ランタンおよび有機酸の混合物、酸化ネオジムおよび有機酸の混合物、水酸化ネオジムおよび有機酸の混合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。亜鉛化合物は、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛および有機酸の混合物、水酸化亜鉛および有機酸の混合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。ビスマス化合物は、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、酸化ビスマスおよび有機酸の混合物、水酸化ビスマスおよび有機酸の混合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。
【0036】
上記金属元素化合物(C)は第3族元素化合物であるのが好ましい。上記金属元素化合物(C)はランタン化合物であるのがより好ましく、上記金属元素化合物(C)は、酸化ランタン、水酸化ランタン、酸化ランタンおよび有機酸の混合物、水酸化ランタンおよび有機酸の混合物からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのがさらに好ましい。
【0037】
また、金属元素化合物(C)としてビスマス化合物を用いる場合は、金属元素化合物(C)をカチオン電着塗料組成物の硬化触媒として用いることができる。塗料分野においては、硬化触媒として有機錫触媒が一般的に用いられている。しかしながら有機錫触媒は、昨今の環境規制動向から、今後は使用を制限されるおそれがある触媒である。上記ビスマス化合物は硬化性に優れるため、塗料分野において硬化触媒として一般的に用いられる有機錫触媒の代替触媒として用いることができる。そのため、上記ビスマス化合物を用いることによって、環境負荷が低減されたカチオン電着塗料組成物を提供することができるという利点がある。
【0038】
金属元素化合物(C)として、酸化ランタン、水酸化ランタン、酸化ネオジム、水酸化ネオジム、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化ビスマスおよび水酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種を用いる場合において、これらの金属元素化合物(C)は粉体形態であってよい。金属元素化合物(C)が粉体形態である場合は、その平均粒子径は0.01〜10μmであるのが好ましく、0.05〜2μmであるのがより好ましい。本明細書中において、平均粒子径は体積平均粒子径D50であり、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて、分散体を信号レベルが適性になるようイオン交換水で希釈して測定した値をいう。
【0039】
金属元素化合物(C)として、例えば、酸化ランタンおよび/または水酸化ランタンと、有機酸との混合物を用いる場合は、酸化ランタンおよび/または水酸化ランタンと有機酸とを予め混合しておくことによって、混合物を調製することができる。有機酸として、例えば、ヒドロキシモノカルボン酸およびスルホン酸からなる群から選択される1種またはそれ以上の化合物を好適に用いることができる。
【0040】
ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、以下の化合物が挙げられる;
・乳酸、グリコール酸などの、全炭素原子数2〜5、好ましくは2〜4のモノヒドロキシモノカルボン酸、特に脂肪族モノヒドロキシモノカルボン酸;
・ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、グリセリン酸などの、全炭素原子数3〜7、好ましくは3〜6のジヒドロキシモノカルボン酸、特に脂肪族ジヒドロキシモノカルボン酸。
スルホン酸は有機スルホン酸であり、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの全炭素原子数1〜5、好ましくは1〜3のアルカンスルホン酸が挙げられる。
【0041】
有機酸は、乳酸、ジメチロールプロピオン酸およびメタンスルホン酸からなる群から選択される1種またはそれ以上であるのがより好ましい。
【0042】
有機酸の使用形態は特に限定されず、例えば、固体形態、液体形態、溶媒に溶解された溶液形態(特に水溶液形態)が挙げられる。有機酸は水溶液の形態で用いるのが好ましい。有機酸の水溶液の調製に用いることができる溶媒として、イオン交換水、浄水、蒸留水などの水、そして水を主成分とする水性溶媒などが挙げられる。水性溶媒は、水に加えて、必要に応じた有機溶媒(例えば、アルコール、エステル、ケトンなどの、水溶性または水混和性有機溶媒など)を含んでもよい。
【0043】
酸化ランタンおよび/または水酸化ランタンと、有機酸との混合物を予め調製する場合において、酸化ランタンおよび/または水酸化ランタンにおけるランタンのモル数と、有機酸のモル数との比率は、ランタン:有機酸=1:0.3〜1:2.7の範囲内であるのが好ましい。ランタンは3価の陽イオンとなる希土類元素である。そして、有機酸として好適に用いることができる、ヒドロキシモノカルボン酸およびスルホン酸は、いずれも1価の酸である。そのため、ランタンのモル数と有機酸のモル数との比率が、ランタン:有機酸=1:0.3〜1:2.7の範囲内である場合は、ランタン金属元素による陽イオンの総価数(つまり、金属元素のモル数×3)に対して、有機酸による陰イオンの総価数(有機酸のモル数)が満たない状態である。上記比率で酸化ランタンおよび/または水酸化ランタン、そして有機酸を用いることによって、エッジ部防錆性能に特に優れ、かつ優れた塗膜外観を有する硬化塗膜を提供する、カチオン電着塗料組成物を調製することが可能となる。上記モル数の比率は、ランタン:有機酸=1:0.6〜1:2.4の範囲内であるのがより好ましく、ランタン:有機酸=1:0.9〜1:2.1の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0044】
金属元素化合物(C)を用いる場合における、カチオン電着塗料組成物中に含まれる金属元素化合物(C)の含有量は、カチオン電着塗料組成物の全質量に対して、金属元素換算で0.02〜1質量%となる量であるのが好ましく、0.02〜0.5質量%となる量であるのがさらに好ましく、0.05〜0.3質量%となる量であるのが特に好ましい。金属元素化合物(C)の量が上記範囲であることによって、より優れた防錆性能を得ることができる利点がある。
【0045】
本明細書中において「カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分」とは、塗膜形成樹脂の固形分質量を意味する。具体的には、アミン化樹脂(A)および硬化剤(B)の樹脂固形分の質量の総量を意味する。
【0046】
「金属元素換算」とは、金属元素化合物(C)の含有量に金属元素換算係数(金属元素化合物(C)量を金属元素量に換算するための係数であり、具体的には、金属元素化合物(C)中の金属元素の原子量を、金属元素化合物(C)の分子量で除算した値を意味する。)を積算することにより、目的の金属元素量を求めることである。例えば、金属元素化合物(C)が酸化ランタン(La、分子量325.8)である場合、酸化ランタンを0.1質量%含む電着塗料組成物における、ランタンの金属元素換算含有量は、0.1質量%×(277.8÷325.8)の計算により0.0853質量%と算出される。
【0047】
エポキシ粘性剤(D)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、エポキシ粘性剤(D)を含んでもよい。エポキシ粘性剤(D)が含まれることによって、カチオン電着塗料組成物の析出電着の110℃における塗膜粘度を、5,000〜1,000,000mPa・sの範囲に好適に調整することができる。
【0048】
上記エポキシ粘性剤(D)は、平均粒子径が1〜200nmであるのが好ましい。平均粒子径が1〜200nmであることによって、カチオン電着塗料組成物中でのエポキシ粘性剤(D)の分散性が向上する利点がある。
【0049】
なお本明細書において、エポキシ粘性剤(D)の平均粒子径は、体積平均粒子径である。樹脂エマルションの体積平均粒子径は、レーザー光散乱法によって測定することができる。樹脂エマルションの平均粒子径の測定に用いることができる機器として、例えば、レーザードップラー式粒度分析計である、マイクロトラックUPA150(日機装社製)などが挙げられる。
