特許第6871036号(P6871036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6871036樹脂成型品の製造方法及び光学部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871036
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】樹脂成型品の製造方法及び光学部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20210426BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B29C59/02
   G02B3/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-61870(P2017-61870)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-161865(P2018-161865A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤川 武
(72)【発明者】
【氏名】福井 貞之
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−121213(JP,A)
【文献】 特開2007−073712(JP,A)
【文献】 特開2010−001419(JP,A)
【文献】 特開2011−251508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 59/00−59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリント成型により樹脂成型品を製造する方法であって、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面温度が35〜55℃の硬化性組成物未塗布部分に、前記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ前記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布する加温塗布段階を含む硬化性組成物塗布工程、及び前記モールドに塗布された前記硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を得る硬化工程を有する、樹脂成型品の製造方法であって、
前記硬化性組成物が、カチオン硬化性化合物、ラジカル硬化性化合物、及びアニオン硬化性化合物からなる群より選択される少なくとも一つを含有する硬化性組成物であり、
前記モールドが、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリメチルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一つの樹脂製のモールドである、樹脂成型品の製造方法。
【請求項2】
前記硬化性組成物塗布工程の後に、前記硬化性組成物塗布工程を経て得られた前記硬化性組成物が塗布されたモールドを、前記硬化性組成物塗布工程を経て前記硬化性組成物が塗布された別のモールドと、前記硬化性組成物同士が接触するように重ね合わせる型閉じ工程を有する、請求項1に記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項3】
前記硬化性組成物がエポキシ化合物を含有する、請求項1又は2に記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項4】
前記硬化性組成物塗布工程の後に、減圧による脱泡工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項5】
前記モールドにおけるパターン形状が凹凸形状であり、凹部最底部と凸部最頂部の高低差が0.05mm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂成型品がマイクロレンズアレイである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成型品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成型品の製造方法により得られる樹脂成型品を用いた光学部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成型品の製造方法、及び光学部品の製造方法に関する。より詳細には、インプリント成型により樹脂成型品を製造する方法、及び該樹脂成型品を用いて光学部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、スマートフォンをはじめとする、モバイル電子機器について、センサーやカメラを搭載することによる製品価値の向上が進んでいる。年々、小型化、薄型化が進み、それらに使用されるレンズ等の光学部品も、より小型で、より薄型のものが求められている。そのような要求に対して、従来、射出成型によって光学部品を製造することで対応してきたが、射出成型法では小型化、薄型化への対応に限界がきている。そこで、射出成型法に代わる新たな成型方法としてインプリント成型技術が注目を浴びている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−266664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細な形状を有する樹脂成型品をインプリント成型により成型する場合、用いるモールドには、樹脂成型品の微細な形状に対応する微細なパターン形状(パターン形状部)が設けられている。しかしながら、本発明者は、このような微細なパターン形状部を有するモールドを用いてインプリント成型により樹脂成型品を成型する場合、樹脂成型品を形成する硬化性組成物をモールドに塗布した際に硬化性組成物中に気泡が発生(泡かみ)しやすいことを見出した。上記気泡は、モールドに設けられた微細なパターン形状部の凹部の底付近(成型後に樹脂成型品の凸部の先端となる部分)に特に発生しやすい。
