【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうち熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・加工基盤技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る実施形態のプレス装置を示す構成図である。
【0014】
本実施形態のプレス装置1は、成形可能温度に予熱されたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)を上金型2と下金型3との間で挟んで加圧及び成形する装置である。プレス装置1は、
図1に示すように、スライド10、ベッド20、スライド駆動部30及び検出部40を備える。スライド10には上金型2が取り付けられ、ベッド20には下金型3が取り付けられる。
【0015】
スライド駆動部30は、油圧式であり、スライド10に下降方向の駆動力を加えるメインシリンダ31及びピストン32と、スライド10を上昇方向に引き戻すための引き戻しシリンダピストン33とを備える。さらに、スライド駆動部30は、メインシリンダ31の2つの油路に作動油を供給及び排出する油圧回路35と、引き戻しシリンダピストン33に作動油を供給及び排出する図示略の油圧回路とを備える。スライド10はピストン32に連結されている。なお、本明細書では、シリンダに対して一方向の駆動力を発生させる構成についてもピストンと呼ぶ。また、ピストンとシリンダとを組み合わせた構成をピストンシリンダと呼ぶ。
【0016】
メインシリンダ31は、2系統の油室311、313を有し、ピストン32が進退可能に挿入される。油室311、313の下面は、ピストン32の一部の壁面により占められる。さらに、メインシリンダ31には、油室311に作動油を供給又は排出する高速下降用油路312と、油室313に作動油を供給又は排出する加圧用油路314とが設けられる。
【0017】
油圧回路35は、サーボモータ351aの動力により流量可変に作動油を圧送する流量可変ポンプ351と、流量可変ポンプ351から加圧用油路314への作動油の供給と遮断とを切り替えるバルブ352とを備える。バルブ352は油圧によって切り替えられ、この油圧は制御バルブ353を電磁的に動作させることで制御される。また、油圧回路35は、加圧用油路314の油圧が低下したときに作動油を供給するタンク354及びプレフィルバルブなどの一方向弁355を備える。
【0018】
このような構成のスライド駆動部30によれば、バルブ352が閉じた状態で流量可変ポンプ351から油室311へ作動油が供給されることで、ピストン32が下降方向に高速に駆動される。油室311の横断面積は小さいため、少ない作動油の供給でピストン32は大きく下降する。この駆動の際、もう一方の油室313にはタンク354から一方向弁355を通って作動油が送り込まれ、ピストン32の動作に大きな抵抗を与えない。また、バルブ352が開いた状態で流量可変ポンプ351から2つの油室311、313へ作動油が供給されることで、ピストン32を大きな荷重で下降方向に駆動することができる。2つの油室311、313の総合の横断面積は大きいため、一定量の作動油の供給に対して、ピストン32の下降量は小さいが、大きな荷重が得られる。
【0019】
検出部40は、スライド10の位置及び速度を検出する。検出部40は、特に制限されないが、例えばスライド10の変位量に応じて信号を出力するエンコーダを有し、エンコーダの出力を計数してスライド10の位置及び速度を検出するように構成できる。
【0020】
図2は、実施形態に係るプレス装置の制御構成を示すブロック図である。
【0021】
本実施形態のプレス装置1は、更に制御構成として、制御部50及び入力部60を備える。制御部50には、スライド動作設定部51、減速開始位置算出部52及びスライド速度認識部53が含まれる。スライド動作設定部51、減速開始位置算出部52及びスライド速度認識部53は、CPU(Central Processing Unit)がプログラムを実行して実現される機能モジュールとして設けられていてもよい。スライド動作設定部51は、本発明に係る動作制御部の一例に相当する。減速開始位置算出部52は、本発明に係る算出部の一例に相当する。
【0022】