【0050】
本明細書において、エポキシ粘性剤(D)の数平均分子量は、水分を減圧乾燥などにより除去した後、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定することができる。具体的には、数平均分子量の測定は、以下のGPCシステム測定条件で測定する。

装置:alliance 2695 Separations Module
カラム:東ソー TSK gel ALPHA−M
流速:0.05ml/min
検出器:alliance 2414 Refractive Index Detector
移動層:N,N’−ジメチルホルムアミド
標準サンプル:TSK STANDARD POLYSTYRENE(東ソー社製)、A−500、A−2500、F−1、F−4、F−20、F−80、F−700、1−フェニルヘキサン(アルドリッチ社製)
【0051】
上記エポキシ粘性剤(D)は、アミン価が50〜200mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。エポキシ粘性剤(D)のアミン価が50mgKOH/g以上であることにより、エポキシ粘性剤(D)の乳化分散安定性が良好となる。一方で、アミン価が200mgKOH/g以下であることにより、塗膜の耐水性低下を防ぐことができる。さらにエポキシ粘性剤(D)のアミン価が上記範囲内であることによって、電着塗料組成物の電導度を適切な範囲に保ち、塗装作業性に悪影響を及ぼすことを防ぐことができるなどの利点がある。
【0052】
上記エポキシ粘性剤(D)は、数平均分子量が100,000〜10,000,000であるのが好ましい。エポキシ粘性剤(D)の数平均分子量の値が高いことは、エポキシ粘性剤(D)中に含まれる低分子量物質の含有量が少ないことを意味する。そのため、上記エポキシ粘性剤(D)をカチオン電着塗料組成物中に含めても、低分子量物質が含まれることによる硬化性低下、得られる塗膜の硬度低下などの不具合を伴わない。そして、上記エポキシ粘性剤(D)をカチオン電着塗料組成物中に含めることによって、カチオン電着塗料組成物の粘度を効果的に上昇させることができる。
【0053】
上記エポキシ粘性剤(D)は、樹脂骨格としてポリフェノールポリグリシジルエーテル構造および多環式フェノール構造を有する。これらの構造は、カチオン電着塗料組成物において一般的に用いられる、塗膜形成樹脂であるアミン化樹脂の構造と共通する。そのため、上記エポキシ粘性剤(D)は、カチオン電着塗料組成物の塗膜形成樹脂との相溶性が高い。これにより、例えばカチオン電着塗料組成物中にエポキシ粘性剤(D)を比較的多量含めた場合であっても、相溶性の相違に基づく塗膜外観不良(例えばハジキ、クレーターの発生など)を低減することができる利点がある。上記エポキシ粘性剤(D)は、カチオン電着塗料組成物の粘度調製剤として好適に用いることができる。
【0054】
上記エポキシ粘性剤(D)は、例えば、下記工程:
ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物を含むエポキシ樹脂と、アミン化合物とを反応させて、アミン変性エポキシ樹脂を得る、アミン変性工程、
得られたアミン変性エポキシ樹脂が有するアミノ基の一部または全てを酸で中和し、水溶媒中に分散させる、酸中和および分散工程、および
得られた分散物と、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とを混合して反応させて、エポキシ粘性剤(D)を得る、反応工程、
を包含する方法によって、製造することができる。ここで、上記アミン化合物はケチミン誘導体を含み、ここで、ケチミン誘導体のモル%は、アミン化合物全モル量に対して、40〜100モル%であること、そして上記酸中和および分散工程における酸中和率は30〜100%の範囲内であること、また、上記反応工程で反応させるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の量は、上記ケチミン誘導体1モルに対して0.5〜4.0モルであること、が好ましい。
【0055】
アミン変性工程
アミン変性工程は、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物を含むエポキシ樹脂と、アミン化合物とを反応させて、アミン変性エポキシ樹脂を得る工程である。アミン変性工程で用いられるエポキシ樹脂は、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物を少なくとも含む。本明細書において「ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物を含むエポキシ樹脂」とは、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物が反応(鎖延長反応)した状態を含む。このアミン変性工程において、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物が反応(鎖延長反応)したエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂および多環式フェノール化合物を鎖延長反応させる反応条件は、用いる攪拌装置および反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。反応条件として、例えば85〜180℃で0.1〜8時間、より好ましくは100〜150℃で2〜8時間反応させる条件などが挙げられる。用いる攪拌装置として、塗料分野において一般的に用いられる撹拌装置を用いることができる。
【0056】
多環式フェノール化合物として、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどが挙げられる。多環式フェノール化合物として、ビスフェノールA、ビスフェノールFまたはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例として、上記多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物である、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0057】
上記エポキシ樹脂は、必要に応じて、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、その一部を、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレンオキシド基を有するポリオール、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールなど)、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長反応してもよい。例えば、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールを用いて鎖延長反応を行う場合は、ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂となる。
【0058】
本発明の1態様として、アミン変性工程において、アミン化合物と反応させるエポキシ樹脂は、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、多環式フェノール化合物およびポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂である態様が挙げられる。この態様の例として、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、多環式フェノール化合物およびポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂が反応(鎖延長反応)した状態が挙げられる。アミン変性工程でアミン化合物と反応させるエポキシ樹脂が、ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂を含む場合におけるポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜40質量部であるのが好ましく、15〜25質量部であるのがより好ましい。ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂が含まれることによって、カチオン電着塗料組成物中にエポキシ粘性剤(D)が比較的多量含まれる場合であっても、塗料調製時において組成物の粘度が上昇することを抑えることができ、また、塗装作業性を良好に保つことができるなどの利点がある。