【0005】
従って、本発明の目的は、インプリント成型において、パターン形状部を有するモールドに硬化性組成物を塗布した際に気泡の発生が起こりにくい樹脂成型品の製造方法、及び該樹脂成型品を用いた光学部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面が加温された硬化性組成物未塗布部分に、該モールドに対する接触角が小さい硬化性組成物を上記モールドの表面温度より少し高い温度で塗布することにより、パターン形状部を有するモールドに硬化性組成物を塗布した際に気泡の発生を起こりにくくすることができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、インプリント成型により樹脂成型品を製造する方法であって、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面温度が35〜55℃の硬化性組成物未塗布部分に、前記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ前記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布する加温塗布段階を含む硬化性組成物塗布工程、及び前記モールドに塗布された前記硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を得る硬化工程を有する、樹脂成型品の製造方法を提供する。
【0008】
前記硬化性組成物塗布工程の後に、前記硬化性組成物塗布工程を経て得られた前記硬化性組成物が塗布されたモールドを、前記硬化性組成物塗布工程を経て前記硬化性組成物が塗布された別のモールドと、前記硬化性組成物同士が接触するように重ね合わせる型閉じ工程を有することが好ましい。
【0009】
前記硬化性組成物がエポキシ化合物を含有することが好ましい。
【0010】
前記硬化性組成物塗布工程の後に、減圧による脱泡工程を有することが好ましい。
【0011】
前記モールドにおけるパターン形状が凹凸形状であり、凹部最底部と凸部最頂部の高低差が0.05mm以上であることが好ましい。
【0012】
前記樹脂成型品はマイクロレンズアレイであることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記樹脂成型品の製造方法により得られる樹脂成型品を用いた光学部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂成型品の製造方法によれば、パターン形状部を有するモールドに硬化性組成物を塗布した際に気泡の発生を起こりにくくすることができる。特に、微細なパターン形状部を有するモールドを用いた場合であっても、気泡の発生が起こりにくい。このため、微細な形状を有する樹脂成型品を、優れた形状精度で且つ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の樹脂成型品の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】フレネルレンズの一例を示す模式図であり、(1−a)は断面図、(1−b)は真上から見た図である。
図3】フレネルレンズ断面におけるレンズ面1と非レンズ面2、レンズ面1と基準面3の成す角θを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂成型品の製造方法は、インプリント成型により樹脂成型品を製造する方法であって、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面温度が35〜55℃の硬化性組成物未塗布部分に、上記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布する加温塗布段階を含む硬化性組成物塗布工程、及び上記モールドに塗布された上記硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を得る硬化工程を有する。なお、本明細書において、本発明の樹脂成型品の製造方法を、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある。
【0017】
上述のように、本発明の製造方法は、インプリント成型により樹脂成型品を製造する方法であり、基板に樹脂成型品を形成する硬化性組成物を塗布し、塗布された硬化性組成物を挟み込むように他の基板を重ね合わせ、その後上記硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を製造する。なお、本発明の製造方法では、少なくとも一方の基板としてパターン形状部を有するモールドを用い、このパターン形状部を有するモールド(以下、単に「モールド」と称する場合がある)に硬化性組成物を塗布する。
【0018】
(硬化性組成物塗布工程)
上記硬化性組成物塗布工程は、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面温度が35〜55℃の硬化性組成物未塗布部分(すなわち、樹脂成型品を形成する硬化性組成物を塗布すべき部分であって未だ塗布されていない部分)に、上記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布する段階(「加温塗布段階」と称する場合がある)を含む。なお、本明細書において、モールドの表面温度が35〜55℃である硬化性組成物未塗布部分に、上記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布することを、「加温塗布」と称する場合がある。
