【文献】
Ki-Young Ko, et al.,“Cathodoluminescence and Longevity Properties of Potential Sr1-xMxGa2S4:Eu (M=Ba or Ca) Green Phosp,Bulletin of the Korean Chemical Society,2008年 4月20日,Vol.29,No.4,p.822-826
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(蛍光体)
本発明の蛍光体は、蛍光物質を少なくとも含有し、更に必要に応じて、被覆層などのその他の成分を含有する。
【0012】
<蛍光物質>
前記蛍光物質は、下記一般式(1)で表される。
(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
x ・・・一般式(1)
ただし、前記一般式(1)中、0.025≦x≦0.20、かつ0.15≦y≦0.49である。
【0013】
前記蛍光物質は、下記条件(1)〜(3)を満たす。
条件(1):XRDパターンの回折強度最大ピークが、回折角2θ=23.7〜24.1°に現れるSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークである。
条件(2):回折強度2番目のピークが回折角2θ=38.1〜38.5°に現れるSrGa
2S
4の(444)面に帰属する回折ピークである。
条件(3):回折角2θ=30.0〜30.4°に、前記回折強度最大ピークに対する相対強度が5〜20%の回折ピークを有する。
【0014】
前記蛍光物質において、Ga/(Eu+Ba+Sr)比(元素比)としては、1.80〜2.50が好ましく、1.90〜2.30がより好ましい。
【0015】
前記蛍光物質の発光ピーク波長としては、例えば、529nm〜535nmが挙げられる。
【0016】
前記蛍光物質の発光ピーク強度(対YAG比)としては、例えば、2.46〜3.64が挙げられる。
【0017】
前記蛍光物質の試料吸収率としては、例えば、64%〜82%が挙げられる。
【0018】
前記蛍光物質のCIE1931表色系に基づくxとしては、0.271以下が好ましい。
前記蛍光物質のCIE1931表色系に基づくx値としては、例えば、0.210〜0.271が挙げられ、また、0.235〜0.271が挙げられる。
【0019】
前記蛍光物質のCIE1931表色系に基づくy値としては、0.687以上が好ましい。
前記蛍光物質のCIE1931表色系に基づくy値としては、例えば、0.687〜0.710が挙げられ、また、0.687〜0.695が挙げられる。
【0020】
前記蛍光物質の内部量子効率としては、0.64(64%)以上が好ましい。
前記蛍光物質の内部量子効率としては、例えば、0.64(64%)〜0.80(80%)が挙げられる。
【0021】
前記蛍光物質の外部量子効率としては、0.40(40%)以上が好ましい。
前記蛍光物質の外部量子効率としては、例えば、0.40(40%)〜0.65(65%)などが挙げられる。
【0022】
前記蛍光物質の輝度(対YAG比)としては、例えば、124%〜187%などが挙げられる。
【0023】
前記蛍光物質の発光半値全幅としては、例えば、48nm〜50nmが挙げられる。
【0024】
上記各特性は、例えば、以下の方法により測定できる。
【0025】
[発光(PL)スペクトルの測定]
分光蛍光光度計FP−6500(日本分光社製)の積分球オプションを用いてPLスペクトルにおける発光ピーク波長、発光ピーク強度、及び発光半値全幅を測定する。発光ピーク強度は、化成オプトロニクス製の一般的なYAG蛍光体P46−Y3材のPLスペクトルデータを基準に相対値で示す。
【0026】
[各種変換効率の算出]
蛍光体の変換効率として、励起光を吸収する効率(吸収率)、吸収した励起光を蛍光に変換する効率(内部量子効率)、及びそれらの積である励起光を蛍光に変換する効率(外部量子効率)を算出する。発光特性は、分光蛍光光度計FP−6500(日本分光社製)の積分球オプションを用いて測定する。専用セルに蛍光体粉末を充填し、波長450nmの青色励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定する。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率計算ソフトを用いて、量子効率を算出する。
【0027】
[結晶性の評価]
結晶性の評価はX線回折の測定により行う。粉末X線回折計(PANalytical社製X’Pert PRO)を用いて、CuKα線のX線回折(XRD)パターンにおける回折ピークの位置(2θ)及び半値幅を測定する。付属の解析ソフトのピークサーチ機能でフィッティングを行い、蛍光体のXRDパターンの特徴を解析する。