【0059】
また、上記エポキシ樹脂は、必要に応じて、アミン化合物によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物またはオクチル酸などのモノカルボン酸化合物を付加して用いることもできる。
【0060】
エポキシ樹脂が有するオキシラン環(エポキシ基)とアミン化合物とを反応させることによって、オキシラン環の開環反応によりアミン変性が進行し、アミン変性エポキシ樹脂が得られる。オキシラン環と反応させるアミン化合物として、1級アミンおよび2級アミンが挙げられる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、ブロックされた1級アミンを有する2級アミンを用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。例えば、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。なお、オキシラン環と反応させるアミンとして、必要に応じて、3級アミンを併用してもよい。
【0061】
1級アミン、2級アミンの具体例として、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられる。ブロックされた1級アミンを有する2級アミンの具体例として、例えば、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ケチミン誘導体が挙げられる。また、必要に応じて用いてもよい3級アミンの具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン類は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
アミン変性工程において、エポキシ樹脂と反応させるアミン化合物の量は、エポキシ樹脂が有するエポキシ基1当量に対して0.9〜1.2当量となる量で用いるのが好ましい。この「アミン化合物の当量」において、上記ケチミン誘導体1モルは1当量として計算する。
【0063】
本発明においては、アミン変性工程で反応させるアミン化合物は、ケチミン誘導体を、アミン化合物全モル量に対して40〜100モル%の範囲で含むのが好ましい。アミン化合物が、ケチミン誘導体を上記範囲で含むことによって、得られるエポキシ粘性剤の数平均分子量を、100,000〜10,000,000の範囲内に好適に調整することが可能となる。アミン化合物全量に対する、ケチミン誘導体の量が40モル%に満たない場合は、低分子量エポキシ成分の残存量が多くなり、塗膜硬化性が劣ることとなるおそれがある。
【0064】
アミン化合物が、ケチミン誘導体以外のアミン化合物を含む場合は、ケチミン誘導体以外のアミン化合物において、2級アミンおよび1級アミンのモル比率が、2級アミン:1級アミン=40〜70モル%:30〜60モル%の範囲内であるのが好ましい。
【0065】
エポキシ樹脂とアミン化合物とを反応させアミン変性する反応条件は、反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。反応条件として、例えば80〜150℃で0.1〜5時間、より好ましくは120〜150℃で0.5〜3時間反応させる条件などが挙げられる。
【0066】
アミン変性反応によって、エポキシ樹脂に、ケチミン誘導体を含むアミン化合物が導入された後、ケチミン誘導体が有するケトンなどのブロック剤を脱ブロック化することにより、ブロックされていた1級アミノ基などのアミノ基が再生される。ブロック剤は、以下に記載の酸中和および分散工程において、酸中和時そして分散時に加水分解することにより、脱ブロック化される。
【0067】
酸中和および分散工程
酸中和および分散工程は、アミン変性エポキシ樹脂が有するアミノ基の一部または全てを酸で中和し、水溶媒中に分散させる工程である。この酸中和および分散工程において、アミン変性エポキシが有するアミノ基の酸中和率が30〜100%であるのが好ましい。ここで酸中和率は、アミン変性エポキシ樹脂のアミノ基の全個数に対する、酸で中和されたアミノ基の個数の百分率を意味する。アミノ基の酸中和率が30%未満である場合は、エポキシ粘性剤の調製において、反応生成物の凝集が生じるおそれがある。また、中和率が上記範囲であることによって、カチオン電着塗料組成物中にエポキシ粘性剤(D)を加える際において、カチオン電着塗料組成物の電導度に悪影響を及ぼすことを回避することができる。中和率が上記範囲であることによって、さらに、塗装作業性などに悪影響を与えることなく、エッジ部防錆性能に直接関与する塗膜粘度を有効に上げることができる利点がある。
【0068】
酸中和および分散工程で用いられる酸として、例えば、ギ酸、乳酸、酢酸などの有機酸、および、リン酸、硝酸などの無機酸が挙げられる。上記酸として、酢酸を用いるのが好ましい。
【0069】
アミノ基の一部または全てが中和されたアミン変性エポキシ樹脂は、水溶媒中に分散される。水溶媒中への分散は、一部または全てが中和されたアミン変性エポキシ樹脂に対して、撹拌条件下で水溶媒を加えることによって行ってもよく、また、水溶媒に対して、一部または全てが中和されたアミン変性エポキシ樹脂を撹拌条件下で加えることによって行ってもよい。水溶媒は、水を含み、そして、必要に応じて、分散工程を妨げない範囲の量の有機溶媒を含んでもよい。
【0070】
上記分散によって、アミン変性エポキシ樹脂の水中油(O/W型)分散物が得られる。この分散工程で得られる、アミン変性エポキシ樹脂分散物は、樹脂固形分濃度が5〜30質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0071】
上記水溶媒は、必要に応じて、4級アンモニウム基含有エポキシ樹脂および3級スルホニウム基含有エポキシ樹脂からなる群から選択される1種またはそれ以上を含む樹脂分散剤を含んでもよい。このような樹脂分散剤として、カチオン電着塗料組成物の調製において一般的に用いられる、いわゆる顔料分散樹脂を好適に用いることができる。
【0072】
水溶媒中に上記樹脂分散剤が含まれる場合における、樹脂分散剤の含有量は、アミン変性エポキシ樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、樹脂固形分として0.1〜20質量部の範囲内であるのが好ましい。
【0073】
反応工程
反応工程は、分散工程で得られた分散物と、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とを混合して反応させて、エポキシ粘性剤(D)を得る工程である。この反応工程で用いられるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂は、上記アミン変性工程で用いられたポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂に対して、追加的に用いられる樹脂である。この反応工程では、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を追加的に反応させる。この反応工程では、ケチミン誘導体が有するブロック剤が脱ブロック化して再生した1級アミノ基などのアミノ基と、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とが反応し、高分子化する。そしてこの反応によって、得られるエポキシ粘性剤の数平均分子量が100,000を超える程度に大きくなる利点がある。
【0074】
この反応工程で反応させるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂として、上記アミン変性工程において挙げられた、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0075】
