特許第6871059号(P6871059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6871059-摺動部材用樹脂材料及び摺動部材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6871059
(24)【登録日】2021年4月19日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】摺動部材用樹脂材料及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20210426BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210426BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20210426BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C08L79/08 B
   C08K3/04
   C08K3/34
   C08L79/08 C
   F16C33/20 A
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-100960(P2017-100960)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-193520(P2018-193520A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100147810
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 浩
(72)【発明者】
【氏名】川井 トオル
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−508022(JP,A)
【文献】 特開平01−016842(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/126078(WO,A1)
【文献】 特開2013−083301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度195MPa以上のポリイミド樹脂と、
前記ポリイミド樹脂中に分散された添加剤と
を含み、
前記添加剤が、
黒鉛と、
クレーと
を含み、
耐疲労強度が55MPa以上である
摺動部材用樹脂材料。
【請求項2】
前記耐疲労強度が80MPa以上である
請求項1に記載の摺動部材用樹脂材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摺動部材用樹脂材料で形成された樹脂層を有する摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用樹脂材料及びこれを用いた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材に用いる樹脂材料として、バインダー樹脂に黒鉛を添加した樹脂材料が知られている。例えば特許文献1には、球に近い形状を有する黒鉛粒子を含む樹脂材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5683571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、樹脂材料の耐疲労性に改善の余地があった。
【0005】
これに対し本発明は、耐疲労性を改善した摺動部材用樹脂材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリイミド樹脂と、前記ポリイミド樹脂中に分散された添加剤とを含み、前記添加剤が、黒鉛と、クレーとを含み、耐疲労強度が55MPa以上である摺動部材用樹脂材料を提供する。
【0007】
前記耐疲労強度が80MPa以上であってもよい。
【0008】
また、本発明は、上記いずれかの摺動部材用で形成された樹脂層を有する摺動部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摺動部材用樹脂材料において耐疲労性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る摺動部材1の断面構造を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.構成
図1は、一実施形態に係る摺動部材1の断面構造を例示する図である。摺動部材1は、例えば燃料噴射ポンプにおけるブシュとして用いられる摺動部材である。摺動部材1は、基材11、焼結層12、及び樹脂層13を有する。基材11は摺動部材1の形状及び機械的強度を与えるための層である。基材11は、例えば鋼で形成される。焼結層12は、樹脂層13と基材11との密着性を向上させるための層であり、金属粉、例えば銅又は銅合金の粉末で形成される。
【0012】
樹脂層13は、摺動部材用樹脂材料で形成される。この樹脂材料は、バインダー樹脂131、及びバインダー樹脂131中に分散された添加剤132を含む。バインダー樹脂131としては、例えば熱硬化性樹脂、より具体的には、例えばポリイミド(PI)樹脂及びポリアミドイミド(PAI)樹脂の少なくとも一方が用いられる。なお、耐疲労性を向上させる観点から、PAI樹脂よりもPI樹脂を用いることが好ましく、PI樹脂の中でも高強度のもの(ここで「高強度」とは引張強度が150MPa以上のものをいう)が用いられることが好ましい。耐疲労性を向上させる観点からは、樹脂層13におけるバインダー樹脂の含有量は多い方が好ましく、例えば80体積%以上であることが好ましく、83体積%以上であることがより好ましく、85体積%以上であることがさらに好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましい。
【0013】
添加剤132とは樹脂層13の特性を改善するための物質であり、例えば、固体潤滑剤1321、硬質物(硬質粒子)1322、及びシランカップリング剤のうち少なくとも1つを含む(シランカップリング剤は図示略)。固体潤滑剤1321は樹脂層13の摩擦係数を低減するための添加物であり、例えば、黒鉛(グラファイト)及びMoS2のうち少なくとも一方を含む。MoS2は樹脂層において凝集しやすい場合があるので、固体潤滑剤1321としては黒鉛を用い、MoS2を用いないことが好ましい。固体潤滑剤1321として黒鉛を用いる場合、摩擦係数を低減する観点からその黒鉛化度は高い方が好ましく、例えば95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。硬質物1322は樹脂層13の耐焼付性及び耐摩耗性を向上させるための物質であり、例えば、クレー、ムライト、及びタルクのうち少なくとも1種を含む。シランカップリング剤はバインダー樹脂131と固体潤滑剤1321との結合を強化するための物質である。