【0028】
<被覆層>
本発明の蛍光体のさらなる好ましい態様として、前記蛍光物質の表面が、被覆層としてのフッ素系樹脂で被覆された蛍光体が挙げられる。
蛍光物質の耐湿性、耐水性を向上させることで、水などによる加水分解反応を防止し、発光特性の低下を防ぐことができる。
蛍光物質の耐湿性、耐水性の向上には、前記蛍光物質の表面をフッ素系樹脂で被覆させることが好ましい。そうすることで、前記蛍光物質における加水分解などによる劣化を防止することができ、発光ピーク強度等の発光特性の劣化を抑制できる。
【0029】
蛍光物質の組成、結晶構造などの違いにより、発光ピーク波長、発光半値全幅、発光ピーク強度、内部量子効率、外部量子効率などの各物性値は異なってくる。
しかし、本発明の蛍光体は、後述する本発明の製造方法で製造することにより、新規の結晶構造を有し、高い輝度を有しつつ、色純度の高い緑色発光の蛍光体となる。
【0030】
(蛍光体の製造方法)
本発明の蛍光体の製造方法は、析出沈殿工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、焼成工程、被覆工程などのその他の工程を含む。
前記蛍光体の製造方法は、本発明の前記蛍光体を製造する方法である。
【0031】
<析出沈殿工程>
前記析出沈殿工程としては、第1の液と、第2の液とを混合し、沈殿物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
<<第1の液>>
前記第1の液は、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、及びユーロピウム化合物を溶解し、かつ粉末ガリウム化合物を含有する。
【0033】
前記第1の液を得る方法としては、例えば、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、及びユーロピウム化合物を水に溶解させ、そこにガリウム化合物の粉末を混合する方法などが挙げられる。
【0034】
前記バリウム化合物としては、例えば、硝酸バリウム[Ba(NO
3)
2]、酸化バリウム[BaO]、臭化バリウム[BaBr
2・xH
2O]、塩化バリウム[BaCl
2・xH
2O]、酢酸バリウム[Ba(CH
3COO)
2]、ヨウ化バリウム[BaI
2・xH
2O]、水酸化バリウム[Ba(OH)
2]、硫化バリウム[BaS]等を用いることができる。
【0035】
前記ストロンチウム化合物としては、例えば、硝酸ストロンチウム[Sr(NO
3)
2]、酸化ストロンチウム[SrO]、臭化ストロンチウム[SrBr
2・xH
2O]、塩化ストロンチウム[SrCl
2・xH
2O]、炭酸ストロンチウム[SrCO
3]、蓚酸ストロンチウム[SrC
2O
4・H
2O]、フッ化ストロンチウム[SrF
2]、ヨウ化ストロンチウム[SrI
2・xH
2O]、硫酸ストロンチウム[SrSO
4]、水酸化ストロンチウム[Sr(OH)
2・xH
2O]、硫化ストロンチウム[SrS]等を用いることができる。
【0036】
前記ユウロピウム化合物としては、例えば、硝酸ユウロピウム[Eu(NO
3)
3・xH
2O]、蓚酸ユウロピウム[Eu
2(C
2O
4)
3・xH
2O]、炭酸ユウロピウム[Eu
2(CO
3)
3・xH
2O]、硫酸ユウロピウム[Eu
2(SO
4)
3]、塩化ユウロピウム[EuCl
3・xH
2O]、フッ化ユウロピウム[EuF
3]、水素化ユウロピウム[EuH
x]、硫化ユウロピウム[EuS]、トリ−i−プロポキシユウロピウム[Eu(O−i−C
3H
7)
3]、酢酸ユウロピウム[Eu(O−CO−CH
3)
3]等を用いることができる。
【0037】
前記粉末ガリウム化合物としては、例えば、酸化ガリウム[Ga
2O
3]、硫酸ガリウム[Ga
2(SO
4)
3・xH
2O]、硝酸ガリウム[Ga(NO
3)
3・xH
2O]、臭化ガリウム[GaBr
3]、塩化ガリウム[GaCl
3]、ヨウ化ガリウム[GaI
3]、硫化ガリウム(II)[GaS]、硫化ガリウム(III)[Ga
2S
3]、オキシ水酸化ガリウム[GaOOH]等を用いることができる。
【0038】
前記第1の液におけるBa、Sr、Eu、及びGaの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
<<第2の液>>
前記第2の液は、亜硫酸塩を含有する。
前記第2の液を得る方法としては、例えば、亜硫酸塩を水に溶解させる方法が挙げられる。
