(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
主に軟包装材の製造に使用されるラミネート用リキッドインキは、樹脂結着成分として主にウレタン樹脂もしくはウレタンウレア樹脂を主成分として使用している。さらに近年では、印刷時の作業衛生性と包装材料の有害性の両面から、トルエン等の芳香族溶剤やメチルエチルケトン等のケトン系溶剤の使用が制限されつつある。この脱トルエン型のリキッドインキには、印刷適性の観点から、溶剤として芳香族、ケトン系溶剤の代わりに酢酸エチルや酢酸プロピルなどの酢酸エステル類、イソプロピルアルコールやノルマルプロピルアルコール等のアルコール系溶剤又はそれらの混合溶剤が使用される傾向にある。
しかし、このような芳香族溶剤、ケトン系溶剤を使用しないリキッドインキであっても
、大気中への揮発性有機化学物質(VOC)の放出は免れない。そこで、VOC放出量の
低減のために、水を有機溶剤と併用することが有用であり、かつ水の併用はインキの転移
性向上にも有用である。物性の向上を図るためにイソシアネート硬化剤を添加すること(
2液タイプ)があるが、粘度安定性が劣る傾向にある。特に水が入ると悪くなりやすい傾
向にある。
【0003】
その実例を挙げれば、安定化剤としスチレン無水マレイン酸をポリウレタン樹脂溶液に含有させ経時安定性に優れる印刷インキ用バインダーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながらスチレン無水マレイン酸を添加した場合、硬化剤を添加する2液タイプでは粘度安定性は良好であるが、硬化剤を添加しない1液タイプの場合、粘度安定性は十分であるとは言えない。1液タイプ、2液タイプのどちらの場合であっても、粘度安定性が十分良好である事が望まれる。
また、特許文献2には、グリコールエーテル系有機溶剤と水を含むグラビアインキが開示されているが、これでは特に2液使用時の粘度安定性が十分であるとはいえない。
【0004】
【特許文献1】特開2014−005318号公報
【特許文献2】特許6090521号公報
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、バインダー樹脂(A)、有機溶剤(B)、及びインキ組成物全量の0.0001〜1.0質量%の酸無水物(C)を含有することを特徴とするリキッドインキ組成物を提供する。
【0020】
本発明のリキッドインキ組成物に必要に応じて併用されるバインダー樹脂(A)の例としては例えば、前記ポリウレタン樹脂、ポリウレタンウレア樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂などを挙げることができる。併用樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。併用樹脂の含有量は、インキ組成物の総質量に対して固形分換算で1〜50質量%の範囲であり、更に好ましくは2〜40質量%である。中でもポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂が好ましく、各々単独で使用しても2種組み合わせ使用してもよい。
本発明のリキッドインキ組成物におけるポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンポリウレア樹脂の含有量は、例えば、グラビア印刷の場合、グラビアインキの被印刷体への接着性を十分にする観点からインキの総質量に対して固形分換算にて5質量%以上、適度なインキ粘度やインキ製造時・印刷時の作業効率の観点から25質量%以下が好ましく、フレキソ印刷の場合、フレキソインキの総質量に対して固形分換算にて5質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のリキッドインキ組成物に用いるポリウレタン樹脂、並びにポリウレタンポリウレア樹脂の数平均分子量は、15,000〜100,000の範囲内とすることが好ましい。ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂の数平均分子量が15,000未満の場合には、得られるインキの耐ブロッキング性、ラミネート強度や耐薬品性などが低くなる傾向があり、100,000を超える場合には、得られるインキの粘度が高くなり、所定の印刷濃度が得られない傾向がある。
【0022】
本発明のリキッドインキ組成物で使用するポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂は、その反応原料として、ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールを用いる事が好ましい。前記ポリエステルポリオールの数平均分子量が3000〜7000ものであることが好ましい。
【0023】