【0019】
すなわち、上記加温塗布段階では、モールドに硬化性組成物を塗布する際、初めにモールドに塗布する、樹脂成型品を形成する硬化性組成物として上記モールドに対する接触角が50°以下の硬化性組成物を用いる。そしてこの際、硬化性組成物を塗布する部分(パターン形状部であって硬化性組成物が塗布されていない部分)の表面温度は35〜55℃であり、上記硬化性組成物を上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い状態で塗布する。例えば、上記モールドに離型剤が塗布されている場合は離型剤が塗布されたモールドに、離型剤等が塗布されていない場合は上記モールド表面に、上記硬化性組成物を塗布する。
【0020】
加温塗布時の上記モールドの表面温度は、上述のように35〜55℃であり、好ましくは40〜50℃である。なお、少なくとも上記硬化性組成物を塗布する箇所の表面温度が上記範囲内であればよい。
【0021】
また、加温塗布時の上記硬化性組成物の温度は、上述のように上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い。すなわち、加温塗布時の上記モールドの表面温度と上記硬化性組成物の温度の差[(モールドの表面温度)−(硬化性組成物の温度)]は、3〜7℃であり、好ましくは4〜6℃である。
【0022】
加温塗布時の上記硬化性組成物の温度は、特に限定されないが、36〜62℃が好ましく、より好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは43〜57℃である。上記温度が上記範囲内であると、硬化性組成物とモールドとのなじみやすさがさらに向上し、モールドに形成された微細なパターン形状の凹部先端に硬化性組成物が到達しやすく気泡の発生をより抑制することができる。
【0023】
上記硬化性組成物は、硬化して樹脂成型品を形成する組成物である。上記硬化性組成物は、上記モールドに対する接触角が50°以下である。これにより、モールドに対する硬化性組成物の濡れ性が高くなるため、パターン形状が微細な構造を有している場合であっても、硬化性組成物の塗布時にモールドに付着した際にはパターン形状に沿って硬化性組成物が濡れ広がりやすく、気泡が発生しにくい。上記接触角は、好ましくは45°以下、より好ましくは40°以下である。上記接触角は、公知乃至慣用の方法で測定することができる。
【0024】
本発明の製造方法は、上記接触角が50°以下である硬化性組成物を用いること、加温塗布時における上記モールドの表面温度が35〜55℃であること、及び上記硬化性組成物の温度が上記表面温度よりも3〜7℃高いことの全てを満たすことにより、硬化性組成物とモールドとのなじみやすさがよりいっそう向上し、モールドに形成された微細なパターン形状部の凹部先端に硬化性組成物が到達しやすく気泡の発生を抑制することができる。
【0025】
上記硬化性組成物は、硬化性の化合物(硬化性化合物)を含有する。上記硬化性組成物としては、公知乃至慣用のインプリント成型に用いられる組成物を使用することができ、目的とする樹脂成型品の種類に応じて適宜選択される。上記硬化性化合物としては、例えば、カチオン硬化性化合物、ラジカル硬化性化合物、アニオン硬化性化合物等が挙げられる。上記カチオン硬化性化合物としては、例えば、エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)、オキセタニル基を有する化合物(オキセタン化合物)、ビニルエーテル基を有する化合物(ビニルエーテル化合物)が挙げられ、好ましくはエポキシ化合物である。上記硬化性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
【0026】
上記エポキシ化合物としては、分子内に1以上のエポキシ基(オキシラン環)を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ樹脂)、芳香族エポキシ化合物(芳香族エポキシ樹脂)、脂肪族エポキシ化合物(脂肪族エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0027】
上記脂環式エポキシ化合物としては、分子内に1個以上の脂環と1個以上のエポキシ基とを有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、(1)分子内に脂環を構成する隣接する2つの炭素原子と酸素原子とで構成されるエポキシ基(「脂環エポキシ基」と称する)を有する化合物;(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物;(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物(グリシジルエーテル型エポキシ化合物)等が挙げられる。
【0028】
上記(1)分子内に脂環エポキシ基を有する化合物としては、下記式(i)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
【0029】
上記式(i)中、Yは単結合又は連結基(1以上の原子を有する二価の基)を示す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素−炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これらが複数個連結した基等が挙げられる。なお、式(i)におけるシクロヘキサン環(シクロヘキセンオキシド基)を構成する炭素原子の1以上には、アルキル基等の置換基が結合していてもよい。
【0030】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1〜18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基、二価の脂環式炭化水素基等が挙げられる。炭素数が1〜18の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基等が挙げられる。上記二価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等の二価のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)等が挙げられる。