前記第2の液における亜硫酸塩の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0040】
前記亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0041】
前記第1の液と、前記第2の液との混合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の液におけるEu、Ba、及びSrの合計モル量に対して、亜硫酸塩のモル量が1.00倍〜1.50倍となるように混合することが挙げられる。
【0042】
<<沈殿物>>
前記沈殿物は、析出物と、前記粉末ガリウム化合物との混合物である。
前記析出物は、亜硫酸バリウム、亜硫酸ストロンチウム、及び亜硫酸ユーロピウムを含有する。
前記第1の液において、バリウム化合物、ストロンチウム化合物、及びユーロピウム化合物は溶解し、均一になっていることで、前記析出物においても、亜硫酸バリウム、亜硫酸ストロンチウム、及び亜硫酸ユーロピウムが均一に混合されている。
更に、前記沈殿物においては、前記粉末ガリウム化合物、亜硫酸バリウム、亜硫酸ストロンチウム、及び亜硫酸ユーロピウムが均一に混合されている。
【0043】
なお、前記沈殿物は、後述する焼成工程に供する前に、洗浄されることが好ましい。洗浄の条件としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、伝導率が0.1mS/cm以下になるまで水で洗浄することが挙げられる。
【0044】
<焼成工程>
前記焼成工程としては、硫化水素を含有する雰囲気下で前記沈殿物を焼成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記焼成工程における焼成温度としては、例えば、900℃〜950℃が挙げられる。
前記焼成工程における焼成時間としては、例えば、1時間〜5時間が挙げられる。
前記焼成工程における雰囲気中の硫化水素の割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1L/分〜0.5L/分の量の硫化水素を焼成雰囲気中に供給することが挙げられる。
【0045】
前記焼成工程により本発明の前記蛍光体における前記蛍光物質を得ることができる。
【0046】
<被覆工程>
前記被覆工程としては、前記焼成工程によって得られた蛍光物質の表面を被覆層により被覆する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記被覆工程は、例えば、非水系雰囲気下でフッ素系樹脂を被覆させることで行うことができる。
【0047】
例えば、エトキシノナフルオロブタン等のハイドロフルオロエーテル類などのフッ素を含有する溶媒にフッ素系樹脂が含有されたフッ素系樹脂溶液を用い、該フッ素系樹脂溶液に上記で得られた蛍光物質を混ぜ、ミックスローターなどで混合する。次に、吸引ろ過により粉末を回収し、80℃〜100℃程度の温度で0.5時間〜1.5時間、該粉末を乾燥させる。これにより、表面にフッ素系樹脂による被覆層を有する蛍光体を得ることができる。
【0048】
(蛍光体シート)
本発明の蛍光体シートは、蛍光体層を少なくとも有し、更に必要に応じて、水蒸気バリアフィルムなどのその他の部材を有する。
【0049】
<蛍光体層>
前記蛍光体層は、本発明の前記蛍光体と、赤色蛍光体とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、樹脂などのその他の成分を含有する。
前記蛍光体層は、例えば、層状の前記樹脂中に本発明の前記蛍光体と、前記赤色蛍光体とが分散されてなる。
【0050】
<<赤色蛍光体>>
前記赤色蛍光体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫化物系蛍光体、酸化物系蛍光体、窒化物系蛍光体、フッ化物系蛍光体等から、蛍光体の種類、吸収帯域、発光帯域等に応じて、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
前記赤色蛍光体の具体例としては、(ME:Eu)S、(M:Sm)
x(Si,Al)
12(O,N)
16、ME
2Si
5N
8:Eu、(ME:Eu)SiN
2、(ME:Eu)AlSiN
3、(ME:Eu)
3SiO
5、(Ca:Eu)SiN
2、(Ca:Eu)AlSiN
3、Y
2O
3:Eu、YVO
4:Eu、Y(P,V)O
4:Eu、3.5MgO・0.5MgF
2・Ge
2:Mn、CaSiO
3:Pb,Mn、Mg
6AsO
11:Mn、(Sr,Mg)
3(PO
4)
3:Sn、La
2O
2S:Eu、Y
2O
