(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
図1は、本実施形態による温水システム設計方法によって構築される温水システム1の構成を示す概略図である。
図1では、水(給水)の流れおよび湯(給湯)の流れを白抜き矢印で示している。また、
図1では、信号の流れを破線の矢印で示している。温水システム設計方法は、温水システム1を設計する方法である。温水システム1は、熱源機10、貯湯槽20、給水路30a、30b、30c、30d、循環給水路30e、給湯路40a、40b、40cを含んで構成される。
【0020】
給水路30aには、給水源(図示略)から供給される水(給水)が流れる。給水路30aは、分岐部32を介して給水路30b、30cに分岐している。給水路30bは、熱源機10に接続されている。給水路30aには、逆止弁31aが設けられており、給水路30bには、逆止弁31bが設けられている。逆止弁31a、31bは、熱源機10から給水源への流れを阻止する。
【0021】
給水路30cは、分岐部33に接続されている。分岐部33には、給水路30dおよび循環復路3が接続されている。給水路30dは、貯湯槽20に接続されている。
【0022】
給湯路40aは、熱源機10から延びている。給湯路40bは、貯湯槽20から延びている。給湯路40aと給湯路40bとは、分岐部42を介して給湯路40cに合流している。給湯路40cは、出湯口2および循環復路3に接続されている。給湯路40cには、出湯口2に供給する湯(給湯)が流れる。
【0023】
循環復路3の途中には、逆止弁4および循環ポンプ5が設けられている。逆止弁4は、給水路30cから出湯口2および給湯路40cへの流れを阻止する。循環ポンプ5は、出湯口2で消費されなかった湯を、循環復路3を通して給水路30c、30dに移動させる。
【0024】
熱源機10は、熱を発生する装置である。熱源機10は、例えば、給湯器であり、ガスを燃焼させて熱を発生する。熱源機10は、発生した熱を用いて、給水路30bを通って供給される水(給水)から湯を生成する。また、熱源機10は、貯湯槽20から供給される湯(給湯)の加熱も行う。なお、熱源機10における湯を生成する性能を、熱源機10の能力と呼び、単位時間あたりに発生する熱量の単位(例えば、kW)で表わす。熱源機10の能力は、例えば、熱源機10の定格出力に相当する。
【0025】
貯湯槽20は、熱源機10によって生成された湯を一時的に貯留する。貯湯槽20は、貯留した湯を給湯路40bに送出することができる。貯湯槽20には、貯湯槽20内の湯の温度を検出する温度検出器21が設けられている。
【0026】
給水路30dの途中(分岐部33と貯湯槽20との間)には、差圧作動弁50が設けられている。差圧作動弁50は、差圧作動弁50にかかる差圧(ΔP2)が熱源機10の最大能力流量時に生じる圧力損失(ΔP1)を超えたときに弁を開く。一方、差圧作動弁50は、差圧作動弁50にかかる差圧(ΔP2)が当該圧力損失(ΔP1)より小さいときに弁を閉じる。熱源機10の最大能力流量時に生じる圧力損失(ΔP1)は、熱源機10が生成することが可能な最大量の湯を送出するときの、熱源機10から送出される湯の圧力と、熱源機10に供給される水の圧力との差である。
【0027】
図2は、給湯流量と圧力損失(ΔP1)との関係を示す概念図である。
図2に示すように、給湯流量が増加するにしたがって、圧力損失(ΔP1)は増加し、かつ、その圧力損失(ΔP1)の増加量も増加する。
【0028】
図1に戻って、給水路30dにおける貯湯槽20と差圧作動弁50との間には、給水路30bの途中(分岐部32と熱源機10との間)に至る循環給水路30eが設けられている。循環給水路30eの途中には、逆止弁60およびポンプ62が設けられている。逆止弁60は、熱源機10から貯湯槽20への流れを阻止する。ポンプ62は、貯湯槽20内の湯(水)を、給水路30d、循環給水路30eを通して熱源機10に移動させる。なお、循環給水路30eを通る湯(水)の温度は、給湯路40cを通る湯よりも低い。
【0029】
温水システム1には、制御部70が設けられている。制御部70は、CPU、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。制御部70は、ROMに格納されたプログラムを実行することで、温水システム1の各部を制御する。
【0030】