【0031】
上記炭素−炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1−ブテニレン基、2−ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基等の炭素数2〜8の直鎖又は分岐鎖状のアルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素−炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素−炭素二重結合の全部がエポキシ化された炭素数2〜4のアルケニレン基である。
【0032】
上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物の代表的な例としては、(3,4,3’,4’−ジエポキシ)ビシクロヘキシル、下記式(i−1)〜(i−10)で表される化合物等が挙げられる。なお、下記式(i−5)、(i−7)中のl、mは、それぞれ1〜30の整数を表す。下記式(i−5)中のR’は炭素数1〜8のアルキレン基であり、中でも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。下記式(i−9)、(i−10)中のn1〜n6は、それぞれ1〜30の整数を示す。また、上記式(i)で表される脂環式エポキシ化合物としては、その他、例えば、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)エタン、1,2−エポキシ−1,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)エタン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル等が挙げられる。
【化2】
【化3】
【0033】
上述の(2)脂環にエポキシ基が直接単結合で結合している化合物としては、例えば、下記式(ii)で表される化合物等が挙げられる。
【化4】
【0034】
式(ii)中、R"は、p価のアルコールの構造式からp個の水酸基(−OH)を除いた基(p価の有機基)であり、p、nはそれぞれ自然数を表す。p価のアルコール[R"(OH)p]としては、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール等の多価アルコール(炭素数1〜15のアルコール等)等が挙げられる。pは1〜6が好ましく、nは1〜30が好ましい。pが2以上の場合、それぞれの( )内(外側の括弧内)の基におけるnは同一でもよく異なっていてもよい。上記式(ii)で表される化合物としては、具体的には、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物[例えば、商品名「EHPE3150」((株)ダイセル製)等]等が挙げられる。
【0035】
上述の(3)分子内に脂環及びグリシジルエーテル基を有する化合物としては、例えば、脂環式アルコール(特に、脂環式多価アルコール)のグリシジルエーテルが挙げられる。より詳しくは、例えば、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]プロパン等のビスフェノールA型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物);ビス[o,o−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[o,p−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[p,p−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)シクロへキシル]メタン等のビスフェノールF型エポキシ化合物を水素化した化合物(水素化ビスフェノールF型エポキシ化合物);水素化ビフェノール型エポキシ化合物;水素化フェノールノボラック型エポキシ化合物;水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;ビスフェノールAの水素化クレゾールノボラック型エポキシ化合物;水素化ナフタレン型エポキシ化合物;トリスフェノールメタンから得られるエポキシ化合物の水素化エポキシ化合物;下記芳香族エポキシ化合物の水素化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0036】
上記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール等]と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;これらのエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を上記ビスフェノール類とさらに付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール類[例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等]とアルデヒド[例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等]とを縮合反応させて得られる多価アルコール類を、さらにエピハロヒドリンと縮合反応させることにより得られるノボラック・アルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フルオレン環の9位に2つのフェノール骨格が結合し、かつこれらフェノール骨格のヒドロキシ基から水素原子を除いた酸素原子に、それぞれ、直接又はアルキレンオキシ基を介してグリシジル基が結合しているエポキシ化合物等が挙げられる。