前記ポリエステルポリオールの数平均分子量が3000より小さいと、ポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂の皮膜が硬くなる傾向にありポリエステルフィルムへの接着性が低下し易い。数平均分子量が7000より大きい場合、ポリウレタン樹脂の皮膜が脆弱になる傾向にありインキ皮膜の耐ブロッキング性が低下し易い。一方で、ポリエーテルポリオールはポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜50質量部あることが好ましく、ポリエーテルポリオールが1質量部未満であると、該ポリウレタン樹脂のケトン、エステル、アルコール系溶剤への溶解性が低下するのに加え、特に高機能バリアーフィルム上での密着性が低下する傾向となる。またインキ皮膜の該溶剤への再溶解性が低下し、印刷物の調子再現性が低下する傾向となる。また50質量部を超えると、インキ皮膜が過剰に柔らかくなり、耐ブロッキングが劣る傾向と成り易い。
【0024】
なお、前記ポリエステルポリオールの数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した値を示す。
【0025】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0026】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0027】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有する化合物と多塩基酸とを公知のエステル化反応により得られるものを用いることができる。
前記水酸基を2個以上有する化合物は鎖伸長剤として用いるものであり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のグリコール;2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−イソプロピル−1,4−ブタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、3,5−ヘプタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の分岐構造を有するグリコール;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の脂肪族ポリオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等の芳香族ポリオールなどの数平均分子量が50〜400の範囲の化合物を用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、これらの酸の無水物等を用いることができる。これらの多塩基酸は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、前記ポリエーテルポリオールは、その数平均分子量が100〜4000のものであることが好ましい。詳細は後述するが、ポリエーテルポリオールとしては、酸化エチレン、酸化プロピレン、テトラヒドロフランなどの重合体または共重合体のポリエーテルポリオール類が挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど公知汎用のものでよく、中ではポリエチレングリコールが好ましい。ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールを上記の範囲で含有することにより、特に基材フィルム上での密着性が大幅に向上し、結果として耐ブロッキング性、ラミネート強度が優れるようになる。
【0029】
同様に、前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量が100より小さいと、ポリウレタン樹脂の皮膜が硬くなる傾向にありポリエステルフィルムへの接着性が低下し易い。数平均分子量が4000より大きい場合、ポリウレタン樹脂の皮膜が脆弱になる傾向にありインキ皮膜の耐ブロッキング性が低下し易い。尚、ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、前記ポリエステルポリオールと同様にゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、同条件で測定した。
【0030】