制御部70は、差圧作動弁50の状態を示す状態信号を差圧作動弁50から取得する。また、制御部70は、貯湯槽20内の湯の温度の検出結果を温度検出器21から取得する。制御部70は、差圧作動弁50の状態信号および温度検出器21の温度検出結果を、所定の時間間隔で取得する。また、制御部70は、ポンプ62を制御する制御信号を送信する。
【0031】
制御部70は、差圧作動弁50から取得する状態信号および温度検出器21から取得する温度検出結果に基づいてポンプ62の作動および停止を制御する。具体的には、制御部70は、差圧作動弁50の状態信号を解析し、差圧作動弁50が開状態から閉状態へ遷移した場合、ポンプ62の作動を開始させる。また、制御部70は、温度検出器21の温度検出結果によって示される貯湯槽20内の湯の温度が所定の上限閾値(例えば、60℃)を超えたときにポンプ62を停止させる。また、制御部70は、電源投入に従って循環ポンプ5を作動させる。
【0032】
次に、温水システム1の動作を説明する。出湯口2で消費される湯の量が、熱源機10で生成される湯の量(すなわち、熱源機10の能力)以下であるときを、通常時と呼ぶ。また、出湯口2で消費される湯の量が熱源機10の能力より多いときを、ピーク時と呼ぶ。また、貯湯槽20に貯留された湯を加熱するときを、沸き上げ時と呼ぶ。
【0033】
通常時には、差圧作動弁50にかかる差圧(ΔP2)が最大能力流量時に生じる圧力損失(ΔP1)よりも小さいため、差圧作動弁50が閉じている。これにより、通常時には、給水路30a、30bを通して、熱源機10にのみ給水される。また、差圧作動弁50が閉じていることで、貯湯槽20から給湯路40bに湯が流れない。このため、通常時には、熱源機10からのみ、湯が給湯路40a、40cに送出される。
【0034】
出湯口2で消費される湯の量が熱源機10の能力を超え始めると、差圧作動弁50にかかる差圧(ΔP2)が最大能力流量時に生じる圧力損失(ΔP1)を超えるため、差圧作動弁50が開く。このようなピーク時には、給水路30a、30bを通って熱源機10に給水されるとともに、給水路30a、30cを通って貯湯槽20にも給水される。また、ピーク時には、熱源機10で生成された湯が給湯路40aに送出されることに加え、貯湯槽20に貯留された湯も給湯路40bに送出される。つまり、ピーク時には、熱源機10で生成された湯と貯湯槽20に貯留された湯とを合わせた湯が、給湯路40cを通って供給されることとなる。
【0035】
出湯口2で消費される湯の量が熱源機10の能力を超えた状態から、熱源機10の能力以下の状態に変化すると、差圧作動弁50は、開状態から閉状態に遷移する。このとき、差圧作動弁50の状態信号の内容は、開状態を示すものから閉状態を示すものに変わる。制御部70は、状態信号の内容が開状態を示すものから閉状態を示すものへ遷移したことに応じて、ポンプ62の作動を開始させる開始信号をポンプ62に送信する。ポンプ62は、開始信号を受信すると、作動を開始する。
【0036】
ポンプ62が作動すると、熱源機10には、給水路30a、30bを通して流入される水に加え、貯湯槽20の下部に貯留された水(湯)も、給水路30d、循環給水路30eを通して流入される。また、このとき、熱源機10で生成された湯が、給湯路40a、40cを介して出湯口2に送出されるとともに、熱源機10で生成された湯のうちの出湯口2で消費されない残りの湯が、給湯路40a、40bを介して貯湯槽20に送出され、貯湯槽20の沸き上げが行われる。つまり、ポンプ62の作動中(沸き上げ時)、熱源機10は、余力で(生成した湯のうちの出湯口2で消費されない残りで)貯湯槽20内の湯の沸き上げを行う。
【0037】
沸き上げが行われると、貯湯槽20内の湯の温度が上昇する。沸き上げが行われて温度検出器21の温度検出結果(貯湯槽20内の湯の温度)が所定の上限閾値を超えた場合、制御部70は、ポンプ62を停止させる停止信号をポンプ62に送信する。ポンプ62は、停止信号を受信すると、作動を停止し、貯湯槽20内の湯の沸き上げが終了される。
【0038】
また、通常時の状態が続くと、貯湯槽20内の湯の温度が放熱によって下がることがある。そこで、通常時において、制御部70は、温度検出器21の温度検出結果(貯湯槽20内の湯の温度)が所定の下限閾値(例えば、50℃)を下回った場合、ポンプ62の作動を開始させて沸き上げを開始させてもよい。そして、制御部70は、温度検出器21の温度検出結果が所定の上限閾値を超えた場合、ポンプ62を停止させて沸き上げを終了させる。
【0039】