【0037】
上記脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、q価の環状構造を有しないアルコール(qは自然数である)のグリシジルエーテル;一価又は多価カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、イタコン酸等]のグリシジルエステル;エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ひまし油等の二重結合を有する油脂のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン等のポリオレフィン(ポリアルカジエンを含む)のエポキシ化物等が挙げられる。なお、上記q価の環状構造を有しないアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール等の一価のアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上の多価アルコール等が挙げられる。また、q価のアルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。
【0038】
上記オキセタン化合物としては、分子内に1以上のオキセタン環を有する公知乃至慣用の化合物が挙げられ、特に限定されないが、例えば、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス{[1−エチル(3−オキセタニル)]メチル}エーテル、4,4'−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3−エチル−3−{〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕メチル)}オキセタン、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0039】
上記ビニルエーテル化合物としては、分子内に1以上のビニルエーテル基を有する公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル(エチレングリコールモノビニルエーテル)、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,8−オクタンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールジビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールジビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールジビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールジビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールジビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、イソソルバイドジビニルエーテル、オキサノルボルネンジビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ハイドロキノンジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ビスフェノールAジビニルエーテル、ビスフェノールFジビニルエーテル、ヒドロキシオキサノルボルナンメタノールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等が挙げられる。
【0040】
上記硬化性組成物中の硬化性化合物(特に、エポキシ化合物)の含有量は、特に限定されないが、硬化性組成物の総量(100重量%)に対して、10〜95重量%が好ましく、より好ましくは15〜90重量%、さらに好ましくは20〜85重量%である。上記含有量が10重量%以上であると、硬化性組成物の硬化性、樹脂成型品の耐熱性、耐光性、及び透明性に優れる傾向がある。
【0041】
上記硬化性組成物は、上記硬化性化合物と共に光重合開始剤を含有することが好ましく、特に光カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。光カチオン重合開始剤は、光の照射によって酸を発生して、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)の硬化反応を開始させる化合物であり、光を吸収するカチオン部と酸の発生源となるアニオン部からなる。
【0042】
上記光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩系化合物、ヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、ホスホニウム塩系化合物、セレニウム塩系化合物、オキソニウム塩系化合物、アンモニウム塩系化合物、臭素塩系化合物等が挙げられる。本発明においては、中でも、スルホニウム塩系化合物を使用することが、硬化性に優れた樹脂成型品を形成することができる点で好ましい。
【0043】
上記スルホニウム塩系化合物のカチオン部としては、例えば、トリフェニルスルホニウムイオン、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムイオン、トリ−p−トリルスルホニウムイオン、(4−ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウムイオン、4−(4−ビフェニリルチオ)フェニル−4−ビフェニリルフェニルスルホニウムイオン等のアリールスルホニウムイオン(特に、トリアリールスルホニウムイオン)が挙げられる。