2S:Eu等を挙げることができる。これらの赤色蛍光体の中でも、広い色域を実現可能なCaS:Eu、又は(Ba,Sr)
3SiO
5:Euが好ましく用いられる。ここで、「ME」は、Ca、Sr及びBaから成る群から選択された少なくとも1種類の原子を意味し、「M」は、Li、Mg及びCaから成る群から選択された少なくとも1種類の原子を意味する。また、「:」の前は母体を示し、「:」の後は付活剤を示す。
【0052】
<<樹脂>>
前記樹脂としては、例えば、ポリオレフィン共重合体、光硬化性(メタ)アクリル樹脂の硬化物などが挙げられる。
【0053】
前記ポリオレフィン共重合体としては、スチレン系共重合体又はその水添物を挙げることができる。このようなスチレン系共重合体又はその水添物としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその水添物、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体又はその水添物を好ましく挙げることができる。これらの中でも透明性やガスバリア性の点から、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体の水添物を特に好ましく使用することができる。このようなポリオレフィン共重合体を含有させることにより、優れた耐光性と低い吸水性を得ることができる。
【0054】
前記光硬化性(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの中でも、光硬化後の耐熱性の観点から、ウレタン(メタ)アクリレートを好ましく使用することができる。このような光硬化性(メタ)アクリル樹脂を含有させることにより優れた耐光性と低い吸水性を得ることができる。
【0055】
<水蒸気バリアフィルム>
前記水蒸気バリアフィルムとしては、PET(Polyethylene terephthalate)等のプラスチック基板やフィルムの表面に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化珪素等の金属酸化物薄膜を形成したガスバリア性フィルムなどが挙げられる。また、PET/SiOx/PET等の多層構造のものを用いても良い。
【0056】
ここで、蛍光体シートの一例を図を用いて説明する。
図1は、蛍光体シート端部の構成例を示す概略断面図である。この蛍光体シートは、蛍光体層11が、第1の水蒸気バリアフィルム12と第2の水蒸気バリアフィルム13とに挟持されている。
【0057】
蛍光体層11は、緑色蛍光を発する本発明の前記蛍光体と、青色励起光の照射により波長620〜660nmの赤色蛍光を発する赤色蛍光体とを含有し、照射された青色光を白色光に変換する。
【0058】
また、本発明の前記蛍光体以外の他の緑色発光の蛍光体として、Zn
2SiO
4:Mn、Y
3Al
5O
12:Ce
3+、(Y,Gd)Al
3(BO
3)
4:Tb
3+、Ca
3Sc
2Si
3O
12:Ce、CaSc
2O
4:Ce、Ba
3Si
6O
12N
2:Eu、β-サイアロン:Eu
2+等から1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
蛍光体層11は、粉末状の本発明の前記蛍光体と赤色蛍光体とを含有する樹脂組成物を成膜したものである。
【0060】
また、
図1の蛍光体シートは、第1の水蒸気バリアフィルム12の端部と第2の水蒸気バリアフィルム13の端部とが、1g/m
2/day以下の水蒸気透過率を有するカバー部材14で封止されていることが好ましい。
【0061】
カバー部材14としては、1g/m
2/day以下の水蒸気透過率を有する基材141に粘着剤142が塗布された粘着テープを用いることができる。基材141としては、アルミ箔等の金属箔や、水蒸気バリアフィルム12,13を用いることができる。アルミ箔は、光沢の白アルミ又は非光沢の黒アルミのいずれを用いても良いが、蛍光体シート端部の良好な色合いが必要な場合、白アルミを用いることが好ましい。また、水蒸気バリアフィルム上に貼り付けられるカバー部材14の幅Wは、水蒸気バリア性や強度の観点から1mm〜10mmであることが好ましく、1mm〜5mmであることがより好ましい。このような構成からなるカバー部材14によれば、水蒸気バリアフィルムの端部から蛍光体層への水蒸気の侵入を防止することができ、蛍光体層中の蛍光体の劣化を防止することができる。
【0062】
(照明装置)
本発明の照明装置は、本発明の前記蛍光体シートを有する。
本発明の照明装置の一例を図を用いて説明する。
図2は、エッジライト型の照明装置を示す概略断面図である。