このように、温水システム1では、通常時において、湯が熱源機10のみから送出され、ピーク時において、熱源機10で生成された湯と、貯湯槽20に貯留された湯とを合わせた湯が送出される。つまり、温水システム1は、消費される湯を熱源機10のみで賄うことができないときに、熱源機10に加えて貯湯槽20からも湯を送出する。したがって、本実施形態の温水システム1は、湯の供給をすぐに開始することができるとともに、熱源機10の能力を抑えることが可能である。
【0040】
また、本実施形態の温水システム1は、補助的に貯湯槽20から湯を送出するため、貯湯槽20の容量を抑えることが可能である。その結果、温水システム1のコストを抑えることが可能である。
【0041】
また、温水システム1では、熱源機10で生成された湯のうちの出湯口2で消費されない湯(残りの湯)で貯湯槽20内の湯の沸き上げが行われる。このため、本実施形態の温水システム1は、熱源機10で生成された湯を効率よく利用することが可能となる。
【0042】
ここで、需要家において既に温水システムが設置されており、その既設の温水システムが老朽化している場合や、温水システムの省エネルギー化を図りたい場合などがある。このような場合には、温水システムの交換が必要となる。交換によって新たに導入される温水システムでは、温水システムのコストを抑制するために、熱源機の能力および貯湯槽の容量が適切であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の温水システム設計方法は、既設の温水システムの給湯出力を導出し、導出結果から、新たに導入される温水システム(すなわち、
図1の温水システム1)における熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を決定するものである。
【0044】
図3は、既設の温水システム100の構成を示す概略図である。
図3では、水(給水)の流れおよび湯(給湯)の流れを白抜き矢印で示している。温水システム100は、熱源機10、貯湯槽20、給水路130a、130b、給湯路140a、140bを含んで構成される。
【0045】
給水路130aは、貯湯槽20に接続されている。給水路130aには、給水源(図示略)から貯湯槽20に供給される水(給水)が流れる。給水路130aには、流量検出器132と温度検出器134とが設けられている。流量検出器132は、給水路130aを流れる水の流量を検出する。温度検出器134は、給水路130aを流れる水の温度を検出する。
【0046】
貯湯槽20と熱源機10との間には、給水路130bと給湯路140aとが設けられている。貯湯槽20に貯留された湯(または水)は、給水路130bを通って熱源機10に送出される。また、熱源機10で生成された湯は、給湯路140aを通って貯湯槽20に送出される。
【0047】
貯湯槽20には、給湯路140bが接続されている。貯湯槽20に貯留された湯は、給湯路140bを通って出湯口(図示略)に送出される。給湯路140bには、温度検出器144が設けられている。温度検出器144は、給湯路140bを流れる湯の温度を検出する。
【0048】
図4は、本実施形態による温水システム設計方法を示すフローチャートである。本設計方法では、まず、既設の温水システム100(
図3参照)において、所定期間(例えば、24時間)における給湯流量、給水温度および給湯温度の推移を測定する測定工程が行われる(S100)。給湯流量は、温水システム100から送出される湯の流量である。給水温度は、温水システム100に流入される水の温度である。給湯温度は、温水システム100から送出される湯の温度である。給湯流量、給水温度および給湯温度は、例えば、1分毎に測定される。なお、測定頻度は、1分毎に限らず、例えば、10分毎や1時間毎などであってもよい。また、測定期間は、24時間に限らず、例えば、1週間、1月、1年などであってもよい。
【0049】
給水温度は、温度検出器134によって測定され、給湯温度は、温度検出器144によって測定される。給湯流量は、流量検出器132によって測定される。なお、流量検出器132の測定値は、実際には、給水流量を示すが、ここでは、給水流量と給湯流量とが同じであると仮定して、流量検出器132の測定値を給湯流量とする。
【0050】
次に、給湯流量、給水温度および給湯温度の測定結果に基づいて、給湯出力の推移を導出する給湯出力導出工程が行われる(S110)。給湯出力は、単位時間当たりに送出される湯の熱量を示すものである。給湯出力の導出は、以下の式(1)によって行われる。給湯出力は、給湯流量、給水温度および給湯温度の測定数と同じ数だけ導出される。
