(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動可能且つ軸線周りに回転可能な回転主軸と、該回転主軸の先端に着脱可能に装着されるホーニングツールと、上記ワークが上記被加工穴が上下方向に延びるように向いた状態で水平方向に浮動状態で該ワークを支持するワーク保持治具とを備えたホーニング加工機において、
上記ホーニングツールは、径方向に突出及び退入可能な少なくとも1本のホーニング砥石を備え、
上記ワーク保持治具は、
治具ベースと、
上記治具ベースに対して第1水平軸を中心に回動可能に且つ該第1水平軸に沿って移動可能に支持される外側回動体と、
上記外側回動体に対して上記第1水平軸に垂直な方向に延びる第2水平軸を中心に回動可能に且つ該第2水平軸に沿って移動可能に支持される内側回動体と、
上記内側回動体に固定され、上記ワークを取り外し可能に位置決めして保持するワークホルダと、
上記ワークホルダ又は上記内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部とを備えている
ことを特徴とするホーニング加工機。
ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動可能且つ軸線周りに回転可能な回転主軸と、該回転主軸の先端に着脱可能に装着されるホーニングツールと、上記ワークが上記被加工穴が上下方向に延びるように向いた状態で水平方向に浮動状態で該ワークを支持するワーク保持治具とを備えたホーニング加工機を用いた加工方法において、
上記ホーニングツールに径方向に突出及び退入可能な少なくとも1本のホーニング砥石を設け、上記ワーク保持治具に治具ベースと、該治具ベースに対して第1水平軸を中心に回動可能に且つ該第1水平軸に沿って移動可能に支持される外側回動体と、該外側回動体に対して上記第1水平軸に垂直な方向に延びる第2水平軸を中心に回動可能に且つ該第2水平軸に沿って移動可能に支持される内側回動体と、該内側回動体に固定され、上記ワークを取り外し可能に位置決めして保持するワークホルダと、上記ホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、上記ワークホルダ又は上記内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部とを設ける準備工程と、
上記ホーニングツールによってワークを押し付ける押付力を打ち消す上記流体の吐出圧を計算する計算工程と、
上記ワークホルダに上記ワークを取り付けるワーク取付工程と、
上記ホーニングツールを上記回転主軸の周りに回転させながら、上記ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動させて上記ホーニング砥石を該内径面に押し付けると共に、該ホーニング砥石による押付力を打ち消す方向に該ホーニング砥石の位置に合わせて上記複数の流体吐出部のうち対応するものから上記流体を吐出する研削工程とを含む
ことを特徴とするホーニング加工機を用いた加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2のような小径のホーニングツールは、砥石拡張機構がツール先端の小径軸内に設けられるので、ホーニング砥石が円周方向の一部に1本のみ設けられる。1本砥石の場合、ストロークによる荷重変動はツール又はワークに傾きを発生させる。また、回転における荷重変動は、円周方向への動きを増し、真円形状を損なう動きの原因となる。さらに、傾きの発生にもつながり、安定した加工ができず、仕上がり精度を向上させることができない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、治具のフローティング機能を損なうことなく加工精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、フローティング機能を有する治具のワークホルダ又は内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部を設けた。
【0008】
具体的には、第1の発明では、ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動可能且つ軸線周りに回転可能な回転主軸と、該回転主軸の先端に着脱可能に装着されるホーニングツールと、上記ワークが上記被加工穴が上下方向に延びるように向いた状態で水平方向に浮動状態で該ワークを支持するワーク保持治具とを備えたホーニング加工機を前提とする。