反応工程で反応させるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の量は、ケチミン誘導体1モルに対して0.5〜4.0モルであるのが好ましい。上記量は0.5〜3.0モルであるのが好ましく、0.8〜2.5モルであるのがより好ましく、1.0〜2.0モルであるのがさらに好ましい。ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の量が上記に満たない場合は、得られるエポキシ粘性剤(D)の数平均分子量が所望の範囲に満たないおそれがある。また、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂の量が上記を超える場合は、塗料組成物中に加えた場合において塗料組成物の塗装作業性が劣るおそれがある。
【0076】
本発明においては、上記分散工程で得られた、アミン変性エポキシ樹脂の水中油(O/W型)分散物に対して、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を反応させるのが好ましい。この場合、反応工程では、アミン変性エポキシ樹脂の水中油(O/W型)分散物内で、いわゆる内部架橋反応が進行することとなる。また、エポキシ樹脂のアミン変性工程において用いられるアミン化合物に含まれるケチミン誘導体の量が40〜100モル%であるのが好ましい。これによって、数平均分子量100,000〜10,000,000といった、分子量が大きい樹脂を、低分子化合物の含有量が低い状態で得ることができる利点がある。
【0077】
この反応工程における反応条件は、反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。反応条件として、例えば室温〜90℃で3〜10時間反応させる条件などが挙げられる。
【0078】
上記製造方法によって、数平均分子量が上記範囲のように非常に大きい場合であっても、平均粒子径が1〜200nmであるエポキシ粘性剤の製造が可能となる利点がある。
【0079】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、金属元素化合物(C)およびエポキシ粘性剤(D)の両方を含むのが好ましい。本発明のカチオン電着塗料組成物が、金属元素化合物(C)およびエポキシ粘性剤(D)の両方を含むことによって、析出した金属元素化合物(C)そして樹脂成分をエッジ部に有効に留まらせることができ、これにより、極めて優れたエッジ部防錆性を有する硬化電着塗膜を形成することができる利点がある。
【0080】
顔料分散ペースト
本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて顔料分散ペーストを含んでもよい。顔料分散ペーストは、電着塗料組成物中に任意に含まれる成分であり、一般に顔料分散樹脂および顔料を含む。
【0081】
顔料分散樹脂
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂であり、水性媒体中に分散されて使用される。顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミノ基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。顔料分散樹脂の具体例として、例えば4級アンモニウム基含有エポキシ樹脂、3級スルホニウム基含有エポキシ樹脂などが挙げられる。水性溶媒としてはイオン交換水または少量のアルコール類を含む水などを用いる。
【0082】
顔料
顔料は、電着塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料として、例えば、通常使用される無機顔料および有機顔料、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。
【0083】
顔料分散ペーストの製造
顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂および顔料を混合して調製される。顔料分散ペースト中の顔料分散樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、顔料100質量部に対して樹脂固形分比で20〜100質量部となる量で用いることができる。
【0084】
顔料分散ペーストの固形分量は通常、顔料分散ペースト全量に対して40〜70質量%、特に50〜60質量%であるのが好ましい。
【0085】
本明細書中において「顔料分散ペーストの固形分」とは、顔料分散ペースト中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、顔料分散ペースト中に含まれる、顔料分散樹脂および顔料および必要に応じて添加される他の固形成分の質量の総量を意味する。
【0086】
他の成分など
本発明の電着塗料組成物は、上記成分に加えて、さらに亜硝酸金属塩(E)を含んでもよい。亜硝酸金属塩(E)として、アルカリ金属の亜硝酸塩またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の亜硝酸塩がより好ましい。亜硝酸金属塩として、例えば、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸亜鉛などが挙げられる。
【0087】
電着塗料組成物が亜硝酸金属塩(E)を含むことによって、耐食性が向上し、特にエッジ部の耐食性(エッジ防錆性)が向上するという利点がある。電着塗料組成物が亜硝酸金属塩(E)を含む場合における含有量は、塗膜形成樹脂の全質量に対して、金属成分の金属元素換算で0.001〜0.2質量%の量で含むのが好ましい。
【0088】
上記亜硝酸金属塩(E)は、電着塗料組成物中に任意の方法によって加えることができる。例えば、亜硝酸金属塩(E)の水溶液を予め調製し、電着塗料組成物に加えるなどの方法が挙げられる。また、亜硝酸金属塩(E)を予め顔料と混合しておき、顔料と同様にして分散させることもできる。
【0089】
カチオン電着塗料組成物の製造
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)を含む樹脂エマルション、そして必要に応じた金属元素化合物(C)、エポキシ粘性剤(D)、亜硝酸金属塩(E)、顔料分散ペーストおよび添加剤などを、通常用いられる方法により混合することによって、調製することができる。エポキシ粘性剤(D)を用いる場合において、カチオン電着塗料組成物中に含まれるエポキシ粘性剤(D)の量は、樹脂エマルションの樹脂固形分およびエポキシ粘性剤(D)の樹脂固形分の合計量100質量部に対して、樹脂固形分として0.1〜15質量部であるのが好ましい。なお、必要に応じて用いられる金属元素化合物(C)は、顔料分散ペーストの調製時に顔料と共に予め分散させた状態としてもよい。
【0090】
本明細書中において「電着塗料組成物の固形分」とは、電着塗料組成物中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全ての質量を意味する。具体的には、電着塗料組成物中に含まれる、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)、そして必要に応じて含まれる金属元素化合物(C)、エポキシ粘性剤(D)、顔料分散樹脂、顔料、他の固形成分の固形分質量の総量を意味する。
【0091】
本発明のカチオン電着塗料組成物の固形分量は、電着塗料組成物全量に対し、1〜30質量%であるのが好ましい。電着塗料組成物の固形分量が1質量%未満である場合は、電着塗膜析出量が少なくなり、十分な耐食性を確保することが困難となるおそれがある。また電着塗料組成物の固形分量が30質量%を超える場合は、つきまわり性または塗装外観が悪くなるおそれがある。
【0092】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、pHが4.5〜7であることが好ましい。電着塗料組成物のpHが4.5未満である場合は、カチオン電着塗料組成物中に存在する酸の量が過剰量となり、塗膜外観または塗装作業性が劣ることとなるおそれがある。一方で、pHが7を超える場合は、電着塗料組成物のろ過性が低下し、硬化電着塗膜の水平外観が低下する場合がある。電着塗料組成物のpHは、用いる中和酸の量、遊離酸の添加量などの調整によって、上記範囲に設定することができる。上記pHは、5〜7であるのがより好ましい。
【0093】
電着塗料組成物のpHは、温度補償機能を有する市販のpHメーターを用いて測定することができる。
【0094】