給湯出力[kW]=給湯流量[m
3/h]×(給湯温度[℃]−給水温度[℃])×(水の密度[kg/m
3])×(水の比熱[kJ/(kg・℃)])/3600[h/s] ・・・(1)
【0051】
次に、新たに導入される温水システム1(
図1参照)を想定し、熱源機10の能力を任意に設定する熱源機能力設定工程が行われる(S200)。
【0052】
図5は、給湯出力と熱源機10の能力を説明する説明図である。
図6は、
図5の破線で囲まれた領域を拡大して示す部分拡大図である。
図5では、1分毎の給湯出力が24時間分示されている。
図5では、熱源機10の能力が、一点鎖線で示されており、50kWに設定されている。熱源機10の能力は、所定期間(例えば、24時間)における平均給湯出力以上の値に設定されるのが好ましい。
【0053】
給湯出力が50kW(一点鎖線)以下の場合、熱源機10の能力以下であるため、出湯口2には、熱源機10の湯のみが送出される(通常時)。給湯出力が50kWを超えた場合、熱源機10の能力を超えるため、出湯口2には、熱源機10の湯に加え、貯湯槽20の湯も送出される。給湯出力が50kWを超えた後に50kWを下回る場合、出湯口2には、熱源機10の湯のみが送出されるとともに、ポンプ62が作動し、貯湯槽20内の湯の温度が所定の上限閾値(例えば、60℃)に達するまで、貯湯槽20内の湯の沸き上げが行われる。
図5では、沸き上げが行われている期間(ポンプ62が作動している期間)をドットの網掛けで示している。
【0054】
図4のフローチャートにおいて、熱源機10の能力の設定後、貯湯槽20の容量を導出する貯湯槽容量導出工程が行われる(S210)。貯湯槽容量導出工程S210では、まず、熱源機10の能力と、導出した給湯出力との差分を導出することで、貯湯槽20内の熱量の推移の導出が行われる。
【0055】
図7は、貯湯槽20内の熱量の推移の一例を示す図である。
図7において、縦軸は、貯湯槽20内の熱量の大きさを概念的に示している。ここでは、貯湯槽20内の熱量が最大値であるとき、縦軸の値を基準値「0」とする。熱源機10の能力から給湯出力を減算したとき、給湯出力が熱源機10の能力よりも大きい場合、減算結果は、負値になる。そこで、
図7では、減算結果が負値になることに応じて、貯湯槽20内の熱量を、基準値「0」から負側へ減少させている。また、減算結果が正値である場合、基準値「0」を上限として貯湯槽20内の熱量を増加させている。このようにしているのは、温水システム1が、給湯出力が熱源機10の能力を超えるまでは貯湯槽20内の湯が送出されない構成となっているからである。
【0056】
図5と
図7とを比較して、給湯出力が50kW(
図5の一点鎖線)以下の場合、貯湯槽20からは湯が送出されないため、
図7に示すように、貯湯槽20内の熱量は減らない。給湯出力が50kW(
図5の一点鎖線)を超えると、貯湯槽20からも湯が送出されるため、
図7に示すように、貯湯槽20内の熱量が、基準値「0」から負値側へ減少していく。また、給湯出力が50kW(
図5の一点鎖線)を超えた後に50kW(
図5の一点鎖線)を下回ると、沸き上げ(
図5のドットの網掛け)によって熱源機10の湯の少なくとも一部が貯湯槽20に供給されるため、貯湯槽20内の熱量が増加していく。そして、貯湯槽20内の熱量が基準値「0」に戻る。
【0057】
貯湯槽20内の熱量の推移の導出後、
図7の破線で示すように、貯湯槽20内の熱量の導出期間における貯湯槽20内の熱量が最も使われた際の値(
図7の最小値)を選択する。次に、基準値「0」と、貯湯槽20内の熱量が最も使われた際の値(
図7の最小値)との差分の絶対値を導出し、導出結果を、貯湯槽20において必要となる熱量(熱量の必要量)とする。そして、導出した熱量の必要量を、湯として過不足なく貯留することができるときの貯湯槽20の容量を導出する。この導出される貯湯槽20の容量は、熱量の必要量を湯として貯留することができる貯湯槽20の下限容量を示す。例えば、貯湯槽20の容量は、熱量の必要量を、給湯温度から給水温度を減算した貯湯温度差で除算し、水の比熱等の所定の係数を除算するなどして導出される。このように導出された貯湯槽20の容量が、熱源機能力設定工程S200で設定した熱源機10の能力(例えば、50kW)に対応する貯湯槽20の容量となる。
【0058】
なお、基準値「0」と貯湯槽20内の熱量の最小値との差分の絶対値に、所定値を加算するなどして、熱量の必要量に所定の裕度を持たせてもよい。
【0059】