入力部60は、入力装置又は入力ポート等であり、プレス装置1の外部からスライド10の動作に関する設定情報を入力する。ユーザは、プレス装置1の動作設定時において、入力部60を介して設定情報を入力することができる。設定情報としては、例えば1回の成形サイクルにおけるスライド10の各位置と速度との関係を表わす情報など、スライド10の動作が決定できる情報であればよい。
【0023】
以下では、設定情報として、スライド10が上方の待機位置から被成形物の加圧開始位置へ向かって高速に下降し、その後、加圧開始位置から指定された成形速度でスライド10が下降するという設定情報が入力されるものとして説明する。
【0024】
スライド動作設定部51は、入力部60を介して入力された設定情報に基づいて、設定された動作が得られるようにスライド駆動部30の油圧回路35を制御する。具体的には、スライド動作設定部51は、入力された設定情報に基づくスライド10の動作線図通りにスライド10が動作するように、油圧回路35の流量可変ポンプ351を制御する。具体的には、スライド動作設定部51は、検出部40からスライド10の位置情報を用いたフィードバック制御を行って、流量可変ポンプ351を制御する。また、スライド動作設定部51は、減速開始位置算出部52で常時演算しつづけた減速開始位置を常時監視する。減速開始位置では、スライド動作設定部51は、バルブ352を切り替える制御を行ってスライド10を減速する。減速開始位置の制御については後に詳述する。
【0025】
減速開始位置算出部52は、スライド10が加圧開始位置まで下降する際、スライド速度認識部53から送られた下降速度の実績情報に基づき、スライド10の減速開始位置を算出する。減速開始位置とは、スライド10が加圧開始位置に到達するまでにスライド10を成形速度まで減速可能な位置を意味する。この算出方法については後に詳述する。
【0026】
スライド速度認識部53は、検出部40から受けた位置情報に基づいて、スライド10の速度を計算し、この計算結果を速度情報として減速開始位置算出部52へ送る。
【0027】
<減速開始位置の算出原理>
図3は、スライドの下降速度と必要な減速時間との相関関係を示すグラフである。このグラフは、複数回のスライド10の駆動試験の試験結果と、その回帰分析の結果(回帰直線)とを示す。駆動試験の内容は、スライド10を初期の下降速度から目標の成形速度へ減速し、この減速に掛かった時間を減速時間として計測するというものである。初期の下降速度は、パラメータとして幾つかの速度値が割り当てられる。
【0028】
図3のグラフから、スライド駆動部30に動作時間の誤差が存在していても、減速時間は減速開始前のスライド10の下降速度に略比例すること、すなわち減速加速度がほぼ一定となることが分かる。このことから、減速開始位置は、減速加速度が一定という条件を適用して、次のように算出できる。
【0029】
L=A×V
2 (1)
Z=L+Zf (2)
ここで、Tは減速時間(減速前の下降速度から成形速度まで減速するのにかかる時間)、Vは減速開始直前のスライド10の下降実積速度、Aは減速時間係数(減速加速度の逆数)、Lは減速距離(減速前の下降速度から成形速度まで減速するのにかかる距離)である。また、Zは減速開始位置、Zfは減速終了位置である。減速終了位置Zfは、例えば加圧開始位置あるいは加圧開始位置よりも少し上方の位置に設定される。
【0030】
ここでは、スライド10を高速に下降している際に、スライド10を成形速度まで減速するときを想定しているが、高速の下降速度に対して成形速度は無視できる程度に小さい。このため、成形速度の項は、式(1)、(2)から省略されている。
【0031】
定数である減速加速度又はその逆数である減速時間係数Aは、スライド10の重量、上金型2の重量、スライド駆動部30の構成及び能力(例えば油室311、313の横断面の面積、油圧回路35の油圧及び各要素)が異なれば、異なる値となる。
図3の例では、減速時間係数A(減速加速度の逆数の次元)は0.6412[s
2/m]である。減速時間係数Aは、スライド10に上金型2を取り付けた状態で、スライド10の下降速度を変えて複数回試験を行い、回帰分析を行うことで取得することができる。このような減速時間係数Aの取得は、ユーザが行っても良いし、制御部50が自動的に行う機能を備えていてもよい。