電着塗料組成物の固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は40〜120であるのが好ましい。なお、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、中和酸量および遊離酸の量によって調整することができる。
【0095】
ここでMEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、塗料の固形分100g当たりのすべての酸のmg当量の合計である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物の固形分を約10g精秤し約50mlの溶剤(THF:テトラヒドロフラン)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって、電着塗料組成物中の含有酸量を定量して測定することができる。
【0096】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩などの無機防錆剤など、を必要に応じて含んでもよい。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。これらの添加剤は、樹脂エマルション製造の際に添加されてもよいし、顔料分散ペーストの製造時に添加されてもよいし、または樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。
【0097】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記アミン化樹脂(A)以外にも、他の塗膜形成樹脂成分を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。電着塗料組成物に含まれうる他の塗膜形成樹脂成分として、フェノール樹脂、キシレン樹脂が好ましい。フェノール樹脂、キシレン樹脂として、例えば、2以上10以下の芳香族環を有するキシレン樹脂が挙げられる。
【0098】
本発明のカチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜は、110℃における塗膜粘度が5,000〜1,000,000mPa・sの範囲内であることを条件とする。本明細書において「析出電着塗膜」とは、カチオン電着塗料組成物を電着塗装した際に被塗物上に析出する電着塗膜であって、未硬化の状態の塗膜をいう。析出電着塗膜にとって、110℃という温度は、電着塗膜に含まれる塗膜樹脂成分の硬化反応が開始する直前の温度ということができる。このような温度条件下における、電着塗膜の110℃における塗膜粘度が1,000,000mPa・s以下であることによって、加熱による電着塗膜のフローを確保することができ、硬化電着塗膜の膜厚不均一化を回避することができる。また、塗膜粘度が5,000mPa・s以上であることによって、加熱によって電着塗膜が過度にフローして流れ落ちるなどの不具合を回避することができる。上記110℃における塗膜粘度は、5,000〜500,000mPa・sの範囲内であるのが好ましく、5,000〜100,000mPa・sの範囲内であるのがより好ましく、6,000〜20,000mPa・sの範囲内であるのが特に好ましい。
【0099】
析出電着塗膜の110℃における塗膜粘度は、次のようにして測定することができる。まず被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製する。こうして得られた試料を、動的粘弾性測定装置を用いて粘度測定することによって、110℃における塗膜粘度を測定することができる。
【0100】
本発明においてはまた、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が、2〜30mN/mの範囲内であることを条件とする。ここで「極性項」とは、物質の表面自由エネルギーを算出するOwens-Wendtの理論式における、極性項「γh」である。表面自由エネルギー値が既知である液体(水、ヨウ化メチレン)を用いて、試料物質の接触角を測定し、D. K. Owens and R. C. Wendt, J. Appl. Polym. Sci., 13, 1741(1969)の理論式を用いることによって、試料物質の極性項「γh」および表面自由エネルギーを算出することができる。
【0101】
本明細書における、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項は、具体的には以下の手順で測定することができる。まず被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、テトラヒドロフラン(THF)などの溶剤を用いて、塗膜の樹脂成分を溶解させ、取り除く。樹脂成分を取り除いた部分と、水およびヨウ化メチレンとの接触角を測定し、D. K. Owens and R. C. Wendt, J. Appl. Polym. Sci., 13, 1741(1969)の理論式を用いることによって、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項を測定することができる。
【0102】
カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が2〜30mN/mの範囲内であることによって、優れたエッジ部防錆性が得られるなどの利点がある。被塗物上に析出した電着塗膜を加熱硬化させる工程においては、樹脂成分は加熱硬化時に粘度が低下してフローが生じる。特にエッジ部においては、熱フローが生じることによって、塗膜が流れてしまい、防錆性が劣ることとなる傾向がある。ここで極性項が上記範囲内であることによって、被塗物との樹脂成分との間のなじみ性が向上し、その結果、エッジ部において析出した電着塗膜を留まらせることができ、これにより防錆性が向上することとなると考えられる。
【0103】
カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項を上記範囲に調節する手段として、例えば、カチオン電着塗料組成物中に上記金属元素化合物(C)を含める手段、および、カチオン電着塗料組成物中に含まれる上記金属元素化合物(C)の含有量を、金属元素換算で0.02〜1質量%の範囲内に調節する手段などが挙げられる。
【0104】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記金属元素化合物(C)を含むのが好ましい。この場合において、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の金属元素化合物(C)の量は、金属元素換算で1〜100mg/mの範囲内であるのが好ましい。上記金属元素化合物(C)の量は、以下の手順で測定することができる。まず被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除く。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、テトラヒドロフラン(THF)などの溶剤を用いて、塗膜の樹脂成分を溶解させ、取り除く。こうして、析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の金属元素化合物(C)の量を、蛍光X線分析により測定することによって、金属元素化合物(C)の量(金属元素換算)を測定することができる。
【0105】
電着塗装および電着塗膜形成
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、電着塗膜を形成することができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装においては、被塗物を陰極とし、陽極との間に、電圧を印加する。これにより、電着塗膜が被塗物上に析出する。
【0106】
本発明のカチオン電着塗料組成物を塗装する被塗物としては、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などが挙げられる。
【0107】
電着塗装工程において、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、50〜450Vの電圧を印加することによって、電着塗装が行われる。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0108】
電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜5分とすることができる。