図2に示すように、照明装置は、青色LED31と、側面から入射される青色LED31の青色光を拡散させ、表面に均一の光を出す導光板32と、青色光から白色光を得る蛍光体シート33と、光学フィル34とを備える、所謂“エッジライト型バックライト”を構成する。
【0063】
青色LED31は、青色発光素子として例えばInGaN系のLEDチップを有する、所謂“LEDパッケージ”を構成する。導光板32は、アクリル板等の透明基板の端面より入れた光を均一に面発光させる。蛍光体シート33は、例えば、
図1に示す蛍光体シートである。蛍光体シート33に含有される蛍光体の粉末は、平均粒径が数μm〜数十μmのものを用いる。これにより蛍光体シート33の光散乱効果を向上させることができる。光学フィルム34は、例えば液晶表示装置の視認性を向上させるための反射型偏光フィルム、拡散フィルムなどで構成される。
【0064】
また、
図3は、直下型の照明装置を示す概略断面図である。
図3に示すように、照明装置は、青色LED41が二次元配置された基板42と、青色LED41の青色光を拡散させる拡散板43と、基板42と離間して配置され、青色光から白色光を得る蛍光体シート33と、光学フィルム34とを備える、所謂“直下型バックライト”を構成する。
【0065】
青色LED41は、青色発光素子として例えばInGaN系のLEDチップを有する、所謂“LEDパッケージ”を構成する。基板42は、フェノール、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂を利用したガラス布基材から構成され、基板42上には、所定ピッチで等間隔に青色LED41が、蛍光体シート33の全面に対応して二次元に配置される。また、必要に応じて、基板42上の青色LED41の搭載面に反射処理を施してもよい。基板42と蛍光体シート33とは約10〜50mm程度離間して配置され、照明装置は、所謂“リモート蛍光体構造”を構成する。基板42と蛍光体シート33との間隙は、複数の支持柱や反射板によって保持され、基板42と蛍光体シート33とがなす空間を支持柱や反射板が四方で囲むように設けられている。拡散板43は、青色LED41からの放射光を光源の形状が見えなくなる程度に広範囲に拡散するものであり、例えば20%以上80%以下の全光線透過率を有する。
【0066】
なお、本発明は、前述の実施の形態にのみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々更新を加え得ることは勿論である。例えば、前述の実施の形態では、照明装置を表示装置用のバックライト光源に適用した例を示したが、照明用光源に適用してもよい。照明用光源に適用する場合、光学フィルム34は不要である場合が多い。また、蛍光体含有樹脂は、平面のシート形状であるだけでなく、カップ型形状等の立体的な形状を持っていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。実施例において、発光スペクトルの測定、各種変換効率の算出、結晶性の評価は、以下のようにして行った。
【0068】
[発光(PL)スペクトルの測定]
分光蛍光光度計FP−6500(日本分光社製)の積分球オプションを用いてPLスペクトルにおける発光ピーク波長、発光ピーク強度、及び発光半値全幅を測定した。発光ピーク強度は、化成オプトロニクス製の一般的なYAG蛍光体P46−Y3材のPLスペクトルデータを基準に相対値で示した。
【0069】
[各種変換効率の算出]
蛍光体の変換効率として、励起光を吸収する効率(吸収率)、吸収した励起光を蛍光に変換する効率(内部量子効率)、及びそれらの積である励起光を蛍光に変換する効率(外部量子効率)を算出した。発光特性は、分光蛍光光度計FP−6500(日本分光社製)の積分球オプションを用いて測定した。専用セルに蛍光体粉末を充填し、波長450nmの青色励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率計算ソフトを用いて、量子効率を算出した。
【0070】
[結晶性の評価]
結晶性の評価はX線回折の測定により行った。粉末X線回折計(PANalytical社製X’Pert PRO)を用いて、CuKα線のX線回折(XRD)パターンにおける回折ピークの位置(2θ)及び半値幅を測定した。付属の解析ソフトのピークサーチ機能でフィッティングを行い、蛍光体のXRDパターンの特徴を解析した。
【0071】
(実施例1)
先ず、Ga
2O
3(純度6N)、Ba(NO
3)
2(純度3N)、Sr(NO
3)
2(純度3N)、及びEu(NO
3)
3・nH
2O(純度3N、n=6.06)、並びに亜硫酸アンモニウム一水和物を準備した。