【0032】
取得された減速時間係数Aは、制御部50の減速開始位置算出部52に設定入力される。減速開始位置算出部52は、式(2)の右辺を用いて、スライド10の下降実積速度Vから減速開始位置Zを求める。減速開始位置Zは、式(2)に示すように、下降実積速度Vの二乗項を含む式により算出される。この算出においは、実際に計測されてスライド速度認識部53から送られた速度値が下降実積速度Vとして使用される。
【0033】
<プレス処理>
図4は、制御部により実行されるプレス処理の手順を示すフローチャートである。
図5は、プレス処理の動作の一例を示す動作線図である。
図6は、
図5の高速下降工程と加圧工程との間の区間C1を詳細に示す動作線図である。
図5と
図6において「SM回転制御」とは流量可変ポンプ351のサーボモータ351aの回転制御を意味する。
【0034】
図4に示すように、被成形物が下金型3にセットされてプレス処理が開始されると、先ず、制御部50のスライド動作設定部51は、バルブ352を閉にして高圧の作動油が高速下降用油路312へ供給されるように切り替える(ステップS1)。そして、制御部50は、サーボ運転用のループ処理(ステップS2〜S9)へ処理を進める。
【0035】
ループ処理では、先ず、スライド動作設定部51は、フィードバック制御用に現在のスライド10の位置Zrを検出部40から取得し(ステップS2)、設定情報に応じてスライド10が動作するように流量可変ポンプ351を制御する(ステップS3)。ステップS2、S3の処理が繰り返されることで、流量可変ポンプ351のフィードバック制御が実現され、これにより、設定情報にほぼ応じた、高速下降、加圧、加圧力保持、圧抜き及び上昇の各工程のスライド10の動作が得られる。圧抜きと上昇の各工程時には、引き戻しシリンダピストン33の制御が併用される。さらに、制御部50は、現在が高速下降中か判別し(ステップS4)、その結果がNOであれば、1回のサイクルが終了したか判別し(ステップS9)、その結果、終了でなければ処理をステップS2へ戻す。
【0036】
一方、現在が高速下降中であれば、ステップS4の判別により、制御部50は、処理をステップS5へ移行する。すると、制御部50のスライド速度認識部53は、現在のスライド10の実績速度Vを検出部40から取得し(ステップS5)、制御部50の減速開始位置算出部52が実績速度Vの値を用いて減速開始位置Zを算出する(ステップS6)。算出方法は、上述した通りである。
【0037】
続いて、スライド動作設定部51は、現在のスライド10の位置Zrが減速開始位置Zに達したか判別し(ステップS7)、NOであれば処理をステップS9へ進める。減速開始位置Zは、通常、高速下降工程の終端に近い位置になるため、高速下降工程の終端の近くまで、ステップS7の判別結果はNOとなる。ステップS7の判別結果NOであれば、制御部50は、ステップS9へ処理を移行する。
【0038】
一方、ステップS7の判別結果がYESとなれば、スライド動作設定部51は、設定情報に関係なく、流量可変ポンプ351からの作動油が加圧用油路314と高速下降用油路312との両方に供給されるように、油路を切り替える制御を行う(ステップS8)。その後、制御部50は、ステップS9へ処理を移行する。
【0039】
すなわち、
図6に示すように、スライド10の高速下降工程の終端前まで、ステップS2〜S9のループ処理が繰り返されることで、減速開始位置算出部52はステップS6の減速開始位置Zの算出を繰り返し実行し、ステップS7の判別結果がNOとなる。高速下降工程では、スライド10が高速に下降するため、スライド10の実績速度Vの誤差及びバラツキが大きくなる。
【0040】
そして、高速下降工程の終端近傍で、スライド10の位置Zrが直前に算出された減速開始位置Zに到達した場合に、ステップS7の判別結果がYESとなる(
図6のタイミングR1)。その結果、設定情報が示す減速開始位置を補正するように、入力部60から入力された設定情報に拘らず、ステップS7の判別結果に基づいて、ステップS8の油路の切替え処理が実行される。本実施形態において油路の切替え処理は、スライド10の減速開始の処理に相当する。このように、減速開始位置Zの算出と、スライド10の計測された位置Zrと減速開始位置Zとの比較とが繰り返し行われることで、スライド10の実績速度Vが設定速度に対してずれを含んでいても、実績速度Vに応じた減速開始の処理を行うことができる。