本発明のリキッドインキ組成物におけるポリウレタン樹脂に使用されるジイソシアネート化合物としては、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に用いられる各種公知の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。例えば、1,5―ナフチレンジイソシアネート、4,4’―ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’―ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’―ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3―フェニレンジイソシアネート、1,4―フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン―1,4―ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4―トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサン―1,4―ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート; 5−イソシアナト-1-(イソシアノメチル)−1,3,3−トリメチルシクロヘキサン;)、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジイソシアネート、1,3―ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、mーテトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビス−クロロメチル−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアネート−ベンジルクロライドやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等があげられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
本発明のリキッドインキ組成物におけるポリウレタン樹脂に使用される鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン―4,4’―ジアミンなどの他、2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピルジアミン、2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシピロピルエチレンジアミン、ジ―2―ヒドロキシプロピルエチレンジアミンなど分子内に水酸基を有するアミン類も用いることが出来る。これらの鎖伸長剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
更に、本発明のリキッドインキ組成物に使用されるポリウレタン樹脂及び/又はポリウレタンウレア樹脂のアミン価は、10.0mgKOH/g以下であることが好ましい。アミン価が10.0mgKOH/gを上回ると耐ブロッキング性が劣る傾向と成り易いのに加え、硬化剤添加後の2液安定性が低下する。耐ブロッキング性、2液安定性を良好に保ちつつ、版カブリ性、接着性及び押出しラミネート強度を保持できる観点から1.0〜5.0mgKOH/gの範囲がより好ましく、更に好ましくは1.0〜3.5mgKOH/gの範囲である。
【0033】
本発明のリキッドインキ組成物で使用する有機溶剤(B)としては、各種有機溶剤を使用することができ、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、n−プロパノール、イノプロパノール、n−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶剤があげられ、これらを単独または2種以上の混合物で用いることができる。
尚、近年、作業環境の観点から、トルエン、キシレンといった芳香族系溶剤やケトン系溶剤を用いないことがより好ましい。
【0034】
更に、本発明のリキッドインキ組成物では、酸無水物(C)をインキ組成物全量の0.0001〜1.0質量%含有する事を必須とする。前記バインダー樹脂(A)、有機溶剤(B)、及びインキ組成物全量の0.0001〜1.0質量%の酸無水物(C)を含有する構成により、硬化剤を使用しない1液タイプ、硬化剤を使用する2液タイプのいずれにおいても粘度安定性に優れるリキッドインキ組成物が得られる。
前記酸無水物(C)としては、環式ジカルボン酸の無水物が好ましく、具体的には無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。中でも、無水コハク酸がより好ましい。
前記酸無水物(C)の添加量は、リキッドインキ組成物全量の0.0001〜1.0質量%が好ましく、0.001〜0.5質量%であればより好ましい。0.0001質量%を下回ると2液の粘度安定性の効果が見られず、また1.0質量%を上回ると経時によるインキ自体の安定性が低下し、カスレ・版カブリ等印刷品質の低下及び耐レトルト性が低下する傾向がみられる。