次いで、表1に示すように、組成式(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、x=0.025、y=0.15とする組成比(Eu濃度:2.5mol%、Ba置換割合:15%)で、0.1モル量となるように各原料の秤量値を算出した。実施例1の場合、ユウロピウム化合物(Eu(NO
3)
3・nH
2O)1.115g、バリウム化合物(Ba(NO
3)
2)3.822g、及びストロンチウム化合物(Sr(NO
3)
2)17.539gである。
ユウロピウム化合物と、バリウム化合物と、ストロンチウム化合物とを300mlの純水に添加し、溶け残りがなくなるまで十分に撹拌し、Eu、Ba、及びSrを含有する混合溶液を得た。次に、Eu、Ba、及びSrのモル量の和に対してGaのモル量が2.0倍となるように算出した、粉状ガリウム化合物(粉状Ga
2O
3)18.744gを加え、十分に撹拌して、硝酸塩と酸化ガリウム粉末の混合溶液を作製した。
次に、Eu、Ba、及びSrのモル数の合計の1.15倍のモル数の亜硫酸アンモニウム15.487gを100mlの純水に溶解させ、亜硫酸塩溶液を作製した。
先の硝酸塩と酸化ガリウム粉末の混合溶液に、この亜硫酸塩溶液を滴下することで析出・沈殿物を得た。この析出・沈殿物は、亜硫酸ユウロピウム・バリウム・ストロンチウム粉体と、酸化ガリウム粉体の混合物である。
そして、伝導率が0.1mS/cm以下になるまで、析出・沈殿物を純水で洗浄・濾過し、120℃で15時間、乾燥させた。その後、公称目開き100μmの金網を通すことで、Eu、Ba、Ga、及びSrを含有する粉体混合品を得た。この粉体混合品は、亜硫酸ユウロピウム・バリウム・ストロンチウム粉体[(Ba,Sr,Eu)SO
3から成る粉体]と酸化ガリウムとを含有する混合物である。
次いで、粉体混合品を電気炉で焼成した。焼成条件を以下の通りとした。1.5時間で925℃まで昇温し、その後、1.5時間、925℃を保持し、次いで、2時間で室温まで降温させた。焼成中、0.3リットル/分の割合で電気炉に硫化水素を流した。その後、公称目開き25μmのメッシュを通し、(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
x(x=0.025、y=0.15)から成る蛍光体粒子を得た。
以上の試料作製方法を表1中で湿式法と表記する。
【0072】
(実施例2〜7、及び比較例1〜3)
表1に示すように、組成式(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、各実施例及び各比較例のx値、y値で示した組成比で、0.1モル量となるように各原料の秤量値を算出した。これ以外は、実施例1と同様に湿式法で、各実施例、及び各比較例の(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xから成る蛍光体粒子を得た。
【0073】
(比較例4)
まず、Ga
2O
3(純度6N)、BaCO
3(純度3N)、SrCO
3(純度3N)、及びEu
2O
3(純度3N)を準備した。
次いで、表1に示すように、組成式(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、x=0.10、y=0.35とする組成比(Eu濃度:10mol%、Ba置換割合:35%)で、0.05モル量となるように各原料の秤量値を算出した。比較例4の場合、ユウロピウム化合物(Eu
2O
3)0.8798g、ストロンチウム化合物(SrCO
3)4.318g、バリウム化合物(BaCO
3)3.108g、及びガリウム化合物(Ga
2O
3)9.372gである。
ユウロピウム化合物と、ストロンチウム化合物と、バリウム化合物と、ガリウム化合物とをボールミルを用いてエタノール中で混合した。混合終了後、混合物を吸引濾過し、80℃で12時間、乾燥させた。その後、公称目開き100μmの金網を通すことで、Eu、Sr、Ba、及びGaを含有する粉体混合品を得た。
次に、アルミナ焼成ボートに粉体混合品を入れ電気炉で焼成した。焼成条件を以下のとおりとした。1.5時間で925℃まで昇温し、その後、1.5時間、925℃を保持し、次いで、2時間で室温まで降温させた。焼成中、0.3リットル/分の割合で電気炉に硫化水素を流した。その後、公称目開き25μmのメッシュを通し、(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
x(x=0.10、y=0.35)から成る蛍光体粒子を得た.以上の試作作製方法を、表1中、乾式法と表記する。
【0074】
以上をまとめると、実施例1〜7で作製した、蛍光体の組成領域は、組成比(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、x=0.025〜0.20、y=0.15〜0.49の範囲で表すことができる。