つまり、貯湯槽容量導出工程S210では、設定された熱源機10の能力および給湯出力の推移に基づいて貯湯槽20内の熱量の推移を導出し、導出された熱量の最大値と最小値との差分の絶対値(換言すると、熱量の推移から導出される熱量の必要量)以上の熱量に基づいて、熱源機10の能力に対応する貯湯槽20の容量が導出される。
【0060】
図8は、
図7の貯湯槽20内の熱量の推移を、導出された貯湯槽20の容量に対する百分率で表わした図である。貯湯槽20内の熱量の百分率における100%は、貯湯槽20内に湯が満蓄の状態に対応する。貯湯槽20内の熱量の百分率における0%は、貯湯槽20内の湯が空(貯湯槽20内に水が満蓄)の状態に対応する。
【0061】
図8では、24時間を通して、一瞬だけ貯湯槽20の熱量の百分率が0%になっている。これは、ピーク時において、貯湯槽20内の湯が余ることも不足することもなく、丁度全部消費されたことを示す。つまり、貯湯槽20の容量を、貯湯槽容量導出工程S210で導出された貯湯槽20の容量とすることで、貯湯槽20内の湯を過不足なく用いることができる。
【0062】
このように、貯湯槽容量導出工程S210では、熱源機10で生成された湯と貯湯槽20に貯留された湯とを合わせた湯で、所定期間における給湯出力を賄うことができるときの貯湯槽20の容量を、設定された熱源機10の能力に対応する貯湯槽20の容量として決定する。
【0063】
図4のフローチャートの説明に戻ると、貯湯槽20の容量の導出後、設定した熱源機10の能力と、導出された貯湯槽20の容量との関係が、グラフにプロットされる(S220)。
【0064】
次に、プロット数が所定値以上であるか否かが判定される(S230)。すなわち、後述の曲線を導出するのに必要な数だけプロットされているか否かが判定される。このため、判定基準の所定値は、曲線の精度によって決められる。
【0065】
プロット数が所定値未満の場合(S230におけるNO)、熱源機能力設定工程S200に戻り、熱源機10の能力を異なる値に設定し直す。例えば、前回の設定値(例えば、50kW)に所定値(例えば、50kW)を加算して熱源機10の能力を再設定してもよい。また、例えば、24時間の給湯出力の平均値と最大値との範囲を所定数に区分して、その区分された値ごとに、熱源機10の能力の設定値を変化させてもよい。
【0066】
図9は、熱源機10の能力を異なる値に設定し直したときの給湯出力と熱源機10の能力を説明する説明図である。
図9の給湯出力は、
図5の給湯出力と同じである。
図9では、熱源機10の能力が、一点鎖線で示されており、100kWに設定し直されている。
図9に示すように、
図5に比べ、熱源機10の能力を大きくすると、給湯出力が熱源機10の能力を超える期間が短くなる。このため、熱源機10の能力を大きくすると、貯湯槽20の湯の消費量が少なくなり、貯湯槽20の容量は小さくて済む。
【0067】
図4のフローチャートに示すように、熱源機10の能力を異なる値に設定し直した後、その再設定後の熱源機10の能力に基づいて、貯湯槽容量導出工程S210が再び行われる。これにより、再設定後の熱源機10の能力(例えば、100kW)に対応する貯湯槽20の容量が導出される。このように、プロット数が所定値以上になるまで、熱源機10の能力の設定を異ならせて、熱源機能力設定工程S200と貯湯槽容量導出工程S210とが繰り返される。
【0068】
プロット数が所定値以上の場合(S230におけるYES)、複数のプロットに基づいて、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量とを関連付けた曲線が導出される(S240)。この曲線は、例えば、複数のプロットを繋げることで導出される。
【0069】
このように、本設計方法では、熱源機10の能力の設定を異ならせて、熱源機能力設定工程S200と貯湯槽容量導出工程S210とを繰り返し、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線を導出する曲線導出工程(S200〜S240)が行われる。
【0070】
図10は、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線の一例を示す概略図である。
図10では、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線を実線で示している。熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関係は、概ね反比例のような曲線となる。