【0009】
そして、上記ホーニングツールは、径方向に突出及び退入可能な少なくとも1本のホーニング砥石を備え、
上記ワーク保持治具は、
治具ベースと、
上記治具ベースに対して第1水平軸を中心に回動可能に且つ該第1水平軸に沿って移動可能に支持される外側回動体と、
上記外側回動体に対して上記第1水平軸に垂直な方向に延びる第2水平軸を中心に回動可能に且つ該第2水平軸に沿って移動可能に支持される内側回動体と、
上記内側回動体に固定され、上記ワークを取り外し可能に位置決めして保持するワークホルダと、
上記ホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、上記ワークホルダ又は上記内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部とを備えている。
【0010】
上記の構成によると、複数の流体吐出部からワークを保持するワークホルダ又は内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出するので、例えば、研削中の1本のホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、その反対側から吐出圧を加えることができる。このため、ワーク保持治具のフローティング機能を生かして精密な加工が可能となる。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記複数の流体吐出部は、上記ホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、該ホーニング砥石の回転に合わせて該ホーニング砥石の反対側から流体を吐出するように構成されている。
【0012】
上記の構成によると、例えば1本砥石による一方向への力に対し、その反力を流体吐出部から与えることで、ワーク保持治具の揺動を抑制することができ、ワーク保持治具のフローティング機能を生かして精密な加工ができる。
【0013】
第3の発明では、第1の発明において、
上記複数の流体吐出部は、上記ホーニング砥石により加わる押付力に対応させて流体の圧力を調整することで、所望の内径面形状を形成可能に構成されている。
【0014】
上記の構成によると、砥石の押付力よりも大きい力を供給すれば過削りの状態、反対に砥石の押付力よりも小さい力を供給することにより削り残しの状態を意図的に作って真円形状ではない、所望の内径面形状とすることもできる。
【0015】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
上記複数の流体吐出部は、上記ワークホルダ又は上記内側回動体の周りに設けられる環状体に所定の間隔を空けて設けられている。
【0016】
上記の構成によると、環状体に所定間隔を空けて流体吐出部を設ければよいので、簡単な構成で複数の流体吐出部を容易に形成できる。
【0017】
第5の発明では、第4の発明において、
上記環状体は、上記治具ベースに固定されている。
【0018】
上記の構成によると、治具ベースで確実に環状体の反力を受けることができる。
【0019】
第6の発明では、第4又は第5の発明において、
上記環状体は、上下に1対設けられている。
【0020】
上記の構成によると、上下2段に配置することで、ストローク上下動に対応させて適切な反力を内側回動体又はワークホルダに与えることができる。
【0021】
第7の発明では、第4から第6のいずれか1つの発明において、
上記環状体の内径面の上記複数の流体吐出部の吹出口の周縁には、隣接する吹出口を連通させる連結溝が形成されている。
【0022】
上記の構成によると、隣接する流体吐出部を互いに連結溝で連通させることにより、整流が生じるので、流体の吐出がない隣接する吹出口にも適度に流体を流し込んで急激に流体が流れ込むことによる悪影響が防止される。
【0023】
第8の発明では、第4から第7のいずれか1つの発明において、
上記複数の流体吐出部は、4の倍数個設けられている。
【0024】
上記の構成によると、流体吐出部の形成や制御が容易であり、その数を多くすることで反力制御が容易となる。
【0025】
第9の発明では、第1から第8のいずれか1つの発明において、
上記複数の流体吐出部は、高圧エアが吐出される吐出部で構成されており、
上記ホーニング砥石の回転に合わせて該ホーニング砥石の押付力を打ち消す方向に吹き出されるように構成されている。
【0026】