【0041】
油路の切替え処理では、
図6に示すように、タイミングR1の判別結果に基づき、先ず、スライド動作設定部51が流量可変ポンプ351のサーボモータ351aを一旦停止し、バルブ352を開に切り替えることで実現される。サーボモータ351aを一旦停止するのは、バルブ352を安定的に切り替えるためである。この油路の切替えにより、スライド10が減速されて、予め設定された加圧開始位置に到達するまでの期間Δtにスライド10の速度を指定の成形速度まで落とすことができる。
【0042】
油路が切り替わると、流量可変ポンプ351から高速下降用油路312と加圧用油路314との両方に作動油が供給される状態になる。この状態で、スライド動作設定部51は設定情報に応じたスライド10の動作が実現されるように、流量可変ポンプ351を駆動させる。これにより、加圧工程の動作曲線に沿ったスライド10の駆動が実現される。
【0043】
その後、加圧力保持工程、圧抜き工程、上昇工程を経て、成形の1サイクルが終了する。1サイクルが終了すると、制御部50は、ステップS9の判別処理でループ処理を抜け、流量可変ポンプ351を停止して(ステップS10)、1回のプレス処理を終了する。
【0044】
以上のように、本実施形態のプレス装置1によれば、スライド10が加圧開始位置まで下降する際、検出部40で検出されたスライド10の下降速度に基づいて、減速開始位置算出部52が減速開始位置Zを算出する。そして、スライド動作設定部51が、検出部40で計測されたスライド10の位置Zrと、算出された減速開始位置Zとに基づいて、スライド駆動部30の油圧回路35を切り替えてスライド10を減速させる。したがって、高速下降工程においてスライド10を高速に下降させても、実際のスライド10の実績速度に応じた位置から減速処理が行われて、指定した加圧工程開始位置で精度良くスライド10を成形速度に移行することができる。
【0045】
また、本実施形態のプレス装置1によれば、スライド10が加圧開始位置まで下降する際、検出部40及びスライド速度認識部53でスライド10の実際の速度が繰り返し取得され、さらに、減速開始位置算出部52が繰り返し減速開始位置を算出する。したがって、高速下降工程において、スライド10の速度が設定情報の速度よりも大幅にばらついている場合でも、加圧開始位置で精度良く成形速度に速度を移行することのできる減速開始位置を求めることができる。
【0046】
また、本実施形態のプレス装置1は、スライド駆動部30が油圧式の駆動部である。油圧式の駆動部は、バルブ352の切替え指令の出力から実際に切り替わるまでのタイムラグ、作動油の圧縮及び膨張による圧力振動などにより、スライド10を高速駆動させたときに機械式の駆動部と比較して大きなバラツキが生じやすい。しかし、このようなバラツキがあっても、本実施形態のプレス装置1によれば、加圧開始位置までの減速を正確に行うことができる。したがって、本実施形態に係る構成及び制御は、油圧式の駆動部を有するプレス装置1に特に有用である。
【0047】
また、本実施形態のプレス装置1によれば、減速開始位置算出部52は、スライド10の実績速度Vの二乗項を含む算出式(2)により減速開始位置Zを算出し、簡単な演算で精度の良い減速開始位置Zの演算と監視をすることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、油圧回路35の油路の切替えにより、スライド10を減速する構成を一例にとって説明した。しかし、スライド10の減速は流量可変バルブの出力の切替えによって行われる構成であってもよい。また、上記実施形態では、油圧式のスライド駆動部を採用した構成を一例にとって説明したが、その他の駆動方式が採用されたプレス装置においても、本発明は同様に適用することができる。また、上記実施形態では、減速開始位置Zの算出式から目標の成形速度の項を省略した構成を示したが、成形速度の項を加えたり、その他の補正項を加えたりした算出式を用いてもよい。また、上記実施形態では、CFRPを成形するプレス装置を一例として挙げたが、本発明は鍛造プレスに適用してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。