【0071】
貯湯槽20の容量を最大値Tmaxにすると、熱源機10の能力を最小値Hminにすることができる。熱源機10の能力の最小値Hminは、例えば、熱源機能力設定工程S200において、24時間の給湯出力の平均値を、熱源機10の能力として設定するときの、当該熱源機10の能力に相当する。また、熱源機10の能力を最大値Hmaxにすると、貯湯槽20を設けずとも、熱源機10のみで給湯出力を賄うことができるようになる。
【0072】
また、測定期間における給湯出力の大きさや給湯出力の発生頻度のパターンが異なると、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線も異なる。例えば、給湯出力が大きくなると、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線は、
図10における一点鎖線で示すように、実線で示す曲線に比べ、
図10における右上にシフトされる。また、例えば、給湯出力がさらに大きくなると、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線は、
図10における二点鎖線で示すように、一点鎖線で示す曲線に比べ、
図10における右上にさらにシフトされる。
【0073】
図4のフローチャートにおいて、曲線の導出後、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量のいずれか一方と、導出された曲線とから、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量の他方を決定する決定工程が行われる(S250)。熱源機10の能力および貯湯槽20の容量の決定には、設計者の意図が反映される。既設の温水システム100の状況や設置場所などによって、様々な観点から決めることができるからである。例えば、設計者は、熱源機10の台数、貯湯槽20の容量の設定値、既存の貯湯槽20の再利用等の要因を考慮して、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量の組み合わせを決定する。
【0074】
例えば、既設の温水システム100において、容量が大きな貯湯槽20が既に設置されており、その既存の貯湯槽20の再利用を図る場合、設計者は、その既存の貯湯槽20の容量に対応する熱源機10の能力を曲線から決定してもよい。これにより、コストの高い貯湯槽20を残しつつ、熱源機10を能力が小さいものに交換して新たな温水システム1とすることで、温水システム1のコストを抑えることができる。
【0075】
また、例えば、熱源機10および貯湯槽20を設置するスペースに制約がある場合などでは、設計者は、貯湯槽20の容量を、スペースを考慮した貯湯槽20の容量(例えば、最大値の半分程度)に決定し、その貯湯槽20の容量に対応する熱源機10の能力を曲線から決定してもよい。
【0076】
図11は、既設の温水システム100における熱源機10の能力および貯湯槽20の容量と、設計された新たな温水システム1における熱源機10の能力および貯湯槽20の容量との比較例を示す図である。
図11では、本設計方法を用いた設計を行い、貯湯槽20の容量を500Lに設定したときの熱源機10の能力と、既設の貯湯槽20の容量を維持したときの熱源機10の能力とが示されている。
【0077】
図11に示すように、貯湯槽20の容量を500Lに設定した例では、熱源機10の能力が、既存の熱源機10の能力の50%から90%分だけ削減されている。このように、本設計方法を用いると、熱源機10の能力を、既存の熱源機10の能力から大幅に削減することが可能となる。
【0078】
また、
図11に示すように、既存の貯湯槽20の容量を維持した例では、熱源機10の能力が、既存の熱源機10の能力の60%から95%分だけ削減されている。このように、本設計方法を用い、既存の貯湯槽20の容量を維持すると、熱源機10の能力の削減割合を、より大きくすることが可能となる。
【0079】
以上のように、本実施形態による温水システム設計方法によれば、温水システム1における熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を適切にすることができる。その結果、新たに導入される温水システム1のコストを抑えることができる。
【0080】
(変形例1)