更に、前記酸無水物(C)の数平均分子量が1000以下である事が好ましい。数平均分子量が1000を上回ると、インキ自体の安定性が低下し、カスレ・版カブリ等印刷品質の低下及び耐レトルト性が低下する傾向がみられる。
【0035】
本発明のリキッドインキ組成物には、揮発性成分として有機溶剤とともに、インキ組成物中に10質量%未満の含有量で、水を含有させることが出来る。更に、1〜5質量%の範囲であることが、印刷適性が良好となることから、特に好ましい。
この場合、前記の水は、有機溶剤に添加して、含水の有機溶媒としてもよいし、別途特定量の水を添加してもよい。
【0036】
更に、インキ皮膜に耐熱性を求めるためには、ポリウレタンポリウレア樹脂のように尿素結合を有する樹脂が有効である。そして、尿素結合同士が水素結合で結びつくことでインキの粘度が高くなり印刷適性が悪化する傾向がある。そのような現象を防止するため、尿素結合と水素結合で結びついた樹脂の粘度を低下させるべく、水をインキ組成物中に10質量%未満の含有量で含有させることが好ましい。また、このような水の添加により、使用有機溶剤成分を低減させることも可能である。
更に、水の添加により、インキの乾燥性を制御する機能もあり、特にグラビア印刷では、その特徴であるインキ転移量のすくないグラデーション部をきれいに再現することができる。
【0037】
更に、本発明のリキッドインキ組成物に、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を添加することができる。
本発明のリキッドインキ組成物に用いられる、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は、例えば、塩化ビニルと酢酸ビニルを共重合させて得られるものであるが、樹脂中に水酸基を有していてよい。このような水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は、塩化ビニルと酢酸ビニル樹脂を共重合させた後、一部加水分解することにより水酸基を導入したり、あるいは重合時に、塩化ビニル、酢酸ビニル以外の水酸基を有する成分、例えば、メタアクリル酸−2−ヒドロキシルエチル等を、添加して共重合させたりすることにより水酸基を導入することにより得られる。水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂としては、市販品のものを利用することもできる。
水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は、塩化ビニル骨格、酢酸ビニル骨格およびビニルアルコール骨格等の水酸基含有構造の含有比率により樹脂被膜の性質や樹脂溶解挙動が決定される。即ち、塩化ビニルは樹脂被膜の強靭さや硬さを付与し、酢酸ビニルは接着性や柔軟性を付与し、ビニルアルコール等の水酸基は極性溶剤への良好な溶解性を付与する。尚、全樹脂成分中に固形分換算にて0.1〜5.0質量%含有することが好ましい。
【0038】
発明のリキッドインキ組成物で用いる着色剤としては、一般のインキ、塗料、および記録剤などに使用されている有機、無機顔料や染料を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。藍インキには銅フタロシアニン、透明黄インキにはコスト・耐光性の点からC. I. Pigment No Yellow83を用いることが好ましい。
【0039】
例えば、ピグメントC.I.ナンバーとして、Black7、Y12、Y13、Y14、Y17、Y83、Y74、Y−154、Y180、R57:1、R122、R48:1、R48:2、R48:3、R53:1、R146、R−150、R−166、R170、R184、R185、V19、V23、V32、O13、O16、O34、G7、G36、B15:3、B15:4、W6等が挙げられる。
【0040】
前記無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、ベンガラ、アルミニウム、マイカ(雲母)などが挙げられる。白インキには酸化チタン、墨インキにはカーボンブラック、金、銀インキにはアルミニウム、パールインキにはマイカ(雲母)を使用することがコストや着色力の点から好ましい。アルミニウムは粉末またはペースト状であるが、取扱い性および安全性の面からペースト状で使用するのが好ましく、リーフィングまたはノンリーフィングを使用するかは輝度感および濃度の点から適宜選択される。着色剤はインキの濃度・着色力を確保するのに充分な量、すなわちインキの総重量に対して1〜50重量%の割合で含まれることが好ましい。また、着色剤は単独で、または2種以上を併用して用いることができる。
【0041】
これらの有機顔料並びに無機顔料は、前記した水分の添加により、インキの乾燥性や印刷特性を向上する効果も有している。
【0042】
(通常の製造方法)