【0014】
耐疲労性を向上させる観点から、添加剤の含有量は少ない方が好ましく、例えば合計で20体積%以下であることが好ましく、17体積%以下であることがより好ましく、15体積%以下であることがさらに好ましく、10体積%以下であることがさらに好ましい。摩擦係数を低減する観点からは固体潤滑剤の含有量は多い方が好ましく、例えば9体積%以上であることが好ましい。添加剤の総量を減らす観点から固体潤滑剤の含有量は少ない方が好ましく、例えば18体積%以下であることが好ましい。耐焼付性及び耐摩耗性を向上させる観点からは硬質物の含有量は多い方が好ましく、例えば0.5体積%以上であることが好ましい。添加剤の総量を減らす観点から固体潤滑剤の含有量は少ない方が好ましく、例えば3体積%以下であることが好ましい。固体潤滑剤及び硬質物の双方を添加するためには、固体潤滑剤の含有量は9体積%以上17体積%以下であることが好ましく、14体積%以下であることがより好ましい。硬質物の含有量は0.5体積%以上3体積%以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量は、バインダー樹脂に対して例えば0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましい。コスト削減の観点から、シランカップリング剤の含有量は、バインダー樹脂に対して例えば5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。
【0015】
切削加工後における表面粗さを低減する観点から、材料として用いる添加剤132の粒径は小さいことが好ましく、例えば、添加剤132の平均粒径は、焼結層12に用いられる金属粉の平均粒径よりも小さいことが好ましい。さらに、固体潤滑剤1321及び硬質物1322のいずれも、平均粒径が5μm以下又は5μm未満であることが好ましく、3μm以下又は3μm未満であることがより好ましい。
【0016】
樹脂層13を摺動部材に用いるため、耐疲労強度すなわち疲労面圧は55MPa以上であることが好ましく、80MPa以上であることがより好ましく、90MPa以上であることがさらに好ましい。なお疲労面圧の測定方法は後述する。樹脂層13の耐疲労性を向上させる観点から、材料として用いる固体潤滑剤1321の平均粒径は小さいことが好ましく、例えば、硬質物1322の平均粒径の2倍以下であることが好ましく、硬質物1322の平均粒径よりも小さいことがより好ましい。
【0017】
樹脂層13においては、添加剤132の含有量が増えると樹脂層13の耐疲労性が低下すると考えられる。本実施形態においては、添加剤の含有量を抑えることにより耐疲労性を向上させる。
【0018】
2.実施例
本願の発明者らは、種々の条件で摺動部材の試験片を作製し、これらの試験片について耐疲労性を評価した。
【0019】
2−1.試験片作製
基材としては、厚さ1.5mmの鋼板(SPCC(JIS))を用いた。基材の上に銅合金粉(平均粒径100μm)を厚さ100μmで散布した後、圧下せず、還元雰囲気で930℃に加熱して焼結した。表1の組成の樹脂層を形成するための前駆体溶液を調整し、この前駆体溶液を、焼結層の上にナイフコート法により塗布した。塗布後、室温〜約200℃の範囲で60〜90分程度、乾燥した。その後、約300℃まで昇温し、30〜90分程度焼成した。
【0020】
実験例1〜4においては黒鉛として平均粒径(体積基準によるd50)が1.5μmであり、黒鉛化度が99%のものを用いた。また、高強度PI樹脂として、引張強度が195MPa、伸びが90%、弾性率が3.8GPa、ガラス転移温度Tgが285℃のものを用いた。実験例5においては黒鉛として、平均粒径が12.5μmであり、黒鉛化度が90%のものを用いた。MoS2としては平均粒径が1.5μmのものを用いた。さらに、PI樹脂としては、引張強度が119MPa、伸びが47%、ガラス転移温度Tgが360℃のものを、PAI樹脂として、引張強度が112MPa、伸びが17%、弾性率が2.7GPa、ガラス転移温度Tgが288℃のものを用いた。実験例1〜4において、シランカップリング剤としては、化学式が3(H3CO)SiC3H6−NH−C3H6Si(OCH3)3のものを用いた。なお表1において、シランカップリング剤の含有量は、高強度PI樹脂に対する重量比で示されている。実験例1〜5において、クレーとしては、構造式がAl2O3・2SiO2であり、平均粒径が3μmのものを用いた。
【0021】
実験例1〜4において、固体潤滑剤としては黒鉛のみを用いた(すなわちMoS2は含まない)。添加剤は全て、平均粒径が3μm以下であった。
【0022】
2−2.耐疲労性評価
実験例1及び実験例2の試験片に対し疲労試験を行った。疲労試験は以下の条件で行い、樹脂層に疲労が発生しなかった最大の面圧を疲労面圧とした。
・試験機:往復動荷重試験機
・回転速度:3000rpm
・試験温度(軸受背面温度):100℃
・相手材:S45C
・潤滑油:パラフィン油
【0023】
表1は、実験例1〜6の組成及び疲労試験の結果を示す。
【表1】
【0024】
実験例1〜3の耐疲労面圧は90MPa以上であったのに対し、実験例4及び5の耐疲労面圧は40MPa以下であった。実験例4及び5を比較例とし、実験例1〜3を実施例とすると、比較例に係る樹脂材料は疲労面圧が55MPaに達しなかったが、本実施形態に係る樹脂材料は疲労面圧が55MPa以上であった。
【0025】
なお、上述の実施例において使用した各種の材料及びその組成はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。本発明に係る樹脂材料は不可避不純物を含んでもよい。また、摺動部材の具体的構造は図1で例示したものに限定されない。例えば、焼結層12は省略され、基材11の上に直接、樹脂層13が形成されてもよい。また、摺動部材1の用途は燃料噴射ポンプにおけるブシュとして用いられるものに限定されず、各種の軸受、又はコンプレッサー等に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…摺動部材
11…基材
12…焼結層
13…樹脂層
131…バインダー樹脂
132…添加剤
図1