上記の構成によると、高圧エアであれば、回収の必要もなくクリーンであり、ホーニング砥石の押付力を打ち消すような精密な制御もしやすい。
【0027】
第10の発明では、ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動可能且つ軸線周りに回転可能な回転主軸と、該回転主軸の先端に着脱可能に装着されるホーニングツールと、上記ワークが上記被加工穴が上下方向に延びるように向いた状態で水平方向に浮動状態で該ワークを支持するワーク保持治具とを備えたホーニング加工機を用いた加工方法を前提とし、
上記加工方法は、
上記ホーニングツールに径方向に突出及び退入可能な少なくとも1本のホーニング砥石を設け、上記ワーク保持治具に治具ベースと、該治具ベースに対して第1水平軸を中心に回動可能に且つ該第1水平軸に沿って移動可能に支持される外側回動体と、該外側回動体に対して上記第1水平軸に垂直な方向に延びる第2水平軸を中心に回動可能に且つ該第2水平軸に沿って移動可能に支持される内側回動体と、該内側回動体に固定され、上記ワークを取り外し可能に位置決めして保持するワークホルダと、上記ホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、上記ワークホルダ又は上記内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部とを設ける準備工程と、
上記ホーニングツールによってワークを押し付ける押付力を打ち消す上記流体の吐出圧を計算する計算工程と、
上記ワークホルダに上記ワークを取り付けるワーク取付工程と、
上記ホーニングツールを上記回転主軸の周りに回転させながら、上記ワークの被加工穴の内径面の軸線方向に往復移動させて上記ホーニング砥石を該内径面に押し付けると共に、該ホーニング砥石による押付力を打ち消す方向に該ホーニング砥石の位置に合わせて上記複数の流体吐出部のうち対応するものから上記流体を吐出する研削工程とを含む構成とする。
【0028】
上記の構成によると、複数の流体吐出部からワークを保持するワークホルダ又は内側回動体に対して周方向の所定位置から流体を吐出するので、例えば、1本のホーニング砥石により加わる押付力を打ち消すように、その反対側から吐出圧を加えることができる。このため、ワーク保持治具のフローティング機能を生かして精密な加工が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、ワークを保持するワークホルダ又は内側回動体に対して周方向の所定位置に設けた流体吐出部から流体を吐出するようにしたことにより、治具のフローティング機能を損なうことなく加工精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
図1〜
図3は本発明の実施形態に係るホーニング加工機のホーニングツール1でワーク50をホーニング加工している状態を示す。例えば、このワーク50は、油圧機器のバルブブロックである。また詳しくは図示しないが、このホーニング加工機自体は、公知の構造のものでよく、例えば、ホーニングツール1が取り付けられる回転可能且つ上下往復可能な回転主軸2と、この回転主軸2を回転及び上下往復させる駆動手段等を備えている。回転主軸2の回転速度、上下往復速度、切込量などは、図示しない制御装置により精密に制御可能となっている。
【0033】
図1に示すように、ホーニングツール1は、ワーク50の被加工穴51に軸線方向に往復移動可能且つ軸線周りに回転可能に挿入されるように構成されており、径方向に突出及び退入可能な1本のホーニング砥石6を備えている。具体的には、このホーニング砥石6は、先端側が細くなったツール本体3の先端4に内蔵され、内部の貫通孔5に挿通された砥石押圧ピン(図示せず)を適切な高さに上下駆動することにより、その径方向の突出量が調整されるようになっている。例えば、このツール本体3の先端4は、直径20mm以内で、通常のものよりもかなり小径となっている。また、
図2等に示すように、砥石位置検出用スイッチ7をホーニングツール1に設ける。この砥石位置検出用スイッチ7は、例えば近接スイッチよりなり、ホーニングツール1に設けた突起7aの有無からホーニングツール1の回転角度を検知し、ホーニング砥石6と後述するエア吐出部20からの高圧エアの吐出タイミングとの同期をとることができるようになっている。
【0034】