【0075】
【表1】
【0076】
(発光評価結果)
表2に、実施例1〜7、比較例1〜4の蛍光体の発光特性の評価結果として、発光ピーク波長、ピーク強度、試料吸収率、内部量子効率、外部量子効率、ClE色度のx、y値、輝度、発光半値全幅(FWHM)の値を示した。
【0077】
実施例1についてPLスペクトルを測定した結果から、波長534nmに発光ピークが現れ、発光ピーク強度は、2.50(YAG比)、輝度は141.1%(YAG比)、発光半値全幅は49nmであった。また、CIEx,y色度点(0.267、0.688)であった。また、変換効率を算出した結果、吸収率は64.2%、内部量子効率は69.9%、及び外部量子効率は44.9%であった。
【0078】
同様に、実施例2〜7の発光特性の評価結果も表2に示した。
発光ピーク波長は529〜535nm、発光ピーク強度は2.46〜3.64(YAG比)、輝度は124.7〜187.0%(YAG比)、発光半値全幅は48〜50nmであった。また、CIEx,y色度点は(0.235、0.695)から(0.271、0.687)の範囲の座標を示した。また、変換効率を算出した結果、吸収率は66.4〜81.8%、内部量子効率は64.6〜79.0%、及び外部量子効率は43.4〜64.6%であった。
【0079】
同様に、比較例1〜4の発光特性の評価結果も表2に示した。
発光ピーク波長は528〜538nm、発光ピーク強度は1.25〜3.43(YAG比)、輝度は68.1〜192.7%(YAG比)、発光半値全幅は48〜54nmであった。また、CIEx,y色度点はCIEx値が0.231〜0.288、CIEy値が0.672〜0.686の範囲で離散的な座標位置となった。また、変換効率を算出した結果、吸収率は62.6〜80.1%、内部量子効率は37.6〜75.3%、及び外部量子効率は24.9〜60.3%であった。
【0080】
実施例1〜7、比較例1〜4の蛍光体の発光特性の評価結果を表1の投入組成比率と照らして合せて見ると、ピーク波長はBa置換割合を増やすほど短波長化し、Eu濃度を増やすほど長波長化する、大まかな傾向が確認できる。
また、
図4に示したように、発光ピーク波長が短波長化すると発光ピーク強度は低下する傾向があり、実施例1〜7は、比較例1〜4に対比して、比較的高い発光強度を維持しつつ、短波長化できているといえる。輝度も発光ピーク強度と同様の傾向が見られる。さらに、実施例1〜7では、同程度の発光波長で比較して、内部量子効率が高く、高効率な発光特性を有していることが分かる。
【0081】
一方、実施例1〜7と比較例1〜4に対して、CIEx,y色度点を
図5に示した。実施例1〜7は「◆」、比較例1〜4は「△」で示した。またNTSCのGreen色度点(0.210、0.710)を「■」で示した。実施例1〜7の色度点は短波長化するにつれ、(0.271、0.687)から(0.235、0.695)のほぼ単一曲線上の範囲で移動した。さらに実施例1〜7のCIEy値は比較例1〜4に比べて大きく、かつNTSCのGreen色度点に近いことから、実施例1〜7はより緑の色純度が高いことがわかる。
【0082】
【表2】
【0083】
次に、実施例1〜7、比較例1〜4の蛍光体について、X線回折によって、結晶性の評価を行った。
表3に、実施例1〜7、比較例1〜4の蛍光体の結晶性評価結果を示す。また、実施例1,4,5,7及び比較例1〜4についてX線回折パターンを
図6に示した。
結晶性評価結果について鋭意解析を行った結果、実施例1〜7について特有の結晶構造を有することを見出した。具体的には回折角2θ=30.0〜30.4°に回折ピ−クが現れ、最大ピークに対する相対強度が一定の範囲を示すことである。
図6に示したように実施例1のX線回折パターンを見ると、回折強度最大のピークは回折角2θ=24.02°にSrGaS
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークが現れ、回折強度2番目のピークは、回折角2θ=38.38°に(444)面に帰属する回折ピークが現れた。また、回折角2θ=30.0〜30.40では30.2°位置に回折強度最大ピークに対する相対強度8.8%のピークが出現した。
【0084】
同様に、実施例2〜7、比較例1〜4についても、回折強度最大と2番目の回折角2θ位置、回折角2θ=30.0〜30.4°に出現するピークの位置と最大ピークに対する相対強度を、表3にまとめた。