【0044】
上記アニオン部としては、例えば、[(X)sB(Phf)4-s-(式中、Xはフェニル基又はビフェニリル基を示す。Phfは水素原子の少なくとも1つが、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種で置換されたフェニル基を示す。sは0〜3の整数である)、BF4-、[(Rf)nPF6-n-(Rf:水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基、n:0〜5の整数)、AsF6-、SbF6-、ペンタフルオロヒドロキシアンチモネート等が挙げられる。
【0045】
上記光カチオン重合開始剤としては、例えば、(4−ヒドロキシフェニル)メチルベンジルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−(4−ビフェニリルチオ)フェニル−4−ビフェニリルフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4−(4−ビフェニリルチオ)フェニル]−4−ビフェニリルフェニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、4−(4−ビフェニリルチオ)フェニル−4−ビフェニリルフェニルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、[4−(2−チオキサントニルチオ)フェニル]フェニル−2−チオキサントニルスルホニウム フェニルトリス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、商品名「サイラキュアUVI−6970」、「サイラキュアUVI−6974」、「サイラキュアUVI−6990」、「サイラキュアUVI−950」(以上、米国ユニオンカーバイド社製)、「イルガキュア250」、「イルガキュア261」、「イルガキュア264」(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、「SP−150」、「SP−151」、「SP−170」、「オプトマーSP−171」(以上、(株)ADEKA製)、「CG−24−61」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、「DAICAT II」((株)ダイセル製)、「UVAC1590」、「UVAC1591」(以上、ダイセル・サイテック(株)製)、「CI−2064」、「CI−2639」、「CI−2624」、「CI−2481」、「CI−2734」、「CI−2855」、「CI−2823」、「CI−2758」、「CIT−1682」(以上、日本曹達(株)製)、「PI−2074」(ローディア社製、テトラキス(ペンタフルオロフェニルボレート)トルイルクミルヨードニウム塩)、「FFC509」(3M社製)、「BBI−102」、「BBI−101」、「BBI−103」、「MPI−103」、「TPS−103」、「MDS−103」、「DTS−103」、「NAT−103」、「NDS−103」(以上、ミドリ化学(株)製)、「CD−1010」、「CD−1011」、「CD−1012」(以上、米国、Sartomer社製)、「CPI−100P」、「CPI−101A」、「CPI−200K」(以上、サンアプロ(株)製)等の市販品を使用できる。
【0046】
上記光重合開始剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。その使用量(配合量)は、硬化性組成物に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。光重合開始剤を上記範囲内で使用することにより、硬化性、耐熱性、耐光性、透明性、光学特性等に優れた樹脂成型品を得ることができる。
【0047】
上記硬化性組成物は、上記硬化性化合物、上記光重合開始剤、及び必要に応じて他の成分(例えば、溶剤、酸化防止剤、光増感剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、界面活性剤、難燃剤、紫外線吸収剤、着色剤等)を含有していてもよい。上記硬化性組成物として、例えば、商品名「CELVENUS OUH106」((株)ダイセル製)等の市販品を使用することもできる。
【0048】
上記モールドは、樹脂成型品に所望の形状を付与するための、当該形状に対応する逆凹凸のパターン形状(所望の樹脂成型品の反転形状)が付与されている。上記モールドは、樹脂成型品を形成する硬化性組成物のモールドに対する接触角が50°以下であればよいが、樹脂製であることが好ましい。上記モールドを形成する樹脂としては、上記硬化性組成物の接触角、硬化後の樹脂成型品の剥離性等を考慮して選択され、例えば、シリコーン系樹脂(ジメチルポリシロキサン等)、フッ素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ環状オレフィン等)、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。上記樹脂としては、中でも、シリコーン系樹脂が好ましい。シリコーン系樹脂を用いると、エポキシ化合物を含む硬化性組成物との相性に優れ、上記接触角が小さくなりやすい傾向がある。また、樹脂成型品の離型性及びモールドの柔軟性にも優れるため、樹脂成型品をより容易に取り出すことができる。
【0049】
上記モールドは、市販品を用いてもよいし、製造したものを用いてもよい。モールドを製造する場合、例えば、モールドを形成する樹脂組成物を成型(好ましくは、インプリント成型)し、その後熱硬化させることにより製造することができる。樹脂組成物の成型には、所望の凹凸形状を有する金型を使用することができ、例えば、下記(1)、(2)の方法で製造することができる。
(1)基板上に塗布した樹脂組成物の塗膜に対し、金型を押し付け、樹脂組成物の塗膜を硬化させたうえで、金型を剥離する方法