ホーニング加工機は、ワーク50を支持するワーク保持治具10を備えている。このワーク保持治具10は、ワーク50が、その被加工穴51が上下方向に延びるように向いた状態で水平方向に浮動状態となるようにワーク50を支持可能に構成されている。このワーク保持治具10は、複数の金属部材で形成された治具ベース11を備えている。
図3に示すように、治具ベース11は、例えば、下方開口11aを備えた底板11bと、この底板11bの左右両側の対向する位置に立設された一対の第1側板11cとを備えている。一対の第1側板11cは、それぞれ第2側板11dに連結されている。
図1に示すように、この一対の第1側板11cの上側の対向する位置にそれぞれ設けた第1ブッシュ12aには、水平な第1水平軸12が同一直線状に回転可能に設けられている。この第1水平軸12を中心に外側回動体13が回動可能に支持されている。また、この外側回動体13の形状は特に限定されないが、円環状の本体の対向する位置に上記第1水平軸12が挿通される第1貫通孔13aがそれぞれ設けられている。この第1貫通孔13aに第1水平軸12の先端側が第1抜け止めピン13cで抜け止めされた状態で挿通され、この第1水平軸12に、外側回動体13が一対の第1側板11c間に隙間をもって支持されている。これにより、例えば、外側回動体13が第1水平軸12と共に移動することで、この隙間の分だけ第1水平軸12に沿って水平移動可能となり、且つ第1水平軸12を中心に回転可能となっている。
【0035】
また、外側回動体13における各第1貫通孔13aに対して円周方向に90°ずれた位置に第2貫通孔13bがそれぞれ設けられており、この第2貫通孔13bに設けた第2ブッシュ12bに第2水平軸14が回転可能且つ水平移動可能に挿通されている。すなわち、この第2水平軸14の軸線方向は、平面視で第1水平軸12の軸線方向に対して垂直となっている。第2水平軸14の先端側は、例えば円筒形状の内側回動体15の対向する位置に設けた内側貫通孔15aに第2抜け止めピン15bで抜け止めされた状態で挿通されている。これにより、一対の第2水平軸14を中心に内側回動体15が回動可能に且つ内側回動体15の外周面と外側回動体13の内周面との間の隙間の分だけ第2水平軸14に沿って水平移動可能に支持されている。
【0036】
そして、内側回動体15の円筒形状の本体には、ワーク50を取り外し可能に位置決めして保持するワークホルダ16が設けられている。これにより、ワーク50は、治具ベース11に対して2次元的に水平移動可能に且つ立体的に揺動可能に支持されている。ワークホルダ16は、略円筒形状を有し、取付ボルト16aで内側回動体15に対して脱着可能となっている。この取付ボルト16aを外して引き上げれば、ワークホルダ16ごとワーク50を内側回動体15から取り外しできるようになっている。なお、蓋部材16bを取り外してワーク50単体でワークホルダ16から取り外ししてもよい。
【0037】
本実施形態の特徴として、ワーク保持治具10は、その所定位置から流体を吐出する複数の流体吐出部としてのエア吐出部20を備えている。具体的には、複数のエア吐出部20は、高圧エアが吐出される吐出部で構成されており、ホーニング砥石6の回転に合わせてホーニング砥石6の押付力を打ち消す方向に吹き出されるように構成されている。流体としては、作動油なども考えられるが、高圧エアであれば、回収の必要もなくクリーンで制御もしやすい点でメリットがある。
【0038】
複数のエア吐出部20は、ワークホルダ16又は内側回動体15の周りに設けられる環状体21,22,24,25に所定の間隔を空けて設けられている。複数のエア吐出部20は、本実施形態では、例えば上側に8つ下側に8つの合計16設けられている。この数は特に限定されないが、4の倍数個設けるのが望ましい。複数のエア吐出部20は、ホーニング砥石6により加わる押付力を打ち消すように、ホーニング砥石6の回転に合わせてホーニング砥石6の反対側から流体を吐出するように構成されている。具体的には、ワークホルダ16の外周に環状体が上下2段設けられており、それら環状体にそれぞれ等間隔に設けることで、複数のエア吐出部20を容易に形成できる。
【0039】
上側の第1外側環状体21と第1内側環状体22とは、例えば圧入により互いに連結されている。
図4に示すように、第1内側環状体22は、等間隔に例えば8つの矩形状の吹出口22aを有する。各吹出口22a間は、例えば上下3段の連結溝22bで互いに連結されている。第1内側環状体22の内径面の複数のエア吐出部20の吹出口22aの周縁には、隣接する吹出口22aを互いに連通させる連結溝22bが形成されている。