本発明のリキッドインキ組成物の製造は、例えば、ポリウレタン樹脂に、着色用顔料、体質顔料、溶剤、ヒドロキシカルボン酸及び、必要に応じて、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、可塑剤などの添加剤、インキ流動性および分散性を改良するための界面活性剤、あるいはポリウレタン樹脂と相溶性を有する樹脂を、経時で増粘とゲル化が生じない範囲にて併用し、ボールミル、アトライター、サンドミルなどの通常の印刷インキ製造装置を用いて混練することによってなされる。特に、帯電防止剤の添加は、エステル系溶剤、ケトン系溶剤を使用時に発生しやすいヒゲ、雷筋と呼ばれる印刷時の静電気トラブルの抑制に効果的である。
【0043】
本発明は、前記したリキッドインキ組成物の印刷によって得られる印刷物、及びリキッドインキを印刷してなる印刷層を有するラミネート積層体をも提供する。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。尚、実施例中の「部」は質量部を、「%」は質量%を表す。
尚、本発明におけるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による酸無水物の数平均分子量、及びポリウレタン樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)の測定は東ソー(株)社製HLC8220システムを用い以下の条件で行った。
分離カラム:東ソー(株)製TSKgelGMH
HR−Nを4本使用。カラム温度:40℃。移動層:和光純薬工業(株)製テトラヒドロフラン。流速:1.0ml/分。試料濃度:0.4質量%。試料注入量:100マイクロリットル。検出器:示差屈折計。
また、アミン価は、ポリウレタン樹脂1g中に含有するアミノ基を中和するのに必要となる塩酸の当量と同量の水酸化カリウム(KOH)のmg数を示すものである。その測定方法としては、試料量Pグラム精秤した試料に中性エタノール30mLを添加・溶解させた後、得られた溶液を0.2mol/Lエタノール性塩酸溶液(力価f)で滴定を行う。溶液の色が緑から黄色に変化した時点を終点とみなし、この時の滴定量(HmL)を用いて次の(式2)によりアミン価を求めた。
尚、前記試料とは、各合成例で得られるポリウレタン樹脂溶液を指し、固形分質量換算30%にて算出する。
アミン価=(H×f×0.2×56.108)/P/0.3〔mgKOH/g〕
【0045】
(ポリウレタン樹脂溶液Pの調製)
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、エチレングリコールとネオペンチルグリコールの混合物(モル比=1/1)とアジピン酸とを反応させて得た数平均分子量1,800のポリエステルジオール605.9部およびイソホロンジイソシアネート94部を仕込み、窒素気流下に90℃で10時間反応させ、遊離イソシアネート価1.02重量%のプレポリマーを製造した後、これに酢酸エチル300部を加えてウレタンプレポリマー(B2)を得た。
続いて、イソホロンジアミン18.1部、酢酸エチル873部およびIPA503部からなる混合物に、前記ウレタンプレポリマー溶液を添加し、45℃で8時間攪拌反応させて、樹脂固形分濃度30.5質量%、重量平均分子量58,000、アミン価5.3(mgKOH/g)のポリウレタン樹脂溶液(P)を得た。
【0046】
(塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂溶液Vの調整)
ポリウレタン樹脂と併用して用いる水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(樹脂モノマー組成が質量%で塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール=92/3/5、水酸基価(mgKOH)=64)を酢酸n−プロピルで15%溶液とし、これを塩酢ビ樹脂溶液(V)した。
【0047】
(実施例1)
ポリウレタン樹脂溶液P(固形分30%)を25部、塩酢ビ樹脂溶液V(固形分15%)10部、酸化チタン顔料テイカ(株)製JR−780 45部、イソプロピルアルコール10部、酢酸エチル27部からなる混合物をダイノーミル(ウィリー・エ・バッコーフェノン社製)を用いて混練し、得られた白色練肉ベースインキ(W)に更に水4部と無水コハク酸(ジヒドロ−2,5-フランジオン、数平均分子量100.07)を0.0001部を添加し、本発明のリキッド白インキを作製した。
【0048】
(実施例2〜10)
実施例1の無水コハク酸の代わりに、無水マレイン酸の他、各種酸無水物を表1に示す量で添加し、実施例と同様の手順にて白色練肉ベースインキ(W)を作製した。
尚、各酸無水物の数平均分子量は、無水マレイン酸(98.06)、ヘキサヒドロ無水フタル酸(196.2)、無水フタル酸(148.12)、無水トリメリット酸(192.13)である。
また、実施例10は「水」を無添加とした。
(比較例1〜4)