【0109】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた電着塗装において、析出させる電着塗膜の膜厚は、加熱硬化により最終的に得られる電着塗膜の膜厚が好ましくは5〜60μm、より好ましくは10〜25μmとなるような膜厚であるのが好ましい。電着塗膜の膜厚が5μm未満であると、防錆性が不十分となるおそれがある。
【0110】
上述のようにして析出させた電着塗膜は、必要に応じて水洗した後、例えば120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間加熱することによって、硬化させることができる。これにより、硬化電着塗膜が形成される。
【0111】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、エッジ部を有する被塗物上に硬化電着塗膜を設ける場合であっても、エッジ部防錆性に優れた硬化電着塗膜を設けることができる利点がある。本発明のカチオン電着塗料組成物は、析出した電着塗膜を留まらせることができる機能を有するため、エッジ部を有する被塗物上に硬化電着塗膜を設ける場合などにおいて、好適に用いることができる。
【0112】
本明細書において、エッジ部を有する被塗物に形成された硬化電着塗膜の耐食性評価は、JIS Z 2371(2000)に準拠した塩水噴霧試験(35℃×72時間)によって行う。例えば膜厚25〜50μmといった高膜厚硬化電着塗膜を、塩水噴霧試験した場合において、エッジ部を有する被塗物に形成された硬化電着塗膜のエッジ塗装部における錆発生個数が、エッジ部1cmあたりに対して例えば3個/cm未満である場合は、エッジ部の耐食性(防錆性)に優れた塗膜であるということができ、錆発生個数がエッジ部1cmあたりに対して1個/cm未満である場合はエッジ部耐食性が極めて優れた塗膜であるということができる。
【実施例】
【0113】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0114】
製造例1 顔料分散樹脂の製造
2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネートの調製
攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、メチルイソブチルケトン(MIBK)39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気で2時間かけて滴下し、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(固形分90.0質量%)を得た。

4級化剤の調製
反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノn−ブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で30分攪拌して4級化剤を調製した。

顔料分散樹脂の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER−331J、ダウケミカル社製)710.0部とビスフェノールA289.6部とを反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃で1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間撹拌し、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1mgKOH/gとなるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、目的とする、4級アンモニウム基を有するエポキシ樹脂(顔料分散樹脂)を得た(固形分50質量%)。
【0115】
製造例2−1 アミン化樹脂(A−1)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA382部、オクチル酸63部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が1220g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)85部とジエタノールアミン80部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂)を得た。この樹脂の数平均分子量は2,560、アミン価は70mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は42mgKOH/g)、水酸基価は236mgKOH/gであった。
【0116】
製造例2−2 アミン化樹脂(A−2)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA382部、オクチル酸63部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が1220g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)57部とジエタノールアミン91部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂)を得た。この樹脂の数平均分子量は2,560、アミン価は70mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は28mgKOH/g)、水酸基価は270mgKOH/gであった。
【0117】
製造例3−1 ブロックイソシアネート硬化剤(B−1)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1680部およびMIBK732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン346部をMEKオキシム1067部に溶解させたものを60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK27部を加えて固形分が78%のブロックイソシアネート硬化剤(B−1)を得た。イソシアネート基価は252mgKOH/gであった。
【0118】
製造例3−2 ブロックイソシアネート硬化剤(B−2)の製造
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート1340部およびMIBK277部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK349部を加えてブロックイソシアネート硬化剤(B−2)を得た(固形分80%)。イソシアネート基価は251mgKOH/gであった。
【0119】
製造例4−1 樹脂エマルション(1)の製造
製造例2−1で得られたアミン化樹脂(A−1)350部(固形分)と、製造例3−1で得られたブロックイソシアネート硬化剤(B−1)75部(固形分)および製造例3−2で得られたブロックイソシアネート硬化剤(B−2)75部(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15部)になるように添加した。次に、ギ酸を添加量が樹脂中和率40%相当分になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が40%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、樹脂エマルション(1)を得た。
【0120】
製造例4−2 樹脂エマルション(2)の製造
製造例2−1で得られたアミン化樹脂(A−1)350部(固形分)の代わりに、製造例2−2で得られたアミン化樹脂(A−2)350部(固形分)を用いたこと以外は、製造例4−1と同様にして、樹脂エマルション(2)を得た。
【0121】
製造例5−1 エポキシ粘性剤(D−1)の製造
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA 388部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を140℃に保持し、エポキシ当量が800g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が120℃になるまで冷却した。
ついでジエチレントリアミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)155部、N−メチルエタノールアミン 43部およびジエチレントリアミン(DETA)45部の混合物(アミン化合物)を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン変性エポキシ樹脂を得た。90℃冷却後、イオン交換水および酢酸を、アミン変性エポキシ樹脂の中和率が50%になるように加えて酸中和した。次いで、イオン交換水を加えて、固形分が20%になるように希釈分散した。その後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER−331J、ダウケミカル社製)188部(ケチミン誘導体1モルに対して1.4モルとなる量)加え、90℃で3時間反応させた。減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、固形分20%の、エポキシ粘性剤(D−1)を得た。
【0122】
得られたエポキシ粘性剤(D−1)の数平均分子量は、水分を減圧乾燥などにより除去した後、ポリスチレン標準サンプル基準を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、下記条件で測定した。エポキシ粘性剤(D−1)の数平均分子量は800,000であった。

装置:alliance 2695 Separations Module
カラム:東ソー TSK gel ALPHA-M
流速:0.05ml/min
検出器:alliance 2414 Refractive Index Detector
移動層:N,N’−ジメチルホルムアミド
標準サンプル:TSK STANDARD POLYSTYRENE(東ソー社製)、A−500、A−2500、F−1、F−4、F−20、F−80、F−700、1−フェニルヘキサン(アルドリッチ社製)
【0123】
エポキシ粘性剤(D−1)の高分子率は40%であった。本明細書において、エポキシ粘性剤の高分子率は、下記手順に従って求めた。
得られたエポキシ粘性剤(D−1)の、GPCを用いて測定した数平均分子量測定データを用いて、分子量が100,000以上であるピークのピーク面積(N)および分子量が100,000未満であるピークのピーク面積(N)を求めて、下記式より、高分子率を求めた。この高分子率は、40%以上であれば、十分に高分子化していると判断できる。

高分子率(%) = N/(N+(N))×100
【0124】
エポキシ粘性剤(D−1)の平均粒子径は、動的光散乱式粒径測定装置LB−500(堀場製作所社製)を用いて測定した。エポキシ粘性剤(D−1)の平均粒子径は、30nmであった。
【0125】
製造例5−2 エポキシ粘性剤(D−2)の製造
アミン変性工程において、ジエチレントリアミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)258部、N−メチルエタノールアミン(MMA)21部およびジエチレントリアミン(DETA)45部の混合物を添加し、120℃で1時間反応させることにより、アミン変性エポキシ樹脂を得たこと以外は、製造例5−1と同様にして、エポキシ粘性剤(D−2)を製造した。
【0126】
得られたエポキシ粘性剤(D−2)の数平均分子量、平均粒子径、高分子率を、製造例5−1と同様にして測定したところ、以下の通りであった。
数平均分子量:1,000,000
平均粒子径:30nm
高分子率:80%
【0127】
実施例1
ランタンペーストの製造
イオン交換水116.6部に、製造例1で得られた顔料分散樹脂(固形分50質量%)60.0部と、金属元素化合物(D)である酸化ランタン 100部とを加えて、攪拌、混合物し、サンドミルを用いて40℃で1時間、1800rpmにて撹拌して、酸化ランタンペーストが得られた。得られた酸化ランタンペーストは、固形分濃度が47質量%であった。
カチオン電着塗料用顔料分散ペーストの製造
サンドミルを用いて、製造例1で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表に示す配合に基づき、得られた混合物を40℃において、体積平均粒子径D50が0.6μmとなるまで分散し、調製して、顔料分散ペースト(固形分50%)を得た。体積平均粒子径D5
0の測定は、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA
150」)を用いて、分散体を信号レベルが適性になるようイオン交換水で希釈して、体
積平均粒子径D50を測定した。
【表1】
*DIW:イオン交換水
【0128】
ステンレス容器に、イオン交換水1997部、製造例4−1の樹脂エマルション(1) 1539部および上記で調製した顔料分散ペースト464部、製造例5−1で得られたエポキシ粘性剤(D−1) 195部(樹脂エマルションの樹脂固形分とエポキシ粘性剤の樹脂固形分の合計に対して、樹脂固形分として6質量%となる量)を加えて混合し、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0129】
実施例2
酸化ランタンペーストの量を4.3部から17.2部に変更したこと以外は、
実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を構成した。
【0130】
実施例3
酸化ランタンペーストの量を4.3部から34.4部に変更したこと以外は、
実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を構成した。
【0131】
実施例4
酸化ランタンペーストの量を4.3部から17.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、顔料分散ペーストを調製した。
ステンレス容器に、イオン交換水1997部、製造例4−2の樹脂エマルション(2)1539部および上記で調製した顔料分散ペースト464部、製造例5−1で得られたエポキシ粘性剤(D−1)195部(樹脂エマルションの樹脂固形分とエポキシ粘性剤の樹脂固形分の合計に対して、樹脂固形分として6質量%となる量)を加えて混合し、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0132】
実施例5
イオン交換水116.6部に、製造例1で得られた顔料分散樹脂(固形分50質量%)60.0部と、金属元素化合物(D)である酸化ネオジム 100部とを加えて、攪拌、混合物し、サンドミルを用いて40℃で1時間、1800rpmにて撹拌して、酸化ネオジムペーストが得られた。得られた酸化ネオジムペーストは、固形分濃度が47質量%であった。
実施例1の酸化ランタンペースト4.3部を、酸化ネオジムペースト17.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を構成した。
【0133】
実施例6
酸化ネオジム100部の代わりに酸化イットリウムを用いたこと以外は、実施例5と同様にして、酸化イットリウムペーストを調製した。これを用いて、実施例5と同様にして顔料ペーストを調製し、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0134】
実施例7
酸化ネオジム100部の代わりに酸化ビスマスを用いたこと以外は、実施例5と同様にして、酸化ビスマスペーストを調製した。これを用いて、実施例5と同様にして顔料ペーストを調製し、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0135】
実施例8
酸化ネオジム100部の代わりに酸化亜鉛を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、酸化亜鉛ペーストを調製した。これを用いて、実施例5と同様にして顔料ペーストを調製し、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0136】
実施例9
製造例5−1で得られたエポキシ粘性剤(D−1)195部の代わりに、製造例5−2で得られたエポキシ粘性剤(D−2)195部を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0137】
実施例10