上記実施形態において、測定工程S100で測定される給水温度は、夏と冬とで異なる。このため、夏に測定した給水温度を用いて導出された給湯出力は、冬に測定した給水温度を用いて導出された給湯出力に比べ、低くなるおそれがある。そこで、給水温度をどの季節に測定しても、既設の温水システム100における最大の給湯出力を導出することができるように、給湯出力を補正してもよい。
【0081】
具体的には、給湯出力導出工程S110において、給湯出力を以下の式(2)によって補正する。
補正された給湯出力[kW]=給湯出力[kW]×(末端の給湯温度[℃]−真冬の給水温度[℃])/(末端の給湯温度[℃]−給水温度[℃]) ・・・(2)
【0082】
式(2)において、末端の給湯温度は、例えば、42℃である。また、真冬の給水温度は、既設の温水システム100が設置されている地域の真冬の給水温度を用いる。東京における真冬の給水温度は、例えば、5℃である。
【0083】
このような補正を行うことで、給水温度の測定を、給湯出力が最も高くなる真冬に行わなくても、給湯出力を最も高く導出することが可能となる。
【0084】
(変形例2)
上記実施形態では、熱源機10の能力を設定してから貯湯槽20の容量を導出していた。しかし、貯湯槽20の容量を設定してから熱源機10の能力を導出してもよい。
【0085】
図12は、変形例2の温水システム設計方法を示すフローチャートである。給湯出力導出工程S110後、貯湯槽20の容量を任意に設定する貯湯槽容量設定工程が行われる(S300)。次に、設定された貯湯槽20に対応する熱源機10の能力を導出する熱源機能力導出工程が行われる(S310)。
【0086】
熱源機能力導出工程S310では、設定された貯湯槽20の容量に、給湯温度と給水温度との差分と、比熱とを乗算することで、設定された容量で貯留することが可能な貯湯槽20内の熱量の最大値が導出される。次に、導出された熱量の最大値および給湯出力の推移に基づいて貯湯槽20内の熱量の推移が導出される。次に、貯湯槽20内の熱量の推移を参照し、熱量の最大値と最小値との差分の絶対値(換言すると、熱量の推移から導出される熱量の必要量)以上の熱量に基づいて、貯湯槽20の容量に対応する熱源機10の能力が導出される。
【0087】
そして、貯湯槽20の容量の設定を異ならせて、貯湯槽容量設定工程S300と熱源機能力導出工程S310とを繰り返し、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線を導出する曲線導出工程が行われる(S300〜S340)。なお、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量のプロット(S320)、プロット数が所定値以上であるか否かの判断(S330)、曲線の導出(S340)は、上記実施形態のS220〜S240と同様である。曲線導出工程後、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量のいずれか一方と、導出された曲線とから、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量の他方を決定する決定工程が行われる(S350)。
【0088】
この態様によれば、上記実施形態と同様に、温水システム1における熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を適切にすることができる。
【0089】
(変形例3)
上記実施形態では、熱源機能力設定工程S200と貯湯槽容量導出工程S210とを繰り返して、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線が導出されていた。しかし、この変形例3では、
図13に示すように、熱源機能力設定工程S200と貯湯槽容量導出工程S210とを繰り返さず、曲線を導出することなく、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を決定してもよい。
【0090】
例えば、熱源機10の能力が予め決められている場合、その予め決められている熱源機10の能力に対応する貯湯槽20の容量を導出することで、1組の熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を決定してもよい。すなわち、この態様では、熱源機10の能力を任意に設定する熱源機能力設定工程S200と、設定された熱源機10の能力および給湯出力の推移に基づいて貯湯槽20内の熱量の推移を導出し、導出された熱量の最大値と最小値との差分の絶対値(換言すると、熱量の推移から導出される熱量の必要量)以上の熱量に基づいて、熱源機10の能力に対応する貯湯槽20の容量を導出する貯湯槽容量導出工程S210と、が含まれる。