図5に示すように、第1外側環状体21は、治具ベース11の第1側板11cに固定するための固定用ネジ21aを有し、吹出口22aに対応させてエア供給口21bが等間隔に8つ設けられている。このエア供給口21bには、エア配管を接続するためのコネクタ部23が8つ設けられている。
【0040】
下側の第2外側環状体24と第2内側環状体25も同様に互いに連結されており、
図4及び
図5に例示したものと同様の構成を有する。第2外側環状体24は、治具ベース11の第2側板11dに固定されている。
【0041】
このように、環状体を上下2段に配置することで、ホーニング砥石6のストローク上下動に対応させて適切な反力を内側回動体15又はワークホルダ16に適宜ホーニング砥石6の反対側から与えることができるようになっている。そして、第1外側環状体21及び第2外側環状体24をそれぞれ治具ベース11に固定することで、確実に第1外側環状体21及び第2外側環状体24の反力を受けることができるようになっている。
【0042】
また、第1内側環状体22の吹出口22aと内側回動体15との隙間及び第2内側環状体25の吹出口22aとワークホルダ16の外周との隙間の大きさは、それぞれ20μ程度が望ましい。隙間が小さすぎると圧力がうまく抜けず、切換後も残圧が残ったままとなり傾きが変わってしまう。一方で、隙間が広すぎると、適性な反力を発生させることができない。
【0043】
−ホーニング加工機を用いた加工方法−
次に、本実施形態に係るホーニング加工機を用いた加工方法について説明する。
【0044】
まず、準備工程において、上記ホーニング加工機を準備し、回転主軸2の先端にホーニングツール1を取り付ける。このホーニングツール1には、径方向に突出及び退入可能な1本のホーニング砥石6を設けておく。また、詳しくは図示しないが、複数の流体吐出部としてのエア吐出部20に高圧エアを送り込めるようにエア源を用意し、エアバルブを介して各エアチューブを各コネクタ部23に配管する。
【0045】
次いで又は前もって、計算工程において、ホーニングツール1によってワークWを押し付ける押付力を打ち消すことのできる高圧エアの吐出圧を計算する(詳細は後述する)。
【0046】
次いで、ワーク取付工程において、ワークホルダ16にワーク50を取り付ける。
【0047】
次いで、研削工程において、ホーニングツール1を回転主軸2の周りに回転させながら、ワークWの被加工穴51の内径面の軸線方向に往復移動させてホーニング砥石6を内径面に押し付けると共に、ホーニング砥石6による押付力を打ち消す方向にホーニング砥石6の位置に合わせて複数のエア吐出部20のうち対応するものから高圧エアを吐出する(具体的な手順は後述する)。
【0048】
−実施例−
次に上記実施形態で説明したホーニング加工機を用いた加工方法について実施例を用いて説明する。
【0049】
エア吐出部20は、ワーク中心に対して上下で円周方向に等間隔で8ヶ所ずつの合計16ヶ所設けた。ホーニング砥石6の回転に同期させてエア吹出し位置を変える制御を行う。この連動動作により、ホーニング砥石6の押付力に対する反力をワーク保持治具10に与える。
【0050】
例えば、側面視で吹出口22aの大きさを左右幅23.5mm且つ上下高さ15mmとした。すると、面積352.7mmとなり、20.367MPaの高圧エアを供給したとき、1.23Nの反力を発生させることができる。そして、吹出口22aの周縁に深さ0.02mmで幅1mm程度の連結溝22bを設ける。
【0051】
次いで、具体的にな高圧エアの供給コントロールの方法について説明する。
【0052】
まず最初にホーニング砥石6の主軸砥石面に位相検出用スイッチ7の始点θ0を設定する。
【0053】
そして、上段8つ、下段8つの吹出口22aに対応するバルブを切り換えて各吹出口22aへ順次エア分配を行う。
【0054】
動作方法としては、例えば、ホーニング砥石6の回転数を200rpm、ストローク速度が2000mm/min、上下ストローク距離が10mmのとき、0.3秒/rev、0.3秒/10mmとなる。各吹出口22aにおける吹出し時間は0.0375秒とする。
【0055】
次いで、制御方法について説明する。まず、θ0から回転を開始し、同時に上下ストローク移動を、ワーク中心から上側において開始する。そして、主軸砥石面の回転角度を砥石位置検出用スイッチ7からの検出信号を利用して処理する。
【0056】
次いで、ホーニング砥石6の位置に合わせて上側の第1吹出部P1の吹出口22aから高圧エアの供給を開始する。
【0057】
次いで、回転数200rpmでの1/8回転の時間は、0.0375秒であり、この時間間隔での圧力を各上側吹出部P1〜P8に与えていく。吐出位置は、ホーニング砥石6の回転と同期させ、時間単位でバルブの切り換えを行っていく。同期のタイミングは、砥石位置検出用スイッチ7から検出した回転角度を用いて調整する。