実施例2〜7においてはいずれも、回折強度最大のピークは回折角2θ=23.82〜23.96°にSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークが現れ、回折強度2番目のピークは回折角2θ=38.17〜38.3°に(444)面に帰属する回折ピークが現れた。また、回折角2θ=30.0〜30.4°では30.17〜30.21°位置に回折強度最大ピークに対する相対強度7.7〜14.8%のピークが出現した。このうち代表的に実施例4、5、7のX線回折パターンを
図6に示したが、上記の特有の結晶構造が確認できる。
【0085】
一方、比較例1では、X線回折パターンを
図6に示したが、回折強度最大のピークは回折角2θ=24.06°にSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークが現れ、回折強度2番目のピークは回折角2θ=38.42°に(444)面に帰属する回折ピークが現れたが、回折角2θ=30.0〜30.4°にピークが出現していない。つまり比較例1ではx=0.10、y=0とする組成比(Eu濃度:10mol%、Ba置換割合:0%)の場合であって、Baを含有しない、この組成では、回折角2θ=30.0〜30.4°の特有の回折ピークは出現しない。
【0086】
比較例2ではX線回折パターンを
図6に示したが、回折強度最大のピークは回折角2θ=34.36°に、回折強度2番目のピークは回折角2θ=17.00°に現れ、SrGa
2S
4構造とは異なる構造を示し、回折角2θ=30.0〜30.4°にもピークが出現していない。つまり比較例2はx=0.025、y=0.05とする組成比(Eu濃度:2.5mo1%、Ba置換割合:5%)の場合であって、Ba置換割合の小さい、この組成では、回折角2θ=30.0〜30.4°の特有の回折ピークは出現しない。
【0087】
比較例3ではX線回折パターンを
図6に示したが、回折強度最大のピ−クは回折角2θ=23.44°に、回折強度2番目のピ−クは回折角2θ=31.82°に現れ、SrGa
2S
4構造とは異なる構造を示した。回折角2θ=30.0〜30.4°では30.15°位置に回折強度最大ピークに対する相対強度38.7%のピークが出現した。つまり比較例3はx=0.05、y=0.55とする組成比(Eu濃度:5mol%、Ba置換割合:55%)の場合であって、この組成では、回折強度2番目のピークはSrGa
2S
4構造とは異なる構造を示し、Ba置換割合が大きすぎる、この組成では主構造が別の構造になると示唆される。
【0088】
比較例4では、X線回折パターンを
図6に示したが、回折強度最大のピークは回折角2θ=24.06°にSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークが現れ、回折強度2番目のピークは回折角2θ=38.37°に(444)面に帰属する回折ピークが現れたが、回折角2θ=30.0〜30.4°にピークが出現していない。つまり比較例4はx=0.10、y=0.35とする組成比(Eu濃度:10mol%、Ba置換割合:35%)の場合であって、Ba置換割合の小さい、この組成では、回折角2θ=30.0〜30.4°の特有の回折ピークは出現しない。
【0089】
【表3】
【0090】
以上の結果を整理すると、実施例1〜7で見られる、特有の結晶構造は、以下の条件で定義できる。
回折強度最大のピ−クは回折角2θ=23.7〜24.1°に現れるSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークであり、回折強度2番目のピークは回折角2θ=38.1〜38.5°に現れるSrGa
2S
4の(444)面に帰属する回折ピークであり、回折角2θ=30.0〜30.4°に回折強度最大ピークに対する相対強度が5〜20%の回折ピークを有すること、を特徴としている。
【0091】
また、実施例1〜7で見られる、特有の結晶構造は、組成式(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、x=0.025〜0.20、y=0.15〜0.49の範囲において、出現すると示唆される。
【0092】
以上の結果を整理すると、実施例1〜7で作製した蛍光体は、
組成式(Ba
ySr
1−y)
1−xGa
2S
4:Eu
xで表される蛍光体において、
x=0.025〜0.20、y=0.15〜0.49の範囲の値で表すことができる。
【0093】
さらに、実施例1〜7で見られる、特有の結晶構造は、以下の条件で定義される。
・回折強度最大ピークが回折角2θ=23.7〜24.1°に現れるSrGa
2S
4の(422)面に帰属する回折ピークである。
・回折強度2番目のピークが回折角2θ=38.1〜38.5°に現れるSrGa
2S
4の(444)面に帰属する回折ピークである。
・回折角2θ=30.0〜30.4°に回折強度最大ピークに対する相対強度が5〜20%の回折ピークを有する。