(2)金型に対し樹脂組成物を直接塗工し、その上から基板を密着させた後、樹脂組成物の塗膜を硬化させたうえで、金型を剥離する方法
【0050】
上記モールドは、パターン形状部の少なくとも一部に離型剤が塗布されていてもよい。硬化性組成物の塗布前にモールドに離型剤が塗布されていると、形成された樹脂成型品をモールドから取り出す(離型する)際に容易に離型することができる。この場合、通常は離型層も同時にモールドから離型するため、得られる樹脂成型品は、表面に離型層を少なくとも1層有することとなる。
【0051】
上記離型剤としては、例えば、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、ワックス系離型剤等が挙げられる。上記離型剤は、1種を使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。上記離型剤の塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0052】
上記硬化性組成物の塗布は、公知乃至慣用の塗布方法により行うことができる。上記塗布としては、例えば、スピンコート塗布、ロールコート塗布、スプレー塗布(スプレー噴霧)、ディスペンスコート、ディップコート、インクジェット塗布、エアーブラシ塗布(エアーブラシ噴霧)、超音波塗布(超音波噴霧)等が挙げられる。
【0053】
上記硬化性組成物塗布工程において、上記加温塗布は、少なくともパターン形状部の全体に硬化性組成物の塗布膜ができていることを目視で確認できるまで行うことが好ましい。また、上記加温塗布は、樹脂成型品を形成するための硬化性組成物の全量を塗布するまで行ってもよく、パターン形状部の全体に硬化性組成物の塗布膜ができていることを目視で確認できるまで上記加温塗布を行った後、樹脂成型品を形成するための硬化性組成物の残りの全量を他の塗布方法により塗布してもよい。上記他の塗布方法としては、上記モールドの表面温度及び/又は上記硬化性組成物の温度が上記加温塗布で特定する温度範囲外の温度(例えば、20〜30℃)で塗布する方法等が挙げられる。
【0054】
上記のように、上記硬化性組成物塗布工程では、上記加温塗布、及びその後必要に応じて上記他の塗布方法による塗布を行うことにより、上記硬化性組成物がパターン形状部に塗布(充填)されたモールドが得られる。
【0055】
(脱泡工程)
本発明の製造方法は、上記硬化性組成物塗布工程後に、塗布された硬化性組成物中の気泡を脱泡する工程(脱泡工程)を有していてもよい。本発明の製造方法において上記硬化性組成物塗布工程では、硬化性組成物中の気泡の発生はかなり抑制されるが、上記脱泡工程により、わずかに発生した気泡を抜くことができる。
【0056】
上記脱泡は、公知乃至慣用の脱泡方法により行うことができ、減圧による脱泡(減圧脱泡、真空脱泡)が好ましい。上記減圧脱泡は、例えば、上記硬化性組成物が充填されたモールドを、圧力0.1〜20kPaの環境下に1〜10分間静置して行うことができる。
【0057】
(型閉じ工程)
上記硬化性組成物塗布工程(必要に応じて、脱泡工程)を経て得られた上記硬化性組成物が塗布(充填)されたモールドを、塗布された硬化性組成物を挟み込むように他の基板と重ね合わせる工程(型閉じ工程)を行う。すなわち、上記硬化性組成物が塗布されたモールドと上記他の基板とを、それぞれ、上型と下型として用い、硬化性組成物を挟み込むようにして上型及び下型の型閉じ工程を行う。この際、どちらが上型又は下型であってもよい。
【0058】
上記他の基板としては、パターン形状部を有するモールド(上記加温塗布を行ったモールドとは異なる他のモールド)であってもよく、パターン形状部を有しない基板(平面基板)であってもよい。例えば、一方の面のみに凹凸形状を有する樹脂成型品を製造する場合は上記他の基板として上記平面基板を用いることができ、両面に凹凸形状を有する樹脂成型品を製造する場合は上記他の基板として上記他のモールドを用いることができる。
【0059】
上記他のモールドとしては、上述の加温塗布を行うモールドと同様のものを用いることができる。上記の2つのモールドは、異なる材料から形成されていてもよいし、同じ材料から形成されていてもよい。また、上記の2つのモールドは、同じパターン形状部を有していてもよいし、異なるパターン形状部を有していてもよい。
【0060】
上記平面基板としては、例えば、ガラス板;シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体;ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基板;金属基板;これらの材料の組み合わせ等が挙げられる。上記平面基板は、微細配線、結晶構造、光導波路、ホログラフィ等の光学的構造等のパターン構造物を有していてもよい。
【0061】
上記他の基板には、硬化性組成物が塗布されていてもよいし、塗布されていなくてもよい。上記他の基板に硬化性組成物が塗布されている場合、加温塗布を行う上記硬化性組成物塗布工程(必要に応じて、脱泡工程)を経て硬化性組成物が塗布(充填)された基板を用いてもよい。特に、上記他の基板としてモールドを用いる場合(すなわち、両面に凹凸形状を有する樹脂成型品を製造する場合)、上記他の基板としてのモールドは、加温塗布を含む上記硬化性組成物塗布工程(必要に応じて、脱泡工程)を経て硬化性組成物が塗布(充填)されたモールドを用いることが好ましい。上記他の基板として硬化性組成物が塗布された基板(特に、上記硬化性組成物塗布工程を経て硬化性組成物が塗布されたモールド)を用いる場合、上記型閉じ工程は、硬化性組成物同士が接触するように上型と下型とを重ね合わせる。
【0062】
(プレス工程)
本発明の製造方法は、上記型閉じ工程後、上型の上部からプレスする工程(プレス工程)を有していてもよい。これにより、得られる樹脂成型品の厚みバラツキを小さくすることができる。プレスする際の圧力は、例えば、0.01〜100MPaである。
【0063】
(硬化工程)