【0091】
この態様によれば、予め熱源機10の能力が決められている場合であっても、貯湯槽20の容量を適切にすることができる。
【0092】
(変形例4)
上記の変形例2では、貯湯槽容量設定工程S300と熱源機能力導出工程S310とを繰り返して、熱源機10の能力と貯湯槽20の容量との関連付けを示す曲線が導出されていた。しかし、この変形例4では、
図14に示すように、貯湯槽容量設定工程S300と熱源機能力導出工程S310とを繰り返さず、曲線を導出することなく、熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を決定してもよい。
【0093】
例えば、貯湯槽20の容量が予め決められている場合、その予め決められている貯湯槽20の容量に対応する熱源機10の能力を導出することで、1組の熱源機10の能力および貯湯槽20の容量を決定してもよい。すなわち、この態様では、貯湯槽20の容量を任意に設定する貯湯槽容量設定工程S300と、設定された貯湯槽20の容量に基づいて、貯湯槽20で貯留することが可能な熱量の最大値を導出し、導出された熱量の最大値および給湯出力の推移に基づいて貯湯槽20内の熱量の推移を導出し、導出された熱量の最大値と最小値との差分の絶対値(換言すると、熱量の推移から導出される熱量の必要量)以上の熱量に基づいて、貯湯槽20の容量に対応する熱源機10の能力を導出する熱源機能力導出工程S310と、が含まれる。
【0094】
この態様によれば、予め貯湯槽20の容量が決められている場合であっても、熱源機10の能力を適切にすることができる。
【0095】
(変形例5)
上記実施形態の貯湯槽容量導出工程S210では、貯湯槽20内の熱量の最大値を基準値「0」として貯湯槽20内の熱量の推移を求めて、貯湯槽20の容量を導出していた。しかし、貯湯槽20の容量の導出方法は、この態様に限らない。
【0096】
例えば、貯湯槽容量導出工程S210において、まず、貯湯槽20の容量を任意に仮設定する。次に、設定した熱源機10の能力、給湯出力、仮設定した貯湯槽20の容量から、貯湯槽20内の熱量の百分率の推移を導出する。24時間を通して、貯湯槽20内の熱量の百分率が一瞬だけ0%になっているか否かを確認する。貯湯槽20内の熱量の百分率が0%に達していなかったり0%になっている期間が長ければ、貯湯槽20の容量の仮設定値を異なる値に設定し直し、貯湯槽20内の熱量の百分率の推移を導出し直す。そして、貯湯槽20内の熱量の百分率が一瞬だけ0%になったときの、仮設定されていた貯湯槽20の容量を、設定された熱源機10の能力に対応する貯湯槽20の容量として決定してもよい。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0098】
例えば、上記の実施形態および変形例では、温水システム設計方法について説明した。しかし、本発明は、上述の温水システム設計方法を用いて設計された温水システム1にも適用される。
【0099】
また、給湯流量等の測定が行われる既設の温水システム100は、
図3で例示した構成に限らず、例えば、貯湯槽20が設けられていない瞬間式の温水システムであってもよい。
【0100】
上記実施形態の温水システム設計方法を用いて設計される温水システム1は、
図1に示す構成に限らず、例えば、熱源機10で生成された湯が貯湯槽20を介して送出される構成であってもよい。この構成においても、
図7で説明したように、貯湯槽20内の熱量の推移を導出し、基準値「0」と貯湯槽20内の熱量の最小値との差分の絶対値に基づいて貯湯槽20の容量を導出すればよい。
【0101】
上記実施形態では、
図7、
図8に示すように、貯湯槽20内の熱量の推移を、基準値「0」から負値側へ減少させるように導出していた。しかし、貯湯槽20内の熱量が最小値であるときを基準値「0」とし、貯湯槽20内の熱量を正値側へ増加させるようにして、貯湯槽20内の熱量の推移を導出してもよい。この場合においても、熱量の必要量は、貯湯槽20内の熱量の最大値と最小値との差分の絶対値に対応する。
【0102】
上記実施形態では、測定工程S100において、給湯流量を測定していた。しかし、測定工程S100において、既設の温水システム100に流入される水の流量である給水流量を測定し、給湯出力導出工程S110において、給水流量に基づいて給湯出力を導出してもよい。