実施例2と同様にして調製した、エージング前のカチオン電着塗料組成物に、亜硝酸カルシウム水溶液(濃度:30質量%、亜硝酸カルシウム:日産化学工業社製)を、電着塗料組成物中における濃度が金属元素換算で400ppm(0.04質量%)となる量で加えた後、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0138】
比較例1
酸化ランタンペーストの量を4.3部から17.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、顔料分散ペーストを調製した。
ステンレス容器に、イオン交換水2095部、製造例4−1の樹脂エマルション(1)1637部および上記で調製した顔料ペースト464部を加えて混合し、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0139】
比較例2
酸化ランタンペーストの量を17.2部から1.72部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、カチオン電着塗料組成物を構成した。
【0140】
比較例3
酸化ランタンペーストの量を17.2部から0部に変更したこと、および、製造例5−1で得られたエポキシ粘性剤(D−1)195部の代わりに、製造例5−2で得られたエポキシ粘性剤(D−2)195部を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0141】
実施例および比較例で得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、下記評価を行った。評価結果を下記表に示す。
【0142】
硬化電着塗膜の形成
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次にサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)に常温30秒浸漬し、次いでサーフダインEC3200(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、ジルコニウム化成処理剤)に35℃で2分間浸漬した。その後、脱イオン水による水洗を行った。
上記で得られたカチオン電着塗料組成物に、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるように2−エチルヘキシルグリコールを必要量添加した。
その後、電着塗料組成物に鋼板を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し180Vに達してから150秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物(冷延鋼板)上に未硬化の電着塗膜を析出させた。得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
【0143】
硬化電着塗膜の塗膜外観評価
上記より得られた硬化電着塗膜の表面粗度を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。このRa値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好であるといえる。
【0144】
エッジ部防錆性評価
被塗物を、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)からL型専用替刃(LB10K:オルファ株式会社製、長さ100mm、幅18mm、厚さ0.5mm)に変更したこと以外は、上記と同様の手順で、脱脂処理、表面処理および化成処理などを行った。
次いで上記硬化電着塗膜(1)の形成と同様の手順で硬化電着塗膜を設けて、エッジ部を有する被塗物(L型専用替刃)上に、膜厚20μmの硬化電着塗膜を設けて、試験片を得た。
この試験片に対して、JIS Z 2371(2000)に準拠した塩水噴霧試験(35℃×72時間)を行い、L型専用替刃先端部に発生した錆の個数を調べた。
なお、この試験において「L型専用替刃先端部」は、刃の頂点から替刃本体方向に対して5mmまでの幅を意味する。上記幅は、表面側および裏面側の両方を含み、表面裏面の合計では10mmの幅となる。この「L型専用替刃先端部」は、本明細書における「エッジ部」に相当する。
例えば、下記評価で、L型専用替刃先端部に発生した錆の個数が30個である場合は、L型専用替刃の長さが100mm(10cm)、L型専用替刃先端部の幅は表面裏面の合計で10mm(幅1cm)であるため、L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数は、
30個/10cm=3個/cm
となる。下記評価において、○△以上であるものを合格とする。

評価基準
◎ :錆の発生なし
○ :10個未満
(L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数として、1個/cm未満)
○△:10個以上30個未満
(L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数として、1個/cm以上3個/cm未満)
△ :30個以上〜50個未満
(L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数として、3個/cm以上5個/cm未満)
△×:50個以上〜100個未満
(L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数として、5個/cm以上10個/cm未満)
× :100個以上
(L型専用替刃先端部1cmあたりの錆の個数として、10個/cm以上)
【0145】
110℃における塗膜粘度の測定
被塗物(ブリキ板)をカチオン電着塗料組成物中に浸漬し、膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、未硬化の電着塗膜を形成した。これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除いた。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を塗板からはがした。得られた試料を、動的粘弾性測定装置(商品名Rheosol−G3000、ユービーエム社製)を用いて、基本周波数1Hz、歪み制御0.5degで粘度測定することによって、110℃における塗膜粘度を測定した。
【0146】
析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の金属元素化合物(C)の量の測定
被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除いた。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、テトラヒドロフラン(THF)などの溶剤を用いて、塗膜の樹脂成分を溶解させ、取り除いた。こうして、析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の金属元素化合物(C)の量を、蛍光X線分析により測定することによって、金属元素化合物(C)の量(金属元素換算)を測定した。
【0147】
極性項の測定
被塗物に膜厚約15μmとなるように180秒間電着塗装を行い、電着塗膜を形成し、これを水洗して余分に付着した電着塗料組成物を取り除いた。次いで、電着塗膜表面に付着した余分な水分を取り除いた後、溶剤(テトラヒドロフラン(THF))を用いて塗膜のみを溶解させ、取り除いた。樹脂成分を取り除いた部分と、水およびヨウ化メチレンとの接触角を測定することによって、カチオン電着塗料組成物の析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項を算出した。
【0148】
【表2】
【0149】
実施例のカチオン電着塗料組成物を用いた場合は、いずれも、良好なエッジ部防錆性および塗膜外観が得られた。
比較例1は、110℃における塗膜粘度が5000mPa・s未満である。この場合は、エッジ部防錆性能が劣ることとなった。
比較例2および3は、析出電着塗膜から樹脂成分を取り除いた部分の極性項が2mN/m未満である。この場合も、エッジ部防錆性能が劣ることとなった。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装することによって、防錆性、特にエッジ部防錆性に優れ、かつ優れた塗膜外観を有する、硬化電着塗膜を形成することができる。