比較例1、2については、酸無水物(C)の代わりに、スチレン・マレイン酸樹脂(X−228 固形分40% 星光PMC(株)製)を、(表2)の配合に従って添加した。比較例3については、酸無水物(C)を無添加とした。
比較例4については、無水タイプでないコハク酸を使用した。
【0049】
上記で得られた実施例1〜10及び比較例1〜4のリキッド白インキについて、以下の評価を実施した。
【0050】
(粘度測定)
リキッド白インキを離合社製ザーンカップNo.4を用いてインキ製造直後に液温25℃にて粘度を測定した上で、下記1液での粘度安定性、イソシアネート硬化剤を用いた2液安定性を各々評価した。
【0051】
(粘度安定性)
リキッド白インキを各々ガラス瓶に採取し、50℃で24時間保存を行った。その後、25℃にて粘度を測定して1液での保存前との粘度変化を評価した。評価基準は以下の通りとした。
(評価)
5:粘度変化が無い 粘度変化が 2秒未満
4:粘度変化が少し 粘度変化が 2秒以上5秒未満
3:粘度変化がやや多い 粘度変化が 5秒以上10秒未満
2:粘度変化が多い 粘度変化が10秒以上15秒未満
1:粘度変化が非常に多い 粘度変化が15秒以上
【0052】
(2液安定性)
リキッド白インキをガラス瓶に採取し、其々インキ100質量%にCVL NO.10ハードナー(イソシアネート硬化剤:DIC製)を4質量%添加し、40℃で24時間保存した後、粘度を測定して保存前との粘度変化を評価した。評価基準は以下の通りとした。
(評価)
5:粘度変化が無い 粘度変化が 2秒未満
4:粘度変化が少し 粘度変化が 2秒以上5秒未満
3:粘度変化がやや多い 粘度変化が 5秒以上10秒未満
2:粘度変化が多い 粘度変化が10秒以上15秒未満
1:粘度変化が非常に多い 粘度変化が15秒以上
【0053】
(印刷適性試験:カスレ試験)
酢酸エチル/イソプロピルアルコール=50/50の混合有機溶剤でインキを希釈し、離合社製ザーンカップNO.3で15秒になるように希釈した。それを版深度25μmを有するグラビア版を取り付けたグラビア印刷機(DICエンジニアリング株式会社製)を用いて、片面にコロナ処理を施した二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡績株式会社製 E−5100 厚さ12μm)の処理面に印刷を行った。そして印刷物の印刷部分へのインキの転移度(カスレ度)を評価した。カスレ試験は、グラビア版の円周600mmφで300m/分の印刷速度での評価を行った。評価基準は以下の通りとした。
(評価)
5:カスレ無し
4:カスレがごく僅かに確認できる
3:カスレが僅かに確認できるが実用範囲である
2:カスレが発生している
1:カスレが著しく発生している
【0054】
(印刷適性試験:版かぶり試験)
上記カスレ試験の条件で印刷した時の印刷物の中で、非印刷部の汚れ具合(版かぶり度)を評価した。
(評価)
5:印刷汚れ無し
4:印刷汚れがごく僅かに確認できる
3:印刷汚れが僅かに確認できるが実用範囲である
2:印刷汚れが発生している
1:印刷汚れが著しく発生している
【0055】
(ラミネート強度)
印刷物にウレタン系のドライラミネート接着剤ディックドライLX−703VL/KR−90(DIC製)にてドライラミネート機(DICエンジニアリング製)によって無延伸ポリプロピレンフィルム(以下、R−CPP:東レ合成フィルム社製 ZK−75 50μm)を積層し、40℃で5日間エージング施し、ラミネート物を得た後、15mm幅に切り出し引っ張り速度300mm/分で90度剥離試験(レトルト処理前のラミネート強度の測定)を行った。
さらに、得られたラミネート物を120mm×120mmの大きさのパウチに製袋し、内容物として、食酢、サラダ油、ミートソースを重量比で1:1:1に配合した疑似食品70gを充填密封した。作成したパウチを120℃、30分間の蒸気レトルト殺菌処理をした後、上記と同様に90度剥離試験(レトルト処理後のラミネート強度の測定)を行った。
(評価)
○:ラミネート強度が500(g/15mm)以上であり強度充分。
△:ラミネート強度が300以上〜500(g/15mm)未満でありやや強度不足である。
×:ラミネート強度が300(g/15mm)未満であり強度不充分。
【0056】
(耐レトルト性)
上記印刷物をドライラミネート加工後、ラミネート物を製袋し、内容物として、水/サラダ油の混合物を入れ、密封後、125℃、30分間加熱した後、ラミ浮きの有無を外観により目視判定した。
(評価)
○:全くラミ浮きがない。
△:ごく一部がデラミネーションしているか、またはブリスターがわずかに生じた。
×:全面デラミネーションが生じた。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
以上の結果から、本発明のリキッドインキ組成物は、カスレ試験、版カブリ試験等の印刷適性、ラミネート強度、耐レトルト性等の基本性能を保持しつつ、硬化剤を使用しない1液タイプ、硬化剤を使用する2液タイプのいずれにおいても粘度安定性に優れる。