【0058】
次いで、上側吹出部P1〜P8の吐出を停止した状況で、ホーニング砥石6の上下ストロークを上下中心よりも下側へ移動させる。このとき、制御バルブ切換、吐出位置の切換の制御が必要となる。例えば、残圧を利用したり、区切り面への積極的供給が必要となる。
【0059】
次いで、ホーニング砥石6の上下中心よりも下への移動開始と同時に(制御開始より0.3秒後)、下側吹出部P10〜P16へエア供給の切り換えを行う。上記条件の場合0.3秒後は、1回転終了となっていることから、下側吹出部P9へ供給を切り換える。
【0060】
次いで、下側吹出部P9を始点としてホーニング砥石6の回転と同期させて下側吹出部P9〜P16へエア吹き出し位置の切換を行っていく。
【0061】
そして、上下ストロークの切換を順次行い、上記工程を切り込み終了まで行っていくことで、加工を行う。
【0062】
加工が終了したらワーク50を取り出して、次のワーク50の加工を行う。
【0063】
−吐出圧の計算手順−
上記計算工程における吐出圧の計算手順の例を示す。ここでは、比切削抵抗より算出し設定を行う。まず、加工力F1を求める。加工力F1は、切り屑厚さ(切込速度/回転数)×縦×横×比切削抵抗より求められる。例えば、0.03/210×27×2×0.24=0.00185kgf(0.018N)となる。つまり、非常に小さいので無視してよい値である。
【0064】
次いで、押付力F2を求める。加工中の切込軸モータ負荷の実測値を用いて発生している力の想定を行う。例えば、実測値305Nであり、4°コーンの分力はCos(4)×(305/9.8)=31.046kgf(304.25N)となる。砥石の掛かり範囲は、第1加工面50a〜第3加工面50cの3ヶ所であり、1面当たり1/3力として考察する。第1加工面50aに加わる力は、31.046/3=10.34kgf(101.33N)であり、各面の力は、作動軸を介して、解析の都合、上側を+下側を−として表記する。
【0065】
図8Aに示すように、砥石ストロークが上部にある場合には、A面が+10.3kgf、B面が+10.34kgf、C面が−10.34kgfとなり、差力より+10.34kgfが残る。
図8Bに示すように、砥石ストロークが下部にある場合には、B面が+10.34kgf、C面が−10.34kgf、D面が−10.34kgfとなり、差力より−10.34kgfが残る。つまり、ホーニングツール1を上下にストロークすることで、10.34kgfの正負力が絶えず発生することとなる。
【0066】
一方、ワーク保持治具の作動抵抗は、0.24kgf(実測値)であり、発生する力から減算すると、10.1kgf(98.98N)の正負力がワーク50に発生することとなる。この力は、切込速度φ0.001mm/秒のものであり、速度変更時の実測値を重ねていくことで、想定していくことは可能となる。なお、通常のホーニング加工は、切込軸の力を制御する加工方法が用いられることから、本来この力は、容易に策定することができる。
【0067】
次いで、ストーロークにより発生するストローク力F3について求める。加工力F1の計算で使用した計算式を用いると、400/210×3.5×2×0.24=3.2kgf(31.3N)となる。長さには、加工長を用いているため3.5とする。上記式は、ストレートに引いた場合の力であり、回転方向が存在することから分力(クロスハッチ角)として、力を置き換える。
【0068】
加工条件として、φ11(円周長34.54mm)、210rpm、ストロークF400mm/min、回転当たり1.905mmとすれば、分力は、Tan(1.905/34.54)=3.157°になることから推力方向 Cos(3.157)×3.2=3.195kgf(31.3N)となる。この力は、壁の端部が受けるため、90°方向へそのまま分散し、且つ、ツールスラスト方向へ力を加えるが、スラスト方向剛性は、非常に強いことから、その反力として、ワーク50を押し付ける力として処理することができると考察する。つまり、3.195kgf(31.3N)の正負力がワーク50に発生することになる。
【0069】
なお、回転方向Sin(3.157)×3.2=0.17kgfの分力は、ツールベンディングへ吸収されるほうが多いと推定され、影響性から外してもよい。
【0070】
したがって、ワーク保持治具10を揺らす力F4は、F4=F1+F2+F3で、0.00185+10.1+3.195≒13.296kgf(130.3N)の変動力となる。