上記硬化工程では、上記モールドに塗布(充填)された硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を得る。具体的には、上記硬化性組成物に含まれる硬化性化合物(特に、カチオン硬化性化合物)の重合反応を進行させることにより、該硬化性組成物を硬化させることができる。硬化の方法は、周知乃至慣用の方法より適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、活性エネルギー線の照射、及び/又は、加熱する方法が挙げられる。上記活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等のいずれを使用することもできる。中でも、取り扱い性に優れる点で、紫外線が好ましい。
【0064】
紫外線照射を行う際の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯等が用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒である。照度は、例えば5〜200mW程度である。活性エネルギー線照射後は、必要に応じて加熱(ポストキュア)を行って硬化の促進を図ってもよい。
【0065】
上記硬化工程を経て、硬化性組成物が硬化し、樹脂成型品を得ることができる。上記硬化工程後、上型と下型とを開き、モールドから樹脂成型品を取り出すことができる。
【0066】
図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す工程図である。図1に示す本発明の製造方法は、パターン形状部を有するモールドの該パターン形状部における表面温度が35〜55℃の硬化性組成物未塗布部分に、上記モールドに対する接触角が50°以下であり且つ上記モールドの表面温度よりも3〜7℃高い温度の硬化性組成物を塗布する加温塗布段階を含む硬化性組成物塗布工程S1、塗布された硬化性組成物中の気泡を脱泡する脱泡工程S2、上記硬化性組成物が塗布(充填)されたモールドを、塗布された硬化性組成物を挟み込むように他の基板と重ね合わせる型閉じ工程S3、上型の上部からプレスするプレス工程S4、及び上記モールドに塗布された上記硬化性組成物を硬化させて樹脂成型品を得る硬化工程S5を、この順に有する。
【0067】
本発明の製造方法により得られる樹脂成型品は、例えば、レンズ、プリズム、LED、有機EL素子、半導体レーザー、トランジスタ、太陽電池、CCDイメージセンサ、光導波路、光ファイバー、代替ガラス(例えば、ディスプレイ用基板、ハードディスク基板、偏光フィルム)等の光学部品として好ましく使用することができる。
【0068】
上記光学部品として、例えばレンズを製造する際は、マイクロレンズアレイ[例えば、複数のマイクロレンズが縦横方向に、行列状に並置された形状を有する構造体]として得てもよい。即ち、上記モールドは、マイクロレンズアレイの形状に対応するパターン形状を有することが好ましい。
【0069】
光学部品のサイズとしては、例えば光学部品がマイクロレンズアレイの場合、マイクロレンズ1個のサイズは、直径が例えば0.01〜100mm程度、厚みが例えば0.1〜2.0mm程度である。また、マイクロレンズアレイにおけるピッチ幅は、例えば10〜1000μm程度である。
【0070】
上記光学部品としては、特に、フレネルレンズアレイであることが好ましい。なお、フレネルレンズとは、図2に示すように、表面にレンズ面1と、該レンズ面と相対する非レンズ面2によって構成されるプリズムであって、断面が山形形状であるプリズムが複数個形成されているレンズである。レンズ面1と基準面3のなす角θは、中心に向かっていくに従い、連続的に角度が小さく(又は大きく)なっており、レンズ面1のみを連続すると、1つの凸レンズ(または凹レンズ)を形成する(図3参照)。フレネルレンズアレイを成型するためのモールドは図2及び3に示すように凹凸形状が細かいため、硬化性組成物の塗布時に特に気泡が発生しやすい。しかし、本発明の樹脂成型品の製造方法は、フレネルレンズアレイのような特に微細な凹凸形状を有する樹脂成型品を製造するためのモールドに対しても塗布時の気泡の発生を抑制することができる。
【0071】
上記フレネルレンズアレイにおける繰返し間隔(凸部最頂部間又は凹部最深部間の距離、つまりプリズム形状のピッチ幅)は、特に限定されないが、0.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。なお、下限は、例えば0.05mmである。上記繰返し間隔が狭いほど気泡発生の防止の難易度が高くなるが、本発明の樹脂成型品の製造方法によれば、このような繰返し間隔に対応するモールドに対しても塗布時の気泡の発生を抑制することができる。
【0072】
上記フレネルレンズアレイにおける先鋭度(凸部先端部R又は凹部谷部R、つまり尖り角度・切れ込み角度の鋭さ)は、特に限定されないが、R0.01mm以下が好ましく、より好ましくはR0.005mm以下、さらに好ましくはR0.001mm以下である。なお、下限は、例えば0.0005mmである。上記Rが小さいほど気泡発生の防止の難易度が高くなるが、本発明の樹脂成型品の製造方法によれば、このような先鋭度に対応するモールドに対しても塗布時の気泡の発生を抑制することができる。
【0073】
上記フレネルレンズアレイにおける高さ間隔(凸部最頂部と凹部最深部の高低差)は、特に限定されないが、0.05mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは5mm以上である。上限は、例えば10mmである。上記高さ間隔が高いほど気泡発生の防止の難易度が高くなるが、本発明の樹脂成型品の製造方法によれば、このような高さ間隔に対応するモールドに対しても塗布時の気泡の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0074】
S1 硬化性組成物塗布工程
S2 脱泡工程
S3 型閉じ工程
S4 プレス工程
S5 硬化工程
図1
図2
図3