【0071】
つまり、ホーニング砥石6により加えられる押付力により発生するアンバランス押付力F4は、130.3Nである。
【0072】
吹出口22aの大きさがワークホルダ16の外径が65mmであるなら、8等分した45°の円周方向長さは約25.51mmとなる。部屋の区切りを厚さ2mmとすると吹出口22aの高さ2.35cm、幅1.5cmで面積3.527cm2となる。この大きさで、反力130.3Nが得られるようにするには、1/3.526×130.3=37.0Nであり、0.37MPa/cm2の吐出圧が必要となる。
【0073】
ここで連結溝22bを設けることで、エアの流れが整流化し、残圧を長時間得ることもできることがわかった。また、隣り合う吹出口22aのエアでラップすることで、多少なりとも供給を安定させることに寄与することができることがわかった。
【0074】
−バルブコントロールについて−
図6に示すように、ON/OFF時間を0.022秒(休止0.011秒)にて行った場合、
図6に示す作動線図が得られた。対応するバルブが開命令を受けると、立ち上がり、立下りを含めるバルブ開口時間が0.037秒で設定される。
【0075】
隣り合う吹出口22aとの間で反応時間として0.007秒のラップ時間がある。このラップ時間0.007秒は、外径65mmで約3.5°分となり(φ65×3.14×3.5°/360°=1.98mm)、区切り厚2mmの厚さに匹敵する。つまり、壁通過中に双方への供給が可能であることがわかった。
【0076】
隣接吹出口22a間でラップする時間に区切り範囲を少なくとも合わせ、さらに連結溝22bを利用することで供給できない部位を乗り切ることができる。回転数を上げた場合、応答遅れを生じるが、開閉の関係は一定化しており、使用において問題はないことがわかった。
【0077】
別の実施例として、回転400rpmの場合を
図7に示す。ラップ時間は長くなっているのが見てとれる。このことから、回転数が高くなる場合、移り変わりと、供給できない領域を考慮する必要がなくなっていることがわかる。但し、バルブ応答の限界となってくる。例えば、ホーニングツール1の回転数が200rpmを下回る条件を適用する場合には、上記開閉関係を考慮することが重要となる。
【0078】
−本実施形態の作用効果−
このように本実施形態では、複数のエア吐出部20からワークWを保持するワークホルダ16又は内側回動体15に対して周方向の所定位置から高圧エアを吐出するので、例えば、1本のホーニング砥石6により加わる押付力を打ち消すように、その反対側から吐出圧を加えることができる。このため、ワーク保持治具10のフローティング機能を生かして精密な加工が可能となる。
【0079】
本実施形態では、隣接するエア吐出部20を互いに連結溝22bで連通させることにより、整流が生じるので、流体の吐出がない隣接する吹出口22aにも適度に流体を流し込んで急激にエアが流れ込むことによる悪影響が防止される。
【0080】
本実施形態では、環状体に等間隔で設ければよいのでエア吐出部20の形成や制御が容易であり、その数を多くすることで反力制御が容易となる。
【0081】
したがって、本実施形態に係るホーニング加工機によると、ワークWを保持するワークホルダ16又は内側回動体15に対して周方向の所定位置に設けたエア吐出部20から流体を吐出するようにしたことにより、治具のフローティング機能を損なうことなく加工精度を向上させることができる。
【0082】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0083】
すなわち、上記実施形態では、ホーニング砥石6により加わる押付力を打ち消すよう高圧エアを吐出するようにしたが、ホーニング砥石6の押付力よりも大きい力を供給すれば過削りの状態、反対によりも小さい力を供給することにより削り残しの状態を意図的に作って真円形状ではない、所望の内径面形状とすることもできる。つまり、バルブに供給する圧力を変更することで形状をコントロール可能である。なお、隣接部位で圧力を大きく変化させることができない場合には、なだらかな形状変化を達成できる。
【0084】
上記実施例における制御は時間だけのコントロールで実施しているが、内側回動体15やワークホルダ16に対する変位センサーなどを上段下段に取り付け、各吹出口22aにけるエア吐出量の補正をリアルタイムに実施してもよい。
【0085】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。